OneHeart 奪愛(うばいあい)
クマの凶暴なイメージからは程遠い、かわいらしいキャラクターグッズ達は女の子にも大人気だ。 取り分け、この”神岸 あかり”には絶大な人気をもたらしていた。 彼女の身の回りのモノはクマグッズで染まっていた。 ぬいぐるみ等はUFOキャッチャーの景品から、ファンシーグッズ店にあるような全長60cmはある 高価なぬいぐるみまで、気にいったモノは極力手に入れていた。 台所に立つ機会の多い彼女はエプロンや鍋つかみは勿論の事、調味料を入れる容器にまでその心を砕いていた。 彼女はさも当たり前かのように語る、自分は”クマリスト”だと………
ふぁ〜、とあくびをしつつも目覚ましの鳴リ出す5分前には目が覚めていた。 部屋に置いてあるクマのぬいぐるみ達に朝の挨拶をする。 「みんなおはよう。今日もがんばろうね」 レースのカーテン越しに差し込む日差しは柔らかく、春の日差しが心地よく部屋を満たしていた。 ”浩之ちゃん”を二度寝させるには十分な朝だ。想像してみると思わず頬が緩んでしまう。 鳴り出した時計を寝惚けて加減できずに凄い勢いで放りだしてしまったりするかも… さすがにそこまで酷くないか、などと想像してはまた頬が自然と緩み笑顔を形どってしまう。 すこし朝の弱い幼馴染のために私の朝はいつも”浩之ちゃん”を起こしに行くことからはじまる。 昨晩の内に下ごしらえの終わったおかずを、お気に入りの小さなクマ型弁当箱に手際よく詰めこんだ。 チラリと目の隅で時計の時間を確認しつつ、お弁当とは別の包みにラップで包んだロールサンドを詰めていた。 「よ〜し、準備万端!がんばるぞ〜!おぉ〜!」 普段の彼女を知るものなら思っただろう。珍しくハイテンションだな、と。 高校生活二回目の春。今日からは新しいクラスでのスタートかと思うと胸が高まった。 「今度こそ…」 ・ ・ ・ 彼の強面な容姿と体格からは程遠い気さくさと、やさしさは彼と少なからず接っした者には自然と気が付いたはずだ。 もっとも彼はクラスメイトと言えども好んで他人と接することはなかったため、その事実を知るものは学園の全生徒でも ごく僅かだった。しかし、幼馴染の”神岸 あかり”はその恩恵を身に染みるほど受け取っていた。 彼女の身の回りのモノはクマグッズで染まっていた。 彼はまだその事に気が付いてはいなかったが、それも全ての発端は彼…”藤田 浩之”のプレゼントからはじまった。
2つのベルを携えたその物体は壁にぶつかった際に、その動力源である単三の乾電池2本を床にバラまき息絶えていた。 「……むにゃむにゃ…俺のどら焼き…う〜ん……」 密かに甘党な彼は、まだ夢の中である。学校に遅刻せずに行くには多少走れば後15分で着けるといったところだった。 ピ〜ンポ〜〜ン♪ピンポ〜ン♪ 「………」 「…浩之ちゃ〜ん!遅刻しちゃうよ〜!ねぇ〜浩之ちゃ〜ん!学校行こう〜!」 「………」 ピンポ〜〜ン♪ピピンポ〜ン♪ピンポ〜〜ン♪ 「……ん?…」 「浩之ちゃ〜ん!起きてよ〜!浩之ちゃ〜ん!浩之ちゃんってば〜!ねぇ〜!」 「……ふぁ〜、うっせーなぁ……」 「浩之ちゃ〜ん!起きてよ〜!浩之ちゃ〜ん!浩之ちゃんってば〜!ねぇ〜!」 ピピンポ〜ン♪ピンポ〜〜ン♪ピンポ〜〜ン♪ピピンポ〜ン♪ピンポ〜〜ン♪ 「起きてよ〜!遅刻しちゃうよ〜!浩之ちゃ〜ん!浩之ちゃんってば〜!ねぇ〜!」 「…ったく、あかりは…浩之ちゃんっていうなって、いってんのに…」 寝起きの肺に溜まった重い空気を、はぁ〜っとため息混じりに吐き出す。 朝、起こしに来てくれる幼馴染はありがたい。とてもありがたいと思う。おかげで俺は滅多に遅刻はしなくなった。 しかし、高校2年生になるっていう、いい年した男が”浩之ちゃん”ってのは勘弁して欲しい。 ガラッ!とすこし乱暴に開け放った窓から、すこし肌寒いとも思えるが心地よい風を肺一杯に溜め込んでみた。 「…くぉ〜ら〜、あかり〜!朝から何度も”浩之ちゃん”って呼ぶんじゃねー!」 「恥ずかしいだろうが!ったく!」 「おはよう、浩之ちゃん!早くしないと学校に遅れちゃうよ〜!」 悪態はついているが決して怒っているわけでは無いことを彼女は知っていた。 「…浩之ちゃん、言うなっていってんだろ〜がよ〜」 ぶつぶつ言いながら部屋に引っ込む浩之を確認してから、玄関の扉へと向かう。 ……ガチャリ。すぐに浩之が玄関の扉を開けてあかりを招き入れる。 「あと3分だけ待ってくれ」 あかりの返事を待つことなく洗面所へ向かう浩之。 