アイドネウス島

PT工学・SR工学の最高峰である、テスラ=ライヒ研究所の出張所として、この島は存在した。

10年前まで、この太平洋の孤島のある海域はとあるポリネシアの諸島国家の管轄にあった。

現在では、TPCの委任統治領という形になっている。

特に何もない無人島・・・資源的価値も、考古学的価値もなく、観光資源もない。

そんな場所に、一部の科学者が集まりだしたのは、この島が無人島ではなくなった10年前。

ちょうど、ウルトラマンティガと邪神の戦いのすぐ後だった。

太平洋上の古代遺跡「ルルイエ」の調査過程で、この島は発見された。

当初、何の価値もないと思われたこの島が注目されたのは、邪神との戦いの最中に落ちてきた「隕石」のせいだった。(混乱のおかげで、一部の天文学者以外は気づかなかったのだ。)

その物体には、いくつもの奇妙な点があった。

落下時に制動をかけた形跡とその物体・・・「メテオ1」にかけられた重力アンカー。

そして、数年に及ぶ秘密調査の後に、量子組成の違いからこのメテオ1が地球外どころか、この宇宙の外・・・平行宇宙の存在であることが確認されたのである。

その他にわかったことは、このメテオ1が人工物であること、メテオ1から幾らかの技術情報が取得できたこと、そして・・・

このメテオ1のなかに、ある物が埋め込まれていたことである。

「LJP」・・・「The Last Judgment Person」・・・「最後の審判者」と名づけられた、完全自動型の兵器。

何らかのキーを元に発動されるものと思われたそれは、時空転移の衝撃であろうか、完全に機能が破壊されていた・・・

そして、ここから得られた技術情報はEOT「エクストラ・オーバー・テクノロジー」として、テスラ研および、アルケミーチャイルド・・・後のアルケミースターズによって管理されることになったのである。

一時期は、それを研究するための機関・・・EOTI機関と呼ばれるはずだった機関の設立構想もあったが、これらの事実を秘匿するために一切がテスラ研で行われることとなった。

そして・・・

以来この島では、今もパーソナルトルーパー・スーパーロボット・アーマードモジュールなどの研究が行われている。

現在、試験が行われている機体は複数あるが・・・

その中でも、一際目立つものがあった。

DCAM-001「ヴァルシオン」・・・

天才科学者にして、テスラ研の創立者ビアン=ゾルダーク博士の開発した対怪獣・対機動要塞用アーマードモジュール・・・

別名「究極ロボ」である。



スーパーヒーロー作戦SPIRITS
第十二話「烈風の緑」



「ここか・・・アイドネウス島というのは・・・」

一艘の高速艇にのった、短髪の男はそういって嘆息した。

上空には、G.U.A.R.D.戦闘機隊と新型AM「リオン」の編隊。

そして、大地にはG.U.A.R.D.陸戦部隊が新型陸上母艦「ライノセラス」とともにびっしりと配置されている。

おそらく、海中には戦略原潜・攻撃原潜がひしめいていることだろう。

ここまで、何とか警戒網を抜けてたどり着いた・・・いや。

この規模の警戒線を抜けるなど、たとえ彼でもそう簡単に行えるはずがなかった。

まさしくたどり着かされたようにも思えたのである。

「まるで要塞じゃないか・・・しかし、ここに潜入しなければ、やつらの・・・財団の手がかりはつかめない・・・」

決意を固めたように、彼は素早く衣服を脱ぐ。

それを耐水バッグの中に詰め、彼はその体を海に投じた。

(待っていろ・・・愛・・・お前の仇は、きっと取る!)

彼の名は風祭真。

有名な臨床免疫工学博士、風祭大門の一子である。

彼は、生化学研究所ISSに招かれていた父と、同じくその面での権威である鬼塚義一によって、ある実験を行われた。

表向きは、癌やエイズ・・・レベル3以上の根本治療が困難な病の治療などを研究していたとされるISSだが・・・

(だが、違った・・・!俺は・・・)

遺伝子レベルでの人間の強化。

改造兵士を作り上げ、戦火の火薬庫になっている地域へ売り込み、火種とする。

それが目的だった。

財団・・・と呼ばれる、巨大な組織を背後に持つ彼らが改造兵士を作るに当たって目標としたもの。

それこそが、かつて世界を震撼させた潜在的侵略組織・・・ショッカーの野望を叩き潰した「仮面ライダー」だった。

レベル1では酵素などによる免疫の強化を、レベル2では強化細胞の投与・改造によっての人体強化、そして・・・

レベル3では、遺伝子レベルでの改造を行い、完璧な改造兵士を作り上げる。

その手術を、鬼塚によってひそかに行われた・・・

そして、彼は悪夢を見るようになった。

毎夜見る、殺人の夢。

警官を殺したり、一般人を殺したり・・・

そして、やがて。

それが、夢ではないとを知R>
鬼塚義一が行ったそれを、彼とまったく同じ改造を施された真は、飛蝗が持つと言われるテレパシー能力で感じ取っていたのだ。

(鬼塚は、人類の新しい進化・・・種を超えるとかほざいていたが・・・そんなことの・・・ためにっ・・・!)

