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Rainy Day

 

 

 

「雨・・・ですか、今朝の天気予報では降らないと言っていたのですが」

 

見事に天気予報は外れ、空にはどんよりと厚い雲が広がっていました。

 

「どうしましょうか」

 

雨が上がるまで図書室で本を読もうとも思いましたが、空を見る限り今日はやみそうにないですね。

 

「はぁ、濡れて帰るしかないですね」

 

と、濡れるのを覚悟で昇降口から出ようとした時、

 

「ん、もしかして天野か?」

 

「はい?」

 

振り向くと相沢さんとその友達の北川先輩がいました。

 

「こんにちは、相沢さん、北川先輩」

 

ペコリと頭を下げます。

 

「こんにちは、美汐ちゃんは礼儀正しいな」

 

「違うぞ北川、これは・・・」

 

ジロ・・・と相沢さんをにらみます。

 

「・・・何でもない、うん、天野は礼儀正しいな」

 

・・・ふぅ、相沢さんは・・・。

 

前に、どんなに言っても『おばさんくさい』と言うのを止めてくださらないので、他の方に言わないのなら別にかまわないと約束したんです。

 

私も女の子ですから、相沢さんはともかく他の方におばさんくさいと思われるのは嫌です。

 

「で、どうしたんだ?もしかして、傘持ってきてないのか?」

 

「はい、天気予報では降らないと言っていたので」

 

「そっか、北川と同じか」

 

「お前はたまたま置き傘していただけだろ」

 

「理由はどうであろうと、今俺の手には傘がある」

 

と言って、相沢さんは北川先輩と私を見回します、そして、

 

「北川、お前は濡れて帰れ。俺は天野と帰る」

 

「おい!話しが違うだろ。缶ジュース一本で話しがついてるはずじゃないか」

 

「そうか、なら聞くがお前と俺の立場が逆だったらどっちと帰るんだ?」

 

「聞くまでもないだろう、美汐ちゃんと帰るに決まってるだろ」

 

その発言をした後北川先輩はしまったという顔をしました。

 

「そういうことだ、帰るぞ天野、送ってってやる」

 

「え・・・あ、あの、いいんですか」

 

「いいんだ、じゃあな北川」

 

「え・・と、すいません北川先輩、失礼します」

 

「裏切り者―!!」

 

正門を出るまで北川先輩の悲痛の叫びが聞こえてきました・・・ごめんなさい北川先輩。

 

「あの、私を送っていただけるのは嬉しいんですけど、水瀬先輩はいいんですか?傘を持ってきてないのでは」

 

「名雪は部活だし、置き傘は俺が知ってるだけでも三本はあるから大丈夫だ」

 

「そうなんですか」

 

「あぁ」

 

では、もし水瀬先輩が置き傘をしていなかったらどうしていたんでしょうか。

 

そんなことを一瞬でも考えてしまうなんて、今相沢さんと歩いているだけで・・・それだけで満足なのに・・・。

 

「ん・・・また雨が強くなってきたな。天野、濡れてないか?」

 

「あ、はい・・・大丈夫です。あっでも相沢さん濡れてしまってるじゃないですか」

 

よく見ると、相沢さんの右肩は横やりに入ってくる雨と傘からしたたり落ちてくる雫で濡れてしまっています。

 

「そんなに大きい傘じゃないからな、我慢してくれ」

 

「いえそういうことではなくて、相沢さんの傘ですし持ち主の方が濡れてしまっては」

 

「女の子を濡らして帰るわけにはいかないからな」

 

・・・そ、それは私の事を気遣ってくれてるんでしょうか。

 

「それに・・・」

 

相沢さんは真剣な顔になって、

 

「一緒に帰って、天野が濡れて帰ったことが秋子さんに知られたら、俺は地獄より恐ろしい事を味わうことになる」

 

・・・そっちの方が重要なんですね、少し残念です。

 

「風邪を引いてしまいますよ」

 

「馬鹿は風邪を引かないからな」

 

「でも、せめてこれだけでも使っても下さい」

 

ハンカチを出し相沢さんに渡します。

 

「肩をふいたら肩の上に置いてくださいね。それだけでも随分違うと思いますから」

 

「さんきゅ」

 

「それと、相沢さんももっと傘の中に入ったらどうですか?」

 

「ん、でもそれだと・・・」

 

・・・はい、肩がくっついてしまいます。

 

でも、今の反応を見ると私も一人の女の子として見てもらってるということなんでしょうか。

 

「私は構いませんよ。でも相沢さんがお嫌なら」

 

「あのなぁ、そんな風に言われたら断れないだろ・・・じゃあ、ちょっと悪いけど」

 

・・・相沢さんと肩が・・・秋の雨は冷たいですけど、今私の心はとても温かいです。

 

「天野がいいなら始めからこうしておけば良かったな」

 

・・・!!

