・・・エリアルベース・士官私室フロア・廊下

エリアルベースの士官室フロア。

そこは・・・この空中戦艦の中で、最も空室の多いフロアである。

この基地の主力となっているXIGは全員士官で構成されているが、その他の隊員たちは指揮系統の混乱を恐れてか、尉官以上の配備がほとんどない。

―――よって、整備班を除く部署の士官数はごく少数であり・・・

今回のように、居候どもが増えても対応は何とか可能なのである。

「―――んがぁ〜〜〜・・・」

誰かがでっかい欠伸をしながら、一室のドアが開かれる。

「―――エクセレンさん・・・なんて格好で歩いてるんですか・・・」

それは、先日からエリアルベースに配備された新型機 (ということになっている)ライン=ヴァイスリッターのパイロット、エクセレン=ブロウニングだ。

そして、その格好は・・・

上はネグリジェ、下は・・・なぜか Gパンという、ふざけた格好だった。

これでは、居候と呼ばれても仕方がない。

先日から、地上拠点 (城石のアパート・・・アパート自体がG.U.A.R.D.の施設になった)に移った光太郎や榊たちは居候と呼ばれても仕方ない身分だったが、きちんとG.U.A.R.D.アメリカ空軍中尉という身分を持っている彼女がこんなことをしていては・・・・繰り返すが、居候呼ばわりされても仕方ない。

それを咎めたのは、やはり先日から XIGのメンバーになった伊賀電・・・銀河連邦警察の宇宙刑事シャリバンであった。

アインスト事変と呼ばれる最重要機密事件を ATXチームとともに解決したのが、当時不思議界フーマを殲滅するために地球に派遣されていたギャバン、シャリバン、シャイダーの3人の宇宙刑事である。

よって、元 ATXチームの彼女とは戦友であるのだが。

「さては、遅くまで酒でも飲んでたんですね?」

何か (怒りとか)溜まっているのだろうか、俺の怒りは爆発寸前、とでも言い出しかねない雰囲気で電は言った。

まぁ、マドーが事件を起こさず、世界各国で謎の組織やゴルゴム、ネメシスがさまざまな事件を起こしている現状では、ストレスがたまっても仕方がないだろう。

「いいですか?貴女は既婚者でしょう?それも、まだ若い・・・ 3年前!ギャバン隊長の面目を丸つぶれにしたことを忘れたんですか!!」

「あ〜・・・あれねぇ、アレはまずかったわ・・・」

エクセレンはそういうと、こめかみを押さえて唸ってみた。

何があったのかは言わなかったが、実際何かとんでもなくひどいことをこの女はしたらしい。

電もエクセレンも、思い出したくない、という風でしかめっ面になる。

「あの時のあのことを繰り返したいんですか・・・?それとも、キョウスケさんに告げ口されるほうがいいとでも?」

「ああっ!ちょ、ちょっと!それは勘弁して・・・!ね、おねがぁ〜〜い・・・おねえさんの一生の頼み!!」

「俺をブリット君と一緒にしないでください・・・だまされませんよ!いいですから、さっさと着替えてください!まったく・・・」

くどくどくどくどくどくどくど・・・

拝み倒すエクセレンを一喝して、しばし電の説教が廊下に響く。

そして・・・

「―――えっと、何してるんですか?」

第三の声が廊下に響いた。

それは・・・我夢だった。

パジャマ姿で寝惚け眼、その上サンダルという、一応士官待遇のものとは思えない XIGのアナライザーの姿・・・電は悲しくなった。

「―――お前もか・・・」

電は、あきれてものも言えない、といった感じで二人をにらみ、そうしてため息をついた。

「いいかい、我夢、エクセレンさん・・・仮にも俺たちには地球を守るって言う使命が・・・」

と、我夢も交えてお説教を始めようとした電は、ふと気づいた。

「あれ、虚さん・・・?」

視界の先には、こちらへ向かってくる虚の姿があった。

心なしか、重大事を秘めたような顔つきで。

これから始まる一連の事件群は、とても日常的なこのシーンから始まった・・・



スーパーヒーロー作戦SPIRITS
第二十一話「アグル誕生」
金属生命体アルギュロス 登場



「お前たち・・・さっさと着替えろ。これから VIPに会う予定が急にできた。」

虚は、感情を交えることなくそう言って我夢の肩をつかんだ。

「夜遅くまでゲームもいいが・・・少しは考えたほうがいいぞ。無論、アルコールの摂取は控えとけ。 EXから降ろされたくなかったらな。エクセレンさん、あなたもいいですね・・・?」

「す、すいません・・・」

「あ、あはははは・・・申し訳ない・・・」

怒ってないのかと思いきや、凄みのある笑みで虚は彼らを脅し、そして電に言った。

「電、お前はこっちだ。あいつからの報告の件で検討しなきゃいけない項目がある。」

それから、我夢たちを振り返り、「 20分後にブリッジに集合。遅れたらスティンガーの弾薬装填、装甲板の脱着と洗浄を二人だけでやってもらう、いいな?」と有無を言わせぬ口調でにらむと、電を伴って廊下の向こうへ消えていった。

残った二人は顔を見合わせ、深い深いため息をついた後、ダッシュで着替えを始めたのだった。



士官室フロア最奥 石室コマンダー私室

「―――チームセイバー所属、柊虚以下 5名、入ります。」

いつものように、ぷしゅ、と圧搾空気の音がして扉が開く。

「待っていたぞ、皆。」

石室は・・・その手に持っていた茶杓を机に置くと、セイバーの面々を促した。

「会ってほしい人物とは、この方だ。」

石室がいつもと同じ口調でそういう。

と、虚は部屋の奥にひとつの影があることに気づいた。

「―――古賀竜一郎博士だ。ロボット工学の権威者の・・・」

「古賀です。よろしくお願いします。」

白髪で、やはり白いひげを生やした老年の男はそういうと、深く頭を下げた。

「M計画の責任者でもある。今日、博士がこちらへ来られたのは、君たちのことを知っておいてもらいたいからだ。」

「M計画って、何・・・?」

悠子が、いつもどおり軽くそう問うと、古賀が笑って答えた。

「G.U.A.R.D.極東支部と、日本の警視庁科警研が合同で開発している、戦闘用人造人間開発計画のことです。」

「そのくらい、きちんと覚えとけ・・・古賀博士、はじめまして・・・今日はどんな用件でしょうか?」

悠子を小突き、一言嗜めると、虚は率直にそう聞いた。

「・・・実は、柊君、貴方からの報告を読みまして・・・ダークが壊滅した、そうですね。」

老人はそういうと、まっすぐ虚の目を見つめた。

「ええ・・・行方不明になっていた光明寺博士の死亡も確認されました。」

「そうですか・・・光明寺君も・・・」

悲しそうにつぶやく古賀博士を前に、パットが言った。

「ダーク・・・それは、いったい何のことですか?」

「・・・・・」

言いよどんだ古賀の代わりに、虚は少しため息をついて答えた。

「知らなくても無理はない。裏の世界で暗躍していた、武器密売商の連中さ。最後には世界征服をするつもりだったらしいが、連中がさらった・・・と思われる光明寺博士の作った人造人間が壊滅させたらしい。」

その言葉にエクセレンは肩をすくめ、我夢は驚いて目を見開いた。

「―――ダークが滅んだ今、ネロス帝国とやつが動き出すのも・・・時間の問題だ・・・」

彼らのリアクションを見てか見ずか、古賀は苦汁を飲み干したような顔つきでそう述べる。

「ネロス・・・帝国?」

我夢の疑問が宙を切る。

「――どうやらダークからロボットを購入していた、ということ。それから、世界経済に介入して、今の混乱を助長していると見られる、“影の政府”のような組織・・・ということだけがわかっている。」

「そのとおりだ。その目的は不明・・・ G.U.A.R.D.調査部の中には、捜査中にロボットに襲われ、殉職したものもいる。」

石室の言葉が、重く部屋に響き渡る。

「・・・」

「博士・・・ネロス帝国を倒すためのプログラム・・・用意していらっしゃるのでしょう?なら・・・」

沈黙する博士に、虚は冷たく・・・あくまで感情を表さずにそういった。

その表情には、すでに「プログラム」の存在を確信している色も見える。

「待ってください。今しばらく・・・アレには、まだ正義の心が目覚めていない・・・あの、忌まわしい兵器たちと同じく・・・」

「“ 1号兵器”のことですか・・・極東一年戦争・・・北海道戦争で、ソ連軍を壊滅に追いやったという・・・」

「―――わかってください。今は、今はまだ・・・」

石室の言葉に、瞳を落とし表情を隠すように古賀はそう言い、また俯いた。

「わかりました。こちらでも調査を進めておきますので、そちらもよろしくお願いします・・・」

そう言うと、石室は虚たちに「ご苦労だった。」と一言言って、古賀に向き直った。

「後でブリッジに行く、と堤チーフに伝えておいてくれ。」

その言葉は、つまり「行ってよし」という意味である。

「わかりました。では、失礼いたします!」

そういって、仲間とともに退出する虚の目には、すでに死が決定されている重病人に対するのと同じ・・・哀悼の意が、ひそかに込められていた・・・



―――夜の闇。

暗い暗い夜の闇の中。

また、ひとつ邪悪が生まれようとしていた。

闇の岩場に、雷鳴が鳴り響いている。

ゴロゴロゴロゴロ・・・

ピシャァン!

