ちょっと真面目なコラム


江戸っ子・やすべえ

Chouchin.GIF こんばんは、今夜はおいらの独演会にようこそ。

 なんちって、ようこそ当演芸場へ足を運んでくださいました。今夜のトップを飾らせて頂きますのは、おいら、やすべいでございます。明日になれば忘れられちまうような、ちんけな芸しかできねえかもしれませんが、ご馳走の前の口汚し、思う存分愉しんでっておくんなせえ。力一杯勤めさせていただきます。お付き合いの程、よろしゅう、お願いいたします。

 さて、生まれも育ちも江戸っ子のおいらが、最近の東京の町に、何か違和感を覚えはじめた。そもそものきっかけは、居場所のねえ感覚だ。親子三代どころか江戸時代の昔から、花のお江戸以外の場所にゃあ住んだことのねえ家に育ったおいらが、今じゃあ肩身を狭くして、何か違うと感じてる。わけのわからねえ奴等がでっけえ顔してのさばって、粋の欠片もありゃあしねえ。こんな東京に誰がしたってんだ。

 渋谷を歩けば、へそを出した若え娘さん達が、手に手に取って歩いてる。それはそれでおいらの目の保養にはちょうど良いが、髪の毛が茶髪なのはいただけねえ。神武天皇の昔っから、日本人には黒髪が似合うと、天地天命、自明の理として決まってらあね。それをわざわざ脱色して、茶色くするとは嘆かわしい。一回自分の顔を鏡に映してしみじみ眺めてみろって言うんでえ。どっからみたって日本人、綺麗な顔した大和撫子じゃあねえかって、なあ。わざわざ毛頭の真似なんかするだけナンセンスってえもんでえ。もっと日本人の顔に自信をもたなきゃ、綺麗に生んでくれたお母さん、お父さんに申し訳がたたねえってもんだ。ああ、もったいねえ話だ。

 所変わって銀座を歩けば、老若男女を問わず、一見粋そうなのが歩いてる。でもね、カッコにだまされちゃあいけねえ。奴等の半分くれえは、喋る言葉が粋じゃねえ。銀座までお上りさん気分で買い物に来るのも悪くはねえが、我が物顔で歩いて貰っちゃあ困る。ここは天下の大通り、江戸っ子の町銀座でい。田舎物は隅っこの方ですっこんでろい!と、渇の一つも入れたくなる。西五番街を歩くにゃあ金がいる。金がいるからこそ銀座が銀座でいられるんでい。それを、散々飲み尽くしたあげくに、値切るヤツがいるからヤンなっちゃう。銀座の流儀も知らねえで、銀座に来るな!田舎もん!昼間の銀座にも似たようなおばちゃんがいる。三越で買い物して、まけて、もねえもんだ。そんなに安物が欲しければ、近所のスーパーで買い物してろってんだ。三越は高えから三越なんでえ。良い物を高く、それが銀座の商売なんでえ、わかったか、田舎もん!

 むかし、東京が江戸と呼ばれていた頃は、親子三代江戸っ子でえ、ってのが一つの自慢話だったもんだ、ってじいちゃんが言ってたけど、平成の世の中になっちまったら、親子十代江戸っ子くれえでねえと自慢にも何にもなりゃあしねえ。おいらの友達でも、親子十代ってえとなかなかいねえ。おいらの家は親子八代だし、近所の「ひろべえ」んとこだって十代は住んでねえはずだ。そこへいくと、ここの「みきぼう」んとこは筋金入りだね。やつの家は、遠く徳川家康の時代に家康と一緒に江戸っ子になったってんだから、そんじょそこらの奴等とは入ってる肝がちがう。でも、悲しいことにみきぼうん所も、長男のみきぼう以外はみんな江戸の町を出てっちまった。なんで?なんでって、次男坊のそうすけは銀行なんざで働いてるから、ジプシーみたいに東へ西へで、結局落ちついた先は神奈川だし、長女のなおすけは、旦那が埼玉に家を建てて出てっちまったし、三男坊のよしべえも、東京じゃあマンションも買えねえって、千葉にいっちまった。何かおかしいねえ。東京が江戸って呼ばれていた頃からここに住んでいた家族が、結局家を相続する長男坊以外全員、家が買えねえって出てっちまう。おいらは気楽に構えて借家住まいだから今でもこうして江戸っ子でいられるけど、おいらの子供達のことを考えると気が気でならねえ。おいらと兄貴まで八代続いた江戸っ子だけど、下手すりゃおいらの家はおいらの代で都落ちだ。勘弁して欲しいもんだねえ。土地に限りがあるのはわかるけど、代々続いた江戸っ子を江戸から追い出すような今の世の中、何か違っちゃいねえかねえ。

 おいらが生まれた神田の町も、とっくの昔にすっかり変わっちまった。最近は石を投げればパソコン屋の窓ガラスがパリンてなもんで、町中あっちこっちにパソコン屋だらけ。まったく、猫も杓子もとはよく言ったもんで、この世の中にパソコンなんか使うヤツがどれだけいるのかしらねえが、近所の八百屋が無くなっちまうほど電気計算機が売れてるたあ驚きだ。パソコン出来ない人は滅びると思います、なんてほざいているコマーシャルもあったけど、おいらと来たら愛も変わらずえんぴつ、算盤、藁半紙だから、とんとご縁はないまんま。それでも、かんたんじゃねえか、と渋い顔して娘の前ででも言ってみてえと言うスケベ心もないではないけど、おいらはやっぱり、ホンマはハワイにいきたか〜た〜、何て歌いたくねえから、パソコン何か買いたくないね。ホントのところ。

 さて、今夜もお付き合いいただきました皆様、そろそろお後がよろしいようで、おいらの口上もそろそろお開きの時間となってしまいました。おいらのヨタ話にお付き合いいただきまして、誠にありがとうごぜいやした。次に壇上に上がりますは、おいらと違って正統派、古典の大御所三平師匠でございます。お口直しと言っちゃ師匠に失礼だが、深みのある芸で身も心も元気になって、明日の活力にしてくだせい。それじゃ、おいらはこの辺で。ご静聴、ありがとうございました。

22th,June,1997 by Osamu Yamanaka


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