仮装パーティー(第三話)
「これで料理は全部並べ終わったよな」
「はい、今ケーキを焼いていますけど食べ終わる頃に焼けると思うので、そのあとトッピングをして完成です」
テーブルの上には俺が作ったチャーハン、澪の作ったシチュー、柚木の作ったサンドイッチ・・・。
ここまでは何ら平凡な料理なのだが、茜の作った料理の数々はパーティーという場に出される料理にふさわしいものだった。
「いや〜、みんな頑張ったよね」
柚木が並べられた料理を見回しながら言う。
「お前は何もしてないだろうが」
「失礼ね、飾り付け頑張ったじゃない」
「あれはお前が勝手に・・・」
「浩平・・・」
「何だ、茜」
「料理が冷めてしまいますよ。それに澪が料理を食べたがっています」
「・・・・・・」
澪が"ほえ〜"という感じで料理を見ていた。
「そうだな、冷めないうちに食べるとするか」
「はい」
「飲み物は・・・どうする?いきなりアルコールからはいるのもどうかと思うんだが」
「あっ、私シャンパン買ってきたんだ。度数もかなり低めだし大丈夫だと思うんだけど」
「よし、それで乾杯しよう」
さっそく、グラスを持ってきて注ぐ。
「じゃあ、僭越ながら俺が乾杯の音頭を・・・メリークリスマス!! 乾杯!!」
「「かーんぱーい」」
『乾杯なの』
チン・・・チン・・・
早速、茜の作った料理を口に運ぶ。
・・・美味い。
「10点だ」
「何点満点ですか?」
「勿論10点だぞ」
「ありがとうございます」
・・・ぐいぐい。
澪が俺の腕を引っ張る。
『あのね』
『食べてほしいの』
「あぁ、いいぞ。俺が採点してやろう」
「・・・・・・」
うんっ。
『ドキドキなの』
シチューをスプーンですくい口に運ぶ。
うん、なかなかいける。
「美味いぞ澪・・・そうだな10点満点中7点ってところかな」
「・・・・・・」
うんっ、うんっ。
『嬉しいの』
だが、1つ疑問がある。
「澪、このシチュー確かに美味いんだが、何でこんなに人参があるんだ?」
シチューの中は大概人参であり、スプーンですくえば必ず人参が入ってるというくらいたくさんの人参があった。
別に嫌いじゃないがこうも人参が多いと・・・。
『あのね』
『人参大好きなの』
・・・納得いく答えだ。
「こんなに1つの野菜ばかりあると、その・・・」
駄目だ言葉が見つからん、それに料理が上手いやつがいわないと説得力がない。
「茜、タッチ」
「はい、1つの材料が多いと味が偏ってしまう場合があるんです。次からは気をつけましょうね」
『わかったの』
柚木はというと・・・さっきからパクパクと料理を食いまくっている。
しかも、茜の料理ばかり・・・。
・・・負けるか。
茜と澪は互いに料理の感想を言いながら食べているが俺はそうはいかないぞ、柚木。
朝から茜に起こされて料理を手伝わされることになったんだ。
俺は食う、ひたすら茜の料理を食べてやる。
それから、かなりの間俺と柚木は無言で食べていた。
茜の料理がなくなったところで、
「ふぅ・・・お腹一杯」
「何か、手付かずの料理が残っているな」
それは、柚木の作ったハムとツナのサンドイッチなのだが何故残ったかはあえて考えまい。
「あぁ、いいよ。明日の朝にでも折原君が食べなよ」
・・・それは、まずい。
ほとんど誰も手をつけなかったサンドイッチ・・・これはやばい気がする。
「お前・・・味見したか?」
「え・・・そ、そりゃーしたわよ」
・・・してないな。
「ちゃんと食べられるんだろうな」
「大丈夫よ・・・最初の方は」
「おい、最初の方って何だ?」
「だから、最初の方は茜に教わったとおりに作ってたんだけど、そのうち材料切れちゃって・・・その後はあたしが適当に見繕って作ったのがあるの」
「・・・おい」
「大丈夫だってば。食べられるものから作ってるんだし。たとえまずくても死にゃしないわよ」
