アトラスの転校生5
いつもは一人で歩く道をシオンと二人で歩く。
しかし、先ほど説教されたばかりなので、何となく気まずかったりする。
今も並んで歩くわけではなく、シオンの二、三歩後ろを歩いている。
学校までまだ結構な距離・・・それまで何とか話題を見つけないと。
・・・ん、学校・・・学校か。
「・・・・・・・・・っ!!」
あ・・・この展開はやばい、非常にやばいぞ。
「・・・? どうしました、志貴?」
「いや・・・ちょっとまずいことに気づいてさ。その、何というかこのままシオンと登校するのはまずいというか。いや、言っておくけどシオンと一緒にいくのが嫌だっていうんじゃないぞ。その・・・あれだ・・・」
やばい、言葉がつづかない。
「大丈夫です、志貴の言いたいことはよくわかります。ただでさえ、屋敷の中で非の打ち所のない妹と暮らしていて、あまつさえ自分のことを“さま”づけで呼んでくれるメイド(双子)がいて、加えて私までもが同じ屋敷で暮らしなんてことがばれたら学校へ行けなくなってしまうということですね」
・・・・・・・・・。
「・・・だいたい合ってるけど」
・・・なんか複雑な心境だ。
「今日は早めに家を出ましたし、クラスメイトとは会うことはないでしょう。しかし、それでも例外というものは必ず存在します。ですから、志貴にはいつも通りに屋敷を出てくれるとこういった心配はしなくてもいいと思うのですが」
「わ・・・わかった」
・・・というものの。
「シオン、もしかしてそれを見越して先に家を出ようとしたのか?」
「はい、ですが・・・あなたはジョーカーだということを忘れていました。秋葉と私が同じ時間に出ようとすれば貴方も一緒に出ようという・・・そんなことは少し考えればわかったはずなのに・・・」
シオンははぁ・・・と1つため息つき・・・。
「秋葉は屋敷を出たなら、すぐに車に乗っていってしまう。故に貴方が来るということはないと思い込んでしまった。私の計算ミスか貴方が予想範囲の行動をとったのかは定かではないですが、やはり貴方は私の計算を狂わせる」
「・・・・・・・・・」
何とも返答ができない・・・シオンが俺のことをちゃんと考えてくれていたのにそれを台無しにしてしまったという思いと。
秋葉とシオンが出かけるなら一緒に行くというそれこそ当たり前のことなのにという思いが交錯していた。
なんだかなぁ・・・これからも早く起きるとなると、翡翠と琥珀さん絡みで悩まされそうだし・・・かといって、今日ただ屋敷を出るまでの僅かな時間なのにそれこそ、すごい楽しそうに歩いていた秋葉を見てしまうと・・・。
「志貴・・・そんなに悩む必要はありません。私は一時的な住まいとしてあの屋敷に住んでいるだけです。本来の目的が住めば私は国に帰ります。そうすればまた貴方たちもいつもの生活にもどるでしょう」
「あぁ・・・うん、そうなんだけど」
それは・・・それで何か悲しいものがあるな。
シオンには吸血鬼化の治療法というものを是非見つけてほしい・・・それは俺の願いでもある。
でも、それでシオンがいなくなってしまうのも何だか寂しい・・・。
「それに、後のことを悩むよりも今は、目の前のことを悩んだほうがよろしいのでは?」
目の前の・・・こと!?