「ハイルハカイダー!」

それは、黒の破壊者。

だがその胸には、先日キカイダーに牙をむいた、復活のハカイダーのものではない、白い雷のマークが刻印されていた。

「レッドハカイダー!」

それは朱。

「ブルーハカイダー!」

青。

「シルバーハカイダー!」

銀。

・・・そして、さらにたくさんのロボットたち・・・アンドロイドマンたち、そしてダークの人造人間とそれ以外の型の人造人間たちが出現した。

総数は・・・怪人型 15、アンドロイドマン50を超える。

「「「ハイルハカイダー!」」」

そして、三人の・・・異なる色を持つハカイダーと大勢のロボットたちは・・・その稲妻の印を持つハカイダーに、ナチス式の敬礼をした。

「時が来た!」

稲妻の印を持つハカイダーは、そう言うと手を上げて敬礼する人造人間達を静めた。

「今こそ!ハカイダー部隊の立ち上がる時!」

「世界を闇に!」

朱いハカイダー・・・レッドハカイダーが叫ぶ。

「全世界を夜の闇に!」

青いハカイダー・・・ブルーハカイダーが、それに負けない大音声で叫んだ。

「夜は我らが征服する!!」

銀のハカイダー・・・シルバーハカイダーもまた叫んだ。

「立て、ハカイダー部隊!!」

『ハイルハカイダー!!!』

人造人間たちは、再び大歓声を上げた。

「―――まずは、最終兵器の図面を体に隠す子供を・・・と言いたい所だが、事情が変わった。」

歓声が収まるのを待ち、ハカイダーは言った。

「残念だが、今の我らは帝王に忠誠を誓う身だ。帝王はアレを不要とおっしゃる・・・そこでだ、これを見ろ。」

彼がそう言うと、中空に映像が映し出される。

ホログラフ・・・のようなものだろうか。

「この写真の男を捕えよ!元アルケミースターズ藤宮博也を!!帝王はそれを望んでおられる!!」

映し出された映像は、まさにハカイダーが言うように、あの藤宮の写真だった。

彼を狙って何をたくらんでいるのか・・・

彼の頭脳、あるいはアグルの力を欲しているのか・・・

それは図りかねないが、確かなのは藤宮は彼らのターゲットとなった、ということだった。

「どうやら、脳の移植手術には成功したようだな、プロフェッサーギル。」

と、その時遠くからひとつの声が聞こえた。

「―――これはこれは・・・凱聖クールギン殿ではないか。出来れば、ギルハカイダーと呼んでもらいたい。人間のときの記憶など、かなり薄れてしまっていることだし・・・な。して、何用かな?」

そこには、銀色の甲冑に身を包んだ一人の男が立っていた。

「ふ・・・何、良い知らせだ。一応、バルスキーの預かりとなっていた君たちだが、この短期にそれだけの戦力を整えた功績で、帝王は新軍団の発足を許可された。」

「ほう・・・」

「軍団名は、破壊ロボット軍団とする。機甲軍団や戦闘ロボット軍団のような、対軍戦闘ではなく、潜在侵略・広域文明破壊を主任務とする人造人間の部隊として活動するのだ。君も、今日からは凱聖を名乗るがいい。」

その言葉に、ニヤリ、と笑った (ように見えた)・・・ギルハカイダーは我が意を得たり、といった風で答える。

「帝王・・・“ゴッドネロス”様の厚意、謹んで受け賜る。先日頂いた任務、必ず成功させて見せる、と伝えてくれ。」

慇懃な口調でクールギンにそう言うと、ギルハカイダーは叫んだ。

「聞いたか、皆のもの!今より我らは『破壊ロボット軍団』!全てを破壊し、新たなる世界をネロス様に捧げるのだ!!」

『ハイルハカイダー!ハイルネロス!!』

ギルハカイダーの叫びに呼応して、 3人のハカイダーと下僕たちはそれこそナチス信者宛らに、熱狂的な叫びを上げ、ハカイダーと・・・ネロス帝国の帝王、“ゴッドネロス”を讃えたのだった・・・

それが何者なのか、ネロス帝国とは・・・そして、ハカイダー部隊とは・・・?

それは、未だ謎に包まれている・・・



―――翌日。

早朝から、エリアルベースのブリッジは大忙しだった。

・・・先日以降・・・といっても大分前になるが、ミズノエノリュウ以来現れていなかった、根源的破滅招来体関連と思われる物質が、月軌道上のワームホールから出現したのだ。

ヴィー!ヴィー!ヴィー!

『全艦、デフコン 3態勢に移行!ファイターチーム出撃準備!』

オペレーターたちの声が、艦内に響く。

艦の動脈に灯がともり、天空に聳える不動の巨鯨は必殺の矢を放とうとその準備を始めているのだ。

チームライトニング各ファイターは、すでに発艦位置についている。

『各セクション、発艦エリアから後退!』

その言葉のすぐ跡に、我夢がブリッジに飛び込んできた。

「どうしたんです?!」

「金属反応、さらに増大!ポイント X-9-9-2に実体化します!」

我夢の疑問は、私情を挟まぬジョジーの声が答える。

「反応は・・・アパテーによく似ています。」

「―――砂漠に出現した・・・」

「金属生命体か。」

アッコの報告を受けて、堤と石室はそう漏らした。

「金属生命体は・・・東経 138、北緯36地点に5分後に落着!」

ブリッジのディスプレイには、大きく日本地図が掲載されていた。

「―――日本の・・・中部地区か。スーパー GUTSは・・・動けるか?」

「既に行動を開始しているようです。」

打てば響く、という表現がぴったり合うようなアッコの答えを聞いた石室は、その権限を持って命じた。

「そうか・・・チームライトニング直ちに発艦!スーパー GUTSとともに、金属生命体を迎撃せよ!」

そして、 電光ライトニングが出撃した。



―――二分後。

驚異的な上昇力・・・最大出力なら、あっという間に大気圏を脱出する速度で彼らは金属生命体に追いついた。

「―――どうやら、俺たちが先のようだな・・・」

梶尾は皮肉気に眉を揺らすと、スロットルを引き絞る。

レーダーには、後方から追尾する三機の機影が写っている。

おそらくはスーパー GUTSの、GUTSイーグルだろう。

そして、前方には・・・

「―――あれか。北田、大河原!」

「はい!」

「攻撃準備 OKです!」

その先には、歪な形の投擲槍のようなものが 6本、猛烈な速度で落ちていこうとしている。

『こちら、 GUTSイーグルβ号。よろしく頼む!』

いつもどおり、気合が入りまくったヒビキ隊長の声が通信から聞こえる。

「ラジャー。こちらこそ、頼みます。牽制の攻撃を放ちますから、トルネードサンダーで止めを刺してくれるとありがたいです。」

梶尾はそういって、「オーバー」と通信をきる。

後は天空から落ちてくる、この迷惑な代物を全力で破壊するだけ。

―――そう思った矢先のことだった。

キィィィィン!

「・・・何・・・?!」

蒼い光が中空から現れ、そして前方の物体を吹き散らしていく。

光に目がくらみ、梶尾は手で光をさえぎろうとした。

「くっ!いったい何者・・・」

だが、その言葉の後半は、驚きのなかで消えていった。

蒼い光に吹き散らされた鉄杭は・・・ほぼ推測された地点に寸分たがわず落着し、地面に突き刺さった。

そして・・・

蒼い光の中から、ウルトラマン・・・アグルが現れた。

「―――蒼いウルトラマン・・・」

堤は、ブリッジでそう漏らし嘆息した。

その画面を凝視して、我夢は心で叫ぶ。

それは、自分と等価なる存在、ガイアを抱く自分と対となる男・・・

(藤宮・・・!)

そう、アグルを抱く男、藤宮博也のもうひとつの姿。

屈み込んだ姿勢現れたその巨人は、ゆっくりと鉄杭へと顔を向ける。

『・・・・・・』

表情を表さぬ、アルカイックスマイルを浮かべたその顔は、無言のまま。

それに焦れたのだろうか。

・・・すぐに、鉄杭が動きを見せた。

バチバチと電撃を放ちながら、鉄杭はその姿を液体状に変え・・・そして一本の柱と化す。

それは見る間に人の形を成し・・・

そう、その姿は・・・どこか、ウルトラマンに似ていた。

金属生命体・・・

「アルギュロス・・・」

我夢は、その金属の塊をほとんど無意識にそう呼んでいた。

「アルギュロス?」

いつの間にかブリッジに入っていた虚が、我夢に聞いた。

「―――あ・・・ギリシャ語で、銀、っていう意味です。なんとなく、そう見えたもので・・・」

それを聞くと、虚は少しだけ笑って、そして画面に目を戻した。

『・・・』

まだ無言のまま、アグルはすっくと立ち上がり、アルギュロスを見据える。

『デュゥヤアッ!』

一声叫ぶと、彼の姿は蒼い光に変じ、空から数万トンの威力を持つ飛び蹴りが放たれる。

『ファッ?!』

肩口を正確に捉えたその蹴りをまともに食らって、アルギュロスはよろけ倒れる。

しかし、敵もさるもの・・・

追撃を加えんと猛然と駆けてくるアグルを尻目に・・・

その手を刃と変じた。

ほかならぬ、アパテー・・・ギリシャ神話において、夜の女神ニュクスが生み出した欺瞞の神とされる者の名を持つ怪獣と同じ能力である。

その刃が、アグルのわき腹を狙って振り出される。

『フゥッ!』

刃を、腕と脇の筋力で挟み、防ぐ。

しかし、それもまたアルギュロスの計算のうちだったのだろうか。

脇に抱え込んだ刃を軸に、アグルは持ち上げられていく。

そして・・・

『ファッファッファッッ・・・!』

アルギュロスははじめて声を上げ・・・笑った。

刃になっていないほうの腕が・・・形態変化を起こし、ハンドキャノンへと姿を変える。

ドゴォン!

『ヴゥワァァァアッ!!』

一閃、閃光が走り・・・アグルは仰向けに吹っ飛ばされた。

でんぐり返るように地面にたたきつけられたアグルは、苦しげにうめきを上げる。

その様子は必死の形相を浮かべた男の姿のように我夢には見えた。

・・・そして、止めとばかりに、アルギュロスは・・・腕のキャノンを振り上げ、ゆっくりとアグルへと近づいていく・・・

「―――堤チーフ。」

「チームライトニング、蒼いウルトラマンを援護せよ!」

『了解!』

石室に促された堤が命じると、梶尾機を始め画面の中のファイター、そして GUTSイーグルは一斉に攻撃態勢に入った。

「我夢・・・どうした?」

虚が、自分のディスプレイを見つめながらなにやらサーチしている我夢に声をかける。

しかし、答えは返らず・・・ただ、我夢は作業に没頭する。

「今からでは間に合わんな・・・」

虚も出撃する気でいたのだろうか、無念そうな声を漏らす。

だが、それにすら目もくれずに、我夢はディスプレイに表示された三次元マップを凝視していた。

(―――何故だ?何故、藤宮はこんなに必死なんだ?)

画面のなかでは、激しい攻撃が加えられている。

『フワァッ!』

アグルは、一足で立ち上がると、好機と見たか・・・その両腕の間に青いエネルギーの奔流を作り出す。

『ウォアッ!』

一声の叫びとともに、その腕から一つの蒼い光弾が放たれた。

フォトンスクリュー。

・・・我夢はそう名づけていた。

ドゴォン!

一撃、アルギュロスの胸板にぶち当たり、派手な爆発を起こす。

「なぁっ!?ざっけんな!」

アスカがα号のコクピットの中で、そう毒づきながら回避運動をとっさに行う。

そして、それを無言で豪はサポートしていた・・・

猛烈な爆風は、危うくファイターや GUTSイーグルを破壊するところだった。

「―――くそぉっ!俺たちも巻き込むつもりかっ!」

『デゥァァァッ!』

連続してフォトンスクリューが放たれる。

『ファァァァッ!?』

アルギュロスに、次々と光弾が着弾していく。

そして、その光弾のなかに・・・アルギュロスは破壊されていった。

『フ・・・ウァ・・・ァ・・・』

アグルは、それを見届けると、黒く染まるかのように・・・光の中に消えていった。

―――それとほぼ同時に、我夢は一つの施設を見出す。

それは・・・

「プロノーン・・・カラモス?」

そう、それは・・・ニュートリノ宇宙物理学の発展のため 2010年代後半に建設された、スーパーカミオカンデの後進である施設だ。

そして、今回の物語は、その施設を中心に動くのである。



―――そこは、寺だった。

「悪の気が、世界を包んでいる・・・」

和尚らしき男が、吐き捨てるようにそう言った。

手には、根源的破滅招来体の脅威を語る雑誌。

足元には、ニューヨークに現れた髑髏仮面、仮面ライダー 1号の記事・・・

「―――光明寺君、残念だが君の言うとおりになったようだ。アレがよみがえる時期も近づいている・・・」

この和尚、実は元ロボット工学者である。

境内においてある仏像の類は、全て警備用のロボットだ。

そして、和尚は山門の入り口に聳え立つ仁王の像を見上げる。

「――――酷な話だ。造られた命・・・」

ため息をつくようにそういう。

と、そのときのことだった。

キン・・・

ピシッ

仁王像の目に光がともり、同時にヒビが入った。

「―――おお・・・」

ピシ、ピシ、ピシピシピシ・・・!

