そこは、砂に覆われた大地。

名前をエジプトという。

遠く、4000年以上前に、最古といわれている四大の文明の一が栄えた地である。

彼の国の主と回路では、現在ひとつのうわさが飛び交っていた。

そして、それを追う男たちが、ここにいる・・・

『キィ・・・キィ・・・』

砂の大地から、異形が生まれる。

それに囲まれた、三人の影・・・

一人は、青いYシャツに白いベスト、そして胸元にはロケットペンダントが輝いている。

その瞳は鋭く、全ての邪を切り裂こうとする意志が見える。

一人は、ヘルメットをかぶった男。

その瞳は、慈愛と苦悩に満ちて、それでいて精巧に作られた人形を思わせた。

一人は、青いジャンバー、白いGパンの男。

幾度も試練を果たしたのだろう。

その瞳は、手に拾えるもの全てを拾おうとしている、そんな優しい瞳だ。。

「チ・・・」

「どうします?」

「・・・解析できました。改造、人間です。」

ヘルメットの男は、苦渋に心を満たしてそう言う。

「ならば・・・戦うまでだ!」

鋭すぎる瞳の男は、そう言ってその腕を・・・まるで、一文字隼人のように構えた。

「―――昨日より、今日のため、未来のために。」

優しい瞳の男は、そう言うとその腕をかざす。

その姿は、まるで伊賀電のよう。

「戦う・・・そう、戦うしかない。弱い心を鍛えるために!人との共存のために!」

ヘルメットの男はそう言うと、その両腕を天にかざす。

「―――変身・・・」

「焼・・・」

「チェィンジ!スイッチオン!!」

彼らのその姿は、それぞれが違った意味で神々しくて。

そして、変わる、変わる。

二つの風車が廻り。

青い光が辺りを満たし。

人間の貌が、硬くなって、形を成して。

「V3!!」

「・・・結!!」

「ワン!ツー!スリー!!」

そうして、そこに現れたのは。

赤い仮面と、

青い戦士と、

機械の闘士。

彼らは、現れた異形たちを見据えて、一直線に飛び掛って行った―――!



スーパーヒーロー作戦SPIRITS
第十九話「砂の不死者」



――――闇。

それは、冷たい闇ではなくて、まるで誕生を待つ胎児のために用意されたもの。

暖かな、闇。

そこにあるのは、一つの祭壇じみた手術台。

そこに横たわっているのは、黒い・・・この闇とは違って、ひどく冷たい印象を与える機械だ。

シュ・・・

と、衣擦れの音も鮮やかに、少女が一人闇を切った。

瞳は

「―――目覚めてください。黒の破壊者。」

そうつぶやく。

すると、手術台に横たわっていたモノがゆっくりと起き上がって彼女を見た。

「―――ここは、どこだ・・・?」

その頭には、灰色・・・いや、赤みがかった脳髄が浮かぶ。

「起きましたね、黒の破壊者ハカイダー。ここは、我々・・・メタグロスの神殿です。」

―――何の感情もなく、少女はそう言った。

「貴方を回収したのは、私です。」

「そんなことは関係ない。ダークは・・・キカイダーはどうした?!」

「ダークは、三人の戦士によって滅びました。確かに、その中にキカイダーと呼ばれた者もいたはず。」

ハカイダー、と呼ばれたモノへそう言うと、彼女は手術台に、トン、と腰を落として続けた。

「―――貴方の頭に入っているもの、それは光明寺博士のクローン体の脳です。私が、用意させていただきました。」

「ほう・・・ならば、キカイダーは?あの男はどうなったのだ?」

そう言ったとき、彼の脳裏に最後・・・そう、最後だったはずの瞬間が浮かぶ。

―――どうせ殺られるなら、お前に殺られたかったぜ、キカイダー・・・

――――ハカイダー?!

宿敵・・・そう、プログラムされた最強の敵を前に、戦えず、散っていった無念。

しかし、自分はこうしてよみがえった。

そして、それが何を意味するのか・・・?

