調べられる側は、調べられたいとなどひとつも考えていない。

調べる側が、その傲慢を「調査」と尤もらしく飾っているだけだ。

――――――――――――――ネオフロンティア時代初期の名も無き詩人



虚空を進む、一隻の宇宙船・・・

ネオマキシマエンジン搭載の、亜光速艇だ。

ネオフロンティア時代・・・

新たなる、開拓の時代。

すでに一部の人間にとって、太陽系は数日で端まで訪れることが可能な距離となっていた。

そう、人類は太陽系圏全てを資源地帯として利用できるようになるまで、もう一歩の位置まできたのである。

しかし、それが人類の存続に必要なことであるとはいえ・・・かつてとある国が行った西方侵略と、そしてある大半島の国々が行った行為と似た行為を行っていることに多くの人が気づかないでいた。

先住民が太陽系内には、ほぼいないことがわかっていても・・・それが許されることなのかどうか、わからない時代。

それが、ネオフロンティア時代のもうひとつの側面だ。

しかし・・・この船の主はそれに気がついている者の一人のようだった。

艇は、ひとつの巨大な衛星・・・メラニー遊星と名づけられた彷徨える星に降り立とうとしている。

「―――これは・・・」

中年・・・にもまだ少し早いだろう男が、感嘆したように言葉を漏らした。

「これほどの自然が、こんな外惑星宙域の外れに・・・?」

正面に映し出された巨大なパネルには、まるで信州の森のような豊かな自然が映し出されていた。

その時、微かな駆動音とともに、艇のハッチが開き・・・そこから、一台の調査ロボットが放出される。

その性能は、今世紀初頭に某大国が降下させた火星探査機に比して、優に100倍以上の性能を持っていた。

「12号機・・・射出を確認。サンプルを入手・・・サンプルを回収。観測機固定完了。ハッチを閉鎖。」

「了解。」

女性のオペレーターと、それに答えるG.U.A.R.D.隊員の言葉が響く。

同時にハッチが閉じ、艇は上昇を始める。

―――こんな不気味なところに長居は無用。

そんな声が、男には聞こえた気がした。

少なくとも、そう考えるのが当然な気がした。

眼下の自然は・・・それだけ、不自然だったのだ。

しかし、誰も気がついてはいなかった。

閉じられたハッチに侵入していた、何者かを・・・



事の発端は一ヶ月前。

太陽系第十番惑星・・・冥妃星プロセルピナの衛星・・・ヴァルキューレと呼ばれる、小天体付近に遊星が出現した。

ヴァルキューレ自体は、無人探査機の報告を検討した結果、知的生命体の存在・・・かつて、地球が調査したアンノンという外宇宙の星系からやってきた岩石寄生生命体と似た生命の存在がアルケミースターズから示唆されたため、不可侵宙域に指定されていた。

そして・・・突如出現した遊星に対し、急遽、第六ムーンベースから調査隊が派遣されることとなり・・・基地司令フルハシシゲル参謀がその指揮を取っていた。

そして・・・その調査の前段階は終わり、艇はすでにメラニーの大気圏を離脱し、地球への帰路を取っていた。

「電源システム作動確認完了。」

「通信モード設定完了・・・」

「全段階、システムオールグリーン。メラニー遊星からの電波発信を確認しました。」

「オペレーション、オーバー・・・無事成功です!」

隊員たちから、作業の終了がしめやかに通知される。

それを聞き、男・・・第十六ムーンベース司令フルハシは満面の笑みを浮かべた。

「いやぁ・・・みんなご苦労だったなぁ!」

操縦席に腰を下ろす中年と青年の肩をたたき、フルハシはその苦労を称えた。

中年の男が口を開く。

「参謀は・・・これが最後の任務と伺っております・・・早過ぎはしませんか?まだ・・・私と同じくらい・・・40になったばかりと・・・」

「ああ、そうだよ・・・でもなぁ・・・ネオフロンティア計画に、そう意味を見出せないんだよ。侵略者を呼び込んでいるような気がするんだ。だから・・・」

「カジ参謀やゴンドウ参謀に、疎ましがられて・・・というわけですか・・・まったくタカ派の連中は・・・特に、カジ参謀は二代目ウルトラ警備隊の中核だった方じゃないですか。太陽エネルギー作戦妨害の阻止、メトロン星人の地下都市の破壊にも活躍したのでしょう?なのに・・・」

その言葉に、一瞬フルハシは悲しそうな貌をする。

しかし、すぐにその貌を笑みの形にして言った。

「そういうなよ。あいつにも考えがあるのさ・・・きっと。まぁ、故郷で土でも耕して・・・ゆっくりするさ!」

「ネオマキシマ、回路接続・・・亜光速航行に入ります。」

フルハシの笑いと同時に、オペレーターが言った。

サーキットが動き出し、エンジンが全開する。

そして一瞬で加速が開始され、艇は棒のように延びる残像を残して亜光速へ数分で達する。

「どうかしたんですか、フルハシ参謀・・・?」

航行の最中、歯を食い縛って冷や汗を流しているフルハシを見て、男はそう言った。

「いやぁ・・・おらぁ亜光速ってやつが、苦手なんだよ!・・・目が覚めたら、船が止まったら、おらぁとんでもなく年をとってるんじゃないか、故郷に帰ったら俺の知ってるやつぁ誰も生きちゃいねえんじゃねぇか・・・ってそう思っちうまうんだ。」

フルハシは、急加速が終わったのを確認するように息を吐いて、そう言った。

「まるで浦島太郎ですね。」

「ハッハッハッハッハッハ!・・・そう、俺たちはどんな精巧な時計でも図ることのできない時を、今、旅しているのかもしれないな・・・!」

茶化すように言ったオペレーターの声に呵々と大笑し、フルハシは考えるようにその言葉を言った。

地球まで、あと40時間・・・

だが、艇内に暗黒の使者が息を潜めていることを・・・彼らはまだ知らない・・・!



スーパーヒーロー作戦SPIRITS
第二十二話「幻の遊星」
寄生生命体ヴァルキューレ星人
破壊獣モンスアーガ
迷子珍獣ハネジロー 登場



―――旧TDF極東支部・・・現G.U.A.R.D.ウルトラ警備隊本部

そこには、どこかのどかな空気が流れていた。

確かに、ウルトラ警備隊はかつての極東動乱で重要な役割を果たした部隊である。

特にウルトラホーク1号は、GUTSイーグルの設計的な前身とも言える機体で、その優秀性と汎用性は現在でも多くの戦闘機の追随を許していない。

しかし・・・

やはり、凶悪な侵略者、怪獣の脅威を前にそれらは旧式化していた。

近代化改装によって相当改善されたとはいえ、ウルトラホークではGUTSイーグルにかなわない。

新しい、より強力化した異星人たちの侵略には抗し得ない・・・

それが露見したのが、5年ほど前に起きた・・・旧TDF最後の対異星人防衛活動となったある事件であった。

その事件の最後で事実上、フルハシ隊長(当時)が率いていた二代目ウルトラ警備隊は、フルハシとカジ隊員(当時)を残して壊滅・・・

異星人の侵攻は辛くも撃退したものの、である。

すぐさま三代目警備隊が組織されたが、その後の装備改変、アルケミースターズの警告に基づくG.U.A.R.D.結成、などに振り回され・・・

昨年起きた、「太陽の背信」事件を、再度現れたウルトラセブンとともに解決したものの多大な被害を受けてしまっている。

当然、根源的破滅招来体との戦闘にも参加したくてもできず今までくさっていたが、ようやく予算が下り、行動が可能な状態になっていた・・・

その時、三代目警備隊の知恵袋、ミズノタクマ隊員は車両格納庫でウルトラ警備隊の専用車・・・ポインターの整備を行っていた。

「・・・これでよし!あ、ありがと。」

ポインターの下から体を出した作業服姿のミズノを、ウルトラ警備隊の制服を着た男が助け起こす。

警備隊一番の若手、カザモリマサキ隊員だ。

「これで、水の上は無理でも陸上ならどんなところでもばっちりだ!」

「では、定期パトロールに出かけます!」

ミズノが整備の万全さを強調するのを聞き、頼もしく思ったカザモリはこぶしを握り締め力強く言った。

「ステアリングは私に任せて?ちゃんと試乗テストしてきてあげるわ?」

「そぉんなぁ・・・命がいくつあっても足りませんよ!」

そんなカザモリに茶々を入れたのは、一緒にいたハヤカワサトミ隊員だった。

彼女は、スーパーGUTSのリョウ、XIGのチームクロウのメンバーと並ぶ特捜チームの女傑である。

カザモリは、この女性の運転や操縦といったものがどれだけ荒っぽいか、身に染みて知っている一人だ。

「もう、カザモリ君?!」

「・・・いい加減その、君、ってのやめてくださいよ、君は・・・」

「はい!わかりましたカザモリ君!」

会話は続く・・・が。

・・・完全に遊ばれている。

そのことを悟って、カザモリは反論するのをあきらめてため息をついた。

正直、いつになったらこの女性に認めてもらえるのだろうと彼は少し肩を落とす。

と、そのとき、軽い電子音とともにポインターの通信機からホンジョウルミ隊員の声が響いた。

彼女は、主にオペレーター任務についている。

三人ともがポインターに駆け寄り、画面を見つめる。

『―――今、第六ムーンベースから報告が!フルハシ参謀がお帰りになられたそうです。』

「ラストオペレーションからのご帰還ね!」

「―――ネオフロンティア計画の最前線に、フルハシ参謀のような引退間近の方が駆り出されるなんて、おかしいですね・・・」

サトミの声にミズノの疑問がかぶさった。

「もう・・・そんなこと言って!確かに、フルハシ参謀はシラガネ隊長と同い年で、引退には絶対早すぎるけど・・・仕方ないじゃないの!長い間ご苦労様でしたって、素直にいえないんですか!?」

サトミの怒りに、気まずい顔をするミズノ・・・

それを尻目に、画面の中のルミは「私だったら、言葉より何か心のこもったプレゼントがほしいなぁ」と能天気に言っていた。

「なるほど・・・そうね、パトロールのついでに、フルハシ参謀へのプレゼント買っちゃいましょうか!」

サトミの言葉に、ルミのうれしそうな声も重なる・・・

そして、バタンとポインターのドアが閉められる。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよサトミ隊員!!拙いですよ!!」

