・・・部屋の中で、男が溜息をつく。 
 
老人・・・もう、傘寿を越えているであろう男は、悩んでいた。 
 
―――あの時、私が彼に約束したことが、果たして実現できるのかどうか。 
 
そして、考える。 
 
―――あの青年は、気づいているのだろうか? 
 
・・・確かに、あのときの彼・・・鋭い瞳の男にその気配が見えた。 
 
いや、確信すらしていることだろう。 
 
―――彼を目覚めさせるには、私が・・・ 
 
そうしなければ、彼の心が目覚めることはないだろう。 
 
部屋の中には、一人の青年がいた。 
 
ベッドに身じろぎもせずに横たわるその姿は、人であって人ではない。 
 
その心は人間に等しく、かつ完全な良心を持っているために人間とは等しくない。 
 
果たして、自分の作った"彼"は真の人間として生きていくことが出来るのだろうか。 
 
はたして、"彼"を目覚めさせることは人にとって・・・ 
 
この星の未来にとって、善か悪か・・・ 
 
自分の年の離れた友人の作った、ベッドの上の男・・・ 
 
人造人間キカイダー01・・・イチローを見つめながら、彼はひとりごちる。 
 
「しかし、私は・・・」 
 
そう言った彼の脳裏には、年の離れた友人との約束・・・覚醒の約束が思い浮かぶ。 
 
『世界が危機に瀕したとき、必ず彼らを蘇らせ、自由と平和のために貢献しよう。』 
 
光明寺という名の友人と、そう約束した・・・はずだ。 
 
「―――私、は・・・」 
 
煩悶する老人の手には、一枚の古い写真が握られていた・・・ 
 
 
 
スーパーヒーロー作戦SPIRITS
第二十三話「百鬼魔界」 
 
 
 
―――エリアルベース 士官食堂 
 
「そうか、お前さん任務が出来たのか。」 
 
虚と我夢、それから梶尾は食事を取っていた。 
 
現在午前7時。 
 
朝の遅い我夢には珍しいほどの時間に顔を出した彼をからかうかのように梶尾は口を開いた。 
 
「はい。先日の・・・月面基地壊滅にかかわっていると目される、メラニー遊星の調査へ向かうことになりました。」 
 
「なるほどな・・・気をつけろよ、我夢。」 
 
虚は口に含んでいたカレーライスを飲み込んで、含めるようにそう言った。 
 
「わかってます。午後のダヴライナーでTPC極東支部へ飛びます。そこから、スーパーGUTSのGUTSイーグルで出動する予定です。」 
 
いつもとは違って、少し緊張しているのだろうか、微妙に落ち着いている我夢を見て虚は少し思った。 
 
―――自分も行くべきではないか。 
 
そう嫌な予感がしたが、彼も自分の任務がある。 
 
その思いを飲み込んで、虚は目の前の青年とパイロットを見た。 
 
「我夢、お前はいつも先走るからな。向こうさんに迷惑かけるんじゃないぞ?」 
 
梶尾がそう言って、ラーメンをすする。 
 
我夢はその言葉に少し気を悪くしたのか、「もう、梶尾さんに言われなくてもわかってますよ!」と口を尖らせた。 
 
「そうだな、気をつけるに越したことはないな。俺も午後からやることが出来た。頑張ってくれ。」 
 
素っ気無く虚はそういって席を立った。 
 
我夢に与えられた任務は複雑だ。 
 
それでも、きっと我夢とミズノエノリュウの一件の際に出会った青年・・・スーパーGUTSのアスカ隊員とが一緒に居るならば何らかの成果を上げるだろう。 
 
それを信じているから、彼は素っ気無くそういったのだった。 
 
「さて・・・俺の任務は気が滅入るものだからな・・・」 
 
虚はそう言って、歩きながら脇に挟んでいたファイルを開く。 
 
「―――超人機、メタルダー・・・か・・・」 
 
そう呟いた彼の目には、一人の人造人間の青写真が映っていた。 
 
「父さん・・・正直、重いな・・・死ぬって、分かってる人を止められないって・・・」 
 
苦くその言葉を飲み込んで、彼はそのファイルの内容を作った人物のことを思った。 
 
「許されざる罪・・・見も知らぬ自分自身の罪・・・何のことなんだい、父さん・・・」 
 
普段の彼の様子からかけ離れた、疲労を宿して。 
 
彼は通路の向こうへと消えていった。 
 
 
 
―――都内某所 ある共同墓地 
 
「古賀博士、あまり時間はありませんよ・・・?」 
 
虚はそう墓地の入り口へ向かう博士に言った。 
 
「分かっているとも・・・だが、少し・・・少しだけ待っていてくれ・・・」 
 
申し訳なさそうにそういう博士に微笑み、「冗談ですよ・・・ゆっくりなさってください」と返して虚は視線をそらした。 
 
頭を下げて、奥へ向かう彼の背中をじっと見詰めていると、イチローが虚に声を掛けた。 
 
「虚君・・・君は知っているのか?古賀博士が何をしようとしているのか・・・」 
 
「・・・知っている。」 
 
「なら・・・止めるべきだ。君はそう思っているはずだ・・・」 
 
イチローの言葉に、虚はうめくように言った。 
 
「だからと言って・・・だからと言って止められるものではない・・・止めることが出来るなら、止めているさ。」 
 
「危険すぎる。それで、"彼"が目覚める保証は無い・・・いいか、俺は止めるからな。」 
 
イチローは虚を咎めるようにそう言った。 
 
「止めてもいいさ。ただ、無駄だと思うがね・・・」 
 
イチローになるべく聞こえないように、虚はつぶやく。 
 
だが、その言葉は・・・人造人間であるイチローの耳には聞こえていたのだ・・・ 
 
そう、聞こえていた・・・ 
 
 
 
「竜夫・・・私は帰ってきた・・・」 
 
その共同墓地の片隅にある小さな墓の前に古賀博士は立っていた。 
 
白い花を手に持ち、心なしか懐かしそうに・・・ 
 
43年前・・・1982年の極東戦争で戦死した息子・・・古賀竜夫の墓だ。 
 
海軍航空隊の一員として、戦地である北海道へ向かった彼は・・・ 
 
当時、「雲雀」と呼ばれていたニセコ要塞線所属航空隊の多くと同じく、帰ってこなかった。 
 
博士は古びた十字架の下にその純白の花束を添えると、懐から古い写真を取り出した。 
 
色は失せ、もうセピア色の情景となってしまっている、息子の写真だった。 
 
包んでいた紫色の布をしまい、その写真を花束の傍に置く。 
 
「竜夫・・・聞いてくれ。今、世界では異常な事件が起き続けている。私は・・・謎の事件を背後で操るものたちの存在をようやく知った・・・」 
 
震える声でそういって、博士は祈る。 
 
「そのために、私は急いで日本へ帰ってきた。お前にだけは・・・お前にだけは、私の気持ちを知っておいて欲しかった。」 
 
そして、写真を懐にしまうと・・・彼は空を見上げる。
 
「覚悟は決まったよ、竜夫・・・」 
 
―――その時だった。 
 
「覚悟は決まった・・・?ならば死んでもらおう!!」 
 
声が響いた。 
 
銃弾が舞う。 
 
しかし、その銃弾は博士に届くことは無かった。
 
「ギルハカイダー!!」 
 
ギゥン! 
 
声・・・ギルハカイダーの声と博士の間にイチローのダブルマシーンが割って入ったのだ。 
 
イチローの叫びがこだまする。 
 
「博士を狙ってくるとは思ったが、こうも姑息とはな!」 
 
「ふん!卑怯もへったくれもあるか!VIPから目を離す貴様らが悪いのよ!!」 
 
向こうからギルハカイダーが現れる。 
 
「古賀博士を狙って、何をたくらんでいる、ハカイダー!?」 
 
「ふはははっ!そう簡単に教えると思っているのか?」 
 
「ならば・・・腕づくで聞くまでだ。お前こそ迂闊だったな。」 
 
その時、教会の上から何かが落ちてきた。 
 
それは・・・ 
 
「不意打ち御免!」 
 
ガキィン!! 
 