「キカイダーは、今エジプトにいます。追うつもりですか?」

ああ、と短く答える。

プログラムでもいじられたのか、どうしてもこの少女に逆らう気にはなれなかった。

そんな彼を知ってか知らずか、彼女は言葉を継ぐ。

「―――あの男、ニオスは貴方を私の配下にしろ、と言いました。しかし。」

其の言葉の先をハカイダーは続ける。

「ふん、俺を配下?プロフェッサーギルがどうなったか、そいつは知らないのか?」

「ええ、ですから、きっと私への嫌がらせでしょう。そこで・・・」

少しだけ苛立ちと、ほんの少しのやわらかさを見せて、続けた。

「―――貴方には、自由に動いてもらいます。何をしても、自由です。こちらからは干渉しません・・・それと、脳の血液交換は、この神殿で行えばいい。」

「ここは、どこなのだ?」

最初に出てきたものと同じ疑問が出る。

「心配要りません。貴方が望めば、この場所へ瞬時に帰還が成るはずです。」

「なるほど。ならば・・・」

そう言うと、彼は立ち上がる。

ついていくように、少女も腰を挙げ、そして言った。

「私の名は、メタレイズ。魔の姫・・・と申せば聞こえは悪いでしょうが、魔姫メタレイズ、と覚えておいてください。」

先ほどまでとは、まるで違う、柔らかで品のある笑みを浮かべながら少女は自己の名を述べた。

「―――」

答えを返さずに、ハカイダーは歩き出す。

其の背中に、声が突き刺さる。

「貴方の予備ボディ、4体分・・・それと、プロフェッサーギルの死体が基地から消えていました。今後の足しになるかもしれませんゆえ、お気をつけてください・・・」

其の言葉をメモリに書き加え、そして彼は・・・

黒い暴風、破壊の使者。

ハカイダーはよみがえったのだ。



『キィ・・・キキィ・・・』

砂地から、際限なく生み出される。

それは、異形。

―――無限とも思える数のそれは、ブードゥーのゾンビを思わせる。

だが、其の姿はむしろ、ミイラ。

王のそれとは違い、簡易的な処置を施したものにパイプや機械を埋め込んだような、不気味な肢体死体

それらは、自分らが囲んでいる三人の戦士に、気勢奇声をあげて飛び掛る。

『キィィィィィィッ!!』

飛び掛る異形を弾き飛ばす。

「シュゥッ!」

ゴゥッ!

青い戦士の一撃で、ミイラの胴体は真っ二つになる。

「ヤァァァッ!!」

ガコォッン!!

赤と青・・・機械の戦士の放った飛び蹴りは、ミイラの頭を確実に打ち砕いた。

しかし―――

『キ・・・キキ・・・』

それでも、まだ立ち上がり、こちらへと向かってくる。

「大丈夫か、キカイダー!」

青い戦士は、機械の戦士・・・キカイダーにそう声をかける。

「シャイダー・・・いけない。こいつらは・・・」

「トォッ!!」

ブン、と音がするほどの蹴りを赤い仮面が放つ。

しかし、吹き飛ばされたミイラは仲間のミイラにぶつかって止まると、何事もなかったかのように起き上がる。

それを見て赤い仮面・・・仮面ライダーV3は呟く。

「チッ・・・不死身のゾンビ、ミイラの改造人間か。」

数が、さらに増える。

「―――キリがない、ってコトか。」

あくまでも冷静にそう呟く。

「シャイダー、キカイダー・・・今すぐ離れろ。」

V3はそう言うと、ミイラたちに向かって一歩進み出る。

「V3・・・まさか、アレを?」

「ああ、発掘調査隊を襲ったこいつらを、見逃すわけにはいかん!すぐに離れるんだ。」

その言葉に、とっさに反応して二人は跳んだ。

そう・・・それは仮面ライダーV3の持つ26の秘密の一つにして、4つの弱点の一つ。

広範囲に疾風を撒き散らすその技は、こうしただだっ広い平野でこそ真の威力を発揮するのだ。

「消し飛べ・・・V3逆ダブルタイフーン!!」

ギュウゥゥゥゥゥゥゥ・・・

腰のダブルタイフーンが光を放ち・・・次いで猛烈な風が吹き荒れる。

V3にまとわりついていたミイラどもは・・・

ゴォォォォゥッ!!