「うるさい、黙ってついてくればいいの!」

あわてて車内に入ってきたカザモリを一喝すると、彼女は思いっきりアクセルを踏み急発進した。

「あぁぁぁぁぁあああ!!!無茶すんなよぉぉぉぉぉっ!!」

ミズノ隊員の絶叫が、いつまでの格納庫に響いていたという・・・

無論、彼が内心整備をやり直すことを覚悟していたことは言うまでもない。



―――数時間後

結局、ショッピングには何時間もかかってしまった。

悲しいくらいに、カザモリは憔悴している。

理由は・・・後述する。

彼らは運転をカザモリが変わり、本部への帰路を急いでいた。

「ホントに割り勘・・・ですからね。」

「何?これのこと?」

カザモリが自信なさげに出した言葉に、サトミはそういって笑った。

結局、かな〜り高級な店で、腕時計を買うことになってしまったのだ。

・・・いわゆる、給料の三か月分です。

しかも、エリート部隊(のはず)のウルトラ警備隊の給料の三か月分です。

どんな値段かは推して知るべし。

正直、ウルトラ警備隊の大先輩であるフルハシには安いかも、と少し思ったが・・・

そんなことを換算しても、今のカザモリにこの出費はきつかった。

「さーて、どうしよっかなー?」

「ど・・・いや、たのんますよ!」

ああ、またもいじられるカザモリであった。

ぴぴー。

―――その時のことだ。

ポインターの通信機から、警備隊副隊長シマの怒声が響いた。

『お前らどこほっつき歩いてるんだ!大至急本部に戻って来い!!』

「ちょっと、そういう言い方はないじゃない。私たちは、フルハシ参謀へのプレゼント買う、って言う大事な任務があったんですからね。ねぇ?」

サトミの、女性らしい受け流しにカザモリが苦笑する。

―――だが、シマの顔は、いらだつように・・・あるいはそれを悲しむように歪む。

『TPC第六ムーンベースからの連絡が途絶えた!フルハシ参謀もそこに居られるはずだ!!』

「「!?」」

『わかったら急げ!!』

シマの怒声が木霊する。

―――彼らに・・・

ウルトラ警備隊にとっての新たなる戦いが始まろうとしていた。



―――第六ムーンベース

そこは・・・まさに地獄絵図だった。

大小の爆発が空を彩り、そして内部では隊員同士が殺しあって・・・いた。

二挺の拳銃を持った男が、二人の男に近づいていく・・・

同じ服装をした男だ。

安心したように、その手のショットガンを下ろす男たち。

だが、二挺拳銃の男はためらいもせずに彼らに銃弾を放つ。

そして、その銃弾を受けた男たちは、信じられないという顔で銃弾を男へと放つ。

三人とも、倒れた。

似たような光景が基地中に広がっていた。

隊員がいる、それを仲間だと思い、近づくと・・・ズドン。

そして、その仲間も倒れると・・・別の人間が同士討ちを始める。

筆舌に尽くしがたい緊張と、骨肉相食む地獄の戦場が基地内に現出していた。

その、ある一室・・・

一人の男が通信機へと叫んでいた。

「―――エリアルベース!エリアルベース!?こちらTPC第六ムーンベース!!応答願います、応答願います・・・!くっ!」

―――すでに、侵入者の・・・いや、彼の仲間の手によって通信設備は破壊されていた。

自分の行為が無駄と知り、彼は手元のICレコーダーに手を伸ばした。

「―――第六ムーンベースは月面時間二三:五九、敵の侵略を受ける。その数・目的・正体は不明・・・」

―――そこまで言ったときのことだった。

暗い暗い影の闇から、異形の影が飛び出して・・・

彼は、自殺、した。

苦悶の、表情の、まま。

まるで、何かに、憑かれたように。



―――格納庫

三人の若い隊員を前にフルハシは立っていた。

「参謀!参謀早くご乗船ください!!」

眼下には・・・三人乗りの脱出艇の姿が見える。

―――この基地に残っている最後の脱出艇だ。

「俺は良い!お前たちこそ脱出しろ!!」

フルハシは直立不動でそういった。

「いえ!自分たちにはムーンベースを守る義務が・・・」

「基地は再建できる!!だが、お前たちの命は掛け替えがない!!わかったら早くしろ!!」

フルハシは叫ぶ。

「参謀をお守りする義務も・・・」

「ええい!早くいけぇ!!」

フルハシの体を強引につかもうとした隊員をフルハシは見事な一本背負いで吹き飛ばした。

「がはっ?!」

「参謀!?」

「何をもたもたしておる!!早く行け!!」

拳銃を構えて、フルハシは叫んだ。

呆然と、それを見る隊員たちに、もう一喝する。

「―――早く、行け!!」

その言葉に、何度も頭を下げ、そして・・・脱出艇へのハッチの前で、隊員たちは敬礼をした。

見事な返礼をして、フルハシはそれを見送り・・・

そして、最後の戦場へと、その足を進めた・・・



「―――出て来い、卑怯者!!」

フルハシの叫びが、無人となった基地の中で響いた。

拳銃を構え、火花や爆発・・・そして薄くなっていく空気と格闘しながら慎重に彼は進んでいった。

「このフルハシシゲルが相手になってやる!!出てきやがれ!!」

―――果たして、その言葉に・・・

それは、現れた。

ひとつの影が、現れ・・・そして。

「ぐ・・・ぐぁ・・・」

影の触手がうごめく。

すると、フルハシの手はまるで自らの意思を離れたように、掌の中の凶器を自らに向け・・・

パン

乾いた音がひとつ、虚空を裂いた。



爆発するムーンベース。

その上空に、ひとつの・・・火の玉が現れる。

それは一瞬で光へと還元され、その中から赤い巨人が現れた。

ウルトラセブン。

過去の極東動乱において、ティガの巨人ウルトラマンティガとともに異星人や邪神と戦ったM78星雲の超人である。

10年前・・・モロボシダン・・・薩摩次郎という勇気ある炭鉱夫の姿を借り、そう名乗った恒点観測員340号ウルトラセブンは、ウルトラ警備隊6番目・・・そして7番目の仲間として地球にとどまり戦い続けた。

史上最大の侵略作戦の阻止、そして邪神ガタノゾーアとの戦いで力を使い果たし故郷へ帰った後も、フルハシ隊長時代に2度、現在のシラガネ隊長の代になっても3度現れ危機を救っている。

その彼がここに現れたのだ。

彼は、その力で肉体を縮小すると・・・ムーンベースの中へと入っていった・・・



―――なんだ、これは・・・

セブンは、その惨状に絶句した。

死体のひとつを見据える。

彼の優れた視力と洞察力は、それを間違いなく自殺体であることを見抜いた。

―――自らの命を・・・何故だ・・・?

しかし、疑問を心にしまい、生存者を探すために立ち上がる。

そうして、奥へと進んでいく・・・

爆発が起こる。

そのさなか、脱出艇の発信する音と思しき轟音が彼の耳に響く。

更なる生存者を救えるのは、自分しかいない・・・

―――やがて、ひとり、そう・・・たった一人、まだ動く肉体を見つけたのだ。

それは、そうそれは、彼にとって考えたくないたった一つの―――

赤の超人は、その姿を変え・・・ひとりの地球人の姿へと変じる。

彼こそが、モロボシダン。

ミラクルマンのナンバーを持つ男だった。

そして、彼の目の前に倒れている男は、間違いなく彼の旧友フルハシだった。

「―――フルハシさん!」

彼を助け起こし、その手からリライブ光線・・・生命の活動を促進する光線が放たれる。

だが、もう彼には物も見えていないようだ。

「フルハシさん!僕だ!わかるか!?」

「ダン・・・少し良くなった・・・けど、お前の声もだんだん遠くなる・・・」

「何が・・・何があったんですか!!」

もはや、彼の力も届かない・・・命数は尽きた。

「わからない・・・だけど・・・」

フルハシはその声を細らせながらつぶやく。

旧友へ託す、思いを込めて。

「―――感じた・・・ゾッとするような・・・冷たい心を・・・」

途切れ途切れの声が、冷たい死を・・・すぐ到る避け切れぬ別れをダンに感じさせた。

「フルハシさん・・・!」

「ダン・・・!頼むぞ・・・俺は・・・・・・感じた・・・・・・お前の・・・・・・・・・・暖かい心を・・・・・・・・・・・・・・」

力が、抜ける。

冥い死が、フルハシに降りかかる。

「フルハシさん!」

ダンにとって、大切な友人の命の火が、今消えた。

「フルハシさん!!」

絶叫が。

「フルハシさん!!」

悲しみの、異星の戦友を失った悲しみの。

「フルハシさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

絶叫が木霊した・・・・・・



―――十時間後・・・アイドネウス島

「ひどい・・・な。第六月面基地の生き残りが、こんなことになるとは・・・」

「同士討ちか・・・」

豪奢な金髪の男と、白髪の男が・・・そう、命を賭してフルハシが送り出した脱出艇の残骸・・を見つめていた。

酷く破壊され、見る影もない。

―――そのそばでは、調査隊が乗組員の遺体を死体袋ボディバッグに入れて運んでいた。

「うむ・・・どうやら、乗組員以外の生体反応は、記録機にも残っていなかった。残された映像を見るに、突然錯乱したとしか思えん。」

そう言って、彼はゴーグルを外す。

「ふ・・・未知の生命体の可能性と、反乱の可能性・・・どちらを選択する?」

「・・・まさか、フルハシ殿が・・・?それだけはあるまい。クーデターなぞ起こすくらいなら、もっと平和的な手段をとる方だ。」

白髪の男は、すっくと立ち上がると踵を返す。

「―――レーツェル。どうやら、俺は極東へ赴かねばならぬようだ。」

「そうか・・・しばしの別れ、か、わが友よ。」

レーツェルと呼ばれた男の、その言葉を聞くと彼は、ふ、と笑って歩を進めた。

―――このような所業を行うもの、行わせたもの・・・

それが、たとえ人間であろうと、異星人であろうと・・・

彼の心がそれを許さない。

彼の足は、司令部へと向いていた。

おそらく、ビアン博士は許可なされるだろう。

それを考慮に入れ、彼は足を速める。

「―――許さんぞ・・・我が名に賭けて、必ずや成敗してくれる!」

白髪の男、ゼンガー=ゾンボルトは怒りを抑えながらも、そう心の中で叫んだ。



―――同島・・・第七格納庫

そこには、脱出艇の残骸が安置されていた。

更なる調査を行い、原因究明を行わなければならない。

そのために、ここへ運び込まれ、すでに綿密な調査が行われた後だった。

「―――敵もさるもの・・・か。このような手を打ってくるとは。」

レーツェル・・・謎の男レーツェル=ファインシュメッカー大佐は愛用のゴーグル越しに、脱出艇を見ていた。

敵の目的は明らかだ。

どのような方法を使ってかは不明だが、G.U.A.R.D.、TPC・・・ひいては人間同士の不和を引き起こそうというのだろう。

もし、故意に人間を錯乱させ、操ることができる力を持つものがいるとしたら、それも不可能ではない。

かつて、メトロン星人が行った赤い結晶入りのタバコのことを思い出した。

ETF残党の線も捨てがたいな・・・

あるいは、例の敵か・・・それとも、例の敵に唆されているのか・・・?