落ちてきたのは虚だった。 
 
その手にはレーザーブレードが握られている。 
 
その一撃を受けたギルハカイダーの腕は内部の機械がむき出しになるほど傷ついた。 
 
「ぐぉっ!?己・・・!!」 
 
苦しげに悪態をつくギルハカイダーに、イチローは「さぁ、話してもらうぞ」と迫る。 
 
「チッ・・・」 
 
「ハカイダー三人衆を連れてこなかったのは失敗だったな、ギルハカイダー!」 
 
ジリジリと近づき、イチローはその腕を頭に掲げる・・・ 
 
いや、掲げようとした。 
 
だが、その瞬間地面に矢が刺さる。 
 
ぼんっ! 
 
爆発が起こり、煙が舞う。 
 
『ホホホホホホホホホホホホホホ・・・』 
 
「誰だ!!」 
 
突然響いてきた笑い声に振り向くと、それは・・・ 
 
「ホホホホホホホホ・・・ネロス帝国の戦闘ロボット、ビジンダー!!」 
 
それは、赤い女性型の人造人間だった。 
 
(出来る・・・!敵ならば厄介だな・・・) 
 
心でそう呟き、司会にビジンダーの姿を認めると、イチローは叫ぶ。 
 
「ネロス帝国だと・・・!」 
 
「ホホホホホホホホ・・・ビジンダーレザー!!」 
 
だが、ビジンダーはイチローの言葉に答えず、その代わりに胸からレーザーを放つ。 
 
「くっ!?」 
 
そして・・・その光線の爆発にまぎれ、ただ笑いだけを残してビジンダーは消えた。 
 
気づけば、ギルハカイダーも消えている。 
 
「―――ネロス帝国・・・急がねば・・・」 
 
古賀博士がつぶやいた。 
 
「―――行きましょう、博士・・・」 
 
虚がそう促すと、イチローも博士も歩き出す。 
 
博士の決意は、鋼鉄よりも硬そうだった・・・ 
 
 
 
東京、某所 桐原コンツェルン本社ビル 
 
異様な形、と表現するのが正しいだろう。 
 
天を貫く摩天楼の中でも、一際異彩を放つそのビルは。 
 
色は漆黒、未来的な装いの材質で出来たそのビルの頂上にはL字型の構造体が鎮座している。 
 
そのビルの最上階・・・総帥私室で、その男はたたずんでいた。 
 
漆黒のデスクに、葉巻を持って佇む男は・・・30代半ばといったところだろうか。 
 
その瞳には冷酷な色が浮かび、その眼差しは死の様に冥い。 
 
NMSよりは古い歴史を持つ大企業、桐原コンツェルンの総帥 桐原剛三である。 
 
「報告せよ、K、S。」 
 
その冷たい声に、傍に控えていた秘書たちが報告を始めた。 
 
「申し上げます。ニューヨークの株式市場が暴騰を続けています。NMSの仕組んだものと思われます。」 
 
「同じくロンドン市況、東京株式市況も高騰を続けています。いかがいたしましょう?」 
 
二人の秘書の言葉に、桐原は黙考する。 
 
「・・・小童が、私の狩場に手を出したことを後悔させてやろう。」 
 
そう前置きして、彼は言葉を紡ぐ。 
 
「買占めよ。全世界の金融市場の財務局長に伝えよ・・・強気一本で行け、とな。」 
 
葉巻を指揮棒の代わりに振って、そう言った。 
 
「帯脇コンツェルンとの業務提携継続について・・・如何いたしますか?」 
 
「現状を維持しろ。あの男が今の段階で我々に反旗を翻すとは思えん。BBの貸しもある。なんにせよ、規模は我々が大きいのだ。隙を見て併呑することも考えて今後の行動計画を立てよ。」 
 
次々と用件を片付けていく・・・ 
 
「中近東で内乱の気配があります。」 
 
「ペルシャ湾に原子力潜水艦を派遣せよ。コンツェルン所属のタンカーのみ守れ。」 
 
そこまで言って秘書たちに振り返ると、にやりと笑う。 
 
「他社のタンカーが、動乱の煽りを食って幾ら沈もうが・・・ハハ、私には関係ない。」 
 
そう言うと・・・桐原は口調を変える。 
 
人間・・・の言葉ではない口調をする。 
 
『私を・・・夜の闇に包め。』 
 
―――その言葉と共に、秘書たちは部屋の照明を落とし、部屋を真っ暗にする。 
 
同時に、桐原・・・いや、桐原だったものが蠢いた。 
 
変わって行く。 
 
徐々に、その姿は老人の姿となり・・・ 
 
気がつけば、彼は・・・兜を被った老人へと変じていた。 
 
邪悪な欲望がその相貌からギラギラと感じられる・・・ 
 
王の如きその男は、夜の闇が開けるとすでに総帥私室から姿を消していた・・・ 
 
 
 
―――ゴーストバンク。 
 
それは・・・ 
 
ネロス帝国の秘密要塞・・・ 
 
地下を常に移動し続けているため、その発見は容易ではない。 
 
と言われている。 
 
『ネロス!ネロス!ネロス!ネロス!ネロス!・・・』 
 
大広間だ。 
 
広間の脇には・・・何かの入り口なのだろうか。 
 
大量のオブジェが飾られている。 
 
『ネロス!ネロス!ネロス!ネロス!ネロス!・・・』 
 
その空間には割れんばかりの歓声が鳴り響いていた。 
 
―――オブジェ・・・いや、やはり入り口なのだろう。 
 
その中から・・・大量のロボット・・・怪人、そして異形の怪物たちが姿を現す。 
 
そのどれもが腕を振り上げ、玉座の上の男を称えていた。 
 
玉座の男・・・そう、怪物へと変じた桐原剛三である。 
 
彼は両手を挙げ、怪人たちを制する。 
 
「余は神・・・全宇宙の神・・・帝王ゴッドネロスなり・・・」 
 
―――ゴッドネロス! 
 
そう、この異形の老人こそが・・・ 
 
ギルハカイダーが述べた、帝王ネロス! 
 
・・・ネロスは言葉を更につむぐ。 
 
「―――世には向かうものは誰一人として容赦はせん・・・全て抹殺・・・!その者どもに死を!与えよ・・・!」 
 
『オォーーー!!』 
 
その完成を満足そうに聞くと、ネロスは演説を続ける。 
 
「戦争・・・動乱は果てしない武器と人の命の消費だ・・・消費があればそこに需要が生まれる。余の帝国は動乱を演出し、ひそかに武器を売る・・・莫大な利益を得る!!」 
 
そこで一旦言葉を切る。 
 
一見正しく見える、悪に満ちた世界の論理だ・・・ 
 
「動乱・・・破壊と流血の後には飢餓と貧困が生まれよう・・・だが、弱者に用はない!いつの世も強い者だけが生き残る・・・栄える資格を得るのだ・・・滅び逝く弱者に涙など要らぬわ・・・!」 
 
『オォーーーー!!!』 
 
更なる歓声がとどろく。 
 
「―――余はこの世に二つとない帝国を作り上げるために、無敵の・・・四軍団を作り上げた・・・」 
 
「ヨロイ軍団凱聖・・・クールギン!!」 
 
銀の甲冑に身を包んだ男が叫ぶ。 
 
「戦闘ロボット軍団凱聖、バルスキー!!」 
 
その言葉を紡いだのは、筋肉質な肢体を持つ人造人間だ。 
 
「モンスター軍団凱聖、ゲルドリング・・・!」 
 
そう言ったのは、邪悪な容貌をガラス管の中に見せている怪物。 
 
「機甲軍団凱聖、ドランガー!!」 
 
全身武器庫のような印象を受けるロボットがそう言う。 
 
「そして、余は新たな軍団の結成をここに宣言する・・・出でよ・・・」 
 
ピシャァン! 
 