バァァァァン!!

仁王像が割れる。

割れた中から・・・人影が現れる。

それは・・・・・・キカイダーに良く似た人造人間だった。

「―――よみがえるか、ゼロワン・・・」

ゼロワン。

少し説明せねばなるまい。

ゼロワンとは、かつて光明寺が試作一号機として開発した災害救助用人造人間である。

それは・・・太陽電池駆動、エネルギー貯蔵回路・・・別名稲妻回路など新機軸を盛り込んだ最強の人造人間になる・・・はずだった。

しかし、光明寺はこのロボットの危険性に、起動させる寸前に危険性に気づく。

―――この人造人間には、心がない・・・

心がなく、またアシモフのロボット三原則も入力されないロボットは、容易に殺戮兵器と化す。

古賀博士の作り出した「 1号兵器」という先例を知る彼は、恐れた。

その不安を殺すために彼は、心を生み出す装置・・・良心回路を作り上げる。

だが皮肉なことに、完全な良心を生み出すその回路は・・・やはり、危険な代物だった。

少しでも歯車が狂えば、それは悪魔を生み出す・・・善の心を生むプログラムを悪の心を作り出すプログラムに変えたなら・・・

そう考えた光明寺は、一計を案じる。

それは・・・世界中のコンピューターから情報を引き出せる、特殊なコンピューターとともに、彼を眠りにつかせることだった。

そして、コンピューターが「日本を悪の気が包んでいる」と判断したときに、彼は再び目覚め・・・その完全なる善の心で悪を打ち滅ぼす。

揺ぎ無き、正義の使者として・・・

そう考えたのだ。

その後光明寺は、更なる飛躍を求め、良心回路の再設計を行いながら、キカイダーを製作する。

―――今、キカイダーは・・・彼の息子太郎をモデルとしたジローは、風見志郎とともに悪と戦い続けているはずである。

そして、ゼロワン・・・キカイダー 01は今よみがえった。

日本を・・・いや、全世界、全宇宙をも巻き込む悪を倒すために。

「キカイダー・・・ゼロッワン!」

―――約一時間ほど後。

「お世話になりました、和尚様・・・」

蒼いヘルメットを被った、頑健そうな男はそう言うと深々と頭を下げた。

「―――いや、気にすることはない。私は・・・君が、きちんと心を持って再生したことを素直に喜んでいるよ。封印される前の君は・・・」

「それは言わないでください・・・では、私はもういきます。」

和尚が用意してきた、キカイダーのサイドマシーンに良く似たサイドカーにまたがり、男はそう言った。

「・・・がんばれよ、ゼロワン・・・いや、イチロー!」

「はい!」

そうして、サイドカー・・・ダブルマシーンは走り去った。

新たなる戦士が戦場へ向かい、和尚は戦士を見送ると、ゆっくりと仏像の前に座り経を唱え始めた。

まるで、ゼロワン =イチローの行く手を憂い、加護を求めるかのように・・・



―――ほぼ半日前・東京

風景は、ビル。

ビルの谷間にひっそりと、その警察病院は存在していた。

精神鑑定を秘密裏に行う、警察機構の闇の部分に属するその病院の一室・・・

「やはり、人間は・・・」

その場には、黒い青年が立っていた。

「―――アギト・・・そして、ギルス・・・彼らの動き次第で、一つ未来が動く・・・しかし、その前に・・・」

黒い青年の前には、恐縮したようにうずくまる蠍の怪人・・・アンノウンが立っていた。

「―――まだ、あのアギトを殺してはいけません。まだ、彼には動いてもらわねばならない・・・」

彼がそう言うと、アンノウンはその腕を少し振る。

その先から、かすかに光が放たれて消えた。

同時に、アンノウンもまるで空気に溶けるように掻き消えた。

そうして、彼は自分の手を、じっと見た。

「私は、人間をこの手で殺しました・・・」

深い後悔を宿して、彼はそう言った。

「―――すでにこの星の・・・わが子らの危機は、忌まわしき力に頼らなくては回避できないほどになっているのかもしれない・・・」

彼はそう言うと、また手をじっと見た。

「―――それでも・・・人は・・・・・・」

いつも胸に抱くその言葉を悲しげに飲み込んで、そしてカーテンをそっと閉じる。

その言葉には、深い深い憐憫の情が浮かんでいた。

そして、同じ色の心を持った男が彼の行為をじっと見ていた・・・



「え?消えてる?」

「ええ、見事に消えてるわ。あなたの体の中の金属片。」

最初の言葉を言ったのは翔一で、それを継いだのは小沢だった。

「先日、アンノウンに襲われて、あなたの体に金属片が埋め込まれたわけなんだが・・・」

椅子の前に座る、医者風の格好をしたのは誠子だ。

「明日付けで、 G.U.A.R.D.に正式に配属されるから、この慣れない仕事も今日限りだ。最後の患者が君でよかった。」

誠子はそう言うと、レントゲンを見せる。

それをまじまじと見る彼を見ながら、誠子は今までの流れを回想していた。

取り合えず、ギルス・・・葦原涼 (誠子はギルスも涼も名前知らない)が表れたり、超能力がアンノウン事件に関係してる・・・と思われることがわかったりした。

それと、恩師美杉の義兄である風谷伸幸の死にかかわる疑惑・・・

あのオーパーツの行方が気にかかったが、それでも日常はそれなりに忙しい。

その中で、小沢とであい・・・そして誠子は、何故か持ってる医師免許を利用して警察病院に住み着き (?)、G.U.A.R.D.に正式に配属されるまでのつなぎとしている。

何故医師免許を持っているかは聞かないでほしい。

彼女の経歴は複雑怪奇なのである。

やがて・・・アンノウンに襲われたという青年・・・恩師の家に居候している記憶喪失・・・津上翔一が病院にやってきたわけだが・・・

「 12時間前は、謎の金属片に間違いなく殺されるって状態だった、ってのにあんまり驚いてないなぁ・・・」

「いや、俺死ぬなんてどうしても思えませんでしたし!」

呆れたようにつぶやく誠子に、あっけらかんと答えて翔一は笑った。

「なんか、胸の辺りが軽くなったから、とかいってきたと思ったら・・・やっぱり、君の正体は気にかかるな。真魚君も苦労してるんじゃないかい?」

「いやぁ・・・」

「照れるな、ばか者。取り合えず、もうこなくてよろしい。私の恩師に・・・美杉さんによろしくな。」

「あ、私からもそれ、よろしく。美杉先生にね。」

カルテを書きながらハハ、と笑って誠子は小沢と談笑に入った。

そして、診察室から翔一は出ようとした。

その時つぶやいた言葉を、彼女らは聞いていたのだろうか?

―――俺がもし死んだら・・・誰が真魚ちゃんを守るって言うんだ・・・?

深い苦しみを抱いた貌で、彼はつぶやく。

「―――あのまま、死んでいたとしたら、俺は・・・」

そう考えると、空恐ろしくなった。

この時点で彼はすでに、ジャンパーソンや黒狼、 Blackなどと遭遇はしている。

しかし、彼はその誰ともまともに口を利いていないし、彼らの目的も知らない。

彼らが自分の大切なものを守ってくれるとは限らない・・・いや、その可能性は限りなくない、と翔一は考えていた。

だから、怖かった。

明るく振舞っても、それはとても怖かった・・・

―――その時、脳の奥が、ズクンと音を立てた。

「――うっ・・・く・・・この感覚・・・アンノウンじゃ、ない・・・?」

地面に膝をつく。

そして、その疼きが少し薄れたとき、彼は立ち上がる。

「―――行かなきゃ・・・」

このうずきは、どこから来るのか?

