◎△◇県 キタガワ市

住宅街の片隅を一台の車が走っている。

座席には一組の男女。

虚と悠子だった。

彼らが、この地方都市に来ている理由は・・・

キタガワニュータウン。

ニュータウンという言葉が使い古されて久しいが、とりあえずこのキタガワ市の郊外に新しく作られた住宅地はそう呼ばれていた。

10年前の動乱時、この町はメトロン星人という宇宙人の実験場となったことがある。

その事件で多くの人が「赤い結晶」入りのタバコを吸って狂人と化すという事件がおきたのだ。

その事件が解決した後、当然のことながら町の評判は悪くなった。

減った人口を何とかするために町は町興しとしてさまざまなことを行い、最終的にニュータウンの建設ということとなった。

しかし・・・

このあたりの新しいベッドタウンとして機能するはずだったその界隈は今、不気味に静まり返っていた。

真新しい建物と、真新しい住人・・・

古くから住んでいたものは、そこに不安を覚える・・・たとえ、住民たちの素性も事情も調べる気になればできる時代になったとしても。

そんな土地で起きた些細な事件。

ひとつの家族が行方不明となり、その家族の住んでいた家に赴いた一人の自称UFO研究家も消えた。

普通ならマスコミをしばらく賑わせて終わり、となるはずだったその事件だったが、ひとつの事実が不可解だった。

家族が失踪した当日、空に奇妙な仮面浮かんでいる幻覚を見た、という人間が一人や二人ではなく存在したのである。

そして、その事件から数日を経ずして、火山地帯でもないのに突如土地が隆起し新しい山が出来た。

・・・その証言、そして出現した山に不審なものを感じた虚と悠子は避難勧告のせいで閑散としたこの町の調査を始めようとしていた。

「とりあえず、その家にでも行ってみよっか?」

「ああ・・・今回の事件は手口が宇宙エスパー犯罪結社マドーに似ている・・・現場を探せば、何か手がかりが見つかるかもしれないからな。」

そして、マドーが現れるならば地球担当の宇宙刑事であるシャリバンやシャイダーが現れるだろう。

それも、虚の考えのひとつだった。

「・・・彼らもまた、Super Hero Spirits のために必要な人材だからな・・・早めに接触しておきたい。」

そう言って虚は車を止めた。

「さて・・・ここか・・・噂の幽霊屋敷は・・・」



スーパーヒーロー作戦SPIRITS
第十四話「幻夢」



虚と悠子がこの町を訪れる少し前。

やはり、一組の男女が同じように町を訪れていた。

一人は精悍な顔つきの男性。

もう一人は活動的な感じを受ける女性だった。

「いくぞ、リリー。」

「わかっているわ、シャリバン。」

彼の名は伊賀電。

またの名を宇宙刑事シャリバンという。

3年前、とある山林の森林警備隊員だった彼は宇宙刑事ギャバン・・・一条寺烈と出会う。

些細な誤解から烈を痛めつけてしまった彼はそのすぐ後に、宇宙犯罪結社マクーのダブルモンスターに勇敢に立ち向かい、瀕死の重傷を負ってしまった。

彼を死なせたくないと思った烈は、彼をバード星に送り、彼はその優れた医術によって助かった。

・・・その後、過酷な訓練を受け、宇宙刑事となった彼はギャバンやシャイダー・・・そしてATXチームとともにマクー、フーマ、アインストと戦ったのだ。

その歴戦の勇士である彼が再び地球に派遣されたわけ・・・それは・・・



幻夢界 幻夢城

ふぁぁあ・・・はぁぁぁあ・・・・

不気味な声が部屋中に響いている。

不気味な色彩の暗い部屋・・・

無数の球体が浮かび、そのそれぞれが光を放っている。

そこに金色の神像・・・いや、悪魔像が立っている。

刺々しい外見と手に持った二本の剣。

まるで後光のように背後が光っているのが逆に不気味である。

実に禍々しい印象を受けるその像はまるで生きているかのようにその腕を動かす・・・

いや、生きているのだ(・・・・・・・)。

『何・・・?シャリバンめが早くも嗅ぎ付けただと・・・?』

「ハッ!例の町でなにやら嗅ぎまわっているようです。それに加えて、G.U.A.R.D.の連中も動き出したようで・・・」

神像の言葉に、異形のカブトをかぶった女性が返す。

「まんまと罠に掛かったようです・・・ふふふ・・・」

『邪魔者は消すのみ・・・魔怪獣を送り込め・・・』

神像は不気味に言う・・・

ピシャァン!!

