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風にのせて

 

 

「おい、名雪。何やってんだよ、こんな日まで遅刻する気か?」

 

今日は、3月23日・・・卒業式だ。

 

はれて俺たちは高校を卒業し、新しい道を進む。

 

人生の中で高校生活という1つの舞台を締めくくる大事な日だというのにあいつときたら・・・。

 

「ごめん祐一・・・お待たせ・・・」

 

「ったく、いつまでかかっている・・・んだ」

 

いつもと違う格好に少し驚いてしまう。

 

「あはは・・・どうかな」

 

「まぁ、馬子にも衣装だな」

 

「もう、絶対言うと思ったよ」

 

・・・じゃあ聞くなよ。

 

「ほら、時間ないからさっさと行くぞ」

 

「でも、朝ごはん」

 

この期に及んで食う気なのか。

 

「んなこと言ったって、時間ないぞ。卒業式に走るのだけは嫌だからな」

 

「でも、お腹なったら恥ずかしいよ」

 

それは確かに・・・。

 

「じゃあ、走るのか」

 

「うん、走るのは大好きだよ」

 

はぁ、名雪に走るということは苦じゃなかった。

 

「もういい、わかった。なるべく早くしろよ」

 

「うん」

 

・・・結局走ることになるのか。

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・着いたか」

 

「うん、到着」

 

結局、最後の最後まで走ることになったわけか。

 

「あなた達、こんな日まで走ってくるなんて・・・まぁあなた達らしいと言えばらしいけど」

 

「香里、おはよう」

 

「おはよう、名雪」

 

「それは名雪だけだ、一緒にしないでくれ。俺は早くに起きたんだ」

 

「だから、いつもと一緒ってことでしょ」

 

「まぁ、そうだな」

 

納得してしまう。

 

「あ〜、なんか二人とも酷いこと言ってる」

 

「事実だろ」

 

「名雪はイベントとかはあまり関係なく遅刻するのよね」

 

「う〜、そんなことないよ。大事なイベントの日とかはちゃんと起きるよ」

 

それは絶対に嘘だ。

 

「そうかしら。じゃあ去年の文化祭や体育祭は?」

 

「それは偶然だよ」

 

「確か部活の大会も時間ぎりぎりだったよな」

 

「ほら、いつも通りじゃない」

 

「う〜」

 

「おい、何やってるんだ。そろそろ始まるぞ!!」

 

声のした方向を見ると北川が手を振りながら呼んでいた。

 

「行くか」

 

「そうね」

 

「う〜う〜」

 

最後まで名雪は唸っていた。

 

体育館に入るともうほとんど人がいた・・・遅刻寸前だったから当たり前なのだが。

 

「お前卒業式まで遅刻する気か」

 

香里と同じことを言われる。

 

「それは名雪に言ってくれ」

 

「まぁ間に合ったんならいいけどな。座ろうぜ」

 

・・・・・・時計の針が10時を指し卒業式が始まる。

 

卒業式・・・確かに1つの区切りで大切な行事だとは思うのだが、なんとも退屈だ。

 

退屈だがその場の雰囲気に慣れてくると、1つの区切りというものを明確に感じさせ、やはり感慨深いものがある。

 

一年ちょっとしか通っていないとはいえ、こんな風に思えるのも結構思い出があるからなんだと思う。

 

そして・・・。

 

後一週間もすれば俺はこの地を離れなければならない・・・。

 

第一志望の大学に落ち、これから通う大学は水瀬家からでは少し遠く、1人暮らしを余儀なくされた。

 

名雪は一緒の大学に行けないことを残念がっていたが、

 

『何かあったらすぐ帰ってきてね。ここは祐一の家でもあるんだから』

 

『週末には帰ってきてちゃんとしたご飯食べないと身体こわしちゃうよ』

 

と、笑ってくれていた。

 

また離れてしまう寂しさを隠しきれないようではあったが、それでもそんな言葉をかけてもらえるのは嬉しかった。

 

だが、天野は違っていた・・・。

 

この地を離れ一人暮らしをすることを告げたとき・・・そうですかといわれて以来会っていない。

 

もう会えないというわけじゃないのに・・・。

 

名雪のような言葉を期待していたわけじゃないが、まさかあんな言葉を返されるとは思ってもみなかった。

 

そんなことを考えているといつのまにか卒業式は終了間際になっていた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、これで最後のHRを終わる。みんなそれぞれ新たな進路に向かって頑張って欲しい、以上」

 

そういって最後のHRを終えた・・・石橋は笑って送り出してくれた。

 

