バシュ バシュ!
 BR部隊を見事粉砕した後、突然待ちのビルが二つに割れて、出てきたガードマシンをソードランチャーで破壊しながら前に進んでいった。
「ってか、こいつら!御堂やBRが倒れてから出てきたな」
『うん、まるで図られたように…だね』
ビィン!!
 佐倉のBRも、持ち前の装甲を生かして、ガードマシンの中に飛び込んでレーザーサーベルで真っ二つに両断した。
「よぉし、ハナコ!この要塞ビルにあるガードマシンの数数えろ!」
『はい、では検索しますね』
「おう、同時にターゲットロックしてくれ!」
『了解です、ターゲットオートロック。計8つのガードマシンをロックオンしました』
 上空にブーストジャンプをして、要塞の周辺を取り巻くうざったいガードマシンを見据えた。
「武器選択!長・中距離B型ミサイル、発射!」
ドドドドドドド!!
 バックパックユニットにある、巨大なミサイルポッドが展開して上空に向かって、ミサイルが放たれる。打ち上げられたミサイルは、上空で一つずつ軌道を変えて…要塞ビルの周りにあった、うざったいガードマシンを全部吹っ飛ばした。
『全弾命中しました』
「おし、やっぱやってみるもんだな」
『え?もしかして、そのミサイルの撃ち方解らなかったとか?』
「ああ、でも初っ端でも、やってみりゃ簡単だぜ」
『君って奴は…』
 呆れたような、佐倉の声を聞きながら俺たちはビルの格納庫前まで戻ってきた。

 さて、最終決戦だぜ。待ってろよ、御堂!


勇者あいだ
第2話 魔王の腕『最終戦』〜勇者である事〜


ザシュ!ガシュ!!
 剣で、突然襲い掛かってきた吸血鬼たちを切り落とす。
「ってぇ!入って早々これかよ!!」
「外のガードが薄くなれば、当然のように中もガードが凄まじくなってるね…正念場ってわけだね」
 佐倉は冷静にそういいながら、氷の鎌で同じように襲い掛かってきた吸血鬼をばっさばっさと切り落としていく。
「あいだ君、僕はそっちやるから…向こうお願いね」
「お、おう!」
「1、 2の、3!ハイ!」
 佐倉の掛け声と同時に俺たちはBRのコックピットから降りて一斉に襲い掛かってくる吸血鬼たちに対抗した。


数分後
「ふう…やっとこれだけ片付いた……」
 最後の、吸血鬼が灰となって消えた…佐倉の方も終わったらしくこっちに戻ってきた。なんだか、ぜんぜん疲れてないひょうひょうとした表情で。
「すっげぇ、余裕だな」
「うん、こっちは早急に片付いたしね。でもよかったよ。奴らアイスコマンドの換装パーツの入ってるコンテナのパス知らなくて、なーんもてをつけてなかったし」
「ああ?確か、それを取り返しに戻ってきたんだよな」
「まあね、1階の敵はあらかた倒したから…レストランも勝手に使えるから、一休みして来なよ」
「一休みして大丈夫なのか?油断してるところをブスーって刺されねぇか?」
 剣を突き立てて、殺し屋がナイフをさすような体制になって佐倉に聞くと…
「まぁ、その時はその時だけど…今の所は大丈夫だと思うよ」
「根拠は?」
「戦力がだんだん狭まってるからね、僕らが倒した奴らで今夜の分かもしれないし」
「て、きとー…だなお前…、まあ良いや。俺もちっと休まなきゃ、御堂との決着もつけらんねぇし」
「そういう事、僕はここでちゃちゃっと、アイスコマンドの換装作業しとくからさ、休んできなよ」
「ああ…そうする」
 俺はそう言って、警戒しながら剣を持って佐倉のいる格納庫からエレベーターを通って、一階へと行く事にした。
 案の定、一階には吸血鬼どもは全然いない。逆に薄暗くてどこから来るか解らなくて皿に不気味の思えるけど。
 何とか一階のさっき俺が昼食を取ったレストランにやってきた。