そのとき、何もないはずの空間に雷が響き、そこから風変わりな出で立ちをした男が現れた。

「クックック・・・面白そうじゃねぇか・・・俺にも一口乗せてくれよ・・・」

粗暴な言葉とそれに似合ったラフな格好をした男だ。

「何者!?」

女性がそう叫び兵を呼ぼうとするのを、神像が静止した。

『やめよ、ドクターポルター・・・何の用だ・・・”メタグロス”・・・』

「ふん。俺の名前はメタブレイド。メタグロスは組織名だ。」

幾分か気を悪くしたようにそういうと、メタブレイドと名乗る男は言った。

「どこがこの星に手引きしたと思ってるんだ、魔王サイコさんよ・・・」

「ぶ・・・無礼なぁっ!!」

ドクターポルターはそう叫んで彼に手に持ったムチの一撃を加えようとした。

しかし・・・

ガシィッ!

ムチは放たれる前に彼の手によって捕まえられ、そのまま音もなく崩れ去った。

「な・・・?!」

「・・・部下の躾がなってないな、ふん。」

メタブレイドはそうつぶやくと、ポルターを一瞥して言った。

「怒ってばっかだと、すぐに老けるぜ、女。顔の作りは良いんだから、吠えんなよ。」

「な・・・!」

愚弄されたと感じたのだろう、ポルターはこちらをにらんできたが、彼は一向に気にせずにサイコへ向かって言った。

「シャリバン・・・とかいうやつを殺したいんだろ?少しだけ、手助けしてやるよ。ただし。」

『ただし・・・?』

「俺は好きなようにやらせてもらう。そっちの計画の邪魔はしないが、手助けもしない。俺が手伝うのは、あくまでそいつを殺すことだけだ・・・」

楽しげにそういう彼に魔王と呼ばれた神像は重々しく答えた。

『良かろう・・・最悪の場合・・・計画が失敗しても、お前がシャリバンを殺すということだな・・・?』

「そういうことだ。まぁ、大船に乗った気でいてくれよ。」

それだけいうと、メタブレイドは空間に溶けるように消えていった。

「魔・・・魔王様、あやつはいったい・・・?」 

『食えぬやつだ・・・あやつは、我をこの星へ導いたもの・・・この星に我らの目指すものがあると答えた男だ・・・』

「な・・・なんと!ではこの星に・・・!」

『そうだ・・・あるのだ。マドーの万年王国を築くために不可欠な’アレ’がな・・・ク・・・クックック・・・』

酷薄な含み笑いをもらすサイコは空間の隅に蟠る闇に一言告げた。

『行け・・・’海坊主’・・・メタブレイドを監視するのだ・・・クックック・・・ハ・ハ・ハ・ハ・ハ・・・』

その言葉を聴いていなかったように、ポルターは言った。

「では・・・魔怪獣を・・・」

『うむ・・・』

うぅぉんうぉんうぉん・・・・

ビカッ!ビカビカビカ!!

サイコのつぶやきとともに輝きが生まれ、周囲を浮遊していた球体が凝集して・・・

エイを模したような、異形の化け物へと変わった。

・・・魔怪獣・・・ビーストと呼ばれるマドーの怪人は幻夢界に存在する異常な核酸細胞が凝縮・結合された怪物である。

『行け・・・エイビースト・・・まずはキタガワ市をマドーの黒い血で塗りこめよ・・・シャリバンめを倒さぬ限りマドーの発展はない・・・戦力を固め、確実に抹殺するのだ・・・』

黒い声が響き、神像が雄たけびを上げた。

カォォォォォーーー!!