レーツェルはそこまで考えると、踵を返して司令部への道を歩き出そうと、した。

瞬間、彼はゾクリとした。

「何者だっ!?」

彼は懐から銃を取り出すと、それを気配に向けてかざす。

「・・・!」

ジリジリとした嫌な空気が舞う。

・・・しばし、気配と対峙する。

それも一瞬のこと、気配は黒い異形の影を成し、彼を襲わんと触手を伸ばす。

だが、その時。

一人の男が、突然飛び込んできた。

「退きたまえ!死ぬぞッ!!」

襤褸切れをまとった白人の男性は、そう叫ぶと影とレーツェルの間に入る。

「―――退け、哀れなるもの!」

そう言って、彼はその胸に掛けている美しいペンダントを掲げる。

瞬間、光が弾け・・・

そして、影が跡形もなく消滅していくのが、レーツェルにも見えた。

「―――貴方は・・・」

彼は、その襤褸を纏う男に覚えがあった。

「僕を・・・知っているのか?」

「知らぬはずがない。アストロノーツの経験を持つものならば。火星極冠基地の殉教者殿。」

その言葉に、男は、ふっと笑う。

「そんな大したものじゃぁない。皆が僕をそう仕立てただけさ。実際の僕は、親友も守れなかった臆病者に過ぎない。」

―――彼はそう言った。

「ジャック=シンドー・・・貴方がここにいることには、何か意味があるのですか?それも、13・・年前・・の姿のまま・・・!」

ジャックは、レーツェルの言葉には答えず、代わりにこう言った。

「―――光の、宇宙の意思さ。」

それだけ残して、彼はまた風のように去っていった。

彼らしくなく、あっけに取られながらレーツェルは思った。

―――まるでトロンベだな、と。

その言葉は、ドイツ語で竜巻を意味していた・・・



―――ウルトラ警備隊、司令室

司令室は、重苦しい沈黙に包まれていた。

第六月面基地の壊滅、そして近傍の基地へ救援を求めず、地球へ向けて発進した脱出艇。

現在、墜落したアイドネウス島で調査が行われているが、正直目立った成果が出るとは思えない・・・

基地司令でもある、テスラ研のビアン博士がどう判断するかだが、下手を打てばフルハシ参謀に反乱の嫌疑がかかる可能性もある、とカジ参謀から聞かされていた。

しかも、まるでそれを望むかのように。

ルミの手の中の・・・フルハシへのプレゼントが悲しかった。

誰もが押し黙り、それでいて誰もが針で突付いたら破裂してしまいそうなくらいに張り詰めていた。

その雰囲気に穴を開けるように、ミズノ隊員が入室してきた。

「―――アイドネウス島から連絡がありました。やはり、乗組員以外の生体反応は感知できなかったそうです・・・」

そう言って、肩を落とす。

「第六ムーンベースは?!」

「残念だが・・・フルハシ参謀の遺体は確認できなかった。」

「外部からの攻撃は!?」

「外部からの攻撃も・・・確認されていない。」

ミズノは口角泡を吹いて・・・ウルトラ警備隊隊長シラガネに食って掛かった。

だが、それに返されたのは、押し殺したような声音で語られる事実だけ。

「―――内部テロの可能性が高い。・・・そういうことですね!?」

シマ副隊長は、噛み砕くような声音でそう言った。

「クーデターの可能性も・・・」

「でも!ビアン博士の見解は・・・」

「シマ!ミズノ!!」

シマとミズノの声に制止をかけ、シラガネは壮年の体を振るわせ叫んだ。

「しかし!G.U.A.R.D.部内では噂になっています!ネオフロンティア計画に消極的なフルハシ参謀が・・・」

「どういうことですか!!」

「フルハシ参謀がクーデターを企てているってでも言うんですか!?」

シマの疑念に、カザモリとサトミが声を上げた。

しかし、それをシラガネは押し殺したような声で嗜めた。

「いい加減にしないか・・・!たとえ消極的だったとしても、あの人がそんなことするわけがないじゃないか・・・!」

「そうとも言えんな。」

シラガネの声をさえぎるように、声が響いた。

入室してきたのは、鋭い瞳を持つ青年だ。

「カジ参謀・・・」

シラガネが、驚いて目をむいた。

「シラガネ隊長。命令が下った。ウルトラ警備隊は、隊員より2名を選抜。スーパーGUTS、XIGと共同しメラニー遊星の調査へ向かうこと。以上だ。」

何の感慨もなく、カジは淡々とそう述べた。

冷たい感じのする男だ。

「カジ参謀・・・警備隊不要論を唱える貴方が、なぜここに・・・?」

「ふん。私とてこんなところに来たくはない・・・シラガネ隊長、今度の事件は、G.U.A.R.D.の体質を改善するのに役に立つと思っている。そのためなら、私はフルハシ参謀に人柱になっていただく心積もりだ。」

「な・・・!我々はフルハシ参謀に育てられたようなものです。それを・・・」

「時代が変われば、システムも変わる。異星人だけではなく、根源的破滅招来体まで現れた今となっては、警備隊のような組織はいたずらに調査を長引かせるだけだからな。」

そういうと、カジはシニカルな笑み・・・いや、侮蔑の色がたぶんに込められた嫌な笑みを浮かべる。

「ふ、まるで君たちとフルハシ参謀は、子供と父親のような関係だな。」

無表情に戻して、カジはそう言った。

カザモリが耐えられずに叫ぶ。

「―――!フルハシ参謀が父親なら!その危機を救うのは子供の役目でしょう!!貴方も元警備隊なら、俺たちの気持ちがわかるはずです!」

「手ぬるい!!そんな感情論で地球の平和は守れん!!・・・まぁいい。早急に選抜し、TPC極東支部へ向え。それだけだ。」

その言葉に、カザモリは怒りを抑えながら言った。

「貴方は・・・フルハシ参謀が本当にクーデターをしでかしたとでも・・・」

「思って悪いのかね?全地球的な計画であるネオフロンティア計画に反対する、前大戦の遺物に対して、だいぶ的確に捉えていると自負しているのだがね。」

「なにぃ・・・!?」

激昂し、カザモリはカジに掴みかかろうとする。

それをサトミとミズノに抑えられ、そして・・・サトミもまた激昂する。

「―――フルハシ参謀は・・・!フルハシ参謀はそんなお人ではありません!!」

渾身から出でたその言葉は司令室に響く。

だが、カジはサトミのその言葉を、「参謀のことなら、私のほうが知っている」とだけ返し・・・

すぐに部屋を出て行った。

―――重苦しさは、さらに増し・・・

シラガネが、カザモリとサトミに極東支部へ向かうよう伝えると、司令室はまたもとの沈黙を取り戻していた・・・



―――カジの回想

爆炎のなかに、彼らはいた。

――――隊長!我々はまだ戦えます!追撃の・・・命令を!!

―――――作戦は終了した・・・見ろ、侵略者が撤退していく・・・

フルハシは、押し殺した声で、そう言った。

――――しかし!しかしまだ・・・敵を壊滅させるに至っていません!!

爆発は、断続的に続いていた。

カジは・・・ヘルメットを・・・自分以外の誰かの、警備隊専用のヘルメットを握り締めて、そう言った。

―――――俺たちは戦争しているわけじゃないんだ!愛するものたちを、侵略者の手から守ってやれれば・・・それでいいじゃないか。

彼に振り返り、フルハシは悲しみを抑えて、言っていた。

――――生ぬるい!生きるか死ぬか・・・倒すか、倒されるか!それがエイリアンとの戦いです!!やつらが・・・再び巨大な戦力で、襲ってきたら・・・我々は無力です!!

―――――もういい!作戦は終了した!!これ以上の犠牲を出す必要はない・・・

フルハシの言葉にも悲しみが見え・・・そしてそれ以上に、司令官としての非情さも見えた。

――――そんな・・・そんな弱腰では・・・!

腕の中の、戦友のメットを差し出して叫ぶ。

叫ばずにいられなかった。

――――犠牲を、増やすばかりです!!それを学びました!!

叫びは、虚空を裂いて、また爆発が空を彩った・・・

時に、2020年晩秋。

二代目ウルトラ警備隊が、壊滅した日のことであった・・・

フルハシ参謀・・・もう貴方に遠慮する必要はない・・・歴史が証明してくれます。私が正しかったことを・・・!

現在のカジは、その回想をその言葉で振り切り・・・自分の信じた方法の実現を、心に誓った・・・



―――TPC極東支部・スーパーGUTS司令室

TPC参謀ミヤタは、スーパーGUTSのメンバーを前に、プリーフィングをはじめようとしていた。

「―――この映像は、第六ムーンベースの観測艇が撮影したものだ。」

画面に映し出されている、森林地帯を前にミヤタはそう言った。

「まさか、この森林地帯は外惑星の?」

マイがそう疑問を呈するが、「もちろん違う」とミヤタが返す。

当然だ。

なぜなら、ガス惑星である木星・土星・天王星・海王星のみならず、極寒の冥王星・冥妃星、そしてその衛星群もまた、生命の維持に耐える環境ではない。

唯一、衛星ヴァルキューレのみに自然環境が存在したが、それも彼の地に知的生命体が存在している可能性が高いため、未調査である。

「―――観測艇の残した探査機から発信される電波が現在の位置を教えてくれている。」

「それは、先月発見されたメラニー遊星ですね?」

「そうだ。」

コウダの言葉に答えて、淡々とミヤタは続けた。

「フルハシ参謀・・・率いる観測隊がメラニー遊星を観測したのが、先週・・・そして、第六基地が壊滅したのは、その三日後だ。」

そういうと、ミヤタは、TDF時代に世話になっていたフルハシのことを思い出すようなしぐさをしたが、すぐにもとの表情に戻り、言葉をつないだ。

「月面基地から脱出した脱出艇の調査結果に基づき、上層部が下した判断はこのメラニー遊星を調査し、危険があれば破壊する、というものだ。」

「―――その文脈からいくと、映像はメラニー遊星を写し取ったものか・・・」

豪がそう言う。

しかし、それは常識ではありえない。

「そんなわけないだろ・・・大体、軌道を外れてふらふら放浪する星である遊星に、そんな自然環境が整うわけがない!」

ナカジマはそう言って豪の言葉を否定する。

だが、紛れもなくそれは本物のはずだ。

フルハシらが、その目で見たものと同じ風景だったから。

「まぁまて・・・そこで、我々の出番というわけですね?」

ナカジマを嗜め、そしてヒビキ隊長はそう続けた。

「この発見は・・・人類にとって価値のあるものかもしれない。だが、月面基地壊滅とこの遊星には何らかの関連がある、というのがビアン=ゾルダーク博士をはじめとする科学陣の見解だ。いかなる危険が待ち受けているかもしれない・・・皆、慎重に当たってくれ!」

そう言うと、ミヤタは声を落とす。

「フルハシ参謀の消息はいまだ不明だ・・・そのこと絡みで、この調査にウルトラ警備隊の中から二名、XIGからアナライザーが一名、それからG.U.A.R.D.アイドネウス島駐留軍から一名同伴することになっている。」

そう言うと、扉の外を見るように、ドアを見た。

「―――ウルトラ警備隊のホーク3号、着艦します。それと、エリアルベース発ダヴライナーが着艦許可を求めています。」

丁度、そのときマイがそのような報告をしてきた。

―――そして、カザモリ、サトミが入室し・・・大方の予想通り我夢が現れ・・・

その数時間後、ゼンガー=ゾンボルト中佐も、愛機グルンガスト零式とともに格納庫へと降り立ったのだった。



格納庫

「XIGのアナライザーって言ったら、やっぱりお前だよな、我夢!」

「そうだな、アスカ。また一緒に戦える。」

アスカの軽口に、我夢はそう言って笑った。

「ふむ・・・強者は強者を知る。良い友のようだな、君たちは。」

微笑を浮かべて、ゼンガーがそう言った。

「いや、実は例の台風騒ぎの時の任務で一緒になっただけなんすよ。でも、不思議と気があっちゃって。」

「そうなのか・・・」

カザモリが、少し驚いたようにそう言うと、アスカは、「そうだぜ、カザモリさん。」といってにやりと笑った。

そんなカザモリは、やはりまだ元気がない。

すでに、リョウと仲良くなっているサトミとは好対照だ。

「―――第六ムーンベースのことなら、過ぎたことくよくよしても仕方ないよ。フルハシ参謀だって、まだ行方不明ってだけじゃないですか。深刻にならないようにしましょう。」

