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アトラスの転校生12

用意するとは言ったが、何をするのかわからないので、とりあえず着替えてノートと筆記用具だけ持って書庫に向かう。

「お待たせ・・・」

いつの間にか、二人とも着替えている・・・シオンはともかくとしてアルクェイドは?

一度帰ったのか?

「アルクェイド、お前その服・・・」

「ん〜、一度帰って着替えてきただけだよ」

・・・割と普通の返答だった。

「では始めましょうか、といっても今日やったテストで志貴が間違えた問題を復習するだけですけど」

「あぁ、わかった」 

ガチャ・・・

「みなさ〜ん、息抜きに紅茶はいかがですか〜」

「「・・・・・・・・・」」

息抜きって・・・まだ始めてもいないのに。

俺とシオンはあきれてしまっているが一人マイペースのアルクェイドは他に食べるものはないのとか聞いているし。

お前はさっきも散々居間で食べていただろうが。

「あの、琥珀さん・・・」

「何ですか? あぁ、志貴さんは緑茶の方がいいんでしたっけ? わかりました、ご用意しますね」

「いや、そういうことじゃなくて・・・」

「知っていますか? お茶は熱湯じゃなくて70℃くらいのお湯で入れるのが一番美味しいんですよ」

いや、それは知っているけど。

「そうじゃなくてですね・・・琥珀さん。まだ始めてもいないのに、息抜きなんて出来るわけないじゃないですか」

「・・・・・・」

シオンも同意見のようだ。

「それは、申し訳ありませんでした。ただ、私は頑張っている志貴さんに少しでもお役に立てればいいと思っただけなんですが」

き・・・汚い、今度は泣き落とし!?

「いいんです、迷惑でしたよね。すいません、紅茶は私が一人で飲みますから」

そういって、紅茶をお盆に戻し部屋を後にしようとする。

「いや、迷惑なんかじゃないですから・・・その、紅茶いただけませんか?」

「本当ですか? わかりました、すぐご用意いたしますね」

あ・・・しまった。

まさか・・・と思って、シオンの方を見ると『あなたは・・・』と半ば呆れられた目で見られている。

でも、言ってしまったものは仕方ない。

「じゃあ・・・紅茶だけいただきますね」

「はい、どうぞどうぞ」

紅茶とクッキーだけもらったが、琥珀さんは一向に部屋から出ようとしない。

「あの・・・琥珀さん」

「はい、何でしょうか」

「何で、まだいるんですか?」

「志貴さん達に紅茶飲んでもらわないと、片付けられないじゃないですか。後でさげにくるのもいいんですが、それだと二度手間になっちゃいます。こう見えても結構忙しいんですよ」

・・・どう考えても、忙しそうに見えないのですが。

なんか様子がおかしいな。

「琥珀・・・秋葉に頼まれましたね?」

「「え・・・」」

俺と琥珀さんの声が重なる。

「そんなわけないじゃないですか」

一瞬、ギクっという顔をしたが、すぐに冷静さを取り戻し、いつもの調子に戻る。

「シオン、秋葉に頼まれたって何を?」

「要するに、志貴がちゃんと勉強をしているか琥珀が監視しにきたということです」

「む・・・秋葉も失礼なやつだな。ちゃんとやるに決まっているだろ」

秋葉のやつ・・・俺ってあんまり信用ないな。

「志貴・・・心外という顔をしていますが、貴方の日常の生活態度を見る限りでは信用するというのは、無理かと思いますが」

う・・・それを言われるとつらい。

「ばれてしまっては仕方ないですね。言葉は悪いかもしれませんが簡単にいうなら監視です」

「でも、琥珀さんがいたら集中しづらいし・・・」

「大丈夫です、幸い・・・ここは書庫ですし、邪魔にならないように本の整理でもしていますから」

いや、それが気になるんだって。

何とか、琥珀さんを部屋から出す方法は・・・成功するかはわからないけど、あの手でいってみるか。

「あの、琥珀さん・・・」

「はい、何ですか? 紅茶のおかわりですか?」

「いえ、そうではなくて・・・その、まだ暑いですよね」

「はい、お天気がいいのはいいんですけどね、お洗濯も乾きますし」

「ですよね、まだ夜も寝苦しい日が続きますし、気持ちだけでも肌寒くなるというか、涼しくなることがあればいいんですけどね」

「・・・何がおっしゃりたいんですか、志貴さん」

「あはは、いや琥珀さんさえよければ、琥珀さんの好きな夜のお話にお付き合いしてもいいかなって、そう思っただけです」

「う〜ん、そうきましたか。まさか、志貴さんからこのようなお誘いがあるとは思いませんでした。秋葉さまとのお約束もあるんですけど・・・今回は志貴さんのお誘いを受けちゃいます」