目の前といえば、もうすぐ学校だ。
学校に行くには当然正門がある・・・そこを通らなければ、昇降口にも入れないし当然教室にも行けない。
そして、当然というか当たり前じゃない出来事が今、目の前にある。
何故か、正門の方からクラスメイトの中で一番見慣れたやつが猛然とダッシュをしてこっちに駆け出してくることだ。
「あれは乾有彦という志貴の友人ですね。何やらこちらに向かってきますが、志貴に用なのですか?」
「あぁ・・・いつものことだから気にしなくていいよ。それと、危ないから少し離れてくれると嬉しい」
「・・・・・・・・・」
納得しないままシオンは俺の少し後ろに回る。
「遠野〜〜!!」
有彦はそのまま突っ込んできて俺に向かってライダーキックをかましてくる。
それを紙一重でかわす・・・俺に当たるはずだった有彦のライダーキックはごみ置き場に置かれたビニール袋に直撃する。
すごい音でゴミ袋に突っ込み、そのまま有彦は動かなくなる。
・・・あぁ、そうだった。
今日は燃えるゴミの日だったな。
「じゃあ、行こうかシオン」
「え・・・いいのですか?」
動かなくなった有彦を見ながらシオンが言う。
「あぁ、大丈夫。そのうち起きてくると思うから」
有彦を心配そうに見ているシオンを尻目に学校へむかって歩き出す。
「あ・・・待ってください、志貴」
その後を小走りにシオンがついてくる・・・。
そして、俺の横に並ぶ。
さっきまでギクシャクしていたはずが今ではそれがなかったようだ・・・そういった意味では有彦に感謝しなくてはならないのかもしれない。
「志貴は友人とはどんな関係なのですか?」
「ん・・・高校に入る前からかな。付き合いも長いしクラスでは一番親しい仲かな」
親しいという言葉に自分自身疑問を感じたが、ここでは追求しないでおこう。
「しかし、あのような行為は友人と呼べるのでしょうか」
「ん〜、普通ならそうじゃないと思うんだけど・・・ある意味特別だからなぁ・・・あいつとの関係は。でもあんな格好してるけどいい奴だよ、あいつは」
「そうですか・・・志貴がそこまで言うのならそうなのでしょうね。しかし・・・彼が何故あのような行動をとったのか極めて不可解です。もし、志貴にわかるのなら、理解できるよう説明をしていただきたいのですが」
「説明っていってもなぁ。有彦が変な行動とるのは慣れてるし・・・。サボりの常習犯のはずなのにこんなに早くいるのも不思議だからな」
「・・・・・・・・・」
あ・・・機嫌悪そう、やはり納得していないようだ。
「彼と関わると志貴の行動が変わってしまうと、秋葉が言っていましたね。今のはそういうことだと理解してよさそうですね」
それは今朝の話か、確かに有彦のとばっちりによって俺が巻き込まれたとき、被害を最小限に食い止めようとするから、ある程度強引な行動とることはあるんだけど。
「まぁ、いいか」
「何がですか、志貴」
「いや、何でも」
「そうですか・・・」
そして学校に到着そのまま正門へ・・・。
「そこまでです」
突然後ろから声がした・・・。
「そこまでです、シオン・エルトナム・アトラシア。貴方を学校に入れるわけにはいきません」
シエル先輩が立っていた・・・。
まずいな・・・やはり、昨日の件のことなのだろうか。
流せばいいのに、シオンも無意味にシエル先輩のこと挑発していたからなぁ。
「今の私は、アトラムの院生であると同時にここの学校の学生です。正式な許可もおりています」
「そんなものは遠野家による、不当なものではないですか。そんなもの正式でも何でもありません」
「貴方みたいに暗示をかけるより遥かにマシです・・・それに・・・」
シオンは『ふん』と鼻で笑った後・・・。
「そんな口の周りをカレーだらけにしている人に何も言う権利はないと思うのですが」
やばい・・・とてつもなくやばい、というかシオン・・・さっきの話だけど。
有彦とトラブルに巻き込まれるんだけど、君と一緒にいてもトラブルに巻き込まれやすいのは果たして、俺の気のせいなのか・・・。
バリバリに戦闘モードに入っている2人を見て、ふとそんなことを思ってしまった。
続く
あとがき
なんとか引越し前にUP完了というか前回に引き続き、時間かかりすぎ・・・。こうやって私の更新も遅くなって何もやらなくなるのかなと・・・たまに思ったりもしますけど。とりあえずはこれだけは完成させようかなと。まぁ、私の日々の状況は置いといて・・・。今回・・・シオンさんかなり悪役っぽいですね。最後の鼻でフンと笑うところは、今のにするかFATEのセイバーさんルートの「必殺剣とかいいね」の選択肢で出てくる、『ニタリ』か悩んだのですが結果、こっちということで・・・。どんどんシオンが悪役になり、シエル先輩はやられ役というか、へこみ役というか、そんなのになっていますが・・・そろそろあの方も登場させないとまずいですね。では、次のSSでお会いしましょう♪♪