我夢はやさしくその態度を嗜める。

普段の我夢もアスカも、必死な感じでことを進めるタイプだが、どうにも・・・やはり同タイプの男がしょげているのを見かねている感じだ。

「―――フルハシ参謀は、どこかで生きておられるのではないか・・・私はそう思っている。」

ゼンガーもそう言ってカザモリを元気付ける。

「さて・・・豪、β号の操縦は任せるぜ。それから・・・」

「我夢君とカザモリ君は、β号の管制お願い。期待してるわよ?」

「わかった・・・ならば、ゼンガー中佐。貴方の機体は牽引という形になる。固定をしっかりしないと、亜光速時に牽引が外れる危険がある。その点検を手伝ってもらえないだろうか。」

「承知した。」

アスカとリョウの言葉に、豪はそう答え、ゼンガーを促し格納庫の奥へと消えていった。

「―――ねえ、私は?」

「あ、サトミさんは私と一緒にγ号に乗り組んでください。では、いきましょう!」

リョウの宣言とともに、豪とゼンガーを除く5名は、イーグルの各機に乗り込んでいく。

―――彼らがメラニー遊星に到達するまで、後2日・・・



かくして、アスカ、リョウ、カザモリ、サトミ、我夢、豪、ゼンガーの7名はメラニー遊星へと飛び立った。

「ネオマキシマ・・・始動。」

感情を交えぬ声で、豪がつぶやく。

瞬時、GUTSイーグルは亜光速の域へと加速を開始する。

「―――では、各自交代で睡眠をとるといい。俺は不測の事態に備えている。」

豪はそう言って、操縦桿から手を離した。

「君は寝なくて良いのか、豪。」

ゼンガーがそう言った。

「俺は、人造人間だ。気にすることはないから、寝ていてくれ中佐。」

誰に対しても変わらないその言葉に、ゼンガーは一瞬うめいたがすぐに「うむ」とだけ返して眠りにつく。

我夢も、アスカも・・・

数十分のうちに、豪とカザモリを除く全員が眠りに落ちていた。

「何を悩む、カザモリ。」

計器をチェックしながら、淡々と豪は言った。

「いや・・・俺たちのような特捜チームは、もういらないのかな、ってね・・・星間戦争になれば、無力になると、カジ参謀たちタカ派の連中は言う。それはどうなんだろうか・・・」

「ふ、下らんな。」

「何・・・!」

豪は、微笑を浮かべてカザモリに言った。

「下らんのだ。俺たちにできることは、ただ戦い守ることだけだ。疑えば、戦うことはできなくなる。」

「そうか・・・」

「さぁ、お前も寝ろ。後は俺に任せるがいい。」

その言葉に、「ん」というなづくと、カザモリも眠りに落ちた。

「―――まだ、足りないな・・・俺も。」

その耳に、豪の言葉はもう聞こえてはいなかった・・・



―――メラニー遊星上空

「これがメラニー遊星か・・・」

ゼンガーがつぶやいた。

「大きさは、月の三分の一、質量は30分の一・・・ですね。」

我夢が冷静に分析を続ける。

「おかしい・・・何万年、何億年前か知らないけど、遊星って言うのは新星爆発を起こして消滅した恒星系の惑星の残骸なんです。それに整った自然環境が作られることは、ほぼありえないし・・・しかも、映像を見る限り地球の温帯の植物位相に近すぎる。」

そう言うと、我夢は嘆息した。

自分の常識が役に立たない世界だと、認識したようだ。

「―――まぁ、見た物を信じて、きちんとデータ化するしかないですね。」

「そうだな。私も、かつて見た。常識の通じない、「朱い宇宙」をな・・・」

ゼンガーはそう言って瞑目する。

「そうですね。僕としては、フルハシ参謀・・・第六ムーンベース壊滅の真実が少しでも解明されれば、と思います。」

カザモリがそう言った。

丁度、重力圏に捕らえられる距離に機体は接近した。

「―――衛星軌道に入る。総員、対ショック防御を。」

豪がそう言うと同時に、機体は減速を始め、ゆっくりと地表へと降下を始めた。



メラニー遊星・地表

「隊長、無事メラニー遊星に着陸しました。」

豪は超光速通信回線を開き、スーパーGUTS司令室へ通信をつないだ。

『よぉし!捜査開始だ!十分に注意しろ!!』

ミヤタと頷き合うと、ヒビキ隊長はそう言って隊員たちを激励した。

「我夢、大気成分と重力のチェックは終わったか?」

豪は機外に出ていた我夢たちにそう通信を送る。

「―――大気成分は、地球とほぼ同じ。毒性物質も検出されてない。重力も地球とほぼ同じ・・・やっぱり変だな。どこかおかしい。」

そう言って、我夢はヘルメットに手を伸ばした。

「おい、何をしてるんだ、我夢君!!」

カザモリが驚いてとめようとするが、我夢は言った。

「怖いですけど、取り敢えず確かめてみないと・・・」

と、見れば、アスカも思いっきりヘルメットをはずしにかかっている。

「ん〜空気がうまい!」

「これなら大丈夫かな、アスカ。」

「そうだな、我夢。よぉっし!この調子でいくぞ!!」

「ああ!」

そうして、二人はどんどん先に進んでいく。

カザモリも、サトミ、リョウも信じがたいといった貌で固まっていたが、すぐ立ち直るとそれを追いかけていった。

ゼンガーだけが、冷静にヘルメットをはずしていた。

数分後。

結局、皆ヘルメットをはずしていた。

「ホントだ。なんともない・・・」

「木の香りがする・・・」

サトミとリョウはそう言って驚く。

「―――不思議なことだ。」

ゼンガーがそう言って、地面に手を置く。

「暖かい。土の香りが濃い・・・だが、だというのに・・・気配がない。不思議なことだ。」

どこか落ち着かない様子で、彼はそう言って我夢が進んでいったほうを向いた。

「彼らも先に行ったことだし・・・ここからは、二手に分かれよう。」

そうして、ゼンガー・リョウ・カザモリ・サトミと先にずんずん言ってしまった我夢・アスカのチームで地上を捜査することが決まったのである。



―――アスカ班

続く広葉樹の森を、アスカたちは踏みしめながら歩いていく。

「やっぱり変だな・・・星々の間を旅してきた遊星に、こんな自然があるなんて・・・」

手の中のセンサーを弄びながら、我夢はひとりごちた。

「しかも、映像と同じく、位相が地球の温帯の植物にそっくりだ。常識で考えれば、誰かが人工的に作ったものなんだろうけど、一体誰が、こんな星を・・・」

我夢は、旧TDFの資料に存在していた「擬似空間」という記述を思い出していた。

―――実は、その考えはそう外れてはいない。

そのことを、後でじっくり味わうことになるとは、今は微塵も思っていないだろう。

「そう考えんなよ。宇宙には、常識の通じないことだってたくさんあるんだろ?そう言うことにしとけって!」

アスカはそう言って、呵々と笑う。

「常識の通じない、か・・・僕たちの持つ力だって、そうだ。うん、あんまり気にしないほうがいいか。」

アスカの言葉に勇気付けられたように、我夢は笑った。



―――スーパーGUTS司令室

正面のメインモニタからは、豪の定時報告が流れていた。

『現段階では、非常に平穏です。特に異常はなし・・・異常がないのが、異常といっていい。』

いつもどおりの口調でそう報告する。

『楽園、というものがあるとすれば、このような光景のことを言うのではないかと、考えてしまうほどです。』

その豪の言葉に、ミヤタは・・・少し考える風な感じを見せた。

「?・・・どうしました?」

ヒビキが怪訝な面持ちでそう聞くと、ミヤタは少し笑みを浮かべて「いや・・・」といって言葉を継いだ。

「―――果たして楽園と呼べるものが、本当に存在するものかと思ってね・・・」

そう、言って嘆息する。

「まぁ、確かにそうですな・・・」

ヒビキはそう言って、微笑を浮かべる。

―――と、その時だった。

「引き続き調査を続行します・・・」

音声が、急に不鮮明になる。

「―――!?なんだ、これはっ!?戦闘モードにいこ・・・」

ザッ、とモニタにノイズがかかり、瞬間画面が砂嵐に変わった。

「どうした!おい、豪!!」

コウダがそう叫ぶ。

「通信が途絶えた原因は何だ!?」

ヒビキはそうマイに問う。

「―――妨害電波が発信されています!」

「妨害電波の発信先は!?」

「おそらく・・・メラニー遊星内です。」

振り向いたマイが、そう言うのを聞き・・・ミヤタとヒビキ、そしてその場にいたコウダは暗澹たる表情となった。

だが、瞬時にヒビキは顔色を取り戻し、「あいつらなら・・・大丈夫だ!」と言って、みなを安心させようとする。

―――遥か、20億kmで、何がおきているのか。

それを知るすべは、彼らにはない―――



その頃。

アスカは、定時連絡をイーグルに送信しようとしていた・・・が。

「アレ・・・豪!豪?壊れたかな・・・」

「どうした、アスカ?」

「ん・・・通信が通じない。」

―――地上にも電波が撒かれているのか、通信ができない状態に彼らは追い込まれていた。

「なんだって?マジ?」

「マジもマジ、大マジだよ。どうなってんだ、この星・・・」

我夢の驚きに、憮然とした表情でアスカがつぶやいた。

「―――?」

その時、突然目の前を横切るものがあった。

「ぱむぅ〜〜〜〜!」

はっきり見えなかったが、黄色いムササビくらいの大きさの物体が、可愛らしい鳴き声をあげながら飛んでいった。

「―――今のは、なんだ?」

「何か生物かもしれない。行ってみよう。」

アスカの言葉にそう返し、我夢は先導するようにその物体の消えていった方角へと歩を進める。

「危険かもしれないけど、通信ができないこの状況じゃどうにもならないし・・・ね!」

足元の茂みに足を取られながら、我夢はそう笑った。

それに、アスカは好奇心の笑みを見せて、サムズアップしたのである。



GUTSイーグル、機外

豪は、機内に侵入してきた謎の影と相対していた。

中空に不気味な姿態を持つ、黒い影が浮かんでいる。

―――戦闘プログラム、始動。

メタルアイザー・・・

二本の角を模した、銀に輝く変身アイテムを腰から取り出して、豪は叫んだ。

「セタップ!」

額に穿たれた虚ろな穴に、アイザーが差し込まれる。

それと同時に、全身の皮膚が剥ぎ取られ、青い身体がむき出しとなる。

一瞬にして、戦闘モードへとチェンジした豪・・・いや、仮面ライダーG0は油断なくその体を屈める。

「何者だ・・・」

それは、紛れもなく・・・

地球で、レーツェル=ファインシュメッカーを襲った影だった。

影の触手をかわしながら、彼の電脳は影を分析する。

「―――生体反応、あり。極めて微弱・・・エクトプラズム・・・か?」

そうつぶやいて、彼は飛ぶ。

「くっ・・・質量が感知できん!」

影の触手が、一瞬動きを止めた彼を襲う。

「く・・・?」

G0の体に、それが纏わりつく。

「―――なんだ、これは・・・!?」

『キカイカ・・・アヤツリヤスクテタスカルナ・・・クククククク・・・』

豪は冷たい・・・そう、ゾッとするような悪寒を、感じたような気がした。

「貴様・・・何者・・・だ・・・正体を見せろ・・・!」

『ワレワレハチキュウジンノヨウナ、メイカクナニクタイヲモタナイ・・・キミノセンサーヲゴマカスコトナド、ゾウサモナイコトダ・・・サァ、ワタシニミヲユダネヨ・・・』

「くっ・・・!一体何を考えている・・・!我々に・・・この星を侵略する意図は・・・ない!」

『フン・・・コトナルブンメイガデアッタトキ、サキニアイテヲホロボシタホウガイキノコル・・・コレハキミタチカラマナンダコトダ。』

「侵略の意図は・・・ないと言った!」

苦しげに豪はうめく。

だが、それをせせら笑うように影は言った。

『ソレハドウカナ?チキュウジンイガイノチテキセイメイタイニトッテ、G.U.A.R.D.もネオロンティアケイカクモジャアクナソンザイダ・・・』

「ちぃ・・・力が・・・奪われ・・・ぐぅ!」

「サァ、ワタシニイシキヲユダネヨ。ソウスレバラクニナレル・・・クククククククク・・・」

機能がどんどん自分の制御を外れていく。

―――くそ・・・これが、絶望・・・か・・・!?