再び、キタガワニュータウン

そう、シャリバンが再び地球に派遣されたのはマドーの殲滅のためであった。

そして、彼らはすでに幾度かの交戦を経て今、ここにいるのだ。

「・・・さすがに避難勧告が出ているだけはあるな。誰もいない。」

「・・・そうでもないようよ、シャリバン。アレをみて。」

そう言って、リリーが指を指した方向には公園があり、そこで浴衣を着た女性や子供が、お囃子か何かで使いそうな狐の面を被って遊んでいた。

あるものはブランコを揺らし、あるものは滑り台を何度もすべる。

とにかく、すべての人間が公園で遊んでいるのである。

怪訝そうに、シャリバンたちがそれを避けて通ろうとすると、突然彼らは振り返ってこちらに近づいてきた。

「大きいつづらがいーい?」

「小さいつづらがいいの?」

「ああ、つづらより食べ物?」

「ねえ、僕らと遊んで?」

口々に子供たちがそういう。

普段なら、そしてここが祭りの会場だったなら。

無邪気な子供たちとの戯れを楽しんだかもしれない。

だが、どこか息苦しい、薄霧に包まれたような薄曇の空の下、全員が同じ格好で、次々と話しかけてくる様は不気味であった。

「あ、お兄さんたちは忙しいんだ。それでね、できれば、でいいけども最近家族が消えたって言う家を知ってるかな?」

シャリバンは、不信感を必死に押し殺してそうたずねた。

・・・予想通り、子供たちは「しーらなーいよー」と言って駆けていった。

まるで、空間をすべるように。

そして、彼らはまた先ほどと同じように遊び始めたのだった。



「ふん・・・気にくわねえな。見事に何もない・・・まるで、夜逃げでもしたみたいだ。」

「確かに。なんもないねー。」

ガランとした家の中を虚たち二人は探索していた。

「本当にここが家族が消えたって言う家なのか?」

「間違いないはずだよ・・・だって、ほら。」

そういって悠子が指差した方向には、明らかに力尽くで破壊されたタンスの残骸が置かれていた。

「ふん・・・これは多分、敵の落し物だろうよ。みろ、この切断面を。」

虚が手に取った残骸の切り口は、鋭い刃物で断ち切ったよりもまだ滑らかなものだった。

それは明らかに、自然界ではありえないものだ。

すなわち・・・

「チ・・・おそらく、異空間に吸い込まれたときに取り残されたんだろうな。それでこんな鋭利な切り口になった、と。」

そう論評して、虚は考える。

(・・・何が狙いだ?人間をさらって、土地を隆起させる・・・ここを基地にするつもりなのか?)

そこまで考えたとき、視界の端を動くものが見えた。

「だれだっ!?」

「うわぁっ!?」

壁の影にマットに包まっているそれは、少年と犬だった。

めがねをかけて利発そうな少年だが、今はおびえでその色は見えない。

「・・・どうしました、君はここの家の子ですか・・・?」

「・・・それより、この子怪我してるよ?手当てしなきゃ・・・」

悠子がそういって彼の手に触れようとしたが、彼は手を振っておびえた様子を見せた。

「いや・・・だ・・・うう・・・」

数日はここで恐怖に耐えてきたのだろう、その言葉にも力がない。

「・・・衰弱してるな・・・これを飲め。」

そういって虚は錠剤を取り出した。

「薬だ・・・飲めば楽になります。事情を・・・教えてくれませんか?」

その錠剤を疑わしそうに呑み、悠子の笑みを見ると、少しは安心したのか、少年はポツリポツリ話し始めた。

「・・・お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんもいなくなっちゃった・・・夜トイレに行こうとして、ドアを開けたら、何にもなくて・・・」

鬼のような顔が見えて、それはこっちをずっとにらんでいて・・・

あまりの恐ろしさに、馗を失ってしまったらしい。

そして、気付いたら何もなかった。誰もいなくなっていた。

自分と、ペットの犬だけがそこに残されていた・・・

そこまで話すと、少年は堰を切ったように泣き始めた。

「お兄ちゃん〜〜うわぁぁぁぁぁ・・・」

泣きじゃくる子供を前に、虚は薬を悠子に渡すと、

「ここでこのガキを守っているんだ。外を見ろ。」

と小声で言った。

悠子が窓の外を、注意深くのぞくと、そこには前シーンでシャリバンらの前に姿を現した不気味な狐面の集団が集まってきていた。

「・・・俺が行く。お前は、ここにいろよ。」

凄みのある声でそういうと、虚は部屋を出て行く。

「うん、がんばって・・・」

悠子の声を背中に受けながら・・・



そのころ、電もまたなぞの集団に襲撃を受けていた。

リリーと引き離され、通信もできない。

明らかに異常な空間で、明らかに異常な集団に追い回されている。

―――こんな馬鹿な・・・

「く・・・!何なんだ、この連中・・・」

不気味な空の下に合わぬ行進曲を奏でながら、パレードの一団が彼を囲み、いっそう大きく彼の耳に音波を叩きつける。

パパパパッパーパッパーパッパッパッパーー♪

その音が電の思考力を奪っていく。

「まずい・・・」

そう思ったとき、一団は突然異形に姿を変えて襲い掛かってきた!

