不器用な天使

 

 

 

 

今日は日曜日、本来ならば今日あゆと出かけるはずだったのに・・・。

 

今朝起きたらどうも頭が痛い・・・寒い・・・身体の関節が痛い・・・。

 

間違いない、風邪だ。

 

秋子さんと名雪は二人で出かけてるんだよな。

 

結構起きあがるのも辛い。

 

仕方ない、あゆにはかわいそうだが、今日は断ろう。

 

早めに電話しといた方がいいよな。

 

プルルルルル プルルルルル プルルルルル 

 

ガチャ

 

「もしもし」

 

「おぉ、あゆか。俺、祐一だけど」

 

「え、祐一君なの?」

 

「他に誰がいるんだ」

 

「だって、声がいつもと違っていたから、なんか声がかれてる気がするよ」

 

「ちょっと風邪ひいちまってな」

 

「え、そうなの、大丈夫?」

 

「あぁ、大したことはないと思うんだが、出かけるとなるとちょっとな。だから悪いんだけど今日出かけるのは・・・」

 

「うん、わかったよ。でも一人で大丈夫?確か、今日名雪さんも秋子さんもいないんだよね」

 

「寝てればいいから。じゃあ、ほんと今日はごめんな」

 

「うん・・・あの・・・」

 

ガチャ

 

・・・なんか最後あゆのやつ何か言いたそうだったな・・・駄目だ、頭痛くて何か上手く考えられないな、寝よう。

 

 

 

・・・・・・ポーン・・・ピン・・・ポーン ピンポーン

 

・・・う・・・誰だ・・・呼び鈴がなってる、まぁいいやほっとけば・・・。

 

ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン

 

しつこいなぁ、これじゃうるさくて眠れん。

 

仕方ない、出るか。

 

ガチャ

 

「はい、どちらさま・・・ってあゆ!?」

 

「えへへ、看病に来たよ」

 

「・・・別にいい」

 

ドアを押し、閉めようとする。

 

ガッ

 

あゆが足でドアをはさんでそれを阻止する。

 

「うぐぅ、ドア閉めないでよ」

 

あゆが看病してくれるというのはすっごい嬉しいんだがその反面・・・すごい不安だ。

 

「だって、ボク祐一君のこと心配だから、駄目・・・かな?」

 

「・・・わかった。それじゃお願いしようかな」

 

あんな顔されて断れるわけない。

 

「じゃあ、おじゃまするね」

 

「あぁ」

 

「祐一君は寝てていいよ、ボク今日は一日看病するから」

 

「大丈夫か?」

 

「うん、ボク頑張る」

 

「じゃあ俺は寝てるから、何かあったら呼んでくれ」

 

「うん、じゃあまず氷枕作って持っていってあげるからね」

 

「あぁ、頼むな」

 

「うん」

 

・・・やっぱり人が来てくれるのは嬉しい。

 

風邪引いてる時って妙に人恋しくなるのは本当みたいだ。

 

あゆが来てくれて本当に嬉しい。

 

しばらくするとあゆが何か大きなものを持ってやって来た。

 

「祐一君氷枕作ってきたよ」

 

「そ、それがか?」

 

「うん、ボク頑張って作ったよ」

 

「そりゃ、頑張ったろうな」

 

・・・それだけでかけりゃな。

 

「で、一つ聞きたいんだが、それをどうするつもりだ?」

 

「え、氷枕っていったら・・・うぐぅ、使い方がわからない」

 

「わからないって、だったら何で氷枕なんて言葉知ってたんだ?」

 

「それは、風邪引いた時によく聞く言葉だから。あと枕だからこれに頭のせるんでしょ、だったら大きい方がいいかなって思って」

 

なるほど、枕っていうから大きい方が寝やすいと思ったんだな。

 

何かあゆに心配してもらって喜んでる俺がいる、しかし流石にこれを使うのは無理だろう。

 

「あゆ、氷枕ってのはこのくらいの大きさでいいんだぞ」

 

と、手で大きさを示してみる。

 

その前に専用の氷枕があったかと思うのだが。

 

「そうなんだ、これじゃ大きすぎだね。ボク作り直してくるよ」

 

「いや、使わせてもらうよ」

 

「いいの?」

 

「あぁ、でもこれだと大きすぎだから少し氷と水を抜こうな」

 

「うん、じゃあボクやるね」

 

ビニール袋の結び目をとこうとする。

 

「あ、こんな所でやるな。俺がやるから」

 

「大丈夫だよ」

 

「そんなにたくさん水が入ってるのに大丈夫なわけないだろ」

 

「いいから、いいから。・・・うぐぅ、なかなかほどけないよ。んー、えいっ!」

 