竜巻が起こる。

それは、全ての吹き飛ばす死の旋風。

巻き起こった竜巻は砂嵐を誘発し・・・そして、全てを・・・ミイラどもを残らず薙ぎ払った。

後に残るのは・・・

疾風を掻き分け近寄ってくる、すでに人の姿へと戻った二人の戦士と、変身を解いて佇む鋭い瞳の男だけ・・・

「―――これで、三時間は変身不能・・・か。」

逆ダブルタイフーン。

それは仮面ライダーV3の26の秘密の一つにして、4の弱点の一つである。

ダブルタイフーンを逆回転させることによって、エナージコンバーターに蓄えられている全エネルギーを瞬時に放出しあらゆるものを吹き飛ばす必殺技であるが、その代償として全エネルギーを失い、三時間の変身不能となる。

「いやぁ〜〜〜すっげぇ砂嵐だったなぁ・・・」

男がキカイダーとシャイダーのほうへと歩き出そうとした瞬間、後ろから唐突に声をかけられる。

「!」

そこには、サングラスをかけた肌浅黒き現地人と思しき青年がいた・・・

「どうやら、あんたも無事だったみてぇだな、Mr.カザミ。さすが。」

倒れた車に押しつぶされそうになりながら、日に公家にそういう青年に、男は心底いやそうな貌をして、

「チ・・・お前か。」

と呟いたのだった・・・



―――さかのぼること、三日。

エジプトの首都、カイロでは一つの事件が話題となっていた。

日本の発掘調査隊が行方不明になったのだ。

紐解くまでもなく、エジプトは最古の文明の一つが栄えた地であり、砂に埋もれた大地にはまだ幾つもの眠り続ける遺跡があると言われている。

幾度も、そんな遺跡は墓荒らし・・・そして、近代になっては冒険家や考古学者、軍隊・・・常に外部からの侵入者によって傷つけられ、あるいは保存されてきた。

そうした中の一つとしてこの地へ赴いた彼らは一つのうわさにぶつかる。

―――が、それが不幸の始まりであったと言わざるを得ない。

曰く、黒いピラミッドがどこかに埋もれている、と言うのである。

十全な検討の結果、信憑性が高いと判断されたそのうわさの地を目指して、彼らは出発した・・・

が、それからすぐに・・・彼らは消息を絶ってしまったのだった。

反政府ゲリラの凶行、とも言われたがはっきりとしないままに時間は過ぎて、捜索も打ち切られ・・・絶望的となったころ、三人の若者がこの地を訪れた。

それは・・・



―――見つかるわけねえだろ。

――そういえば、前のキャラバンの時もそうだった・・・

――――墓荒らしにはいい気味さ。

―――――調査隊、だろ?

―――似たようなもんさ。黒いピラミッド・・・なんて噂に関わりあうからいけねえんだ。

雑多な噂が飛び交う。

そんな中を・・・そう、先ほどの場面において、戦士となり戦った三人の若者が歩いていた。

彼らの赴く先は一つ。

日除けの木の板の下では、太った男が中東風のパイプ煙草を燻らしていた。

「あんた・・・調査隊の生き残りを知っているらしいな。」

鋭い瞳の男は、そういって男に話しかけた。

後ろの二人は、一言も発さない。

それを見て、男はどう思ったろう。

案外、日本人か、良いカモだ、位は思っていたのかもしれない。

バブルの時代から、30年以上が経過していたが、それでもやはり日本人は金を持っている、というのはなぜか海外で有名だ。

本当に、なぜか。

2025年の日本人は、技術大国である自国への自信は持っているものの、海外で無駄に散財するような者はもうほとんど見当たらないというのに(それが悪いというわけではない)。