そういう問題じゃないだろう。
「なら、お前食べてみろよ」
「え・・・あたしは、もうお腹一杯だし。そうだ、澪ちゃん食べる?」
「・・・・・・」
うんっ、うんっ。
澪は何の躊躇もせずにサンドイッチを口にする。
・・・澪の動きが止まり・・・みるみるうちに涙目に変わっていく。
「澪・・・水飲め」
急いで、コップに水を注ぎ澪に手渡す。
それを一気に飲み、ほっとする澪。
「大丈夫か澪?」
「・・・・・・」
う・・・ん。
「おい、全然大丈夫じゃなかったんだが」
「あっれーおかしいな、そんなはずないんだけど」
「お前が切らしたものって何だ?」
とりあえず、聞いてみる。
代わりのものは間違いなく辛いものに間違いないだろう。
「えっとねー、パンの内側に塗るものだから・・・マーガリンかな」
「それで、代わりに使ったものは?」
次の言葉はほとんど分かっているが。
「辛しだったかな」
やっぱりな。
「茜、何とかならないか?」
「内側の辛しをヘラか何かで取れば少しは食べられると思います」
そうか・・・何とかなるなら貴重な食料源になりうるな。
「わかった、とりあえず貰っておく」
「うん、よろしくね」
何となく残飯処理を任された気もするがいいだろう。
チーン
「ケーキが焼けたみたいだな」
「最後のトッピングをします。澪、手伝ってください」
「・・・・・・」
うんっ、うんっ。
「その間にアルコール類出しとくな」
「あっ、あたしも手伝うよ。行きがけに買ってきたの出すね」
柚木がリビングの方にやってくる。
「こっちのテーブルで飲んだり食べたりした方がいいよね。ツリーもよく見えるし」
お前にはあれがツリーに見えるのか。
「ねぇ・・・折原君・・・」
ス―パーの袋から飲み物を出しながら、声をかけてきた。
あきらかにいつもと違う雰囲気で・・・。
「その・・・ありがとう」
いきなり何を言うんだ、柚木に何かした覚えなんかないんだが。
「いや、お前に感謝される覚えなんてないぞ」
「ううん、私のことじゃなくて・・・」
柚木はかぶりを振って・・・。
「茜のこと・・・」
「・・・・・・」
すぐに、あぁとは返事が出来なかった。
柚木がこんなこと言うなんて思いもよらなかった。
「茜が笑顔を見せなくなったのは2回・・・その2回とも私は何もできなかった」
「1回目はまだ、折原君とは会ってなかった頃・・・茜に司という人のことを聞かれた・・・でも、私はそんな人知らなくて・・・」
司・・・茜と柚木の幼なじみだな。
「司って誰って・・・茜のクラスメイトなのって聞いたの。そしたら茜はそうって言ったきり何も言わなかった」
司というやつがあの世界に行ってしまったからだな・・・よほどの思いがない限りその存在すら忘れてしまう。
「何とか元気になってもらいたくて、電話したりしてたんだけどね」
柚木にとっては茜が何を言っているのかも分からなかったのだろう。
「それで、直接会おうと思って茜の学校に行ったら折原君に会ったってわけ」
そうか・・・最初は何しに来てるのか意味不明だったからな。
「あの時は驚いたよ。少しだけど茜が嬉しそうに話しているのがわかったから」
そいうえば、南にも同じこと言われた気がする。
「これで、大丈夫だなって思った・・・でも・・・」
今度は俺がみんなに忘れられた時だ・・・。
約一年間この世界において折原浩平という存在が消えていた。
今はこうして存在しているが、柚木にとってはただいなくなった・・・という認識しかないだろう。
「結局さ、私は何も出来なかったんだよね。幼なじみなのに・・・」
「そんなことはない・・・柚木が茜にとった行動は決して無駄なんかじゃないさ」
しょうがなかった・・・元を辿ればこの世界に絶望して、この世界に存在することを拒否した俺が原因なんだから。
「うん・・・でもやっぱり茜に笑顔を取り戻してくれたのは折原君のおかげだから・・・何かお礼が言いたくて」