教室を見渡せば、泣いている女子も見られる。

 

「祐一、終わったね」

 

「そうだな」

 

「お前は泣いてないんだな。寂しくないのか?」

 

「私だって寂しいよ。今までのように会えるわけじゃないから。けど、もう二度と会えないわけじゃないから」

 

「そうだよな」

 

そう・・・確かにそうなのに、何故天野は・・・。

 

「じゃあ、みんなに挨拶してそれから・・・香里達が来るのは5時だよね」

 

「あぁ、あってるよ」

 

名雪と秋子さんの提案で5時から水瀬家で卒業パーティーと俺の送別会をしてくれることになっていた。

 

北川と名雪と香里、みんなそれぞれ近くの大学へ・・・ここを離れるのは俺だけだったから。

 

こういうのは柄じゃないが、折角やってくれるのを断る必要もなかった。

 

「祐一はそれまでどうするの?」

 

「俺か?適当に知り合いに挨拶して帰るよ。名雪は?」

 

「私はもう少し教室に残っているよ」

 

「そうか。じゃあ俺はもう行くよ」

 

「うん、後でね」

 

教室にいるやつらに適当に挨拶を交わし、俺は教室を後にした。

 

・・・・・・知り合いと挨拶を交わしながら学校を一回りしてから正門に来た時・・・見知った女の子が立っていた。

 

・・・天野だった。

 

「よ・・・よぉ」

 

「はい」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

しばらくあってなかったせいか、何か気まずい・・・。

 

「あの・・・相沢さん」

 

手にもっていた花束を差し出してくる。

 

「卒業おめでとうございます」

 

「ありがとう」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

再び・・・沈黙。

 

周りの人達は泣いたり笑ったりしていたが、ここだけは何か別世界のようだった。

 

「・・・あの、それでは」

 

天野が去ろうとする。

 

このまま天野を帰してしまってはいけない気がした。

 

何故かはわからない、しかし何か大切なものを失ってしまう・・・そんな気がした。

 

「天野!!」

 

とっさに声が出た。

 

「はい」

 

向きを振り替えず天野は立ち止まる。

 

「これから少し・・・時間あるか?」

 

「・・・はい」

 

・・・・・・。

 

俺と天野はものみの丘に向かっていた。

 

特に決めていたわけじゃない、ただ何となくだった。

 

だが天野も異論はなかったようだ。

 

歩いている間・・・俺達は無言だった。

 

「・・・着いたな」

 

季節はもう春・・・風が気持ちいい。

 

「天野・・・」

 

「はい」

 

「今日5時からさ、うちでパーティーやるんだけど天野も来てくれないか?」

 

「・・・・・・」

 

天野は表情を変えない。

 

「何か俺の送別会も兼ねてくれているみたいだし、参加してくれると嬉しい」

 

「・・・お断りします」

 

「そっか・・・」

 

「すいません」

 

「いや、別にいいよ」

 

「私には・・・資格がありませんから」

 

資格? 天野が何を言ってるのかわからない。

 

「私は気持ちよく相沢さんを送り出すことはできませんから」

 

「そう・・・なのか」

 

「はい。だから送別会に参加する資格がないんです」

 

「1つ聞いていいか?」

 

「はい」

 

「何で・・・そんな事言うんだ?何で気持ちよく送り出してくれないんだ?」

 

少なからず動揺していたせいか、口調が荒くなってしまう。

 

「・・・・・・」

 

「すまない、怒っているわけじゃないんだ」

 

「いえ・・・」

 

「理由を、聞かせてくれないか」

 

でないと・・・納得できない。

 

「相沢さんは向こうで生活を始めたらここのことは忘れてしまうのではないですか?」

 

「いや、そんなはずないだろ」

 

そんな寂しいこと・・・言わないでくれ。

 

「相沢さんは約一年ちょっと前にこちらに引っ越されてきたんですよね」

 

「あぁ、親の都合でな」

 

「前の友人の方々とは連絡を取り合っていたりしていなかったんですよね」

 

「・・・・・・」

 

そうか・・・。

 

「・・・あぁ」

 

以前、天野との話の中で前の学校の話をしたことがあった。

 

その時のことを言っているんだろう。

 

こっちでの生活が中心になり・・・ほとんど、いや全くといっていいほど前いたところの知り合いとは連絡を取っていなかった。

 

一度くらいはしようと思っていたのだが、時間が経つにしたがって・・・連絡する気もなくなっていた。

 

天野には話していないが連絡を取らなくなったのは一度じゃない。

 

子供の頃とはいえ、名雪から来ていた手紙に返事を返すこともしなかった。

 