その言葉と共に稲妻が閃いた。 
 
「破壊ロボット軍団、凱聖ギルハカイダー・・・参上しました。」 
 
大仰に現れたのは・・・ギルハカイダーだ。 
 
「余の帝国と軍団に栄えあれ・・・」 
 
『ウォーーーー!!!』 
 
その歓声を聞き、満足そうに眉を動かすと、ネロスはその指を前へ出す。 
 
それと同時に、彼の指先から光が生じ・・・前方にホログラフが映し出される。 
 
「見よ・・・」 
 
その姿は・・・ホログラフの示す姿は・・・ 
 
そう、それは間違いもなく疑いようもなく。 
 
古賀博士だ。 
 
不愉快気に呻くと、ネロスは言った。 
 
「この男・・・余の帝国に必ずや災いを残す・・・既に命じた者たち・・・」 
 
そして、彼は言った。。 
 
「破壊ロボット軍団を中心に、全軍を挙げて抹殺せよ・・・!」 
 
―――場がどよめく。 
 
これだけの戦力を同時に投入することは、帝国始まって以来のことであった。 
 
それが意味するところ・・・すなわち。 
 
・・・古賀博士に、危機が迫っていた・・・! 
 
 
 
―――シークレットハイウェイ 
 
旧TDFの使用していた秘密ルートを通って、古賀博士らは急いでいた。 
 
「博士・・・目的地は?」 
 
イチローがそう聞くと、博士は答えた。 
 
「―――富士地下・・・日本国防軍秘密大本営の跡地だ。」 
 
「・・・秘密大本営?」 
 
「そう・・・極東一年戦争において、ソビエト軍の本州侵攻が目前となった時・・・密かに建設されていたものだ。結局は使われなかったがね・・・」 
 
そう言って、博士は溜息をつく。 
 
「自分の作ったものがもたらした結果・・・それは破壊だけだったよ、柊君、イチロー君・・・」 
 
―――虚は黙ってその言葉を聴いていたが、少しだけその言葉に反感を持った。 
 
――――博士・・・そう、自分を卑下することはないですよ・・・ 
 
貴方が、一号兵器を・・・ロボット兵器を作り出したからこそ、無意味な戦争はさっさと終わってしまったんだと、私は思います・・・ 
 
平和主義の限界点だな、と思った。 
 
戦後の北海道の荒廃を自分のせいにしているのではないか・・・とも思えた。 
 
しかし、この博士の善意は本物だ。 
 
だからこそ・・・決断したのだ。 
 
主義主張を超えて、人とその心を守るために・・・ 
 
―――その時、虚の車の端末が警告を発した。 
 
「―――っ!見つかったようです、飛ばします・・・舌を噛まないでください!」 
 
上空監視用のカメラ映像は、確かに飛行機型の人造人間・・・ 
 
ネロス帝国の激闘士ストローブを捉えていた。 
 
付かず離れず・・・ 
 
ストローブは確実に自分たちを追っていた。 
 
「チ・・・やはり、所詮は10年前の秘密ルートだな・・・降りて、自分たちのマシンを使おう、イチローさん!」 
 
「分かった!」 

そういうと、二人とも自分のマシンを呼び出す。 
 
「サンファルコン!!」 
 
イチローも自分の命令電波をダブルマシーンに飛ばした。 
 
「虚君、サンルーフを開けてくれ!3・2・1で飛び出します、博士。しっかりつかまっていてください!!」 
 
「う、うむ!」 
 
そうして、虚は無言でサンルーフを操作する。 
 
サンルーフが開く。 
 
「ダァーッ!」 
 
空へ飛び出す。 
 
既に彼の愛車は隣まで来ている。 
 
ストローブが反応するより早く、イチローはダブルマシーンに飛び乗り、サイドカーに博士を載せてヘルメットを手渡す。 
 
虚も飛び出して、上空で待機していたサンファルコンに飛び乗った。 
 
「このまま一気に飛ばすぞ!」 
 
「おう!」 
 
そうした二つのスーパーマシンは、時に低空から、時に高空からせまるストローブの攻撃をかわしつつ・・・ 
 
ついに、目的の場所・・・ 
 
富士樹海近くに辿り着いた。 
 
「ここからは・・・徒歩になるな・・・」 
 
虚はそう言うと、博士を促す。 
 
「ここに・・・あるのですね・・・」 
 
「そう・・・ここに、この奥にある洞穴に私の過ちと・・・希望が眠っている。目覚めさせるまで・・・私は死ねないんだ・・・」 
 
己に言い聞かせるようにそう呟くと、博士は二人を先導するように歩き始めた。 
 
「―――ここだ。」 
 
深く口を開けたその穴は暗く・・・ 
 
命すら飲み込んでしまうような気がした。 
 
3人は洞穴を進み・・・やがて・・・ 
 
洞穴のかなり奥まで進んだ。 
 
だが・・・ 
 
「ハイル!ハイル!」 
 
・・・何ということだ。 
 
そこには、ハカイダー部隊のアンドロイドマンが待ち受けていた。 
 
「チ・・・ここまで入り込まれているとはな・・・」 
 
「行くぞ、柊君!」 
 
そう言って、イチローはアンドロイドマンを殴りつける。 
 
強力な腕力がアンドロイドマンの一体の機能を停止させる。 
 
「彼は・・・大丈夫なのか・・・?」 
 
アンドロイドマンを叩きのめしながら、虚は呟いた。 
 
だが、それに古賀博士が答えた。 
 
「心配ない!あの扉は私以外に開けることは出来ない!そして、この洞窟の構造物は核戦争を想定して設計されている。ちょっとやそっとの攻撃ではびくともしないはずだ!」 
 
「安心しました!」 
 
そう言って、また一体叩きのめす。 
 
「それにしても・・・あっ!?」 
 
その時、アンドロイドマンが一体、虚の防御を潜り抜けて古賀博士に向かっていった。 
 
「博士!!」 
 
「う、うわぁっ・・・!」 
 
「ハイル!!」 
 
しかし、その攻撃は・・・失敗に終わった。 
 
「トゥ!!」 
 
突如として、青いジーンズの女性が現れ、アンドロイドマンを吹き飛ばしたのだ。 
 
「・・・誰だ!?」 
 
イチローのその声に、女性はただ、「私はマリ・・・」と答え・・・ 
 
未だ残るアンドロイドマンへと向かっていった。 
 
「―――あの動き・・・人間のそれではない・・・そして、あの姿・・・まさか・・・」 
 
虚がそう呟いたのは、誰に聞こえたろう・・・ 
 
小さな戦いは、まだ延々と続いていた。 
 
 
 