そう・・・それを知ったころ・、セーラ深町と名乗る女性が彼の前に現れる。

彼は、危機に陥った彼女を結果的に救うことになった。

強力な力で圧倒する鬼塚を前に、彼は始めて「変身」したのだった。

鬼塚・・・そして、改造兵士レベル2豪島を退け、人間の姿に戻った彼は彼の唯一の理解者、明日香 愛に相談した・・・

・・・彼女と関係を持ったのもそのころだ。

彼の体を元に戻すことを頼む、と言った愛だったが真との子供を妊娠していたことが発覚し、ISS所長・氷室によって、これ以上の研究続行を拒んだ大門とともに監禁されてしまう。

やがて鬼塚は失踪し、そしてセーラ深町が率いる部隊がISSを襲撃した・・・

そこで大門を含む、ISS関係者全員が抹殺された。

そして・・・その戦いで、愛は死亡し・・・そして彼には彼女との愛の結晶が残された。

「優」と名づけられた、ミュータントベビー・・・

優を守りながら、彼は追手を撒き続け・・・

逃避行の末、彼らはある男に保護された。

そして、その男の制止を振り切って、彼は財団の足取りを追ったのである。

慎重に足取りを追い、陰謀の核心へと迫ろうとし・・・結果、たどり着いたのが、ここアイドネウス島だった。

(そして・・・)

「俺は、今ここにいる。」

湾から離れた所から上陸した彼は、服を着るとゆっくりとした歩調で施設へ向かって行った・・・



エリアルベースの食堂は量は少ないが、栄養価が高く、味もよい。

その上、甘いものも多いため女性には人気だった。

そして・・・甘党・・・具体的に言えばイチゴスキーのこの少年も、御多分に漏れずこの食堂にいた。

「Bランチについてくるイチゴ大福にするか・・・Aランチのイチゴショートにするのか・・・?困ったな。」

「いい加減にしろ榊・・・後ろがつかえてるんだ。」

「いいじゃないか、虚さん。あんたしか並んでないんだし。」

「うるさい・・・Aランチのイチゴショートをやるから、Bランチにしろ!!」

そういうと、強引に榊をどかし、AランチとBランチのランプを押した。

「俺は、今日のAランチのカレーピラフを楽しみにしていたんだ。いい加減にしやがれ!!」

「・・・そっちこそふざけんな!誰も並んでなかったんだから、いいだろって言ってるじゃねーか!!」

「・・・船の生活が長いと、食事と体動かすくらいしか楽しみがないんだ・・・怒らせないでくれ。」

起こるのも馬鹿らしいと感じたのか、げんなりとそういう虚に榊は頭をかきながら、

「アー・・・それはわかるけどよ。俺もあんたも、必要以上にネットとか本とかに触れねーからなぁ。すまね。」

と言った。

そして口論を双方切り上げると、榊は最後にボソリといった。

「あ、イチゴショートはもらうぜ?」

メインディッシュカレーピラフ以外にあまり興味のない虚が快諾したのは、言うまでもない。

「・・・・・・今日は、イチゴばかりだな・・・誰かの陰謀か?」



「なぁ・・・何で、こここんなに人少ないんだ?」

「さぁな。丁度いい時間だからじゃないのか?今何時だと思ってるんだ、10時だぞ。」

榊の疑問に、カレーピラフを口に運びながら虚は答えた。

榊はさも不満げにそれを一瞥すると、次は別の質問を返した。

「んじゃ、何で俺らだけ昼飯早く食え、って言われたんだよ?」

「ああ、それはな・・・午後のダヴライナーででかけるところがあるからだ。」

カレーピラフの最後の一口を名残惜しそうに口に運び、彼はそう行った。

「はぁ?聞いてねえよ!」

「言ってないからなぁ。言ってなきゃ、わかるわけない。」

榊のあからさまな文句に、虚はそういって流した。

「・・・アイドネウス島って言う、地図には乗ってない島がある。そこに用事があるんだよ。」

「・・・?用事、だと?」

「そう、用事。」

怪訝そうにそういった榊に虚はにべもなく言い放ち、トレイの片付けに入った。

「今回入った情報はな・・・そこで極秘裏に開発されている超兵器・・・そしてある技術情報網を何者かが狙っている、というものだ。そして、俺が独自につかんだ情報だが・・・今、世界中で暗躍を続けている「財団」・・・あるいは単にコードで「Revenger」と呼ばれている組織・・・が劇の敵役である可能性が高い・・・」