それを求めに・・・



―――なんで気付かなかったんだ・・・

我夢は、ファイター EXの機上で回想していた。

3年前・・・かつて、藤宮と一度だけ顔を合わせた日のことを・・・

「藤宮さん!クリシスを開発した、藤宮博也さんですよね!?高山我夢です!」

親友ダニエルに紹介され、喜び勇んでクリシススタッフの研究室に入室した我夢・・・

だが、それに対して藤宮が返したものは何もなかった。

ただ、焦りと憂いとを秘めた瞳で画面の見つめているのみ。

そして、重い口を彼は開いた。

「ダニエル・・・俺の力もここまでだ・・・俺はアルケミースターズをやめる。」

「えっ・・・?」

ダニエルの、間の抜けた声に被せるように藤宮は言っていた。

「プロノーン=カラモスを貸してくれ。俺は・・・残された時間を研究に没頭したいんだ。」

酷い焦燥の中で、彼はそう答えた。

それが何を意味しているのか・・・彼はまだ知らなかった。

今も、まだ知らず、これから知ることができる・・・という期待を乗せて・・・

ただ、 EXは滑るように空を進んでいく・・・



―――藤宮は、囲まれていた。

「グァッ・・・グァッ・・・」

それは、稲妻の意匠が施された赤い覆面の集団・・・

あまりに規則正しい動きをするものだから、藤宮はほとんど一瞬で人造人間だと見抜いていた。

「ふはははは・・・おとなしく従ってもらおうか、藤宮博也!」

赤い体の、脳と思しき物体がクリアパーツ越しに不気味な人造人間・・・レッドハカイダーの声に、藤宮は苦しげに息を吐く。

「ク・・・なぜだ・・・なぜ、あいつも、こいつらも・・・ここを、俺を狙ってくるんだ・・・!?」

そう言って、彼はその腕にはめられた青い光を放つ器具・・・アグレイターを覗き込む。

キン、と一瞬光るが・・・力が足りないのか、すぐに収まってしまう。

「変身は・・・無理か・・・ここで捕まるわけには・・・」

そういう藤宮を嘲って、銀の人造人間・・・シルバーハカイダーはその腕を上げた。

「ケッケッケ・・・こんな風になりたくなかったら、おとなしく従えよ・・・」

その上げた腕には、近くを通っていたハイキングパーティーの・・・物言わぬ首が握られている。

それを、グシャッと握りつぶして、シルバーハカイダーは高らかに笑った。

「―――外道か・・・」

耐え難い、という感じで藤宮は目をそむけた。

「繰り返すぞ・・・従わねば、お前もこうなる・・・!」

ブルーハカイダーの声が響く。

有無を言わせぬ色と、この光景を・・・血まみれのハイカーたちが散乱するこの場を楽しむ色がある。

「クックック・・・さぁ、こちらへきてもらおうか・・・」

ギルハカイダーが、その腕の銃・・・ハカイダーショットを構えながら彼に近づいていった。

悪寒を感じるような邪悪な気配に、藤宮は吐きそうになる。

「貴様らに従う理由は、俺にはない。」

冷たく言い放つ藤宮に、レッドとブルーは気色ばむが、ハカイダーはそれを腕で押さえ言った。

「ほう・・・これだけの屍骸に動じないとはな。よほど肝が据わっていると見える。どうだ?改造を受けるなら、わが部隊の末席に加えてやってもよいぞ?」

「断る。貴様らは地球を滅ぼすだろうからな、ネロス帝国の犬が!」

にべもなく言い放ち、藤宮は腰溜めに構えた。

彼は、武術の面でも相当に鍛えている。

アグルの力を効率よく引き出すためだ。

同様の格闘訓練は、我夢もアスカも行っている・・・が、藤宮の「体を省みないほどの」訓練には及ぶべくもない。

「生身で立ち向かうか・・・愚かな。」

「愚かかどうかは、俺が決めることだ。貴様に決められることじゃない。」

そう言って、その腕につけた・・・改造スタンガンと思しきものを振るう。

たちまち、一体のアンドロイドマンの胸がショートし、機能を停止する。

「つっ・・・!」

しかし、出力が高すぎたか、藤宮の腕にも火傷を作った。

「ふっふっふ・・・なかなかやるな・・・だが、そこまでだろう。いけ、ブルーハカイダー。」

「ははっ!」

ギルハカイダーの言葉に従い、ブルーハカイダーは両手で得物の電磁鞭をピンと張ると、近づいていく。

「出力を落としてやるから、感謝しろよ?ブルーハカイダー様の電磁鞭で、貴様を捕らえてやる!」

ヒュン!

空気を切ってブルーハカイダーの鞭が、藤宮に向かう!

だが、その一瞬、鞭が命中するその一瞬、ブルーハカイダーは少しだけ油断が芽生えた。

そこに飛んできたもの、それは・・・

がっ!

一つの石が、電磁鞭の先端にぶち当たる。

石は一瞬で破壊されたが、インパクトを殺されて鞭は藤宮を捕まえるには至らなかった。

「―――何だ?」

藤宮がそうつぶやく。

すると、遠くから・・・いや、近づきながら・・・

パパパパァ〜〜ン♪

それは、紛う事なきトランペットの音。

「誰だ!探せ!!」

「どこだ!」

「どこだ、どこだ!!」

その音を探し、右往左往するハカイダー部隊は、 20秒ほどで音の発信源を突き止めた。

「あそこだ!」

そこに立っていたのは・・・

一本、飛びぬけるように高く聳え立つ木の上に、青いヘルメットをかぶった男が立っていた。

「誰だ、貴様!」

ギルハカイダーの発したその言葉にその男、仁王像から現れた人造人間イチローは演奏をやめて、見得を切って叫んだ!

「悪のある所必ず現れ、悪の行われるところ必ず行く!正義の戦士・・・キカイダー 01!」

「なにぃ・・・!?」

フ、とギルハカイダーに向けて挑発の笑みを浮かべ、イチローは両手をクロスさせるように頭の上で掌を開く。

「チェンジキカイダー・・・」

―――その手が、開かれる。

勢いよく、解き放つように振られた腕とともに、ヘルメットから一つの万華鏡のような鏡の集合体が現れた。

見る人が見ればわかったろう。

それは、高性能太陽電池の高密度集合体だ。

「ゼロ!ワン!」

叫びとともにそれは高速回転を始める。

―――表面が硬化する。

色が変わる。

そして、太陽電池がヘルメット内に収納されると、ヘルメットはクリアパーツに姿を変えて内部のメカニックをあらわにした。

同じような変化が全身に現れる。

「とぉーーっ!」

空中で一回転しながら、がシャン、と音を立てて、藤宮とブルーハカイダーの間に入るように彼は落ちてくる。

「逃げろ!君にはやるべきことがあるはずだ!」

首だけ後ろを振り返り、藤宮にそういうと、ゼロワンはハカイダー部隊と向き合った。

「ハカイダー・・・記録コンピューターの情報によれば、一月前ダーク基地と共に爆発し死んだとある。その貴様が、なぜここにいる!」

「ふん・・・そんなことを言って、その男を逃がすつもりだろう?」

そう言って、手で後ろへ走っていく藤宮を指す。

それに呼応して、ブルー・レッド・シルバーの 3ハカイダーは藤宮を追う体勢をとった。

「待て!」

「―――おっと、そうはいかん。優秀な部下がやつを追ったことだし・・・お前はここで俺の話を聞いていてもらおうか。」

3ハカイダーが、藤宮を追っていったのを見届けると、悠然と銃を弄びギルハカイダーは言った。

「俺の頭には・・・プロフェッサーギル、そしてやつらにはダークの優秀な科学者 3人の脳髄が埋め込まれている!この体はハカイダーの予備ボディを使って改造したものだ・・・すなわち、世界を再び暗黒の闇に変えるために、俺たちは蘇ったのだ!!」

「―――何だと・・・!」

「驚いたか、ゼロワン・・・キカイダー・・・忌まわしい名だ!」

プロフェッサーギルの記憶がフラッシュバックでもしたか、ギルハカイダーは忌々しげに吐き捨てた。

「ふん、何を言うかと思えば・・・人々を殺め、天才科学者を誘拐しようとしたその所業、許せん!」

「ふはははっ!もはや手遅れだ!貴様は俺に付き合ってもらうぞ!あの三人が小僧を捕らえるまでな!!」

ゼロワンの怒りを込めた言葉をあざ笑い、ギルハカイダーはハカイダーショットのトリガーに指を掛ける。

ゼロワンとギルハカイダーの戦いが始まり、そして・・・



――― 4年前 国際工学研究所

富士の樹海のなかに建設された、応用光学研究所で、それは起こった。

時に、 2021年・・・

光量子コンピュータ「クリシス」の初の稼動実験が行われた日のことだった。

「第一段階、第二段階終了・・・」

「各回路異常なし・・・」

研究スタッフの、淡々とした声が響く実験室で、それは行われた。

これまでのノイマン型コンピュータの概念を塗り替える画期的なコンピューターとして計画された、光量子コンピューター建造計画・・・

それは、弱冠 15歳の天才科学者藤宮博也の手によって始まった。

そして、わずか 2年の後、それはついに稼動実験を迎えたのだった。

「藤宮博士、最終段階、スタンバイ完了です。」

三十路を過ぎるか過ぎないか、髪が軽いウェーブを得ている女性がそういった。

その言葉を聞くと、少年・・・ 17のころの藤宮は、息を呑み、そして隣に立っているダニエルに「いくぞ」と力強く言って、ヘッドセットを装着した。

(頼むぞ、クリシス・・・お前の予測が世界を導くんだ!)

皆息を呑む。

世紀の瞬間がおとずれようとしていた。

その結果が、何かも・・・今は知らずに。

「クリシス、ファイナルシンク・ゴー!!」

最終起動のための音声コードが藤宮の口から放たれ、クリシスに灯がともる。

藤宮も、ダニエルも、スタッフも、それを固唾を呑んで見守っていた。

―――数十秒後。

「―――光量子回路、軌道に乗りました。成功です!」

藤宮の隣にいた女性が、モニタを見つめながらいったその言葉に、歓声が巻き起こった。

「ヤッタな、藤宮君!」

ダニエルが、藤宮の肩を叩きそういうと、「ああ!」と本当にうれしそうな貌でそういった。

「藤宮博士、おめでとうございます。」

少し興奮した様子で、女性が藤宮にそういうと、藤宮は彼女に顔を向けてすでに笑みが溢れている顔をさらに破顔させて藤宮は言った。

「ありがとうございます!稲盛博士の意見も・・・随分と参考にさせていただきましたから・・・!」

「そんな・・・クリシスの開発に参加させていただいただけで光栄です・・・」

女性・・・稲盛博士はそういうと、憧れにも似た視線を藤宮に向ける。

モニタのなかのクリシスを見つめた後、彼は机の脇においてあるハムスター用のケイジを持ち上げて見せた。

「リリー、お前も歴史的瞬間の目撃者だ!」

「可愛い恋人ね?」

ケイジのなかでは、一匹のハムスターが一所懸命に車輪で回っていた。

「―――実験用だったんですけどね・・・実験で寿命、延ばしたらしいんですけど・・・見たとき、情が移っちゃって。」

ニコニコと幸せそうに笑いながら、藤宮は言った。

それを、稲盛博士もまたにこやかに見守っていた・・・のだが・・・

ピィー!ピィー!ピィー!ピィー!

「―――なんだっ?!どうしたんだ!」

『エンザンソクド・セイギョフノウ・・・エンザンソクド・セイギョフノウ!』

モニタから、警告の音声が流れ続ける。

「フロー制御が働いていません!」

「なんだと!ドラムシンク再起動!プレートの再チェック急げ!」

立ち上がり、忙しく指示を続けながら藤宮はその手をキーボードに叩きつけた。

「なぜだ・・・!何が狂ったんだ!?」

自分の設計は完璧だったはず・・・

そして、それを何度も何度もテストして、ようやくここまでこぎつけたというのに・・・!

その時、彼の腕に電光が走った。

「ぐぁぁっ!?」

――― 一瞬、意識が飛ぶ。

その飛んだ意識の中で、藤宮は不思議なものを見た。

雷が荒れ狂う荒野に、一人立つ蒼き巨人を・・・

「―――藤宮君、藤宮君!」

揺り起こされる。

気を失ったのは、本当に少しの時間だったようだ。

「藤宮君・・・見ろ!」

「は・・・どぉしたぁ?!」

気がつけば、警告音は鳴りを潜め、クリシスを映し出していた中央のモニタには石版のような画面と、それに浮かぶ象形文字のようなもの・・・

「―――これは・・・ 3000万年前文明人の?!」

「クリシス、翻訳して!」

呆然とする藤宮をおいて、稲盛博士はクリシスに指示を出した。

そして、その言葉は・・・ゆっくりと表れた。

「近未来、地球と人類に破滅をもたらす・・・破滅招来体が襲い来る?!」

藤宮の声が、それを読んだ・・・

「―――破滅招来体とは何だ!?異常気象?天変地異?!」

一瞬、呆っとした後、藤宮はヘッドフォンにそう叫んだ。

だが、それに対してクリシスが出した答えはただ一言。

『 NO; 地球に破滅をもたらすもの』

とだけ表示された。

「――――――」

その答えに、藤宮は絶句する。

―――本当に、本当に地球が、人類が破滅してしまうのか・・・?

後ろでは、条件を絞り込もうとするダニエルらの声が妙にむなしく聞こえていた・・・

脳裏に浮かんだ、蒼い巨人の姿を打ち消して、彼は心で叫ぶ。

―――答えてくれ、クリシス!