―――樹海前の平原・・・ 
 
そこでは、今まさに・・・ネロス帝国の軍団員が集結していた。 
 
「―――ハイル、ネロス!」 
 
ギルハカイダーがそういって敬礼する。 
 
目の前にいるのは、先程まで古賀博士を追撃していた、機甲軍団員・・・ 
 
「機甲軍団、激闘士ストローブ!」 
 
「知っているだろうが・・・破壊ロボット軍団凱聖ギルハカイダーだ。古賀はどっちに逃げた?」 
 
ギルハカイダーはそう言うと、ストローブを見た。 
 
「古賀は・・・樹海に逃げた。」 
 
「ほう・・・」 
 
ギルハカイダーは一言呻くと、思いついたように言った。 
 
「―――どうやら、奴が連中に接触したようだ・・・クックック・・・面白くなった。」 
 
「どういうことだ、凱聖殿?」 
 
そう言ったのは・・・ギルハカイダー・・・いや、むしろ本来のハカイダーを思わせる、ライフルを持ったロボットだった。 
 
「貴様・・・名は何と言った?」 
 
「ふん・・・お前のような下衆の新参者に名乗る名は持ち合わせちゃいない・・・」 
 
「なんだとぉ・・・!」 
 
食って掛かったのは、レッドハカイダーだ。 
 
「まぁまぁ、そうカリカリなさんなって、トップガンダーさんよ?」 
 
一触即発の雰囲気を宥める様に、肩に白い女性ロボットを乗せた銀色のロボットが言った。 
 
「そんなことより、本当にあの爺さん一人ぶっ殺せば終わりなのか、この仕事は?やる気でないねぇ・・・」 
 
「そうね、ガンギブソン?文句を言うつもりはないけど・・・あんまり私たち向きの仕事とは思えない。」 
 
「キャロル、やっぱりそう思うよな?」 
 
その銀色のロボ・・・ 
 
ガンギブソンはつまらなそうにそう言う。 
 
「同感だ・・・それに、つるむのは性に合わん・・・」 
 
トップガンダーと呼ばれたロボットは、そう言うと近くにあった手頃な岩に座った。 
 
「―――ふん、帝王の御命令に疑問を差し挟む余地はない!奴ごと連中を吹き飛ばしてやる・・・!」 
 
「―――なんだと?」 
 
「クックック・・・今、奴らと接触している人造人間・・・俺たちが顔を合わせた時にいた、ビジンダーという人造人間にはある回路が付けられている。」 
 
そう言うと、ギルハカイダーは笑った。 
 
「我々の邪魔をする者どもの弱点はなんだ?」 
 
「そりゃ・・・まぁ、結構甘い奴とかもいるんじゃないか?女子供は殺せない、とかよ。」 
 
ガンギブソンの言葉に、ギルハカイダーは満足そうに頷いた。 
 
「フッフッフ・・・さすがは帝王がご自分で作られた人造人間だ、中々に面白い作りをしている・・・」 
 
そう言うと、ボタンのようなものを取り出す。 
 
「あの人造人間は人間に化ける機能を持っている。そして・・・人間に化けた時、その心は変わる・・・人間のように悲しみ笑い愛する心を持つようになるのだ!」 
 
言って、彼はそのボタンを押す。 
 
「―――そんな"人間"が突然苦しみ始めたらどうする?服をはだけさせたり、苦しみが少ない格好をさせたりして介抱するだろう?連中は・・・そして、服をはだけさせる・・・マリとかいう人間体の服の第二ボタンをはずした時・・・クックックックック・・・ハーッハッハッハッハッハ!!」 
 
そう哄笑するギルハカイダーを・・・三人の暗殺ロボットたちは不快気に見つめていた。 
 
 
 
アンドロイドマンを片付けた虚とイチローと・・・そして謎の女性マリは相対していた。 
 
「君は一体・・・」 
 
イチローが呟く。 
 
「聞かないでください・・・」 
 
そういう彼女だったが、不自然すぎた。 
 
虚は「失礼ですが」と前置きして言った。 
 
「貴方は・・・ロボットではありませんか?先程の戦闘力からして、人間とは考えにくい。かと言って、改造人間ではなそうだ・・・強化服をまとっている様子もない。」 
 
小さく、「何より・・・私は貴女を知っています」と付け加える。 
 
「貴女は・・・ネロス帝国の人造人間ですね?私の記憶が確かなら・・・」 
 
そう言って、小さい写真を取り出す。 
 
どうやら、あのファイル・・・そう、メタルダーの青写真がなぜか載っていたファイルのものであるらしい。 
 
その写真には、マリの姿と・・・設計図らしいものが写っていた。 
 
「数時間前・・・我々を襲った人造人間・・・ビジンダーは貴女ですね?」 
 
「知りません・・・!」 
 
そうしらをきる彼女だったが・・・ 
 
虚がそんなものを持っているのは確かに疑問だが、それが存在するのは事実だ。 
 
それを引っ手繰るようにイチローは手にする。 
 
瞬時にイチローはそれをスキャンする・・・するが、しかし・・・ 
 
それには、全く改竄の後は見られなかった。 
 
つまり、合成写真ではないということである。 
 
・・・ならば・・・やはり・・・ 
 
「マリさん・・・?」 
 
イチローが疑念の声をかける・・・ 
 
が、その時のことだった。 
 
「・・・!?」 
 
マリは、目を見開くとそのまま前にくず折れる。 
 
「―――グゥゥゥッ・・・!?」 
 
苦しそうに胸を押さえ、苦しみを訴える 
 
「苦し・・・い・・・うぅぅぅっ・・・」 
 
「大丈夫か?!」 
 
イチローはかけより、胸のボタンを外そうとする・・・ 
 
が。 
 
虚が止めた。 
 
「やめろ、イチローさん・・・外すな。多分、何かある・・・」 
 
「・・・怒るぞ、虚君・・・苦しんでいるものを放って置くことなど、俺には出来ない。」 
 
イチローの怒気を孕んだ声を聞き、そして虚は答えた。 
 
「―――待ってくれ・・・これは多分・・・激痛回路だ・・・」 
 
その言葉に、後ろで休んでいた古賀博士が声を上げた。 
 
「激痛回路だと・・・?なんということを・・・!」 
 
憤慨を体全体で表して彼は叫んだ。 
 
激痛回路。 
 
人造人間に擬似的な苦痛を与える装置である。 
 
自律型のロボットには、通常は人間と同様に痛覚が備えられる。 
 
何故ならば、自動で動き続ける彼らにとって、痛みを感じない・・・故障を放置することはデメリット・・・致命的な損傷を放置し動作し続ける可能性があるからだ。 
 
苦しみを訴え、他人に早く修理してもらう・・・ 
 
そのための装置を逆用した装置が激痛回路だ。 
 
それを使って人造人間を脅し、犯罪を働かせるという犯罪が少し前に流行っていた。 
 
しかし、2021年にK・・・ロボット刑事Kの生みの親とも言うべきマザーと呼ばれるスーパーコンピュータが竣工したと同時に施行された「人造人間基本法」でそういった行為は禁止される。 
 
以降はその手の事件は減ったが、犯罪ロボットの出現は増えていった。 
 
その流れの中で古賀博士も心を痛めていた一人だったのだ。 
 
「見せたまえ。例えネロス帝国のロボットだとしても・・・放っておく訳には行かない。」 
 
「・・・」 
 
苦しみつつも黙っているマリに古賀博士は近づいていく。 
 
しかし、古賀博士が彼女を腕をつかむ寸前に彼女は立ち上がり、後ろに大きく一歩下がる。 
 
「・・・く・・・しかし・・・私は、確かにネロスの人造人間です。そんな私が、貴方がたのお世話になるわけには・・・」 
 
虚はため息をつき、そういう彼女に声を掛けた。 
 
「―――君は悪の人造人間ではないはずだ・・・少なくとも、私が知っている情報ではな・・・」 
 
「僕もそう思う・・・確かに、古賀博士を救った君の姿は悪い人造人間のそれじゃなかった・・・」 
 
イチローの言葉に、マリは深く頭を下げる。 
 
そして・・・ 
 
「チェンジビジンダー!」 
 
そう叫んだ。 
 
瞬時、彼女の姿はビジンダーへと変わっていた。 
 
「私はビジンダー!私の使命は、ゼロワン!お前たちを破壊すること!情けを掛けるな!!」 
 
そう怒声を浴びせ・・・ 
 
彼女は洞窟の外へと駆け出していた。 
 
「待て!!」 
 
「いや・・・追わないほうがいい・・・それより・・・」 
 
虚はイチローにそういうと、古賀博士に向き直る。 
 
「―――封印を解きに、参りましょう・・・」 
 
そう言って、奥へと向けて歩き出した・・・ 
 
 
 
やがて、三人は・・・ 
 
厚い石壁の中、少しだけ薄く・・・扉に見えないこともない壁の前に立っていた。 
 
「―――確か、ここに・・・あった。」 
 
そういって博士は、壁の一部を開けると、中からスイッチが現れた。 
 
「君たちは・・・ここで待っていてくれ・・・」 
 
「待ってください、博士・・・貴方は・・・」 
 
そういって、イチローが扉を開けようとする博士を止める。 
 
だが、彼は取り合わない。 
 
「光明寺君と約束した。それに・・・あの時から、"ヤツ"がプロジェクトから姿を消したあの日から、いつかこういう日がくることは分かっていた。」 
 
そういってニコリと笑う。 
 
「私がいかなければ、彼の心が目覚めることはないだろう。だから・・・」 
 
そう言うと、博士は止めるまもなく扉を開ける。 
 
そして・・・ 
 
「御武運を・・・」 
 
そう言った虚の言葉を背に、イチローの制止を振り切って扉の向こうへと消えて行った・・・ 
 
 
 