「そうか」
「うん・・・」
柚木はしばらく俯いていたがやがて顔を上げた・・・。
「あはは、やっぱり今のなし・・・忘れて。こんなの私の柄じゃないよね」
「いや、そんなことは・・・あるな」
「何よそれ。そこはそんなことないっていうのが普通でしょ」
「いや、どう考えても柄じゃないからな」
「全くあんたはいつも失礼よね」
柚木はすっかり元に戻っていた・・・大丈夫だ、ちゃんとお礼の言葉は受け取ったから。
柚木もそれがわかったからいつものように振舞うことにしたんだろう。
「はいはい、さっさと飲み物出すぞ」
「ふん、こうなったらあんたのこと潰してやるんだから」
どんどん袋の中からアルコール類を出していく。
「ちょっと待て、こんなに買ってきたのか」
しかも数だけじゃなく、種類もたくさんある・・・しかもやたらとアルコール度の高いものまである・・・。
「そうよ、一度でも茜の酔った姿見たくてね」
それは、俺も見てみたいな。
「よし、ここは共同作戦といかないか。2人がかりでかかれば流石の茜も酔っ払うと思うんだが」
「あっ、それいいね」
2人で含み笑いをする・・・。
「何2人で変な笑い方してるんですか?」
「・・・え」
振り向くと、ケーキを持った茜がいた。
「いつからそこに?」
「今です、ケーキが出来たから」
「そっか、じゃあ食べるか」
茜は何だか煮え切らない表情をしながらも、
「はい」
と答えた。
「しかし、この統制のとれていないアルコールは何なんだ」
並べられたのはビール、カクテル、サワー、日本酒、ウイスキー、ウォッカ、ワイン、焼酎・・・。
日本酒や焼酎なんかは住井達と飲んでるから平気だがウイスキーやウォッカなんか飲めないぞ。
「人それぞれ好みがあるんだからいいじゃない、さぁ飲もっか」
とくとくと自分のグラスに焼酎を注ぐ柚木・・・。
ケーキに焼酎って合うのか・・・この中だったらワインかサワーだろうに。
「・・・・・・」
澪はキョロキョロと何を飲むか悩んでいるようだった。
「澪、最初はサワーとかの方がいいんじゃないか?」
「・・・・・・」
うんっ。
「茜はどうする・・・このなかなら日本・・・」
「ワインがいいです」
「酒がいいんじゃないか・・・って、ワイン?」
「はい」
「日本酒は?」
「・・・嫌です」
「いいか、日本酒というのは日本人として・・・」
「・・・嫌です」
・・・しゃべらせてもくれない。
「わかった」
仕方なく茜のグラスにワインを注ぐ。
俺は・・・そうだな、最初だし軽めにサワーにしとくか。
「みんな注いだよね。じゃあ、二回目だけど・・・かんぱーい!!」
「「乾杯」」
『乾杯なの』
・・・チン・・・チン
この後は・・・予想通りだった。
乾杯で焼酎を一気飲みした柚木はそのまま馬鹿みたいに飲み続けケーキをほとんど食うことなく撃沈・・・。
澪はケーキの感想を言ったり、作り方などを茜にレクチャーしてもらっていたのだが、次第にアルコールが効いてきたのか、そのままソファで丸くなり寝てしまった。
残されたのは俺と茜だけ・・・。
俺はそれなりにアルコールを抑えて飲んでいたが、それでもかなり酔いが回っている。
茜は並べられたアルコールの種類を一通り飲み、今もワインを飲み続けているのだが全然酔ったふうには見えない。
・・・何て強さだ。
多分2人がかりで挑んでも潰されたことだろう。
ケーキをひょいっと口にする・・・うっ、だんだん味がわからなくなってきた。
少し酔いを覚ますか。
「茜・・・庭に出ないか」
「嫌です」
「少しでいいから。このペースで飲んでたら俺まで潰れちまうよ」
「この格好で外に出るのは嫌です」
「この時間じゃ誰も通らないって」
「わかりました・・・でも少しだけです」
「わかってる、少し酔いを覚ますだけだから」
「はい」
窓を開け、庭に出る・・・冷たい夜風が火照った顔にあたり気持ちいい。
