アトラスの転校生

 

いつもより早く目が覚める・・・いつもといっても俺の生活レベルなので基本的にはみんなはとっくに起きている時間だ。

 

この時間に寝ているのはシオンくらい・・・シオンから考えるとこれから眠りにつく時間のようだが。

 

吸血鬼の噂がなくなり、シオンが家に来てから数週間・・・既に街は平穏を取り戻していた。

 

シオンもすぐに遠野での生活に慣れ、日々吸血鬼について勉強しているようだ。

 

秋葉に見つかる度にアルバイトを変えながらの夏休みも昨日で終わり・・・。

 

日付は九月一日、二学期の始業式の日だった。

 

コンコン

 

ノックをする音が聞こえる。

 

ガチャ・・・

 

「失礼します・・・」

 

「おはよう、翡翠」

 

「あ・・・おはようございます、志貴さま」

 

翡翠の様子がいつもと違う・・・。

 

「どうかした、翡翠?」

 

「いえ、何でもありません・・・今日は早起きなんですね、志貴さま」

 

あぁ・・・なるほど。

 

いつも翡翠が何回も起こしてくれているのに起きないにもかかわらず、今日は普通に起きているから驚いているという感じか。

 

「今日から、二学期だしね・・・今まで惰眠をむさぼっていたからこれからは、翡翠起こされる前に起きようと思ってさ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「翡翠?」

 

心なしか翡翠が怒っているように見える。

 

「つまり志貴さまは私が毎朝起こさなくてもいい、そういうことですね」

 

「・・・・・・は?」

 

どこをどう取ったらこういう解釈になるのだろう。

 

時々翡翠の考えていることがわからなくなる。

 

「わかりました、制服はここに置いておきます。着替えが終わりましたら居間においでください。それでは失礼します」

 

バタン

 

翡翠は机に制服を置くとすぐに部屋を出て行ってしまった。

 

・・・後で誤解を解いておかないとな。

 

「とりあえず、着替えるか」

 

折角早く起きたのに、もたもたしていてはいつもと同じになってしまう。

 

着替えて居間に行くことにした。

居間にいくといつものごとく秋葉がソファで紅茶を飲んでいた。

 

少し早い時間でも秋葉がいる場所は変わらない。

 

「おはよう、秋葉」

 

「おはようございます、兄さん。今日は随分早起きなんですね」

 

「今日はたまたまだよ。ちょっと早くに目が覚めてね」

 

「そうですか、いつもこうだと助かるんですけどね」

 

早くに起きたとしても秋葉に悪態つかれるのは変わらないのか。

 

「まぁ、努力するよ。じゃあ、朝御飯食べてくる」

 

そういって、テーブルに向かった。

 

「おはよう、琥珀さん。朝ごはんあるかな」

 

琥珀さんは無言で空の皿を差し出してきた。

 

・・・・・・・・・。

 

「えっと・・・琥珀さん?」

 

「何でしょうか?」

 

琥珀さんはむすっとした顔で答える・・・何か悪いことしたかな。

 

「あの・・・朝ごはんをもらいたいんですけど」

 

よくわからないが下手に出てみる。

 

「・・・ありません」

 

「は?」

 

「翡翠ちゃんを怒らせる志貴さんに、朝ごはんは出すよう必要はありませんと言っているんです」

 

あぁ・・・なるほど。

 

「違うよ琥珀さんこれには訳があって・・・」

 

朝のことを説明した。

 

・・・・・・・・・。

 

「そうだったんですか、すいません志貴さん、私の早とちりだったようです」

 

いや、それは翡翠もなんだけど。

 

「いや、別にいいよ。それよりも朝ごはんもらえるかな。お腹すいちゃって」

 

「はい、すぐにお出ししますね」

 

用意はしてくれていたのか、すぐに朝食が出てきた。

 

「ありがとう」

 

早速食べ始める。

 

ほどなく朝ごはんを食べ終え・・・まだ時間もあることだし、秋葉と紅茶でも飲もうかなと思い、居間に行ってみることにした。

 

「あ、兄さん・・・もし時間があるようでしたらここで少しゆっくりしていきませんか?」

 

こっちから声をかけようと思ったのだが先にかけられてしまった。

 

「そうだな、じゃあそうしようかな」

 

秋葉の向かい側に座る・・・秋葉は空のカップに紅茶を注いでくれる。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう・・・そういえば朝ごはんの後、秋葉と紅茶を飲むなんて久しぶりだな」

 

思っていたことをポロっと口に出してしまう。

 

・・・しまった、こういうことを聞くと秋葉は。

 

「そうですね、長期休み以外では初めでですね。もっとも、こんなに早い時間ではなかったですけど」

 

あ・・・やってしまった、こうなると長いんだよな。

 

「だいだい兄さんは・・・」

 

 

「秋葉・・・言いたいことはわかったから。それよりいいのか? そろそろ時間的にもやばいと思うんだが」

 

「あ・・・そうですね、仕方ありません。私はもういきます、この話はまた後ほど」

 

少しだけ残っていた紅茶を飲み干し秋葉は立ち上がる。

 

「あぁ、わかったよ・・・それより、秋葉」

 

「はい、何ですか?」

 

「これからもうちょっと早く起きるようにするからさ。そしたら、また一緒に紅茶飲もうな」

 

「あ・・・は、はい。それでは入ってきます、兄さん」

 

照れているのか、秋葉は返事もそこそこにすぐに玄関に行ってしまった。

 

・・・もうちょっと、時間があるな、秋葉が紅茶でも飲んでゆっくりしていよう。

 