―――話を戻す。

その男は、にんまりといやらしい笑みを浮かべながら、「知ってるに走ってるが・・・」とつぶやく。

ふー、と両の鼻から煙を吐き出すと、

「―――こっちも元手がかかっていてねぇ。」

「なるほど。どうします?」

青いジャケットの男はそういった。

それはまったく答えず、鋭い瞳の男はポケットからドルの札束を取り出し、それを男へとほうった。

「金なら言い値で払う。急いでもらおうか。」

「話がわかるね、ミスター・・・あんたたち、名前は?」

ゲホゲホ、と煙でむせながら男はそう言った。

金になるとでも思ったのだろう。

それに対して、男たちは、それぞれの流儀で答えを返す。

「風見志郎。」

一人は静かな自負を込め。

「僕は、沢村大といいます。」

一人は、あくまで優しげに。

「・・・ジローといいます。」

最後の一人は、深い哀しみがある声でそう言った。



「あのあたりじゃぁ、昔から行方不明が多くてね。地元のモンはあんまり近づかない。」

道案内をしながら、男はそんなことを言った。

「なるほど。では、なぜ閉鎖・・・とか考えないんですか?」

大のそんな言葉に、男は気色ばむ。

「馬鹿言っちゃいけないよ。あのあたり、って言ったってだいぶ広いんだ。閉鎖するとなったら、ちんけな塀じゃ吹き飛んじまうしな、風で。それなら軍隊でも動員するしかないが・・・・そんな金、どこにもありゃしないよ。それに・・・」

そういって、男はため息をつく。

「そんなことしたって、盗掘がなくなるわけじゃない。まぁ、詳しくは生き残りの男にでも聞くと良いさ・・・聞けるかは、まぁ・・・」

そういって言葉を濁す。

そうしている間に、その男のいる部屋へとたどり着いたらしい。

「―――調査隊に雇われたのは、田舎もんだけさぁ。とにかく、生きて帰ってきたのはこいつっきりでね・・・」

ぎぃ、と音を立てて、扉が開く。

外から見れば、一般的なこの土地のアパートのようなのだが、中はといえばひどい有様。

そこら辺にあるものは何から何までぶっ壊されていて、壁にかかっているレリーフなども引っかいたのか掴んだのか・・・とにかくぼろぼろだ。

そこには、男が一人、壁を背に何事かをつぶやいている。

と、そのとき、彼はこちらに気がついたのか、恐怖におびえた貌になってしまう。

「!!・・・ヒ、ヒィ!!」

顔面は窶れ、瞳は落ち窪み、髪は白く・・・正直言って、今にも死んでしまいそうな風体だ。

ダン、と音が出るほどの勢いで彼の後ろの壁に手を着くと、風見は容赦のかけらもなく、「何があった・・・」と男に聞いた。

「頼む・・・」

その言葉に、生き残りの男は一瞬正気を取り戻したようになるが、すぐにうわ言のように言葉をつなぎ始める。

「・・・ア、アヌビス・・・アヌビスの・・・呪い・・・黒・・・黒い・・・ピラミッド・・・」

うわ言のように男は繰り返した。

「アヌビス・・・アヌビス神のことか。」

「・・・オシリス神話にでてくる、ジャッカルの顔と人間の体を持った墓地の守護神のことですね。」

風見の言葉をついで、元考古学者の大がそう言った。

「それにしても、黒いピラミッド・・・?昔ピラミッドは赤かった、と言う話は聞きますが・・・?」

そう続けて、大は嘆息した。

「最近・・・そう、前に隊商があの辺りで行方不明になった後でさぁ。突然、黒いピラミッドなんて・・・そんなうわさが出始めたのは。ま、この男の言えるのはこれだけでさ。あとは何にも覚えちゃいやがらねえ。」

案内人の男も、ため息をついてそう言う。

「!!誰だ?!」

何かに気づいたように、ジローがそう言うと、風見と二人一直線にドアを出る。

大には一瞬、誰かの人影が見えて・・・そして、あちゃ、と言う男の聞こえた気がした。



路地裏を、駆ける。

それは、黒い鷹を思わせる疾走だ。

「へっへ・・・このベガ様の足に追いつくかよ・・・!」

と、その男・・・浅黒い肌と、サングラス。

白いバンダナをつけて、全身黒尽くめ・・・と言うより、全身タイツみたいな格好をした、こそ泥然とした男は、ハッと何かに気づいたように視線を前に向けた。

その先には・・・

「ベガ・・・アラビア語で落ちた鷹という意味の言葉、か。」

ヘルメットをかぶった男・・・ジローだ。

ふと、さらに脇を見る。

するとそこには、風見がいて、

「なるほど・・・?こそ泥くさい名前だな。」

と皮肉げな言葉を発した。

にやついて、ベガ、と自称した男は風切音を上げて、その拳を風見にはなった。

しかし、ガシリ、と意図も簡単にそのこぶしは風見の手のひらによって止められ。

「クク・・・あんたの目・・・良い目してるぜ。」

そういって、ベガは風見の瞳を見据える。

「迷いのねえ・・・もう、何も失うもんもねえ、って感じのよ・・・そっちの兄ちゃんは、感情がみえねえなぁ・・・まるで、ツクリモンみたいだ。」

「キサマ・・・」

「怒るなよ。あんたらも、アレを狙ってんだろ?」

―――そのとたん、風見はそのこぶしに力を込める。

「ベガっての・・・何を知っている・・・」

「いてててて!おい、ちょっとタンマ!!」

ギリギリと音を立てて、風見の指がベガの指に食い込んでいく・・・

と思ったそのときだった。

ガッシャァァァァァン!!