「―――チッ!使えん・・・あの野郎・・・もう少しでここらごと木っ端微塵にできたものを・・・!」 
 
ギルハカイダーはそういって悪態をついた。 
 
「どういうことですか、ハカイダー?」 
 
レッドハカイダーがそう聞くと、ギルハカイダーが口を開いた。 
 
「ふん・・・あやつ・・・ビジンダーの内部には小型水爆が内蔵されておるのよ。人間体の胸の第二ボタンをはずせば爆発するよう仕掛けられてな・・・」 
 
―――その言葉に、トップガンダーはあからさまにギルハカイダーを非難した。 
 
「貴様・・・正々堂々と言う言葉を知らんと見える・・・俺は、この仕事・・・下ろさせてもらう。」 
 
そう言って彼は後ろを見せた。 
 
「帝王には如何様にも報告するがいい。だが・・・バルスキーから預かったロボットを、帝王が爆発させてもかまわん、と言ったのかな?」 
 
「なんだと!?爆発させても良いから、この機能を教えてくれたのだろうが!!」 
 
そういって、ブルーハカイダーが食って掛かる。 
 
その手を払い除け、トップガンダーが言った。 
 
「ふん・・・大方、帝王は試されたのよ。新参者の忠誠をな。」 
 
そういって、トップガンダーは歩き出した。 
 
「俺もそう思うぜ。それに、爺さん一人なぶり殺しなんて、やっぱり性にあわねえしな。俺も下ろさせてもらう。」 
 
ガンギブソンと、その肩に乗るキャロルも後ろを向いて歩き出した。 
 
「もし、メタルダーとやらが蘇ったら、手合わせ願いたいもんだぜ。それに、俺が今回日本に帰ってきたのは、アイツ・・・噂のジャンパーソンと戦うためだしな。」 
 
「じゃぁね、せいぜいお仕事頑張って。」 
 
そうして、3人とも行ってしまった。 
 
「ク・・・ええい!行くぞ!」 
 
ギルハカイダーはハカイダー三人衆に向けてそう言い放つ。 
 
後方に待機していた機甲軍団にシルバーが連絡をいれ・・・ 
 
―――すぐに、砲撃が始まった。 
 
 
 
「懐かしい・・・何もかも昔のままだ・・・」 
 
古賀博士はそういって嘆息した。 
 
部屋の中は近未来的な装いを備え・・・ 
 
40年も前の代物とは思えない稼動をしていた。 
 
部屋の中央にはベッドがあり、そこには一人の男が眠っていた。 
 
青いジャケットを身につけた、精悍な青年が・・・ 
 
1982年・・・43年前、日本は80年前の太平洋戦争に勝るとも劣らない存亡の危機に立たされていた。 
 
いや、下手を打てば全面核戦争へと移行し、世界が滅びていたかもしれない。 
 
そう、1982年10月・・・ソ連軍の北海道侵攻を機に始まった極東戦争は各国の思惑を超えて拡大し、本州侵攻が目前となっていた。 
 
その時建造されたのが、この秘密大本営であり・・・ 
 
戦後日本がひそかに推進していた、自律式人型ロボット開発の最終段階である「超人機計画」のプロトナンバーである・・・メタルダーである。 
 
幸い戦線に間に合った、超人機以前のロボット兵器・・・一号兵器と呼ばれた十体のロボットがソ連軍を壊滅させたがゆえに、戦争は終わった。 
 
そして、古賀博士は超人機計画・・・そしてロボット兵器に関する資料を一部の軍人・科学者たちと共に隠蔽し・・・ 
 
密かにアメリカへと発った。 
 
・・・そして、43年の月日が流れ・・・今。 
 
博士は、ここにいる。 
 
「・・・そう、私が・・・当時、敗色濃い日本を救うための秘密兵器として君を作ったんだ・・・」 
 
哀しげに、古賀は言った。 
 
「今、平和のために君を目覚めさせなければいけない・・・許してくれ・・・」 
 
そう言って、起動スイッチを入れる。 
 
赤と青の光がベッドの上の青年を包んだ。 
 
手に息子、竜夫の写真を持つ。 
 
ああ、なんと言うことだろう。 
 
彼の姿は、竜夫の写し身。 
 
まるで同じ姿をしていた。 
 
「―――竜夫・・・」 
 
そう言って、彼はモニタを見る。 
 
ゆっくりと、彼が覚醒していく様子が分かった。 
 
そうしてやがて・・・ 
 
冷たい体に生気が宿り・・・手が動き・・・目が開き・・・ 
 
青年はゆっくりと起き上がった。 
 
そして、ベッドから降りる・・・ 
 
その姿を心底嬉しそうに古賀は見ていた。 
 
呟くように言った。 
 
「―――僕は、誰だ?」 
 
その言葉に、古賀も立ち上がり・・・彼の肩に手を置く。 
 
「君の名は・・・剣流星。私が名付けたんだ。」 
 
「剣・・・流星?」 
 
「そうだ。しかし、君は人間ではない・・・姿かたちは人間そっくりに出来ているが、君は超人機だ・・・」 
 
そう言って、言葉を詰まらせる。 
 
「超人機・・・?」 
 
「君の体は機械で出来ている。君は、超人機メタルダーなんだ」 
 
「超人機・・・メタルダー!?」 
 
その言葉に、感極まったのか・・・古賀は流星の腕を掴んで言った。 
 
「君は・・・これから超人機として生きていかなければならない・・・それは決して平坦な道ではない・・・君の行く手は、茨の道だ!」 
 
「茨の・・・道・・・?」 
 
なんという残酷な宣告だろう。 
 
生まれたての赤ん坊と変わらぬ彼に与えられたのは、生みの親から与えられた言葉。 
 
彼の行く手を暗示するように重く響くその言葉。 
 
そして・・・古賀は口を開く。 
 
「敵が・・・」 
 
そう言った時、山が揺れた。 
 
「敵だ・・・」 
 
ビーブービーブービーブービーブー・・・ 
 
警報音が鳴り響く。 
 
監視用のモニタには肩にミサイルをつけたロボット・・・機甲軍団暴魂ダーバーボの姿があった。 
 
「敵?」 
 
「私が、この身をもって教えよう・・・!」 
 
静かに古賀はそう言って歩き出した。 
 
後ろから響く声を・・・ 
 
「―――教える・・・何を?」 
 
剣流星のその言葉を聞きながら、彼は非常用の出口から外へ・・・ 
 
そう、死地へと向かっていった。 
 
風が、速く吹いていた。 
 
 
 
ゴゴゴゴゴ・・・ 
 
ミサイルの爆発音が響く。 
 
「―――なんだ・・・?」 
 
「攻撃が始まった・・・?」 
 
虚はそう言って、通路を戻り始める。 
 
「何処へいく?」 
 
「決まっているだろう、イチローさん。迎え撃つ!」 
 
「分かった・・・俺も行く・・・」 
 
イチローの言葉を聞くと、虚は足を速めた。 
 
「イチローさん・・・出来れば、あのビジンダーと言うロボットを助けてあげてください・・・」 
 
虚の言葉に、イチローが頷く。 
 
「ああ、悪い人造人間には見えないから・・・な。」 
 
そして、外へと出た。 
 
そこにいたのは・・・ 
 
「マリさん・・・」 
 
「分かっています・・・所詮私は・・・ネロスで生まれた、中途半端な人造人間・・・」 
 
「いや、中途半端なんかじゃない!」 
 
「ビジンダーでいるときは冷酷で残忍な人造人間、でもこのマリの姿でいるときは悪いことの出来ない半端者・・・」 
 
「それは君のせいじゃない・・・今の君が、本当の君のはずだ。」 
 
イチローの言葉を接いで、虚が言う。 
 
「そう、それは貴方のせいではない。人間が親を選べないように、ロボットも製造者を選べない。そう作ったネロスが悪い・・・と思う。卑下しないほうがいい・・・」 
 
虚はそう言って近づく。 
 
「来ないで!」 
 
「古賀博士も居る、僕も君を治すことは出来る。君を治させてくれ、正義のロボットに・・・」 
 
「いいえ!私はネロスで生まれた悪のロボット!私の使命は、ゼロワン・・・あなた方を破壊し、超人機の復活を阻止すること!!」 
 
イチローの制止を振り切り、マリは一定のポーズを取る。 
 
「チェンジビジンダー!とぅっ!」 
 
瞬時彼女の体はビジンダーへと変わる。 
 
「ホホホホホホホホ・・・ゼロワン、お前の命はもらったよ!ビジンダーレザー!!」 
 
「くっ!ダァーッ!!」 
 
放たれたビジンダーレザーを避けるためにイチローは飛ぶ。 
 
その瞬間にゼロワンにチェンジしたゼロワンはそのまま着地と同時に技を仕掛ける。 
 
「ゼロワンカット!!」 
 
ガキン!
 
