「――――――どういうことなんだ、おじさん!!」

「・・・落ち着いてくれ・・・」

どこか、まだあどけなさを残す少年の怒号に、ともすればその少年と同じくらいに見える若作りな男が、たらりと汗を流した。

「・・・いったい、どうしたというんだい?そういきり立って・・・」

今は、午前10時半。

普通の学生は学校へ行っているころだ。

「とぼけないでくれ・・・緑川ノートって何のことさ?」

「・・・!榊君・・・どこでそれを・・・?」

そう言って、彼はしばし口をつぐんだ。

少年・・・榊は、じっと押し黙る男の貌を凝視した。

「・・・理由はいうわけにはいかないんだけど、どうしても知らなきゃならないんだ。そうしなきゃ、俺は戦えない。」

「君は・・・いったい?」

「まだ、言えないんだよ。・・・言いたくない。でも、信じてくれ、信一さん。俺は・・・」

その真剣な様子を見て、信一と呼ばれた男・・・秋子の父であり、榊にとっても父親同然の男は意を決したようにこういった。

「それを知っている、ということは話さなければならないようだね。アレに書かれていたことと、君がいない間に起こった事件のことを。」

そう静かに言って、席を立った・・・



スーパーヒーロー作戦SPIRITS
第十五話「ネメシスの野望」



「アレは、あのノートは、決して世に出てはいけないものだったんだ・・・」

窓の外を遠い瞳で見つめながら、彼は話し始めた。

優秀な生化学者であった緑川博士が失踪し、同じく優秀な後輩だった本郷猛から榊が信一に預けられ、そして彼が失踪してしばらく。

一冊のノート・・・論文の草稿が研究室の片隅から発見された。

「川澄先生がアレを見つけたときには、風祭さんも鬼塚先輩も望月さんも、勿論僕も、人類の新たな一歩だと信じて疑わなかった・・・」

―――だが、それはマチガイだった。

そこに書かれていたのは、人類の進化系である「飛蝗男」・・・

すなわち、「仮面ライダー」の原型となった進化人間の設計図。

そして、そこから派生すべき諸々の人工の進化系統樹。

―――新人類。

その構想と設計・・・

まさに神の設計図とでも言うべきものだった。

「しかし、しかし・・・」

それは、全てを狂わせていった。

「川澄先生・・・緑川博士と同じく、僕の恩師なのだが・・・あの後、失踪してしまった。先輩も様子がおかしくなってしまったし・・・僕や風祭さんは、共にノートの解析を続けながら、それを気味悪く思っていたんだ。」

―――そして、すぐに決定的な事件がおきる。

いくつかに分散、保管しておいたノートが紛失したのだ。

勿論、バックアップをとっておいたため大事には至らなかった。

だが・・・

同僚の望月博士が、それとともにいなくなった。

「それと同時に、助手の麻生君もいなくなってしまった。それが、4年前のこと・・・」

そう言うと、彼は深く息をはいた。

「正直、この研究はやめてしまおうか、とも思ったよ。でも、風祭さんや鬼塚先輩のことを考えると、できなかった。」

―――やがて2ヶ月前、彼は、生涯最大の後悔を体験することになった。

風祭大門、死亡。

ISSと呼ばれる機関に出張していた彼は、事故で死亡したのだという。

しかし・・・

共にISSへ赴いていた鬼塚の、その後の変貌から、それは・・・

そう、疑わせるのに十分だった。

「・・・君のクラスに転校生が来たといった日に、僕は風祭さんの死を知った・・・そして、君が、G.U.A.R.D.へ行ってからすぐに、僕は彼にノートの研究の打ち切りを通告したんだ。一方的にネ・・・僕のほうが立場は上だったから。」

しかし・・・

「彼は、その言葉に薄く笑うと、僕に辞表を出して去っていった。あの笑みは・・・」

―――既に、人ではなかったように思う。

その言葉に、榊は凍りついた。

(・・・アレが・・・そうだって言うのか・・・?真の仇・・・ってやつが・・・・)

その様子に気づいてか、気づかずか・・・

さらに彼は続けた。

「君が、G.U.A.R.D.に入隊する、という話を聴いて驚いたよ。でも、僕はこれは好機だと思った。今はまだいえないが、君には秘密がある。それを守るためにも、それが一番だと思ったんだよ。そしてね。」

―――そして、自分も動き始めるべきだという認識を得るには十分な出来事だった。

そして・・・

榊のいなかった時に起こった出来事が、彼の口からまろびでる・・・



彼はある研究機関・・・

「クラウン」と呼ばれる、大手・・・NMS直轄の生命科学研究所にもぐりこんだ。

・・・無論、思惑付きで。

少し調べるだけで、そこがISSともつながりのある施設だ、ということはわかった。

後は簡単。

クラウンに了解をとり、大学に出張を申し出、大学側がそれを受理、短い間だが彼は研究所を見学する資格を得たのだ。

もとより彼は優秀な生化学者であるし、歓迎された。

だが・・・

初日でいきなり事件に巻き込まれた。

外を探索していると、何か不気味な色をした化け物が襲い掛かってきた。

良く耳を澄ますと、警報と喧騒が聞こえた。

ほうほうの体で逃げた先には、一人の青年。

その男は彼に逃げるように言うと、「変身」した・・・!

圧倒的な強さでそれを倒した彼は、その場で崩れ・・・

そして、城石と名乗る科学者が現れた。

彼と共に、その青年・・・

「風間剛」をアパートに運び込み、そこで聞かされたことは恐るべきことであった。

クラウンなる研究所は隠れ蓑で、その正体は「ネメシス」と呼ばれる秘密団体であること。

彼らは、「ガイボーグ」と呼ばれる改造人間、「ファラー」という怪生命体を使った生物兵器「ミューティアン」、そしてそれ以外にも幾多の改造人間を作り上げ、世界に席巻しようとたくらむ団体なのだと。

そう聞かされた。

そして、風間剛・・・彼は、拳王流という流派の拳法道場の後継者、風間将人の弟で、自らの拳法の達人だという。

心情から戦うことを拒んでいた剛が城石に説得され、戦うことを決意したころには、信一はことの大体を把握していた。

「もう、大変なことだ、と思ったよ。でも、自分は責任感が強いほうだと思うんだ。放っておけなかった。」

「ガイファード」。

ガイボーグボディにファラーが共生する、究極の戦士。

城石は剛の戦う姿に、そう名をつけた。

それからが大変だった。

「山登りで古いお寺に行くことになるし、ネメシスの連中とも戦った。何度も危険な橋を渡ったよ。でも、何とか潜り抜けることができた。全部、秋子と、九条のお嬢様とお坊ちゃま、城石博士と・・・剛君のおかげだ。」