その腕には楽器ではなく、鋭利な刃物。

それを大きく振りかぶり、彼に刺そうと,あるいは切ろうと振り下ろす!

それを間一髪でよけて、電は地面を蹴った。

「シュウッ!」

驚異的なジャンプ力・・・まるで空中をかけるようなジャンプで壁の上に立つと、無表情な仮面をつけた集団を見下ろす格好となる。

そいつらに反撃をしようと、地面に降り立とうと再びジャンプしたが・・・?

突然、見える景色が一変する。

「うわっ!?」

面食らって転倒すると、そこはどこかの線路の上だった。

かんかんかんかん・・・

しかも踏み切りの音が聞こえている、つまり・・・

「くそっ!轢かれてたまるか!」

そう叫んで、彼は転がるように線路から身を翻した。

ふと気付くと、一人のシスターがこちらを見下ろしているではないか。

そのシスターが持っている聖書をこちらに投げつけ、それが爆発する。

それを間一髪でかわし、電は再びジャンプした。

彼は今度こそこの異常空間から、と淡い希望を抱いたが・・・しかし、再び景色が一変し、気付けばそこは先ほどの公園・・・いや、公園を見下ろせる場所にある家の前だった。

しかも・・・周りを狐面たちに囲まれている。

―――かーごめかごめ

――――かーごのなーかのとーりーはー

少し甲高い、子供のような、女性のような声でカゴメカゴメを歌っている。

―――いーつーいーつーでーやーるー

――――よーあーけーのばんに

キーーーン・・・

耳鳴りがし始めた。

「くっっ!」

ガツ!

そのとき、突然一人が下駄を飛ばしてきた。

「ガッ?!」

そして、彼らはその面をとる。

その面の下は、さっきの無表情な仮面をつけた男たち。

「くそ!マドーめぇっ!」

がし!どがぁっ!!

その男たちをなぎ倒していくと、電は視界に別の男が写っていることに気付いた。

「・・・く、新手か?!」

「待て!俺は味方だ!わけはこいつらを片付けてから話す。」

そういいながら、現れた男は次々と仮面をなぎ倒していく。

「・・・君は?!」

「ヒイラギ!柊虚だ。」

バコン!!

強烈な蹴りを敵の顔面に叩き込みながら、その男・・・虚は言った。

「てめえで最後だ、死ねっ!!」

ゴキィ!!