確かに天野の言うとおりだ。

 

だが、俺はこの地のことを・・・天野のことを忘れられるはずがない。

 

しかし、言葉が見つからない。

 

『必ず連絡するから』

 

『待っていてほしい』

 

・・・違う。

 

こんな言葉・・・今の状態で意味をなすわけがない。

 

俺がちゃんと昔の友人と交流を続けていたのなら少しは意味があったのかもしれないけど。

 

「もう・・・嫌なんです」

 

「えっ・・・」

 

天野が・・・泣いていた。

 

「どうして・・・あの子も相沢さんも離れていってしまうんですか」

 

「どうして、また私を1人にしてしまうんですか」

 

「いや・・・でも、これは」

 

・・・仕方がない。

 

俺だってこの地を離れたくはなかった。

 

「ごめんなさい、わかっています。自分がどれだけおかしなことを言ってるか。どれだけ相沢さんに迷惑をかけているか」

 

「天野・・・俺は迷惑だなんて思ってない。それに、天野は1人なんかじゃない」

 

絶対に1人なんかじゃ・・・ない。

 

「お昼休みとかに見たよ。天野が同学年の友達と楽しそうにお弁当食べたりしてるのを・・・」

 

「あの笑顔は本物だと思ったし、前にはな・・・」

 

「違うんです!!」

 

言葉を遮られる・・・天野のこんな声を聞いたのは初めてかもしれない。

 

「それは相沢さんがいてくれたからです。相沢さんがいてくれたから私はあんな風になれたんです」

 

「相沢さんがいなくなってしまったら・・・私はまた1人になってしまいます」

 

「そんなことは・・・」

 

天野は首を振って、

 

「笑い方を・・・忘れてしまいます」

 

「こんなことなら、笑わない女のままでいたかったです。そうすれば・・・こんな思いを二度もしないで済みました」

 

「そんなことは・・・」

 

駄目だ、どうしても言葉が見つからない。

 

今まで、はっきりと天野を好きだと言ったことがなかった。

 

中途半端な関係が続いていた。

 

天野が俺に好意を持ってくれてることは分かっていたのに。

 

分かっているからという考えが・・・甘えが・・・ここまで天野を追い込んでしまったのかもしれない。

 

それともう1つ・・・。

 

自分の意識が天野にいくことによって、それまでの想いというものが全て嘘に感じられる気がして・・・。

 

俺の真琴への・・・想い。

 

俺から、歩みよってあげられなかった。

 

だが、もう迷わない・・・俺は目の前の少女が本当に・・・好きだから。

 

伝えなくちゃいけない。

 

しかし、俺はいつも天野に対してそっけない態度や冗談まじりの言葉が多かった。

 

今さら好きだといっても何か違う、それだけでは足りない。

 

何か・・・ないのか。

 

ふと・・・横を見ると狐の親子がこちらを見ていた。

 

近づいてもこないが逃げようともしない。

 

ただじっとこちらを・・・俺の方を見ていた。

 

・・・・・・・・・。

 

今思ったことは多分俺の勝手な思い込みなのだろう。

 

何となくあの狐の親子が俺に教えてくれた・・・改めて気付かせてくれた気がした。

 

「天野・・・」

 

「はい」

 

「俺が・・・ここのこと忘れられるわけないじゃないか」

 

「どうしてそんなことが言えるんですか」

 

「だって俺は・・・まだここで・・・」

 

狐の方を見ながら、

 

「・・・真琴の帰りを待っているから」

 

天野は一瞬びっくりした顔をしたがまたすぐに沈んだ顔になる。

 

「そう・・・ですよね。相沢さんは真琴の帰りを待っているんですよね」

 

「あぁ、伝えなくちゃいけないことがあるからな」

 

「伝えなくてはいけないこと・・・ですか」

 

「あぁ・・・それは、俺が天野美汐という少女に、恋をしているということを・・・伝えるために」

 

「勝手な言い草かもしれない・・・けど」

 

「俺は・・・天野、お前が好きだ」

 

これが今の俺の本当の気持ち。

 

「本当に、勝手ですね」

 

「真琴のことは・・・どうするんですか。戻ってきてそんなことを言うつもりなんですか」

 

「自分の想いに嘘をつきたくないだけだ。だからこそちゃんと伝える」

 

「それに、自分が本当に好きといえる女の子がこの地にいるんだ。尚更忘れられるわけない」

 

「・・・・・・」

 

「天野は俺がいたから笑えるようになったと言っていたけれど・・・俺も同じだから」

 

