あび卯論 第二回 「なぜ、歴史的仮名遣ひなのか」


第一回はCC論文でありましたが、編集長から
「1つだけ載せるのは心もとないからってか、あの1つだけ載せたら、あなたただの変態さんよw」
といふご指摘、いえ、お気遣ひがありまして、第二回も同時に載せようといふことになりました。

前回の文章をお読みになつていただけた方には「何故この人は歴史的仮名遣ひなのだらう」
と感じた方がいらつしやるかもしれません。
今回はこのことについて述べたいと思ひます。
私が歴史的仮名遣ひで書くやうになつた直接の原因は福田恆存(ふくだ・つねあり)さんの著作を読んだことであります。
ご存知の方はなるほどと思はれたでせうが、
福田恆存さんは戦後の国語問題について数々の論文を書かれてきた方です。
また、様々な社会問題、文藝、政治など幅広い分野で論文を発表され、劇作家としてもご活躍されてきました。
私が最も尊敬する人物もまた福田恆存さんなのですが、それはさておき、
福田恆存さんは「現代かなづかいは、かなづかひではない」と繰り返し言つてこられました。
なぜなら、現代仮名遣ひは不合理な点が多いからです。
以下、理由を簡単に述べます。

日本語の表記法は元々、表音主義ではありあせん。
表音主義とは音にしたがつて表記することです。
例へば「今日」といふ漢字は歴史的仮名遣ひでは「けふ」と表記しますが、口では「きょう」と発音いたします。
一見、不合理のやうに思はれます。が、次の例ではどうでせうか。
「馬」は皆さん何と発音いたしますか?「馬は『うま』に決まつてゐるぢやないか。」
と仰る方がゐるかもしれない。
ですが、実際、我々は「馬」を「んま」と発音してゐるのです。
他にも「時計」は「とけい」と書いて「とけえ」と発音しますし、
「原因」も「げんいん」と書いて「げいいん」と発音してゐます。
現代かなづかいの表音主義でさへ完全に音を書き表してゐないといふことです。
つまり、表音主義で表記いたしますとかへつて不合理にならざるをえないのです。

また、現代仮名遣ひでは「づ」と「ぢ」の使用を制限したため以下のやうな弊害が生じました。
「世界中」は「せかいじゅう」と表記いたしますが、これはをかしい。
「中」は音読みで「ちゅう」です。間違つても「しゅう」ではない。
なのに、「じゅう」となる。これはやはり不合理に思へてしかたがありません。
他にも「意地」「頷く」「旅路」「つまずく」などの例が挙げられます。
「つまずく」に関して申しますと、この語は元々「爪」と「突く」の複合語であり、「つまづく」が正しい。
「稲妻(いなずま)」も語源は漢字からわかるとほり稲の妻といふ意味であり、「いなづま」と表記するべきです。
一方、「鼻血」は「はなじ」ではなく「はなぢ」と表記せよといふ。
これでは、混乱を招くだけです。
いかに、当時の国語審議会や文部省がいいかげんだつたかおわかりのことと思ひます。

別の、観点から述べますと、話し言葉は非常に流動的ですが、書き言葉は固定的です。
云いかへれば、書き言葉は日本語の骨幹であり安定性と持続性をもちかつ統一的です。
これは、話し言葉と書き言葉のどちらが優れてゐるといふ話ではなく、
それぞれが独自性を持つてゐるといふことであり、それにより多様性も生まれます。
また、歴史的仮名遣ひを現代仮名遣ひに変へることは国語の標準と歴史的な連続性を失はせることに他なりません。
じじつ、歴史的仮名遣ひは日本語の源を知るうへで随分役に立つと思ひます。

以上簡単ですが私が思ふところの歴史的仮名遣ひの優位性を述べました。
ただ、残念なことに現代仮名遣ひが使はれはじめて60年近くが経過してをり、
いまさら、歴史的仮名遣ひに戻す事は困難でせうし、また、それによる不都合の方が大きいでせう。
じじつ、私も私的な文書では歴史的仮名遣ひを用ゐますが、公的文書では用ゐません。
友人にメール等を打つ時もなるべく控えてをります。
ここのところはダブルスタンダードとひいますか。それが必要な時代だと思ひます。
ですから、この文章を歴史的仮名遣ひで書いてもよいよ、と言つて呉れた編集長(ロンド氏)には感謝する次第です。

私は歴史的仮名遣ひを気取つて用ゐてゐるわけではありません。
また、「真当な保守精神の発露だ」と第一に考へてゐるわけでもありません。
確かにそれもあるかも知れない。が、心情的な理由としてはやはり文体の美しさであります。
畢竟、福田恆存さんの文章を見て魅了されたといふことが正直なところでせうか。
ところで、歴史的仮名遣ひは使ふ人々の間では「正仮名遣ひ」と呼ばれてゐますが、
ここでは便宜上、歴史的仮名遣ひの表記で統一しました。
この文章を読んで福田恆存さんや歴史的仮名遣ひに興味をもたれた方は、
文藝文庫から発行されてゐる『私の国語ヘ室』(福田恆存)といふ本をお勧めします。
宣伝じみてしまひましたが最後に福田恆存さんの言葉を引用したいと思ひます。

「・・・音聲が自分以外の規範や文字に認めないといふことは、
  とりもなほさず、 現代以外の規範を歴史に認めないといふことであります。」(福田恆存)


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