初音SS
『水門にて』
writen by ボンド
お兄ちゃん来るかなあ。
今日はお兄ちゃんと花火をした日。
あれから1年がたったんだね。
ここは、1年前と同じ水門。
水の音が静かに聞こえて来ます。
でも林の中からは昆虫さんとカエルさんの大合唱。
1年前と同じ場所で同じ景色。
でも今日は耕一お兄ちゃんではなくて梓お姉ちゃんと一緒。
お兄ちゃん来てくれると思ったのに。
ううんきっと来てくれる、私信じているもの。
「初音ー、やるよー」
梓お姉ちゃんの声、何だか今日はやる気満々。
梓お姉ちゃんは大阪にある大学へ行って初めての帰省。
何だか大人になった様な気がしたけど、それは思いすごしなのかな。
「何だよ、初音。人の顔を見てニヤニヤして」
「ううん、何でもないよ。お姉ちゃん変わらないなあっと思っただけ」
「変わらなくって悪かったね」
お姉ちゃんすねてる。やっぱり変わってないね、私のお姉ちゃんだ。
「ううん、悪くないよ。私ね、みんなが変わらずそろったのが嬉しいの」
ほんとだよ、梓お姉ちゃん。
「ほんと初音は良い子だね。うん、さすが我が妹だ。それに比べて耕一は何をやっているのか」
梓お姉ちゃんがため息をついて言った。
お姉ちゃん、耕一お兄ちゃんきっと来てくれるよ、きっと。
「さ、花火やろ、お姉ちゃん」
「...初音...」
お姉ちゃん普段は男の子みたいだけど、本当はみんなの事をとても大事にしてくれる優しいお姉ちゃん。
バケツに水は注いだし準備は完了。
「どれにしようかな」と私。
「あたしはこれだ、ひひひ」とお姉ちゃん。
それは私のお気に入りの花火だよ。
「お姉ちゃんずるい」
「速い者勝ちだもんね」
お姉ちゃんは嬉しそうに逃げて行く。私もお姉ちゃんを追いかけようとする。
でも、私は知っている。
お兄ちゃんが居ないのを私がさみしがっているから、元気付けてあげようとしている事を。
だから私もそんなお姉ちゃんの優しさ大切にしたい。
「いいもん。じゃあ私はこれにしようっと」
私はわざとすねたように言う。
ざざざと足音が背中の方から聞こえて来る。
お姉ちゃん戻って来たのかな。
がさがさっと音がして、後ろからシューシューシューと音がした。
この音どこかで聞いた事があるなっと思った時。
「パンパンパン」と大きな音がした。
「お姉ちゃん!ひどいよ、びっくりした」
私が目に涙をためて後ろに降りむいた時。
「やあ初音ちゃん。間に合ってよかった」
笑顔の耕一お兄ちゃんが立っていた。
駅についた時には日も暮れていて夜の闇が辺りを包み始めていた。
「やっとついた」
夏休みだと言うのにレポートの課題あの教授怨んでやる。
っと言っても、テストの成績が悪かった俺のせいでもあるのだけど。
いつ行けるか分からなかったから電話をしてないので駅には誰も来ていない。
ついでだから突然行って驚かせてやろう。
俺は柏木家へ足を向けた。
で、ようやく門の前についた時腹がなる。
「しかし腹が減った」
早く行きたい一身でここまで来たけど夕ご飯にありつける保証はどこにもない。
「駅で電話をすれば良かった」
俺はため息とともに言った。
そして玄関をあけて家に入る。
「ただいまー」
奥の方から驚きの声と共に騒がしい物音がした。
「いったーい」
どうやら千鶴さんが何かを壊したようだ。
ばたばたと走る音がして千鶴さんがやって来た。
「耕一さん...お帰りなさい」
脛をさすりながら、痛さと驚きと嬉しさが入り交じった顔で迎えてくれる。
「ただいま、千鶴さん」
俺は笑いを堪えながら言った。
「耕一さん来るのなら言ってくれれば良いのに」
すねたような顔で言う千鶴さん。
「今度からそうするよ」
と笑いを堪えながら言う俺。
「耕一さんお帰りなさい」
「楓ちゃんただいま」
居間に入ると笑顔の楓ちゃんがいた。
「楓ちゃん、梓と初音ちゃんは?」
「花火に行きました」
「花火か...」
と思った時大切な事を思い出した。
「水門のところですよ」
と千鶴さんが台所の方で言う。
その瞬間、俺は玄関の方へ向かってかけ出した。
千鶴さんから逃げたわけではない。
初音ちゃんとの約束を思い出したからだ。
「ちょっと出て来ますー」
俺はひとこと言って玄関を後にした。
「夕ご飯はいらないんですか...」
後ろから千鶴さんの声が聞こえたが俺は水門へ急いだ。
手には何故かロケット花火を握っていた。
出る時、花火セットを鞄から出したつもりだったが...。
水門に近づくと梓の後ろ姿が見えた。
梓も俺が近づくのがわかったらしい、こっちを見て何か言おうとした。
俺は口に指をあてて何も言うなと梓に伝えた。
