ストレス学説 [理論]


 現在の心身症理論の基盤になっているストレス学説は、カナダの生理学者ハンス・セリエが、動物実験に基づいて最初に唱えたもので、生体が外界からの刺激(以下 ストレッサー)に直面した時に、自らの破綻を回避する目的で起こす適応反応に関する理論です。

 ストレッサーに直面した生体は、まず、副腎皮質の肥大、胸腺の拡大などを伴う警告反応を起こします。そして、最初に侵襲を受けた部位が引き続き刺激されると、徐々にではあるが、事態に十分対処できるような形で局所的反応が起こります。それによって微生物を包囲する結合組織が成長し、その侵入を阻止することができるのです。

 しかし、刺激が長期にわたって続くと、直接に影響を受けた細胞は疲労から破壊されます。疲憊期に入ると、磨壊により防衛の最適径路が壊れるため、反応は再び拡大します。

 その結果、炎症性の障壁は崩れ、細菌がその周囲を侵害するようになります。そして、「補助径路が再び消耗しつくされたあとでは、回復はもはや不可能であり、死がつづくのみである」。この場合、ストレッサーは細菌でなければならないわけではありません。

 「あるネズミは鋭い音にさらされ、他のネズミは厳寒に曝露され、また他のネズミは手足に熱湯火傷をうけたとすると、そこにはどのネズミにも中等度の副腎皮質肥大の見られることがわかった」からです。

このようにセリエのストレス学説は、外傷、出血、感染、薬物、寒暖、心理的刺激、絶食をはじめとする種々の“有害な”作因によって非特異的反応が発生するという、きわめて定型的な機械的、生物学的反応を記述した理論なのです。

 以上から推測できるように、ストレス学説には、一般適応症候群という概念と“適応病”という概念とが含まれています。

 初期には、こうしたストレス学説にまつわる論争は、全面的に実験に依拠しつつ行なわれたわけではありませんでしたが、その中で、心理的なものと身体的なものという質的に異なったストレッサーが、さらには、身体的なものの中では暑さと寒さといった正反対のストレッサーがなぜ同一の適応反応を示すのか、という問題のあることが当然のことながら指摘されました。

 そして、「もし生体が“身体的ストレス”状況を十分脅威に感ずるとすれば、おそらく精神内分泌反応はかなり一般的に起こり、純粋に“身体的”な刺激に対する内分泌的その他の身体的反応に重なることであろう。この解釈が正しければ、“ストレス”という概念は生理的概念というよりはむしろ、行動的概念と考えるべきである」として、いずれのストレッサーに起因する反応も最終的には共通した経路を取るとされ、この難問は解決されたと考えられました。このようにしてストレスは、単なる生理学的概念から、心理的、行動的概念へと拡張されたのです。


【参】 ちょっと興味深い実験結果が本に紹介されていた。

 アメリカ軍の研究所で行ったサルのストレス実験である。
2匹のサルに電気ショックを与え、その影響を比較するもので、部屋の赤ランプがつくと直後に電流が流れビリッとくるものだ。

 ただし、サルAにはスイッチが渡され、赤ランプが点灯する直後にスイッチを押すと電流が流れなくなることを教育する。一方のサルBにはその教育もせず、スイッチも渡されないので、電気ショックをもろに受けてしまう。これを一定間隔で毎日繰り返したところ、21日ほどでサルAが胃潰瘍で死亡。すなわち電気ショックを回避できるAが死に、電気ショックを受け続けたBが平気であったと、ちょっと意外な結果だったという。

 これを分析すると、サルAは赤ランプのつくのを緊張しながら監視、それがストレスとなった。一方のサルBは警戒をあきらめ、電気を受けるままでいたら、次第に慣れていったということになり、身体的なストレスよりも緊張を持続させる精神的ストレスの方が、大きな負担となり慣れないことを示す。

仕事のスケジュール、売上の数字、社内や取引先との対人関係等、私たちもサルAと同様の大きなストレスを受け続けているように感じてはいないだろうか。長い緊張感はあなたの心身を蝕むことになる。ストレス理論を生んだセリエは言う。「警戒の姿勢のままで長く生き延びることのできる生き物はいない。」と…。

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