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neear 奪愛(うばいあい)
第2話 〜悪戯〜

 

キ〜ンコ〜〜ン〜カ〜ンコ〜〜ン……鳴り響く4時限目終了を告げるチャイム。

食堂組もそうだが、購買組は特に時間帯命のためキンコンダッシュは基本だと浩之は思っていた。

早く行かなければ人気の”やきそばパン”を手に入れるのは困難なのだ。

食堂に設置された購買部と言う名の戦場へチャイムの開始と同時にダッシュで赴く浩之。

今日は姉のお手製弁当があるとかで雅史は教室組である。

「雅史のやつ、ちょっとうらやましいぜ」

ボヤきながらも階段を3段飛ばしで駆け下りる。

「やっほ〜あかり、一緒に食べましょ〜」

あかりの教室へやってきた志保の通る声は必要以上に教室に響き渡る。

「あっ、いらっしゃい志保」

いつものことなのか、あかりはおろか教室の生徒も驚くでもなく各自のグループで席を合わせて即興の食卓を作っていた。

「あれ?今日は雅史もお弁当なんだ。そう言えば先週からお姉さん帰ってきたって言ってたっけ」

「うん。そうなんだ。姉さんは出産を控えてるからって実家に帰ってきてるんだ」

「じゃあ雅史ちゃんも、しばらくは教室で食べるんだね」

「毎日って訳じゃないけど、たまにお邪魔させてもらうよ」

あかり、志保、雅史、あかりのクラスメートの瑞穂の4人で食卓を囲む。

女子に混ざって食べる男子の雅史だがその女の子のような容姿の所為なのか、あまり違和感無く溶け込んでいる。

何度か雅史の所属しているサッカー部が昼休みに呼びに来たことがあるが、女子に溶け込んでいる雅史を

発見するのに難儀したとかしないとか、後日の志保ちゃんニュースで女性の間にだけ、まこと密やかに流れることになる。

 

