男と女がいた。
男は茶が混じった黒髪に金のメッシュ、屈強そうな体に仏頂面を貼り付けて、幼い女の子を抱いていた。
女は、ウェーブの入った見事な金髪を後ろで止め、健康そうな肉体に屈託のない笑みを浮かべている。
「いくのか、エクセレン。」
男は言った。
心底は心配していない、ただの確認。
信頼ゆえに、心配しない。
「もちろん。いくらなんでも、軍の命令を無視するわけにはいかないでしょぉ、あのときじゃあるまいし。」
女・・・エクセレンはそういって笑った。
その顔には、少しだけ憂いがある。
・・・昔のことを、思い出す顔だ。、
「・・・ふっ。わかっているさ。」
そういって、男は初めてその仏頂面を崩す。
「その間、アルフィミィのことは任せろ。」
「うん・・・後、よろしくね。キョウスケ・・・」
ふわりと微笑んで、エクセレンはそう言った。
「ふふ・・・ほら、そんなさびしい顔しないで、あなたも、アルも。」
キョウスケは、その言葉に「そんな顔してたか?」という顔をする。
そして、目の前の白い機体を見上げ、つぶやいた。
「純白の騎士・・・あの時と同じく、エクセレンを・・・俺の愛するものを、守ってくれ・・・その、名に恥じぬように・・・」
その言葉を、エクセレンは聞かない振りをして、そして機体へ滑り込む。
「じゃぁ、いってくるね、アル・・・キョウスケ!ライン=ヴァイスリッター、出るわよ!」
そうして、格納庫の扉が開く。
純白の騎士の隣の、赤い鉄巨人の顔が「行って来い」と言っているように、彼女には思えた。
―――そして、また一人。
戦士がその名と魂を世界に刻む。
スーパーヒーロー作戦SPIRITS
第十六話「純白の騎士」
自然コントロールマシン「テンカイ」登場
太平洋上
「こちらブラボー。台風13号の中心に接近・・・一三○○より高空気象観測を開始する。」
名も無き気象観測機のベテランパイロットは、何度目とも知れない台風中心部での高空気象観測を始めようとしていた。
この台風13号・・・近年の台風・・・いや、記録されている台風のなかではもっとも速い、中心風速50mオーバーのスピードを持っていた・・・
こういうとき、アメリカにはハリケーンハンターズという観測チームがハリケーンを観測しているのだが・・・
彼は、その日本版を自負していた。
この名も知れぬ男は、台風中心・・・台風の目のアップ写真を撮るのが大好きだった。
そのために、わざわざ観測用機器のほかに、出所の知れない高性能のガンカメラを愛機に装備していた。
「さぁて・・・今回はどんな形なのかね・・・」
それは、純粋な好奇心。
しかし、それは自ら墓穴を掘る行為に過ぎない。
無風域とはいえ、彼は油断するべきではなかったのだ・・・たとえ、何度この巨大な自然の暴威から生き延びた身でも。
「・・・なんだ、こりゃ?」
ガンカメラの向こうに見えた、物体・・・それは、彼の望む台風の目などではなく・・・
「・・・大変だ・・・」
その発見を、誰かに伝えるべく、彼は愛機のスピードを上げた・・・だが。
「こちらブラボー!とんでもないものを見つけた。画像をそちらに・・・!?」
がづん!!
強い衝撃が機体を襲い、次いで意識がブラックアウトする。
そして、彼の機体は落ちていく。
台風の中心に向かって。
そして、彼と、その物体が接触した部分に、小さな爆発が起こる。
そして、生まれた破片・・・そう、その破片は猛烈な風とその物体が巻き起こす電磁波に吹き飛ばされ、虚空へと消えていった・・・
こうして、彼の人生は幕を閉じた・・・
東京
ここの所、大きな事件は起きず(起きていても、それはXIGにとっては遠い場所で起きていて)、彼らにとっては概ね平和といえた。
勿論、アンノウンは相変わらず現れ続けていたし、帯脇コンツェルンのものと思われる犯罪ロボットも後を絶たない。
しかし、ゴルゴムは姿を見せず、不気味な沈黙を守っていた。
―――もちろん、あれ以来姿を見せない根源的破滅招来体も。
そんな、ある日・・・
「はー、毎日変わらんねぇ・・・この作業。」
そんなことをつぶやきながら、清掃員のおじさんは上を見上げた。
空は青く澄み切って。
そう、首都圏の空には似つかわしくない。
20世紀のころと比べれば、よほど大気はきれいになっているものの、この街でこんなきれいな青空を、おじさんは見たことがなかった。
「日本晴れ、か・・・まったく、どうかしてんじゃねぇのか・・・?」
そう言って、手に持ったモップを熱心に動かし始める。
―――さて、次の作業は・・・と。
そう思ったときだった。
ひゅううぅぅぅぅ・・・
―――風切音?
そう思って、もう一度空を見る。
そこには、ものすごいスピードで堕ちてくる物体。
―――?