「・・・秋子姉はともかく、誰なんだい、その人たち・・・?」

「・・・会えばわかるさ。心強い仲間だよ・・・」

そう言って、彼は続けた。

やがて、研究所の所長バイクロス、そして女科学者紫苑を追い詰めた彼らは、本拠へと乗り込んだ。

・・・そこに現れた、クラウン最強の戦士「デスファード」。

バイクロスを倒したガイファードの前に現れた黒い戦士。

その正体は・・・

剛の兄、将人。

激闘の末、兄を破った剛・・・

紫苑もまた、城石に追い詰められ、足を滑らせてがけ下に転落し行方不明となった。

そして・・・剛が決して望まなかった戦いを経て、ついにクラウンは壊滅した・・・

「と思ったんだけどね。君の話を聞く限り、そうではなさそうだ・・・」

「すげえな・・・そんなことがあったんですか。」

ため息を漏らしてそういう榊に、ニコニコと笑いながら信一は言った。

「そうさ。これから、彼らの家に行こうと思う。そうすれば、彼も思いとどまってくれるかもしれない。」

その言葉に、「ホントに行ってもいいのか」という貌をする榊だったが・・・

その顔を見て、信一は一言、「了承」と付け加えたのだった。



城石のアパート

「兄貴――――っ!!」

がばり!

・・・精悍な顔つき、鍛えられた筋肉。

今はそれに深い、深い憂いが刻まれている。

その男は、自らの叫びで目を覚ました。

時間は・・・

午後四時。

どうにも、寝てしまっていたらしい。

彼はそう思った。

耳から、あの日に、兄の口を出た言葉が離れない。

―――武闘家の、宿命だ!

――――強い相手なら、それがたとえ親兄弟といえども戦わずにはいられない・・・

「兄貴・・・くそ・・・」

彼がそうつぶやいた時、唐突にドアが開き、外から少年と少女・・・そして、秋子が姿を現した。

「ただいま。夕飯は鍋ですよ、城石先生、風間さん。」

「なんか気持ちがすっきりしないからさ!今日はパァッといこ!」

秋子に続いて、少女が元気な声を出す。

部屋の中にいた、城石と呼ばれたスキンヘッドのインテリそうな男が楽しそうに言う。

「鍋かぁ・・・!鍋はいいなぁ!こうやってみんなして・・・アチアチホフホフーって食べたら楽しいぞぉ!水瀬君も呼んで、パーっとやれば、気分もすっきりするだろ!なぁ、剛?!」

だが・・・元気付けるようなことを言う城石に、剛と呼ばれた男は、曖昧に「ああ」とだけ答えた。

その様子を見て、城石は明らかに「失敗かな」という貌をした。

剛の元気がまったくない様子を見て、少女は「こら!剛もドクターも手伝ってよ?」と言った。

「ハイハイハイ・・・わかりましたよ、麗お嬢様。」

「ハイお鍋。ほら、優もぼぉっとしないで!テーブルの用意して。」

少年を優と呼んで、麗は鍋を城石に渡した。

「あ、いけない!ネギと椎茸買い忘れちゃった!」

その時、秋子が思い出したようにそう言った。

「僕が行ってくるよ!」

そう言って、優はテーブルで鍋とコンロの用意をしている城石に近づいていった。

そして・・・

秋子はといえば、先程の城石の言葉を受けてか、信一のところへ電話をかけていた。

「お父さん?・・・え?本当!榊が・・・うん、わかった、6時ごろね。待ってる・・・!」

電話を切り、秋子は「アイスおごるから一緒に・・・」と、城石も連れて行こうとする優に近づいていって、

「二人とも、うちのお父さんのほかにもう一人来るから・・・もう一回行きましょう?」

と言った。

十数秒後。

秋子らはアパートのドアを開けて外へと出て行った。

そして・・・部屋には、剛と麗だけが残された。

出て行った三人を見つめた後、剛は手伝ってほしいと言う麗に向かって、おもむろに口を開いた。

「・・・ありがとう。」

「どーいたしまして。お鍋にして正解だったわ・・・」

「・・・今までどおりにしてくれて・・・」

そう、麗の考えの斜め上の答えを剛の口がつむぐ。

「・・・なに、言ってるの?」

きょとんとして聞く麗に、苦渋に満ちた貌を返し、彼は言った。

「俺・・・ガイファードなんだぜ?お前も知っただろう・・・あの兄貴との戦いのときに変身した俺を。麗たちとは・・・違うんだ。人間じゃ・・・ないんだ。」

「そんなことないわ!剛は剛・・・変身したって、心が変わってしまったわけではないでしょう?」

何を的外れなこと言ってるんだろうこのボンクラは、という気持ち半分、心配半分の口調の麗の言葉にも、彼の苦渋の表情は晴れなかった・・・



「弱くても、格好悪くてもさ。人間のほうがいいと思うよ、おじさん。」

信一の運転する車の中で、榊はそう言った。

「そうだね・・・城石さんとも話したけど、そういう「普通」のはずの人間を、改造人間に・・・いわば、超人間に変えていく・・・それを行うネメシスこそが真の敵なんだ・・・」

「ああ・・・」

「真実はいつも闇の中さ。真実を知りたいなら、闇の領域に踏み込む必要がある。その覚悟は、もうあるみたいだね。」

「・・・ああ。」

信一の問いに、榊は沈んだ声を返す。

そして・・・紡ぐ。

真実を・・・

「なぁ、おじさん。俺がもうすでに、改造人間にされちまってる、って言ったら・・・どうする?」

その紡がれた言葉に、信一は言う。

「・・・驚かないよ。簡単に推理できたからね。しかも、その分だと忘れたムカシを・・・」

「うん。少しは・・・ね。ガキ過ぎたせいかな。ぼんやりとしか思い出せないけど・・・血まみれの自分と、俺を抱き上げる本郷さん。それから、多分、父親の声・・・あとは、『死月』って言葉だけだけど、ね。」