「ケーキ・・・美味かったな」
「ありがとうございます、今日のは自信作でした」
「このまま料理人っていうのも悪くないんじゃないか」
「あくまでも趣味です、料理は」
「そうだったな」
・・・・・・・・・。
・・・言葉が途切れる。
茜は何かを考え込んでいる様子だったが・・・。
「私のせいで、詩子にたくさん迷惑をかけてしまっていたんですね」
こんなことを口にした。
「茜・・・俺と柚木の会話、聞こえていたのか」
「はい、聞くつもりはなかったんですが私の名前が聞こえたので」
「そうか」
別に聞かれちゃまずい話でもないからな。
「別にいいんじゃないか」
「どうしてですか」
「友達だからこそ、心配とかもすると思う・・・それが幼なじみならなおさらだ。茜だって柚木に何かあったら何とかしてやりたいって思うだろ?」
「はい」
「そういうことだよ。それに、あれはどうしようもなかった・・・それだけだ」
「だが・・・俺は戻ってきた、この世界に。それは、俺の茜への思いが・・・過去の盟約に勝ったからだ」
「過去の・・・盟約?」
「みさおが死んで他に家族と呼べるものがいなくなり、この世界を拒絶して、あの世界に旅立つことを約束したんだ」
幼き頃の・・・あいつと。
「司と・・・同じ」
「あぁ、だが俺は今ここにいる。だからといってみさおのことを忘れたわけじゃない・・・あいつは俺にとってかけがえのない妹だったから」
「でも、今は茜と同じ・・・みさおはここにいるから」
自分の胸をおさえる。
「今は誰よりも・・・茜と一緒にいたいから」
「私も・・・です」
俺は、茜の方に手をのせ・・・そっと顔を近づけていく・・・。
「浩平、嫌です」
「何で?」
「後ろを見てください」
言われるままに後ろを見てみる・・・。
窓に張りつかんばかりの勢いで顔を近づけている柚木と澪がいた。
・・・ってなんで起きてるんだこの2人?
「あ・・・あはははは、見つかっちゃった。まっいっか、ささ・・・私達のことは気にせずに」
『今度も黙ってて上げるの』
馬鹿!!澪・・・。
「浩平・・・」
「は・・・はい」
「今度って何?」
「うーん、なんだろな」
ここは、絶対黙秘だ。
「澪、今度って何?」
『あのね』
『言えないの』
ペコリと頭を下げる。
パフェを奢っただけのことはある、大した忠誠度だ。
「澪、今度澪の好きなもの作ってあげます」
「・・・・・・」
うんっ、うんっ。
『あのね』
・
・
・
・
所詮食べ物の忠誠度なんてたかが知れてる。
この後の展開は推して知るべし・・・。
次の日、大量のワッフルを買っている俺がいた・・・。
FIN
あとがき
疲れた・・・今思えば一度に書いてしまえばよかったと思っています。何故か区切ってしまうと次書こうとするまでやたらと時間がかかってしまって・・・。今回一番悩んだのが柚木と浩平のシリアスな会話のところです。約一年間浩平はこの世界にはいなかったわけですけど、その間普通の人達に世界において浩平の存在はありません。しかし、帰ってきてからはどうなのでしょう・・・。ここをどうするか一番悩みましたね。一応参考にさせてもらったのが、「ONE〜輝く季節へ〜」本編における瑞佳のエンディングのところです。浩平が戻ってきた時に、クラスメイトが、「おっ、どうしてたんだ、久しぶりだなぁ」 「病気でもしてたのか?」と言う場面があります。この場面から考えてヒロイン以外の人はしばらくの間どこかへ行っていたという認識なんだなと私なりに解釈しました。ふぅ・・・何はともあれ、完成してよかった。やはり私は短編の方が向いているようです(得意というわけではありません・・・決して!!)。理由は・・・飽きっぽいからでしょうか、それと長くすると途中から話の道筋がずれる傾向があるようです。ではまた次回作でお会いしましょう。
SSのコーナーへ