そう言うと、てきぱきと・・・いや、危なっかしい手つきで片付けをし部屋を出ようとする。

「では、ごゆっくり」

「琥珀」

部屋を出ようとしたところでシオンが琥珀さんを呼び止める。

「何ですか、シオン様」

「秋葉が知りたいことはこちらから、志貴から聞き出しますから大丈夫ですとだけお伝えください。貴女が仕掛けた小型の監視カメラも見なかったことにします

「あ、ばれちゃいました。流石はシオン様ですね。あの・・・このことは・・・志貴さんには

「はい、大丈夫です。今回は琥珀が志貴の味方についたのですから、私は秋葉につくことにします。これで平等ですね」

「ありがとうございます。それではお勉強の方頑張ってくださいね」

途中よく聞き取れなかったが、それだけ言い残すと琥珀さんは部屋を後にした。

「最後、琥珀さんと何話していたの」

「それは後ほどわかります。それでは改めて始めましょうか」

「あぁ、よろしく頼む」

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

コンコン・・・

「どうぞ、開いてるわよ」

「失礼します」

「随分早かったわね。大丈夫だったの」

兄さんの勉強内容を知りたいと言ったのはほかでもない私だが、あまりに早い戻りに少し驚いてしまった。

「はい、大丈夫でしたよ。秋葉さまの監視できたというのはばれちゃいましたけど」

「ばれちゃいましたって・・・貴女」

何で、そんな平然としていられるのよ。

「そこは、何とか志貴さんの日ごろの行いが悪いことにして事なきを得ました。監視カメラの件もまさかシオン様に見破られてしまうとは思いませんでしたけど、協力を仰ぐことができました。あと、秋葉さまに協力をしてくださるそうです」

「シオンが?」

確かにシオンは事の状況を判断してからどちら側につくのかを決める。

運よく味方についてもらえれば、これほど頼もしい参謀はいないが、向こう側についてしまうと非常に厄介な人物に変わる。

しかし、私の周りの女性の中では唯一信頼おける女性なのも確かである。

「でも、まさかばれてしまうとは・・・ちょっとショックです」

「余計なことはいいから・・・準備はいいの?」

「はい、それはもう・・・あとはこのボタンを押すだけです、えいっ・・・ポチっとな」

備え付けられた計8台のテレビから、様々な角度で部屋の状況がわかる。

真面目に兄さんの勉強をシオンが見ていた。

・・・・・・・・・。

・・・・・・。

・・・。

小一時間くらい過ぎただろうか。

あーぱー吸血鬼は本を読むのに夢中で、兄さんの勉強を見ようともしない。

「あの馬鹿女は何をしにきたのかしらね」

「さぁ、私に聞かれても。でも、シオンさまって勉強とか教えるのお上手ですよね。要点を押さえているというか」

「・・・・・・」

確かに・・・シオンはそういうのに向いているかもしれない。

ちょっと悔しい・・・私にあんなふうに教えることが出来るだろうか。

「あはは、秋葉さまでしたら、絶対怒ってますよねぇ」

「琥珀!!」

「あはは、あっ・・・何か休憩するみたいですね。私、行ってきましょうか?」

「いえ、それだったら何のためにカメラを仕掛けたのかわからないじゃない。あそこの部屋でもお茶くらい淹れられるんだし」

「あ・・・そうですね。じゃあ見てることにしましょうか。翡翠ちゃんそんな所で見てないでこっちで一緒に見ようよ」

「あ・・・その、私は・・・」

ばれていないとでも思っていただろうか。

琥珀が私の部屋に来てあえてドアを閉めなかったのかはわからないが、少しあいた隙間から翡翠が覗いていたことはわかっていた。

「あなたも兄さんの事が気になるんでしょう、いいから来なさい。そこにいられたら気が散ってしまうわ」

あえて、強い口調で言う・・・あの子は遠慮がちというか、こうでも言わないとこっちに来ないんだから。

「はい、それでは失礼します」

「秋葉さま、こっちも紅茶でも淹れましょうか」

「そうね、お願いするわ」

「はい、わかりました」

向こうでも、シオンが慣れた手つきで紅茶を淹れなおしていた。

『志貴はどうしますか?一応レモンとミルクもあるようですけど』

『じゃあ、ミルクを入れてもらえるかな』

『わかりました』

「シオンさま・・・手馴れていますね」

「はい、よくご自分で淹れているのを見ます」

『ではいただきましょうか』

『ありがとう』

「はい、こっちも紅茶を淹れましたよ、いただきましょうか」

「そうね・・・」

そうは言っても、カメラ越しのシオンと兄さんが気になって仕方がない。

『やはり、志貴はやれば出来るんですね・・・今までのは単に勉強不足だけだったということがよくわかりました』

『そうかな・・・シオンの教え方が上手かったと思うけど・・・実際わからない所丁寧に教えてくれるし。これが秋葉だっがら怖くて聞けないよ、というか家庭教師なんか頼めないし』

・・・・・・。

「秋葉さま、落ち着いてくださいね」

「えぇ・・・わかっているわよ。このくらい、えぇどうせ私は教えるのが下手ですよ」

とはいうものの、動揺はかくせない。

『そのことで1つ・・・聞きたいのですが』

『何かな、俺で答えることでよければ』

『志貴はどこか秋葉に変に遠慮しているところがありますよね』

シオンが協力すると言った意味がやっとわかった。

これは私が一番聞きたかった・・・でも、聞くと何かが壊れそうで聞けなかったこと。

今、それを知ることが出来るかもしれない。

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

あとがき

何かメインがシオンではなく、秋葉になってきました。流石行き当たりばったりというか・・・しかもラストはものすごくシリアスっぽくなりそうです。しかし・・・ヒロインの中でやたらと脱落者が出てきてますね。アルクェイド、翡翠、シオン・・・シエル先輩にいたっては、出てきてもいない・・・。たくさん人だしちゃうとこういう目にあうんですよね・・・。では、次のSSでまたお会いしましょう。次こそは・・・完結・・・。

 

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