「何・・・?」

「その組織は・・・こうも呼ばれている。ギリシャ神話における復讐の女神「ネメシス」・・・ともな。」

虚はそういうと、何か引っかかること・・・あるいは、思い当たる節があるのだろうか神妙な貌で黙りこくった榊を置いて、食堂の出口へと向かった。

「・・・さて、ビアン=ゾルダーク・・・どう出る?」

そうして、虚と榊の二人もまた、アイドネウス島へ向かうことになるのだった。



―――ネメシス、か。

榊は、そう頭の中で言った。

「・・・どこかで聞き覚えがある・・・もしかすると。」

―――自分を改造した連中かもしれない。

どこか直感的に、榊はそう思った。

「まぁ、出て来ればわかるか・・・」

そう、もし・・・

そこに、彼が以前戦った『蜘蛛』と名乗る男か・・・あるいは、元ショッカー大幹部が現れれば・・・

ネメシスこそが彼の忌むべき敵だということになる。

・・・そして。

彼の直感は当たることになる・・・



ダヴライナー乗り場

発着場には悠子が一人でいた。

「どうした・・・悠子。なぜ、ここにいる?」

扉が開くと、虚が入ってきてそういった。

言葉には、深い憂いと僅かな柔和さがあった。

「ん・・・帰ってくるよね・・・」

いつもの悠子とは違う、感情のない声が響いた。

「・・・ああ。多分な。」

「そう。」

「もしもの時は、お前に任務を託す。機密文書の解読コードは・・・」

そういって、虚は天を仰いだ。

「『I believe my friends forever.』だ。よく、覚えておけよ。」

「わかった・・・」

その、悠子の言葉に満足げに頷いて虚は休憩所のソファーに腰を下ろした。

「昔、どこかの星に任務で行ったときにな・・・「旅人」から聞いた言葉を残していく。もし俺が死んだら、遺書代わりというわけだ。」

「・・・死なないでよ。」

「死ぬつもりはないさ。でも、100%がありえない以上残していくよ。」

そういって、虚はうつむいて深い笑みを浮かべた。

「『The world is not beatiful.Therefore,it is.』」

深い深い微笑を浮かべながら、歌うように静かに彼はそう言った。

「・・・それ言うってことは、絶対死ぬ気ないんだよね。おっけー。認めたげるよ。」

彼の人差し指でずれたメガネを直すようなしぐさを見ながら、悠子は打って変わった明るい笑みをこぼしたのだった。



やがて、午後のダヴライナーが到着し・・・

たった二人の乗客を乗せて出発した。

中ごろの席に座った、虚の席の一個空けて隣に座った榊は少し考えた風にこう言った。

「なぁ・・・前も聞いた気がするが、本当はどうなんだ?」

「ああ・・・ネメシスと呼ばれている謎の組織がヴァルシオンなどのデータを狙っているのは本当さ。アレは「究極ロボ」とまで呼ばれる、地球圏最強の兵器だからな・・・今のところ。」

