二人の想い

 

 

カチコチカチコチカチコチカチコチ・・・。

 

12月23日23時00分・・・この時間ならいつもはまだ起きているのだが何故か今日はもう布団の中にいる。

 

・・・しかし布団の中が狭い。

 

横を見てみれば名雪が気持良さそうに寝ている。

 

こいつは・・・人の気も知らんですやすや寝やがって・・・。

 

何で、名雪と一緒に寝るはめになったのか・・・時は一日前にさかのぼる。

 

12月23日は言わずと知れた名雪の誕生日だ。

 

香里が名雪のバースデーパーティーをしようと言い出したので、俺、北川、名雪、香里のいつものメンバーで開くことになった。

 

部活関係はいいのかと聞くと、

 

「ちょっと前にお祝いしてもらったんだよ。ほら、これがみんなからのプレゼントだよ」

 

と、ネコのスポーツタオルとお祝いのメッセージが書かれたカードを見せてくれた。

 

パーティー会場は例のごとく水瀬家で行うこととなる、一秒で了承を得られたことはいうまでもない。

 

23日の午前中、名雪がまだ寝てる間に秋子さんと二人で会場のセッティングをし、料理を作る。

 

お昼になり、香里と北川が到着・・・名雪も眠そうに二階から降りて来た。

 

誕生日会が始まる・・・俺を含めみんな猫関係のプレゼントだった。

 

そして、日も暮れ香里と北川も帰った・・・そう、ここまでは何事もなかったのだ。

 

夜22時、部屋で音楽を聞いてると、パジャマ姿の名雪が入ってきた。

 

手には、俺の上げた猫の絵柄の枕を持っていた。

 

何となくいいたいことは分かっていた。

 

そして、今に至る。

 

『祐一のくれた枕で祐一と寝たいだけだよ』

 

・・・はぁ、そんなこと言われて断れるやつなんているわけない。

 

隣で気持良さそうに寝る名雪・・・。

 

七年間俺を待ち続けていた少女。

 

聞けば、名雪は人気があり告白されることもしばしばあったらしい。

 

それを名雪は断り続けてきた。

 

『ごめんなさい』

 

誰か好きな男の子がいるのかと聞かれると、

 

『待っている男の子がいるの。だから・・・ごめんなさい』

 

俺がこの街に帰ってくる保証なんてなかったのに・・・。

 

終わり良ければ全て良しという安易な言葉は、今の俺の一番嫌いな言葉でもある。

 

最後が良ければ本当にそれでいいのだろうか。

 

七年という歳月・・・名雪は想い続けることで、俺は忘れることで過ごしてきた。

 

この七年という歳月の過程をなくして終わりが良ければなんていってはいけないんだ。

 

七年間も名雪に手紙を返すこともなく、この街のことを忘れ生きてきた。

 

この街に戻ってきたのも単なる偶然・・・。

 

俺は謝るだけではなく、償わなければならない・・・。

 

「ごめんな・・・名雪」

 

名雪の髪を撫でながらこんなことを呟く。

 

なんて・・・偽善・・・名雪が起きてる時に言わなければ意味がないのに。

 

「うにゅ・・・」

 

コロンと名雪が寝返りをうち俺にもたれかかる形になる。

 

全く・・・人が真剣に考えごとしてるというのに当の本人は・・・。

 

こんなこと名雪に話しても仕方がない、どうせ名雪は、

 

「いいんだよ、今祐一がここにいるだけで私はいいの」

 

こんなこと言うに違いない・・・だけどそれでは駄目なんだ。

 

時間は23時58分・・・もうすぐ名雪の誕生日が過ぎ去る。

 

「名雪・・・改めて誕生日おめでとう。それと、明日は二人で・・・どっか行こうな」

 

よし、考えごと終了、明日の為にもう寝ないとな、名雪が起きてくれるか心配だが。

 

普段より半分狭く、普段より2倍暖かい布団に身を包まれて眠ることにした。

 

・・・名雪の手に自分の手を重ねて。

 

 

 



「にゅ・・・お手洗い・・・」

 

フラフラ・・・。

 

ゴチッ

 

「・・・にゅ」

 

フラフラフラ・・・。

 

ゴン

 

「・・・いたい」

 

・・・だんだんと目が覚めてくる。

 

おかしいな、いつもなら寝ぼけててもちゃんとドアノブ回せるのに。

 

しかし、目の前にあるのはドアではなく壁だった。

 

周りを見渡して見る・・・ここは私の部屋じゃない。

 

「あれ・・・ここ何処?」

 

あっ、ここ祐一の部屋!?