疑問に思ったのも束の間。
其の物体は、おじさんのいるフロアを直撃し突き抜け、信じられない速度で地面へ落下する。
と同時に、おじさんの意識ははるか冥界まで吹き飛ばされたのだ・・・
エリアルベース 艦長室
薄暗い部屋で、精悍な男が繊細な手つきで茶を点てている。
そして、中年の男はそれを口に運び、そして作法に則ってそれを机の上に戻した。
「コマンダー・・・奇しくも、アルケミースターズの光量子コンピューターが予測したように、以前にも勝る勢いで怪事件がおきている。」
コマンダー・・・石室は柄杓で鉄瓶に水を指しながら、その言葉を聴いた。
「その時のために備えていたとはいえ、私は正直、戸惑っているよ。」
茶杓をしまい、茶筅を持って、そして石室は言った。
「千葉参謀。」
鉄瓶の中では、水をさされて冷めた湯が、再び熱を持って湯気を上げる。
「一時に多くの天才・・・が生まれ・・・そして、時を同じくして怪獣が現れ始めた。最初にアルケミーチャイルドと認められた人物が生まれたのは1980年代初頭です。彼らが青年となり、社会に出ると同時に・・・・ちょうど四半世紀になりますか。」
そう言って、手を止める。
「もし、世の中のすべての物事が、均衡の元に保たれているのだとしたら・・・?」
「・・・それは、アルケミースターズ・・・錬金術の子供たちが怪獣や怪事件を呼んでいる・・・ということかね?」
千葉は、反論してそういった。
「彼らはTDF・・・G.U.A.R.D.・・・ひいてはTPCの設立に大きな役割を果たしたんだぞ・・・?」
「はい。彼らは地球のためになくてはならない存在です。」
「・・・矛盾、だな。」
まさしく。
そう、仮に石室のいっているとおりなら、矛盾だ。
アルケミースターズ・・・アルケミーチルドレンの開発したもろもろの発明品・・・
それがなければ、環境やエネルギー・・・多くの分野で未解決・・・あるいは、悪化の一途をたどったであろう事物が五萬とある。
下手を踏めば、近未来に氷河期が起こる危険すらあった。
それが怪獣や怪事件を呼んでいるのだとしたら・・・
そこまでのことを考えて、千葉は考えるのをやめた。
「はい・・・私のような一指揮官の考えが及ぶものではないのかもしれません・・・今は、ただ無心に目の前の敵を砕く・・・!それが、何らかの答えをもたらすと信じています・・・」
神妙な顔つきでそういう石室に、千葉は「なるほど」といって嘆息した。
壁には、「無」と書かれた掛け軸が飾ってあった・・・
レベル0 ファイターズデッキ
「おい、我夢・・・何をしてるんだ?」
「あ、ああ・・・南君か。これから、横浜に落ちた隕石・・・らしいものについて調べに行くんだ。」
ヘルメットをかぶりながら、我夢は光太郎に言った。
「・・・まさか、ゴルゴムの仕業か・・・?」
「あー、多分違うと思う。それに何回目だよ、そう言って外したのは・・・」
その言葉に、光太郎は憮然とした。
「おかしいな・・・ゴルゴムが静かすぎる。他の組織が暗躍してるは、君も知ってるとおりのはずなんだが・・・?」
―――不気味な沈黙。
そうとしか言えない。
「考えても仕方ないよ・・・今は、目の前のことを片付けよう。そうすれば、いつか南君の敵も姿を現すって!」
「ああ・・・」
そう言って、我夢は光太郎と別れた・・・
横浜
黄色いテープで囲まれた一帯に、幾人ものG.U.A.R.D.隊員がせわしく動いていた。
地面には、信じがたい大穴。
そのテープを越え、我夢はそこにいた男に話しかけた。
「すいません、ここが隕石の落ちた場所ですか?」
その言葉に、我夢が話しかけた理知的な、メガネをかけた男は言った。
「あなたが・・・XIGの方ですか?」
穴から這い出してきた、その男に、我夢はにこやかに敬礼して言った。
「高山我夢です!よろしくお願いします。」
「私はジオベースの樋口でし。よろしく。」
樋口と名乗った男は、向こうに聳え立つビルを指差し「あのビルを突き抜けて、ここまで落ちたんです」と言って、穴の中に戻っていく。
見れば、そのビルには大穴がひとつ開いており、爆発でも起こったのか黒く焼け焦げているのがここからでもはっきりと見て取れた。
「これなんです。」
そういいながら、樋口は穴から再び這い出し、アルミのトレイに乗っかった隕石のかけらを我夢に見せた。
それは、人工物・・・・ビルか、それともパネルに描いた絵の欠片のような、そんな印象があった・・・
「さ、いきましょう。ジオベースには今、セイバーに配属が決定した方が待機しているはずです。」
そう言って、樋口はベルマンと呼ばれるG.U.A.R.D.やXIGで使用されている公用車に我夢を促した。
樋口は、大きなトランクを持って、我夢はてぶら。
おそらく、そのトランクには、先ほどの「隕石」の欠片が入っているのだろう。
―――G.U.A.R.D.の秘密基地、ジオベースか・・・どんなところなんだろう?