機内食のパンを齧りながら、彼はそう言った。

「ヴァルシオン?」

その言葉に、榊は敏感に反応した。

「そうだ・・・アーマードモジュールと呼ばれる、人型機動兵器の一号機にして最強の攻撃力と防御力を併せ持つまさに「究極」と呼ばれるべきスーパーロボットだ。」

「アーマードモジュール?」

「・・・そうか。そこから説明してやらにゃならんか・・・」

そういうと、虚は少し考えて・・・

「大体の意味では、飛行可能なパーソナルトルーパーに近いが・・・その多くには特殊な技術が使用されている。」

「特殊な技術・・・ねぇ・・・」

「それは機密事項さ。まだ教えるわけにゃぁいかないんでナ。」

そういってはぐらかすと、はっと気づいたように虚は榊に言った。

「・・・パーソナルトルーパー自体、よくわからないとか・・・?」

「・・・当然だろ。俺は民間人だぞ。」

・・・いや、民間人でもPTの存在くらい知っていると思うぞ・・・

ちなみに、パーソナルトルーパーとはマオ=インダストリー社で開発された人型機動兵器の総称である。

「・・・頼む、勉強してくれ!それくらい知っててくれないと本当に困るんだ!」

虚はその榊の無知ぶりに、呆れたようにため息をついた後、珍しく頼み込むようにそう叫んだのだった。



アイドネウス島についた二人は、検疫その他事務手続きを済ませると、ある施設へと向かっていった。

要塞・・・と表現するべきだろう、と奇しくもこの島にすでに潜入している、風祭真と同じ感想を榊は抱いた。。

(この戦力を他に振り向けたら、地球の支配くらい簡単にできそうだなぁ・・・)

だからこそ、ここの兵器のデータを欲しているのかもしれない、ということにはたと気づき彼は少し身震いした。

(責任重大・・・か。そして・・・)

逸る榊の心のようにながら、連絡用のジープは猛スピードで施設内を走っていった。

「ついたぞ、榊。この下だ。」

そういうと、虚はジープを降り、その近くにあるエレベーターのボタンを押した。

降りた先には、巨大な格納庫と・・・一人の男がいた。

「ようこそ、戦士たち・・・私がビアン=ゾルダークだ。」

「・・・相変わらず、仰々しい物言いですねぇ・・・ビアン博士。」

ビアン、と名乗ったひげもじゃの中年男・・・鋭く意思強き目を持った精悍な・・・は虚のその言葉を聞くと、笑顔を浮かべた。

「ハハハ、そういうな。」

そういうと、彼は榊を見た。

「ふむ・・・あの男に似ているな、雰囲気が。」

「・・・なんだよ、あんた?ビアンだかバアンだかしらねえけどよ、何でそんな風にじろじろ見てるんだよ!気持ち悪いなぁ・・・」

「ふふふふ・・・そのような率直なところも、彼にそっくりだな。柊君・・・もし彼に会うことがあったなら、白川君は帰った、と伝えておいてほしい。」

まじまじと榊の貌を見ながら、ビアンは虚にそういった。

「わかっています・・・彼は、後数年は姿を見せないでしょうね・・・少なくとも、今の混乱が収まるまでは。」

「そうだな。」

虚は、その話題はこれで終わり、という代わりのように、榊のことを紹介し始めた。

「彼は、陣内榊。以前お話した仮面ライダー黒狼・・・つまり。」

「つまり、本郷君の甥、というわけだな?」

「・・・あんたがどこまで知ってるかは聞かねえけど、とにかく俺が陣内榊だ。よろしくな、おっさん。」

ビアンの面白がるような声に、嫌な気分にでもなったのか、榊は唇を尖らせてそう言った。

「失礼だぞ、榊・・・まぁ、この人に過分な礼儀は不要だと、俺も思うけどな。」

にやり、と笑って虚も普段の口調に戻った。

「博士・・・ところで、アレの完成具合はどうなのです?」

真剣な顔つきになり、ビアンにそう言った。

「・・・まぁ九割五分といったところだ。後は駆動系の調整と本格的な実戦テストだけだよ。」

ビアンもまた、真剣な顔つきでそう言った。

「・・・アレ?くるとき言ってたヴァルシオンのことじゃねえのか?」

榊は、率直に疑問をもらした。

「・・・ああ・・・私も、あまり乗り気ではなかったのだがね。ヴァルシオンの量産機・・・ヴァルシオン改、だ。」

「・・・本当に、アレを量産するつもりなのですか?」

「いや・・・できればぎりぎりまで、それは行いたくない・・・君のおかげで、改式をすぐに量産する必要もないので・・・な。」

そういうと、ビアンは何もない格納庫のほうを見た。

「それに、量産型のスーパーロボットは敵に奪われるのが相場だからなぁ。」

おそらくは、ここにヴァルシオン改を格納するのだろう、天井はすごく高い・・・おそらく、80mはある。

天井には、整備用のクレーンが無造作に吊り下げてあった。

「おっさん・・・それ、どのくらい大きいんだよ。」

天井の高さを見上げ、榊はそういった。

「ああ・・・全長57m、全備重量550tだ。」

「大きいな・・・」

ビアンの言葉に、少し感心したようにそういって、榊は嘆息した。

そして、ビアンはといえば、自らの言葉に続けるように、こう言った。

「・・・あのノート・・・君が、U-Gノートと呼んでいた、アレはすごいものだったよ。ある意味、メテオ1・・・いや、「セプタギン」と呼ぶべきか・・・より多くのEOTを得られた。」