 薄暗かったけど、電気をつけてちゅう房近くのコーヒーメーカーでコーヒーを作る。自分で作るのもなんだが、結構不味く作ってしまった。
 自動販売機と言うものがこの1階には無いのか?
 そう思いながらも、椅子に座って俺は誰もいないレストランの周りを見渡した。ブラインドは昼と違い開いていて、街が一望できた。さっき佐倉が放った砲撃とBRの戦闘で診るも無残な姿に街はなっていたが、それ以外は普通の東京の街と、変わらなかった。
これで、気にはなったけど、こんな機械都市…プロディックシティ…この街はいったいどうなってやがんだ?
 BR戦で気付いたが、夜でも人の気配ってのは無くなりはしないもんだ、むしろ夜型の人間ならこんな大都市じゃこの時間帯もほっつき歩く奴がいなくもない。
 それでも、まるで避難後って感じもぬぐい切れないほどの静けさで、街には人っ子一人いない。まるで幽霊街だ…どう言うこった?これは…
「ん?」
 あれ?何だ…あれ…、青い色のスカートみたいな物がふわりと俺の目に飛び込んできた。まだ仲間がいやがったのか!?
 俺はそう思って、剣を持って立ちあがってその影を追った、佐倉のいる格納庫の方に向かって行ったような気がする。
「追い待てぇ!」
 なんて早さだ、俺の足で追いつけないなんてやっぱり考えた通り、奴らの仲間の残りだろう、追い付いてぶった切ってやる。
ガキィ
 向こうの曲がり角に曲った所で鈍い音がして、そこを曲って見た。
「!?」
 長い黒髪の女の子が、曲がり角を曲った所で倒れていて…その前には佐倉がその女の子を調べるようにしゃがみ込んでいた。
「佐倉、その子は?」
「……ここの街、市長令嬢さ…可愛そうに、この子も吸血鬼(やつら)に噛まれて」
 するってと、この美人のお嬢さんが、俺の依頼主の子供ってことか…首の付け根辺りには吸血鬼になる事を意味する、二つの牙の後が残されている。
「良かった、まだ症状はそんなに重くない。このまま冷凍休眠させれば後は、さる期間で吸血化の治療を行えば、何とか治るよ」
「そうか、良かった」
 そう言って佐倉は立ちあがって、彼女の体に持っていた杖を翳して、Cの字に曲った先の部分から、冷気を出して彼女の体に降り注いでやった。
 次第に彼女の体は青白くなり、周りの水分が凍りの粒となった。すっかり冷凍状態にして佐倉は座り込んだ。
「君の依頼主…ここの市長だって言ってるけど、実際の所は違うのさ…」
「え?どう言う事だよ…」
 佐倉が座り込んでいきなり変な事を言った。
「この、機械都市プロディックシティを築く前のこの街は、ここまで機械化が進んでいない普通の街だったんだよ、でもプロディック社が介入し始めて十年前から機械化をし始めてね。2005年から今に至るまで着実とこの都市は、外界を寄せ付けない程の、機械としへと変貌して行ったのさ、解る?」
「いや、ニュースとかで見た事あるけど…それが俺の依頼主とどう関係あんだよ?」
「実はね、本当の依頼主は僕達の所属してる警察さ…」
「ええ!?まぢかよ!」
「大マジさ…詳しい話しはお爺さんに聞いてほしいけど、今の警視庁特生刑事課はね、数ヶ月前の奴等との戦闘で戦力を50%失ってしまったからね」
「そんで、俺を雇ったのか?でもなんで?」
「だから、君を選んだことの詳しい事はお爺さんに聞いてよ。
 数ヶ月前、僕達特生刑事課の『ギルティ隊』は随分前から前科14の大吸血鬼ヴァンデットを追い詰めて、一味の大半を全滅させて、奴も…僕らの課長である『ギルティ』と戦って深手を負って、腕だけになってしまった。
 けど、一味の残党に持ち去られたんだ。追おうにも、僕も仲間も満身創痍…ギルティも奴との戦いで、重症…何ヶ月かのね…。