祈るように、懇願するように・・・



―――半月後

結局、プログラムには一切のバグは見つからず、そして・・・

藤宮とダニエル、そして稲盛博士は未来予測の数値を変えるため、むなしく奔走していた・・・

「―――どうして!どうしてクリシスの予測は変わらないんだ!?」

苛立ちを隠せず、ダニエルはそう叫んだ。

「 As it is, it doesn’t finish...」

このままでは終われない、と、そう彼は母国語でつぶやいた。

深刻な顔で、藤宮はディスプレイに向かい続けていた。

そんな光景が、何日も続いていた。

そして、ある日・・・

「―――ダニエル・・・!」

「どうした、藤宮君・・・」

妙に硬い彼の声に、ダニエルは疲れた声で答えた。

「変わったよ・・・クリシスの予測が!」

「なんだって!?」

その言葉に、スタッフが全員、彼の机に集合した。

「クリシス・・・結果を!」

辛そうな声で藤宮は叫ぶように言葉を漏らす・・・

ディスプレイには・・・『人類の破滅回避』とでかでかと現れていた。

「いったい、どうやって・・・?」

稲盛博士の、懇願する声に、藤宮はゆっくりと・・・それでいてまだ硬すぎる声で言った。

「ためしに・・・削除してみたんだ。」

「何を・・・何をだい、藤宮君。」

「―――これだ。」

彼の指がキーの上を走る。

それによって消えた単語。

それは・・・

「人類・・・!」

稲盛博士が、悲鳴を放つ。

「―――このままでは・・・」

搾り出すように彼は叫んだ。

「このままでは、地球も人類も・・・本当に滅ぶ!」

危機を認識した彼の叫び。

それを見つめるように、ケイジのなかでリリーは元気に走り続けていた・・・



さらに一月後

「バグはありません。間違いなく。」

「もう一度だ、もう一度チェックしてくれ。」

「またですか!?もう四度目ですよ?!」

「見つかるまで何度もやるんだ!!」

―――もう、三度目。

何度も同じ会話を繰り返している。

ディスプレイの電源を切る。

「―――くそ・・・」

ケイジのなかのリリーを見つめながら、藤宮はいらだっていた。

「いったい・・・俺はどうすれば・・・」

苛立ちは、もう限界を通り越し、彼の精神を少しずつ蝕み始めていた。

天才・・・アルケミーチャイルドである彼をしても、それは変えられなかった。

「―――くっ!」

悔しげに、彼は瞳を俯けた。

いったい自分のやってきたことはなんだったのか・・・

自問してもし切れない思いが胸から次々と浮かんでくる。

あせりと、苦しさで胸が吹き飛びそうな気分がしていた。

―――そんなときのことだった。

キン・・・

蒼い、やさしい光が、奥のディスプレイからもれ出てきたのである。

「―――なんだ・・・?」

やがて、光は砂嵐のような・・・クリシス特有のエラー画面を映し出す。

その砂嵐は、無音のまま形を少しずつ変えていく。

「 A・・・G・・・U・・・L・・・AGUL・・・アグル?」

象形文字のようなはっきりとしない文字は、彼にも理解できるアルファベットに変換され、ディスプレイに現れる。

そして、一瞬後に。

カァッ!

「う・・・うわぁぁぁっ?!」

画面がいきなり白熱した。

―――その光の中で、彼は意識を失い・・・

そして、気がついたとき、彼は見覚えのない荒野のなかで一人たっていた。

蒼い、巨人の姿も。

「アグル・・・お前がアグルなのか・・・?」

雷と疾風が荒れ狂う大地に、それは一人たっていた。

「お前は、俺に何を伝えようというんだ・・・?」

ただ、藤宮はその巨人を睨み続け・・・

ただ、その巨人は・・・一人、藤宮を見つめ続けていた・・・



―――原っぱのなか。

先ほど倒された、アルギュロスの残骸が再び液状になり、ひとつの方向へ向け移動を開始していた・・・

我夢の EXもまた、空からプロノーン=カラモスへと接近し・・・

藤宮も、深い森を抜けて、プロノーン =カラモスの前に広がる原っぱに出ることが出来ていた。

「―――!」

彼が森を抜けたとき、既にカラモスの前には我夢の EXは駐機されていた。

「ふん・・・」

そう漏らして、彼は歩を進めた。

ハカイダー部隊は追ってこない・・・

いや、追ってきているのかもしれないが、森の中を中途にあった洞穴や川を通ることでそれをかわした自信もあった。

「アグル・・・っ!」

肩を抑えて、彼は足を速める。

その前方、およそ 200mといったところに、大きなピラミッド状の建造物が見えている。

それこそが、プロノーン =カラモス。

量子物理学研究のために建設された、重要な建造物である。

息を吐く。

とっとと、自分はあそこへいかねばならない。

その思いを軸に、彼は歩を進めていった。

ザン!

突然、草を切る音がする。

「―――くっくっくっく!逃げ足が速いなぁ!?」

「だがもう逃がさん・・・!」

「我々についてきてもらおうか?!」

森の三方から、ハカイダー三人衆が現れたのである。

「少々おいたが過ぎるようだな、このガキは・・・」

「手足の一本くらいとっておいたらどおだ?ぶち切っても、改造すれば何とかなるだろ?」

ブルーの言葉に、シルバーがそう答える。

「ちっ!」

藤宮は、護身用の銃・・・ TPCが結成される前に活躍していた、科学特捜隊のスーパーガンを改造したものを3人へ向けた。

「食らえ!」

それをすばやく撃って、転がる。

それから、藤宮は長く生えた草の陰に隠れながら、彼は後悔した。

(―――こんなことなら、対怪獣用のセッティングのまま持ってくるのだった・・・!)

迂闊だと思い、そのまま隠れながら進む。

後 200m進めば、彼の目的は半ば達せられたも同じだ。

複雑な坑道をもつあの建造物の地下へと進むのは、素人には容易ではない。

たとえ人造人間であろうと、仔細なマップデータは抹消されている・・・いや、彼が抹消したはずであるから、そこまで・・・

あるいは、研究棟までたどり着くのは苦労するはずだ。

それまでに、目的を果たせれば・・・問題はない。

そう考えて、這いずるように進んでいった。

「小癪な・・・!」

「ふはは・・・貴様の位置は捉えているぞ?それ!」

レッドハカイダーは、その手のボウガンを振りかざすと、藤宮の方へと向けた。

「我々相手にここまで逃げられたことをほめてやろう・・・レッドハカイダー様のミサイルボウガンを食らえ!」

ヒュン!

ドゴゥ!

藤宮の隠れていたあたりの草が、近接信管を仕込まれたミサイルによって吹き飛んだ。

「くっ・・・!」

「終わりだ・・・」

姿を現した藤宮に、シルバーハカイダーは手に持った長い棒を向ける。

「シルバーハカイダーの電撃棒で死んで見るかぁっ!」

ガリガリと大気と地面を切り裂いて、シルバーの電撃棒が藤宮に迫る。

だが、その時!

ドォン!

棒そのものに体当たりを食らわして、現れたバイクがあった!

「逃げて!早く!」

それは・・・間違いなく。

「―――早く!」

ヘルメットを脱ぎ捨てたその男は、翔一だった。

昨夜のうちに、東京を発った彼は、この地に到着仕立てだった。

なぜか、彼は目の前の男の前でなら、変身しても問題ないと思わず考えてしまった。

直感にしたがって迷わずに行動するのが翔一の持ち味のひとつだ。

「―――変身!」

換わる、変わる。

彼の体は金色の光に包まれて、アギトへと変わる。

「早く逃げて!」

三度同じ台詞をはいて、彼はその手を構えた。

「はぁぁぁぁ・・・はっ!」

ベルトの左側にあるバックルを強く叩く。

一瞬、赤い光が彼を覆い、赤いアギトが表れる。

ベルトに手をかざすと、その中から一本の緩やかな反りを持つ曲剣が姿を現す。

それをしっかりと握り、フラフラとこの場を離れていく藤宮を見届けると、「お前たち、何者だ!」と叫び、その剣を 3人の禍者へと向けた・・・!



―――プロノーン =カラモス地下

研究棟の奥で、我夢は一人の女性と会話を交わしていた。

「―――どうして、稲盛博士がここに?」

そこにいたのは、かつて藤宮の研究をサポートしていた才女稲盛京子博士だった。

「―――私は・・・彼の恋人を届けに来ただけ・・・」

寂しげに笑う彼女の様子は、 4年前のクリシス起動実験のときとは別の響きがある。

「恋人?」

「そうよ・・・リリー。この子よ?」

ケイジを見つめ、ふふ、と微笑を浮かべて彼女は歩を進める。

「でもねぇ・・・本当のところは、真実が知りたかった・・・のかな。」

「―――真実・・・?」

「そう、 4年前、藤宮君が予言した、地球の未来・・・」

その言葉に、我夢は驚きの声を上げる。

「藤宮は、ここでその研究を!?」

こっくり、と首を振り・・・

彼女は緩やかにその口を開く。

まるで、自分が主役のサーガを歌うように・・・

「―――あなたの恋人を・・・」



3年前・・・プロノーン=カラモス地下

内水槽上のブリッジにて・・・

「あなたの恋人を届けに来たわ。」

にこやかに笑みを浮かべて、コート姿の稲盛博士はそういった。

悪戯をする子供のように、あるいは子供にプレゼントをする母親の顔で、その手のケイジを掲げながら。

「ありがとう!よく来てくれました!」

白衣姿の男・・・心なしか髪の伸びた藤宮は、そういって朗らかに笑う。

「―――どうして、私を呼んだの?」

ケイジを床に置きながら、稲盛博士は疑問を呈した。

「腕の確かなパートナーがほしかったんです。貴女はそれにぴったりだ。」

「なぜ・・・アルケミースターズではないの?」

「―――今の彼らに、僕のやろうとしていることは理解できない・・・」

笑みを消して、落胆と焦りを宿して彼はつぶやいた。

「観測室上部のボードを閉じ、加えて地下への坑道を開放し・・・全てのセンサーを地下へと向け修正しました。」

「何を考えているの・・・?地球内部に新しい粒子が発見される可能性は、ありえないのよ?」

稲盛博士は、当然の疑問を藤宮に返す。

それに対して、彼は歌うようにつぶやいた。

「―――自然治癒力・・・どんな生命にも、病気や怪我に対して直そうとする力が自然に働く。もし近い将来、地球に破滅的な事態が起こるというのならば・・・」

「それが働く、っていうの?」

苦しげに、藤宮は返答を返す。

「―――僕は・・・本当の気持ちが知りたいんだ・・・地球の・・・」

その言葉は、深い深いプールの中に消えていく・・・



「―――本当の地球の意思・・・彼はそう言ったわ・・・」

ケイジを見つめる。

「私たちは何ヶ月も観測を続けた・・・」

さまざまな思い出が去来する。

「でも、正直に言って、私は藤宮君の言うことに半信半疑だったの・・・」

研究、食事、会話・・・

「―――本当に、地球は私たちに語りかけてくれるのか・・・」

はっきりと思い出せることはいくらでもあった。

それを思いに乗せながら、彼女は話を続けた。

「本当に、地球の心を、私たちは理解できるのか・・・」

「地球の、意思・・・?」

「そう、地球の意思・・・でも、それは本当にやってきた・・・」

悲しげな声が、部屋の中に滔々と響いた・・・



「どうした!なぜ何もおきない!アグル!お前は俺に、地球を救う方法を教えたかったんじゃないのか!?」

焦燥が募っていく中で、彼は心で叫ぶ。

「地球よ・・・アグルよ!答えてくれぇぇぇぇっ!!」

ギィイン!