「・・・」

「アレにあった、「エゼキエル」・「ハバクク」・「ヴァイクル」という機動兵器の複製が開始されたよ。いずれも、現在の地球圏の兵器水準を大幅に上回るものだ。あの膨大な技術情報が狙われているんだよ。」

押し黙った虚に向かい、ビアンは言った。

「・・・あのノートの流出は、地球圏の存亡だけではない・・・宇宙の全てを崩壊させかねない。見も知らぬ平行宇宙の存在が、この宇宙を滅ぼす・・・これは、まさに悪夢だ。」

「悪夢・・・それは、そうです・・・あのノートは、あの人があるときから記し始めたものでした。あの人は、アレを書き上げることそのものが、「見も知らぬ自ら」の為の贖罪だと言っていました。それが何を意味するものなのか、なぜそんな危険なものを書かねばならないのか。子供だった私には理解できませんでした・・・」

そういって、虚は悲しい、遠い目をした。

「今でも・・・よくわかりません。でも、私はこのノートをあなたとダニエル議長・・・そして、義父に渡しました。義父は利用するつもりはさらさらないようですが、あなたがたはアレを使った。それがこの宇宙に何を及ぼすのか、それはまったくわからないのです・・・くれぐれも、気をつけてください。」

「ああ。あの男は・・・あのノートを記した男は、我が友人だった。大切に使うよ。」

誰もが悲しみを覚えそうな、そんな声で言った虚にビアンはそういって、ふっと微笑んだのだった・・・

U-Gノート・・・それが何を意味するものなのかは、今はわからない。

わかることは、そこには異世界・・・平行宇宙の膨大な技術情報が収録されているということと、虚に深くかかわっていたであろう人物が書き記したものである、ということ・・・

そして、「ネメシス」はそれを欲している、ということ。

それだけしか、わかっていない。

宇宙に取り返しのつかぬ混乱をもたらしかねない、このノートをビアンに渡したことも・・・

かつて、彼が本郷猛に語り、我夢やパットに言った「Super Hero Spirits」のための何か、なのだろうか?