その言葉を電脳に抱き、豪はうなった。

次の瞬間、豪の意識はハードディスクの隅へ退避され、黒い影に彼は体を奪われたのである。



―――再び、アスカ班

足元の残骸を取り上げて、我夢はうめいた。

「なんだ。これ・・・」

「所々に落ちてるな。ホント、一体なんだろ・・・」

それは、まるで・・・

一体成型された板状の部品を、力任せにぶん曲げたような形をしていた。

焼け焦げたものや、明らかに爆発してバラバラになった傷を持つ残骸もある。

「ぱむ〜〜〜」

その残骸をしげしげと見つめていると、また黄色い何かが目の前を横切っていく。

「いたぞ〜〜〜!」

楽しげにアスカはそう言って、我夢はその言葉を聴いて、身長かつ大胆に物体を追いかけていく。

―――しばし探索。

気づくと、目の前にはぽっかりと洞穴が口を開いていた。

「洞窟か・・・!よぉし!」

アスカは、不敵に笑うとその穴目指して歩を進める。

「危険かもしれない、慎重に行こう。」

―――とか言いつつ、我夢も内心ウズウズ(主に知的好奇心)しながら、そう言ってアスカの後を追う。

瞬間、彼らに鋭い気配が刺さった。

暗い気配ではない。

光。

「「!?」」

二人は驚いて、後ろを振り向く。

そこにいたのは・・・

黒いベストと、銀の首飾り。

そして、それ以外も黒一色に染め上げた服を着た男が立っていた。

逆光で、顔はよく見えない。

「君たち・・・この先に進むつもりか?」

その男はそう言うと、二人に近づいていく。

「―――何者だ!」

「待ってくれ、アスカ・・・多分、敵じゃない・・・」

油断せずに、そう言った我夢に、その男は笑いかける。

ようやく、彼の顔が、二人にも見えた。

この、地球から20億km離れた地に、人間がいるのが不思議・・・いや、不気味だったが、その気配は彼を敵と看做させない。

彼は、ゆっくりと口を開いた。

「―――私は、モロボシダン。この先に進んではいけない。罠が待っている。」

「・・・罠?」

「―――貴方は、一体・・・」

我夢が疑問を呈する。

「―――フルハシさんの、古い友人さ。」

男・・・ダンはそう言うと、ゆっくりと近づいてきた。

輝かしい気配が、より強くなる。

「それでも進むというのならば・・・?」

その時、彼は気づいた。

「そうか、君たちは・・・光、なんだな。」

そう言って、彼はおもむろにその懐から、一つのサングラスのようなものを取り出した。

「・・・まさか・・・」

そう言うと、我夢はエスプレンダーを取り出す。

アスカもまた、わけがわからない、といった風でありながら変身に使用する彫像・・・リーフラッシャーを取り出した。

「―――やはり、そうか。君たちが、ダイナとガイアか・・・」

見透かしたようにそう言うダンに、アスカが言った。

「それを知っている・・・しかも、そのサングラスの形・・・!」

「ああ、アレは・・・セブンの目の形だ。かつて、ティガと一緒に戦った、光の巨人・・・!」

我夢のその言葉に、照れくさそうに微笑むと、ダンは答えた。

「そうだ、僕がウルトラセブンだ・・・だが、人には漏らさないでほしい。」

「わかっています。この力は、簡単に人に明かしていいものじゃない・・・」

「わかってもらえて嬉しい。この先にある罠は、君たちには罠とはならないだろう。頑張りたまえ。」

我夢の言葉に満足すると、ダンは踵を返す。

「どこへ・・・行くんですか?」

「君たちの仲間のところへ。危機が迫っている。」

ダンは言葉を続ける。

「どんな最新鋭のシステムより、侵略者にとって君たちほど恐ろしいものはいない。センサーにも感じないもの、レンズにも写らないもの、そしてデータにも残らないものを、人間は感じ取る力を持つ。心を持つ。人間ならば。」

強い口調だ。

「―――フルハシ参謀に、イルマ参謀に、そして光に選ばれた人間の誇りを失わずに、戦ってほしい。」

そう言って、ダンは走り出す。

「君たちは、その奥にいる邪悪から、小さな命を守ってやってくれ!」

その言葉が、戦を促す銅鑼の音のように響き・・・

戦いが、始まろうとしていた。



―――カザモリ班

「花・・・か。地球とまったく変わらないな。」

ゼンガーは、目の前の水仙の花を摘んで、そう言った。

「それにしても、面妖な・・・これだけ、歩いているのに、虫一匹鳥一羽も見当たらんとはな・・・」

ゼンガーは、むぅ、とうなって黙り込む。

「サトミ隊員、花なんて見てないで行きましょうよ。」

「あら、カザモリ君。乙女の嗜み、ってやつよ?ねぇ、リョウさん?」

「そうですね、サトミさん。」

ゼンガーも花をつんでしげしげと見ているのに、カザモリは二人の女性にそう注意していた。

もちろん内心、この猛女たちに花なんぞ似合わない、似合うのは戦場と炎だろう、と思っていたのは内緒だ。

「む・・・!?」

その時、ゼンガーがうなった。

「馬鹿な・・・!?」

その手の中の水仙を見つめている。

「まさか・・・触感が・・・消えた!?」

そう言ったとき、フッと水仙は消えてしまっていた。

「―――なんだこれは・・・」

「―――消え、た?」

声が凍る。

闇が、心を覆っていく。

しかしそれは。

敵の思う壺なのだ・・・



―――洞穴

アスカたちは、先へと進んでいった。

壁は、人工的ではなく、地面も湿っている。

単純な構造で、基本的に一本道のようだった。

ピッ・・・ピッ・・・

我夢の手に持つ検査機器が、規則的な点滅を始める。

「―――なんだ?この反応・・・」

そう言って、我夢は一歩踏み出す。

ゴン。

アスカの背中とぶつかる。

「わっ・・・てぇっ・・・気をつけてよ、アスカ・・・」

「あ、ごめん我夢。」

頭から地面にぶつかった我夢は、その頭を上げつつ謝るアスカを少しにらんだ。

「ん・・・これは・・・って、うあっ!?」

「どうした我夢!」

「これ・・・異星人の死体だ・・・」

そう言った先には、全く人間とは違う骨格の生物・・・ただし、明らかに二足歩行で、その身体には微妙だが高度な衣服の痕跡が見られた。

「この星の先住民かな?」

「だけど、明らかにこれ・・・爆発かなんか食らったみたいだぞ。」

「うーん・・・」

我夢がうなる。

と、その時、その死体の影から黄色い影が飛び出した。

「ぱむ〜〜」

「「わっ!?」」

「ぱぁ〜〜〜!」

その影は・・・黄色くて小さい、顔は硬質な素材で出来ているようだが、その身体は柔らかそうな毛で覆われていた。

ふわっ・・・

その黄色い動物は飛び上がる。

「飛んだ!」

ぽて。

「と思ったら、落ちた。」

力尽きた風で落ちた動物に、恐る恐る近づいていく。

「大丈夫かな?」

そう言って近づくアスカ。

「多分、怪獣・・・だよな。それも珍獣って部類のだと思う。」

「珍獣?」

「うん、友好珍獣ピグモンっていう怪獣が、昔現れたんだ。それ以来は、人間に友好的な怪獣の中でもそれほど大きくない種類は、珍獣って呼ぶんだよ。」

我夢もそういいながら、動物・・・迷子の珍獣に近づいていった。

「だいじょぶか?」

「ぱむ〜・・・」

威嚇するようにうめく珍獣の口の辺りを見る。

ついているのは、血だった。

朱い血糊・・・だが、人間の血とは色合いが違う。

「お前・・・怪我してんのか?」

どうやら、アスカの言うとおり、彼自身の怪我のようだった。

「どれ、見せてみろ・・・ってあいたっ!」

「ぱむ!!」

傷を見ようと、手を出したが、噛まれた。

「ちょっとじっとしてろ・・・」

そう言って、アスカは腰のポーチから医療セットを出し、小さいガーゼに消毒液をすばやくつけ、それをピンセットでつまんで差し出した。

「ほら、俺を信用しろ。」

そう言って、警戒する珍獣に差し出す。

「ぱぁ〜・・・」

「ほら・・・」

しばらく、ガーゼを警戒していたが、それほど害のあるものでないとわかると、逆に傷口にそれを押し付けるように擦り寄る。

「うん、大丈夫そうだね。」

「ヨシ、これで大丈夫だ!」

気持ち良さそうに目を細める珍獣に笑いかける。

珍獣は頬を彼に摺り寄せた。

「気にするなって!」

「ぱむっ!」

珍獣は一声鳴くと、ふわりと浮き上がり・・・

彼らを案内するように、奥へと飛び始める。

「ぱむ〜・・・ぱむ〜・・・」

「おい、そっちになんかあんのか?」

そう言って近づいていく。

そうして・・・しばし進むと、そこにはこれまでとは明らかにと違った人工的な光を放つ機器と・・・

「扉・・・?」

「やっぱり、この星には何か秘密があるのか・・・」

その扉を前に、彼らは立ち尽くす。

前に立つと・・・す、と音もなく扉が開いた。



―――森の中

ダンは、カザモリたちの元へと一目散に走っていた。

彼の目には、その光景は森ではない。

「急がねば・・・彼らが危ない!」

走る、走る。

そして・・・

人影が、見えた。

「・・・?」

―――その姿は・・・豪だった。

「君は・・・?」

「―――セタップ。」

豪は、そう言うと・・・頭にアイザーを差し込んで、変身していた。

「まさか、操られているのか!!」

「そのとおりだ、ウルトラセブン・・・」

ガォン!

左腕のガトリングが火を噴き、ダンの足元に着弾する。

「くっ!なんということだ・・・」

「罠は一つではないということだ・・・!」

そう言って、G0・・・いや、謎の異星人はゆっくりと近づいてくる。

「ウルトラセブン・・・死ね!」

その言葉と共に彼は急加速する。

その腕には、電光が宿っていた。

「スパークフィンガー!」

「チィッ!」

それを間一髪交わすと、ダンは懐から先ほどのサングラス・・・ウルトラアイを取り出した。

「デュワ!!」

瞬時に光が弾け、ダンはウルトラセブンへと変身する。

「ダァッ!」

光線がセブンの手から放たれ、豪の身体に着弾する。

しかし、それは彼を破壊するほどのものではなかった。

「どうした、セブン・・・もしや、この機械をかばっているのではないだろうな?!」

「デュッ!」

その戯言を無視し、セブンの手がL字に組まれる。

「デュァ!!」

ジャッ!

