眼科医へ行こう
今使っているコンタクトレンズを作ってから既に3年近くが経ち、そろそろ買い換え時になったので、新しくコンタクトレンズを作るべく十数年ぶりで眼科医のところへ行った。普通はコンタクトを作る時は、手軽に作れるコンタクト屋に行くところなのだが、今回は思うところがあって、意を決して眼科医にかかってみた。
実は3年前にコンタクトを作った当時から、目の圧迫感や原因不明の頭痛に悩まされ続けており、うすうすこの原因はコンタクトレンズなのではないかと思っていたのだが、当時コンタクト屋に「体質的に会わない人もいる」と言われて一応納得していたため、「自分は体質的にコンタクトは合わないんだろう」と考えて、そのまま3年間使い続けていた。しかしこの機会に、本当に体質の問題なのかどうか、新しいコンタクトを眼科医の処方で作ってもらい、それをしばらく使って確認してみようと思ったのだ。
今まで使っていたコンタクトレンズは、東京では有名なコンタクトレンズ専門店の支店で作ったものだ。しかも、一回の検査ではうまく度が合わず、3回も作り直したものだった。
最初に店に行った時、視力検査をして、いくつかのチェックを経てレンズを作ってもらったのだが、そのレンズは私の視力に全然合わず、激しい圧迫感があり、1時間もしていると頭痛がして来るひどい代物だった。作ったその場で「なんか、圧迫感があるんですが」と店の検査員に言ったのだが、「度をいままでよりも強くしたから、最初はそんなふうに感じるモノですよ」と言われ、そんなものかと納得して、とりあえずその日は帰った。
しかし1日経っても二日経っても圧迫感は消えず、頭痛もひどい。あまりの事に、数日後に再度店に行き、「絶対、度が合ってない!」と訴えて、再び検査をして貰い、レンズを作ってもらった。店の検査員は前回と同じ人だったのだが、「おかしいなぁ」何度も言いながらも、とりあえず交換はしてくれた。
が、結局その2枚目のレンズでも圧迫感は改善されなかった。自分の部屋で、コンタクトをした状態で右目と左目のモノの見え方の違いを確認してみると、右目で見ると色々なものが今までよりも鮮やかに見える。しかし左目で見ると、今まで通りに(眼鏡で見たときと同じように)見える。これは絶対に左右のレンズのバランスがおかしいに違いないと判断し、数日後、もう一度コンタクトレンズ屋へ行った。
3回目も、また同じ人が検査を担当してくれたのだが、「まだ合いませんか?」と半ば呆れたような口調で言いながら3度目の検査をしてくれた。3度目の時に、私は昔お世話になった眼科医が言っていた「眼鏡屋が作る眼鏡は、大概矯正しすぎて度が強すぎる」という言葉を思い出し、「レンズが強すぎるのではないですか?」と検査員に言ってみた。彼は、ちょっと怪訝そうな顔をしながら「私はこの仕事をもう15年もしているけど、そんなことはないと思う。それでもお客さんがまだ強いというなら、ご希望通りにもう少し弱いレンズにしましょう」と言い、もう一段階矯正の弱いレンズに換えてくれた。
この3回目のレンズは、それまでのものと比べると大分ましだった。それでも冒頭に書いたように、目の圧迫感や頭痛が消えたわけではなかったのだが、体質の問題ならば仕方がないと、半ば諦め半ば面倒で、それ以降3年間、つい先日までそのまま使い続けていた。
しかし、先日行った眼科医が出した私のコンタクトレンズに対する診断の結果は、「右目が過矯正」とのことであった。しかも眼科医が「これは結構ひどい部類に入る」と言うほどの過矯正だったらしい。3回も取り替えて貰い、自分から志願して度を弱めて貰ったのにも関わらず、この結果だったのである。私は、眼科医の言葉に心の中で思わず「やっぱり!」と手を打ってしまった(と同時に、もっと早く眼科医を訪れるべきだったと後悔した)。15年のキャリアを語っていた某コンタクトレンズ屋の検査担当者の処方は、間違いだったのである。眼科医はそうとは言わなかったが、私は、この3年間の頭痛や圧迫感の原因は、やはりコンタクトレンズだったのだろうと思った。
3年前に私のコンタクトレンズを処方した検査員を責めるつもりはない。ただ、コンタクトレンズ屋が行う処方に恐ろしさを感じている。キャリア15年の検査員でさえも正確にコンタクトレンズを処方することができないとは、如何に眼鏡業界やコンタクトレンズ業界の人材育成システムがいい加減なものであるのかがかいま見えて、空恐ろしい気持ちになる。
たかが目と侮るなかれ、眼鏡やコンタクトの処方を間違えると、単に目が見えない、見えづらいと言うだけではなく、偏頭痛にみまわれ意味もなくいらついたり、集中力が欠如したり、目が異常に疲れたり、ろくな事がない。そして、その影響は無意識のうちに日々の生活に大きく関わってくるものだ。仕事が上手く行かないわけも、人間関係が上手く行かないわけも、勉強が上手く行かないわけも、ひょっとしたら眼鏡やコンタクトのせいかもしれない。勉強も仕事も、正常に見えることが基礎である。目の調子が悪くてストレスを抱えているようでは、何事も上手く行くわけがないのだ。眼鏡やコンタクトが合わないばかりに不幸になっている人がどれだけいるのだろうと思うと、本当に恐ろしい。
この文章を読んで頂いた皆様に、私は心から申し上げる。眼鏡やコンタクトレンズを作るときは、街の眼鏡屋やコンタクトレンズ屋に行く前に、必ず眼科医に行こう。眼鏡の場合は、ます眼科医で処方箋を作ってもらい、街の眼鏡屋にその処方箋を持っていけば、その処方で作って貰える。コンタクトレンズの場合は、処方箋というわけにはいかないのだが、面倒がらずに専門の眼科医に行こう。コンタクトレンズ屋にも必ず眼科が併設されてはいるが、商売でやっているところでは大概忙しすぎて、ちゃんとした診断はして貰えないしアフターケアもない。故に私のようなケースが起きる。専門の眼科医で作った場合、医師が責任を持ってアフターケアまでして貰えるわけだから、絶対的に安心なのだ。値段も、激安品以外の定番モノを選ぶのならば、実はそれほど変わらない。
目の調子がいいと、それだけで気分も晴れてくる。眼鏡やコンタクトを作りたい人、今使っている眼鏡やコンタクトに不調を感じる人は、迷わず今すぐ眼科医へ行こう。「病気でもないのに病院に行くのはちょっと」と思う人もいるかもしれないが、眼鏡の処方やコンタクトの診断も立派に眼科医の仕事のうちなのだ。遠慮は不要である。眼科医へ行こう。
5th,February,2000 by Osamu Yamanaka