それすら、まだわかっていないのだ。

この一時が何を意味するのか、誰もまだ・・・知らなかった・・・

「ん・・・?そういえば、榊君がいないな。どこへ行った?」

「さぁ・・・?」

その時、虚は気がついていたのだろうか、榊がその場からいなくなっていた。

それは・・・



そのころ 格納庫脇の小部屋

そこは、とても暗かった。

証明は・・・スイッチが、見当たらない。

見当たったとしても、この状況で彼がそこに手を伸ばす理由はないだろう。

なぜなら、彼には見えていた、からだ。

「・・・手前、だれだっ!!」

狼のような瞳が、暗闇にギラリと光った。

そう・・・改造人間としての肉体が、彼にこの暗闇を見せていた。

そして・・・

「お前こそ・・・誰、だ?「財団」の・・・連中か?」

そこには、黒髪の短髪と三白眼、TシャツとGパンを履いた精悍な男がいた。

榊は、彼がまっすぐに、暗闇で見えないはずの自分を捕らえていることを確認していた。

体を低く屈め、明らかにこちらを警戒している。

「・・・もう一度聞く。手前・・・誰だ?少なくとも、俺は「財団」・・・ネメシスの人間じゃねえ。」

「何・・・?」

「聞こえなかったのか?俺は「財団」じゃねえ!」

榊がそう叫ぶと、彼はようやく警戒を解いたのか、すっと腰を上げた。

「そうか・・・あの状態で走っている俺を見つけられたから、てっきり連中かと思った。」

安心した、というより、間違えてしまったことを照れるようにそう言った。

「俺は、風祭真。今は・・・無職だ。君は?」

「俺は、陣内榊。高校生のつもりだ・・・あんたも改造人間・・・なんだな?」

榊がそういうと、真は「君も・・・か?やつら、に?」と言った。

それを聞いて、榊のほうも完全に警戒を解いた。

「・・・かも知れねえ。それを確かめに来た・・・とでもいうか、な。」

彼は、ぽりぽりと頭を掻きながら後ろを振り向き、照明をつける。

「・・・あんたは、どうしてここへ?」

「・・・仇、だ・・・」

そういうと、真はポツリポツリ、事情を説明し始めた。



「なるほどな。殺された恋人の復讐・・・か。なんか、わかるかもしれない。俺も、秋子姉を殺されたら・・・」

榊は、やりきれないだろうな、と付け加えて、そこら辺のソファに腰をかけた。

「・・・そしてある日、何者かが俺に連絡を入れてきた。「お前の仇は、アイドネウスに現れる。」と。」

真も向かいのソファに腰をかけ、

「・・・アレから数ヶ月。手がかりと言った手がかりは、何一つなかった。これが、最後の頼みだった。だから、俺は本郷さんの制止を・・・」

とまで言ったとき、榊は、ぶっ、と言う古風な吹き出し音を出して真に聞いた。

「・・・本郷さんだと?お前、本郷さんにかくまわれてたのか?」

「・・・そうだ。今は、それ以上話す気はない。優を危険にさらすからな・・・」

疲れたように真はつぶやくと、再び怒りを思い出したか、体を震わせた。

「・・・氷室は俺が殺した。後は、鬼塚・・・!あいつの動きは、バッタのテレパシーのおかげで近づけばある程度わかる。だから、この島にいることだけは確かなんだ!!だが、意識を閉じているらしい。正確にはわからない・・・!」

「そっか・・・なら、俺も協力するぜ。そいつらが、俺の敵なら俺も用事があるからな。」

そういうと、真は「これは俺の復讐だ・・・と言いたいが、俺一人ではどうにもならないかもしれない。協力してくれるなら助かる。」

榊が思ったより素直に、彼はそういうとスターネットの端末を取り出した。

そして、それをすばやく手近な高速回線ケーブルに接続する。

こうして、また新たなる運命が動き出した。

激情を秘めた復讐の改造兵士・真はここから大戦史に名を刻むことになる。



地下格納庫

いまだ、二人の会話は続いていた。

「イーグレット博士は・・・逮捕されたよ。U-Gノートに書かれていたものと同じものを、開発・・・いや、創造しようとしていたから、だ。」

「・・・そうですか・・・やはり、あの人の見た世界とこの世界には何らかの共通点がある・・・」

虚の遠い声を聞き、ビアンはつぶやく。

「・・・もし、君の追っている組織が、これに気づいたら・・・どうする?」

それに対して、虚は事も無げにこういった。

「・・・それには、肝心な・・・そう、メタグロスが狙っている、あのシステムの情報は記載されていません。本当に危険だ、とあの人が判断したものは意図的に除外されているようです。」

そして虚は、おもむろにジャケットのポケットからナイフを取り出した。

「誰だ・・・そこに隠れてやがるのは?!」

ヒュっ!

風を切って、ナイフが虚の手を離れた。

ドスッ!