魂を切り裂くような、絶叫を藤宮は上げる。

それが何かに届いたのだろうか・・・

「がっ!?ぁぁぁぁっ!!!」

藤宮は突然の頭痛の吐き気に襲われる。

そして、一瞬後・・・

彼は、クリシス実験のときにみた・・・あの荒野に立っていた・・・

「―――アグル・・・」

暴風と、雷が吹き荒れるアグルが立つその荒野で彼は見た。

未来において、我夢がアグルの幻影を見たときと同じ、あの滅びた文明を・・・

「アグル・・・!お前は、お前はぁぁぁぁぁあぁっ!!?」

その、絶叫にただ、アグルは・・・彼を試すがごとく、じっと藤宮を見つめ続けていた・・・



ガシャン、と大きな音を立てて藤宮は扉を開けた。

髪を振り乱し、鬼気迫る形相で・・・彼は現れた。

「―――観測は、やめだ!!」

一声叫んで、彼は無数のコードを引き抜き始める。

「何をするの!?」

「もし地球に自らを守る意思があるとしても!それが人類を救う力となるとは限らない!!」

絶叫が部屋を支配する。

「むしろ・・・生まれ変わるとしたら煩わしいものを排除しようとするのが自然だ!!」

一瞬、アグルの顔が浮かぶ。

「いったい今まで人類は地球に何をしてきた!?怪獣を呼び出すほど自然を破壊し、暗黒組織や未確認生命体をのさばらせるほど、治安は悪化している!」

そうして、立ち尽くし叫んだ。

「この状況で・・・いざというときだけ守ってもらおう、だなんて虫が良すぎる!!」

「―――怖いの?」

稲盛博士は、諭すように・・・震えた声で藤宮をとめる。

「ああ、怖いさ・・・!僕はまた人類の不幸を発見してしまうかもしれない!!」

「なら観測は続けるべきよ・・・可能性を捨てるなんて、愚かなことだわ!」

そう言って、彼女は藤宮が乱暴に抜いたコードを再びつなぎ始める。

「―――そうしなければ、あなたは自分の背負ってる苦痛から・・・開放されないわよ。」

ゆっくりとだが、核心のある言葉・・・

その言葉に、一瞬・・・彼は救われた気がした。

全ての迷いが吹き飛ぶ。

自分の使命は・・・!

そう悟ったとき、心が晴れた。

そして・・・

その時が、来た。

ピィー!

「―――?!」

残っていたモニタが・・・何かの数値の変化を見逃してはいなかった。

二人とも、普段観測しているそれぞれの持ち場に戻る。

「―――これは・・・!」

「装置の故障!?」

「いや、違う・・・!」

出力される、紙によく似た触感の極薄のプラスチックシートを見つめて藤宮は叫んだ。

「来た・・・」

モニタのなかから、蒼い光が溢れていた。

「何・・・これは・・・?」

「来た!ついに来たんだ!!」

「これが・・・地球の意思なの?」

強くなっていく光の粒子を見つめながら、稲盛博士はつぶやく。

「君は光の分析をしていてくれ!俺は直接この目で確かめる!!」

そう言って、藤宮は駆け出す。

行くのは、もう既に通うのが日課となっている内水槽上のブリッジ。

それほどかからずに、彼はその場へと踏み入る。

「来た!来たんだ!!」

そう叫んで、光を凝視する。

「お前がアグル・・・お前が地球の意思なのか!?」

光が収束する。

ギィイン!

また、さっきと同じ頭痛と吐き気が彼を襲った。

しかし、荒野に誘われることは、今度はなかった。・

光が、彼の体に入ってくる。

「―――アグル、お前の力を俺にくれ・・・!アグルーーーぅうううっ!!」

哄笑をあげながら、彼は光にゆっくりと解け始めた。

それを見ていた稲盛博士は・・・その場に続くマイクに声を限りに叫んだ。

彼にその声は聞こえていただろうか・・・

彼の名を呼ぶ、その絶叫は・・・・・・



そうして・・・

「そうして、彼は光の中に消えたわ・・・それ以来・・・私は一人で観測を続けているの・・・」

悲しげな色。

そして、疲れ切った声で彼女はそう言った。

「―――結局、何だったのかしら・・・アレは・・・」

その言葉を我夢は、慎重に聴いていた・・・



森の中

「フハハハハハッ!食らえ、ゼロワン!」

ガォン!

ハカイダーショットが火を噴いた。

地面に突き刺さる高周波弾を避け、彼は盛り間を縦横無尽に駆ける。

アンドロイドマンが、ワラワラと彼に群がってくる。

「ゼロワンカット!」

ガコン!

アンドロイドマンの頭が一撃で真っ二つになる。

「殺せ!ゼロワンを殺すのだ!!」

アンドロイドマンに混じり、二体の人造人間が混じっているのにゼロワンが気づく。

「グレイサイキング!カイメングリーン!!」

彼の中枢回路は彼らの存在を知っていた。

「再生させたのか・・・ハカイダー!」

「そうよ!一度作ったものなど、図面さえあれば簡単に作ることが出来る!ネロス様の工場では、さらに進化した破壊ロボットを生産しておるわ!」

「ネロスだと!?まさか!!」

ゼロワンは、強靭な蹴りでアンドロイドマンの体を砕きつつ、ハカイダーに迫る。

「古賀博士の宿敵・・・!もう行動を開始していたとはな!!」

「本格的に動くのはこれからだ!見ていろ・・・世界を夜の闇で染め上げてくれる!!」

「そんなことは絶対にさせん!!」

ゼロワンは叫ぶと、グレイサイキングとカイメングリーン以外のアンドロイドを倒していることを確認した。

「 3対1か・・・」

「クククク!さぁ、死ぬがいいゼロワン!」

後ろから追いついてきた灰色の犀と緑色の海綿を睨み付けながら、ゼロワンは叫んだ。

「貴様らの野望を砕くまで、誰が死ぬものか!トォーッ!」

気合を上げ、彼はその手刀と拳を持って、格闘を始めた。

「テェイ!」

ガキィン!

ゴゥッ!

金剛の威力を持つその拳が、グレイサイキングの胸板を叩き、カイメングリーンの頭に切れ目を入れる。

「―――なるほど、やはりキカイダーより出力が高いようだな。しかも、まったく迷いがない。」

「ふん・・・キカイダー・・・ジローの心は優しいからな。優しさは時には戦うことだと、最後には理解していたようだが、グレイサイキングと戦ったときの弟は、まだわからなかったはずだ。」

「確かにそのとおり・・・!だから、ギルに操られたというわけだ!お前は違うようだな・・・」

ハカイダーの揶揄するような言葉に、ゼロワンは激昂する。

「黙れ!より人の心に近い弟を苦しめたギルの脳をこの世に残しておくわけにはいかん!覚悟しろ!!」

それに対し、ハカイダーは、チ、と舌打ちをすると囲む二対の人造人間に、行け、と命じた。

「ゼロワン・・・死ね!」

「誰が殺されるものか!行くぞ!」

そう言って、彼は後ろに跳び退る。

「食らえ!ゼロワンドライバー!」

ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅるぎゅるぅっ!

ゼロワンドライバーとは・・・

彼が全身を一個のドライバーと化し、標的を貫く必殺技である。

ゴガァァァン!

高速回転を与えられたゼロワンのボディが作り出すその一撃は、グレイサイキングの腹に大穴を空ける。

ドッゴォォォォォォン!

がしゃん!がしゃん!!

爆発、炎上・・・そして、グレイサイキングの部品だったらしい歯車や機械部品が落ちてくる。

「どうだ!」

「小癪なぁ!」

だが、ギルハカイダーの言葉など完全に無視して、ゼロワンはその腕を突き出した。、

「ブラストパワー!!」

ガッシャァァァァァァァン!

ガラスが砕けるような音とともに、ゼロワンの腕から光線が放たれた。

それは、カイメングリーンの頭に正確に命中し・・・

やはり、爆発炎上し、落ちてくる部品とともに再生された二人の人造人間は最期を遂げた。

「―――やはり、同胞を殺すことに躊躇いはないようだな・・・」

「残念だが、俺の心は完全な良心回路で作られている。悪を行うものは、例え同胞でも倒さなければならないと認識している!!」

ギルハカイダーの戯言は・・・キカイダーになら十分効果はあったであろうが、ゼロワンにはまったく意味がなかった。

「行くぞぉっ!ブラストエンドォ!!」

ゼロワンは、その腕のクリアパーツをあわせる。

その部分が、赤い光を放つ。

「ダァーーッ!」

カッシャァーーン!

まるでガラスが砕けるような音がして、それと同時に腕を叩きつけられたギルハカイダーの肩が粉砕される。

「ぐぉぉぉぉ・・・!おのれぇっ!ここは退いてやる・・・だが、この借りは必ず・・・!」

ギルハカイダーは苦しげにうめくと、霧に消えるように森の奥へ消える。

それを、身動きひとつせず見送って・・・彼は膝を地面についた。

間接から、火花と煙が噴出している。

「ク・・・覚醒したばかりで、酷使しすぎたか・・・」

そう言うと、地面にくず折れるように変身を解いた。

だが、その時・・・彼の肩を支えたものがあった。

「あんたは・・・誰だ?」

それは、虚だった。

「我夢を追ってきてみれば・・・とんだ拾い者だな、あんた名前は?」

「イチロー・・・」

「やっぱりそうか!想像していたとおりの人でよかった。悪を許さない、正義の人で・・・」

つぶやくように言ったイチローに、虚はそう言うと破顔する。

「さ、俺の職場へ行こう。その体を直してやれる。ちょうど、古賀博士がエリアルベースに来ているからな・・・」

「古賀博士・・・!それにエリアルベースということは、君は XIGの・・・」

「ご名答です。」

「なら・・・こちらから頼む・・・古賀博士に会わなくては・・・」

そう言うと、彼はシステムの維持のために休眠モードへと入った。

「―――やはり、あの人の言ったことは・・・」

虚のその言葉は、イチローには聞こえていなかった。

そして、なぜイチローのことを虚が知っていたのか・・・

それは、追々明かされることになるだろう・・・



「はっ!はぁっ!」

その赤い剣を振りながら、アギトはたった一人で三人のハカイダーと良く戦っていた。

「―――くっ!貴様ぁ・・・」

「しゃべるアンノウン・・・?いや違う、こいつら・・・」

レッドハカイダーはそう言うと、ミサイルボウガンを放つ。

「フン!」

だが、絶妙な動作でそれをかわし、翔一はその剣をレッドに叩きつけた。

獲物を持った相手に、素手になるのは不利・・・

だが、決め手が見出せぬまま、戦いは継続していた。

「お前たち・・・何者なんだ!」

翔一は、叩きつけるようにもう一度そう叫ぶ。

「黙れ!我等の邪魔をする者には死あるのみ!」

ブルーハカイダーの電磁鞭が伸び、剣を絡めとる。

だが、一瞬でそれを手放すと、彼は今度は右のバックルを叩く。

「はっ!」

今度は、蒼いロッド・・・いや、槍を取り出す。

打ちかかってくるシルバーの電撃棒をうけ流し、払う。

そして、シルバーは槍で思いっきり打ち据えられる。

「―――」

無言で、彼は三人のハカイダーをにらみつける。

「―――はっ!」

ブンブンブンブン・・・

彼は、その槍をグルグルと回し始めた。

それは、風を起こし、いつしか小規模な嵐を生む。

「なんだ、これは・・・!?」

「風が絡み突くだと!」

「おのれぇっ!」

それは、彼らを包み縛る。

「・・・」

そして、必殺の一撃が・・・

放たれ・・・!?