何かが砕けるような音が路地に響き・・・そして、三人とも駆け出す。

ベガが逃げないのが腑に落ちない・・・が、そんなことを気にしている間ではない。

裏路地を抜けたその先。

そこでは・・・

トラックにひき潰された・・・さっきの生き残りの男の・・・死骸と、ザワザワと集まってくる野次馬。

そして、大と案内人の男がいた。

「すいません、風見さん。突然飛び出して・・・」

大は、辛そうにそう言って飛び出す寸前の彼の行動を話し始めた。

「突然、「死者が呼んでいる」とつぶやいて、それから「俺はファラオだ」と・・・」

「そんで、突然飛び出してこのざまでさ・・・アヌビスの呪いなんて・・・洒落になってねえよ・・・」

ここまでが、三日前の大きな出来事。

そうして、冒頭にあったが如く、彼らはベガを案内人に「黒いピラミッド」へと向かったのであった。



「なんだかんだでよ・・・調査隊の消えた場所まで着てみればよ・・・ゲホ・・・いきなりミイラの大歓迎だもんなぁ・・・こりゃ、アヌビスの呪いってのは、本当かも知れねえぜ?」

一寸先も見えぬ砂埃。

砂嵐は収まったが、砂塵は尽きず。

さて、その中でベガは口に砂が入るのもかまわず話し続けていた・・・

ベガの続ける言葉たち。

それに不信を見出すところはない・・・が、その不信のなさが逆に不信だった。

「ベガさん・・・あなたの目的はいったい・・・?」

「そうだ。俺もそれを聞いておきたい。」

大とジローは口々にそう言う。

―――だが、それにはニヤリとした・・・意味深な笑みを浮かべるのみ。

やがて、突風が吹き始める。

ひゅう、と風に切れ目ができると視界が晴れる。

「ビンゴ!」

ベガが軽口をたたく・・・が、それすら目の前のものにかき消されてしまう。

そこには、聳え立つ・・・

「―――黒い・・・ピラミッド・・・」

風見は、普段出さない驚きの混じった声でそう言った。

―――黒いピラミッド。

ああ、それは確かに黒かった。

それを見上げて、ベガは言う。

「なぁるほどね。アンタの起こした・・・・・・・竜巻のせいで埋もれてたピラミッドが顔を出した・・・ってわけね。」

その言葉に、三人ともがハッとする。

「―――キサマ・・・見たのか・・・」

殺気すらこもったその声は、ただ確認するための言葉。

その瞳は、貫くようにベガを見据える・・・

だが、それすらうけながして彼は「そりゃぁ・・・あんだけ派手にやられちゃぁな。」と静かな声で言った。

「ささ、行こうぜ。」

そう言うと、ベガは砂をすべるように黒いピラミッドの入り口・・・そう、多くのピラミッドに共通な石室への入り口へと向かう。

「おい。」

「待て、危険だ!」

その言葉に委細かまわず、「お宝、お宝♪」と楽しげに言葉を出しながらベガは滑り落ちていった。

―――チ、後3時間弱・・・

何かあっても変身はできない。

エナージコンバーターにエネルギーが蓄えられるまで、それだけの時間がかかる。

「風見さん、どうします?」

「ああ、あいつを追う。お前たちは・・・後からついてきてくれ。」

「待ってください。風見さん、変身できないのでは・・・?」

大がそう言って風見の肩をつかむ・・・が、風見はそれを振り払って、「大丈夫だ」と漏らした。

「―――あのベガという男・・・何か、気になる。もし2時間たっても戻らなかったら、何かあったと思って突入・・・してくれ。」

「―――わかりました。」

こういう貌のときの風見は、問答無用だ。

大は風見とは短い付き合いだが・・・それは正確に理解していた。

「わかりました。気をつけてください。」

「ああ。」

静かに、だが力強くそう言うと、風見はベガと同じように斜面をすべるように入り口へ向かって行った。



カツ―――ン・・・カツ―――ン・・・

静かな足音が暗い遺跡に響く。

「フフ・・・黒いピラミッドか・・・」

にやり、と笑ってベガは言った。

「―――伝承どおりだぜ。」