その手から、電撃が放たれ、G0の機能が一瞬フリーズする。

「―――ふん。分が悪いか。」

しかし、G0の優秀なシステムは、それをあっという間に復旧する。

「チ・・・中枢まで支配できない・・・心を持っているのか、厄介な機械だ・・・」

どうやら、完全に彼の機能を支配しているのではないらしい。

セブンが、連続して先ほどの電撃光線・・・チェーン光線を放つ。

だが、それを避けると、G0・・・星人は森の奥へと賭けていった。

―――まずい、追いかけなければ・・・!

そう思い、彼は飛ぼうとする。

彼が最大速度で飛べば、音速の十数倍に達する。

追いつけないものは、ほとんどないといっていい。

だが・・・

闇の気配が、彼を襲った。

「ダァッ!?」

飛び退る。

そこには・・・蟠る闇。

―――貴様・・・まさか!

それは・・・そう、それは・・・

今はここに存在しない、陽光戦士の仇・・・

邪心メタニオスがいた。

「久しぶりですねぇ・・・レッドマン。いや、ウルトラセブンとお呼びしたほうがいいんですかね?」

―――よみがえっていたのか、ニオス・・・

「ふふふふ・・・ええ、生きていました。貴方に封じられたときから、2000年の時を経てから、ね。」

そう言って、セブンをあざ笑う。

「まぁ、私は貴方にもうあまり興味はないのですがね・・・ふふふ・・・」

―――何を考えている。

「ふふふ・・・さぁ?考えてみてはいかがですか?もっとも、もう一人くらい・・・死んでるかも知れませんがね、あの連中・・・クーククククククッ♪」

―――何!?

セブンの驚きに、メタニオスは哄笑を始める。

「ひゃはははははははははははははははっ!!面白い・・・面白いですね、光の巨人の・・・ウルトラ族の負の感情というのは!!ひゃはははははっ!!」

―――くぅっ!

「さて、もう良いでしょう・・・私はソロソロ帰ります。そうそう、彼らをそそのかしたのも、私です・・・ははっ、せいぜい悔しがれ!!」

「ダァッ!」

セブンは、消え行くメタニオスにエメリウム光線を放つ。

だが、それは虚空を裂くのみで・・・

そして、セブンはその全力を持って、豪を・・・いや、彼を操っている何者かの追跡を始めた。



―――再び、カザモリ班

森の切れ目まで彼らは到達していた。

「なんだ・・・これは・・・」

カザモリは、そこに広がる光景に呻いた。

「宇宙船の残骸・・・?!」

リョウの言葉に、ゼンガーはハッとする。

「まさか!いかん、戻るぞ!これは罠だ!!」

目の前に広がるは、膨大な量のUFO・・・宇宙船の残骸だった。

だが・・・早速、戻ろうとする4人に声がかけられた。

「どこへいくつもりだ・・・?」

それは・・・G0。

「―――豪?」

そう言って、カザモリが近づいていく。

しかし・・・

パンッ!

その右腕のニードルガンが火を吹き、足元の草を吹き散らした。

カザモリはもんどりうって倒れ、転がる。

すぐに起き上がると、カザモリは叫んだ。

「なぜだ!どうして!?」

突然攻撃をしてきたG0に、信じられないといった口調でそう叫ぶ。

「いかん、散れっ!」

ゼンガーが叫んで、その腰の日本刀を抜刀した。

「―――貴様、何者だ!豪ではあるまい!」

「私はヴァルキューレ星人・・・君たち地球人風に言うとな。今は、この機械を操っている・・・私たちには、君たち肉体を持つ生命や機械を操る力を持っているのだ・・・」

そう言って、両腕を彼らに向けた。

「即席にしてはいいチームワークだ・・・だが、それが命取りとなる・・・」

静かに、G0・・・いや、ヴァルキューレ星人は言った。

「どういうつもりなんだ!!」

「―――ゲームだよ・・・私は誰の中にいるんだ?気をつけて攻撃しなければ、君たちは全滅するぞ・・・?」

その言葉に、彼らはお互いに顔を見合わせた。

ゼンガーだけが、強く星人をにらみつけている。

「最後に残った一人が、君たちの末路の生き証人となる・・・もし、この機械が生き残ったら、君たちの母星を吹き飛ばしてあげよう・・・」

そういって、両腕を威嚇するために彼らに向ける。

「・・・ただ、この体はそろそろ自ら機能を停止する。機械の分際で、仲間や母星を傷つけたくないのだろうな・・・小賢しい・・・お互いに殺しあえ・・・!」

そう言うと、彼の身体から黒い影が伸びるように浮き出る。

同時に、G0の体は作動音を止めていった。

『キミタチノカラダをカリル・・・セイシンヲムサボル・・・!』

黒い影はそう言うと大気に消え、そしてG0はその重い体を地面に横たえ・・・同時に変身も解けた。

それが合図になったかのように、各員それぞれが、周囲に散っていく。

「く・・・」

影は、ゼンガーの前でとまり・・・その触手を彼に伸ばす。

「ぐあぁぁぁぁっ!?」

刀を振り上げ、リョウに切りかかる。

「いやぁぁっ!?」

「チェェストォォォォッ!!」

ガツン!

だが、その刃は地面に突き立ち、意味を成さない。

すぐに、ゼンガーが放心したように力が抜け、次いで顔を引き締める。

「・・・抵抗するすべがない・・・!?」

と、それと同時にリョウが叫ぶ。

「うぅくぅ・・・!ぁぁあああっ!?」

そして、GUTSブラスターをカザモリへ向けた。

「!?」

「カザモリ君!!」

サトミが、リョウに突進を掛け、リョウは倒れる。

だが、今度はサトミの番だ。

「ふふふふ・・・あはははははははっ!」

狂ったように笑いをあげ、リョウに銃口を向ける。

「サトミ隊員!」

カザモリが銃を振り上げた。

「―――いや・・・こないで・・・カザモリ・・・君・・・近寄らないでぇっ!?」

ドォン!

サトミの銃弾が地面を焼く。

瞬間、サトミの目から狂気が消え・・・

「―――私は、私は何をしていたの・・・?」

そして、放心した声を出した。

「―――誰?誰の中に・・・?」

リョウが呻いた。

お互いに銃口を、切っ先を向け合う・・・

だが、その時・・・豪がゆっくりと起き上がった。

ゼンガー以外の全員が彼に銃口を向ける。

しかし・・・どうやら、保守機能が働き、姿勢を立て直しただけのようだった。

その証拠のように彼の目は、マネキン人形のように見開かれたままだ。

「待て、撃つなっ!気配が先ほどとは違う、そいつは本物の豪だ!!」

「・・・・・・」

バヂッ!

機能が停止し、立ったまま停止している彼から電磁波が漏れた。

どうやら、彼ではない。

「じゃぁ、星人は誰に・・・」

「貴方?」

「違う!?」

そう、しばし言い合う。

―――その時、カザモリの目に・・・狂気が宿る。

すぅ、と銃口がサトミに向く・・・

その時、木の影からダンが突如現れた!

「くっ!」

ダァン!

銃弾が、木を穿つ。

恐怖したように、カザモリは彼の顔を見ると、逃げ出した。

「待ちなさ・・・くっ!」

がっ!ゴゥ!

ダンの拳が、リョウとサトミの鳩尾を打った。

「貴方は・・・」

そう言ったゼンガーにも、「すまない」といって当身を食らわす。

「貴方は・・・誰だ・・・」

たつこともままならない様子の豪を一瞥し、ダンは・・・里美のウルトラガンを拾い上げ、カザモリを追う。

しばらく行った所で、ダンはウルトラガンを撃つ。

威嚇射撃である。

「撃つな!僕はウルトラ警備隊のカザモリだ!!」

両手を挙げて、そうカザモリは叫んだ。

だが・・・

「―――機械はだませても、心ある者の眼を誤魔化すことは出来ないぞ!!」

ダンはそう叫んで、銃を向ける。

「ふ・・・ふはははははは・・・撃てるか?私を倒せるかな・・・私を殺せば・・・!」

カザモリ・・・ヴァルキューレ星人は、その銃をカザモリの頬に当てる。

「この人間は死ぬ!」

そう叫んだとき、彼の瞳に理性の色が戻る。

「―――撃て!躊躇うな!!この身体に・・・奴が巣食ってる間・・・倒せ・・・!俺はもう・・・カザモリではいられない!!」

苦しげに叫ぶ。

だが、すぐに狂気の色が戻り、彼は言った。

「セブン・・・なぜお前は、侵略者の味方をする!?ネオフロンティアなど、侵略者の言い訳に過ぎん!!」

「―――私は、地球人を信じている。」

「お前の信じた地球人は・・・第六ムーンベースで死んだ!」

その言葉にダンは激昂した。

暗い感情・・・光に相応しくない感情が浮かんだ。

「お前たちが殺したんだ!!」

「侵略される前に侵略する!!」

皮肉げにそう叫んで、星人は続けた。

「―――それが、悲しい摂理だ!」

パゥン!

遠くの木が、一つ倒れた。

ジャキリ。

ダンも、彼に銃口を向ける。

「―――撃て!さぁ撃て!!地球人を殺してみろ!!」

「撃て!俺を撃ってくれぇ・・・!」

ダン!ダァン!!

銃声が二つ、響いた。

くず折れたのは、カザモリだった。

『フ・・・フアハハハハハハ!!』

影がカザモリから伸び・・・

そして、ダンに纏わりつこうと襲う。

だが!