最後の男にマウントポジションで正拳を叩き込み、ぐったりさせると虚は、ふう、と息を吐いた。

「・・・君は?」

「ああ・・・私は、柊虚です。さっき言いましたよね?」

「そうじゃない。何者なんだ、と聞いている。」

半ば以上の疑念を込めた、電のその言葉に虚はもう一度ふっと息を吐くと、

「・・・『天』って聞いたことあるか?宇宙刑事。」

口調を一変させてそういった。

「・・・銀河連邦警察の裏の仕事と聞いているが、それを知っているのは本人たちと上層部、それに辺境担当の俺のような宇宙刑事だけだ・・・まさか?」

「察しが早くて助かる。俺は、特殊処理部隊『天』のものだ。だが、機密事項を敵かも知れん男に話すのはよくないな。」

「あ・・・」

「ふっふっふ。ギャバンから話は聞いてるよ、シャリバン。そういう、うそのつけない、素直な男だってな。とにかく、俺の母艦へ行こう。話しはそれからだ。」

そう言ったとき、公園の方からリリー、家の中からは少年と悠子が向かってくるのが見えた。

「・・・まずは、あのガキを病院に連れて行かなくちゃぁな。」



「久しぶりだな・・・ギャバン。通信で話すのも2年ぶりだ。」

「・・・カイザードか?どうしたんだ、なぜ地球に?」

カイザードの通信にギャバン・・・

かつての地球担当宇宙刑事ギャバン・・・またの名を一条寺烈という・・・は驚いた。

それが、もしバード星からだったならこれほどは驚かなかっただろう。

しかも、友人の隣に部下がいるのだ。

少しは驚いてしまうのが、人情というものであろう。

「任務だよ。そんなに驚かなくてもいいだろう?出世したのに、そういうところは変わってないな・・・」

「ふん、コム長官の養子で超エリートのくせにそんな汚れ仕事ばかりやってるお前にいわれたくないぜ!」

「クックック・・・まぁ、そういうなよ。宇宙刑事ほど派手じゃないが、これも十分に必要な仕事だぜ。」

窮地の間であること示す、そんな砕けた会話にシャリバンが少し戸惑っていることを見受けると、ギャバンはゴホン、と咳払いして、それから言った。

「・・・君たちが遭遇した異常な体験は、サイコゾーンの一種かもしれない。」

「サイコゾーン?」

シャリバンが怪訝そうにそう問うと、ギャバンは言った。

「うん。魔王サイコは強力な人工頭脳でその支配地域一帯に幻影を作り出すことができる。マドーは超常現象を故意に起こし、待ち伏せしていたとも考えられる。」

「確かにな・・・魔王サイコなら、そのくらいはできるか。」

カイザードがそういうと、ギャバンは頷いて、

「ああ、再調査には十分な警戒が必要だと思う。幻影に惑わされず、実像を見極めるんだ!頑張れよ!」

色気のあるウィンクをして、ギャバンはそういったのだった。



再び、キタガワニュータウン

悠子とリリーを少年の入院した病院に張り付かせ、電と虚は再びこの町へやってきていた。

「にしても、ずいぶんと古い外見だな、そのジープ。」

「そういわないでください。機能は問題ないですし、気に入ってるんですよ。」

「ま、好みだしな。」

虚はそういうと、前回とはまるで雰囲気の違う町を歩いていく。

「サイコゾーンは切れているのか・・・?」

「おそらく。」

気を張り詰めながら、二人は歩いていった。

「・・・チ・・・ここまで前回と違うと、気分が悪いな。」

虚が不快そうにうそう言ったときだった。

「・・・アレは!」

向こうから、明らかに登山装備をしている男が二人、こちらに近づいてきていた。

「・・・?」

不信感いっぱいでその男に尋問しようと近づくと、突然男は手に持ったハンマーを振りかぶった!

「なぁっ!」

ガツン!

地面がえぐれる。

もう片方の男も、手にアイスピックを腰だめに構えて次々と攻撃を仕掛けてくる。

見れば、いつの間にか彼らはあの仮面の男となっており、後ろからは幾人もの仮面が追ってきていた。

その中には、あのエイビーストもいる。

化け物につかみかかられ、苦しむシャリバンごと蹴り飛ばして怪物を引き剥がしたり、逆に助けられたりしながら虚は叫んだ。

「く・・・やっぱり油断させる罠か!」

「やるぞ、シャリバン!!」

そういって、虚は手を前に突き出した。

その手をくるりと回し、目の前で両手をクロスさせる。

電もまた、上着を脱ぎ捨て、手をくるりと回して、右手を左前に突き出し、最後に両手で天をつかむようにする。

「陽装!」

「赤射!」

カッッ!

赤い光が二つ生まれて、消える。

気がつけば、崖の上に二つの赤いシルエット。

「宇宙刑事!シャリバン!!」

「悪しき世界のページを繰るのはお前たちではない!陽光戦士カイザード、見参!!」

『宇宙刑事シャリバンがコンバットスーツの装着に要する時間はわずか1m秒である。では赤射プロセスをもう一度見てみよう。
灼熱の太陽エネルギーがグランドバースの増幅システムにスパークする。増幅された太陽エネルギーはソーラーメタルに転換されシャリバンに赤射蒸着されるのだ。』

『陽光戦士カイザードがコンバットスーツの装着に要する時間はわずか1m秒である。ではそのプロセスを説明しよう。
柊の発した「陽装」コードの発信と共に、ギガファントムのソーラーシステム内の増幅システムが起動。増幅された太陽エネルギーは特殊軽合金グラニュームなど様々な物質と合成され、赤いソーラーメタルを生成する。生成されたソーラーメタルは、わずか1m秒でカイザードに陽装されるのだ。』

『抹殺せよ!』

どこかから声が聞こえた。

それは女性の声である・・・

その合図とともに、仮面たちは一斉に襲い掛かってきた。

「こっちが抹殺してやるよ!」

「シャリバンキック!」

ガシガシガッ!