まるで、その話を聞いてほしいかのように、ちらりと風見を見て彼は言う。

「・・・・・」

それは丸っきり無視して風見は歩を進める。

「なぁ、カザミ・・・俺が何を狙っているのか、聞きたくはないか?」

黒々とした壁には、壁画・・・そう、オシリス神話を語る壁画が描かれている。

ピラミッドの中は、そうまるで天然の冷蔵庫のように冷え冷えとしていた。

「―――参ったね。そうダンマリを決め込まれると、堪らなく話したくなる・・・」

ベガは、皮肉げにそういうと、本当に楽しげに話を始めた。

「俺は代々墓荒らしで食ってる”盗掘者の村”の出でね・・・黒いピラミッドはそこに伝わるヒエログリフに記されてた・・・」

ヒエログリフ・・・聖刻文字と呼ばれる前3000年ごろ生まれた古代エジプト時代の文字だ。

それが現存しているがゆえに、エジプト文明は5000年以上前から存在していることがわかるのである。

ほかにも、神官文字、民衆文字などが存在していた。

「まだ発見されてないピラミッドは30近いって言われている。しかし、大して見るべき物は残ってない・・・ってな。だが、この黒いピラミッドはギザよりもでかいって話だ・・・当然、お宝もな。」

首の後ろに両手を回し、おどけながらベガは続ける。

「そいつをモノにすれば、俺の親も兄弟も一生安泰ってわけよ。」

―――こらえ切れないようにそういったベガに、風見は心底意外な顔をした。

彼には、ベガのような一匹狼然とした男に家族がいる・・・という点が堪らなく意外だった。

「――なんだよ。」

「いや・・・お前みたいなのにも、家族がいるんだな・・・ってな。」

「なんだと、おい・・・そういうアンタはどうなんだよ。」

その風見の言葉に、心外の色を隠そうともせずにベガはそういった。

「・・・・・・・・・・」

一転して黙り込む風見。

その瞳には、抑えきれぬ悲しみと怒りと後悔を秘めて。

それを察したのか、ベガは話を元に戻す。

「―――そう、それでよ。その黒いピラミッドの秘宝ってのがよ・・・」

壁には、ミイラの製法が描かれている。

ミイラとは、不死を求めたファラオ達の黄泉返りのためのものだ。

「―――不死の力、生き返りの秘術・・・だとさ!」

その言葉に風見は目を見開く。

驚きの色を隠さぬその瞳を見て、彼は笑う。

「ク・・・クハハハハハッ!どうよ、これでもすましていられるかよ!!」

風見の肩に手を置いて、彼は続ける。

「なぁ、カザミ・・・俺と組まねえか?俺の情報と、アンタとアンタのツレの力を使えばそのお宝を手に入れられる!」

しかし、その手をすり抜けるように風見は歩き出す。

それはそうだろう。

“正義の味方”にそんなものは不要だから。

それをわかっているから、彼はその言葉に耳を貸さない。

「お、おい・・・つっぱんなよ!不死だぜ!!蘇りだぜ?!考え付かないようなゼニが・・・権力が手に入るんだぞ?!」

―――それは、彼には無意味だ。

もとより彼はガランドウ。

――――失ったがゆえに、彼は守るためにしか戦えない。

だから、彼はガランドウ。

――――それは、まるで不死の呪いの如く。

自分の在り様を後悔せず、ただその切欠に後悔を残して、戦い続けた男にはまるで魅力のない言葉だ。

と、そのとき、風見はふと何かに気づいた。

―――ベガは、まだ何事かわめき続けていたが、風見にはもう聞こえていなかった。

ドン、と彼を突き飛ばす。

「っ・・・!何しやがる!!」

地面にしりもちをついたベガが悪態をつくその瞬間に・・・

ドスリ。

風見の脇腹から、棒・・・金属の無骨な杭が生えた。

「グ・・・ゥ・・・!ゲホッ?!」

風見は苦しげにうめきと咳を繰り返し、そうして二人は通路の奥の闇を見る。

そこには・・・

そう、そこには。

「ちぃ!またこいつらかよ?!」

そこには、ピラミッドの外で彼らを襲ったミイラの怪人が無数に湧き出していた。

「おい、早いとこ頼むぜ!?さっきみたいにやっつけてくれよ!」

―――まだ・・・あと二時間!