「・・・それだけ思い出せれば、上等さ・・・僕の知っている真実を話すときも遠くないよ。」

来るべき時が来た、という声でそう言いながら、信一は運転を続けた。

「言っておくけど、みんなにはまだ君がそうだ、ということは秘密だ。剛君と城石さん以外には話さないほうがいい。」

「ん・・・わかった。」

そして、車はいつしか城石たちのアパートへとたどり着いていた。



そして、しばらく後。

榊の姿を見て安心したようにホロリと涙をこぼす秋子や、榊の自己紹介、楽しい食事・・・

そんな諸々のことがあったのだが、割愛する。

そして・・・食事が片付いた。

「秋子・・・すまないが、先に帰っててくれ。麗君と優も、秋子と一緒に僕のうちまで行っていてほしい。」

「うん・・・榊、また・・・すぐ行っちゃうの?」

秋子は信一にうなづき、そして榊にそう聞いた。

「いや・・・たぶん、東京近辺にいることになると思う。家には戻れないけど・・・」

「そう・・・わかった。」

「いきましょ、秋子さん。」

安心してそういう秋子へ、麗が促した。

部屋を出て行く秋子に微笑むと、榊は表情を一転させた。

食事の片づけをしながら、城石は剛にいった。

「剛・・・これから、どうするつもりだ?」

「寝るよ・・・」

「いや、そうじゃなくてだ。これからどうする、ってことさ。」

真剣に、城石はそう言う・・・

その言葉に榊は言った。

「・・・その、これから、のことで・・・言いたいことがあるんだ、おっさん。」

榊はそう言うと、剛へ向き直って、今までよりもさらに真剣な貌をした。

「剛さん・・・改めて自己紹介する。陣内榊だ。」

言いづらいことを言う寸前の、そんな人間の貌をして、榊は言った。

「あんたと同じ、ネメシスの被害者さ。」

「「な・・・!?」」

剛と城石は声をそろえてそう言った。

「・・・いいづらい事いうけどさ・・・まだ、連中は滅びてないぜ・・・!?」

「・・・なんだと?!!」

剛は、まるで激昂するかのようにそう言った。

「・・・あんたがクラウン・・・ネメシスの一部を叩き潰したころ、俺は太平洋のある島でそいつらと戦ってたんだ。もう一度言うぜ、あんたがつぶしたのは、トカゲの尻尾さ。」

「な・・・んてことだ・・・!」

城石が、力が抜けたようにそう言った。

「俺は・・・俺のもうひとつの名は、仮面ライダー黒狼。連中に改造された、改造人間さ・・・」

「俺以外にも・・・いるのか、やつらに改造されてやつらと戦っていたやつが・・・!」

「ああ、いるぜ。もう一人・・・いつか、会うことになると思うけど、な。」

そう言う榊に、剛は静かに「そうか・・・」と言った。

しかし、一転。

表情をまったく変えて、叫んだ。

「くそっ!だとしたら、だとしたら兄貴は・・・くっ!」

「落ち着いてください、剛君。いきり立っても何も始まりませんよ・・・ここは、じっくり考えるべきです。」

「・・・」

「第一、連中がどう動くかも、今はわからないんだ。下手に動くべきではない。」

「わかっているさ。わかって・・・」

つらそうにそういう剛に、誰も声をかけられるものはいなかった。

と、そのときだった。

『きゃああああぁぁっっ!!』

つんざくような悲鳴が、遠くから聞こえてきた。

少なくとも、榊と剛の耳には・・・



少し前 路地裏

「何よ、あんたは!」

麗はそう叫んで、目の前にいる軽そうな男と、黒尽くめをにらんだ。

黒尽くめは、顔どころか体全体を覆う黒いマントのようなものを着込んでいる。

「けけっ・・・元気な嬢ちゃんだ。けっけ・・・」

整った顔はしているが、浮かべた残忍な笑みがそれを台無しにしている。

そんな男だ。

「でもよぉ・・・てぇめぇにゃぁ用はねエンだ・・・」

『用があるのは、そこの子よ・・・』

女・・・かなりくぐもってはいるが、そうとわかる声が秋子を指す。

「え・・・?」

「ふん。余計なことを話す義理はねえ。おとなしく、俺に捕獲されろ!」

そう罵声のような音声で叫ぶと、その男は彼女らへと近づいていった。

「・・・秋子さん、下がって!」

「・・・うん、気をつけて・・・」

麗は、そうして赤い具足をすばやく身につけた。

優の足にも、赤い手甲がついているのが見える。

「へぇ・・・やる気かい。そうこなくちゃなぁ・・・」

『遊ぶないでください、『蜘蛛』殿。われわれの目的は・・・』

黒尽くめの言葉に、男はつまらなそうに、

「お前が命令すんなよ。いいだろ?どうせ・・・」

といって、言葉を切る。

そして、路地の奥を見て彼は言った。

「どうせ、アレは殺さなくちゃいけねえだろぉが。」

促されて、みなそこを見る。

すると・・・

「・・・よく気づいたな。」

「け・・・気配消してくる野郎が、只者のはずねぇだろぉ・・・」

暗闇から、姿を現したもの、それは・・・

「よぅ、秋子ちゃん。久しぶり。」

軽い声で、そういったのは・・・

「一文字さん!」

「ビンゴだ。ここは下がってろ・・・いや、逃げろ!」

秋子の言葉に答えて、帽子をかぶりなおしながら隼人はそういった。

「行け!」

「は、ハイ!行きましょ、麗さん、優君!」

「ど、どういうこと?!」

「いいから、早く!」

麗と優に、まったく有無を言わせずに秋子は駆け出した。

それに釣られて、二人も駆け出す。

『逃がさん・・・』

黒尽くめがそれを追う。

「待て!逃がさんぞ!!」

そう言って、隼人は黒尽くめを追おうとしたが・・・

「待てよ・・・俺と遊ぼうぜ。いいだろ・・・!」

がぐしゃっ!

電柱が拉げる。

「その腕力・・・改造人間か。」

「へ・・・だとしたらどうよ?やるのか?」

その言葉に答えずに、隼人は両腕を左側方に突き出す。

そして、その腕を回しながら右側で引き絞るような形へと持ってくる。

「何者かは知らんが、秋子ちゃんたちを狙うとは許せん!変身!!

カッ!!

腰にベルトが浮き出て、シャッターが開く。

それは猛烈な光を放つと、隼人を異形へと変えていった。

「ほぉ・・・てぇめぇが悪魔の戦士・・・仮面ライダーかぁ・・・」

「だとしたら、どうする?」

「消すに決まってんだろぉ!!」

ばりぃ!!

人間の皮を破るかのように、彼も変身する!