「馬鹿っ、そんなに強く引っ張ったら」

 

バチャ

 

・・・やっぱり。

 

「うぐぅ、冷たい」

 

「ビニール袋をそんなに強く引っ張ったらやぶけるの当たり前だろ」

 

「あ・・・うん」

 

「替えの服なんてもってるわけないよな」

 

「うん、どうしよう」

 

名雪に借りるのがいいんだが、勝手に借りるのはまずいよな。

 

「とりあえず、その濡れた服は干しとこう。その間俺の服着てればいいから」

 

「いいの?」

 

「そのままだと、風邪ひいちまうだろ」

 

「うん、ありがとう」

 

タンスの中から適当にトレーナーとジーパンを出してあゆに渡す。

 

「じゃあ洗面所で着替えてろ。その間に床拭いとくから」

 

「うん」

 

「バスタオルもあるの適当に使っていいから」

 

「うん、ごめんね」

 

俺も雑巾もってこないと。

 

・・・乾いた雑巾で床を拭く・・・すごい氷の量だな。

 

「祐一君、濡れちゃった服はどこに干せばいいのかな?」

 

「ん、ベランダに干せばいいだ・・・ろ!?」

 

振り向きざまに返事を返した時、俺の服を着たあゆが立っていた。

 

「えへへ、ぶかぶか♪♪」

 

あゆには大きすぎる袖をぶらぶらさせながら笑う。

 

・・・なんか、その仕草がすごいかわいらしく見える、いや実際破滅的にかわいい。

 

「あゆは小さいからな」

 

思ったことを悟られまいと思いとは逆の言葉を口にする。

 

「うぐぅ、ひどいよ。女の子なんだから当然だよ」

 

「いいから、ベランダに服干せ」

 

「うん」

 

今日のあゆはとってもかわいく見える、風邪ひいて頭がボォーっとしてるせいだろうか。

 

それにしても・・・妙にパジャマがひっつく。

 

さっきまで寝てたのと、ちょっと動いたせいか結構汗かいてるな。

 

俺も着替えて体拭いたほうがいいな。

 

「祐一君、今度こそちゃんと氷枕作るね」

 

「あんだけ氷使ったらもう使う氷ないだろ。氷枕はいいから洗面器にお湯を入れて持ってきてくれ。それとタオルも」

 

「うん」

 

「あと、洗面器にお湯は少しでいいから、三分の一くらいで」

 

「うん、わかったよ」

 

これなら大丈夫だろう。

 

・・・・・あゆが戻ってきた、お湯もそんなに入れてないからふらついたり、こぼすことはないだろう。

 

「祐一君、持ってきたよ、これどうするの?」

 

「タオルをお湯で濡らして絞るんだ、体拭きたいから」

 

「ボクが拭いて上げようか」

 

「え、だって俺上半身脱ぐんだぞ」

 

「うぐ・・・それくらい平気だもん。それに背中とか自分じゃあんまり上手く拭けないでしょ」

 

「それは、そうだけど・・・いいのか、あゆ」

 

「うん、ボクは平気だよ」

 

「じゃあ頼もうかな」

 

「うん、今度は失敗しないから」

 

上のパジャマだけを脱いで、先に前のお腹の部分と腕の部分を拭く。

 

「じゃあ背中頼むな」

 

くるりと背中を向ける。

 

「うん」

 

背中にタオルが当たる・・・何か恥ずかしいな・・・。

 

「じゃあいくよ」

 

「あぁ」

 

ゴシゴシゴシ!!

 

「いってぇー」

 

「え、あの・・・」

 

「あゆ、床に雑巾掛けするんじゃないんだからそんなに力一杯やらなくていいんだよ」

 

「そうなんだ・・・うぐぅ、ごめんなさい」

 

「別にいいよ・・・しかしすごいヒリヒリするな」

 

背中なので見えないが多分真っ赤になってることだろう。

 

「もういいの」

 

「あぁ、ありがとう。じゃそのお湯捨ててきて今度は水を入れてきてくれ。」

 

「うん」

 

洗面器を持って部屋を出て行く。

 

後ろから見ても明らかに落ち込んでいるのが分かる。

 

ちょっときつくいいすぎたかな・・・。

 

あゆはただ一生懸命なだけなんだもんな。

 

「祐一君、水入れてきたよ。今度はどうするの」

 

「さっきと同じ、タオルを水に浸して絞るんだ」

 

「分かった、それをおでこにのせるんだね」

 

「あぁ」

 

「今度はボクが絞るね」

 

タオルを濡らして絞る・・・あんまり絞れてないのは気のせいか。

 

「おでこにのせてあげるね」

 

「ちゃんと、絞ったか」

 

「うん、力一杯絞ったよ。じゃあのせるね」

 