我夢がそんなことを考えながら、車のドアを開けて乗り込もうとしたときだった。
―――我夢。
はっきりと、聞き覚えのある声が聞こえる。
ああ、これは彼にとっては忘れようもない。
自らのうちに眠るもの・・・その片割れとも言えるものを宿した存在の声。
驚愕し、辺りを見回す。
すると、歩道橋の上に・・・
彼は、いた。
「―――ちょっと、待ってください!すぐ戻ります!!」
樋口にそう言って、我夢は開きかけのドアを強引に閉めて、走り出した。
そして・・・
「―――藤宮、君?」
そう、彼に我夢は問うた。
しかし・・・
何の感情も見せぬ顔で、彼は言った。
いや、感じるのはかすかな敵意と諦念。
「我夢・・・少しは気が変わったと思ったが・・・君はまだ、あの仲良しグループにいるのか・・・?」
そして、呆れを含んだ声と表情。
「君こそ、どうして姿を現さないんだ!?僕たちと一緒に地球を救う手助けを―――」
「我夢!目の前の敵を倒すだけじゃ駄目なんだ。もっと自分の力を有効に使うべきだ・・・」
我夢の言葉に、冷徹にそう返す藤宮・・・
そして、我夢に近づく・・・
おそらくは、このまま去るつもりなのだろう。
だが・・・
―――それは、違うよ。
優しげな、声がした。
二人が振り向く。
我夢は驚愕を、藤宮は少しの疑念を浮かべて。
そこには、一人の男がたたずんでいた。
顔には、襤褸が巻きつけられ、顔は見えない。
「それは、違う。目の前の敵を砕き続けなければ、物事の根源は姿を現さない・・・」
「・・・何者だ?」
藤宮の疑念の声に、男は答えた。
「―――光。」
その言葉を発して、男は襤褸を取る。
「―――あなたは・・・!」
「知っているのか・・・我夢・・・」
そう言って、藤宮は我夢を見た。
「う、うん・・・この人は、あの時現れた・・・」
「そうだ。僕はウルトラマン。僕の中に「グレート」がいる。」
我夢の言葉を接ぎ、彼は言った。
「ジャック=シンドーだ。覚えていてくれ・・・」
「・・・」
「―――あの、あの時はありがとうございました。」
我夢は、あの時・・・
そう、地底怪獣を一撃で抹殺した異次元空間から現れた怪獣を相手に、共に戦った戦士に、まだ礼を言ってはいなかった。
「気にするな。僕は、当然のことをしただけなんだから。」
「―――何者かは知らない。だが、君もウルトラマンなら、人類など・・・」
藤宮がそう言う。
だけど。
「それは、僕が決めるべきことじゃない。宇宙の掟が決めることだ・・・」
藤宮の言葉をさえぎって、ジャックはそう言う。
そして、続けた。
「君たちは・・・まだ、今は目の前の敵を倒すことを考えるべきだ。その後ろは・・・いや。」
そうして、言葉を区切る。
ニコリと笑い、そして続ける。
「―――いずれ知る。その時、残酷な運命に負けてはならない・・・」
そう言って、そして歩き出す。
「あ、待ってください!」
「まだ。僕が君と一緒に戦うときではない。そこの・・・藤宮君とも。」
そういいながら、歩は止めない・・・
やがて、一陣の風と共に、彼は消えていた。
そして・・・
我夢は肩をたたかれた。
「・・・余計な邪魔が入ったが・・・俺の考えに変わりはない。早く君も目を覚ましてくれ・・・」
そして、藤宮も・・・
気づけば、そこに立っているのは、我夢一人。
そして、ため息と共につぶやく。
「藤宮・・・」
そして数瞬後、彼は樋口の待っているはずのところへ、歩を進めた・・・
ベルマン車内
「風が強いな・・・」
「ああ、台風ですよ。中心風速60m/sオーバーの超大型が来るんですよ。時期はずれなんですがね・・・」
確かに、今は11月も後半。
台風シーズンは、例年ならとっくの昔に終わりを告げているはずだ。
「不思議ですね・・・何かの前触れでしょうか?」
そんな世間話を乗せて、車は臨海の再開発指定区・・・今は、ほとんど野原も同然の埋立地を疾走していた。
「これから、ジオベースに行くんですよね、僕たち。」
「はい。もう到着しますよ。」
樋口は、我夢の質問ににこやかに答え、アクセルを吹かした。
「ジオベースって、G.U.A.R.D.の秘密基地ですよね?」
「・・・おや、ジオベースは初めてですか?」
「はい!」
キキィ!
そうこうしているうちに、車はブレーキをかけてとまった。
そこは、G.U.A.R.D.第七資料資材置場、と書かれた看板が張り巡らされた鉄条網にかけられた所。
およそ、秘密基地、という風情ではない。
そこら辺の倉庫、といっても不思議ではない・・・
「つきましたよ?」
車から降りて、樋口はそう言う。
怪訝そうに周りを見回し、「ここですか?」という我夢に、ニヤリとした笑みを浮かべながら彼は言った。
「驚きましたか?秘密基地なんて、こんなもんですよ。」
その間に、テキパキとゲートのロックを解除する。
シャッターが開き、エレベータホールが姿を現す。
衛兵からの簡単なチェックをクリアし、幾つもあるエレベータのひとつに乗り込む。
そして、それは地下へと降りていった。
「すっげー!!いつの間に東京湾の地下にこんな・・・」
「いや、驚かないでください。これもあなた方の成果なのですから・・・」
苦笑する樋口に、我夢は言った。
「でも、僕はこの地下基地計画には一切かかわってませんから・・・やっぱり、驚きですよ。」
「そうですか・・・あなたの開発したシステムで飛んでいる・・・エリアルベースや、TPC極東本部が防備の最前線・・・いわば、白血球やマクロファージだとするなら、ここはT細胞・・・つまり、地球防衛の頭脳中枢なんです。」
感心して、周りを見回す我夢・・・とその時、唐突にエレベータは止まり、ドアが開いた。
そこから乗り込んできたのは、見慣れた女性・・・パトリシアと、そして・・・
「パット!え、と・・・?」
「はぁい、我夢。元気?」
パットがいつもの調子でそう言う。
それに対し、同じく乗り込んできた女性は、パット以上の軽い声で、「はぁい♪」と挨拶した。
「紹介するわ。私の先輩で、テスラ研でも最高クラスのパイロットの・・・」
「エクセレン=ブロウニングよ、よろしくね、ぼ・う・や?」
パットの紹介に、その金髪の女性・・・エクセレンはそう言って笑った。
「エー、えっと。あの・・・?」
その言葉に、我夢はただたじろぐばかり。
助け舟を出すように、樋口が言った。
心底、呆れた風で。