その姿は、背中から4本の腕を生やした、合計六本腕を持つ人間型の蜘蛛。

まるで、阿修羅像のごとき印象を持つ肢体だ・・・

「・・・貴様らか、榊を改造したという連中は。」

「・・・ああ、あいつね。そうだぜ、俺たちの組織が改造した。王の器のひとつとして、なぁ!」

シャァァァッ!!

そうして、『蜘蛛』は糸を吐いた。

「とぉっ!」

「馬鹿がぁ!飛んで逃げられるか!!」

狙いをはずした蜘蛛の糸が、再び『蜘蛛』の口・・・いや、手のすべてから放たれる。

ライダー卍キィィィッック!!

ギャルルルルルルルルルルッ!!

回転する体が糸を押しのけていく。

だが、2号は・・・

「ぐぅ・・・?!」

糸を壊しながらも、苦しげな声を上げる。

「バァカ・・・そいつは切れるんだ・・・どっかの馬鹿将軍と一緒にすんなよ?!」

グワッシャァッ!!

だが、グィンを葬ったその技は、届く寸前でジャンプしてかわされた。

それどころか、2号の足には細かい傷がいくつもついている。

アスファルトが砕け、地面が悲鳴を上げた。

「やるねぇ。やるやる。でも、その傷・・・浅くねぇだろ。」

「ふん・・・この程度で、勝ったつもりか?吐いてもらうぞ、貴様らの目的を!」

傷から、血が流れる。

しかし、変わらぬ強い声で、2号は言った。

だが・・・

「けけけけけけけ・・・だぁれが言うか!知りたきゃ自分で調べろよ。バァカ。」

ブワッ!

気づけば、少し上のほうに蜘蛛の糸がまるでトランポリンのように張り巡らされている。

糸を吐く腕のひとつが、さっきの隙に張ったのだろう。

「じゃーな。もちっと楽しみたいし、てぇめぇを殺したくもあるんだけどよぉ。俺は用事あるんだ・・・一人で遊んでな、ディアブロ・・・けっけっけっけっけ・・・」

しゅんっ!

まるで、蜘蛛そのもののように、その糸製トランポリンでジャンプした『蜘蛛』はビルの壁面を伝って消えていったのだった。

「くっ・・・逃したか!」

後に残されたのは、2号のみ。

その耳には、彼を「悪魔の戦士」と呼んだ、『蜘蛛』の声。

そして、黒尽くめの行方はわからなくなっていた。



路地裏を走る影。

ひとつは麗たち、そしてもうひとつは、明らかに人外の速さで追いかけてくる黒尽くめだ。

「くっ!しつこいわね!!」

麗はそう毒づくと、振り向いた。

「秋子さん、優・・・先に行って。こいつは・・・私が倒す!」

麗はそういって、構えを取る。

「お姉ちゃん!なら、僕も戦うよ!!」

「駄目、優は秋子さんを守って!早く!」

麗が強くそう促すと、それを嘲笑して黒尽くめが言った。

『ははっ!殊勝なお嬢さんねぇ・・・』

「黙りなさい!さぁ、早く!!」

「わ、わかった!行こう、秋子姉ちゃん。」

「う、うん・・・気をつけて。」

黒尽くめに怒りのこもった言葉を浴びせ、さらに促す。

それに従って二人とも全速力で駆け始めた。

「あんたたち・・・何者?!」

二人の姿が見えなくなった所で、彼女はそう言った。

『知りたい・・・?』

黒尽くめはそういうと、その体と顔を覆うマントを引き剥がしていく。

「あ、あなた・・・シオン!!」

驚愕の声を上げる麗に、シオン、と呼ばれた女性・・・そう、先の闘いで行方不明になった紫苑恵は冷たく言い放つ。

「久しぶりね・・・」

「・・・許さない!」

眼光鋭く、彼女を見つめる。

「ハッ!」

パワーアクセラレイター・・・

そう呼ばれる具足から与えられる力で、麗は渾身の連撃を放った!

しかし、それを軽く受け流し、シオンは言った。

「まだまだね・・・スピードはあるけど、狙いが甘いわ・・・」

余裕の言葉を放ち、彼女は麗を見据える・・・

「くっ!」

――形勢、不利。

科学者のシオンが、どこでそんな力を手に入れたのか。

まるでわからなかったが、少なくとも二人が逃げ出す時間を稼いだと思った麗は、その場を駆け出した。

しかし、まったく余裕の顔でシオンは追いかけてくる。

そう、それはまるで・・・

「な、何なの・・・まるで・・・」

荒い息をつきながら、麗はそうつぶやいた。

「まるで・・・なんだというの?」

しかし、逃げた先に回りこんでいたシオンがそう返す。

「くぅっ!はぁっ!」

全身のばねで彼女に掌打を打ち込もうと裂帛の気合で接近するが、それをまた受け流される。

そして、彼女から繰り出される拳、蹴り。

その全てが先日までの、たかが城石ごときにおいつめられる女科学者のものとは思えなかった。

一瞬の隙に、彼女の右胸に掌打が打ち込まれる。

ぶわっ!

コートが翻り・・・

そこには、銀の輝きを放つ・・・ガイボーグがいた。

帽子を取り、左目を覆っていた髪をかき上げると、そこには痛々しい、機械の目があった。

「驚いた・・・?ガイファードのせいよ!」

憎しみがこもった声でそう言い放ち、サーベルを引き抜く。

「私がお前とこうしてるのは、どうしてだと思う・・・?」

―――!?

疑問が口をつく前に、閃光のような斬撃が襲う。

あっという間に壁際に追い詰められる。

その口から、あざける声が・・・

「今頃、あの娘は・・・」

「?!秋子さんに指一本でも触れたら、許さないから・・・!」

「あらあら・・・相変わらず気の強いこと・・・」

憎しみのこもった目線がシオンに突き刺さる。

「将人さんはあんたたちのせいで・・・!」

「そう?アレは兄弟の麗しい対決だったじゃないの・・・?」

「違う!」

相変わらぬあざける言葉で、そういうシオンに麗は叫んだ。

「将人さんは、あなたたちに改造されたから・・・じゃなきゃ!剛だって戦ったりしなかった・・・」

その言葉に、シオンは見透かすような口調でこう言った。

「・・・将人と剛、あなたはいったいどっちが好きだったの・・・?」

その言葉に、麗は沈黙する。

二人とも変わらず、射るような視線でにらみ合いながら。

それも刹那。

「さぁ、私はそろそろ行くわ。あなたは時間稼ぎのつもりだったかもしれないけど、こっちも時間稼ぎ。ふふふふははははっはははは!」

哄笑をあげながら、シオンは闇に消えていく。

――――まさか、シオン!?・・・麗っ!