『グガァァァァァツ!!?オマエノカラダガ・・・オマエノココロガ、オレヲキョゼツスルゥゥゥゥゥッ!?』

ダンの光に耐え切れず、影は霧散し集合し、苦しむように膨れ上がっていく。

『ゴァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』

そして・・・

影は、膨れながら歪に折れ曲がり・・・

まるで、膨れ上がった瘤を思わせる姿態の、怪獣が出現した。

「―――お前の心のままに・・・醜い姿だぞ!!」

そう言うと、ダンは懐から・・・三度ウルトラアイを取り出す。

「デュワッ!」

―――そして、朱い巨人が、異星の大地に降り立った。



―――同時刻・洞穴

我夢は、扉の奥にあった機器を弄り回していた。

信じられないほど高度な機械に埋もれそうなその部屋は、奇妙なくらい静まっていた。

音は、我夢の立てる金属音と、アスカの声だけ・・・

「―――やっぱり、そうか・・・!」

その視線の先には・・・透明な素材で囲まれた奥のカプセルの中に赤黒い体表を持つ、怪獣の姿があった。

「アスカ・・・あれを見てくれ。」

「怪獣・・・?」

「そうだ。おそらく・・・ここは、罠の星なんだ。」

アスカの疑念に、我夢はそう答えて考えるそぶりを見せる。

「ここに並んでる機械は、ホログラムを作り出す装置なんだ。この星の自然環境は・・・全て虚像なんだ。でも、映像だけじゃばれてしまう。」

そう言って、パイプの化け物のような装置に手をついた。

「それでこれを使っているんだと思う。まだ未確認だけど、これから空気を地上に送り込んでいるみたいなんだけど、それに幻覚ガスを混ぜれば・・・誤魔化すことは可能だ。」

そうして、顔を顰める。

「なるほど・・・ホログラムと幻覚ガスで、偽の自然環境を作り出していた・・・ってわけか。でも、それなら何で豪も騙されたんだ?」

アスカが、納得半分、疑問半分といった感じでそう言う。

「―――多分、妨害電波に、センサーを狂わせる機能があるんだ。それで、機械にも偽の情報を流す・・・」

「そっか・・・でも、何のために・・・?」

その疑問に、我夢は口を開く。

「おそらく・・・この怪獣だよ。星間戦争か何かに使われた生物兵器なんだ。偽者の自然に騙された生物をおびき寄せ・・・」

「生物兵器・・・そうか、おびき寄せられたところを、この怪獣で、ドカン、か。洒落になってねぇな・・・」

目の前の心底恐ろしげな口調で言う我夢に、アスカはべらんめえな口調で答えた。

「ぱむ・・・」

その時、後ろの機器の陰から珍獣が現れる。

「お前、そんなところにいたのか。」

アスカが近づいていく。

「ぱぁむ〜・・・」

すると、珍獣の青い宝石のような瞳が輝き・・・前の壁にホログラムを作り出す。

それは・・・

カプセルの中の怪獣が、こちらへ向かって襲い掛かってくる映像。

その映像は・・・怪獣が腕を振り上げたところで終わっていた。

「―――そうか・・・お前の主人も、この怪獣に・・・」

アスカが、慰めるように珍獣に声をかける。

珍獣は肩を落として、地面に降りた。

「なぁ・・・アスカ。この遊星を作った異星人、もう既に滅んでしまったのかもしれない・・・」

「滅亡・・・?」

アスカの怪訝な表情に、我夢が答える。

「ああ。地雷みたいなものだよ。管理者がいなくなり、処理するものもいない・・・ただ、生物兵器だけが一人歩きして・・・」

「―――幻の楽園を求めて、この星を訪れたものがこの怪獣の餌食になった・・・」

アスカが我夢の言葉をついで言った。

しかし、一瞬で彼は気づいた。

恐るべき、事実を。

「―――じゃぁ、俺たちも?」

ハッとした表情でアスカがそう言うとほぼ同時に、黒い影が現れる。

―――ヴァルキューレ星人だ。

『ソノトオリダ・・・ウルトラマン・・・』

カザモリたちを襲った固体以外にも、二体・・・この場に潜んでいた。

『オマエタチニハココデコロシアッテモラオウ・・・』

「なんだと!?」

嘲笑する影に銃口を向ける。

「―――そうか!月面基地の人たちを同士討ちさせたのは!」

『ソウ・・・ワタシタチダ。サァ、オマエタチモオナジウンメイヲタドレ!!』

影の触手が、我夢とアスカを絡めとる!

だが・・・

『グァァァァァァァァアアアッ!!キョゼツサレルダトォォォォォォォォオオオッ!?』

影は・・・アスカたちの光に侵され、その形を様々に変えながら・・・霧散しようとしていた。

「これが、この罠が罠にならない、というモロボシさんの言葉の正体か・・・」

我夢が気分悪そうにそう言う。

『オノレェェェェェェェエエッ!ドウシヨ・・・アトハタノム・・・サァ、ヨミガエレもんすあーが!!』

影がそう言うと、珍獣が「ぱむぱむ、ぱむぱむっ!!」と警告を発するように騒ぎ始めた。

「くそっ!これがこいつらの最後の罠か!」

「退却するぞ、我夢!!」

そう言って、我夢を先にたたせる。

カプセルの中の怪獣の目が光り、天井といわず壁といわず、徐々に崩れ始める。

「ぱむぅ!」

もんどりうつように外へと駆ける二人の後を追って、珍獣も外へ出ようとした。

―――その時、我夢の瞳には・・・カプセルが天井の外へ向かってせり上がっていくのが見えていた・・・



―――ヴァルキューレ星人と対峙するセブンの前に、それは現れた。

『グァァァッ!』

カプセルの中から怪獣が現れ、セブンへと向かっていく。

『デュ!?』

セブンが驚きの声を上げる・・・

その時、瞬時に自然・・・いや、ホログラムで作られた偽の環境が消滅した。

まるで・・・夢でも覚めるように、美しい森林は岩の突き立つ荒地へと姿を変えていた。

「―――全て、消えた・・・!」

ゼンガーがつぶやく。

「戻りましょう!応戦しなければ!!」

「カザモリ君は!?」

リョウの言葉に、サトミが叫ぶ。

「そんなことしてる場合じゃないでしょう?!あいつらを倒してから探しましょう!」

「いくらセブンでも・・・二体相手にはつらいはずだ。零式を出さねばならん!」

ゼンガーがそう言って、いち早く駆け出す。

「行くわよ!α号の操縦をお願い!!」

そう言って、リョウも走り出す。

――― 一瞬遅れて、サトミも走り出した。

その時・・・二つの怪物は・・・セブンを十分に攻撃範囲に捕らえていた・・・!



―――再び、地下

崩れ落ちてくる天井の残骸を必死で避けながら、二人と一匹は出口へと向かってひた走っていた。

「地上では、怪獣が暴れているはず・・・皆やモロボシさんが危ない!」

我夢が叫ぶ。

しかし、その時、天井から大きな破片が落ちてきて、珍獣を直撃する。

「―――お前っ!」

そのさまを見て、アスカは走り出した。

珍獣の落ちた場所へと。

しかし、既に天井は致命的な崩壊を始めていた。

「アスカーーーっ!!」

我夢は、崩れる天井から身を避けつつ、叫んだ。

「アスカ!!」

―――瓦礫の隙間に、我夢はアスカを発見する。

・・・よく見ると、アスカの手からずいぶん離れた場所にリーフラッシャーが落ちているではないか。

「アスカ、大丈夫か!」

「大丈夫・・・!」

その言葉を聞くと同時に、エスプレンダーを我夢は取り出す。

「待ってて!今助けるから!」

「やめろ、我夢!外の怪獣に向かえ!!こっちは・・・自分でなんとかするっ!早く行け!!」

ガイアの力を使おうとしているのがわかったアスカはそう言って我夢を制止した。

「でも・・・!」

「ぱむぅ・・・」

我夢の悲痛な反語とほぼ同じとき、瓦礫を押しのけて珍獣が現れた。

「・・・!」

アスカは気づいた。

珍獣が、リーフラッシャーを興味深そうに見つめていることに。

「そうだ!それを・・・早く俺のところに!!」

「ぱむ・・・ぱーむっ!」

少し気合を入れたように鳴くと、珍獣はリーフラッシャーをそのくちばしで押してくる。

幾十秒かその行為が繰り返され・・・

そして、アスカの手に、しっかりとリーフラッシャーが握られた!

「よくやった!行くぞ、我夢!!」

「ああ!ガイアーーーーっ!!」

「はぁっ!」

―――光が弾け・・・!

二体のモンスターに挟まれるようになっていたセブンの後ろに・・・

二人の巨人が現れた!!



―――蟠る闇が、溶けた。

一隻の船が・・・黒い船が、闇の宇宙へと飛び立っていく。

それは、邪心メタニオスの持つ宇宙船だ・・・

「くっくっくっく・・・セブンが現れた・・・!」

嬉しそうに、闇が哂った。

「―――役者がそろう、役者がそろう!」

嬉しそうにメタニオスは哂う。

「役者がそろい、贄がそろう。禁じられた扉がいずれ開く!」

そうして、哂い続ける。

「奴らは・・・存外に働いてくれた・・・騙されているとも知らず・・・」

それは、真実。

地球人は、衛星ヴァルキューレを不可侵宙域とし、彼らを刺激せぬようにしていたから。

確かに、ネオフロンティア計画は・・・外宇宙の人々にとり、邪悪だろう。

しかし、生存権を無人の荒野に求めた古い時代もかつてはあったのだ。

それは、悪とも、善とも言えない・・・生命の本能だ。

そして、進入する外敵を討つ。

侵入される前に滅ぼそうとする。

それも、生物の・・・そう、今セブンたちと対峙している星人が言ったように、悲しい摂理だ。

それを、メタニオスは利用した、というのである。

「ハハハハハ・・・穏やかに時を過ごしてきた生命をだまくらかすことなど、簡単すぎて私の仕事ではありませんでしたねぇ・・・クククク・・・」

そう言ったとき、影が動いた。

『―――キサマ・・・ワレワレヲ・・・タダリヨウシタ、トイウノカ・・・?』

「おや、まだいたんですか・・・せめて奴らを壊滅させてから死んでくださいよ。ハハハッ!」

一人のヴァルキューレ星人の咎める声に、メタニオスは哂うと・・・

その腕の闇を、伸ばした。

「影如きが、闇に勝とうなんて・・・3000年早いんですよ・・・!」

『ギ・・・ギァァァァァァッ!?』

影は闇に飲まれ、闇と同化し・・・そして、消え去った。

「フフフフフ・・・次当たり、アレの出番かも知れませんねぇ・・・」

ご馳走を平らげた人間の表情をして、メタニオスはまた口元をゆがませる。

「闇の戦士・・・グライバー・・・フフフフフフフフフフフフフフフ・・・」

かつて、カイザードを一撃の下に地に伏せ、そして姿も見せずに去っていった謎の戦士。

その名を口に出し、メタニオスは哄笑する。

まだ戦いは終わっていない。

だが・・・

「まぁ、置き土産の一つくらいはいいでしょう・・・メタリオガ、発進せよ・・・」

闇の言葉に、漆黒の船はその顎を広げ・・・

黒い色を持つ、有機的なフォルムのロボットが・・・

いくつも、いくつも、メラニーの地表へと降下していった・・・



―――三人の巨人は、セブンの中心に、右にダイナ、左にガイアという並びで、戦闘態勢に入っていた。

三人は頷きあうと、まず、ダイナとガイアは・・・

生物兵器・・・モンスアーガと星人に強烈な蹴りを繰り出す。

後ろに吹き飛ばすために、ばねを生かした・・・

叩きつける蹴りではなく、突き飛ばす蹴り。

それを突然食らわされて、怪獣たちはたたらを踏む。

『ディアッ!』

その隙を突いて、セブンがその腕からクサビ形の光弾・・・ウェッジ光線が放たれた。

『ファファヴァ・・・』

『キシャァッ!』

だが、星人には効果があったようだが、怪獣には効いていない。

『ファファヴァ・・・』

しかも、星人の様子がおかしい・・・

飛び散ったヴァルキューレ星人の破片が、猛烈な勢いで黒煙を上げる。

『フゥッ?!』

ガイアが怪訝そうな声を出したとき・・・既に遅かった。

黒煙は雲となり・・・

やがて霧となって、彼らを包む。

『ダァッ!』

その霧にヴァルキューレ星人が消える。

星人がいた場所へと、ダイナが突進をかけたが、空振り・・・

ガッ!