その頃、浩之は手に入れたやきそばパンとフルーツ牛乳を手に中庭のベンチで昼食をとっていた。

浩之の隣には芹香が食事を終え、すでに日課と化している”ひなたぼっこ”に興じていた。

「なぁ先輩。実は相談したいことがあるんだ」

芹香がなんでしょう?とでも言うかのように首を傾け浩之に視線を移す。長い黒髪がサラリと流れ木漏れ日にきらめいた。

「最近入学した1年にさ、先輩みたいにちょっと特殊な力を使える子がいるんだよ」

「………」

「………」

返事をするでもなく話を聞く芹香に浩之はそのいきさつを語りだした。

時折起こる自分では制御できない超能力の”力の暴走”で他人を傷つけてしまうに事に怯え、自分を追い詰める孤独な少女…

姫川 琴音について。

その超能力の暴走も他人にとっては、彼女に近づくと怪奇現象がよく起きると噂され、

いつしか琴音は”悪霊女”などど呼ばれ近寄ることさえ忌み嫌われた。

そして心優しい琴音は人を傷つける自分を嫌い、自分から他人との距離をとり、ますます心を閉ざしてしまった。

初めのうちはまともに会話もしてくれなかった琴音だが、昼休み、放課後といわず琴音に語りかけた甲斐もあり

最近は自分のこともポツポツとだが話してくれるまでになった。

原因である超能力をなんとか制御できないかと、特訓をはじめた事。その具体性に欠けた特訓が順調ではない事など。

そして、なによりも彼女を孤独から救う手助けをしたいのだと伝えた。

コクリっ、と静かに首を立てに振る芹香。

「そう、協力してくれるんだ。ありがとう先輩。え?今日の放課後に部室に呼んでくださいって?うん。判ったよ」

キ〜ンコ〜〜ン〜カ〜ンコ〜〜ンと安物のスピーカーから垂れ流される電子のノイズが煩わしいほど気が急いていた。

放課後。浩之は1Fにある琴音の教室の前で待ち、一緒に来栖川 芹香の待つオカルトクラブへ向かった。

「…藤田さん。どうしてオカルトクラブなんかに?」

別棟への渡り廊下を通り、オカルトクラブの部室へと向かう途中ではじめに沈黙を破ったのは琴音だった。

突然の教室への来訪に加え、妖しいことこの上ない”オカルトクラブ”へ行く。などと言われ不安を感じないはずもなく、

不安げに浩之に問いただす琴音だった。

「ごめん。俺も詳しいことはソコに行かないと判らないんだ」

「そんな!?それじゃ…」

「でもね。ソコにいる人も琴音ちゃんのように特殊な力を持ってて俺達に協力してくれるんだ」

無責任です。と非難の視線もあらわな琴音の言葉をさえぎりやさしい口調でさとす浩之。

琴音は特殊な力を持つ人と言われてすこし寂しく感じたが、自分の為なんかに協力してくれる浩之に

なんて我侭を言おうとしたのだろうと反省しうなだれた。

「大丈夫だよ琴音ちゃん。心配しなくていいから」

やさしく頭を撫でながら目を細める浩之。つられるように琴音も頬が緩み自然と笑みへと変わる。

「…ハイ。私、藤田さんを信じます」

胸元で両手をグッと握り締め身体で”ふぁいと”の意思表示をしていた。

部室の前に着いた2人が決意を視線で交差させ、浩之が扉に手を掛けた。

ガラガラガラッ…と木造のドアを横にスライドさせると、写真部の暗室のように厚いカーテンで外光を遮断していた部室内は

ろうそくの炎だけで薄暗かった。

淡い光がマントに身を来るんだ魔女のような格好をした来栖川 芹香を幻想的に照らしだしていた。

「……お待ちしておりました」

微風のように呟きが耳元に流れてきた。

促されるように中に入ると、ドアはガラガラと自動的に閉まり、ソコは再び外光届かぬ世界へと隔離された。

その日は珍しく目覚ましが鳴る前に目を覚めていた。気分爽快でカーテンを開けると雨が振っていた。

一気に憂鬱な気分の浩之だったがさっさと制服に着替えリビングで食パンを食べていた。

今日は焼く時間があるのにいつもの癖で生のままかじってしまい、今更って感じで結局は生パンなのだ。

牛乳で残りのパンも飲み込み、歯も磨いていつでも学校へ行ける準備が整った。

いつもより30分も余裕があり、かえって時間を持て余して落ち着かない。

「ふぅ、早いけど学校に行くか…」

ピンポ〜ン♪ピンピンポ〜ン♪と小気味よく玄関のベルが鳴る。

「浩之ちゃ〜ん起きてる〜?ひろ…」

素早く玄関へ向かうとガチャリと扉を開いた。

「………なっ!!?」

あまりに早く迎えに来た幼馴染に文句の一つでも言おうかと思っていたがその言葉は飲み込むしかなかった。

「あっ、浩之ちゃん起きてたんだ。ちゃんと今日が日直だって覚えてたんだね♪」

「……えっ?日直?…そんなことより…どうしたんだその髪はっ!?」

思わず見とれていたとは言えず、ぶっきらぼうに聞いてしまう。

以前のようなおさげではなく、肩の辺りで切りそろえたショートヘアにカチューシャのように黄色いリボンで整えていた。

…しかも金髪だった。

「なんで金髪なんだっ!校則違反で学校に入れないんじゃないのか?いや、それ以前におばさんは何も言わなかったのか!?」

「えっ?前に浩之ちゃんが制服に金髪はイイな〜とかいってたし…それにコレってお母さんが染めてくれたんだよ♪」

「あれはバイリンガルで本物の金髪なレミィだからイイんだよ。それにしてもおばさん…さすがだぜ」

しゅんとした顔つきであかりがそんなにこの髪型って似合わない?と髪の一房を手で摘みながら上目遣いに瞳を潤ませる。

そんなあかりに思わずドキッと胸が高鳴ったが視線を反らし、ボリボリと頭の後ろを掻きながら呟いた。

「い・いや、結構似合ってる……ソレって戦闘力はいくらなんだ?」

「…え?やだ浩之ちゃん…スーパーあかりんじゃないよ」

クスクスと笑いながらも、やだよこの子は…と、言って右手で口元を隠し、左手を胸元で猫招きのように手を上下に振る…

そんなすこしおばさん臭い仕草をするいつものあかりを見て思わず安心している自分。

同時に異性としてあかりを垣間見てとまどう自分を知ってしまった浩之。

「浩之ちゃん。そろそろ出かけないと日直の仕事が間に合わないよ」

「…そうだな」

外に降る雨はすでに止んでいたが、一向に気分は優れないままだった。

学校に着いて、しばらくするとあかりの周りは人だかりで壁ができていた。

「神岸さんイメチャンしたんだ!イイ感じだよ♪」

「金髪なんてどうしたの?先生に何も言われなかったの?」

「スゲーな神岸さん!メチャイケだよ!」

金髪は話題になったがトータル的にもあかりのイメチェンは大好評のようだ。特に男子などは必要以上に盛り上がっていた。

金髪については予想に反して何も問題がでなかった。そもそも、完全な茶髪はもちろん。青い髪の子もいればピンクの子もいる、

あかりも元は赤髪なんだし。その時点で金髪が1人増えたところで学業さえしっかりしていれば問題ないそうだ。

次の日、あかりは元の赤髪に戻していた。やっぱり俺が金髪はやめようぜ、と言った所為かもしれない。

 

