3月の第1回目は、伝説のブラス・ロック・バンド「SPECTRUM」の特集です。
伝説のバンドと呼ばれるバンドは数あれど、彼らほど短い活動期間に強烈なインパクトを残したバンドもないのではないでしょうか?
スペクトラムが活動していたのは、1979年から1981年までのわずか2年間にすぎません。しかし、解散して既に17年が経過しているにもかかわらず、今なお彼らの音楽は、TVやラジオの番組でBGMやジングルとして頻繁に使われ、1990年代も終わりのこの時代に生き続け、街に流れているのです。
スペクトラムが実際に活動していた当時、その強烈すぎるインパクト故か、セールス的に大成功を収めることはついに一度もありませんでした。しかし当時から、音楽好きの間では決して無視することのできない圧倒的な力を持ったバンドとして、知る人ぞ知る存在ではありました。
スペクトラムが登場したとき、そのあまりにも個性的な音楽、衣装、ステージングは、時代の流れからは完璧に浮き上がっていました。彼らの音楽は、ド派手なホーンセクションをサウンドの中心に据えた骨太なバンドサウンドと、意味があるのかないのかわからない不思議な歌詞を真剣にハーモニーで歌い上げる、ファルセットを大々的に取り入れた3人のボーカリストの歌が両立するという極めて個性的なスタイルでした。また視覚的にも、時価1000万円ともいわれた角付き兜にマント姿のいでたちで、ステージ上にずらりと並ぶフロントマン5人が、トランペットをクルクル回すわ、ギターとベースもくるっと回すわの派手な動きを織り込みながら、自らの演奏に合わせて踊りまくるという、それまでの日本には全く存在しないタイプのバンドでした。
いや、「それまでの日本には全く存在しないタイプ」というのは誤りかもしれません。彼らの後にも、彼らと同じスタイルで活動しているバンドは一つも現れてはいないのです。
伝説のバンドは数あれど、そのほとんどは、現在有名なアーティストがかつて所属していたバンドであるとか、新しいタイプの音楽スタイルを初めて日本に紹介したバンドであるというようなものが多く、そのバンド自身の魅力だけで伝説になっているバンドは極めて少ないと言わざるを得ないと思います。本当の意味で伝説になるのにふさわしいバンドは、唯一無二の存在でなければなりません。
SPECTRUMは日本では極めて珍しい、まさしく唯一無二の存在、伝説のバンドです。
それでは早速、アルバムを紹介していきましょう。現在彼らのアルバムは、全てオリジナルな状態でCDで復刻され、ビクター音産から発売されています。
スペクトラムのメンバー達は、それまでも様々な歌手のバックミュージシャンとして活動を続けてきた人たちなので、デビューアルバムとは言え音楽的には既に完成の域に到達しています。彼らにとって初めてだったことは、自分たちの名義で曲を作りアルバムを作ったことと、歌わなければならなかったことぐらいでしょう。
収録曲はのっけからブラスサウンド大爆発で、今も昔も、おそらく将来も彼ら以外のバンドでは聴くことのできない、素晴らしく格好いい尖ったフレーズの応酬が続きます。発表から約20年が経過していることなど、最初の音を聞いただけで吹っ飛んでしまうことでしょう。是非、大ボリュームで聴いてみてください。
唯一難を言えば、やりたいことが多すぎて1曲の中にいろいろ詰め込みすぎた傾向があり、曲の構成がすっきり覚えやすくまとまっていないことでしょうか。
全体的に曲も演奏も極めてレベルが高いのですが、中でもお勧めは「Act Show」、「Memory」、「Tomato Ippatsu」あたりです。
お次は、2ndアルバムにして多分彼らの最高傑作「Optical Sunrise」!