視覚と聴覚の端に、剛・・・らしき影と声を認めながら、麗は気が抜けたようにへたり込んだ。



「は・・・はぁっ!こ、ここまで来れば・・・!」

優はそういって地面に腰を下ろした。

秋子も、息絶え絶えにへたり込む。

「まだ・・・クラウンは・・・なくなって、ないのかな・・・」

「わかんないよ・・・」

「わからないなら、わからせてあげましょうか。」

唐突に声が聞こえた。

あわてて、声のほうを振り向く。

そこには、蛇を模した仮面をかぶってはいるが、しかし平素な服装の女性がたたずんでいた。

その女性は、仮面を脱ぐ・・・顔は見えない。

そして、その姿は徐々に変わり始めた・・・

「はじめまして・・・九條優君・・・そして、水瀬秋子さん・・・」

「・・・誰・・・?」

恐怖と疑念を押し隠して、ようやく息をついた秋子が聞いた。

「ネメシスは・・・復讐者は、滅んではいないわ・・・そして、あなたも贄となるの・・・お嬢さん・・・」

「な・・・」

「ふふふ・・・なんで自分が、って顔してるわねぇ・・・でも、教えてはあげないわ。」

闇の中で、嘲笑を浮かべているのだろう。

面白がるような声が響いた。

「本当は、あなたを拉致しろ、って言われてるんだけど・・・この状況で、まだそんな「誰かを信じてます」って顔が気に食わないわ・・・」

気だるそうに立つと、秋子に近づいていく。

「少し甚振ってあげる・・・うふふ・・・」

妖艶・・・と称するべきだろう。

そんな笑いを立てながら。

腕には、どこから現れたのか、金属とも、本物の蛇ともつかぬ鎖が絡まっている。

その鎖が、まるで蛇のようにうごめき、秋子に絡みつこうとその長さを変えていく。

姿は、まるで・・・蛇。

そう、蛇そのものだ。

妖しく覗く、人の口がいっそう不気味だ。

「うふふ・・・」

だが、その動きは途中で静止された。

「テァッ!!」

どがぁっ!

ガードレールの上から、降って沸いたようにその女に木刀の一撃を食らわした男、それは・・・

「秋子姉、大丈夫か!!」

榊だ。

「・・・チ、黒狼か・・・油断したわね。シオンも、一人しかひきつけられなかったみたい・・・」

そう小さくつぶやくと、彼女はまるで闇に解けるかのような速さで路地裏へと消えていこうとした。

「榊・・・行って!」

「・・・」

「私は大丈夫だから!」

「・・・わかった!」

秋子の言葉に促され、榊は駆け出した。

そして・・・



「剛・・・私は大丈夫。行って。あの女を追って!」

「・・・わかった!」

麗の気丈な言葉に、榊と同じ言葉を発して、剛もシオンを追って走り出した。



視界の端に、女がいる。

間違いない。

「シオン!」

呼び止める。

路地裏を、街路を縫って、剛は走り続けた。

地下道を、ガード下を、駆け抜ける。

ありえぬ場所に現るシオンを、慎重に、身体能力全てを使って。

「待て!!」

走り続ける。

一つのビルがあった。

そこへ、彼女が入っていくのが見えた。

追っていく。

エレベーター。

そこには・・・

「どうしたの・・・?」

「シオン・・・まさかとは思ったが・・・」

その言葉を制して、シオンは言う。

「乗るの?乗らないの・・・?」

その顔と体は、またコートと帽子に覆われていた。

エレベーターのドアが閉まる。

上へ向かっている。

扉を出ると、そこは不気味な装飾と電飾で飾られた・・・いや、何がしかの意味がある機械であろうが・・・部屋だった。

シオンが口を開く。

「お前を・・・殺してやりたい!」

そうして、あっけにとられる剛を尻目に、コートと帽子を脱ぐ。

現れるのは、ガイボーグの体。

「お前がいなければ・・・私はこんな姿にならずにすんだ!!」

「・・・自分がそんな体になって始めて気が付いたか、シオン。人間をアレだけミューティアンに変えておいて・・・身勝手な!しかも、今日知ったやつの話じゃ、俺と戦った以外にも・・・!」

「黙れ!新しい世界のための犠牲・・・それは、必要なものよ・・・でも、今はそんなことを話しているときではないの・・・今の私の任務は・・・世紀末王の命令は、お前をここに連れてくること、そして、あの娘を捕らえること・・・!」