「あぁ」

 

べチャ

 

・・・気のせいじゃなかったようだな。

 

「うぐぅ、ごめんね」

 

うつむいてあゆが謝る。

 

なんか、かわいそうになってきた。

 

「いいよ、ありがとう」

 

と、微笑む。

 

「怒ってないの?ボクやること全然駄目なのに。逆に迷惑かけちゃって」

 

「怒るわけないだろ。あゆは悪気があってやってるわけじゃないんだから」

 

「でも・・・」

 

「元はといえば、俺が風邪ひいたのがいけないんだし」

 

「それは仕方ないことだよ。ボクのとは違うよ」

 

しょぼんとまたあゆはうつむいてしまう。

 

「ボク、ここに居ても迷惑かけるだけだから。帰ったほうがいいよね」

 

あゆが帰り支度を始める。

 

あゆをこのまま帰してしまっていいわけない。

 

絶対に何かあるはずだ、あゆに出来ること・・・いやあゆにしか出来ない事が。

 

・・・あ、凄く恥ずかしいことを思いついた。

 

「あゆ」

 

「なに?」

 

「その前に一つだけ頼みごとしていいか?」

 

「・・・ボクに出来ることかな」

 

「あぁ、あゆにしか出来ないことだから」

 

多分いつもの思考回路では考えられないことだと思う。

 

「手、出してくれるか」

 

「うん、はい」

 

布団の上に両手を出す。

 

俺も、右手を出して・・・。

 

「手を握ってくれないか」

 

「・・・これが、ボクにしか出来ないこと?」

 

「あぁ、他の誰でもない、あゆじゃなきゃ駄目なんだ」

 

あゆはびっくりしたような顔をしたけど、すぐに微笑んで、

 

「うん、わかった」

 

と、手を握ってくれた。

 

「あゆの手・・・冷たくて気持ちいいよ」

 

さっきまで冷たい水を触っていたせいだろう、あゆの手はとても冷たかった。

 

「祐一君の手は、とっても暖かいよ」

 

「はじめから、これだけ頼んでればよかったかな」

 

「でも本当にこれだけでいいの」

 

「あぁ、今日はずっと話しをしてよう」

 

「うん」

 

「ほら、その体勢じゃつらいだろ、布団の上に座っていいぞ」

 

「うん」

 

・・・それからお互いにいろんな話しをした。

 

家でおこったことや、本当になんでもないことをたくさん。

 

最初は冷たかったあゆの手は今はとっても暖かくて・・・。

 

握ってくれている手からあゆの体温を感じることが出来る。

 

好きな人が側にいてくれるというのはとても安心できる。

 

それに何だか・・・とても心地よくて・・・・・・。

 

 

 

・・・ん・・・俺・・・寝ちゃったの・・・か?

 

ゆっくりと目を開ける・・・そこには・・・。

 

視界一杯に広がるあゆの顔があった。

 

「起きたんだね、おはよう祐一君」

 

「あ・・・俺寝ちゃったん・・・だ。悪い、勝手に寝ちゃって」

 

「いいんだよ、ボクは祐一君を看病しにきたんだから、祐一君が気持ちよく寝てくれればそれでいいの」

 

「そっか、ありがとう」

 

「うん、今ね、おかゆ作ってるんだよ。もう少しで出来るから待っててね」

 

「そういえば、今日朝から何も食べてないからな、腹減ったよ」

 

「食欲があるってことは少し元気になってきた証拠なのかな」

 

「そうかもな」

 

あゆはまだ俺を服を着ていて、気に入ったのかはわからないがしゃべる時に袖をぶらぶらさせる。

 

何かそんな姿がとても・・・、

 

「かわいい」

 

「え・・・何か言った?」

 

「今日のあゆはかわいいって言ったんだ」

 

「え・・・え、急に何言い出すんだよぉ、そそそ・・・そんなボク、うぐぅ」

 

何かそんな驚く姿も余計にかわいい・・・なんだろう今日の俺は何か変だ。

 

顔が熱くほてってる・・・でも、これは熱のせいだけじゃない。

 

「あゆ、ちょっとこっち来い」

 

「え・・・うん」

 

あゆが俺の手が届く範囲までくる。

 

そっとあゆの背中に手を回し・・・。

 

「え・・・ちょっと駄目だよ、祐一君」

 

『何で、嫌か?』

 

「ううん、嫌じゃないけど・・・その・・・」

 

あゆが煮え切らない態度を示す。

 

「じゃあ、何?」

 

ピッと指を指し示す・・・その先には・・・。

 

ドア!?しかもなんで開いてるんだ。

 

しかも廊下を名雪がパタパタと駈けて行く。

 