強烈なとび蹴りが仮面の男たちに次々と突き刺さっていき、あっという間に数人を残し壊滅する。

しかし、次の瞬間どこから沸いて出たのだろうか、エイビーストが出現し、シャリバンにつかみかかる。

「ヒヒィー!ヒィー!!」

気持ちの悪い声を上げて、シャリバンを殴るそれを殴り、カイザードは叫ぶ。

「この程度か!」

実際、二人を相手にエイビーストはまるで歯が立っていなかった。

だが・・・



『幻夢界を作り出せ・・・』

「幻夢界発生マシーン、作動!!」

幻夢城からの声が響く、

オルガンのような音が鳴り響く。

サイコの目が光を放ち、その光が不気味に光る・・・



突然、空につんざくような光が現れた。

それは収縮をする何かにも、膨張する何かにも見える。

吐き出しているように、吸い込むように気流が発生している。

「く・・・モトシャリアーーーン!!」

「サン、ファルコン!!」

それぞれの母艦から、次元を超越するバイクが発進する。

空間を飛ばされながら、二人は自らのバイクに何とか跨った。

そうして、二人は別々にその空間へと突入していった。



キィィィィーーー・・・

モトシャリアンは幻夢界をものすごいスピードで進んでいく。

ここで、幻夢界について説明しておく。

幻夢界とは一種のホワイトホールである。

ブラックホールに吸い込まれた物質が猛烈な勢いで噴射し続ける、光と熱の渦巻く悪魔の空間である。

ここでは、魔怪獣は四倍の能力を発揮するのである。

空はそらではなく、くう。

まさしく空のまがい物。

そんなことを思っていたとき、マドーの戦闘機がこちらに向かってくるのが見えた。

「モトシャリアンロケッター!!」

シュバシュバシュバッ!!

モトシャリアンの機首から、ミサイルが放たれ、一機の戦闘機が落ちていく。

ビュン、ビュビュン!!

しかし、残った機体からのビームを受けて、モトシャリアンはコントロールを失いシャリバンは地面・・・いや、重力が変な風に働いているから、地面のまがい物とでもいうべきところへと落ちていった。

「ウァァァッ!!」

落ちた先は、なんとも不気味なオブジェが乱立する空間だった。

「・・・?」

ドシュッ!!

地面から、空から、大量の剣戟が降り注ぐ!

「ぐぁっ!?」

それを間一髪避けると、空に巨大なエイビーストの幻影が浮かんだ。

「クライムバスター!!」

銃から赤い光線が放たれ、幻影を消滅させる。

「サーチャースコープ!!」

そう言うと、スーツの目が光り、内部のディスプレイに巨大なサイコの顔が浮かんだ。

「これが、幻影を発生させているのか?クライムバスター!!」

カッ!!

光線がその顔にはじかれると、地面が吹っ飛び、体が宙を落ちていくのを感じた。

「くっ!」

ガシイッ!!

宙を落ちていく途中で、エイビーストを補足してそのまま二人は落ちていった。



「・・・ここが幻夢界か・・・」

空だけが『くう』となっている、まがい物の町の真ん中でカイザードはそう言った。

「チ、ご丁寧なことだ・・・」

そう言って、彼は店頭のリンゴを握りつぶした。

「何もない・・・敵も襲ってこない、か。」

しかし、確実に感じる桁違いの殺気を感じつつ、カイザードはサンファルコンを駆ってその幻夢の町を抜けていった。



そのころ・・・

シャリバンは、まさにエイビーストを追い詰めているところだった。

「レーザー・・・ブレイドッ!!」

ブウゥン・・・

シャリバンが鉄の棒のような剣に左手を這わすと、其処から剣は光り輝き、尋常ではない熱エネルギーを生み出していた。

「いくぞ・・・!」

キン、ギィン!!

エイビーストも、槍を持って突いてくる。

それを紙一重でかわしながら、一撃一撃、重い攻撃をヒットさせていく。

「クライム、バスター!!」

ボガッ!!

エイビーストの頭が爆発する。

「ヒィーーー!!ヒヒヒィーーーー!??」

バタバタと手を暴れさせて、化け物は呻いた。

「止めだ・・・!」

ビャッ!

神速の斬撃が化け物に当たる瞬間、化け物は前触れもなく消えた。

「・・・!?」

しかし、あわてずにシャリバンはサーチャースコープを起動する。

「其処だ!クライムバスター、ショックビーム!!」

ばりっ!!

電流が爆ぜるような音がして、エイビーストは姿を現した。

「・・・いくぞ・・・シュウーーーッ!!」

シャリバンは、高く、高くジャンプして・・・

空中で一回転すると、レーザーブレードを袈裟に切りかかった!

シャリバン!クラァッシュ!!!

ズバシャァァァァッ!!

レーザーエネルギーが注ぎ込まれ、一瞬化け物の体が白熱する。

少し遅れてものすごい音が立ち、エイビーストは真っ二つに裂けて、砕けて消えていった。

その瞬間、霧が晴れるように幻夢界も霧散していく。

それに呼応するように、何人かの人間が突然姿を現した。

恐らくはマドーにさらわれた者たちだろう。

―――よかった。

そう思って、その場を去ろうとしたときだった。

――――もう少し遊ぼうぜぇ・・・?

