アトラスの転校生2
国藤は含みのある視線を俺に向けた後・・・。
「席は・・・丁度、遠野の後ろが空いているな。とりあえずはそこに座ってくれ」
こんなことを言った。
手続きの書類などでシオンが遠野の屋敷に住んでいるということは知っているのだろう。
俺が窓際の一番後ろの席にいたのは果たして偶然なのだろうか・・・。
シオンは返事をしたあとつかつかとこちらにやって来た。
特に変わった様子はない・・・俺がどういう反応するかは予測済みだったようだ。
「じゃあ、遠野。今日は始業式だけだし、いろいろと学校を案内してやってくれ」
「はい・・・」
案内も何も既にシオンは何がどこにあるかなんて把握してるとは思うが。
「それでは、HRを終わる・・・週番」
「起立・・・礼」
・・・・・・・・・。
HRが終わったはずなのに、みんな帰ろうとしない。
やはりみんな遠い地から来た留学生、シオンに興味があるようだ。
男女関係なくシオンを取り囲む・・・。
こうなることはある程度わかっていた・・・こうなる前にシオンを連れて行こうと思ったが、そうなると次の日クラスのやつらに何を言われるかわからない・・・。
そう考えるとタイミングを見誤ってしまった・・・。
仕方がないので、周りがはけるまでシオンを待つことにした・・・。
「どうやら、タイミングがずれたようだな」
一番早く帰りそうなやつがいまだ教室に残っていたりする。
「有彦・・・お前は交じらないのか?」
「あぁ・・・考えていることはお前と一緒のはずだ。あぁやって、みんなで取り囲んで質問攻めにするのは好きじゃない。」
・・・なるほど、説得力がある。
人がひくのを待つ間、有彦と他愛も話をしていた時・・・。
「遠野君いますか?」
一人の人物が教室に入ってきた。
「はい、いますけど・・・どうしたんですか?シエル先輩?」
シエル先輩・・・本来ならもう卒業しているはずだが、何故か教師に気に入られ、いろいろと教師の手伝いをしているためいまだ変わらず学校に来ている。
勿論、暗示をかけてだが。
噂では、生徒会を裏で牛耳っているとか・・・。
「どうした?じゃないです。えっと・・・ここではなんですからちょっとついてきてください・・・」
着いてきてくださいと言いながら既に俺の腕をつかんで連れて行こうという感じなのだが。
「わかりました、行きますよ。じゃあ、有彦・・・ちょっと待っててくれ」
「待っててくれって、お前のことだからいつ帰ってくるかわからないだろ」
「まぁ・・・それは・・・」
シエル先輩次第なわけだけど。
「どうやら、今日は日が悪いようだ。今日はおとなしく街に繰り出すことにする。じゃあな、遠野」
そういうと有彦はさっさと教室を出て行ったしまった。
おとなしく街に繰り出すという表現はどうもおかしい気がするが、有彦なので特に気にしないことにした。
「じゃあ、行きましょうか先輩。部室ですよね」
「はい」
まさか、始業式早々部室に行くことになるとは。
「はい、ここなら誰にも聞かれる心配はないですね」
シエル先輩から部室に誘うときは大抵込み入った話だったりする。
他の人には聞かせられない話・・・。
今回もだいたいは予想がつくが・・・。
「では、改めて遠野君。どうして彼女がこの学校に転入してくるんですか?」
・・・やっぱりシオンのことだよな。
「俺もそれ、今日初めて知ったんですよ」
とたんに先輩の目つきが鋭くなる・・・。
「本当ですか?」
「本当ですって。留学生がくるって言われて、入ってきたのはシオンで・・・」
「・・・・・・・・・」
シエル先輩はなおもこっちを見ていたがやがて・・・。
「はぁ・・・本当に遠野君は知らないようですね。となると、彼女の独断か、秋葉さんとの共謀なのかどちらかですね。どちらにしろ、彼女に問いただす必要があるようですね」
シエル先輩は飲み干したお茶を置き、半分くらいは残っていようカレーパンを一気に口に放り込むと立ち上がった。
「はあ・・・ほおのふん、ひひまひょう」
「先輩、ちゃんと噛んで呑み込んでからしゃべりましょうよ」
だいたい言いたいことはわかったけど。
「その前に聞きたいことがあるんですけど」
「んぐんぐ・・・ごく。はい、何でしょうか」
これだけは確認しておかないと・・・。
「先輩はシオンに会ってどうするつもりですか。捕縛して協会に引き渡すつもりですか?」
・・・シエル先輩の目つきが鋭くなる。
「そうですね、一応そのつもりです」
やはり、予期した答えがわかっている・・・。
そう、自分でもわかっていた、シオンが昼間に外に出てくるということ。
「今までは見逃していました。遠野の屋敷に滞在するだけで活動するのは主に夜。これならば吸血鬼化の進行にさほど影響はないでしょう」
「でも、シオンにはシオンの考えがあって・・・」
なんて、苦しい言い訳・・・自分さえも説得できていない。
「何かあってからでは遅いのです。もし、彼女が人の血を吸うようなことがあれば、捕縛ではなく彼女を殺さなくてはならないのですよ」
・・・何も反論できない。
「その点は大丈夫です。すでに克服してありますから」
・・・後ろを振り返ると、シオンが立っていた。
「大丈夫って・・・昼間に外に出てもか?」