「ぐがっ!」

悲鳴とともに、ドサリ、と何かが倒れこむ音がした。

「・・・ち。やはり・・・か。」

暗がりの中に手を突っ込むと、そこにはナイフが深々と胸に刺さった男の姿があった。

そして、その姿が見る見るうちに溶けて青い泡となって消えていく。

「・・・連中の工作員・・・メタグロスではない、か。」

虚はその泡に手を合わせてから、そうつぶやく。

そして、ビアンに向き直ると言った。

「どうやら、すでに相当数の工作員が紛れ込んでいるようです。気をつけてください。」

「・・・うむ。このためだったな。あの男をこの島に招いたのは・・・」

「ええ。そちらは招かれた、とは気づいていないかもしれませんけど・・・」

そう・・・

やはり、真はこの者たちによってこの島に、意図的にたどり着かされたのだ。

ネメシス・・・と呼ばれている謎の組織の実態調査のために。

「・・・行きましょう。情報どおりなら、連中は仕掛けてくるやも知れません。」

虚はそういうと、ビアンに退避するよう促した。

「・・・場合によってはヴァルシオンの出動も、ありうるな。」

如何に強固な防衛力を誇る、この島の駐留軍でもゲリラ戦法で内部をかく乱されれば、頼りになるのは単機戦闘が可能な決戦兵器のみ・・・

そして、今この地にある対怪獣用決戦兵器は・・・ヴァルシオンしか存在しない。

・・・それはとりもなおさず、ビアン博士自身の出撃を意味していた。

―――これは・・・娘に会えなくなるかも知れんな・・・

虚とともに、表層部格納庫へ向かいながらビアンはそう考えていた。



「・・・ここか。」

榊と真の二人は、大きな潜水艦の前にいた。

地下格納庫のさらに奥・・・

潜水艦用の秘密港がそこにはあった。

端末から手に入れた情報では、最も怪しい・・・と思われた船がそこにはあった。

地球圏でも有数の大企業、NMSの所有するものだ。

この船は、一月近く前から停泊しているらしい。

・・・この船の積荷の大半が、食料品である。

ところが、降ろされた積荷は明らかに当初の予定よりも少ない・・・

しかも、「社用に使っているが、社長の個人所有物である」との一点張りで内部調査を断り続けている・・・

それが、この船が出航を見合わせている理由だ。

そして、島側でも詳しく調査をしていない・・・まるで何かを待っているかのように。

怪しいといえば、怪しくない、というほうが無理なくらいである。

「NMS所属、民間用大型輸送潜水艦「ヒューぺリオン」。基準排水量20000t水中排水量35000t・・・この名前は、何かの皮肉か・・・?」

・・・そう、まさに皮肉だろう。

なぜならば、ギリシャ神話においてヒューぺリオンとは「高き者」を意味し、星々の神々を生み出したという神だ。

その名前を、地球で最も低いところ(海底)を行く潜水艦に名づける。

皮肉以外の何者でもないだろう。

「・・・さすがは、自ら報復と正義の神を自称するだけはある・・・ぶち壊したいくらいに頭にくる・・・!」

その言葉を受けてか、榊は「行こうぜ」とだけ言って潜水艦に近づいていった。

ハッチを見る。

「・・・音紋式か・・・」

「関係ねーよ。ぶっ壊しちまえば、同じだ。」

榊の言葉に、真は「・・・まだ気づかれたくない」と返し、端末を使用して慎重にロックをはずしていった。

「は・・・弊害だな。なんでもデジタルにするからこういう風に・・・」

かちゃ。

「端末さえあれば、大概の物が騙されてしまう。」 

ロックの外れたハッチを手早く廻し、真と榊は慎重に艦内に侵入した。

艦橋には、誰もいない・・・

二人とも、てっきり敵が待ち伏せているとか、不法侵入をとがめられるとか・・・

何らかの方法による妨害があると期待していたのだろう。

訝しげな顔で、お互いの顔を見合わせ・・・そして、やはり慎重に次の部屋へと足を踏み入れていく。

ソナー室、機関室、その他居住区・・・

だが、そのどこにも、誰もいなかった・・・

「どう、いうこと・・・だ?」

榊はそうつぶやいて、最後の扉・・・貨物室の扉を開けた。

そこには、未開封の缶詰やレトルト食品、カップ麺などの箱が山と積んであった。

その奥には、「冷蔵室」「冷凍室」と表示された扉が見える。

「・・・おかしい・・・いくらなんでも・・・」

真がそういったときだった。

『・・・いくらなんでも・・・何かね?』

どこからか、声が聞こえた。

『人がいない、といいたいのではないですかね?ゾルさん。』

別の声が、もうひとつの声を・・・ゾル、と呼んだ。

そして、隻眼の軍人が姿を現す・・・

「・・・やっぱり、テメーか・・・ゾル!」

「うむ。久方ぶりだな。陣内榊。アレから元気にしていたかな?クックックック・・・」

そして。

同じように、倉庫の暗闇から白衣を着てメガネをかけた神経質そうな男が顔を出す。

「・・・鬼塚・・・!」

「おお、誰かと思えば風祭君じゃないか。月並みだが、再会を嬉しく思うよ・・・ハッハッハッ・・・」

お互い、遺恨をお持つ相手が現れたようだ・・・

「・・・何をたくらんでいる?」

「お前の相棒から聞いたとおりだよ。我々の任はここで貴様らを釘付けにすることだ。」

ゾルがそういうと、鬼塚、と呼ばれた男が続ける。

「私たちとしても、君たちのような優秀なサンプルのデータがほしい!と思っていたんだ。なにぶん、前回ゾルさんが・・・榊君、君のデータを取ったときは彼が遊びに興じてしまったために、聖剣体の十分なデータが取れなかったからねぇ・・・今日は満月ではないけれども、通常体の戦闘力を完全に測り終えたいんだ・・・協力してくれないかい?」