ビュン!

その時、シルバーハカイダーの電撃棒が突然延びた。

それをまるで、高飛びの棒のように扱い、嵐を飛び越えてアギトへととび蹴りが放たれた。

「今だ!ギルハカイダー様はいないが、アレの出番だぁ・・・!ハカイダー四段攻撃!初段ツバメ返し!!」

ブルーハカイダーがアギトを持ち上げ、放り投げ、そして空中で再び高く放り投げられる。

「二段・オウム返し!」

「三段・クジャク返し!」

どんどん、アギトは高く放り投げられていく。

その間も巧みに打撃が加えられ、

「くっ・・・!?」

「とどめだ!一斉攻撃!!」

ドドドゥン!!

ミサイルボウガン、電撃棒、電磁鞭が放り投げられたアギトを襲う。

「ぐぁぁぁっ?!」

バキィッ!!

そして、地面に落ちる。

「ぐっ・・・!」

だが、立ち上がってアギトはベルトの両方のバックルを叩いた。

姿が、金色に戻る。

フラフラと立ち上がると再びファイティングポーズをとった。

「ほう・・・見たところ元人間のようだが・・・随分と頑丈な体をしている。」

「なぶってやるか?」

「ふはははは・・・」

好き勝手言うハカイダーどもをにらみながら、翔一は考えていた。

(―――くそ・・・どうすれば、この場を突破できる・・・?)

徐々に迫ってくる、禍者どもを倒すために・・・



「アギトは・・・もうすぐ殺されます・・・アグルを守るために・・・」

黒の青年は後ろに座っている男に、淡々と述べた。

男の胸には、この病室に入ることを許可されたのだろうか、ネームプレートが貼り付けられている。

それには、「沢木哲也」と書かれていた。

「―――まだ早い。アギトは、貴重なサンプルだ・・・!アギトを、殺してはならない。」

静かに、だが情熱がこもった声で沢木は言った。

「―――」

黒の青年は、ただその言葉を聴いていた―――



ジャキィン!

近寄ってくる三人を迎撃するため、翔一はその頭の角を展開する。

そうすれば、最大の威力で攻撃することが出来ることを、これまでの戦いで悟っていた。

「はぁぁぁ・・・はっ!」

空中で一回転して彼の体はきれいな飛び蹴りの姿勢をとった。

「はぁーーーっ!」

だが・・・

ガォン!

その一撃は、なんとかレッドハカイダーの腕を破壊したが、それで止まってしまった。

「何っ!?」

「おのれ・・・!」

レッドハカイダーの呻きを聞くか聞かないか、彼は自分のバイクに走っていた。

そして、バイクに乗るとその姿は形を変え、真の彼のマシンとなる。

「はっ!」

そして、それを彼は発進させた!

そしてそのころ、東京の病院で黒の青年は、病室の窓に手をかけていた。

「・・・・・・」

ぎぅん!

重い音が起き、そして窓が蒼い光を放つ。

青年はニィ、と笑うとベッドに腰を下ろす。

それを、何をしたかわからないという感じで、沢木は見つめていた。

カラモス前の戦場では、地面に突如紋章が浮き出し・・・アギトのマシンに乗り移っていた。

すると突然、ハンドルが利かなくなった。

「・・・!?」

そして、レッドハカイダーの破壊されていないほうの腕からミサイルボウガンが放たれる。

「ハッ!」

その弾丸をすんででジャンプして避ける。

瞬間、マシンが変形を遂げる。

まるで、スライダーかサーフィンボードのごとく姿を変えた。

「何っ!?」

だが考えている余裕はない。

そのスピードは、変形を遂げる前よりもさらに速い。

マシンの背に降り立つと、それは自分の意思どおりに動くことがわかる。

あっという間にそれは三人を飛び越し、そして向きを変えるとそれ以前にも増す拘束を発揮した・・・

「フ・・ウン・・・!」

今また、角が展開される。

そして、マシンが急制動を駆ける。

急制動から、自由発進した彼の体はきれいな飛び蹴りの体勢を作り、ミサイルのように三人のいる場所の中心へと突っ込む。

「ハァーーーッ!!」

グワッシャァァァァァァァン!

何かがぶち壊れるような音がして、シルバーとブルーの片腕とレッドの体の三分の一近くが破壊されていた。

キキキキィ!

アギトは、足で制動をかけ、ゆっくりと三人を振り向く。

「ぐあぁっぁっ!?」

「こんな・・・!!」

「ばかなぁぁっ!?」

三人はそれぞれに毒づく。

「退け!退くぞ!!」

レッドが促すと、何とか三人とも動くことは出来るのか、煙に掻き消えるように消えていった・・・

ハカイダー 3人衆が去るのを見届け、そしてマシンが変形をやめたのを確認すると、翔一は変身を解いた。

「―――ク・・・」

体がきしむ。

まさか、ここまで傷を負うとは・・・

そう思って倒れそうになったとき、自分の肩を支えるものがいた。

それは・・・

「君が、あの時の「アギト」だったんだね・・・」

悠子だった。

虚と同じように、我夢のサポートのために来たのだろうか・・・

彼女もまた、虚がイチローを助けたように、翔一の肩を支えていた。

「き、君は・・・?」

「喋んないで。君、相当ひどい怪我負ってるよ・・・私の母艦行かないと、家族の人悲しむから・・・」

そう言って、彼女はアンプルを彼の首筋にさす。

「ただの睡眠導入剤・・・しっかり寝て、起きたら傷もきっと治ってるよ・・・」

その言葉を聴きながら、翔一はゆっくりと眠りに落ちる。

「―――さて、これで私も虚も怪獣と戦えないね・・・どうしようか・・・」

彼女は困ったようにそう言うと、 1km位先だろうか、ゆっくりと形を成していく金属生命体の姿を凝視した・・・



プロノーン =カラモス 内水槽上ブリッジ

そこには、一人の男が立っていた。

それは、藤宮博也。

満身創痍の体を引き摺って、彼はようやくこの場へと到着していた。

「アグル・・・・っ!」

呻くように声を漏らし、彼はブリッジの柵を乗り越えようとした。

ドボン。

無造作に、彼の体は水槽の中に落ち込んでいった。

ここは、アグルの光が初めて現れた場所。

その光を再び求めて、彼はここへと現れていた。

―――アグルよ・・・地球の危機が運命なら、人類の危機が運命なら・・・

水槽のなかを落ちていきながら、彼はひとり考えていた。

酸素は少ない。

鍛え上げられた彼の体でも、後数分・・・

―――地球の意思に沿って生きていくのが、人類に残された最後の選択なのか・・・?

諦めと、悲しみと、そして強い決意が秘められた言葉が脳裏でつむがれる。

―――それを導くのが、アグルの力・・・!

――――アグルよ、再びお前の力を!!

藤宮が心で叫んだとき、それは再び光となって現れた!!



研究棟

「これは・・・!」

我夢が、モニタのなかの蒼い光を見つけた。

そして、それは徐々に大きくなっていく。

「これは、あの時の!!」

稲盛博士は、プラスチックシートを手に取る。

「間違いないわ・・・!」

モニタのグラフが異常な波形を見せ、そして水槽内観測用のモニタのひとつから、蒼い光はあふれていた。

やがて、そのモニタに・・・藤宮が、彼らのよく知る男が現れた。

「藤宮?!」

「藤宮君・・・?」

我夢は驚きの声、そして稲盛は信じられないものを見たときの疑問をあらわした声で言った。

「藤宮君!!」

そう叫んで、稲盛は部屋の外へと向かう。

――そうか、藤宮はここで光を・・・

我夢がそう思ったときだった。

ガドォン!

「うわぁっ!」

プロノーン =カラモスがゆれる。

何者かの攻撃であることは明白だった。

それによって、膨大な量の資料が稲盛博士に降り注ぐ。

「きゃぁっ!?」

「稲盛博士!!」

我夢が駆け寄り、上にかぶさっている紙や資材をよける。

「しっかりしてください、稲盛博士!!」

意識がなくなっている・・・

命に別状はないようだが、意識を失っている彼女を我夢は揺さぶった。

「ク・・・」

悔しそうに唇をゆがめ、我夢は外へ向かって走り出した。

カラモス前

裏の小さな通用口から、我夢は外に出た。

そこから見えた光景は、一種信じがたいものだった。

一度、アグルが倒したはずの金属生命体・・・アルギュロスが今まさに再生しようとするところだったからだ。

「生きていたのか!?」

―――キン・・・

一瞬、耳鳴りがして・・・我夢には、声が聞こえる。

それは、彼にしか聞こえなかったであろう。

はるか地下から響いてくる声は・・・

――――アグルーーーーーーーっ!!

それは藤宮の声。

そのとき、アルギュロスはその腕を振り上げハンドキャノンを作り出すと、カラモスへ向けて三発の砲弾を放った。

ドォン!

バシバシッ!

一発は、確かにカラモスの施設に直撃した・・・が、後の二発は空中で静止するように爆発する。

蒼い光が収束し・・・そして、砲弾が爆発したあたりにカラモスをかばうようにアグルが現れた!