「ああー・・・高山さん。この人はいつでもこういうノリなんです。あんまり混乱しないでください・・・」
「うんうん。気にしないほうが良いよ、我夢。エクセレンさんいつもこうだから。」
そう言って、頷く二人に、エクセレンは、「いけずー」とぷりぷり怒り、そして、
「エクセレンお姉様、って呼んでっていってるのにー♪」
と言って笑った。
「いやですよ・・・もう、我夢からもなんか言って・・・ってあれ?」
「・・・」
「あらやだ。からかいすぎたかしらねー?固まってるわ。」
エクセレンが、心底面白そうにそう言って、そしてエレベータの短い旅は終わりを告げた。
もちろん、我夢が固まってるのは、その人並みはずれている(はず)の頭で、「ああ、この人が新しいセイバーの仲間なんだな。」と悟っていたことも、含まれていた・・・
「これは・・・地球のものではありませんね・・・こんな材質の物体は、確認されていません・・・しかも、明らかに人工物だ。」
「では、やはり隕石?」
ディスプレイを見つめながら、二人は真剣に話していた。
「―――いえ、それも違います。隕石だったならば、焼け焦げ、特にこの材質なら高熱でガラス状に溶けているのが普通です。」
「では、一体・・?」
二人の言葉に、やはり・・・いや、意外にも真剣な面持ちでエクセレンが口を挟む。
「この材質・・・少しだけ、似てるわ・・・」
そう言うと、樋口からキーボードを奪い、カタカタといじくる。
すると、材質のデータがもうひとつ表示された。
「・・・?これは?」
「お姉さんの機体・・・ライン=ヴァイスの装甲をスキャンしたデータよ。これ、何かの役に立つかしら?」
我夢の質問にそう言って、樋口にキーボードを返す。
「うーん。強いて言えば・・・どこか、有機物のような特徴がありますね。どちらにも。」
「―――でも、それとこれには関係ないでしょう?」
その言葉に、困ったようにエクセレンは言った。
「―――よねぇ・・・あいつらは、滅びたはずだし・・・」
小声でそう言うエクセレンを無視して、樋口は言った。
「うーん・・・だとしたら、どこから来たんでしょうねぇ・・・?ふき飛ばされてきた、と言うのも変ですし。」
「―――?吹きとば・・・?」
樋口の言葉に、疑念を感じ、考える。
―――あのビル・・・!
穴が開いたビルが、鮮明によみがえる。
我夢は隣のワークステーションに腰掛け、キーをはじき始めた。
「―――あのビルの穴のデータは・・・と。よし、あの穴とビルの穴を結んで、大気圏内で放物線を描いてやれば・・・!」
その光景を見詰める、二人・・・
だが・・・
ディスプレイに表示された放物線の行く先には、島のひとつもない海域が待っていた。
「あれぇ・・・?おかしいな・・・」
「何もありませんねぇ・・・でも、こんな距離を飛ばされてくるなんて、途方もない力をかけないと・・・」
その時、我夢のXIGナビが呼び出し音を鳴らした。
「はい、こちら高山。」
『我夢?そっちに台風が向かっているわ。早く帰ってきたほうが良いんじゃない?』
アッコの顔と声が、そう警告をしてくれた。
そして、その警告が正しい答えを我夢のなかに導いたのだった。
「―――台風?まさか・・・!」:
そうして、再びキーをたたく。
「あの時間・・・台風は・・・!あった!!」
衝突時の、台風の位置・・・それこそが・・・!
「ワオ。ビンゴね!」
林檎をかじりながら、エクセレンがそういった。
それだけで、十分だった。
エリアルベース コマンドルーム
「台風の目が、どうしたと言うんだ?」
石室はそう言って我夢を見つめた。
「はい。計算結果が出た後、僕とエクセレンさんで観測を実行したところ・・・見てください。」
「画像、映します。」
そうすると、画面に巨大な・・・なにか、円筒形の物体が映った。
それは、乱れ乱れの画像のなかで存在感を放っている。
「通常の台風では、この「目」と呼ばれている風の穏やかな円筒形の空間では、下に海・・・が見えるほどです。しかし、この台風は・・・」
「この、台風は・・・?」
「目の部分に黒雲が発生し、膨大なエネルギーを発しています。」
「・・・」
「台風は、熱帯の大気上層部と下層部での温度、湿度、気圧の差が激しいところで生まれます。そして、その差が台風の遠心力と雲や雨、風・・・圧倒的な運動エネルギーになっていくんです。この物体は、下手をすればそれを自力で行うだけのエネルギーがあるものと思われます。」
そう言って、我夢は嘆息した。
「このエネルギーを相殺しない限り、この台風は消えないでしょう・・・そうなれば・・・」
―――そうなれば。
この台風は世界中を荒れ狂い・・・
「やがては、文明全てを水に流してしまう・・・か。」
「はい。」
神妙な顔つきで、我夢は続けた。
「しかも、この物体は膨大な電磁波を発生しているため、レーダーの電波が妨害され、近づかなければ正体はわかりません。」
「むう・・・」
そう言って、石室は嘆息する。
と、その時だった。
「コマンダー、ダニエル議長から緊急通信です。」
アッコがそう言う。
「わかった。つないでくれ。」
石室はそう言うと、再び画面を見つめた。
映像が変わり、そしてダニエルの顔が姿を現す。
『我夢。君が採取した大気成分を分析したところ、驚くべき結果が出たよ。』
「え?」
ダニエルは、開口一番そう言うと、説明を始めた。
『コマンダー。あのハリケーンが通過した大気は、メタン・フロン・ハロン・窒素酸化物・二酸化炭素と言った有害成分や温室効果ガスが急激に減少しています。』
そう言ったところで、画面が切り替わり、シミュレートの結果と思しきデータが表示される。
『シミュレートの結果、あのハリケーンがこのまま続いたとすると、約半年で地球の大気は浄化・・・少なくとも、数万年前・・・人類の直接の祖先が生まれたころの状態に戻るはずです。』
ダニエルがそう言ったとき、アッコが切羽詰った声を上げた。
「コマンダー!気象衛星からの映像が・・・!」
「・・・なんだ、これは・・・?!」
そこには、まるで嘲る悪魔のごとき形に変貌した台風の衛星写真が写されていた。
「この台風は、作られたものなのか・・・!」
「台風が、急激にスピードを上げていマス。移動速度、中心風速共にデス・・・中心風速は、秒速120mを突破!」
ジョジーの報告に、石室は眉を曇らせ、言った。
「上陸までの時間は?」
「あと6時間で首都圏が暴風域に入ります!」
―――6時間・・・!