「アゥッ!?」 
 
それをもろに顔面に受けて、ビジンダーはもんどりうって倒れた。 
 
「今だ、ゼロワンドライバー!!」 
 
ドゴォン!! 
 
倒れた隙にゼロワンドライバーが彼女の胴に命中する・・・ 
 
それで戦いは・・・終わった。 
 
衝撃で回路がフリーズしたビジンダーを見据え、ゼロワンは言った。 
 
「ゼロワンドライバーを受けて、この程度・・・恐ろしい相手だ・・・」 
 
「どうする、ゼロワン・・・治すのか?我々には時間がない・・・恐らく、古賀博士はもう洞窟の外・・・」 
 
「わかっている!」 
 
「・・・俺が先行しよう。イチローさんは彼女を治してやってくれ。俺だって、救えるものなら・・・な。」 
 
ニヤリと笑って、イチローの姿に戻ったゼロワンから遠ざかる。 
 
「古賀博士を・・・頼んだ。頼む、死なせないでくれ!超人機が、それでしか目覚めないとしても、死なせないでくれ!!」 
 
イチローは叫んだ。 
 
虚はそれに一つ頷く・・・ 
 
だが、心でこう呟いていた。 
 
―――この世界に、古賀博士が居る。 
 
その時から、決められた運命もあるのだ、と。 
 
少なくとも、彼の父が残したもの。 
 
そこに描かれていた事象。 
 
そのほとんどは、時と形を変えてにせよ、この世界に起きている。 
 
そう・・・ 
 
見も知らぬ罪ゆえにそれを書き残したという父の言葉どおりに、事は進んでいた。 
 
やがて、この世界にも、別の世界の父と似た役割のものが現れるだろう。 
 
そしてそれは。 
 
彼の予想通りならば、最悪の存在が・・・ 
 
父の存在を肩代わりするだろう。 
 
そう確信があった・・・ 
 
防がねばならない。 
 
そのために今は・・・ 
 
大きく流れを変える行動を起こすわけには・・・いかない・・・ 
 
そして、世界は彼らに運命を変えることを望んではいない・・・ 
 
「ごめん、イチローさん・・・俺は・・・もう間に合わないかもしれない・・・結果として見捨てることに・・・」 
 
そう言って、そう言って、酷く酷く、哀しい目をした・・・ 
 
 
 
日が照っていた。 
 
遠く響く砲撃音を聞きながら、博士は逃げていた。 
 
「剣、流星いぃぃぃぃぃ・・・」 
 
彼の名を呼びながら。 
 
後ろに迫るは、ハカイダー部隊だ。 
 
足元を根に取られ、転ぶ。 
 
哀しいかな、それは敵に気づかれてしまった。 
 
「居たぞ!追えッ!」 
 
ギルハカイダーの檄が飛ぶ。 
 
追われる博士はそれでも逃げた。 
 
唯一つ。 
 
彼の名を。 
 
超人機の名を呼びながら。 
 
 
 
「―――僕を呼んでいる!」 
 
声が聞こえた。 
 
遠く、遠雷のように。 
 
ひどく、掠れた声。 
 
彼を呼ぶ声。 
 
「剣流星」と。 
 
・・・やがて、その声は途絶える。 
 
ぎり、と拳を硬く握る音が聞こえた。 
 
声の途絶えに何を悟ったか、彼は・・・流星は駆け出す。 
 
洞窟の外へと向かって。 
 
―――雲が、高く流れていた。 
 
 
 
―――それは、誰が望んだものだろう。 
 
少なくとも、イチローは望まず、虚もまた・・・諦観を抱きつつも望んではいない。 
 
だが、そこにころがるモノ。 
 
それは紛れも無く。 
 
「――ククッ・・・死んだ、死んだ!」 
 
そう言ったのは、シルバーハカイダーだ。 
 
ソレの襟首をつかみ、無造作に。 
 
そう、ソレは紛れも無く。 
 
古賀竜一郎ダッタモノだ。 
 
駆けて来る者がある。 
 
それは・・・ 
 
―――剣、流星。 
 
「―――」 
 
彼は、博士の死体を・・・ 
 
何故、動かないのか、という目で見ていた。 
 
そして、博士を動かなくした奴らがいる、ということも理解していた。 
 
だが、彼は超人機・・・ 
 
生まれたばかりのロボット人間。 
 
まだ、生と死を理解してはいなかった。 
 
「見たな・・・?殺せ!」 
 
ギルハカイダーが命じる。 
 
すぐさま三人のハカイダーが彼に襲い掛かった。 
 
「ぐっ!?」 
 
「クールだな、おい。死んでみろ?」 
 
レッドハカイダーがボウガンで殴った。 
 
しかし・・・さして利いてはいない。 
 
それは・・・それは、彼の闘争本能を・・・ 
 
超人機、戦うために生まれた彼の心を刺激する。 
 
なおも、三人のハカイダーは彼を痛め続けた。 
 
だが・・・ 
 
吹き飛ばされた彼が立ち上がる。 
 
風が吹く。 
 
雲が流れる。 
 
太陽は遠雷に掻き消され。 
 
「怒る!!」 
 
彼は叫んだ。 
 
―――剣流星の体内に秘められた全エネルギーが感情の高まりと共に頂点に達した時、彼は超人機メタルダーへと瞬転する。 
 
電光と共に、彼の体は変わる。 
 
そう、かつて日本を救うはずだった戦鬼。 
 
「きさまぁ・・・何者だ!!」 
 
「メタルダーだ・・・」 
 
その体は・・・キカイダーに良く似た左右非対称の赤と青。 
 
その瞳は・・・ 
 
悲しんでいるように輝いていた。 
 
「チッ!かかれっ!」 
 
そう言って、ギルハカイダーが号令をかける。 
 
「トォッ!!」 
 
メタルダーが、駆けた。 
 
ガキン! 
 