 

でも、どうして・・・

 

「そっか・・・」

 

私が一緒に寝てほしいって頼んだんだよね。

 

・・・寒い。

 

布団の外にいるからだね、半纏も羽織ってないし。

 

早くお手洗いに行ってこよう。

 

 

 



パタン

 

う〜寒い、早く布団に戻ろう。

 

布団の中はいつもより、ずっと暖かかった。

 

そうだよね、ケロピーは抱きしめると暖かいけど布団はあっためてくれないもんね。

 

布団にはけろぴーじゃなくて祐一がいる。

 

祐一と一緒に寝るのって、七年前・・・ううん、もうちょっと前だね。

 

あの頃の私は、何かあるとすぐにお母さんの所で寝ていた。

 

丁度あの時も、風が凄く強くて怖くて眠れなくて、お母さんの所に行こうとしていた時だった。

 

ドアを開けると、祐一が階段を上がってきたんだっけ。

 

まだ、“祐一”“名雪”なんて呼びあってなかった時だよね。

 

「あれ、名雪ちゃんどうしたの?」

 

「お母さんの所で寝るの」

 

「何で?」

 

「怖いから」

 

「そっか・・・じゃあ僕と寝る?」

 

「えっ・・・」

 

「ほら、寝てる人起こすのあれだし、僕今丁度起きてるから」

 

「いいの?」

 

「うん、名雪ちゃんさえ良ければ」

 

「ありがとう」

 

これが初めて祐一と一緒に寝た時・・・。

 

それから祐一がいる時は何かあると一緒に寝ることにしていた。

 

でも、七年前を最後に祐一はこの街に来なくなってしまった。

 

ずっと泣いている私にお母さんがけろぴーをくれた。

 

けろぴーは祐一の分身なんだよ。

 

そう思うことで少しだけ気持ちがはれた。

 

部屋がたくさんのネコさんのグッズの中でけろぴーがいるのはそれが理由なんだよ。

 

だから、本物のかえるさんは駄目だけどけろぴーだけは特別なの。

 

これは・・・私とけろぴーだけの秘密・・・。

 

けろぴーは何でも知っている・・・二人でたくさんの話しをしたから。

 

誕生日の日・・・普段とは違う特別の日。

 

理由は何でも良かった、ただ何かきっかけがあれば・・・。

 

けろぴーの前で何回も練習したよね。

 

「一緒に寝てくれる?」

 

この一言を何回も。

 

一緒に寝たからって・・・昔を思い出しちゃうだけなのにね。

 

あはは・・・何考えてるんだろうね、過去は振りかえらないって決めたのに。

 

前を向いて、いつか祐一が帰ってくるって信じて今まで過ごしたんだもんね。

 

私が願いが通じたどうかは分からないけど、祐一は帰ってきたもん。

 

大丈夫・・・これからも大丈夫だよね。

 

「祐一・・・お休み、明日・・・もう今日になっちゃったけど、もし良かったら一緒にどこか行きたいな・・・」

 

・・・祐一の手に自分の手を重ねて。

 

 

 



ちゅんちゅんちゅん

 

・・・ん、朝か!?

 

「・・・ん」

 

「おはよう祐一」

 

何で名雪が俺より先に起きてるんだ。

 

「・・・これは夢だな」

 

「夢じゃないよ、祐一ひどいよ」

 

・・・夢じゃない・・・のか。

 

手を伸ばし名雪のほっぺをつまみ引っ張ってみる。

 

「・・・ゆうひち、ひひゃいよ」

 

「夢じゃないのか」

 

「夢じゃないよ」

 

「どっちでもいいや、おやすみ」

 

「よくないよ、祐一起きてよ」

 

「・・・・・・」

 

「起きてよぉ」

 

ゆっさ・・・ゆっさ・・・

 

「・・・・・・」

 

「ねぇ、起きて」

 

ゆっさ・・・ゆっさ・・・ゆっさ・・・

 

「・・・・・・」

 

「起きてよぉ、祐一」

 

「・・・どうだ、俺の苦労が分かるか」

 

「苦労って、祐一は起きてるよ。私のは起きたくても起きられないんだもん」

 

「そうだな、悪い・・・でも・・・」

 

「でも・・・何?」

 

「もう少し・・・こうしててもいいかなって思って」

 