これは、もはやまったく時間がない、と言ったも同然であった。
「堤・・・チームライトニングを呼べ・・・!」
「了解!」
―――セイバーのメンバーの大半は、今いない。
仲間を集め、怪事件を解決するために各地に飛んでいるのだ。
「こんな時に・・・」
画面には、台風の模式図が写されていた。
場には、石室、千葉、堤、オペレーターズ・・・チームライトニングとセイバーの居残り組・・・
光太郎とパット、エクセレン・・・そして、我夢がいた。
我夢は、模式図の前に立ち、ファイターを模した形の指揮棒で説明をしていた。
「台風の目から外れた場合・・・風速120m/sオーバー・・・いえ、もうすでに160m/sクラスになっていますが・・・その風に巻き込まれます。これは、たとえリパルサーリフトの出力をもってしても、抗しえないものです。」
「・・・垂直降下で、近づくか。」
堤がまず意見を言った。
「それは、危険です。リパルサーリフトの特性から、急降下中のファイターは運動性が極端に低下します。下から狙われたら抗しようがありません。」
そう言って、その言葉を否定した。
そして、それに対して・・・
梶尾リーダーが前に出て、言った。
我夢から、すばやく指揮棒を奪う。
「ちょっといいか・・・?無風地帯の幅を利用し偶角に侵入・・・敵を目視し、ミサイルを発射後、急上昇。これなら・・・」
その言葉に、石室は我夢に聞く。
彼は、設計段階からファイターの性能を熟知しているものの一人だ。
「我夢。ファイターの性能を最大限に使用するとして・・・降下できるのは何ftまでだ?」
「・・・そうですね。今の風速だと、安全域は18000ftという所です。これでは、目視できません・・・!」
その言葉は、絶望的に過ぎた・・・
誰もが、諦観を覚える。
「台風のエネルギーをどこかに飛ばせればいいんだけどねー。」
場を弁えない、明るい声でエクセレンが言った。
白い目で見られるのは慣れっこなのだろう。
だが、不思議とそれは元気が出る声だった。
―――しかし、沈黙。
みな首をひねって考える。
その時、我夢が何かをひらめいたように、叫んだ!
「あっ!それだ、それですよ!!エネルギーを減らせばいいんだ!!」
―――?!
皆があっけに取られるようなことを、我夢は叫んだ。
「開発中の”アドベンチャー”のシステムを応用するんです。それと・・・そう、開発中のテストペット・・・たしか、YC-Xっていう大出力マキシマエンジン搭載の船がありましたよね?」
「・・・うむ、確かに存在しているが・・・だが、それとあの実験機と何の関係があるんだ?」
YC-X・・・それは、新型のネオマキシマエンジンを搭載した実験機で、テストも終わり・・・ただのデカ物として近日中に解体される運命にあるアートデッセイ型の母艦である。
「説明します。」
そう言って、我夢は説明を始めた。
「YC-Xの総エネルギー量は・・・ゆうに台風一個分を超過します。これと時空移動マシン「アドベンチャー」のシステムを掛け合わせることで、台風の勢力を弱めることが可能です。」
そして、画面が表示される。
「時空移動システムをYC-Xと連結させ、エネルギーの大半を異空間に吹き飛ばしてしまうんです。これなら、大丈夫なはず・・・です。」
それを具体的に説明する画面が幾つか出て、説明は終わった。
「我夢・・・その作戦が成功したとして、台風の勢力をどのくらい弱めることができる?」
石室はそう言った。
非現実的・・・と誰もが思ったが、しかし、それに賭けるしかない、と言うことも。
「―――おそらく、中心風速30m/sクラスの台風に一時的に変化するはずです。その隙に・・・」
「その隙に、俺たちがさっきの戦法をするわけだな。」
そう、梶尾が言った。
「そうです。ただ・・・成功率は、それほど高くありません。そして、成功したとしても絶対に10000フィート未満まで降下しないでください!」
「・・・わかった。」
我夢は梶尾に念を押して。
「援護は、私がするわ。ヴァイスなら、たとえ暴風に巻き込まれても大丈夫なはずだから・・・」
エクセレンは援護に回ることを約束した。
そして、我夢は石室に目配せをする。
「・・・よし、作戦開始!アッコ。TPC極東本部に連絡してくれ。」
「了解。」
その言葉に、皆がきれいに敬礼をした。
そうして、台風との戦いが・・・始まった。
TPC極東本部
「なんですって?アレを使うんですか!」
「そうだ・・・ナカジマ。これからXIGのアナライザーがくる。そいつと一緒に、アレを改造してくれ。」
「そんな、無茶な・・・」
ヒビキはナカジマに、上からの意向を伝えた。
だが、当然ながらナカジマはそれに反対したのだった・・・
「アレは本当に単なる実験機で、武装も何にもついてないんですよ?それでどうやって台風を止めるっていうんですか・・・」
「説明は、そいつから聞いてくれ。とにかく、大仕事だ・・・がんばってほしい!」
「トホ・・・まぁ、使うってんならやりますけどね・・・!私も、技術者ですから!」
そう言って、ナカジマは気合を入れた・・・と、その時。
「格納庫にXIGファイターEX着艦します。」
