〜bond〜(第一話)
「ふぅ・・・さっぱりした」
バスタオルで頭を拭きながら自室に戻り、布団の上に座る。
「いよいよ明日か・・・」
机においてある四角い箱を見る。
明日は9月22日・・・俺の妹、遠野秋葉の誕生日だ。
俺も知ったのは一週間前だったのだが。
「翡翠が気をきかして教えてくれたんだよな」
一週間前、唐突に翡翠から9月22日は何の日か知っているかと尋ねられた。
当然長い間有馬の家で暮らしていた俺は、その日が秋葉の誕生日だなんて知らなかった。
一週間前に知ったおかげで誕生日プレゼントも苦心の末選ぶことが出来た。
お金の方は・・・秋葉には悪いと思ったが日雇いのアルバイトを有彦に紹介してもらった。
必要なお金は用意すると言われているが、やっぱりこういうのは自分の手で作ったお金で買ったほうがいいと思う。
さて・・・そろそろ秋葉のところに相談しに行かないとな。
秋葉の誕生日は・・・俺がここに来た歓迎会みたいに俺と秋葉、それに翡翠と琥珀さんでやりたいという密かな願望があった。
それは・・・初めて心の底から“家族”と呼べる者を祝ってやりたいという遠野志貴の願望でもあった。
コンコン
「失礼します、志貴さま」
翡翠が入ってくる、恐らくベッドメイキングに来てくれたのだろう。
「志貴さま、秋葉さまがお呼びです。至急居間におこしください」
「秋葉が?わかった今いくよ、話したいこともあったし」
「では、その間にベッドメイキングをしておきます」
「頼むよ」
「はい」
秋葉が話しか・・・誕生日のことか?
・・・いや、わざわざ自分の誕生日のことを言うわけない。
となると・・・また何かやったのか、俺!?
最近秋葉に注意されることはしてないつもりだが・・・。
何にせよ、秋葉に会えばわかることだ。
居間の前に到着、よし。
ガチャ
「秋葉、話があるって聞いてきたんだけど」
「はい、どうぞお座りになってください。今紅茶煎れますね」
「あ・・・あぁ」
予想に反して秋葉は機嫌が良いようだ。
「どうぞ」
「サンキュ、でも丁度良かった。俺も秋葉に話が合ったから」
「あら、そうなんですか。では兄さんからどうぞ」
「いや、秋葉からでいいよ」
「そうですか、では・・・突然ですけど兄さんには明日行われる遠野家主催のパーティーに出席していただきたいのです」
「え・・・パーティーって」
明日はお前の・・・。
・・・っ!!
そうか・・・そうだよな。
俺は、何を勘違いしていたんだろう。
目の前にいる少女は・・・遠野秋葉は、経済界でもその名を轟かせる遠野家の当主だもんな。
その当主の誕生日ともなればそれこそ盛大な誕生パーティーが行われることだろう・・・。
そんなことも忘れていたなんて。
「兄さん、聞いていますか?」
秋葉に声をかけられて、我にかえる。
「あぁ、何?」
「ですから、兄さんには明日のパーティーに出席していただきたいのです」
「そのパーティーっていうのは、遠野の親戚筋の人達も来るのか?」
何を・・・当たり前のことを。
「当然です、遠野家で主催するのですから」
予期した答えが返ってくる、変わることなんてない。
「・・・俺は行かない」
正確に言えば・・・行けない。
「どうしてですか?」
「遠野の親戚筋が来てる中、俺が行っても白い目で見られるだけだし、何よりお前に迷惑がかかる」
これは半分嘘だ・・・。
「そんなこと兄さんが気にするようなことではありません」
こんな言い訳では秋葉を説得することは出来ないか。
「それに、俺の体質のことは知ってるだろう。もし、そんなパーティーで貧血なんて起こしたらパーティーを台無しにしてしまうだろ」
これも、半分嘘。
「そ・・・それは」
「それに、俺1人行かなくたって大丈夫だろ」
「兄さんは遠野家の長男です。遠野家が主催する催しには基本的に出てもらいます」
・・・・・・。
何だ、今の言い方・・・。
分かってはいる、しかしそんな言われ方をすると・・・腹が立つ。
「秋葉、それは遠野家当主としての命令か?」
「そ・・・」
その先は言わせない。
我ながらずるい言い方だと思う。
「命令だったら従うよ。この屋敷に住む以上は当主の言葉は絶対だからな・・・俺の意思とは関係なくなる」
・・・今までさんざん破ってきたけど。
「わ・・・私は、ただ・・・」
こんな言い方をすれば・・・。
「私はただ、兄さんがそばに・・・い・・て・・・」
ガタン タッタッタ ガチャ バタン!!
・・・いってしまった、こうなることはわかっていたのに。
馬鹿だな俺は・・・一番汚いやり方で断ってしまった。
しかし、これだけは駄目だった。
俺がそんなところに参加したら、本当にお前に迷惑をかけるから・・・すまない、秋葉。
秋葉の煎れてくれた紅茶はすっかり冷めていた。
はぁ・・・俺も戻ろう。
・・・・・・・・・。
部屋に戻ると翡翠がいた。
「志貴さま、もうお話は済んだのですか?」
「あぁ、終わったよ」
「なにかお元気がないようですがどうかされたのですか?」
相変わらず翡翠は鋭い。
「いや、そんなことないよ。あっでも、ちょっと疲れているのかも知れない。だから今日は早く寝ることにするよ」
嘘だ・・・こんな状態で寝れるわけない。
「・・・そうですか。ではお休みなさいませ、志貴さま」
「あぁ、おやすみ」
翡翠は少しこっちを見ていたが、それだけ言うと下がった。
はぁ、さっき部屋に戻ったときとは気分が段ちだ。
「秋葉・・・泣いてたな」
去り際に泣いてるのがわかった。
「何やってんだろうな、俺」
結局自分のエゴで秋葉を泣かしてしまった。
秋葉の言ってることは何ら間違ってはいない。
遠野家の長男ならそういう催しに出席するのは当たり前のことだろう。
だが、行けない・・・。
戸籍上は遠野家長男、遠野志貴だとしても・・・身体に流れている血は、七夜家のものだ。
俺の身体に流れる七夜の血、そして人在らざるものの血が流れている遠野。
そんな人達がたくさん集まる場に俺が出席したら、どうなるか。
ましてや向こうは俺に対しては敵意の象徴の何者でもないだろう。
そんな目で見られた時、果たして俺は平静でいられるのだろうか。
秋葉に・・・あの秋葉にでさえ反転してしまったこの俺が・・・。
とりあえず、横になろう・・・布団に入ってればいつか眠れるかもしれないし。
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結局寝付けず、瞼が落ちる寸前の外はうっすらと夜が明け出すくらいだった。
でもこれで良かったのかもしれない、朝起きるのが遅ければ秋葉と顔を合わすこともないだろうから・・・。
続く
あとがき
初めての月姫SSです。短いですね、まぁさわりということで・・・こんな感じです。え・・・と今回は書いてて特になにもないというか、いや勿論こんなに短くていいのかとか、相変わらず文章力ないなぁというのはあるんですが・・・。結構書いててどこか満足気な私がいるので。まだまださわりの部分なので何が何だかわからない感じですけど、後々明らかになっていくと思います。少しでも興味もたれ方かた次も読んでくださると幸いです。