「ただいま梓」小声で言う。
「おそいぞ耕一」梓も小声で言う。
「正直言って、間に会わないかと思った」
「初音が待ちくたびれているよ...」
梓の顔がちょっと寂しそうな気がしたのは気のせいだろうか。
「すまん」
「後は耕一に任せたよ。初音を頼むね」
「帰るのか」
「うん、初音がいて欲しいのは耕一だし。それに夕ご飯まだ食べてないだろう?」
「ああ、そうだけど...」
「...それに千鶴姉がはりきって耕一の夕ご飯を用意していそうだしな」
「確かにその通りだ」
俺と梓は笑いあった。
「じゃあな耕一」梓は手を降って行こうとした、寂しそうな背中を見せながら...。
「ありがとう、梓」俺はその背中に向けて一言つぶやいた。
くるりと降り向いて梓は笑顔を残して行った。
そして俺は手に持っていたロケット花火をセットして点火した。
花火は勢いよく天に向かって駆け登り、パーンと言う音を残して飛び散った。
その時、肩をびくっと震わせて初音ちゃんがこっちを降り向いた。
「お姉ちゃんひどいよびっくりした...」
と目に涙をためて言った瞬間驚きと嬉しさが入り交じった顔になる。
俺は微笑んで言う。
「やあ初音ちゃん。間に会って良かった。」
そしてまた俺と初音ちゃんの時が重なる。
「...お兄ちゃん、耕一お兄ちゃん?」
初音ちゃんが驚きと安心感の入り交じった顔で言う。
「ただいま、初音ちゃん」
と言った時初音ちゃんが俺の胸に飛びこんで来た。
俺も初音ちゃんをそっと抱きしめる。
「耕一お兄ちゃんの匂いがする。待ってたんだよ、本当に待っていたのだから」
「遅れて御免な」
初音ちゃんはそっと俺から離れると、手の甲で涙をゴシゴシとふくとちょっと怒った顔で言う。
「耕一お兄ちゃんのいじわる。びっくりしたんだから、私があの花火苦手なのを知っているのに」
初音ちゃんはすねたままだ、すねた初音ちゃんも可愛くってそれが見たかったってのもあるけれど。
「ごめんな、初音ちゃん。さ花火やろうよ時間がなくなってしまうし。俺、初音ちゃんと花火がしたくって来たんだし」
初音ちゃんだからこそ通じる手、優しいこの子はきっと笑顔を見せてくれるはず。
「...うん、耕一お兄ちゃんやろ」
笑顔で答えてくれる。
俺はそんな初音ちゃんが大好きだし、守ってやりたいと思う。
親父との約束だしな。
「何から始めようか」
「私はこれが良いな」
初音ちゃんはにっこりと微笑むと1本の花火を取り出した。
昆虫達の声をBGMに色とりどりの光が静かな夜空を染めて行く。
その中で初音ちゃんは両手を胸のところで合わせ光達の舞を嬉しそうに眺めている。
俺は、その舞の中に立つ初音ちゃんが美しく花火が終わるまでじっと見入っていた。
そして花火が終わり、あと片付をしている時だった。
「ねえ、耕一お兄ちゃん」言いにくそうに、恥ずかしそうに初音ちゃんが俺に言って来る。
「ん、なに初音ちゃん」
「あのね...耕一お兄ちゃんいつまで居るの」
「そうだな、1週間は居るよ」
「そう...」
「なに、初音ちゃん」
「...あのね、夏休みまだあるし、耕一お兄ちゃんのところへ行っても良いかなって思って」
下を向いたまま恥ずかしそうに言う。
俺は、いいよおいで、と言う時になってはたと気がついた。
果たして、ひとりぐらしの所に女の子を一人で行かせてもいい物かなと。
初音ちゃんは下を向いたまま黙っている、困ったどうするか。
悩んでいる時、向こう岸の林の中で淡い緑色の光が灯った。
最初は一つだったがそれはあれよあれよと思う間に増えて行った。
それらは、水の上を乱舞しながらこちらへやって来る。
「初音ちゃん、見て」
「え、蛍...」
「蛍か、始めて見たよ」
「私もこんなにたくさんの蛍を見たのは初めて...」
本当にたくさんの蛍だ。
蛍達が俺と初音ちゃんを取り囲むようにして乱舞する。
「きっとこの子達、さっきの花火のお礼をしにきたんだと思う」
初音ちゃんが嬉しそうに蛍達と戯れている。
初音ちゃんが手を伸ばした先に、肩に、頭に、蛍達が止まっては飛びたちまるで夢の中のようだ。
決心がついた俺は、初音ちゃんの肩にそっと手をおいて言う。
「初音ちゃん、俺の所へおいで、一緒に行こう。千鶴さんへは俺から話すよ」
「...ありがとう、耕一お兄ちゃん」
蛍達が舞う中で初音ちゃんが嬉しそうに言った。
蛍達の舞はいつまで消える事がないようだ。
「...きれい」
俺と初音ちゃんは肩をよせあいながらいつまでも見入っていた。
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