このところ、放課後になると浩之は中庭へ足早に出かけていた。

琴音との超能力制御の特訓をするためだ。

始めは先輩が儀式で琴音ちゃんの力を抑えるなり、封じれないかと干渉してくれたのだが失敗したらしい。

例によって場が召喚された霊によって荒れたのだが幽霊部員の活躍によって大事に至らなかった。

先輩とも相談した結果。普段から適度に”力”を使うことによって”暴走”が起きないようにしつつ、意識した力の使い方

によって制御力を高めようというのだ。本などで調べていった結果、琴音の超能力は”念動力”と呼ばれる手を触れずに

物を動かせるという超能力のなかでもかなりメジャーな力だと判断された。

具体的に力について判ったおかげで特訓の具体的なプランも立てやすくなった。そして意識して物を動かす特訓を始めた。

まずは小さくて軽くて消しゴムからはじめ、最近ではテニスボールを同時に3つ動かせれるまでになった。

「いい感じになってきたな!琴音ちゃん!」

「ハイ。これも藤田さんのおかげです」

「じゃあ、次は…」

「じゃあ、次は長くて滑りそうなもの…ですか?」

浩之が指示しようとした言葉を引き継ぐように琴音が繋いだ。

「…琴音ちゃん。よく判ったね」

「ふふっ♪藤田さん…後ろに隠してあるモノが見えていますよ」

琴音の好きなキツネうどんも力で浮かせて食べる訓練もしてみたが、うどんだからといって力が滑ることはなかった。

しかし、うどんは冷めてしまっていたのであまり美味しくなかったようだ。琴音はかわいく頬を膨らませていた。

そんなある日の昼食時に食堂で琴音と熱いうどんを食べていた浩之の元にバスケ部の矢島という男がやって来た。

実は神岸さんとつき合いたいんだけど、仲を取り持ってくれないかな?と言うことだった。

「冗談だろ?なんで俺がわざわざそんな面倒なことしなくちゃいけねーんだよ」

矢島は背も高くルックス的にも性格的にも善い男と評判のバスケ部期待のホープだ。

普通、そんなヤツがわざわざ仲介など求める必要もないと思えた。しかしそれ以上に何か苛つく。

突然の不躾な頼みもだが、あかりが誰かと付き合うなどと考えたこともなかった。考えようとしなかった気がする。

訳も判らない動揺が走る。イライラする。

「そういうことなら俺じゃなくて、志保や雅史に頼んでくれよ」

「実はもう頼んだんだ…でも、浩之に怒られるのは嫌だからって断られたんだ」

(…あいつら)と浩之は心でぼやいた。

「なぁ、頼むよ!もう頼れるのは藤田しかいないんだよ!」

勘弁してくれという感じの浩之だが、この場を引く気のない矢島のためにシブシブだが承諾した。

「ただし、会うか聞いてみるだけだからな?ダメでも恨むなよ!」

そういい残して浩之は琴音に昼の特訓は中止すると言い残して教室へと帰っていった。

「………神岸さん…ね」

「…藤田さん。私、信じてますからね…クスクスッ♪」

いつも特訓をしている中庭で琴音の呟きは誰にも届くはずもなかった。

一瞬だが琴音の口元は微かに釣り上がり、少女らしからぬ妖艶ともいえる笑みを浮かべていた。

 

 

つづく

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□ あとがきです  ■□■□■□■□■□■□■□■□

二ヶ月ぶりに第2話なんか書いてます。本業が忙しいです〜なんて言い訳してみたり(^_^;)

楽しみにしてました?してねーって?まぁSSとかもどうしたって自己満足の世界になっちゃうので

あまり期待した感想を求められても内容を変える気無し!ってことも多々あります(笑

それで話の方ですが、まだ全然ダークじゃないですね…ウソつき?(^_^;)

まだ…なだけです。そろそろ物語の掴みも終盤?>まだ掴みかい!って感じで、このペースだと4話ぐらいには

染まってきてるキャラが1人はいるハズです。3話でちょとはダークになってきますよ〜マジで!

大まかな流れと設定はもうできてるんで、あとは自分好みに補正しつつ続きを書いています。

サブタイトルの”悪戯”ってどのあたりが悪戯かといえば話の流れとオチ自体が私からのキャラ達への悪戯って感じ(爆

かわいい子ほどイジメちゃいますか?ってヤツかも…本当のところは個人機密です〜

では〜次は3話のあとがきで合えるとイイな〜デス  \( ̄∇ ̄;

 

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