一撃でレッドハカイダーを吹き飛ばす。 
 
ブルーハカイダーの攻撃をすんでのところでかわして、蹴りを見舞った。 
 
しかし、シルバーハカイダーの電磁棒がメタルダーを襲う。 
 
その隙に、残りの二人がメタルダーを押さえ込む。 
 
「よぉし・・・そのまま抑えていろ・・・」 
 
そう言ってギルハカイダーはハカイダーショットを構える。 
 
「フハハハ・・・死ね、メタルダー!」 
 
その言葉と共にハカイダーショットのトリガーが引かれ・・・いや。 
 
「シュゥッ!」 
 
別の銃弾がハカイダーショットを弾き飛ばす。 
 
「誰だ!?」 
 
「陽光戦士、カイザード!!」 
 
カイザードの放ったツインテックリボルバーの銃弾だ。 
 
「―――大丈夫か!?」 
 
「―――貴方は?」 
 
「カイザードだ!それより古賀博士は!?」 
 
カイザードは答えるメタルダーに烈火の勢いで聞いた。 
 
しかし、返ってきた答えは、 
 
「―――動かない。もう何も話さない・・・」 
 
ひどく、悲しいものだった。 
 
「なんだと・・・やはり、死の運命は覆せなかった・・・」 
 
積極的に覆そうとはしなかった。 
 
しかし、酷く空虚な感覚に虚は襲われる。 
 
古賀博士を救えなかったことを、理性では容認し理解している。 
 
だが、本能が、感情が・・・理性を非難している。 
 
救えるものを全て掬い取ってこその正義、そして平和であり自由ではないのか、と。 
 
理性が言う、それが・・・最大多数の最大救済が不可能だからこそ、犠牲を覚悟し飲み込む必要があると。 
 
結論は出ない・・・だが。 
 
―――後悔は後で良い。 
 
誰の非難だろうと受けてやろう、そう思って虚はメタルダーのそばへ走り近づいた。 
 
「―――死?」 
 
「人間は死ぬ・・・そう、機械ならなんでもない、修理すればいいだけの傷で、人は死ぬ。生き物は死ぬ・・・だから尊いんだ・・・」 
 
絞るようにメタルダーにそう言うと、虚はギルハカイダーへもう一度銃口を向ける。 
 
「―――行くぞ、メタルダー・・・博士の弔い合戦だ!」 
 
そうして、虚はギルハカイダーに組み付く。 
 
そして、ギルハカイダーが抵抗するのもかまわずそのまま空高くジャンプする。 
 
そして、二人は樹海の中へと消えていった。 
 
残されたメタルダーは・・・やはり残った三人のハカイダーと・・・そして、無数のアンドロイドマンと対峙する。 
 
―――メタルダーは考えていた。 
 
死とは、生とは・・・? 
 
そして、失った悲しみが生まれる。 
 
いずれ居なくなる、死んでしまう生命、それを自分の勝手で殺した目の前の連中を許せないと思った。 
 
そう、自分の生みの親を"殺した"、目の前の者への強い怒りが生まれる。 
 
「うぉぉぉぉぉっ!」 
 
メタルダーの感情を、理性を、心を支配する自省回路と呼ばれる回路が強く作動する。 
 
それは、もう一つのメタルダーの根幹・・・ 
 
動力源である超重力発生装置の稼働率を上げ、メタルダーにパワーを与えた。 
 
そして、その状態から飛び蹴りを放つ。 
 
「トォォゥ!!」 
 
グワッシャッァン! 
 
一撃で、レッドハカイダーの脇にあった大きな岩が砂と崩れる。 
 
「こ、これは・・・?」 
 
メタルダーは自分の体を見た。 
 
そう、彼は生まれたばかり。 
 
自分の能力もまだ満足に使いこなせていない。 
 
「食らえ!ミサイルボウガン!」 
 
どぉん! 
 
ミサイルボウガンを避け、メタルダーは突進する。 
 
「エヤァァッ!」 
 
その手刀は大木を縦一文字に切り裂く。 
 
だが、哀しいかな。 
 
その攻撃は、敵を完全に捉えることは出来ない。 
 
蹴りを食らい、押さえつけられる。 
 
だが・・・ 
 
体内の回路がパワーを伝達する。 
 
比類なきエネルギーが彼の体を駆け巡り・・・ 
 
そして、彼を押さえつける無数のアンドロイドマンは、一撃の下に吹き飛ばされた。 
 
「うぬ!?」 
 
ブルーハカイダーが呻く。 
 
「潮時だぜ、畜生!」 
 
シルバーハカイダーがそう叫び、ブルーも舌打ちをする。 
 
「撤退だ!!」 
 
レッドがそういうと、三人のハカイダーは、無数のアンドロイドマンの死骸を残して去って行った・・・ 
 
―――そうして、メタルダーは呟く。 
 
アンドロイドマンたちの死骸を見て、こう呟く。 
 
「―――これが、死か・・・」 
 
―――と。 
 
 
 
「君は、自由だ・・・」 
 
イチローはそうマリに言った。 
 
彼女の機能は完全に回復していた。 
 
「何故・・・」 
 
「理由は・・・ない。だが、俺は君に心を・・・良心回路を取り付けた。正直、不完全なものでしかない。だが・・・俺は君に、心を与えた。君のその姿が本当の君だと信じるから・・・」 
 
「―――何故、そこまで私を信用するのです?」 
 
「わからない。君を助けたいと、正義の人造人間になってほしいと願った、それだけじゃ駄目か?」 
 
そう言って、イチローは手に持った物体を差し出す。 
 
「これは高性能の水爆・・・君の体内にあったものだ。ネロスはハジメから君を捨て駒にするつもりだった・・・」 
 
正確にはそうではないのだが、イチローが敵の事情を知るはずもない。 
 
そう憶測を述べる。 
 
「こんな非道なネロスに居ていいのか!?」 
 
そう言ったとき、彼女の目から流れるものがあった。 
 
「―――!・・・君は・・・涙が流せるほどの人造人間だ。ネロスに与していてはいけない・・・!」 
 
イチローは驚き、そして説得しようとした・・・が。 
 
「―――それでも、私は・・・」 
 
ネロスの人造人間なのだと。 
 
そういい残して、マリは去った。 
 
「マリさん・・・」 
 
イチローは・・・いつか、彼女が仲間になる。 
 
そう、固く信じていた。 
 
 
 
「ツインテックリボルバー!!」 
 
ガゥン! 
 
「ちっ!」 
 
がぅん! 
 
ツインテックリボルバーとハカイダーショットの無視質な発砲音が響き続ける。 
 
「貴様ァ・・・許さんぞ!」 
 
「黙れ、それは俺の台詞だ。」 
 
そうして、また無機質に発砲音が続く。 
 
「貴様、あの教会で俺様の腕を破壊したヤツだな!?」 
 
「だったら、どうする?」 
 
そう言って、カイザードはツインテックリボルバーをホルスターにしまう。 
 
「ファイアクレスト!!」 
 
そう叫ぶと同時に、彼の両腕から高温の火球が放たれる。 
 
それは岩に激突し・・・岩が嫌な音を立てる。 
 
「―――ギルハカイダー・・・やはり、貴様を生かしておくわけにはいかん・・・」 
 
カイザードはそう呟くと、ギルハカイダーに近づいていく。 
 
「チッ!」 
 
ギルハカイダーの舌打ち。 
 
それと同時に彼は走る。 
 
「ソーラーブレード・・・!」 
 
左腕に握られた小剣が光を放つ。 
 
「カイザー!エクスティンクション!!」 
 
カッ! 
 
「ぐぉぉっ!?」 
 
その一撃は、確実に・・・ 
 
ギルハカイダーを十字に切り刻んだ・・・はずだった。 
 
「何っ!?」 
 
そこに見えたのは・・・ 
 
赤いロボット・・・ 
 
禍々しい意匠・・・そして、どこかで見た意匠のロボット。 
 
彼が放った赤い光が、カイザードの手元を狂わせたのだ。 
 
「引け、カス。」 
 
その赤いロボットはそういうと、風に溶けるように消えた。 
 
「くそっ!まさかあやつに借りを作るとは!!」 
 
そういってギルハカイダーも消える。 
 
「―――チッ・・・逃がしたか、それにしてもあのロボット・・・」 
 
一体、何者か。 
 
その言葉が宙を切る。 
 
太陽が姿を現そうとしていた・・・ 
 
 
 
銀の男は呟く。 
 
―――帝王が、老いぼれ一匹を恐れていた理由・・・よく分かった。 
 
ハカイダー三人衆を撃退したロボットを遠めに見やる。 
 
目覚めたばかりで、あの手並み・・・ 
 
決して油断は出来ぬ。 
 
そう思い、彼は歩みだす。 
 
そして・・・ 
 
メタルダー・・・そのロボットの目の前へとやってくる。 
 
静かに言った。 
 
「ヨロイ軍団・・・凱聖クールギン・・・相手を致す。」 
 
いざ尋常に。 
 
そう、彼は心の中で呟いた。 
 
彼はその腰の獲物にとを伸ばす。 
 
―――目の前の赤と青のロボットも、構えを取った。 
 
勝負! 
 