マイが我夢の到着を報告した。
「オウ!・・・では、作戦開始だ!」
そう言って、ヒビキはいつもの顔で皆に気合を入れる。
当然のことながら、豪を含む皆も、「ラジャー!」と気合の入った声で言ったのだった。
―――二時間後。
「ようやくできた・・・!」
「二時間でデバイスの接続から何から・・・我ながらよくヤッタと思うよ・・・」
我夢とナカジマはへとへとになって、座り込んだ。
「で、どうやって台風を吹き飛ばすんだっけ?」
「はい・・・マキシマをオーバードライブ状態にして、そのエネルギーを全部時空移動システムに注ぎます。それでもって、時空間移動に必要な重力コイルと超空間を発生させ、台風のエネルギーを根こそぎ吹き飛ばすんです。」
「アー・・・なんか、現実味がないなぁ・・・」
我夢の説明に、ナカジマは嘆息してそう言った。
「と、とにかく・・・作戦まで後30分です・・・ちょっとでも休みましょう・・・」
「あ、ああ・・・」
そう言って、二人は沈黙したのだった。
「台風十三号は、現在野島崎沖30km地点で停止。まるで、こちらを待ち受けているかのようです。」
アッコはそう石室に報告する。
「住民の避難は?」
「G.U.A.R.D.日本支部と国防軍が行っていますが・・・後30分はかかるようです。」
「ふむ・・・ライトニングは?」
「上空で待機しています。」
報告が飛び交う。
そして、作戦のラストフェイズまで、後10分を切った。
「よし・・・我夢に指示を出せ。」
「了解。」
そして・・・
YC-X 機内
そこでは、アスカと我夢がそれぞれの任務を果たしていた。
GUTSウィングを改造した急増のコクピットで。
我夢は、デバイスの調整とタイミングの計測。
そして、アスカは操縦だ。
「我夢・・・お前、もし失敗したら、どうするつもりだ?」
「・・・?らしくないなぁ、アスカ。この間の!任務のときは、もっと気合・・・あったぞ・・・っと・・・できた、調整終わり!」
「いや・・・」
そう言うと、アスカは沈黙した。
「それに、何かあっても・・・」
「ウルトラマンがいる、か?」
「いや、そうじゃないさ。仲間がいるからね。僕がいなくてもなんとかなる。そう思ってるだけだよ。」
アスカの問いに、我夢は答えた。
「それにさ、ウルトラマンってのは・・・ギリギリまでがんばって、ギリギリまで踏ん張って・・・それでも、どうにもならないときに、初めてすがるものなんじゃないか、って思うんだ。」
「・・・だとしても。」
「だと、しても?」
そう、疑問の声を返す。
「―――ウルトラマンは、どうして人間を助けるんだ?そして・・・」
「どうやって、ウルトラマンは、そのことを知っているのか・・・人が危険にさらされていることを、か・・・」
それは、自分以外の巨人に対しての疑問なのだろう。
二人は、それと知らずに、同じ疑問を持っている。
だが、我夢には・・・そう、他の巨人の正体を知っている我夢には、こう言えた。
「―――多分。ウルトラマンも、人に近しいところにいるからじゃないかな・・・」
「・・・!」
「そして、多分・・・ウルトラマンの誰かは、この作戦のことをもう知っている。多分ね。」
自分のことをぼかしてそう言う。
そして・・・そうしている間に・・・
「操縦桿が・・・重いっ!」
アスカは叫んだ。
「今のマキシマ稼働率は、どのくらい?!」
「大体、7割だ!!」
「まだ、足りない!!」
そう、そうしている間に、ラストフェイズはやってきた。
「くっそー・・・」
アスカは一人毒づく。
「台風のエネルギーを吹き飛ばすほどの重力コイルを発生させるには、120%以上のフル稼働が必要です!踏ん張ってくれぇっ!!」
「こんなことなら、豪の野郎を下に残しとくんじゃなかったぜ・・・!」
猛烈な嵐。
風速はすでに200m/sを越えている。
そして、そう、そして・・・
限界が、来た。
「く・・・機体が、持たないっ!?」
「まだ・・・くそぉ・・・失敗・・・なのか?」
「負けて・・・たまるかぁぁぁあぁっ!!」
アスカが叫ぶ。
「うぉぉぉぉぉっ!!」
『大丈夫か!我夢!!』
到着したファイター・・・梶尾から通信が入る。
「な、何とか大丈夫です・・・」
持たない、と思われた機体を何とか立て直し、我夢はそう言った。
立て直したのは、アスカだったのだが、我夢の指示がなければ、それも不可能だったろう。
『そうか・・・無理は、するな!』
「はい。作戦成功が確認されたら、お願いします。」
『わかった。それとひとつ、聞きたいことがある。』
「はい、なんでしょう・・・?」
『あの台風が、人間の出した地球の汚れを洗い流しているというのは、本当なのか?』
「そうらしいですね・・・」
「服の汚れを落とす分には、問題ないだろうけどな・・・これは・・・!」
機体を懸命に操作しながら、アスカは言った。
『ふん、さしずめアレは地球の洗濯機、って所か。』
「マキシマ稼働率、120%・・・いけるぞ、我夢!」
ぶぉんぶぉんぶぉん・・・
不気味な音を立てながら、エンジンが臨界稼動を開始しようとしていた。
「よし!アスカ・・・時空移動システムのセットも完了・・・!?」
ごがぁっ!!