音楽よりも何よりも、派手な衣装が一番話題になったスペクトラムのデビューだったのですが、最初のコンサートツアーやTV出演などを通じて、徐々にその独特かつ高度な音楽性、良質なエンターテイメント性が高い評価を獲得しつつあった頃に発表された2枚目のアルバムです。
1998年の現在、TVやラジオでBGMやジングルとして使われているのは、このアルバムの収録曲が一番多いと思います。彼らは、2枚目にして早くも彼らの音楽を集大成する圧倒的な完成度を持つ最高傑作を生み出してしまったようです。1枚目で感じられた曲の構成の弱さは完全に克服され、アルバムとしての曲の流れも完璧であり、収録曲7曲を一気に聴かせる圧倒的な魅力を持っています。また遊び心を見せる余裕も生まれ、まさにバンドとして上り坂の絶好調な時期に、勢いに乗って作り上げた素晴らしく魅力的な作品です。
このアルバムには、スペクトラムの全てがあると言っても過言ではなく、全曲がお勧めです。比較的有名な曲としては「In The Space」「Sunrise」の2曲が収録されています。スペクトラム入門としても、最もお勧めの1枚です。
お次は、音楽的に滅茶苦茶高度な技を駆使しながらも、少し変節が感じられる3rdアルバム「Time Break」
このアルバムの発売と前後して時計のTVコマーシャルにバンドとして出演したスペクトラムは、「角付き兜の変なバンド」として一般にも知られるようになり、ほぼ唯一ともいえるヒットシングル「夜明け(アルバ)」を生み出しました。しかし「角付き兜の変なバンド」のCM出演は、確かに彼らの知名度を上げることにはなりましたが、一方で他に比べるもののない強力な個性が見事に誤解され、「色物バンド」と言うレッテルを貼られることにもなってしまいました。
そんな状況の中で発表された3rdアルバムは、過剰なまでの音楽的な冒険に満ちた作品です。LPレコードのA面全部を使って約20分にも及ぶ非常に難易度の高い組曲を作り、圧倒的な実力を誇示するがごとくこのアルバムに収録したのは、「色物バンド」と言う誤解されたレッテルに対する彼らなりの抗議だったのでしょう。
実は私は、このアルバムだけ持っていません。欲しくないわけではないのですが、なかなか売っていないのです。
多分、スペクトラムの名前をTVコマーシャルに出演していた変なバンドとして知っている人の間では一番有名な曲「夜明け」を収録していますので、復刻した彼らのCDのなかでは一番売れていると思われます。故に品薄なのかもしれません。
人によっては、このアルバムを彼らの最高傑作に推す人もいますが、私はこのアルバムは既に下り坂に入りつつあったバンドの状況を示し始めているように聞こえ、1stや2ndと比べて魅力の面で勝っているとは思えません。演奏で駆使されているテクニック面では、過去最高の非常に高度な技を随所に散りばめて制作されているのは明らかですが、まとまりや勢いが最初の2枚と比べてもの足らないのです。
4枚目は、スペクトラムの崩壊を暗示するように各メンバーのソロ作品を集めた形のアルバム「Second Navigation」
音楽的な目的の元に団結していたスペクトラムは、音楽的な進化がストップすると同時にバンドとしての目的を見失い、一気に崩壊への道を歩き始めたように見えます。
この4thアルバムでは、これまで全ての曲の作曲者は「スペクトラム」名義だったのに対し、全曲がメンバー各自の名前がクレジットされた作品で占められています。収録された曲は、スペクトラムがこれまでに演奏してきたどの曲とも違い、各メンバーのソロ作品的な作品ばかりです。
もともと各メンバーに地力があるバンドなので、ソロ作品もそれぞれ個性的で面白いのですが、前作までに感じられたような圧倒的なバンドとしてのポテンシャルの高さは、各曲のアレンジの中にわずかに現れている以外には全く失われ、全体に魅力に欠けています。少なくとも、時代を超える力を持った作品はこのアルバムの中に見いだすことはできません。
とはいえ、いわゆる「良い曲」がないわけではありません。1曲目の真っ直ぐなロックンロールナンバー「Night Night Knight」には今まで見せたことのない魅力がありますし、11曲目の解散を直接感じさせる3拍子のバラッド「Second Navigation」はしみじみとした実に良い曲だと思います。
5枚目は、何故こんなアルバムを作ったのか理解に苦しむ(^^;)スペクトラム流スネークマンショー?「SPECTRUM BRASSBAND CLUB」
事実上4枚目のアルバムを制作した時点で既に解散状態であったと思われるスペクトラムの、スタジオ録音ラストアルバムです。このアルバムは、なんと、当時流行していたスネークマン・ショーみたいなギャグ・アルバムです。コントも音楽も時代を感じさせ、特に見るべきものは何もありません。今となっては、他のアルバムを聴いて彼らが好きになった人向けのコレクターズ・アイテム以外の何物でもないでしょう。
スペクトラムの最後のアルバムは、日本武道館で行われた解散コンサートのライブ「SPECTRUM FINAL」です。
わずか2年間の活動期間だったにもかかわらず、圧倒的な存在感を示した唯一無二のバンド・スペクトラムが最後に姿を現したのは、満員のお客さんが出迎える日本武道館でした。
4thアルバム制作後、バンドとしての活動は既に停止していたはずなのに、このライブでの彼らは、見まごう事なきバンドとして見事に復活しています。アルバムで展開される演奏は、解散コンサートとは思えないほど瑞々しく勢いがあり、勿論演奏技術の面でも完璧に完成されたバンドのサウンドを聴かせてくれます。スペクトラムは、誰もが認める実力派ライブバンドだったのですが、その事実を今に伝える素晴らしいアルバムです。
収録曲は、ほとんどが1stアルバムと2ndアルバムからの選曲で、3rd、4thからは1曲づつしか演奏されていません。
気合いの入った完璧な演奏と和気あいあいとした雰囲気は、本当に解散コンサートとは思えません。1stアルバム、2ndアルバムと並んで、この解散ライブのアルバムもお薦めです。
7th,March,1998 by Osamu Yamanaka