「浩之ちゃん。朝食はあるの?」 「…んぁ〜?ねーよ、そんなモン。どのみち抜きじゃねーと、間に合わねーだろ?」 返事はしつつも靴下を履き、カッターシャツに着替えながら時間を無駄にすることなく準備を整える。 実際、歩いていけば確実に遅刻する時間に差し迫っていた。ある程度は走って行ってもギリギリといったところだ。 新学期そうそう遅刻では、さすがに先生に悪い印象を残して兼ねない。いや、間違いなく残すだろう。 そうなれば俺のバラ色のような学園生活に支障をきたしかねない。それだけは回避しなくては。 顔も洗い、すっかり目の覚めた浩之は玄関に向かった。 「…あと10分ぐらいだよ、浩之ちゃん」 「それと、ハイ。これ」 あかりは手に持った包みからロールサンドを取り出すと浩之に渡した。 「たぶん朝食食べてる時間無いと思って、学校に行きながら食べれそうなの作ってきたの」 こんな気が付く幼馴染はありがたい。とてもありがたいと浩之は心底思った。 「サンキュー、あかり!でも時間ねーから、ちょっと飛ばすぞ!」 今日は新学期初日のために授業は無く、かばんも軽い所為で走るペースも自然と上がる。 口元でロールサンドをもぐもぐ食べながらにしては浩之のペースは軽快だった。 「…はぁ、はぁ…ふぅ、…待ってよ〜〜浩之ちゃ〜ん…はぁ…」 もともと運動を苦手としているあかりには、途中から浩之があかりのペースに合わせてゆっくり走っているとはいえ、 学校までフルに走り続けるだけの持久力を持ち合わせていなかった。 玄関を出てから6分は過ぎ、通学中の生徒もちらほらと目に止まる。すでに走っている生徒など皆無だ。 「そうだな、そろそろ歩きでも間に合いそうだな」 息一つ乱すことなく、あかりが隣に追いつくのを待ち歩き出す。特訓の賜物かと内心苦笑してしまう。 「…はぁ、ふぅ〜、はぁ…はぁ…」 上がった息を整えるあかりを眺めながら、ふっと気が付き、思わず三つ編みのおさげを摘み上げる。 「…お前、この髪型って随分長い間してるよな〜?」 「そうだね、小学校の頃からだし。浩之ちゃんはこの髪型って嫌い?」 この三つ編みのおさげは小学生の時、浩之がよく似合うと誉めてくれた時から決して替えることなく続けてきたものだ。 「そんな事ねーけど、女の子ならもっとお洒落な髪型とかに憧れねーか?」 「う〜ん、志保みたいにショートのシャギーとか?」 すこし考えてから、流行などの情報に詳しい”志保”の事を思いだした。 「それじゃ、キャラが被ってマズイだろ!…いや、水無月さんとら〜YOUさんの違いはあるからOKなのか?…」 「…ら〜YOUさんって変わった名前だね。ハーフか何かなの?浩之ちゃん」 すっかりクラスメートの事ぐらいだと思ってるあかりに、浩之は校門をくぐるまでの間、2人についてそれは熱心に語ったという。 「…浩之ちゃんにそんな趣味があったなんて全然知らなかったよ」 すこし関心しながらも、自分のまったく知らない浩之の姿を垣間見たあかりは少なからずショックを受けていた。 「ふっふっふっ!俺の全てを知っていると思っていたのか?まだまだ甘いぞ、あかり」 「そうだね。浩之ちゃん研究家としてはこれからも精進するね♪」 「うむ。よきに計らえ!」 談笑まじりに歩を進め、たどり着いた先に見える掲示板には、でかでかとクラス名簿が張り出されていた。 「え〜と、何組だろな〜」 「うん。そうだね」 先ほどまでの安穏とした表情からは一変し、真剣な面差しのあかり。 彼女が始めに追い求めたモノは”神岸 あかり”ではなく”藤田 浩之”という文字だった。 …2−B。そこに彼の文字は刻まれていた。ドクンっ!と心臓の高鳴りを感じた。 あとは、彼のクラスに”神岸 あかり”があればよいのだ。 五十音順に並べられた規則正しいこの文字の羅列に全神経を注ぎこむ。 すでに彼女の周りに音は無く、自分の内側から鳴り響く早鐘のような心臓の音だけが耳に響き渡っていた。 ……綾波 レイ……井倉 チャン……宇木和 破……絵窪 アバタ……カタカタの名前が多いな、と思いつつ… あった、神岸 あかり。浩之ちゃんと同じ2−Bに。叫びそうになる自分を何とか抑え、他の知った名前を探す。 ”長岡 志保”と”佐藤 雅史”という名前を探した。今度はさして時間もかからなかった。 まず雅史ちゃんが見つかった。浩之ちゃんと同じ2−Bだった…五十音順から考えれば途中で見かけていた 名前にも関わらず、”藤田 浩之”に没頭するあまり気が付かなかったのだ。