朝ゆっくりできるのもいいかもしれない、秋葉の言うとおり朝早く起きるのもいいかもしれないな。

 

さて・・・そろそろ行くか。

 

空のカップをテーブルに置きあがる・・・いつもなら翡翠が鞄を持ってきているのだが。

 

さっき怒らしちゃったみたいだしな。

 

一度部屋に戻り取ってくる必要があるだろう。

 

居間を出て、階段まで行くと翡翠が俺の鞄をもって立っていた。

 

「志貴さま、鞄です」

 

「あ・・・あぁ、ありがとう」

 

差し出された鞄を受け取る。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

さっきのことがあるのか、何となく気まずい。

 

「あ・・・あのさ、翡翠。さっきのことなんだけど、その・・・何といって言いのか」

 

さっきのは翡翠の勘違いだからとは何か言いづらい。

 

「わかっています。志貴さまがご自分で起きられるならそれが一番いいんです」

 

「いや、翡翠だって毎朝大変だろ? こんな寝ぼすけを起こすの?」

 

「いえ、別に大変では・・・」

 

「俺を五回も六回も起こすのなら他の仕事やったほうが遥かに効率がいいと思うんだけど。なんだったら目覚まし時計買ってもいいんだし」

 

「・・・・・・・・・」

 

・・・納得していない様子だ。

 

「ちっちっち、志貴さんはわかっていませんね。翡翠ちゃんは志貴さんを毎朝起こしたいんですよ」

 

どこから現れたのか、いつの間にか琥珀さんが玄関に来ていた。

 

「琥珀さん・・・意味がわからないんだけど」

 

「姉さん!!」

 

「それはですね・・・翡翠ちゃんは毎朝志貴さんの寝・・・ぐぐっ・・・」

 

翡翠が琥珀さんの後ろにまわり羽交い絞めにしている・・・。

 

「志貴さま、門までお見送りできず申し訳ありません。それではいってらっしゃいませ」

 

琥珀さんを羽交い絞めしたまま頭を下げ、そのまま行ってしまった。

 

何だったんだろう一体・・・。

 

考えても仕方ない、学校に行くとしよう・・・。

 

行く時間帯が違うと、歩いている生徒も違う・・・通い慣れている通学路のはずなのに、どこか新鮮さを感じてしまう。

 

そんなことを思いながら学校に着いた。

 

ガラガラガラ

 

「おはよう」

 

「あっ、遠野君おはよう」

 

教室に入り、クラスメイトと挨拶を交わす。

 

いつもより少し早いせいか、クラスの生徒もまだまばらだった。

 

・・・あれ!? なんかおかしい、この早い時間にいてはならないはずの人物がいる。

 

「おい、有彦。何でお前がいるんだ?」

 

「おう、遠野。今日は早いな」

 

「それは俺の台詞だ。というかお前始業式なんか出たことないだろ」

 

「いやいや、ちょっと気になる噂を聞いたもんでな。ここは早々に情報収集に当たっていたわけよ」

 

気になる噂か・・・まぁろくでもない噂だと思うが。

 

「まぁ、どうでもいいけどな」

 

始業式が始まるまで有彦と他愛もない話をしていた。

 

始業式といっても、お世辞にも面白いとは言えない校長の話を聞くだけのもの。

 

一種の行事だから仕方がないのだが。

 

ほどなく始業式も終わり教室まで戻る。

 

俺達が戻ってから少ししてから、国藤が入ってくる。

 

それと同時に、俺達も席に着く・・・。

 

「いよいよ、二学期に入り勉強も本腰を入れて・・・」

 

予想していたがごとく、受験生はうんたらかんたらの話が続く。

 

その手の話は聞いていてもつまらないので、外をぼんやりと見て過ごす。

 

面白いとは言えないが、寝るわけにはいかず話を聞くよりは遥かにマシだった。

 

「・・・以上だ。それともう1つ今日からみんなのクラスメイトになる、転校生を紹介する」

 

転校生!? この時期に珍しいな。

 

流石に興味がわく、国藤と入ってくるであろうドアを交互に見る。

 

「正確にいえば留学生だな。今年の二学期からうちの学校でも交換留学生を始めることになった。その一人目がうちのクラスにくることになった。みんな仲良くしてやってくれ」

 

留学生・・・ということは日本人ではないってことか。

 

ほかのやつはおぉとかすごいとか言っているが、うちの学校には既にシエル先輩がいるし、知り合いにアルクェイドもいるから特別な驚きはない。

 

やはり、新しいクラスメイトが出来るというのはそれなりに気にはなるが・・・。

 

「じゃあ、入ってきてくれ」

 

ガラガラガラ

 

ドアが開く・・・みんなの視線が1つの場所に集中する。

 

入ってきたのは・・・え!?

 

それは、俺がよく知っている人物だった・・・。

 

「シオン・エルトナム・アトラシアです。よろしくお願いします」

 

「・・・・・・・・・」

 

朝、何かと予期せぬことがあったがこれの複線だったのかと思ってしまうくらいの出来事が待ち受けていた・・・。

 

続く

 

 

 

 

あとがき

ずっと書きたかったネタの1つです。話はメルブラのシオンが遠野の屋敷に住むことになってからの続きということで・・・。どうやってはじめるか・・・浅女に通わせるか、志貴の学校か悩んだのですが結果こっちということで。なんかシオンがでてきたの最後だったり、翡翠のこととかうやむやになっていますが・・・。

翡翠が何故起こったか・・・それは起こす前に志貴さまの寝顔を見るのが朝一番の楽しみだからですよ♪♪ では次のSSで・・・。

 

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