メタルダーはその構えに動けなかった。 
 
ただ無言で、無心に。 
 
ジリジリとした睨み合いが続く。 
 
やがて、対峙する二人の戦士は、横走りに駆けはじめる。 
 
間合いを維持したまま。 
 
そのまま・・・ 
 
やがて、崖に出た。 
 
そして、勝負は一瞬でついた。 
 
メタルダーが腕を横に構え、クールギンが走る。 
 
二人がすれ違う。 
 
その時・・・ 
 
瞬間、クールギンの腕が閃いた。 
 
抜刀術だ。 
 
鞘で加速され、神速を得て放たれた剣技は、メタルダーの肩を切り裂く。 
 
「――――!! ウワァァァァ・・・!!」 
 
そして、メタルダーは崖から落ちていった。 
 
下は、湖。 
 
例えロボットといえど、助かるまい・・・ 
 
剣を鞘に収める。 
 
クールギンはメタルダーの死を確信し、残心も残さずにその場を去った。 
 
しかし、それが・・・ 
 
彼の人生の中で最も後悔すべき出来事になるとは、この時誰も知らなかった・・・ 
 
 
 
「―――博士・・・」 
 
イチローが低く呟いた。 
 
「本当に、こうするしかなかったのですか・・・?」 
 
博士の死体を抱き、今にも涙を流さんばかりに、イチローはそう言った。
 
「・・・」 
 
メタルダーは、そのままの姿で・・・ 
 
佇んでいた。 
 
崖から這い上がり、虚たちに救われて。 
 
メタルダーは走り出す。 
 
悲しみゆえか、怒りゆえか。 
 
「―――メタルダー?」 
 
「そっとしておいてあげよう・・・彼には、学ばなければならないことが多い。」 
 
イチローは虚にそう言った。 
 
「生みの親が・・・亡くなったんだ。親を失った子供が、死を理解できなくて混乱するように、彼も・・・」 
 
メタルダーは走った。 
 
やがて、さっき這い上がってきた崖が見える。 
 
そして、崖に立ち、叫ぶ。 
 
落ち逝く太陽を。 
 
吹きすさぶ風を。 
 
流れ往く雲を見据えて。 
 
「風よ、雲よ、太陽よ・・・」 
 
低く、搾り出すように。 
 
「心あらば教えてくれ・・・」 
 
縋るように。 
 
「―――何故、この世に生まれたのだ・・・!!」 
 
ただ、答えを求めて叫んでいた。 
 
 
 
エリアルベース コマンダールーム 
 
「はい、結局・・・古賀博士は死亡しました・・・」 
 
虚の言葉に石室は深く頷き、そして言った。 
 
「そうか・・・確かに、ここに来られた時も、覚悟しておられたような感があった・・・」 
 
言葉を続ける。 
 
「ご苦労だった。ゆっくり休んでくれ・・・」 
 
千葉参謀が言葉を紡ぐ。 
 
「これで、M計画の頓挫・・・中止は免れないな。光明寺博士の遺産、そして古賀博士の遺産が残された者・・・か。ところで、その・・・」 
 
千葉参謀はそういうと、キョロキョロと見回した。 
 
「例の超人機は、何処に?」 
 
「ええ、流星なら、今・・・」 
 
「おー、ここ司令室かぁ。かっこいいなぁ!」 
 
虚の言葉と同時に、一匹の犬がコマンダールームに入ってきた。 
 
「な、何かね、この犬は?」 
 
千葉参謀が驚いて声を上げる。 
 
「何とは何だよ、俺はロボット犬のスプリンガー!ロボットの修理なら俺の右に出るやつは、そういないね!」 
 
「は、ハァ・・・」 
 
「そうか・・・では、協力してもらえるのか?」 
 
意外と理性的に石室が言うと、犬は答える。 
 
「勿論さ!古賀博士が死んだことは哀しいけど、仕方ない・・・人間はいつか死ぬ、だから尊い。でも、仇は討ちたいからな!」 
 
スプリンガーはそう言うと、後ろに促した。 
 
「おい、入ってこいよ流星!」 
 
ぷしゅっ 
 
扉が開く音がして、青いジャケットを纏った男と、イチローが一緒に入ってくる。 
 
「これから、よろしくお願いします。」 
 
流星は礼儀正しくそう言った。 
 
「シルバーカークスの資材の搬入も終わりました。これで、エリアルベースで何時でも修理できます。」 
 
イチローが言うと、スプリンガーが言った。 
 
「おう!じゃぁ、早速お前らのメンテでもするか!特に、流星!お前のほうは大手術だからな!」 
 
良く見れば、流星は片方の手が動いていない。 
 
クールギンに切られたままなのだ。 
 
「そう言えば、ここに運び込まれてるG0の修理もしなければな・・・頼めるか?」 
 
その言葉にスプリンガーが、腕がなるぜ!と言う。 
 
その光景に、やがてエクセレンやパットが加わる。 
 
「何、この犬?」 
 
「やぁ〜ん、かわいい〜〜」 
 
虚は、目を細めて事態を見守る。 
 
仲間が集まり、人が集まって、守る力になる。 
 
古賀博士を救えなかった。 
 
救う気がなかった・・・部分もないとは言わない。 
 
だけれども、救えるものを救うために今自分がここに居ることを、虚は再認識していた。 
 
「―――人間は、暖かい。」 
 
流星が周りのエクセレンや石室の腕だの頬っぺただのを触りながら言っているのが微笑ましい。 
 
「それ、セクハラだぞ、流星?」 
 
「セクハラ?」 
 
「1980年代にセクハラって言葉あったっけ?」 
 
「さぁ・・・」 
 
今は、穏やかに時間が流れていた。 
 
 
 
ゴーストバンク 
 
「超人機・・・最も恐れていたことが、ついに・・・」 
 
「―――帝王、お言葉ですが超人機メタルダーは一撃で倒し、何の不安もございません・・・!」 
 
クールギンの言葉に、帝王は眉を顰める。 
 
「黙れ・・・超人機メタルダーの最後をしかと見届けよ・・・首を持って参れ・・・さすれば、わが不安たちどころに消えよう・・・」 
 
「・・・ハハッ!」 
 
「ネメシスに言っておけ・・・今回の戦、貴殿らとは何の関係もない。領域を犯したこと、陳謝する、とな。」 
 
富士山麓にネメシスの大規模な基地がある・・・ 
 
それを、帝王ゴッドネロスは知っていた。 
 
「しかと聞いたぜ・・・ケケケッ!」 
 
「貴様何者!!」 
 
突然、声がした。 
 
ネロスとクールギンの二人しかいない大広間に。 
 
「俺は『蜘蛛』・・・まぁ、雑用と偵察だけどよ、しかとその言葉、世紀末王様に伝えてやるぜ・・・?」 
 
その言葉と同時に気配が消える。 
 
「クッ・・・侵入者を追え!!」 
 
「その必要はない・・・逃がせ。泳がせろ・・・いずれ、今回のことで何らかの接触があるだろうとは思っていた・・・手間が省けて助かる・・・」 
 
帝王はそう言うと、暗闇に溶け消えた。 
 
場には、一人クールギンが残され・・・ 
 
それも、程なくして闇に落ちた。 
 
続く。 
 
 
 
 
 
次回予告 
 
天空から危機が迫る。 
 
光の巨人は相争い、地に堕ちた光を拾い集める。 
 
蒼き巨人は、獣の。 
 
そして、紅き巨人は人の。 
 
次回、スーパーヒーロー作戦SPIRITS 
 
「天の影、地の光」 
 
―――魂より継がれし物語、今こそ語ろう・・・ 
 
 
 
 
 
あとがけ 
 
・・・死亡。 
 
忙しくて書けませんでした。 
 
秋子さん「あーあ、やっちゃいましたね。Fate/Summon nightも全然書いてないし。」 
 
非常に申し訳ない。 
 
じゃぁ、変な読者プレゼントと言うかなんというか。 
 
秋子さん「そうですかぁ、なんですか?(呆れ気味」 
 
魂本編中に出てくる、あのアヤシイノートの作者は誰? 
 
分かった人は下の拍手ボタンにメッセージと小ネタの元ネタっぽいものを入れてね。 
 
当たった人のリクエストには答える! 
 
ただし、拙者の知らぬ作品や18禁、ダーク(グロ)は却下します。 
 
では、また。 
 
秋子さん「仕方ないですねぇ・・・じゃぁ、次回もこの番組で。」 
 
あいませう。 
 
シュワッチュ!! 






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