連載3ヶ月目に突入した「CD Rackからひとつまみ」、おかげさまで好評のうちに回を重ねてきています。4月の1回目は、初心に返って古今東西、アットランダムなセレクトでお送りいたします。テーマは「あっと!らんだむに行こう!」です。
1st,April,1998 by Osamu Yamanaka今月の一発目は、Grammy Winner!John Fogertyだっ!
1.「Blue Moon Swamp」John Fogerty
1997年に発売されたカントリー・フレイバー溢れるシンプルなRock'n Rollアルバムです。サンプリングもコンピュータも、エフェクターさえもほとんど使わず、エレキギターの生音?を中心としたバンドサウンドのみで、ゆったりとした見事なグルーブを聴かせてくれます。
このJohn Fogertyと言う人、実は1960年代後半から1970年代中盤にかけて、知る人ぞ知る往年のヒットメーカー「C.C.R.」の中心人物だった人で、Bruce Springsteen、Tom Pettyなど1970年代から80年代にかけてのアメリカン・ロックの潮流を作った人たちに大きな影響を与えた伝説的な人物です。
しかし、そんなRock史上の主要登場人物でありながら、昨年発表したこのアルバムでは、全くそんな事は意に介さずとでも言いたげに、現役バリバリ元気いっぱいのシンプルなRockを目一杯聴かせてくれます。
デジタルな音に飽きてしまった耳に、これほど新鮮に聴こえる音はありません。最近の音楽がみんな同じに聞こえる人には、お奨めのアルバムです。収録曲はどれも粒ぞろいですが、3曲目「Blueboy」、8曲目「Swamp River Days」などがお奨めです。
次は一転して、日本最大にして最高のゴスペル集団Voice Of Japanだ!
2.「VOJA」Voice Of Japan
Voice Of Japanは、メンバー40人を数える、おそらく日本最大級の「バンド」です。彼らの音楽は、一言で言うならば「声のバイブレーション」とでも言うべきもので、その圧倒的なボーカルパフォーマンスは一度聴いたら忘れられないくらいのインパクトがあります。音楽スタイルは、アメリカの同じような編成のベテランゴスペルバンド「Sounds Of Blackness」の影響を強く感じさせるもので、特に斬新さを感じさせるものではありません。しかし日本語で歌っているところに、言葉の力を増幅させる希有なボーカル集団としての限りない魅力を感じ、非常に好きなバンドの一つです。
「VOJA」は、彼らのファーストアルバムにして、現在まで唯一のフルアルバムです。正直のところこのアルバムでは、楽曲そのものに魅力のある曲が少なく、彼らの持つパフォーマンスの魅力を完全には伝え切れていないと思います。しかし、それでも収録曲のいくつかから、彼らの魅力をかいま見ることはできるでしょう。
一昨年の紅白歌合戦で和田アキ子のバックボーカルをやったり、昨年はプッチン・プリンのTVコマーシャルに出演して元気に弾けて見せたりと、少しづつ露出する機会が増えてきていますが、依然として地味な活動が続いているようです。今年も、彼らの動向には注目していきたいと思います。こういう本物の魅力を持ったバンドにこそ、是非日本でブレイクして欲しいものです。
収録曲でお奨めは、3曲目「Joyful Joyful」、5曲目「ボクノダイスキナ」、8曲目「ひょっこりひょうたん島」、11曲目「太陽のあかし」等です。昨年12月には、ミニアルバムも発表されているので、併せて聴いてみることをお奨めします。
3つめは、解散して十年が過ぎたことが信じられない、Boowy!!
3.「This Boowy」Boowy
氷室京介、布袋寅康を産んだ80年代日本のスーパーバンド、Boowyの10年ぶりの新譜は、過去の作品からセレクトしたベストアルバムでした。バンドは勿論復活していないし、今のところその兆しもありません。正直のところ今更Boowyに復活して欲しいとは思いませんが、氷室と布袋の二人がこの十年間にソロとして培ってきたものを思うと、是非もう一度コラボレーションして欲しいとは思います。二人がコラボレーションすれば、それはすなわちBoowyの復活となるのでしょうが、できればBoowyの名前を使わずに新たなプロジェクトとしてやってほしいと思います。極端な話、バンド名は「氷室&布袋(&松井&高橋)」でもいいくらいです。Boowyのイメージに後退は似合いません。前を向いて新しいことをやるために、もし一時でも復活するならBoowyではない名前でやって欲しいと思うのです。
「This Boowy」は、10年前のBoowyを知る人も、Boowyを初めて本格的に聴く人も、きっと満足できる内容のアルバムだと思います。この作品が企画された背景には、レコード会社の窮状等々様々な憶測も噂されていますが、できあがった作品を聴いてみると、流石はBoowy、古さをみじんも感じさせない見事な楽曲が、1998年の今も我々を素直に楽しませてくれます。これは全曲お奨めです。
今号の最後を飾るのは、知っている人はいるんだろうか?タンゴ・ヨーロッパだっ!!
4.「フラストレーション」タンゴ・ヨーロッパ
1980年代に大活躍した日本のガールズ・バンドと言えば、プリプリとShow-Yaがまず真っ先に思い浮かびますが、それらのバンドとほぼ同時期にデビューし、先の二つのバンドと同じくらい将来を嘱望されていながら、わずか3年にも満たない短い活動期間で解散してしまった不遇のガールズ・バンド、それがタンゴ・ヨーロッパです。
デビュー当時「女爆風スランプ」と呼ばれていたくらい、ハチャメチャなおふざけ系おもしろ路線の曲を演奏したかと思うと、全く別のバンドのように正反対の顔をしてシリアス系の真面目なJ-Popを演奏してみせる彼女たちは、プリプリやShow-Yaとは全く違う、実に摩訶不思議なバンドです。当時のガールズ・バンドの常で、彼女たちも演奏力に多少の難を抱えてはいましたが、ボーカルのさいとう奈々子の、おふざけからお色気、シリアスまで難なくこなす声の表現力は、とても強い魅力があります。
「フラストレーション」にも、おふざけ系の曲は勿論収録されており、その実力を遺憾なく発揮して見事に魅力的な作品に仕上げています。その一方で、極めて真面目なシリアスな曲もきっちり収録されており、感動的な演奏も聴かせてくれます。お奨め曲は、3曲目「ああ、発車オーライ」、5曲目「ホンダラ行進曲」(クレイジーキャッツのカバー)、6曲目「かしの樹の下で」(サザンのカバー)、7曲目「てぇーへんだ!てぇーへんだ!」、11曲目「桃郷シンデレラ」と言ったところです。
上記以外の曲には、流石に古さを感じさせられるものもあり、全ての曲がお奨めとは言い難いのですが、アルバムの最後に収録された「桃郷シンデレラ」だけでもこのアルバムを聴く価値は十分にあります。このオリジナル曲は、彼女たちが残した正真正銘の名曲だと思います。