暗い声が聞こえ、あっという間もなくシャリバンは現れた蟠る闇の中に姿を消していった・・・



そのころ、カイザードもまた幻夢界から脱出することに成功していた。

だが・・・

シャリバンと同じく、彼にもなぞの声が聞こえていた。

――――よう、強そうじゃねえか・・・俺と遊ぼうぜ・・・?

その瞬間、カイザードは自分が蟠る闇に解けていくのを感じた。

どす黒い歓喜と共に。

「メタグロス・・・だな。待ってろ・・・今からそっちへ行ってやる・・・」

そして、カイザードは完全に闇に溶け消えた。




「ヒャッハッハッハッハ・・・よええなぁ・・・やっぱ、ここじゃぁだめか?だめか??くひゃははははは!!!」

メタブレイドは笑っていた。

目の前にはボロボロのシャリバンがいた。

「く・・・馬鹿な。コンバットスーツが機能不全を・・・起こす・・・とは・・・」

「今のお前はエネルギーがゼロに近い状態なんだよ。いくら、故障率の低さでは宇宙一・二のコンバットスーツでも、エネルギーがなきゃぁ無意味な重りだよなぁ・・・?クークククク・・・・」

そして、メタブレイドは急にまじめな顔になって言った。

「ここは『異空陣』。光エネルギーを奪う、無尽の空間。この場に引き込まれた光の者は、滅びるのみ・・・てめえも、ここで朽ちな。お前の死体は、連中への宣戦布告文代わりにしてやる・・・ありがたく思え。」

「な・・・んだと・・・?」

シャリバンは何とか立ち上がり、レーザーブレードに火を入れようと・・・

「レーザー・・・ブレイドッ!!」

ブゥン・・・・・・・・・

駆動音がしただけで、まったく反応しなかった。

体も重い。

完全・・・ではないが、ほとんどの機能が失われているのが感じられた。

「く・・・」

「さぁ、ゆっくり嬲り殺されるのと、一撃であの世に送られるのと。どちらがいいか、さっさと選べ。」

「どちらも・・・選ばん!」

「あ、っそう。なら、すぐ死ね・・・」

苦しげに呻くシャリバンへ手をかざし、エネルギーを溜め込む。

「し・ね」

バシュッ!!

しかし、放たれた光の矢はシャリバンには届かず溶け消えた。

銃を放ったのは、カイザードだった。

「・・・チ。楽しみを邪魔スンナよ・・・もう少し、こいつと戦っててーんだけど?」

「黙れ・・・貴様・・・メタグロスだな・・・?」

黒い声でカイザードは言った。

「貴様・・・ここに俺たちを呼んで、何のつもりだ・・・?」

「宣戦布告の準備さ。手前らをぶち殺して銀河連邦に送る。いい宣戦布告になると思うんだが、どうよ?」

「外道が・・・!」

「ま、興が殺がれたから、今日は帰る。もうしばらく、首洗って待ってろ。もう少しいい舞台用意してやるからよぉ?ひゃははははは・・・・」

そう言って、メタブレイドは空間に溶けていった。

「チ・・・宣戦布告、だと・・・ふざけやがって・・・」

そう言って振り向くと、ほぼ人型の怪人らしき物が3体立っていた。

「・・・誰だ?」

『めたるぞーどA』

『めたるふろすとB』

『めたるどれるC』

機械音声で、それらは答えた。

『アルジノメイレイニヨリショブンスル』

『コウゲキカイシ』

メタルゾードAと名乗った物体はレーザーソードを振りかぶって向かってきた。

「チ!ソーラーブレード!!」

ブン。

―――光が弱い。

「ソーラーエネルギーが弱まってるな・・・速攻で決める!!」

ぎぃぃぃ・・・

「カイザーエクスティンクション!!」

ガキィッ!!