 

「・・・あの、相沢さん?」

 

「ん、何だ」

 

「いえ、何でもないです」

 

「そうか、しっかしこの大雨が大飴ならいいんだけどな、傘を逆にするぞ」

 

「そうですね、でも、こういった話しはお嫌いじゃなかったんですか」

 

「まぁ、たまにはな。それと別に嫌いなわけじゃないぞ、ただちょっと現実的なだけだ」

 

「ふふ、そうですね」

 

・・・足をとめます、もう家に着いてしまいましたか、楽しい時間はあっという間ですね。

 

「じゃあな、また明日」

 

「家に上がっていきませんか?温かいものでもお出ししますから」

 

「いいのか?」

 

「えぇ、そのままでは風邪を引いてしまいます」

 

「わかった、じゃあお邪魔させてもらおうかな」

 

・・・と、玄関まで行き鍵を開けます。

 

「ちょっと待て、家に今誰も居ないのか?」

 

「はい、私は一人っ子ですし、今日母はお花教室の日ですから」

 

「それは・・・まずいんじゃないか?家の中が俺と天野だけになっちゃうだろ、あの何かするわけじゃないけど、その・・・なぁ、絶対にないとも限らないわけで・・・いや、しないんだけど・・・」

 

相沢さんがうろたえてます、珍しいですね。

 

「大丈夫です、相沢さんがそのような行為に及んだら、相沢さんの家に電話しますから」

 

「そ・・・そうか、なら大丈夫だな」

 

多分真っ先に水瀬先輩のお母さんの顔が浮かんだのでしょう。

 

「お邪魔します」

 

と、居間に案内します。

 

「ちょっと待っててくださいね、今拭くものを持ってきますから」

 

「あぁ」

 

なんだか落ち着かない様子です。

 

「はい、どうぞ」

 

「さんきゅ」

 

「珈琲と紅茶どっちがいいですか?」

 

「珈琲と紅茶か・・・天野の事だから緑茶が出ると思ったんだが」

 

「緑茶でもいいですよ」

 

「いや、珈琲お願いできるかな、あとブラックで」

 

「ブラック・・・ですか?その・・・砂糖もミルクも何もいれないんですよね」

 

「あぁ、何もいれないのがブラックだけど、それ以外のブラックなんて聞いたことないしな」

 

ちょっと、びっくりしました。珈琲は嫌いではないですけどブラックなんかではとてもじゃないけど飲めません。

 

「わかりました、ちょっと待ってて下さいね」

 

と、コーヒーメーカーをセットします。

 

出来るまでにクッキーを用意します。それと、

 

「相沢さん上着を乾燥機にかけましょうか?」

 

「いや、いいよそんなに濡れてないしすぐ乾くだろ。あ、バスタオルありがとう」

 

「なんだか落ち着きませんね、相沢さん」

 

「そう見えるか?」

 

「はい」

 

「そうかもしれないな、あんまり人の家に行くことってないから」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ、行くっていうより家に集まることの方が多いからな。皆で集まって何かやるんだったら大抵家だし。多分名雪と一緒に住んでるからだと思うけどな、秋子さんも人が来るの好きみたいだし。だからかな、人の家がすごい珍しく見えるんだよな」

 

と言ってる間も相沢さんは何かソワソワしています。

 

「人の性格とかで、家の中とかも想像するからな。だからてっきり和室に通されるのかなって思った」

 

「和室ならありますよ、客室というわけではないですけど、主に書道やお花とかをやるときに使います」

 

「天野もそういうのやるのか?」

 

「はい、お茶とお花の作法は一通り出来ますよ」

 

「ふぅん、何かおばさんくさいっていうより大和撫子っていう感じなのかな」

 