真剣そのものの態度で、鬼塚がそういうと・・・

「・・・貴様――――!!!」

真の叫びが木霊した。

「鬼塚・・・相変わらず人をサンプル扱いか・・・貴様のようなやつは、俺が決して許さん!!ぁぁぁああ・・・・!!」

真が、獣の叫びを上げながら、変わっていく・・・

「ギュキシャァァァァ・・・・!!」

人以外のものの雄たけびを上げて、彼はバッタそのものの異形へ形を変えていった。

「・・・ふー・・・テメーらみてーな外道どもを許しておくわけにゃあいかねえんだよ・・・!変身!!」

榊の体も、黒狼へと変わっていく・・・

それと同時に、ゾルと鬼塚もまた異形へと転じて・・・

戦いが、始まった。



「クク・・・まだ話すこともできない不完全な進化では、私には勝てないよ。風祭君?」

「グロオオオオオッ!!」

その鬼塚の言葉を無視するかのように、強靭な脚力で鬼塚に突進していく真・・・

だが、その歩みが彼の手前でストップする。

「クク・・・バッタの持つテレパシー能力と、人間の根源に眠る「力」を組み合わせると、こんなこともできるんだ。」

サイコキネシス。

念動力と呼ばれるものが、フィールドを展開していた。

「グ・・グゥウウウァァァァァ!!」

「・・・念動結界に捕らえられたか・・・つまらないな、風祭君。もう少し粘ってみてくれ。君にもすばらしい力が芽生えるかもしれない。」

完全に歩みを止められた真は、憎憎しげに眼球を動かし鬼塚をにらんだ。

「ふー・・・こちらは、しばらくデータ取りさ。『金狼』さんそちらは任せた・・・アンチT-LINKフィールドを張られないでほしい。」

鬼塚はそういうと、真を見据えたままダンボールの一つに腰をかけた。

「・・・ふ・・・わかったわかった。さて・・・黒狼、この間よりは大分ましになったな。良い師についたようだ・・・わかるぞ?」

「・・・わかるか?貴様は必ず俺が倒す!!本郷さんや隼人さんの手を煩わせるまでもねえ!!」

榊は叫ぶと、何とか隙を見て真のほうへ向かおうとするが・・・

「・・・行かせんよ。この間学んだことだがね、即席でも連携というものは怖いものだ・・・遊んでいる暇がない以上、連携をあえてさせる理由がなかろう・・・?」

『金狼』がさえぎる。

十数m離れれば、アンチテレキネシスフィールドも役には立たない・・・

そして、その距離まで近づくことをこの全身武装の怪人は許さないだろう・・・

追い詰められた・・・自分たちが完璧に罠にはまったことをミサイルを必死に避けている榊も、身動きひとつ取れない真もひしひしと感じていた。

―――迂闊だった・・・人の気配がしなかった時点で引き返していれば・・・!

真がそう後悔の念を抱いた時だった。

倉庫の壁の向こうから、声が聞こえたのは・・・

―――ここか。

――――行くぞ。

そして・・・

ライダーヘッドクラッシャー!!!

グワッシャアアアアッ!!!

壁が、砕けた!!

「・・・ほう。」

膨大な量の、建材が砕けた塵芥が飛ぶ。

そして、それは一瞬砕けた壁のほうを隠し・・・

やがて、晴れた。

・・・そこには。

「・・・仮面ライダー1号!!」

「同じく、2号!!」

・・・そう。

緑の仮面が二つ・・・

烈風が吹いた。

続く。




次回予告

「・・・鬼塚。お前は、その狂気で何を手に入れた?」

男は言った。

「・・・至高への道です。」

男は言った。

「ゾル。生き返ってまで何がしたい?」

男は言った。

「さて・・・それを教える必要はないだろう?」

次回、スーパーヒーロー作戦SPIRITS

「復活!ダブルライダー」

魂より継がれし物語、今こそ語ろう・・・






後書く時

あ〜ばろん、あ〜ばろん、う〜るわしの〜♪(byロマサガ2

最近スーファミにはまったり、キノの旅にうつつを抜かしたりしてる愚か者参上です。

前回は失礼いたしました。

浦谷参上です。

秋子さん「さて、なんかすごい変なものがたくさん出てきましたね。」

ええ。スーパーロボット大戦のほうの事物が多かったですね。

それもまた伏線、ということで。

秋子さん「ははぁ。でも魔装機神を出す気はない、と。」

そのとおりです。マサキとかは出さないがゆえに、あのような記述でお茶を濁しました。

もともとビアン博士は魔装のほうの人らしいですが、第二次スーパーロボット大戦やスーパーロボット大戦Original Generationなどで圧倒的な存在感を醸し出してましたから、出したいな、と。

秋子さん「確かに、あのキャラは濃いですからね。」

というわけで、次もアイドネウス島でのお話です。乞うご期待。

秋子さん「では・・・次回もこの番組で会いましょう。」

シュワッチュ!!



・・・時雨沢恵一氏のような、壊れ風味でセンスのいい後書き書きたいなぁ。

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