レーザーソードごと、ソーラーブレードはメタルゾードを薙いだ。

すでに頭が叩き割られ、行動不能・・・になったはずである。

しかし・・・

『ソンショウリツ70ぱーせんと。セントウゾッコウカノウ』

キリキリキリキリ・・・・

嫌な駆動音を上げて、メタルゾードは近づいてくる。

「くそ・・・エネルギーが足らん・・・装備不足だ。」

悔しそうにカイザードがつぶやく。

そのとき・・・

闇を裂いて、紫黒の残影が現れた。

「大丈夫、虚?!」

それは・・・ヴァーティセスだった。

「・・・こいつらは・・・!ついに、あいつらが出てきたんだね?」

「ああ・・・すまない。不覚を取った。ここは頼む・・・」

「おっけ。後でなんかおごってね?」

「オウ・・・」

そのやり取りを終えると、悠子は腕から雪刃を生やして怪人たちに突っ込んで行った。



「必殺!雪崩残月!!」

ズバシュゥ!!

その一撃で、メタルゾードは動きを止める。

『センリョクAチンモク。ツヅイテ、B・Cカドウカイシ』

それに続いてメタルフロストとメタルドレルが動き出した。

「お前らなんて、敵じゃないぃっ!!冬の嵐よ・・・!」

猛烈な吹雪が吹き始めた。

「とぉおおおっ!!月爪落天蹴ううう!!!!

高く飛んだ悠子の足が右へ左へ振られるたびに、光弾が生まれそれが二つの物体を包んでいく。

濛々たる冷気と砂塵が晴れたとき、其処には2体の残骸が残るのみだった。

「ふう・・・」

「サンキュ・・・」

「いいよいいよ。ここでは、虚の服は力なくなっちゃうもんね。デモさ・・・」

「でも?」

怪訝そうに言う虚に、悠子は「今日はいいところなかったね、虚・・・?」と言って、虚を詰まらせたのだった。



「いつまで見ている、おっさん。」

メタブレイドはそう言うと、後ろを向いた。

其処にはスキンヘッドのごつい男。

某国のエージェント、と言っても通用しそうな男が立っていた。

「・・・倒せなかったのは、不測の事態のせいだ。疑うのか?」

メタブレイドがそう言うと、”海坊主”はスッと振り向いて去っていった。

「ふん・・・人形が・・・楽しくねえな・・・ま、次は楽しめるだろ・・・」

心底不機嫌にそう言うと、メタブレイドは「カイザードとか言ったか、あの男・・・どこかで見たな・・・」ともらした。

そしてその言葉を残して、彼は闇に溶け消えた。



こうして、キタガワニュータウンでの事件は終わった。

家族もみんな帰ってきて、あの少年の顔にも笑顔が戻った。

「・・・それが、一番うれしいかな・・・」

電はそうつぶやくと、虚に話しかけた。

「・・・あの敵は・・・?」

「ああ、俺の任務は連中の壊滅さ。そして・・・」

「できれば、俺にも手伝ってほしい・・・でしょ?わかっています。」

そう言って、電は笑った。

「そうか・・・すまんな。すまんついでだが・・・」

そう言って、彼はポケットから住所が書いてある紙と紹介状らしきものを電に手渡した。

「これは?」

「ジオベースの住所と紹介状だ。もし、その気があるならXIGに参加してほしい。」

「・・・わかりました。考えておきます。」

「・・・傷は大丈夫のようだな?」

閑話休題、そう言った虚に電は目一杯の笑みを浮かべたのだった。



「遂に、あいつらが動き出した・・・幹部が戦闘に出てくるなんて。」

「ああ・・・」

「復讐・・・するつもりなの?」

「ああ・・・」

「そう・・・」

「忘れるわけには・・・いかないんだ。」

続く。




次回予告

兄との死闘を乗り越えて、戦士は目的を失った。

旅に出んとする戦士の前に、かつての宿敵の影が・・・

蛇と蜘蛛、そして蝙蝠が跳梁し、赤き拳士と黒き狼は邂逅するのだ・・・

次回、スーパーヒーロー作戦SPIRITS

「ネメシスの野望」

魂より継がれし物語・・・今こそ語ろう・・・




後書き

はー、しばらくぶり。

宇宙刑事はアクション中心だから、書くのが大変だった。

秋子さん「あんまり雰囲気出てるとは言いがたいですね。」

そうですね・・・

虚、いいところないし。

電さんも、なんか目立ってないし。

多分、しばらくでないし。

次に出るのは奇星伝・・・

秋子さん「仕方ないですね・・・ま、いいでしょう。それではまた次回もこのチャンネルで・・・」

会いまっしょい。

シュワッチュ!!



Ps,メタブレイド:成分:浅倉威分45%・ジゴクロイド(ライスピ版)分45%・ギム=ギンガナム分10%

キタガワニュータウンはシャリバン原作ではキタクラニュータウン。

セブンとのつながりを出したかった(汗