思わず苦笑してしまう。 志保もすぐに見つかった、隣のクラスの2-Cだった。 幼馴染のこの4人のうち3人までもが同じクラスであったことは今までなかった。 いや、”藤田 浩之”と同じクラスになれた事が今までなかったのだ。しかし、今年は違う。 「俺、2−Bだわ…あかり、お前は?」 不意に掛けられた浩之の声で意識が外に戻っていった。深呼吸を1つ。 「…うん、浩之ちゃんと同じ2−Bだよ。雅史ちゃんも同じクラスだよ。志保は…」 ゆっくりと決意を述べるようにしっかりした口調で答えていると、不意に雑踏の喧騒より一際甲高い声が響いた。 「やっほ〜あかり〜!!ついでにヒロ!」 「あっ、おはよう〜志保♪」 「だれが”ついで”だって?志保〜!」 「うっさいわね!あかりの”ついで”な、藤田さん家の浩之く〜ん」 「てめ〜、朝から喧嘩売って歩いてるのか?」 こうして例によって例の浩之ちゃんと志保の口喧嘩は予鈴のチャイムが鳴るまで続いた。 そして、私達の新しい学生生活は本鈴のチャイム鳴り響く中、教室へ滑り込むことからはじまった。 「また志保の所為でギリギリじゃねーか。ったくよ〜」 「…はぁ、はぁ、なんとか間に合ったね、浩之ちゃん」 「…あっ。おはよーっ浩之。あかりちゃん」 10分前には席に着き、余裕で座っていた雅史は二人が来るのをまだかまだかと待ち構えていた。 「おっす、雅史!今日からまた頼むぜ」 「はぁ、ふぅ、…お・おはよ〜雅史ちゃん…ふぅ、ふぅ…」 校門付近の掲示板から2階にある教室までダッシュで来た所為で、再びいい汗を掻いてしまった。 「あははっお疲れ様、あかりちゃん。また志保と浩之が口喧嘩でもしてたのかい?」 「…さては雅史、お前エスパーだろ」 「…いつものことだろ?浩之と志保は、ねっ?あかりちゃん」 苦笑しつつ真相を話してくれるだろう彼女にそつなく話を振る。 「はぁ〜、まったく世話の焼ける子供達だよ」 「…コラっ!あかりっ!」 浩之は怒って拳を振り上げあかりを殴るフリをしてからかう。 「キャ!」 フリ、だと判ってはいても咄嗟に両手で頭をかばう動作をとってしまう。 「…こほんっ、あ〜席に着いてください〜」 浩之達の後ろから間延びのした声で先生が入ってきた。新学期最初のHPが始る。 今日からは教室でも浩之ちゃんと一緒だと考えただけで、心も弾む春の日の出来事は私の日記の3ページを埋め尽くした。
つづく
■□■□■□■□■□■□■□■□ あとがきです ■□■□■□■□■□■□■□■□ はじめまして、こんにちは。最後までって…と、いってもまだ途中の第1話ですが、読んで頂きありがとうございます。 読んでない人がこのあとがき読んでるって事はないですよね? だって”あとがき”なんでココを最初に読んだら”あとがき”じゃなくなって困ります(笑) こちらのサイトでもSSをはじめようかと思ったのがHP開設1年後ってぐらいで、それにあたってのCGが半年ぶりって ぐらい盛んな(笑)更新です( ̄∇ ̄; 今回の話を見て、おやおや?タイトルとはうって変わったラブラブ純愛モノじやないか〜!? 俺(私)はダークなのを期待して読んでみたのに〜とか思ってません?俺は思ったよ!(笑 間違いなくダーク系になります。心配せず?に読んでください(^_^;) ここHPに来る全ての人が東鳩をコンプリートしている訳でもなく、仮にコンプリしているからといって世界観が 同じハズもないと思ってます。そこで微妙な世界観の違いも含めて少しまだるっこしいやり方ですが自分の中の この物語にだけある東鳩世界を表現できればいいな〜と思いゲームとすこし被ってるのにズレの生じている この世界について説明がてら書いてます。たとえば高校2年の物語を書いてますが、 あかりがまだ三つ編みのおさげのままです。ゲームなら攻略に差し支える大事件ですよね(笑 そんな辺りや本当に志保が2−Cだったか?2−Aだったかもしれないぞ?とマジで忘れているのは秘密です煤i ̄□ ̄; とりあえずは、ボチボチと書き上げていこうと思ってます。もし、感想(苦情も可)などあれば、メールください。 たまに、わざと当て字(奪愛-うばいあい-なんかは造語ですけど)にしてるのもありますが、 誤字・脱字なんか発見した時は教えて欲しいです(^_^;) では〜第二話でまた会えるといいですね♪
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