「おかゆ、おかゆ♪♪」

 

・・・謎の歌を口ずさみながら。

 

「あ、祐一起きたんだね、体の具合は大丈夫?」

 

「あぁ、朝よりは良くなってるよ」

 

「よかった、もう少しでご飯だよ。それとね・・・」

 

名雪の表情は崩れない。

 

「そういうことする時はドア閉めとこうね」

 

とんでもない言葉を残して名雪は下に降りていった。

 

「なんで、ドアが開いてるんだ・・・というか名雪は何時帰ってきてたんだ」

 

あゆを見る・・・あ、そういえばまだ抱きついたままだったな・・・慌てて手を離す。

 

「うぐぅ・・・ごめんね。あの・・・ボクも知らないんだよ」

 

「どうして、看病してくれてたんじゃないのか?」

 

「うん、してたんだけど・・・祐一君が寝た後しばらくしてボクも寝ちゃって・・・」

 

そういうことか・・・。

 

「でね、目が覚めた時に秋子さんがいておかゆ作るから手伝ってって言われたから、台所に行ったの」

 

・・・ふと、布団の上を見るとしっかりと絞った濡れタオルがあった、そうかこれは秋子さんが。

 

「秋子さんとおかゆ作っていたんだけど、もうすぐ出来るからちょっと祐一君の様子を見に来たの」

 

「ふーん、そっか。で、ドアは何でだ?」

 

「うぐぅ、だからちょっと祐一君の様子見に行って、すぐ戻ろうと思ったんだよ・・・でも、でもね」

 

あゆが顔を赤らめる・・・何かあったのか、もしや風邪がうつったか。

 

「その、祐一君の寝顔がね、すごい・・・かわいかったから、暫く見とれてたの」

 

・・・そうだよな、風邪なんかそんな急には移らないからな。

 

しかし、寝顔を見られるのはかなり恥ずかしいものがある・・・そうか、だから目が覚めた時あゆの顔が間近にあったのか。

 

「ごめんね、祐一君」

 

いや、謝られても困る。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

何か、会話が止まったというか気まずい雰囲気になってきた。

 

「ほら、あゆ。おかゆいいのか?」

 

「そうだ、ボク戻るね」

 

「あ、あゆ」

 

部屋を出ようとするあゆをひき止める。

 

「何・・・わっ」

 

あゆの振り向きざまに腕を取りひっぱり抱きしめる。

 

そして、一番言わなければならないことを言う。

 

「今日は、来てくれてありがとう。いろいろあったけど、あゆが来てくれて本当に嬉しかったよ」

 

「・・・祐一君、うん、どういたしまして」

 

「じゃ、おかゆ楽しみにしてるから」

 

「うん、それとね・・・」

 

「何だ?」

 

「ボクが風邪をひいた時はお見舞いに来てね」

 

「大丈夫だ、何とかは風邪ひかないって言うだろ」

 

「うぐぅ、酷いよ」

 

「ほら、秋子さんが待ってるぞ」

 

「うん、じゃあ楽しみにしててね」

 

あゆが部屋を出て行く。

 

・・・一人部屋に残り今日あった出来事を考えてみる。

 

といっても、思うことは一つしかないのだが。

 

そう、結局はあゆと過ごせていい日だった・・・ということだ。

 

最後に残る疑問は名雪と秋子さんがいつ帰ってきたかということだが、これについては後で聞くとして・・・。

 

とりあえずは、薄味だと思われるおかゆを楽しみにしようか。

 

 

 

 

FIN

 

 

 

 

あとがき

今回の祐一君・・・とっても優しいですね、優しいのは熱があると思っていただければ幸いです。お天気のネタといいこういう看病ネタといい結構お決まりなのかなぁと思いつつも書いてしまいました。最初は祐一が水をかぶる方向で考えていたのですが、それはあまりにもお決まり過ぎるのでちょっと変えました。どう変えようとあゆがヒロインで看病ネタの場合ドタバタになるのは避けられないというか、やらなくてはあゆじゃないと思ってもいるんですけどね。後、自分で書いといて何なのですが、男ものの大きい服を着たあゆを想像して、かなり萌え萌えになってしまったですよ。ゲームだけやっていた時は、あゆの好感度はあんまり高くなかったのですが、アンソロ本なんかを読んでるうちにどんどん萌え度が高まっていって、私の中の上位3人に追いつこうという勢いを見せてますよ、流石はメインヒロインといったところでしょうか。くそっ祐一が羨ましいなぁもう!! 最後にここからは個人の想像(妄想!?)の世界になってしまうのですが、一度でいいですから、しょぼんとしたあゆと、「えへへ、ぶかぶか♪♪」と笑うあゆを想像してみて下さいね♪♪ 

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