「はい、吸血衝動はありますが血を摂取しても吸血鬼化が進行することはなくなりました。研究の成果が出たようです」
そっか・・・シオンは秋葉のことを学びたくて家に来たんだっけ。
「良かったじゃないか、シオン」
「はい、これからは本来の目的、吸血鬼化の治療に研究を向けたいと思います」
「そっか・・・でも、それとこの学校の編入は何か関係があるの?」
「まず、私は真祖に会わなくてはなりません。しかし、屋敷の中にいるだけでは会える可能性は低い。なら、志貴といればその可能性も高くなるはずです」
確かにそうかもしれない、あいつはいくら言っても学校に来たりするからな。
「それともう1つ・・・秋葉から頼まれたこともありましたから」
「秋葉から?」
何だろう、とりあえずは良いことではないはずだ。
「秋葉から、志貴の監視を頼まれました。最近志貴の素行がよくないということなので。今までは夏休みでしたから、問題はあまりありませんでしたが、学校が始まれば秋葉が志貴を監視するのは困難ですから」
・・・それはそれでなんか複雑だな。
「それは、わかったけど。でも留学生って・・・」
「秋葉に頼んでそのような仕組みにしてもらいました。一般市民を暗示にかけるようなことはしたくないので」
「喧嘩売ってるんですか、貴方は・・・」
後ろから怒りのオーラが・・・。
「いえ、事実ですから。本来ならば既に学校を卒業しているはずなのに、いまだに学校にとどまっているほうが私にとっては不可解ですが」
「それは・・・事後処理のためで」
「学校にいること自体おかしいのですが、それに加えて年齢的に見ても・・・」
まずい・・・。
「シオン、学校案内するっていったよな。早く行こう・・・じゃあ、先輩またね」
シエル先輩の怒りが爆発するまであと数秒・・・その前にシオンを連れ出して廊下に出る。
とりあえずは・・・職員室の方向だな、あっちなら先生もいることだし先輩も追ってくることはないだろう。
「シオン、こっちだ・・・」
「はい、職員室の方向ですね・・・」
やっぱり、シオンはすでにわかっているか・・・。
ほどなく職員室の前までつく・・・。
「ここらなら、代行者が追ってくることはないでしょう」
「やっぱり、すでに何がどこにあるかわかってるみたいだな」
「はい・・・」
でも・・・。
「シオン、ちょっといいかな」
「何でしょうか・・・」
「学校では・・・あまりエーテライトは使わないで欲しい」
「何故でしょうか?」
「う〜ん・・・あまり上手く説明できないけど、人の行動が先読みできてしまったら、こういう学校みたいなところでは、支障が出ると思う」
「・・・・・・・・・」
「人はみんな思っていることとかを全て、表に出しているわけじゃない。裏に隠しておきたいことだってあるはずだろ。それを見透かしていてはお互いに辛いと思うよ」
「そうですね、志貴の言うことは最もです。では・・・学校にいる間、エーテライトは志貴に預けます」
そう言ってエーテライトを俺に手渡してくる。
「えっ・・・でも、こんなのもらっても・・・」
「いえ、誰かに信頼できるものに預けておきたいだけです。幸い、志貴は使い方を知らないからなお良い。それとも秋葉に渡しますか。秋葉ならすぐに使い方を覚えてしまうと思いますが」
・・・ん、それはちょっと困る。
「わかった。じゃあ預からせてもらうよ。それと、さっき何で部室に来たんだ?」
「それは・・・国藤先生が志貴に・・・その、学校を案内するように言っていましたから。それで教室のほうで待っていたんですが、なかなかこなかったので・・・」
俺がシエル先輩と部室にいったことは知っていたんだろう。
「そっか、迎えに来てくれたんだ」
「いえ、決してそういうわけでは・・・」
「いいから、じゃあ案内するよ。行こうか」
「志貴、何がいいのかわかりません。ちゃんとした説明をいただきたいのですが・・・」
そういいながらもシオンは俺の後に着いてくる・・・。
シオンの目的の半分は少し怖い気もするがこれはこれで楽しくなりそうな気がする。
明日から授業・・・本格的に二学期がスタートする。
「許しませんよ、シオン・エルトナム・アトラシア。よりによって私に・・・私に、言ってはならないことを・・・。」
続く
あとがき
はじめに、ごめんなさい・・・前回題名から誤字が・・・。アトラムではなくアトラスですね、なんか違和感があるなぁと思いつつも、まっいっかと思いUPしたら案の定ご指摘が・・・。アトラスの転校生が本当の作品名です。さて・・・シオンの喋り方・・・すっごい苦手です。うまく書けないですね。今まで理屈っぽい人をメインで書いたことがないので・・・しかも今回ちょっと毒舌。シエル先輩を完全に怒らせてしまうことに・・・。もうちょっとやりこめてしまおうかなと思ったのですが、キレたシエル先輩は止められないので(もうキレていますけど)。エーテライトをはずさせて学校生活をさせるというのは、ずっと書きたかったこと。私の持論の1つとして、人と接していく場合、表と裏があるから成立すると思っているので。だから、私はダカーポのことりがあまり好きではないわけですが・・・とダカーポネタはおいといて。では、また次のSSでお会いしましょう。