枷(第五話)

 

 

「俺の方も最初秋葉ってことが分からなかったし・・・そもそもこの屋敷のことを覚えているだけで、は何も覚えてなかったから・・・」

 

・・・・・・。

 

「そう・・・ですか」

 

そういえば、俺と秋葉が普通に話せるようになったのっていつごろだったんだろう。

 

少なくとも俺が屋敷に帰ってきた時は普通には離せなかった気がする。

 

やっぱり・・・あの日なんだろうか。

 

弓塚を・・・消してしまったあの日。

 

そして、俺の帰りをずっと待っていた秋葉・・・。

 

あの時から俺は弓塚に救われていたのか。

 

「兄さん・・・どうしました?」

 

「いや、俺と秋葉がさ、普通に話せるようになったのっていつくらいだったかなって・・・」

 

「私は最初、兄さんが帰ってきた時以外はもう普通に話していたと思いましたけど・・・」

 

「そうか? じゃあ聞くけど、俺の中でいまだ消えない痛々しい言葉がいくつかあるんだけど・・・あれも普通だったのか?」

 

「痛々しいって・・・私は兄さんにそんな言葉を発した覚えはありません」

 

「・・・あれは秋葉にとっては普通だったのか」

 

・・・そうは思えないんだが。

 

「でも、秋葉が別に何も思ってよかった。はじめは秋葉に嫌われているというか絶対に快く思ってなかったと思っていたから。何で呼び戻したのかなってずっと考えてた」

 

「兄さん・・・私はそんなこと・・・」

 

「いや、こっちが勝手に思っていただけだからそれでいい・・・」

 

・・・・・・・・・。

 

「さっきもいいましたけど・・・」

 

「兄さんが帰ってきてくれるか・・・正直不安でした。でも、帰ってきてくれて、今もこうやって暮らしていて・・・」

 

秋葉はそこまで言うと、俯いていた顔を上げて・・・。

 

「嬉しいんですよ」

 

満面の笑みをうかべた。

 

「そっか・・・」

 

これと似たような笑顔をどこかで・・・。

 

・・・そうだ。

 

これは弓塚のあの笑顔と同じ・・・。

 

自分のことをわかってくれてその上での微笑み。

 

そうか・・・そういうことだったんだ。

 

何で弓塚は笑ってくれたのか・・・自分の考えてようやくわかることが出来た。

 

あの時は・・・どんな恨み言をいいと言われてもいいって思っていた。

 

何を言われても結果は変わらないからと・・・そう思っていた。

 

でも、恨み言を言われて別れていたら、俺は別の意味で一生後悔していたかもしれない。

 

やっと・・・わかった・・・。

 

シエル先輩が言っていた弓塚の笑顔の意味、そして向かいあうことが出来た気持ちが・・・。

 

あの時弓塚は俺の奥底に棲んでいるもう1人の自分を見抜いていて・・・それで・・・。

 

多分、弓塚もあの時わかっていたのかも知れないな。

 

自分が救いを求めていて、そのためには消してもらうしかないってこと。

 

君は・・・わかっていたんだ。

 

今の秋葉の笑顔・・・そして弓塚の笑顔・・・シエル先輩の言うように自分が幸せだからというのもあったのかもしれない。

 

でも、それだけじゃない、それだけじゃあんな笑顔できない。

 

自分も幸せで、相手にもこれから幸せになってほしいからあの笑顔が出来るんだ。

 

今秋葉の笑顔を見て、そう理解することが出来た。

 

「ありがとう」

 

「え・・・なんですかいきなり」

 

感謝の気持ちをこめて秋葉に言う・・・勿論、弓塚にも・・・同じことを思いながら。

 

「俺はたくさんの人から助けられているなって思ったから。勿論、秋葉もだぞ」

 

「・・・わ・・・私はそんな・・・」

 

秋葉は照れてうつむいてしまう・・・。

 

・・・なんかかわいいな。

 

そんな秋葉を見て、頭を撫でたいという衝動にかられる。

 

「秋葉」

 

「何ですか」

 

秋葉の隣に座り頭を撫でる。

 

「な・・・何するんですか、兄さん!!」

 

「いや、何となく」

 

「何となくで人の頭を撫でないで下さい」

 

予期せぬことをされたのか、いつもの秋葉とは思えない動揺ぶりだ。

 

「秋葉の髪の毛ってさらさらだな」

 

「だから・・・その・・・」

 

口ではこう言っているがどうも嫌がっているようには見えない。

 

「昔もよくこうやってたよな・・・」

 

昔の秋葉は人見知りというか大人しかったから。

 

「そう・・・ですね。でも、今の兄さんの手はとても大きくて温かいです」

 

慣れたのか、秋葉は顔を赤らめながらも文句を言わなくなった。

 

「いつもそうやっていれば、かわいいのにな」

 

「じゃあ、いつもの私はかわいくないと・・・そういうことですね」

 

秋葉の肩に少し力が入った・・・気がする、まずい失言だったか。

 

「そうでしょうね、いつもの私は兄さんにとっては口うるさいだけのかわいくない妹ですから」

 

「い・・・いや、そんなことは」

 

・・・あるのか。

 

「いつもの秋葉もかわいいというか、その・・・」

 

やばい、言葉が見つからない・・・。

 

「そ、それじゃ俺はそろそろ部屋に戻るな」

 

何となく、居心地が悪くなって立ち上がる。

 

「えぇ・・・どうぞ」

 

秋葉はそっぽを向いたままそっけない言葉を返す。

 

やれやれ・・・。

 

ドアの所まで来て、ふと立ち止まる。

 

・・・・・・・・・。

 

やっぱりこれだけは言っておかないと。

 

「秋葉」

 

「・・・・・・何ですか」

 

やはり怒ったままか、まぁいいか。

 

「ありがとな」

 

「え・・・」

 

・・・驚きながらこちらを向く。

 

「いや、これだけはもう一度言っておきたかったら・・・本当に感謝してる」

 

これで、本当に終止符を打つことが出来たから。

 

そして、心の引き出しの1つに・・・しまうことが出来たから。

 

「それだけだから・・・じゃ、おやすみ」

 

「はい・・・お休みなさい・・・兄さん」

 

パタン

 

・・・・・・ありがとな、秋葉。

 

それから・・・弓塚、やっと・・・君の言った言葉、笑顔が理解できたよ。

 

かなり時間はかかってしまったけど、やっと・・・。

 

また・・・明日会いに行くよ、今度は笑顔で会いにいけるから。

 

 

 

 

END

 

 

 

 

あとがき

予定と随分異なってしまいましたが、終了することが出来ました。最後の部分、どうやって締めていいものか相当に悩みました。結局弓塚さつきという人物は戻ってこないわけで、そのことに志貴自身がどう見切りをつけていいかとか、悩みました。しかも秋葉といい感じになってしまい何でこんな展開に!?と私自身びっくりしていたり・・・。シエル先輩とかいろいろな人と話していて結局話してる一緒じゃないかとかあると思いますけど、その人にはその人なりの過去の経験があって、いろいろな話を聞くことにより、志貴が答えを導きだしたというということで、だから琥珀さん、シエル先輩、秋葉の話をどれも削れないと私自身は思っています。ではまた次の作品でお会いしましょう。

 

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