ダイナは、まるで何かに突き飛ばされたように吹き飛ぶ。

そして、その先にいたモンスアーガの放った火球が、彼を打った。

『ジャアァァッ?!』

そして、一瞬で体勢を立て直すと、ダイナはガイアたちのほうへ戻ってくる。

『―――デュ・・・!』

セブンが呻いた。

『ガォォン!』

星人の叫びと共に、ガイアが吹っ飛んだ。

ダイナは、突っ込んできた怪獣の喉元をつかんで、抑えている。

『ダァッ!?』

三回。

『シュワッ!?』

四回。

五回、六回と・・・彼らは吹き飛ばされる。

ダイナもまた、怪獣の剛力に苛まれ、思うような戦いを行えていなかった。

―――その時、上空から・・・

上空から、巨人達の半分よりかなり小さなロボットが・・・六体、降下して来た。

有機的なフォルムを持つそれは・・・

闇を、生み出す。

染み出すように、霧を覆い・・・

そして、あたりは・・・宇宙の闇より漆黒の、全ての色を混ぜ込んだ黒が生み出される。

『デュワッ!?』

―――気付いた。

そう、力が・・・奪われていくことに。

星人は・・・既に霧を失い姿を現していたが、彼らは動くこともままならないほどに、わずか十数秒で追い込まれた。

『シュワ・・・』

つらそうに立ち上がり、ダイナとガイアはファイティングポーズをとる。

―――異空陣・・・

そう、シャリバンのエネルギーを奪ったその空間が今、展開されていた。

光のエネルギーを奪い、闇に属しないあらゆるエネルギーの伝達を阻害する、闇の空間。

モンスアーガと星人は・・・確かに、動きは鈍っているが、彼らほどではない。

当然だろう。

ウルトラマンたちにとって、太陽から遠いこの地で、この空間に幽閉されることは・・・死を意味する。

なんとしても、脱出しなければならない。

ガイアが立ち上がる。

しかし・・・

『ギャァァッ!!』

モンスアーガの、強靭な腕が吹き飛ばす。

・・・地球の守護者であるガイアは、地球から離れては大きな力をもてない。

他のウルトラ戦士にはない、制限時間なしの戦闘も地球あってこそのものだ。

この中では、既に・・・

ピコンピコンピコン・・・

ガイアのエナジーゲージが点滅を始める。

『グゥゥ・・・』

・・・まずい。

絶対的にまずい。

このままでは、三人の巨人はこの地で果てることになってしまう。

「―――ゼンガーさん!いけますか!?」

その頃、GUTSイーグルでは、牽引をはずし・・・

グルンガスト零式が発進しようとしていた。

「いつでもいける!」

そう叫ぶと、「行くぞ・・・」といって、零式は空を飛ぶ。

「おおおおおおおおおっ!!」

闇の空間を作り出している・・・ロボットたちへと零式は突撃していく。

「我はゼンガー!ゼンガー=ゾンボルト!!悪を断つ剣なり!!」

叫びが宇宙の色を彩る。

「オォォォォッ!!」

吼える。

まるで巨大な鉈のような斬艦刀が吼える。

黒いロボット・・・メタリオガの群れは、異空陣を展開しているせいか、動かない。

斬!!

一合で、二体のメタリオガが爆散する。

数十秒とかからず、六体のメタリオガは爆発していた。

―――瞬時、蟠る闇が消えていく。

ウルトラの戦士たちと・・・怪獣たちが現れた。

彼らは・・・力が戻っていくのを感じた。

瞬間、セブンが立ち上がる。

そして、ダイナとガイアは怪獣へと突進しその動きを抑えた。

『ダァッ!・・・デュゥワッ!』

横薙ぎに、頭の刃・・・アイスラッガーを投げる!

ガシュッ!

それは、星人の首を薙ぎ!

そして、セブンは立ち上がると、腕をL字型に組む。

『ダァッ!!』

ジャッ!

ドォーーーーッン!!

セブン最強の光線、ワイドショットが放たれ・・・ヴァルキューレ星人は爆発四散する。

そして、ガイアとダイナもまた・・・

『デュワッ!』

『フワッ!』

「ぱむ〜」

―――珍獣の声が、どこかから聞こえる。

その声に振り向けば、珍獣はホログラムを作り出し・・・

怪獣の弱点と思しき部位を示していた。

それは、後頭部に浮き出ている、青い宝玉のような部分。

『フッ!』

それに気付き、ガイアが飛ぶ。

『ダァッ!!』

ガイアは、その宝玉へと・・・上空から踵落しを見舞った。

『デュワッ!』

そして・・・怪獣がもんどりうって倒れる。

『でゅ!』

セブンが近づいてきて、頷いた。

ダイナも。

『『『―――ダァァッ!』』』

セブンの額のビームランプから、エメリウム光線が。

ガイアの腕から、クァンタムストリームが。

そして、ダイナのクロスされた腕から・・・

初代ウルトラマンのスペシウム光線とよく似た体勢から光線が放たれた!

カッ!!

『ゴアァァァァァァァッ!!』

ドォォォオオーーーーン!!

―――怪獣モンスアーガは、そうして爆散した。



―――カザモリ

「―――」

胸の傷が、痛い。

もう、死ぬのかな・・・

そう思った。

その時、ふと目を開けてみた。

―――ああ、お迎えかな。

なんとなく、そう思ってしまった。

セブン。

ウルトラセブン。

目の前に、セブンがいる。

セブンは・・・自分が生きているの事に気付いたらしい。

彼は俺にひざまづくと、俺を抱き起こす。

「また・・・あんたに助けられたな・・・」

―――フルハシ参謀のいない地球に、この私を呼び戻したのは・・・君たちの力だ。

その言葉に、俺は安心する。

「―――役に・・・立ったのかな・・・すこしは地球の・・・ために・・・」

―――ああ!

セブンの、声が聞こえる。

「―――よかった・・・」

もう、力が入らない。

瞼を閉じる。

痛みがゆっくりと引いていく。

―――カザモリ!カザモリ!!カザモリ!!!

セブンの手に、最後の力で手を添える・・・添えれたのかも、確認できない。

ただ、力強く握る力を俺は感じていた。

――――カザモリ、カザモリ!!

セブンの声が、遠く遠く聞こえていた。

いつまでも、いつまでも・・・・・・



―――森だった荒地

アスカと我夢も戻ってきて(珍獣つき)、カザモリの捜索が開始されていた。

―――その際の調査で、どうやら星自体に自爆装置が仕掛けられていたようだが、星人が利用しやすいようにその動作を止めていたこともわかった。

我夢によって豪の再起動が行われたが、無茶な動きをされたせいか、修理は地球に帰らなければできないことも判明していた。

「カザモリ君は、どこ行ったの!?」

サトミが言った。

「まさか・・・戦いに巻き込まれたか・・・?」

・・・機能がまだ戻っていないのか、豪を背負ったゼンガーが憶測を述べる。

ゼンガーは重量に辟易しているようだが。

「まさか・・・」

珍獣を連れたアスカがそう言った・・・時に変化が訪れた。

「―――アレを見ろ。」

ゼンガーが静かに指を刺した。

その先にいるもの・・・それは・・・

「おぉーい!」

カザモリだ!

―――瀕死の傷を負っていた彼がどうやって戻ってきたのか。

それはわからない。

だが・・・

少なくとも、実体は一つのはずだ。

すぐさま、グルンガストの再係留が行われ・・・

そして・・・GUTSイーグルは星を離れた。



GUTSイーグル機内

α号に収容された珍獣は、アスカに話しかけられていた。

因みに、搭乗前に女性陣に可愛い可愛いと、揉みくちゃにされていたので、ちょっと不機嫌っぽい。

「怪獣の弱点教えてくれて、ありがとな?」

「ぱむ!」

元気よくそう鳴いて、誇らしげに胸を張る。

「助かったよ・・・そうだ、お前、名前つけないとな?」

アスカはそう言って、考え込む様子を見せる。

「―――うーん・・・・・・・あ。」

何か思いついたように、彼は微笑んだ。

「そっか!羽が生えてっから、ハネジローで、いっか?」

「・・・ぱー・・・」

落胆して、珍獣は肩を落とす。

「なんだよ・・・不満かよ。」

口を窄めてそう言うアスカに、珍獣は「ぱむぱむっ!」と「とんでもない満足です」とでも言うように首を振って鳴いた。

「よぉし!お前は今日から、ハネジローだ!」

そして、ハネジローの能力を思い出して、アスカ釘を刺す。

「そうだ。俺と我夢が、ウルトラマンだってことは、内緒な?」

「ぱむっ!!」

「よし!男と男の約束だ!!」

少し、あのモロボシという男のことが気になったが・・・

その思考を遮るように、イーグルの加速が始まる。

―――地球まで、後2日。

どんな精巧な時計でも計れない時間が、また流れた。



―――第六ムーンベース跡・・・

その空間には・・・金属製のオブジェが、まるで墓のように立っていた。

根元には、照明のように輝く土台。

・・・その光を生み出しているのは、中央に埋められた宝玉だ。

それに近づいていく・・・男があった。

「フルハシさん・・・」

それはモロボシダン。

・・・彼は、人類を思った。

ソウ・・・幾多の侵略者に襲われ、自衛のためと称して軍備を強化し続ける人類のことを。

「―――人類はまだ続けているよ・・・血を吐きながら続ける、悲しいマラソンを・・・」

噛み締めるように彼は言った。

フルハシの眠る・・・真実、墓標へ向けて彼は言葉をつむぐ。

「しかし・・・最後の希望は捨てない。貴方の遺した、子供たちがいる限り・・・」

そう言って、彼は踵を返した。

向かうべきは、地球。

守るべきは人・・・

ミラクルマンのナンバーを持つ男の姿は、瞬時に・・・

そう、カザモリの姿へと変じた。

今、彼を知る人々が知っているカザモリはいない。

今いるのは、平和の使者ウルトラセブンの化身、モロボシダン・・・そしてカザモリマサキだ。

―――太古の昔。

異星人の信じがたい能力を前にして・・・

人類の祖先はどう考えただろうか。

―――おそらくは。

善を良く成す者を、「神」と。

悪を良く成す者を、「悪魔」と。

そう呼んだに違いない・・・

続く。



次回予告

―――戦争が生んだ落し子が、蘇るときが来た。

40年を越える月日は、重く暗く。

鋼の身体を持つ男は。

今・・・時の彼方から・・・鋼の体を持つ男が帰ってくる・・・

次回、スーパーヒーロー作戦SPIRITS

「百鬼魔界」

魂より継がれし物語・・・今こそ語ろう・・・




後書け。

―――ナカジマ隊員がいないだけで、こんなにまじめな話になるとは。

侮りがたし、幻の遊星。

ハネジロー「ぱむ。」

そうだよなぁ。ナカジマ隊員がビビリ過ぎなんだよな、あの話。

秋子さん「まぁ、いいでしょう。栄光と伝説の話が薄めですね?」

いや・・・だって、フレンドシップ計画は魂世界にないですから。

それに、フルハシ参謀やダンも大体・・・ええと、ダンがウルトラマンレオでMAC隊長やってたくらいの年齢だし。魂世界では。

原作の1999では30年以上たってても、魂世界で初代ウルトラ警備隊が活躍していたのは、10年前くらいですから。

ただ、FS計画がないといっても、後の地底貫通弾とかワームジャンプミサイルとかのエピソードで、タカ派なカジ参謀には暗躍してもらいます。

ゴンドウ参謀にも。

秋子さん「そうですか・・・では、次はようやくメタルダー登場ですね?」

うぃ。頑張ります。

メタルダー早くDVD化しないかなぁ・・・

ではまた。

秋子さん「では、次回もこの番組で会いましょう。」

ハネジロー「ぱむ!」

ではまた。シュワッチュ!!


オ、押していただけるとうれしいです・・・



後書き劇場「ゼンガーとレーツェル」

ゼンガー「なぜ偽名を名乗る。」

レーツェル「かっこいいからでは不満か。」

ゼンガー「不満だ。」

レーツェル「忘れたのか、アインスト事変を。最重要機密事項のアレを知る人間はマークされているのだよ。私はお前とちがって、家族もいるのでね。」

ゼンガー「そうか。」

レーツェル(だが、本当はかっこいいからなんだがな。)

ゼンガー「何か言ったか?」

レーツェル「いや、何も。」

どっとはらい。

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