広いフロアに出る。

お互いに憎悪のこもった言葉と視線を交わしながら。

「世紀末王だと!?何者だ!」

「クラウンの・・・いえ、ネメシスの真の支配者にして、やがて世界に席巻する存在!・・・それは・・・」

「それ以上言う必要はねえぜ、シオンの姉ちゃんよ・・・けけっ」

シオンの言葉に、上からの声が制止をかける。

「何者だ!」

「よく来たなぁ、ガイファード。俺たち最初から幹部怪人だったやつと違う・・・しかも、お前の場合はホントに偶然なんだってなぁ、歓迎するぜ・・・幹部候補!」

癇に障る声が響く。

「お前が世紀末王・・・?」

「いや・・・違うぜぇ・・・いいか、あのお方と俺ごときを一緒にするんじゃねえ!『蜘蛛』ってんだ・・・ネメシスの幹部怪人『蜘蛛』。覚えててくれよな!」

剛の疑問に一瞬激昂し、そうして『蜘蛛』が姿を現した。

「お前たちのせいで・・・兄貴が!」

噴出しそうな憤怒を抑えながら、剛はそう言った。

それに対して。

『蜘蛛』は両手を広げて言った。

「へぇ・・・怒ってんのかよ。いいぜぇ・・・もっと怒れよ・・・そうして、正体さらけ出しなぁ!お前の”ホントウノスガタ”ってやつをなぁ!」

心底楽しげに。

それは、剛の憤怒を煽り立てるには十分だった。

「ふざけるな!!」

言った瞬間、紅い蒸気が剛の体から噴出す。

光を放ち、ガイファードに姿を変え・・・

そして、変わらず『蜘蛛』をにらみ続ける。

その時、後ろから唐突に声が響いた。

「美しいですね・・・なんて美しい生き物でしょう。」

「?!」

「なんだ、『蝙蝠』かよ・・・何しに来やがった!」

振り向けば、そこには、黒いスーツに紅いネクタイを締めたビジネスマンの姿があった。

「そういうな、『蜘蛛』よ・・・私は世紀末王様のお考えを伝えに来ただけだ。」

「・・・チッ!」

そう言って、『蜘蛛』からガイファードに向き直る。

「何者だ!」

「私は『蝙蝠』。そこにいる『蜘蛛』と同じ幹部怪人です。今日は・・・わが主の考えを伝えに参りました。」

言うと、パチリ、と指を鳴らした。

『フォッ!』

合図とともに、後ろから銀色の竜を模したような化け物が襲い掛かってきた。

そいつはガイファードに容赦ない連撃を食らわしていく。

「ぐはっ!」

無敵のはずのガイファードがあっさり膝を付く。

「気のコントロールができなくなっているようねぇ・・・」

シオンが嘲ってつぶやいた。

冷然と『蝙蝠』が言う。

「ガイファード・・・あなたはわれわれと同じ、永遠の力を持った理想の生命体だ・・・これからの地球は、われわれのような超人間が治めるべきなのです。」

「・・・どういうことだ!」

「つまり・・・人間はこの星を汚しすぎた、ということです。争いにかまけ、滅ぼうと努力する。そんな愚かな人類など滅ぼしたほうがいいのですよ・・・」

「なんだと!!」

超然と言う『蝙蝠』に、ガイファードは激昂した。

「あなたは気をコントロールして、人間の姿でいる。それはとても不自然なことです。」

「違う!」

激しく首を振る彼に、『蝙蝠』は冷徹に言い放つ。

「いいえ、違いません。君は兄を殺したことに、後悔と罪悪感を抱いている。そんな人間の感情など捨ててしまったほうがいい。どの道、宿命から逃げることなど・・・」

どこからか取り出したグラスから、紅く、どろりとした液体を飲み干し、続ける。

「できないのですよ・・・」

その言葉に、剛は変身をといて・・・言った。

「俺と兄貴はどの道戦う宿命だったって言うのか・・・?」

あの日の言葉がよみがえる。

―――武道家の宿命だ!

――――たとえ親兄弟といえども戦わずにはいられない・・・!

―――――最強であるために!

「われわれは世界を変えます。強靭な肉体を持った特別な人間だけが生き残る・・・そうでない人類は、ほら・・・ファラーを使えば一掃できるじゃないですか・・・?これこそが淘汰!」

『蝙蝠』は笑いながら続ける。

「どうです?愚かな人類など見限り、われわれに与しては?それこそがわが王の考えでもあります。・・・ようこそ、ネメシスへ。ガイファード・・・」

ゆっくりと、まるで女性を口説くような口調で『蝙蝠』はそう言う。

「悪いが、その手にはのらねえぜ!」

『蝙蝠』の誘いに、きっぱりとそう言って、剛は続ける。

「俺が戦ったのは兄貴なんかじゃない!貴様らに作り変えられた、モンスターだ!!」

す、と力を抜いて彼は言った。

「おかげでわかったよ・・・俺がお前らを許せないのは、人に人の心を失わせ!必要のない争いを起こさせるからだ!」

「てぇめぇ・・・そーかよ・・・」

憤怒を声から溢れさせる『蜘蛛』に向き直り、剛は叫んだ。

「人類を滅ぼし、特別な人間だけの世界を作るだと・・・!?お前らはいったいどれだけの血を流せば満足するんだ!!」

スゥ・・・

息を吸う。

気を整える。

木火土金水風星・・・

七星の気を集め、剛は変わっていく。

「フッ!ハッ!鎧気装!!」

気が集まる。

剛の体は。

「究極の戦士」・・・ガイファードへと変身した!

そして、先ほどの化けものへと向けて、構えた。

「残念ですねぇ・・・なら、もう用はありません。・・・それは、メタルファード、あなたと同じガイボーグボディにファラーを寄生させたものです。やりなさい、ドラゴス。」

しゅしゅしゅ・・・

目の前のドラゴスは挑発するように、こう言った。

『ようやく、ホントウノスガタになったな・・・ガイファード!』

そうして拳を繰り出す。

そのパンチをインサイドパリィして、正拳を叩き込む。

そして、言った。

「俺は・・・お前たちと戦う。迷わずに!!」

回し蹴りがヒットする。

そして・・・その言葉に呼応するかのように、大音声がとどろいた。

よく言ったぜ、剛さんよ!!黒狼ぉーーードリルキック!!

グワッシャァァァァッ!!

壁が砕け、月光が差し込む。

そこから現れたのは・・・



「『蛇』・・・どうやら・・・」

「ごめんなさい・・・しくじってしまったわ・・・」

先ほどの女なのだろう、蛇仮面の怪人はそう言った。

「気にしないで下さい・・・今さっき、私たちも失敗したところですから。」

『蝙蝠』に目配せしながら、シオンは微笑んでそう言った。

どうやら、シオンと、『蛇』は懇意にしている・・・ようだ。

「仕方ありませんねぇ・・・『蜘蛛』、任せられますか?」

「わかってるよ・・・あーあ、めんどくせえ・・・なんて、いわねえよ!!ドラゴス以外全員下がれ・・・黒狼は、俺の獲物だ!!」

怒りに身を震わせて、『蜘蛛』は叫んだ。

それに対して、そう、壁から現れた黒狼も言った。

「ふん・・・あのときの決着、今ここで決めてやるぜ!!変身!!

空には満ちたる月。

叫んで、黒狼は変わっていく。

我、疾風の騎士!仮面ライダー黒狼、ジークフォームっ!!

また、聖剣体へと変化した。

その手には、信一から預かった木刀。

それは、見る見るうちにジークキャリバーへと姿を変えた。

・・・彼がそう叫んだときには、『蝙蝠』も『蛇』も、シオンも消えていた。

が、黒狼の闘志はそちらへは向いてない。

「行くぞ、『蜘蛛』!!ルガァァァァァッ!!」

そう叫ぶと、壁の穴から、ものすごい勢いでかけてくる犬がいた。

まだ子犬・・・いや。

その姿は巨大な狼のごとく変化したかと思うと、馬のごとき形態のバイクへと変化した。

「行くぞ、ルガー・・・ソード!ブレイカァァァァァッ!!

ルガーに飛び乗ると、アクセルを全開で吹かす。

ルガーは一瞬でトップスピードまで駆け上がり、黒狼とともに中世の騎士のごとく突貫する。

剣を構え、貫く!

ズシャァァァァッ!!