「天野がいなかったら俺は・・・」

 

事情を知らない名雪や秋子さんを敵意の眼差しで見つめていたかもしれない・・・。

 

「俺がそうならなかったのは天野・・・お前のおかげだよ」

 

お前がいてくれたから、普通でいることができた。

 

「天野の今の本当の気持ちを聞かせて欲しい」

 

「・・・・・・」

 

天野は俯いた黙ったままだ。

 

「天野・・・?」

 

「決まっています」

 

俯きながら答える。

 

「え・・・」

 

「私の答えは、始めから決まっています」

 

顔を上げて・・・。

 

「私も相沢さんのことが・・・好きです」

 

笑ってくれた。

 

 

 

 

 

 

俺と天野は草むらに座り・・・話をしていた。

 

今まで話せなかった分も含めて。

 

「私は結局真琴のことを裏切ってしまっているのでしょうか」

 

「さっきまであんなに頑なになっていたのに、今では・・・」

 

・・・天野、やっぱりそんな簡単に吹っ切れるわけないか。

 

「でも、私も自分の気持ちに嘘をつきたくないですから」

 

「ありがとう」

 

「はい」

 

これでやっと今まで意味をなさなかった言葉が意味をなすことができる。

 

「ちゃんと連絡するから」

 

「・・・はい」

 

「って言ってもさ、俺しばらく週末はこっちに帰ってきそうなんだよな」

 

「そうなんですか」

 

「あぁ、食事関係のことで名雪と秋子さんが異常に心配してさ・・・健康維持するためにも帰って来いってさ。そんなに心配なのか」

 

「そうですね、心配です」

 

あっさり、言われる。

 

「やっぱりそうなのか。そんな不精者ってわけでもないんだがな」

 

「みなさん心配してるんですよ」

 

「天野も・・・か?」

 

少し意地悪に聞いてみる。

 

「え・・・はい」

 

「そっか」

 

「はい・・・」

 

・・・・・・・・・。

 

「そろそろ行こうか」

 

「どこへですか?」

 

「俺の卒業祝いと送別会・・・祝ってくれるんだろ」

 

天野に向かって手をだす。

 

「・・・はい、勿論です」

 

俺の手をしっかりと握ってくれた。

 

歩き始めようとしたとき・・・後ろから強い風が、しかしどこか暖かい風が吹いてきた。

 

立ち止まり後ろを向くと、狐の親子が森の中へ帰っていくところだった。

 

「ありがとう」

 

「何か言いましたか」

 

「いや・・・行こうか」

 

「相沢さん・・・」

 

「何だ?」

 

「私も伝えます、真琴に。好きな人が出来ましたと・・・。真琴は私の大切なお友達ですから」

 

「あぁ、その時は肉まんをたくさん買っていこうな」

 

「はい・・・」

 

暖かい風を受けながら丘を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

もう一度・・・

 

 

 

 

 

 

真琴に・・・あの狐の親子に・・・

 

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

FIN

 

 

 

 

あとがき

これ書こうと思った最初の設定・・・卒業式を終えた祐一が美汐にいつでも連絡してくれ、いつでも向かえにいくからと連絡先を渡すとか何とか。そんなSSでした・・・。

↑何ですかねこれ・・・。捻りも何もない他愛のないSS。こんなものじゃ読んでくれた方に申し訳ないというか読むにも値しない。。ということでジャンルをシリアスに変えこんな話しにしてみました。序盤の部分、ヒロイン名雪と思われた方すいません。書いてる途中このまま名雪でいこうかなとも思ったんですけどね、当初の予定通りヒロイン美汐ということで。そして最後の場面、どうやって終わりにしようかと思いましたが結局はこんな形におさまりました。なにこれ!?真琴利用してるだけじゃないか!!と思われる方いらっしゃることでしょう・・・かなり。でも祐一が美汐とくっつくためには、これは避けられない問題かなと思っています。原作では結婚式まであげていますから。自分では時間がかかったぶんお気に入りの部類にはいったSSでもあります。KanonSSは約2カ月ぶりでしたので・・・しかもその前も美汐だった気が・・・。次はちゃんと私の好きなヒロイン名雪を書こうと思っています。では♪♪

 

後、これ一度書き直そうかなと思ったのですが、いろいろ考えた結果このままということで・・・出だしが悪いというのもあるんですが、あらすじ書いてしまうと私の策略がバレてしまうので♪♪ 結果このままということで。久しぶりのKanonSSですが、こんなもんかなと。では次のSSでお会いしましょう(何か終わり方が最近知得留先生風になってる気も・・・)。

 

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