・・・何かすごい嬉しくて、恥ずかしいことを言われたような気がします。

 

「えっと・・・珈琲煎れちゃいますね」

 

落ち着かなくなって台所に避難します、多分顔は真っ赤になってるかもしれません。

 

多分、相沢さんは何気ない一言だったのでしょうが、私にはとても・・・。

 

おぼつかない手で珈琲を煎れ、居間に持っていきます。

 

「どうぞ、今クッキー持ってきますね」

 

「あぁ、悪いな」

 

「はい、でも本当に何もいれないんですか?」

 

私の珈琲には、砂糖2さじとミルクが入ってるのですが。

 

「慣れちゃえば、こっちの方が飲みやすかったりするから、じゃあクッキー貰うな」

 

・・・と、相沢さんはクッキーを口に運んでいきます・・・一応成功した方だと自分では思うのですが。

 

「これ、もしかして天野が作ったのか?」

 

「は、はいそうですけど・・・その、おいしくなかったですか?」

 

「いや、ちゃんと焼けてるし、歯ごたえもいいし、でも・・・」

 

何でしょうか・・・肝心の味が駄目だったのでしょうか。

 

「俺には甘すぎる・・・他のやつだったらおいしいって言うぞ絶対に」

 

「甘いの苦手なんですか?」

 

「そうだな、苦手かもしれない」

 

「すいませんでした、別のものをお出しすればよかったですね」

 

「大丈夫だぞ、食べた後に珈琲飲めばおいしく食べられる、家ではいつもそうしてるから」

 

良かったです、今度は別のものも作ってみましょうか。

 

「でも、ただ送っただけなのに、クッキーまで出してもらってなんか悪い気がする」

 

「そんなことないですよ、相沢さんにお会いしなければ今ごろずぶ濡れで帰っていたんですから」

 

「そうか、天野がいいならいいけど」

 

「はい、私がいいんですから」

 

それから、色々な話しをしました・・・本当に色々なことを・・・。

 

学校のお昼休みなどの少ない時間では話せないことを・・・。

 

「さてと、そろそろ帰らないとな、暗くなっちまう」

 

「あっ、もうそんな時間なんですか、早いですね」

 

「というわけでそろそろ帰るな、珈琲とクッキーごちそう様、おいしかったよ」

 

「はい、それではまた、明日学校で」

 

相沢さんを玄関まで見送ります。

 

「あぁ、じゃあな」

 

パタン・・・。

 

今日は雨が降っていましたけど、いい日でした。

 

今日あったことを思い返して見ます・・・。

 

相沢さんに送って頂いて、肩を密着させながら帰って・・・。

 

家に上がって頂いて、私の作ったクッキーを食べて頂いて・・・。

 

・・・何か恋人同士みたいです。

 

私の気持ちはどうなんでしょう・・・確かに相沢さんといる時は、何故かドキドキしています。

 

他の方といるときはないことです。

 

これを恋・・・と呼ぶのでしょうか。

 

でも、私は一度人との関わりを拒否した身です。

 

そんな中で相沢さんと出会い、真琴と出会い、自分が逃げてることを知りました。

 

しかし、逃げながらも心のどこかで人の暖かさを求めていました。

 

それを気付かせてくれた人、相沢祐一さん・・・。

 

貴方の気持ちはどうなんでしょうか・・・私に優しくしてくださるのは同情?・・・それとも・・・。

 

もう少し、時間が立てばこの気持ちも分かる気がします。

 

それまでは・・・今のままで・・・。

次の日、改めてお礼に伺った所・・・北川先輩が風邪で休んでることを知りました。

 

 

 

・・・ごめんなさい、北川先輩。

 

 

 

 

                                           FIN

 

 

 

 

あとがき

雨という題材っていいですよね、いろいろと思いつきます。今回は書いてるうちに何の変哲もないSSだということに気付き、途中からどうしようかかなり悩みました。祐一がこの後風邪を引くというのも考えたんですけど、まぁオチは北川が寝込むという形で・・・。SSを書くうえで私の経験や日常の癖をいれるのはもはや定番となりつつあります。そう、今回は珈琲ですね。私は大抵ブラックで飲みますし、甘いものは苦手というより、ほんのちょっと食べただけでごちそうさまという感じです。皆さんはどうなんでしょうか?

 

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