「ちぃっ!!」

一撃が、『蜘蛛』の腕を一本、吹き飛ばす。

ぼたぼたと、不気味な色の血が流れた。

その時、壁の穴から外へ、ガイファードとドラゴスが落ちていくのが見えた・・・

「おおおぅ!!斬!キィィィィィク!!

背からとび上がり、剣が三日月を描く。

現れた欠けたる月が、放たれた蹴撃を加速する。

それを辛うじて『蜘蛛』はよけ、がら空きの背中に糸を・・・

「吐けると思うか!!ハッ!」

斬!

ジークキャリバーが一閃し、糸を切り裂く・・・そして。

ザクッ!

返す一太刀が、『蜘蛛』の腕のもう一本を薙ぎ散らす。

大量の返り血が黒狼へとかかった。

「「・・・しまった!」」

どちらが先に叫んだろうか。

その瞬間、聖剣体が解ける!

そして・・・

ざしゃっ!

手の甲に生えた、三本の爪が『蜘蛛』の顔を薙いだ!

「ぐあぁぁっ!っきしょぉぉぉぉっ!!俺の力を、吸いやがったなぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

絶叫が響く。

「ううう・・・覚えてやがれ・・・てぇめぇは俺がぜってぇ・・・殺してやるぁぁぁぁ!!」

叫ぶと、『蜘蛛』は闇に消えていく。

「「・・・チッ!」」

二人の舌打ちが、同時に闇に響き・・・

そして、戦いは、終わった。



アパート近くの工事現場

広く、空き地のようになっているそこで、二人の戦士がにらみ合う。

「ハッ!とりゃぁ!!」

『ウォッ!ぐあぁぁっ!』

拳が弾け、蹴りが踊る。

胸に一発、腹に一発拳打を食らわして、ドラゴスを派手に吹き飛ばした!

流れるような連続技で、ガイファードはドラゴスを追い詰めていった。

腹に一撃食らわしたかと思うと、今度は背中。

足を、まるで使い慣れた道具のように使いこなして(使いこなせるような修行をしたのだろうが)、もう一度吹き飛ばす。

ドラゴスの拳打を受け流し、蹴りを受け止めた手を踏み台に、サマーソルトキックがあごを蹴り上げた。

「どうだ!」

『グゥゥ・・・』

一声うめくと、ドラゴスはズボンから・・・

二つのヌンチャクを取り出した。

それを振り回し、使いこなす。

『フォオオ!フォオ!』

ガンガン!

ガイファードの拳打と、ドラゴスのヌンチャクがぶつかり合い、輝きを生んだ。

『はぁぁぁ・・・奥義、地雷鳴動波!!』

二つのヌンチャクを地面に突き立てると、そこから彼の気が流し込まれていく。

ぐわっしゃぁぁっ!!

刹那、すごい音を立てて、地面が爆発した。

「ぐはぁぁっ!!」:

ガイファードも、これにはたまらず吹き飛ばされる。

それに追い討ちをかけるように、ドラゴスはヌンチャクで攻撃した。

だが・・・

そのヌンチャクを受け止め、奪い取ろうとガイファードは力を入れた。

「おおぉぉぉぉ・・・・!」

『フゥゥゥゥゥウゥゥ・・・!』

十字に返し、ねじり、足で吹き飛ばす。

ついに、ヌンチャクは彼の手からはなれ・・・

そして、ガイファードはそれを投げ捨てると、すばやく手を目の前で交差し、それを腰溜めに持っていく。

奥義!!烈火撃!

ドガドガドガドガドガ!!

猛烈な輝くパンチの嵐がよろめくドラゴスのボディに突き刺さった!

そして・・・

奥義!!極星拳!!

腰溜めに構えた拳を前に突き出す。

すると、拳から光弾・・・気弾が飛び出した!

ガシャアアアッ!!

その気合の拳は・・・

『ぐうぁぁぁぁ・・・・』

どぉぉぉぉん!!

見事、ドラゴスを爆発四散させたのだった・・・



「・・・よくやってくれた、三人とも。おかげで秋子も無事だった。」

病院の一室・・・秋子と麗は信一の友人が経営している病院に措置入院した・・・で、信一はそう言った。

「いや・・・」

「結果的に、大物は逃しちまった。」

「俺なんか、あいつを見失ってっきりだしね・・・」

剛と榊、そして隼人が口々にそう言った。

「気にしないで、剛。」

「そうよ、榊・・・無理は、しないで・・・」

その言葉に、にこりと笑って剛はつぶやく。

「ああ・・・わかった。」

「剛、そんなに気を使わないで。わたしたちは、仲間なんだから。」

そう言って、剛を見つめた。

「そうだ。これ・・・」

なにか、居づらい雰囲気になった、と感じた隼人は剛に一葉の手紙を渡した。

「・・・もし、来る気があるなら、その住所まで行ってみてくれ。頼む。」

そこには、ジオベース・・・そう、G.U.A.R.D.日本支部の住所が記されていた。

隼人の言葉に、剛は微笑んで「わかった・・・」と言った。

そして・・・その後は、城石が入ってきて、剛と榊をからかったり、優が花束を持ってきたり、見舞いの品を出し忘れてた剛たちがあわててそれを出したり・・・

和気藹々とした時間が、しばし流れたのだった・・・

―――それにしても、あいつの血をなめたとたんに出た、あの爪は・・・

榊の少しの疑問を残して。



富士山麓 地下

「・・・世紀末王は彼を迎え入れたいと言っておられるようですが、それは無理です!」

シオンが、憤然とそう言った。

「心配ないでしょう・・・ガイファード、そして黒狼も・・・所詮人間とは相容れない超生命体・・・いずれ人間に絶望するときが来ます。」

「そうだといいんだけどね・・・『蝙蝠』。」

「ふ・・・『蛇』、シオン・・・どうにも、あなた方は感情に支配されすぎる。もう少し冷静にならないと、こいつのようになります。」

『蝙蝠』の指差した方向には、培養液に浸かる『蜘蛛』の姿があった。

「まったく・・・力を吸われるなど、何たる失態だ・・・」

うとわしげに『蜘蛛』を眺めながら、彼はそう言った。

「まぁ、仲間になるならないにかかわらず・・・ここからですよ、ここから・・・」

『蝙蝠』が不気味に言う。

「手ぬるいですよ・・・『蝙蝠』殿。製造中のメタルファード全てをぶつけてでも・・・!」

「やれやれ・・・・『蛇』さん、あなたはどうですか?」

「・・・ふん・・・」

『蛇』は鼻で笑うと、シオンに「いきましょう」と言った。

不満そうに、『蛇』の後を追いかけるシオンを見つめながら、『蝙蝠』は一人ごちた。

「ふん・・・なにもかも、あの男の言ったとおりに動いている・・・気に食わん・・・」

グラスの紅い液体を飲み干して。

続く。






次回予告

常識はずれの風速の。

台風が、首都圏に近づく。

いったい、こいつは何者だ?

