ひだまりの詩
僕は昔から洋楽ばかり聴いてきた筋金入りの洋楽派で、部屋のCDプレイヤーに日本のアーティストの作品が乗ることは滅多にない。しかし、ここのところ珍しく、ある日本のアーティストの作品がプレイヤーのトレイを独占している。
その作品とは、「ひだまりの詩」をヒットさせた「Le Couple」と言う二人組のサード・アルバム「Another Season-5番目の季節-」だ。日向俊文のプロデュースによるアコースティックな肌触りのラブソングが7曲収録されている。
聴きようによっては、どうということのない穏やかなラブソング集なのだが、演奏の雰囲気、声の質、素直な歌い方が相まって、非常に感動的な作品に仕上がっている。普段音楽を聴くときは、ほとんど歌詞など気にせずにサウンドやリズムばかりに耳が行く僕が、久しぶりに言葉に心を動かされ、非常に気に入ってしまった。
「Le Couple」と言うシンプルな名前の夫婦デュオ(と言っても旦那の方は歌うわけではなくギターだけなのだが)の音楽へ向けられた純粋な思いが、その演奏からひしひしと伝わってくるような気がして、思わず音の一つ一つ、言葉の一言一言に耳がいってしまう。挙げ句の果てには、気がつくと口ずさんでいたりするのだ。
大ヒットした「ひだまりの詩」に関しては、一見非常にシンプルな曲なのだが、実は非常に練られた曲であるように思う。メロディラインの完成度の高さは特筆もので、過度に情緒に走ることもなく、POPに走ることもなく、あざとい引っかけがあるわけでもなく、実に素直に音が流れていく。作曲者・日向俊文の底力を感じる出来映えである。
サウンドも、決してアコースティック楽器で演奏されているわけではないのだが、音の肌触りとしてアコースティックな感触を出すことに成功している。曲とアーティストを活かすアレンジと音色作りの上手さは際立っている。
デジタルな技術を使いながらもアコースティックな肌触りを色濃く出した曲と演奏に乗って、しなやかで素直な女性ボーカルが伸びやかな高音からはじまる歌に入ってくると、それだけで「ひだまりの詩」の世界が目の前に広がる。後は素直なメロディが耳に残り、言葉の一つ一つを聞くものの心に刻んでいく。それほど見事な仕上がりである。
そして、歌詞のすばらしさも手放しで賞賛したい。実に素敵なアフター・ラブソングである。失恋したら、こんな気持ちで終わった恋を振り返りたいものだ。
それにしても、こんな穏やかかつ地味目の曲が、ちゃんとメジャーレコード会社からCDとして発売され、テレビドラマで挿入歌として取り上げられ、しかも大ヒットを記録するとは、実に喜ばしい出来事だ。「ひだまりの詩」は、1997年を代表する歌の一つとして、また、普遍性を持ったラブソングの一つとして、これから長い間人々の間で歌いつがれ、聴きつがれていくことだろう。
「Le Couple」と日向俊文氏の、地味でも良いから息の長い、マイペースでのコラボレートを今後も楽しみにしていたい。
3,August,1997 by Osamu Yamanaka