私立遠野高等学校(課外授業5)

 

 

とりあえず、説明をしてみた・・・。

 

勝手に一人でどこかへ行くなと事前に言っておいたこと。

 

アルクェイドが行ってしまってからしばらく待っていたこと。

 

決して置いていったつもりはないことなど言ったのだが、アルクェイドは聞き入れない。

 

・・・多少ながら腹が立ってきたのは気のせいだろうか。

 

「いいかアルクェイド・・・」

 

「いい!! 聞きたくない、志貴なんかもう知らない」

 

ったく、このお姫様は・・・。

 

「そんなんだったらもう何処へも連れて行けないぞ」

 

「えぇ、何でよ!!」

 

むぅ・・・と腰に手をあてアルクェイドが怒る。

 

「だって、そうだろ・・・今はみんなで行動してるんだ。一人が勝手な行動したらみんなが迷惑するんだぞ」

 

アルクェイドはこういう理論的、倫理的な言葉攻めに極端に弱くこう言うとあっさりと引き下がってしまい、こちらとしては面白くないのだが今回は仕方ない。

 

「・・・わかった」

 

「よし、じゃあみんなに謝るんだ」

 

「・・・うん」

 

普段強気なくせにこういうときだけしおらしくなるから、すごい罪悪感に見舞われてしまうのは気のせいだろうか。

 

「その・・・勝手なことして・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

その先が続かない・・・あそこまで素直になったんだから、謝らないってことはないと思うのだが。

 

「ねぇ・・・志貴・・・私がいないとき買い物してたんだよね」

 

「なんだよいきなり・・・そうだけどそれがどうかしたのか?」

 

「あの妹が被っている帽子が気になって・・・みんな袋にはいっているのにあれだけあるのって変な気がして・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

たまに妙に勘がいいというか、こっちが気づいて欲しくないものに気づいてしまわれるのは、宿命なのだろうかと思ってしまう。

 

「ねぇ、妹・・・その帽子どうしたの?」

 

アルクェイドは俺には聞かず秋葉に聞いてしまう・・・なんか展開が悪いほう悪いほうにといってしまう。

 

「こ・・・これは私が・・・じ、自分で買ったんですよ」

 

普段は冷静沈着な秋葉お嬢様も今回ばかりは駄目らしい、いや・・・あんな秋葉も見るのはこれはこれでいいと思ってしまうわけだが。

 

「他の服とかは紙袋にしまったままなのに、帽子だけ被っているのって変だと思うんだけど」

 

「ふ・・・服は今着ているのがありますし、帽子は・・・その、被れるから・・・」

 

もう・・・こうしてても俺が買ったとばれるのは時間の問題だな・・・。

 

「アルクェイド・・・」

 

「今、妹に話しかけているんだから、志貴は黙ってて!!」

 

「いや・・・だからさ、秋葉の被っているその帽子・・・俺が買ったんだ」

 

「え・・・」

 

「本当ですか、遠野君?」

 

・・・ずっと黙っていた先輩までもが俺の答えに激しく質問を返してくる。

 

「あぁ・・・本当、たまたまその帽子が目について秋葉に似合うかなって突発的に思っただけだから買っただけ・・・」

 

「そっか・・・・・・」

 

アルクェイドが何やらよからぬことを考えていそうだから、先に言っておくことにする。

 

「あぁ、先に言っておくけどもうお金ないから。翡翠と琥珀さんには言ったけど服を一緒に見ることくらいならかまわないけど」

 

「う・・・わかってるわよそんなこと。志貴がお金ないなんてことは」

 

う・・・そうすっぱりと言われてしまうとこちらも悔しいものがあるが事実だから仕方ない。

 

「じゃあさ、今から私も欲しいものあるから志貴も一緒に見てよ」

 

「あぁ・・・それくらいなら構わないけど」

 

本音を言えばこれで丸くおさまるならという感じだが。

 

「じゃあ、行こっか」

 

むんずと俺の腕を掴み引きづるようにアルクェイドは歩き出す。

 

「お、おいアルクェイド・・・腕なんて掴まなくても行くって」

 

「そんなのわからないわよ。さっきみたいに気づいたら私一人ってことになるかもしれないから」

 

・・・前言撤回、どうやら根にもっているようだ。

 

「あ・・・ちょうどいいですね、アルクェイドについていくのは癪ですが遠野君に服を選んでもらえるのなら、我慢しちゃいます」

 

そういって、シエル先輩も一緒についてくる。

 

「ほら、翡翠ちゃん・・・二人に先越されちゃうよ。志貴さんが選んでくれるんだから、選んでもらわなくちゃ」

 