立ち向かうものは何か。

人間と、光の巨人・・・

そして、「かつてのもの」が残した機体・・・

次回、スーパーヒーロー作戦SPIRITS

「純白の騎士」

魂より継がれし物語・・・今こそ語ろう・・・




あとがき

時間かかりました。

切腹です。

秋子さん「今回は出番多かったので、満足です。」

そうですか。

黒狼本編と違うのは、秋子さんは信一さんに付き合って剛たちのサポート(主に生活面)をしながら、ネメシス(クラウン)と戦ってました。

また、クラウンはISSと同じく、ネメシスの下部組織の一つ、と言う設定です。

シオンは『蛇』の部下になりました。

『蝙蝠』たちに、慇懃な口調なのは、『蛇』以外の幹部怪人が激しく嫌いだからです。

馬が合ったのでしょうね、『蛇』と。

境遇も、少し似てるしねー。

復讐心の向かう対象とか、違うけど。

どこが似てるかは、黒狼本編とガイファードを見てね♪

秋子さん「似てるといえば、ネメシスの連中・・・どこかの幸運四葉みたいになってるじゃないですか。『蝙蝠』さんが社長さんの。」

シオンが禿で、零さんが冴子さんで、『蜘蛛』が北崎だとでも・・・馬鹿な。

秋子さん「『蜘蛛』さん以外はあってるじゃないですか。これで黒人のオリキャラとか出したら、張り倒しますよ?」

げひゃん、確かにそうなってる(読み返して気づいた)

―――よし、ここは、あいつら(黒狼本編キャラ)を作り出したY殿に先見の明があったということでファイナルフュージョン承にぐはっ?!

効果音「ドッカァァァァン!!」

NR「どこからともなく、薔薇爆弾が投下された。」

く・・・すみませんごめんなさいどうしてこうなってしまったのか自分にもぐふっ?!

効果音「ずっどぉぉぉぉぉん!!」

秋子さん「多分、正義の鉄槌ですよ。うんうん・・・」

そんなひどい・・・・

まぁ、とにかくっ!

やってやるぜ!!

秋子さん「適当なこと言ってますね。」

まったくまったく。

この話は、今までで一番でっち上げ度の高い話かと。

秋子さん「・・・皆さんへのお詫びに謎ジャム食べます?」

普通のでお願いします(どキッパリ)

では、また。

秋子さん「次回もこの番組で会いましょう。」

Y(ヤクト)団首領。に無限の感謝をしつつ。

シュワッチュ!!



Ps.クリスマスなんて、休みのわけないよ?ていうか、毛唐の祭りなど拙者にかんけーなかんべー。
ふりきゅらまっしゅらー(謎


Psの二乗.Y殿に、黒人のオリキャラだしても良いよ(ニヤソ、って言われました。うれしいのか、悲しいのか・・・くすきゅ〜ん


おまけ
出すか出さないかわからない物質

グルンガスト四式(参式改) 「獅式装攻スレードガスト」
全長53.7m 重量420t 主機関:トロニウムエンジン
武装
 参式斬艦刀改(参式斬艦刀がマシンセル注入の影響で進化した物。通常長30m,戦術長110m,最大長40000m)
 オメガブラスター(胸の装甲板からの熱線)
 ドリルブーストナックル(背中に装備されたドリルを腕に装着して放つブーストナックル)
 獅式爆連打(ドリルブーストナックルを射出せず、腕に装着した状態のまま敵を連続で殴る技。
必殺技
 斬艦刀・電光石火
 斬艦刀・大車輪
 斬艦刀・雷光切り
 斬艦刀・雲耀の太刀
 斬艦刀・稲妻重力落とし
 斬艦刀最終奥義・一閃!星薙の太刀(最大長までに伸ばした斬艦刀で一定範囲を更地になるまで完全になぎ払う)
完成したグルンガスト参式(一号機)が、エンジン制御のために注入したマシンセルによって変貌した機体。トロニウムエンジンのフルドライブを行うことで斬艦刀を最大40000mの長さまで伸ばし,それを振ることができる。ダブルG用の制御機構を流用したことで、より精密な動きができるようになった上,ベーシックモーションプログラムの助けなしで斬艦刀を自在に操る事ができるようになった。スォードグレイブやSRXのような典型的一撃必殺型スーパーロボット。前述の2機よりは無茶な機動によるパイロットへの負担や機体自体の危険性の度合いは少ないが,メインパイロットであるゼンガー=ゾンボルト中佐自体が無茶なので設計者のそんな心遣いなど無駄である。マシンセルによって未だ進化しつづけていることが最大の危険かもしれない。お名前は親分謹製。
最終的にスレードゲルミル(の様なもの)になるはず。


R-SQUARE(R-1-Revolution)
全長21.1m 重量65t(GBP装備時83t) 主機関:トロニウムエンジン
武装
 五連チェーンガン×1
 念動収束式レーザーライフル×1
 ビームソード×1
 T-LINKスライサー×16(念動操作式破砕円盤)
 ワームスマッシャー(重力収束兵器)
 リヴォルビングバンカー×1
必殺武器
 T-LINKスマッシャー(リヴォルビングバンカーに念動フィールドによる強化を施した技)
 T-LINKブレード(念動収束式エネルギーブレード)
 重力念動式収束光線銃(トロニウムエンジンフルドライブ時の全エネルギーを念動フィールドと重力フィールドで極限 まで収束し放つ、必殺武器。GBP装備時のみ使用可能)
特殊装備
 グラビティフィールド(GBP装備時)
 念動フィールド
 T-LINKシステム
 グラビコンシステム(GBP装備時)
 ウラヌスシステム
 GBP(グラビティバックパックの略。ブラックホールエンジン搭載の増加装甲)
単体でSRX以上の攻撃・防御能力を持たせるために開発された実験機。R-1の残骸から回収したパーツを元に、遠近にバランスのよい能力を持たせた。GBPと言う特殊装備を持ち、これを装備した場合にのみ、重力兵器の使用が可能となる。また、元となったR-1よりもはるかにごつい機体となってしまった。
R-SQUAREという名前は「Rの二乗」を意味している。搭乗者はリュウセイ=ダテ。