その瞬間。
台風の中心風速が音速を超えたのだ。
そう、衝撃波だ。
『大丈夫?ガム。こっちは、あたしも梶尾ちゃんも無事よ!』
「こっち・・・は、ちょっと無理っぽいです・・・」
「大丈夫か、我夢!!」
エクセレンの通信が飛んでくる。
アスカの声も。
「く・・・時空移動システムが壊れ・・・た!」
頭から血を流して、我夢は苦しげにそう言った。
「なんだとぉっ!?」
「マキシマが臨界稼動してるのに・・・動いて、くれない。失敗・・・だ!」
『どうした?大丈ブツッ!』
梶尾の声が途中で途切れる。
どうやら、通信装置がイカレタようだ。
「くっそぉぉぉぉっ!!まだだ!まだ・・・負けてたまるかぁぁぁっ!!」
堕ち行く機体の中で、朦朧とする意識の中で、アスカは叫んだ。
そして、我夢もまた。
「ガイアーーーーーーーーーーっ!!」
そうして、堕ち行く機体を支えて、二人の巨人が・・・現れた!
そうして・・・
二人のウルトラマンは、顔を見合わせる。
―――我夢、お前が・・・
―――アスカ・・・君こそ。
頭に直接声が響いた。
両方とも。
そして・・・目の前の台風をねめつける。
『ジュワッ!』
一声叫んで、ダイナは青い姿・・・ミラクルタイプへと変化する。
そして、二人のウルトラマンは、YC-Xをそれぞれ片手で持ち上げる。
「出力波長が合ってない・・・これでは、駄目・・・」
エクセレンが、つぶやいた。
その時・・・
その白い機体が、淡く輝き始めた。
そして、エクセレンは幻影を見た。
―――おひさしぶりですの。
―――アルフィミィ・・・
―――今は、私・・・貴女の娘ですの・・・お母様・・・
―――そう。やっぱり、そうなのね・・・
―――はい。
―――私の残滓が、レジセイアの遺志が、あの巨人に力を与えます。
―――だから、心配しないで。お母様・・・
そうして、幻影は消える。
エリアルベースからの通信が聞こえた。
『YC-Xの出力波長、ガイアおよびダイナとシンクロします!なにか、他のエネルギーらしき干渉がありますが・・・』
・・・巻き起こる。
二人の巨人の閃光に、YC-Xは光の奔流へと形を変える。
そして、ガイアの腕から一本。
ダイナの腕からも一本。
膨大な量の光が放たれ、それは渦巻き・・・コイルの形を成し。
台風を・・・台風の全てを飲み込み、囲んだ。
そして・・・
一瞬後。
『『ジュワッ!!』』
二人の巨人が振り下ろした手が、コイルをはじけさせる。
そして・・・
ゴガガガガァァァァァァァァァァァ・・・・!!!
轟音と共に・・・台風が消えた。
いや、消えてはいない。
いまだ、残滓・・・
そう、先ほどまでの勢いから比べれば、残滓としか言いようのないレベルの暴風が残る。
風速はおそらく、20m/s程度。
そして・・・
梶尾とエクセレンは、急降下を開始した!
きぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!
「いい?!高度8000切ったら、私があなたを抱えて飛ぶわ!思いっきり突っ込んで!!」
普段のおちゃらけた口調からは程遠い声で、彼女は叫んだ!
「了解!!いくぞ!」
高度、9000・・・8500・・・8200・・・!
はっきりと、正体が見て取れる。
「よし!行くぞ・・・発射!!」
「ハウリングランチャー・・・痛いわよぉ、これ!」
どががががっ!ずしゅぅぅぅぅぅぅ・・・・!!
光線と、ミサイルが、その黒雲を沸き立たせる物体に突き刺さる・・・そして!
物体は、ついにその正体を現した。
円筒形の、まるで縄文土器のごとき形を持った物体だった。
そして、その中央には・・・文字と思しきものが彫られていた。
石室が、つぶやく。
「テン・・・カイ・・・」
「テンカイ?」
「篆書体の文字によく似ている。天上の世界・・・「天界」・・・」
そう言った。
そして、ガイアは気づく。
その文字の一部が欠けていること。
そして、それは・・・
あの隕石の・・・一部だったことを。
―――あれは、こいつの破片だったのか・・・!
いまだ海上にある、テンカイを二人のウルトラマンは見据えた。
そして・・・
それは、竜巻を起こし始める。
「徐々に、上陸コースに復帰しつつあります!」
アッコが叫んだ。
『させるかっ!』
待機していた、梶尾と、そしてエクセレンが攻撃を開始する。
『チ・・・洗濯の次は、竜巻で掃除でもやらかそうってのか!』
『そうはさせないわ・・・下手な洗い方したら、娘が・・・むずがるでしょぉおぉっ!!』
ずがががっ!!
ビームと、レーザーバルカンが次々と突き刺さる。
そして・・・肩で息をついていた、二人のウルトラマンは・・・
まるで、二人とも危ないから早く避けろ、というように手を振った。
そして・・・
『フゥゥゥゥ・・・』
『ハァァァァッ!』
ガイアはフォトンエッジ・・・そして、ダイナは火星でスフィア超合成獣を葬り去ったマイクロブラックホール・・・『レボリウムウェーブ』を作り始めた!
それは・・・
『ジュワァァァァッ!!』
『ダァァァァッ!!』
カッ!!
ずがががががががっ!!!
