あび卯論 第八回 「萌えとは何か」 先日の朝、駅で日本経済新聞を拾ひまして、読んでをりましたところ蓉子氏と合流。 電車に乗り込みしばし歓談。私はこの新聞の一面にあつた 「映像制作 電通・関電など支援」といふ記事をネタに枕にして話をし始めました。 内容は、電通と関電がアニメ制作を支援する新会社を設立するといふものでした。 「さすがテレビ東京の親会社、日本経済新聞だ。」などと冗談混じりに言つてをりました。 さらに蓉子氏と別れて再び新聞を覗いてみますと、同じ一面に 「『萌える単語帳』が昨年のアマゾンの和書売上NO.1だつた」といふ記事が載つてゐました。 あらためて「日経新聞は凄いや。」と思つた次第であります。 (てゆーか、日経新聞は何を考へてるんだ!?) さて、前置きが長くなりましたが今回のテーマはその「萌え」についてであります。 私が始めて「萌える」といふ単語を目にしたのはインターネットの掲示板でした。 これは2ちゃんねるではありませんで、とあるファンページのBBSです。 当時、萌えの読み方すら知らなかつた私は「なんと読むのだらう。」 といふ感想くらゐしか持ち得ませんでしたが、その後次第に意味を理解するようになりました。 が、この独特のニュアンスを含む「萌え」といふ言葉は理論的に説明せよと言はれても答へに窮する。 ですから今回この「萌え」といふ単語の意味を私なりに解説していきたいと思ひます。 「萌え」の起源は「燃える」を「萌える」と変換ミスしたものだとか、昔『天才テレビくん』内で放送されてゐた 『恐竜惑星』に登場する主人公の鷺沢萌が語源であるとか諸説ありますが、後者の説が有力なやうです。 では、「萌え」にはどのやうな意味があるのでせうか。 広辞苑を開きますと「萌える:@芽が出る。きざす。芽ぐむ。(以下略)A利息がつく」などと記載されてゐます。 本来の意味はこの二つであります。萌芽(ほうが)といふ単語をご存知の方はわかりやすいですね。 では、現在ネット上での「萌える」の意味はといふと、はつきりとした定義を載せた正規の辞典は見当たりません。 (私が知らないだけかも知れませんのでさういふ辞典をご存知の方居ましたらご連絡願ひます。) ですが、正規の辞典ではない辞典。所謂、通信用語辞典ですとか2ちゃんねる辞典『2典』などには 「萌え」といふ単語は掲載されてをります。たとへば『2典』には「意味は『好き』に近い」と記載されてゐます。 実に明快な答へであると思ひます。が、それと同時に近いとはどういふ意味だ?といふ疑問も生まれてくるでせう。 つまり、具体的ではありません。次に具体的な解釈の例を挙げます。 『全日本妹選手権』といふ作品(漫画)をご存知でせうか。 知らない方はタイトルからして「妹萌え漫画かな?」と思はれるかもしれませんが、 自虐系ヲタ漫画と云つた方がしつくりきます。 はつきり申しましてオタクをこれでもかとバカにした作品であり、 大人向けの『かってにに改蔵』といふやうな作品とも云へます。 とても面白い作品ですが改蔵以上に解らない元ネタが多いので注意が必要です。 さて、その『全日本妹選手権』に登場する操といふキャラがゐます。 その操曰く”萌え”とは 「大人の女を相手にできない男が言うことを聞いてくれそうな美少女に使う腐った愛情表現」 ださうです。なるほど、一理あるでせう。なにより、実に具体的です。 ですが、具体的にしすぎると「言ふことを聞いてくれないタイプの美少女に対しての愛情表現に 萌えは使へないのか。」などといふ弊害が生じてまゐります。 私なりの解釈をいたしますと、「萌え」とは本来、二次元のキャラクターを愛でる際に用ゐられてきた。 それも、どちらかと言ふと「熱烈に愛する」といふやうなニュアンスが強かつたと思ひます。 ところが、次第に意味が広がり二次元でなくとも萌えは使へるようになり、 強い愛情というよりも「好き」と「愛する」の中間的な意味で用ゐられてゐるのが現状だと思ひます。 具体的な解釈を求められますと、私は 「ある対象を愛でる感情。主に二次元人や美少女に対して向けられる。 好きといふ感情とは微妙に違ひ、一種の幽玄さを伴ふ。好きよりも更に深みのある感情。」 などと答へます。つまり、萌えは日本人がもつ特有の感性に由来してゐると考へます。 何故、日本のアニメや漫画が世界中でヒットするのか。これは、萌えとふ感情を持つてしてのことです。 この繊細な感性があるからこそディティールのしつかりした作品が作れるのだと思ひます。 日本のアニメが世界のアニメ市場を席捲してゐることも頷けませう。(漫画も同様) 確かに外国にも良作のアニメや漫画は存在する。ですが、萌えをテーマにしたものは無い。 日本人が外国の作品を観るとどれも大味に感じてしまふのです。 云ひかへると、アクション系の作品を観るなら外国作品が良いと云へませうか。 とはいへ、やはり日本の作品にはかなはないと思ふ。誤解の無いように書いておきますが、 日本のアニメや漫画が全て萌えをテーマにしたものだといふわけでありません。 むしろ、萌えのみをテーマにしたやうな作品はどうかと思ひます。 つまり、”萌え”という感性があるからこそ良い作品が作れるのだといふことであります。 萌えを生み出した感受性の豊かさこそが日本のアニメ・漫画の強さなのであります。 ”萌え”は”わび”、”さび”を生み出した日本人だからこそ生み出せた言葉なのです。 ですから今後、萌えを理解できる方々は胸を張つて「私は繊細な感性を持つてゐる。」 と思つていただきたい。平安時代の貴族と同様、風流心を持つてゐる優雅な方なのです。 むしろ、「萌えなどわからぬ」とか「キモイ」などと言ふ輩は風流心のない感受性の低い野暮なやつだといふことです。 別に萌えといふ言葉を他人から「キモイ」とか云はれた覚えはないですが、云はれる前に書いておきました。 今後、「萌え」は「moe」といふ国際語になつてゆくのではないでせうか。 また一つ、日本が世界に発信できるものが増えましたね。 世界の中心で愛を叫ぶのも良いですが、これからの時代 世界の中心で萌えを叫ぶのもなかなか良いかと思ひます(笑)。 平成16年10月6日(水)