「ちょ・・・姉さん」

 

琥珀さんはアルクェイドのように、翡翠の腕を掴むとこっちについてくる。

 

こういう展開になると・・・決まって秋葉が怒り出すのだが・・・。

 

「♪〜♪〜」

 

かなりご機嫌なのか、しきりに帽子をいじりながらついてくる・・・。

 

あんなに喜んでくれるのであれば贈った甲斐もあるというものだ、かなりの出費だったが。

 

 

アルクェイドに腕を掴まれながら、フロアを歩いているわけだが、だんだんと嫌な予感がしてきた。

 

「な・・・なぁ、アルクェイド」

 

「何?」

 

何故か嬉しそうに返事を返してくる・・・この笑顔が返って俺の不安を駆り立てる。

 

「お前何処へ行こうとしてるんだ?」

 

「えっとね・・・海行くときに着るものかな」

 

・・・・・・・・・。

 

海に行くときに着るもの・・・即ち水着。

 

・・・お約束もいいところだ。

 

「ま・・・まて、アルクェイド」

 

「もう、さっきから何?」

 

「なぁ、それだけはまずいと思うんだが」

 

絶対に。

 

「えぇ、でもさっき選んでくれるっていったじゃない。約束は守らないといけないって教えてくれたのは志貴でしょ」

 

「う・・・それは、そうだけど」

 

時と場合によると付け加えるべきだったが。

 

「って・・・お前吸血鬼なんだろ? そんな昼の日差しを直に肌にさらして大丈夫なのか?」

 

「昼に活動できないのは死徒でしょ。確かに真祖といえども昼間は運動能力は下がるけど、別に支障はないよ」

 

駄目だ・・・何とかして説得を試みようとしたのだが。

 

これは・・・もう、諦めるしかないのか。

 

・・・海か。

 

「アルクェイド・・・ひょっとしてお前海に行きたいのか?」

 

「うん、そうだよ。志貴と」

 

想像通りの答えが返ってくる。

 

「俺は行かないぞ・・・」

 

「えぇ・・・なんでよ」

 

そっか・・・アルクェイドは俺の胸の傷を知らないんだっけ。

 

「ちょっとこっち来い・・・」

 

今度は逆にアルクェイドの腕を引っ張って、在庫の出し入れなどをする、客が来ないところにアルクェイドを連れて行く。

 

「何処につれていくのよ志貴。ここ私が行きたいところじゃないよ」

 

「いいから・・・お前にはまだ話したことなかったよな」

 

Tシャツの上を引っ張り胸の傷をアルクェイドに見せる。

 

「ど・・・どうしたの、その傷?」

 

「これが七年前、俺が死にかけた時に出来た傷・・・この傷はもう塞がっているし何でもないけど、これ見たらみんな引くだろ、そう思われるのが嫌なんだ」

 

だから海には行けない。

 

別に海で泳がなくて、浜辺に行く分には問題ないんだけど。

 

アルクェイドを説得させるにはこれしかないと思った。

 

「そっか・・・残念。志貴と海行きたかったのにな・・・」

 

う・・・そんな顔されると。

 

「あは〜 その点なら大丈夫です」

 

突然目の前に現れる琥珀さん。

 

・・・目の錯覚か一瞬箒にのってやってきた気もするが気のせいだろう。

 

「そんな海の一つや二つ・・・遠野家の財力を使えば貸切などお茶の子さいさいです♪♪」

 

「そっか〜 なら大丈夫だね。志貴〜、海にいけるよ〜」

 

折角アルクェイドを説得出来かけていたのに・・・。

 

琥珀さん・・・維持でも俺に水着を選ばせるつもりなのだろうか。

 

とにかく、俺が水着売り場に連れて行かれるというのは避けられないことのようだ。

 

 

 

 

 

『あは〜 秋葉様だけいい思いしようってそうは行きませんよ♪♪ 志貴さんには私と翡翠ちゃんを海へデートに誘うというこの夏最大のイベントがあるのですから♪♪』

 

続く

 

 


 

あとがき

もはや、授業とはいえない状況になってきました。でも授業らしいところはあったと思うのですが、みんなで行動するときと個人では違う・・・とか。胸の傷の部分はちょっとシリアスなSSで使いたかったのですが、ネタがないのでここで・・・。さてさて、そろそろ割烹着の悪魔、琥珀さんが本領発揮のようです。それと違ってシエル先輩の影がどんどん薄くなっていってる気がしますけど。水着イベントで喜ぶヒロインとコンプレックスにさいなむヒロイン・・・いろいろいると思いますが。では、次回のSSで。

 

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