「チ・・・悪いが、こっちにも都合ってモンがあってな。」

いまだエネルギー充填がすんでいない。

つまり、ベガの要望にこたえることはできないということだ。

口から夥しい血を吐きながら、風見は腹から杭を抜き言い放つ。

「帰れ。出来れば、外の二人を呼んでこい。俺のことは気にせずに突入しろとな。」

「お、おい・・・!」

前には襲い来る化け物。

抜いた杭を武器に風見は立ちはだかる。

―――ああ彼はいつもそうだ。

変身が出来なくとも、彼は立ち向かう。

力がなくとも、彼は不審を見逃さず、悪を許せず、弱気を助くる。

それがゆえに、失ったものも・・・かつてあった。

「テメェ・・・・死ぬ気か?!」

その背中は、死してもここを守るという気概にあふれていた。

それゆえに、ベガは続ける。

「―――なんてヤツだ!未練はねえのかよ!!これっきりになっちまう身内とかはよ・・・!?」

その言葉に、血まみれの口を愉快そうにゆがめて彼は言った。

「―――身内・・・?いないね。」

ガスゥッ!!

裂帛の気合を込めて、杭をミイラに突き刺す。

それは勢いづいて二体を同時に串刺す。

「―――俺は・・・守れなかった。」

その壮絶な光景。

―――忘れようったって忘れられませんよ。

かつて、彼は彼の師に当たる人物にそう言った。

それは、後悔。

正義の味方である彼の、たった一つの捨てきれない後悔。

「―――お前は、守ってやれ。」

それだけ聞くと、ベガは逃げ出した。

―――何度も、何度も振り返りながら。



彼らが入っていって、1時間半が経過した。

残された二人はまんじりともせずに、その場にたたずんでいた・・・が。

「沢村さん。おかしい・・・なにか、異常だ。人間で言うなら、いやな予感がする・・・って感じだ。」

ジローはそういって立ち上がる。

「―――そうだね。風見さんはああいったが、もう、突入しよう。」

沢村がそういう。

ジロー・・・キカイダーは人造人間だ。

世界的に有名なロボット工学者、光明寺博士によって製作されたロボット。

その脳髄ともいえるコンピューターにはある特殊なプログラム・・・回路が内蔵されていた。

―――良心回路。

不完全ではあるが、人の心を機械に与えるその装置を彼は持っていた。

さて、生み出された後の彼は戦い続けた。

―――彼の生みの親、光明寺博士を利用し、破壊のためのロボットを作り出し続けるプロフェッサーギルと彼の率いるダーク破壊部隊のためである。

彼の野望を打ち砕きながら、記憶喪失で全国を放浪していた光明寺博士を保護するのが彼の最初の目的。

連れは光明寺の娘ミツ子とその弟マサル。

二人と協力して、日本全国を回っていた。

ダークの資材と技術を持って作られたがゆえに、戦闘形態になる前はプロフェッサーギルの笛に操られてしまう、というハンデを背負いつつ。

やがて、光明寺がダークに捕らえられると、その目的は少し変わる。

ダークは彼の頭脳を・・・そう、人造人間の頭蓋に埋め込んで人質としたのである。

―――そのロボットの名は、ハカイダー。

キカイダーを抹殺するためだけに、悪魔回路と呼ばれる人の悪の部分の集約とも言える装置を持って生まれた人造人間。

しかし、それは双方にとって悲劇だった。

ハカイダーは全力でキカイダーと戦いたかった。

しかし、キカイダーは全力で彼と戦えない。

―――光明寺博士の脳が埋め込まれているからである。

やがて、彼らは仮面ライダーV3、宇宙刑事シャイダーの助けもあり、ダークを追い詰める。

ハカイダーは、キカイダーを別のロボットに倒されたと思い彼の生みの親に反逆した。

その中でハカイダーは「白骨ムササビ」と戦って散った。

―――プロフェッサーギルも死に、光明寺の脳は元の体へと戻り・・・ダークは壊滅したのだ。

その代償に、光明寺は良心回路の設計を忘却し、家族とともにスイスへと・・・そう、G.U.A.R.D.諜報部の目さえ逃れて移住した。

そして、彼は不完全な良心回路を鍛えるため、風見らとともに悪を倒すための戦いを始めたのである。