「・・・えぇ!」

 

「何でそんなに恥ずかしがってるんだ。お前から一緒に寝ようって言ったのに」

 

「それは、そうだけど・・・でも・・・」

 

「それに・・・」

 

昨日考えていたことを思い出しながら・・・。

 

「それに・・・何?」

 

「もう、けろぴーのかわりじゃなくて、今ここに俺がいるから。いつでも・・・いるから」

 

「祐一・・・もしかして・・・起きてたの」

 

「当たり前だろ、布団ガサゴソやって壁に何回も音立てられたらな」

 

「え・・・え・・・じゃあ、あの・・・」

 

「なんか、ぶつぶつ言ってたのも聞こえたよ」

 

「私、口にだしちゃってたんだ」

 

「ごめん、けろぴーってそんな存在だったんだな、全然気付かなかった」

 

「うん、私とけろぴーだけの秘密だったから」

 

「名雪は偉いよな・・・昔そんなことあったのに、ちゃんと前向いていつも過ごして」

 

「・・・・・・」

 

「俺は、名雪みたくは生きられない・・・過去は過去でちゃんと受け止めなくちゃって思ってる」

 

「・・・祐一」

 

「それがあるからこそ、今の俺があるんだなって思うことにしてるから」

 

「祐一・・・私は・・・」

 

俺は手で、名雪がしゃべるのを制し、

 

「ただ、何が正しいのかなんてのはわからないけど・・・」

 

「ただ、今は・・・名雪とちゃんと向き合いたいなって思ってる」

 

それだけ言い終え名雪の答えを待つ・・・。

 

「うん、私も出来ることからやろうって思うよ」

 

「そうか」

 

「じゃあ、早速・・・祐一、お願いがあるんだけどいいかな?」

 

「まぁ、俺に出来ることなら・・・」

 

「うん、出来る・・・すぐ出来るよ・・・あのね・・・」

 

名雪は顔を少し赤らめながら、

 

「あのね、ぎゅってしてくれないかな」

 

手で身体を抱え込む仕草をする。

 

「あぁ・・・」

 

手を回し、名雪を抱きしめる・・・。

 

「祐一・・・あったかいよ」

 

「あぁ・・・」

 

「さっきからそればっかりだね」

 

「あぁ・・・」

 

「じゃあ、もう1つお願いしていい?」

 

「あぁ・・・」

 

「イチゴサンデーたっくさん食べたい」

 

「あぁ・・・」

 

「祐一のおごりで」

 

「あぁ・・・ん!?」

 

「やった、はやくいこ・・・百花屋」

 

「ちょっと待て。俺はOKしてな・・・」

 

「あぁ・・・っていったもん」

 

「あれは・・・余韻にひたって・・・ふぅ・・・」

 

まぁいいか。

 

・・・・・・。

 

過去を振り返ることも大事だけど・・・やっぱり前向いていくことも大事・・・だよな。

 

・・・さて、行くか・・・金・・・足りるかな。

 

昨日のプレゼントの枕・・・あれはあれで結構金かかってるんだが。

 

「祐一、遅いよ〜」

 

「こら、腕を組むな」

 

「いいでしょ、私の誕生日なんだから」

 

「それは、昨日だろ」

 

「一日くらい、おまけしても罰は当たらないよ」

 

「罰とかそういう問題じゃないだろ」

 

「い〜の」

 

・・・いっか。

 

「よし、じゃいこっか」

 

「うん」

 



 

 

 

これから名雪と歩む道・・・


多分、踏み外すことはあると思うけど・・・


もう、一人じゃないから・・・


互いに支えあっていけると思うから・・・


もう・・・大丈夫だから・・・


名雪と・・・一緒だから・・・


もう過去は思い出に・・・しまってもいいよな・・・

 

 

 




FIN

 

 

あとがき

一番最後の文章とかは・・・ちょっとゲームのKANONのやり方などを・・・。誕生日SSを書こうと書いていて、何故かシリアスモードに・・・今回のコンセプトは誕生日SSですけど、誕生日をあまり気にしない方向で書こうと思ったら、こんな風になってしまいました。過去を引きずる祐一、過去を振り返らないよう努力する名雪という、設定だったのですが・・・微妙ですね、すいません。私は基本的に祐一タイプの人間です。過去があるから、それを過ごしてきたから今の自分があるのかなぁと思うようにしています。皆様はどうでしょうか。

 

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