「藤宮・・・!」

彼の言葉は聞こえていなかっただろう。

アグルは、その超能力で稲盛博士の無事を確認すると、怒りで身を震わせるように振り替える。

アルギュロスが、手を刃に変じ、駆けてくる。

アグルもまた、全力で地面を蹴り、疾走する。

『デュヤァッ!』

『キュウワァァァッ!!』

光を放ち、拳撃が蹴撃が応酬される。

アグルは、アルギュロスを持ち上げ、アルギュロスはそれをするりと抜け、巧みな攻防が繰り返された。

30秒ほど続けられたその演武は、アグルの放った裏拳をアルギュロスが止めることでいったん終わりを告げる。

ギリギリと、音を立てて巨人たちはその力を比べる。

その時だった。

アルギュロスが、禍々しい紫の光を放ち、変形を始める。

『ダァッ!?』

その姿は・・・

瞳の色暗く、体の模様も若干違う。

しかし、それは紛れもなくアグルの姿をコピーしたものへと変じていた。

『ヴッフッフ・・・』

不気味にその貌をゆがめて、アルギュロス・・・いや、偽アグルは笑った。

『フッ!?』

『ヴォワァァァッ!』

アグルに、偽者は正拳を放つ。

そして、戸惑うアグルをいいことに、次々と攻撃を当てていく。

『ヴッ!?』

そして、偽アグルに投げ飛ばされ、遂にアグルが膝をついた。

その膝をつき、息を上げる・・・しかし、まだ余裕が垣間見えるその姿を見て、我夢はその腕のエスプレンダーを掲げようとした・・・

しかし、アグルの手がそれを制する。

お前の手助けは要らない、こいつは俺の敵だ、とでも言うように。

「変身するな、というのか・・・?」

我夢の疑問に答えるはずもなく、アグルは叫ぶ。

『ダァッ!』

すっくと立ち上がると、アグルはさらに打ちかかろうと襲い来る偽者を見据えた。

そして、クルクルとドリルのように空へとジャンプする。

『ドォアッ!』

さっきのお返しとばかりに、上空から偽者に飛びつき、そのまま投げ飛ばす。

『デヤァッ!』

そして、間髪いれずに、腹へ三発頭へ二発、ムエタイ式の膝蹴りを食らわして、下手投げをつなげる。

さらに倒れた偽者に、『容赦などいらぬ』とでも言うかのごとく、肩と股座をつかみ軽々と持ち上げ、吹き飛ばすように投げた。

『ヴォゥワァッ!?』

偽者は、地面にたたきつけられると、さっさと立ち上がり、いらだつようにその腕を広げる・・・いや、これは!

リキデイター・・・アグルの必殺光線の構えだ。

バチバチ、とエネルギーが閃光をあげる。

見た目だけならば、ほとんど本家と同一のそれは、叫びとともに放たれる。

『ヴォワァァァァァッ!』

ドンドンドンドン!!

二発、三発、 4発とそれは放たれる。

アグルは仰け反り、倒れ、砂煙に消える・・・

だが・・・!

砂塵が収まったとき、力を誇示するように GUTSポーズをする偽者を揶揄するかのごとく、片膝をつき、頭をガードする格好でうずくまるアグルの姿が現れる。

『フン・・・!』

偽者など、眼中にない、とでも言うようにゆっくりとアグルは立ち上がり、挑発するように腕を偽者へと伸ばし・・・かかってこい、というジェスチャーをした。

『ズォキュワァワァァァッ!!』

怒り心頭の様子で腕を上と下に開いていく。

エネルギーが頭部へと収束を始めた・・・

それは、ガイアのフォトンエッジと似た技ということが我夢には容易に創造できた。

そして、それとまったく同じ動作をアグルは取った。

『フゥゥゥゥ・・・・!』

そして、光線が放たれる。

しかし、勝負は一瞬で決まった。

先に放たれた偽者の光線が、本物の光線にあっという間に駆逐され・・・

がががががががががっ!

ゴォォォン!!!

轟音を上げ、偽者は砕け去る。

それを見届けると、少し肩で息をつきながらアグルはゆっくりと光に溶けて消えた。

まさに、ワンサイドゲームだった。

―――パワーアップ・・・したのか・・・

「我夢・・・」

突然かけられた声に、我夢は振り返った。

大体予想はできていたが・・・

「君は・・・僕たちをも守るために・・・?」

それは藤宮だった。

だが、その姿には先ほどまでの疲労の色はまったくない。

「―――俺はアグルの聖地を守っただけだ・・・」

「アグル?・・・やっぱり、それが君の力・・・僕と一緒に戦おう!」

我夢の、懇願するようなその言葉を一蹴して彼は言った。

「我夢・・・お前は地球の意思に逆らっている。」

「人類を救うのが地球の意思だろ?」

我夢の言葉にただ淡々と、言葉をつむぐ。

「今の人類は・・・生態系の頂点に立つには自己中心的過ぎる!!世界を脅かす暗黒組織も、怪獣も!結局は利己的な人間の欲望が呼び出したものに過ぎない!!!」

「ただ、破滅招来体に滅ぼされればいいって言うのか?!」

「地球がそれを求めるのなら・・・」

その言葉に我夢はとがめるように叫んだ。

「君は!人が死ぬ悲しみから目を逸らすのか!?」

ピーピー!

と、その時、我夢の XIGナビが呼び出し音を鳴らした。

『迎えに来たぜ、我夢・・・そこの男によろしくな。』

それは、虚だった。

意味ありげな言葉もそこそこに通信が切れると、向こうで虚と悠子が見覚えのない男たちを寝かしながらこっちを手招きしていた。

「行けよ。お前の仲間のところに。」

―――冷たく言い放たれたその言葉に憮然としながらも、我夢は小走りに虚のほうへと走り去る。

中から出てきた稲盛博士に、何故か虚が持っていたリリーのケイジを渡すのを見つめながら・・・一瞬だけ目が合った稲盛博士の視線をかわすように、藤宮は森の奥へと姿を消した・・・



―――その後。

エリアルベース、艦橋にて。

セイバーエリアルベース班の面々と、そしていつものブリッジメンバーがそろっていた。

「新メンバーを紹介しよう。入ってくれ。」

石室が厳かにそう言った。

心なしか疲れているように見えたのは気のせいだろうか。

ぷしっ、と音がして二人の男が入ってきた。

「どうも!津上翔一です!よろしくお願いします!」

「イチローです。よろしく。」

・・・やっぱり、というかあの二人だった。

「津上君は、一応一般人なので地上班所属だが、少し事情が特別なので別働隊・・・ということで彼の住んでいる家を本拠として活動してもらうことになる。」

石室がそう言った。

「イチロー君は、光明寺博士が M計画の初期に作り出した人造人間だ。地上班とエリアルベース班の橋渡しとして活躍してもらいたい。」

「特訓とかそういうのは苦手ですけど、みんなの居場所を守るためにがんばります。」

「正義と平和と自由のために、一緒に戦いましょう!」

二人の決意表明を聞きながら、虚は耳を済ます。

オペレーターズの軽口が聞こえる。

「ねぇねぇ、ちょっとかっこよくない?」

「う〜ん・・・私の好みじゃないワ。」

そうした声を聞きながら、石室は・・・やっぱり少し疲れていた。

まぁ、実際のところは翔一の説得に時間がかかっただけなのだが。

―――普通、一般人が軍属になるのには正式な命令が必要だが、彼の場合戸籍がないのでそれもできない。

しかし、アギトの力を持つ彼の存在を認識した以上、放置もできない・・・

なら、残るのは説得して、最低でもいつでも連絡できる状態に持っていくことだけだった。

「あれ?どうしました?疲れてるなら・・・じゃぁ〜ん!翔一特製スペシャルドリンク!」

そういって彼がどこからか取り出したのは、黄色い色をした・・・

ぱっと見、栄養ドリンクにしか見えない液体の入ったビンだった。

「げ。ちょっと勘弁してよ・・・」

エクセレンがうんざりしたようにつぶやいた。

電も、どこかいやな顔をしている。

まぁ、もちろんほかの人たちは呆れているのだが。

「どうしたんだ?エクセレンさん、電・・・」

「いえ・・・フーマと戦っていたころに ATXチームにいた娘が、栄養ドリンクをよく作っていたなぁ・・・って。」

うんざりした苦笑を浮かべて、電は言った。

「どうですか?コマンダーさん。」

「・・・わかった、もらおう。」

そういって、そのビンを受け取る。

「・・・ん、これは効きそうだな・・・」

石室が漏らした言葉に、翔一は「えっへん」と言ってしまいそうな風情で満足そうに笑った。

それに対し、イチローがとがめるように、「いい加減にしないか」と言った。

「あれあれ、おかたいんですねイチローさん?」

「ハハ、性分でね。」

とがめるのかと思いきや、一転談笑を始めた二人に虚は笑みをこぼす。

「―――力が、集まってきている。だが、もっと大きくならなければ・・・」

虚がつぶやいた。

「この地球を、終わらせないために―――」

跡を継いだ、悠子のつぶやきは、会話に加わったパットやエクセレンたちが起こす喧騒の中に消えていった・・・



暗闇の中。

二人の男が話していた。

「まさか、失敗・・・とはな。それも、全員が負傷し二体の人造人間を失うとは・・・」

一人は銀・・・ネロス帝国のクールギンだ。

「フン・・・帝王様の言った期限にはまだ遠いはずだ。」

もう一人は、ギルハカイダー。

「―――まぁ、そうだ。しかし、帝王は次の任務にお前を投入する腹積もりだ。そこで・・・」

「何者だ、こいつらは?」

もう一組、銀と黒が現れる。

そして、赤と白。

銀のロボットは拳銃、黒はスナイパーライフル。

白は剣で、赤は手ぶらなのがわかった。

「戦闘ロボット軍団の腕利きだそうだ。彼らと協力し、超人機の復活を阻止せよとの仰せだ・・・」

「確かに承った。そろそろ、ゴーストバンクに我々のための施設も出来上がることだ・・・存分に働いて見せようぞ。」

―――闇が落ちる。

再びの危機も間近である。

そのこと告げるように、闇が深く落ちた・・・・

続く。







次回予告

人はなぜ戦うのか。

なぜ、人は悲しみをばら撒くのか。

戦いの中滅びた種族の幻影が、人を襲う。

優しき獣が、光の手の中彼らを導く。

かつて、星を救うために異星より降り立った戦士は、今何を思うのか。

それは、涙か、血か、それとも。

異界のごとき、幻想の庭で、スーパー GUTSが、ウルトラ警備隊が見たものとは・・・

次回、スーパーヒーロー作戦 SPIRITS

「幻の遊星」

魂より継がれし物語、今こそ語ろう・・・





あとがき

特に今回は何もありません。

秋子さん「―――眠いんでしょう?隠しても無駄ですよ?」

ええ、眠いです・・・

それこそ、冬眠に入りたいくらい。

つうわけで、一月半ぶりに出来上がった魂、お楽しみいただけたでしょうか?

ボリュームも、これまでで一番分厚く、私はお楽しみいただけたと思っているのですが、どうでしょう?

秋子さん「次回は、セブン初登場、そしてかわいさ爆発ハネジローくんの登場です。お楽しみに。」

ハネジロー「ぱむ〜〜」

ははは、こんなところ来てないでアスカと一緒に遊んでろよ、おまいさんは。

ハネジロー「ぱむ〜〜〜! (次回は僕が活躍するよ、お楽しみに!)」

おっす、そしたらまた!

秋子さん「次回もこの番組で・・・」

ハネジロー「ぱむっ! (会いましょう!)」

シュワッチュ!!



PS.ブレイド映画、Y殿とのオフ会で見てきました。

いずれ、レポート書きます。

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