ピラミッドに突入するためにジローが歩き出したとき、ジローは感じてはいけない殺気を感じた。

「?!」

「久しぶりだな、キカイダー。今度こそ・・・全力で戦ってもらおうか。」

それは間違いなく。

彼にとっては悪夢。

―――ハカイダー・・・だった。



―――高い天井の通路。

そこで、風見は一方的にやられていた。

ミイラに打ち据えられ、首を絞められる。

「ク・・・」

後、1時間半強・・・

自らの首に、ありえない力の圧迫がかかったことを認識しながら、風見はその意識を手放しかけた。

だが・・・

その力はすぐに緩められる。

高い天井のその奥から、一艘の小船が現れ・・・ゆっくりと落ちてきた。

―――ヤメナサイ。

女の声が聞こえた。

―――どこか、冷たい。

電子音を聞いているような、感覚。

その声が聞こえると、ミイラたちは突然動きをやめる。

「アレ・・・は・・・ジャッカル・・・の頭・・・アヌビス神・・・」

小船の上には、3人の女性。

後ろの二人は、明らかに人ではなく、王に仕える侍女のような服装。

そして、もう一人は・・・

ジャッカルの面を被った・・・女性。

その瞳が輝く。

―――その瞳を見ると、不思議と力が抜けて・・・

風見は今度こそ意識を手放した。



―――心を開き、魂を冥界へと誘いなさい。

――――そして・・・死者との再会を・・・

風見は、そんな声が聞こえた気がした。

堕ちていく。

ただ、堕ちていく。

堕ちていく。

落ちていく。

墜ちていく。

堕ちていく落ちていく墜ちていくおちていくオチテイク。

オチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテオチテ。

やがて、たどり着く。

そこには懐かしいもの。

涙が流れる。

かつて守りたかったもの。

クシャクシャと、顔がゆがんだ。

―――そして、守れなかったもの。

「トウ・・・サン・・・・・・カア・・・サン・・・!」

正義の味方になる前に。

自分が、それ以外はガランドウになってしまう前に。

「―――ユキコ・・・!!」

譲らず、守るべきだった者たちが、いた。



―――アヌビスの女。

―――黒き破壊者。

―――蠢く・・・闇。

気絶した風見と、ハカイダーと対峙する二人の戦士。

そして、ベガ・・・

――――深く、深く、地の底で、砂の地で。

此度の戦いが、始まろうとしている。

続く。





次回予告

―――ガランドウ。

正義の味方はガランドウ。

本当に守るべきは何か。

戦うべきは何か。

―――機械の戦士と。

―――赤い仮面は。

それを再び問われる。

その闘志は、信念は、誇りは、どこから来るものか。

熱く滾った砂たちは、その答えを指してくれるのだろうか・・・

次回、スーパーヒーロー作戦SPIRITS

「熱砂のプライド」

魂より語られし物語、今こそ語ろう・・・






あとがき。

風見志郎のあり方は(ライスピ版だと)、Fate/stay nightのエミヤシロウのようである。

名前の読みも同じだし。響きも似てるし。

というわけで、そんな風に書いてやるのです。

では。

次回へ続く。

秋子さんは、出張中・・・って、帰ってきてたんですか。

秋子さん「あなたを射殺です。」

洗脳探偵ですか。

秋子さん「お黙りなさい。」

バリバリバリバリ。

他社の作品のものですよ。

皆殺しバルカンはやめてくださ(びすっ)・・・(シーン・・・)

秋子さん「はい、ボケが死んだところで、次回へ続きます。では・・・次回もこのチャンネルで会いましょう。」

シュワッチュ!!

秋子さん「まだ生きてやがりますか。」

バリバリバリバリ・・・

NR「ズタボロになった血袋。そんなものは気にしなくていいのである○」

おはり。

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