ギュゥゥゥゥゥウゥゥゥゥ・・・・
放たれたそれは、テンカイを砕き、吸い込み、そしてテンカイを完全に消し去った。
『『・・・シュワッ!!』』
そうして、二人の巨人も、虚空へと飛び去って行った。
「君が、ダイナだったのか・・・」
「そっか・・・お前が・・・」
感慨深げに、二人は顔を見合わせた。
そして、アスカは言った。
「それにしても・・・ウルトラマンは一体何をしたんだ?」
「多分・・・ヘリオトロン型の重力コイル・・・僕らが作ろうとしたのよりも、はるかに巨大なそれを作り出し、高密度量子を螺旋形コイルで亜光速で振動させて、超空間チャンネルを開き・・・」
そこで言葉を区切る。
「台風のエネルギー・・・を一瞬で・・・おそらくは異空間に吹き飛ばしたんだと思う。基本的に、僕らがやろうとしたことの拡大みたいなものだよ・・・それも、桁違いの。」
「・・・なんだよ、それ・・・ダイナとガイアは・・・そんな技を使ってたのかよ・・・」
呆れてそう言うアスカに、我夢は言った。
「―――ウルトラマンは、僕らに及びもつかないこともする。英知の彼方の存在・・・だから、言ったろ。ウルトラマンは、ギリギリまでがんばって、それでもどうにもならないときにしか現れないんだ・・・」
「そう・・・だな。そう思う。」
そうして、上空を見れば。
ピースキャリーとGUTSイーグルがこちらへ向かって降りてくるところだった。
「―――というわけで。セイバー新メンバーのエクセレン=ブロウニングです。よろしく!」
年甲斐もなく、ブイサインなど決めつつ、エクセレンはそう言って自己紹介を終えた。
そして・・・
我夢はどうやって助かったのかを聞かれたが、みんな「ウルトラマンに助けられた」で納得してくれたようだった。
―――多分、アスカも同じ事を聞かれてるんだろうなぁ。
そんなことを思いつつ。
・・・テンカイのわずかな残骸から回収された、一枚の基盤を前に話し合っていた。
「こんなものが・・・あんなとんでもないものの基盤だなんて・・・」
そう、ジョジーが嘆息する。
「それにしても・・・アレは一体なんだったのかね?」
「梶尾さんは・・・アレを巨大な洗濯機と掃除機だ、って言ってました。帰ってきてから・・・ですけど。」
そして、千葉の疑問に答えるべく、言葉が紡ぎ出る。
「台風で大地と海・・・大気の汚れを洗い流し、竜巻で地上の文明を一掃する。その後にすることは・・・」
「―――種をまく。」
我夢の言葉を接いで、石室はそう言った。
「種・・・?」
「侵略者の食料・・・あるいは、新しい生命体の・・・」
「なんだって?!それは・・・本当なのか?!」
我夢の言葉に、千葉は色めき立った。
「―――笑えないわねー。それ。」
エクセレンはそう言った。
「そうか・・・君は、あの事変の・・・」
「あ、それは内緒だって、コマンダーさん。」
エクセレンは明るくそう言って、笑った。
それにつられて、我夢も笑い、そして、
「いえ、僕の妄想です。」
とだけ言ったのだった。
「夕日がきれいですね・・・」
本当にきれいな、その雄飛を見つめながら、我夢は言った。
唐突に、石室が口を開く。
「テンカイが地球を浄化する、とわかったとき。俺は、お前が攻撃に反対すると思っていた。」
「え・・・?」
我夢は面食らって、そう言った。
「お前には、あの機械を作った奴の気持ちがわかるんじゃないか・・・と思ってな。」
「何を・・・」
「人類を犠牲にしても、環境が戻ったほうが地球のためになるんじゃないか・・・とな。」
「それは・・・!」
「違うのか?」
石室の言葉に、我夢は答えられなかった。
それは・・・まだ答えが見つかっていないから・・・
見つけるべき答えを、まだ知らないから・・・
続く。
次回予告
ネメシスの人間狩りが始まった!
集結する、セイバーのメンバーたち。
シャリバン、ガイファード、シン・・・
・・・黒き太陽が林檎食らう蛇の紋章を追うとき、復讐者の影が狼の心に落ちる。
次回、スーパーヒーロー作戦SPIRITS
「影と向き合う」
魂より継がれし物語・・・今こそ語ろう・・・
あとがき
今回は早かった。
秋子さん「最短記録ですね。3日で完成です。」
そして、ボリュームも堕ちてません。
後は話の内容ですが・・・
秋子さん「ちょっとマイナーな話が入ってますねぇ。」
はぁ。
ええと、「地球の洗濯」(ガイア7話)に加えて、コミックボンボン98年新春増刊号に掲載された、田巻久雄氏によるダイナのコミカライズ「英知の彼方」からネタ引っ張ってきてます。
秋子さん「台風消滅のくだりとか、スーパーGUTSの協力とか、実験機YC-Xとか、ですね。よくこんなの持ってましたね(嘆息」
いやぁ、いつか何かに使えるんじゃないか、と残しておいて大正解。
常々、ガイアの7話は面白いけど説明不足だなぁーと思ってたんですよねー。
台風一個分のエネルギーは、およそ水爆数十発分にも達する、とどこかで聞いたことがあります。
それを、ミサイル数発で相殺するのは流石に無理が・・・(汗
秋子さん「にしても、無茶ですねぇ。映画の話まで出してるし。」
ふふり、きっと伏線。
そうでないかも。
じゃ、徹夜で死に掛けてるので。
秋子さん「仕方ないですね・・・了承(一秒) では、次回もこのチャンネルで。」
あいまっしょい!
シュワッチュ!!
Ps.これから大掃除。ガラス磨き。死ねます。