 それで逃げた残党は、その腕だけとなったヴァンデットを蘇らせる為、ある場所に身を潜めたって言うけど、吸血鬼が隠れられる場所は今の世の中限られちゃうから、特に外界から遮断された場所でなくてはならなかった。
 それがここ、プロディックシティさ…満身創痍の為か調べるのが困難で、お爺さんやおじさんの手を借りて、やっとの事でここに奴等が逃げ込んだ事が解って…いくつか解った事があるのさ」
 いつもの様に、へらへらしてはいなくて、真面目な顔で俺に語りながら佐倉は冷凍睡眠で眠ってる市長令嬢を片手でひょいっと肩に乗せて格納庫へ戻って行く。
 ちびで腕があんなに細いのに結構力あんだな…
「まず一つは、この街が10年前からプロディック社による都市の機械化プロジェクトがされた理由は、プロディック事態が大吸血鬼ヴァンデットの一味が仕切る会社であって、機械化して外界から街を遮断してしまうように、随分前から手を入れていたみたいだ。その時既に、この娘の父たるこの街の市長は殺されて、入れ替わっていたのかもしくは吸血鬼となって、今…噛まれるまでは気付かなかっただろうさ…
 奴等の目的は、衰退して行った吸血鬼の一族を復活させる事……多分マイナーな話しだけど、2000年以降に吸血鬼化を止める医療法が見つかって以来、吸血鬼の一族は段々と数を減らして、大吸血鬼ヴァンデットを含めて僅かになってしまった。
 最も、他の奴等はヴァンデットみたいに、犯罪に手を染めてまで人を襲う事はしない…でも、奴は違う。人類全てを吸血鬼に変えて、自分の支配化に置く事さ…そう、人類を滅ぼしてそれにとって変わって、自分中心の社会を築くそれが奴の真の狙いさ。
 あの戦いの後、すぐにこのプロディックシティが完成した…そう、人類を襲うための拠点がね…ここ、プロディックシティは…機械都市とは名ばかりの『吸血鬼の街』なのさ
 だからこそ、拠点としての場所が必要だった…そう、ここでこのビルを中心としたガードマシンや、私設BR部隊…を守り使いに、しかも、御堂や僕、あいだ君のような用心棒を雇えるほどの財力と権力を手に入れた。そして、この街の住人達を次々と吸血鬼と変えて、私有の兵士を作り上げる。さあ、最強の軍勢と拠点は完成した。
 後は、科学の力で腕を復元して、自分が蘇れば……攻撃開始…という寸法さ…」
「………」
 まぢかと佐倉の言葉を疑いたくなったが、そんなでっかい世界規模の事件に俺は巻き込まれていたのかを思うとなんだかすっげぇ………わくわくしてくる。
 実は世界的な事件に首突っ込みたかった所なんだよね、それにこんな警察署に行っても会えない連中と、仕事できるのって何だかすっげぇ光栄だし…これを正義の味方って奴何だよな!?
「知ってる?吸血鬼一人を小さい町に放って、全市民が汚染される早さ」
「え?うーん…俺って、学校の成績悪いし中退してるから、勘な…2日か3日ていどかな?」
「…僕がギルティ隊と戦った街一人の吸血鬼が一晩で汚染した町だったんだよ、ヴァンデットの配下の吸血鬼がこの街から放たれたら、どうなると思う?」
 ひ、一晩で…一つの街が、皆吸血鬼化!?ってことは、この街からあんな奴等がぞろぞろと這い出したら…
「……か、数えたくねぇ、ってか考えただけでぞっとするぜ」
「だからこそ、奴が復活する前に僕等が…何とかするのさ。あいだ君のおかげで、この街の機能は半分以上殺いだし、私設BR部隊は沈黙…後はあいつを逮捕して一件落着さ。大丈夫だよ、報酬は警察から出るんだし…」
「あ、やっぱでんだな…成功すりゃ」
「失敗は二人が死んだ時さ。さあ行くよ、そろそろ向こうも待ちくたびれてるだろうし…」
 気付きゃ、佐倉はBRの格納庫近くにあった人間が入れるカプセルに市長令嬢を入れて、そのまま真っ直ぐ進んで行った。そう言えば佐倉の話しに聞き入って全然周りが見えなかったからな。
「ああ、御堂と決着付けて、そのヴァンなんたらって奴の腕をぶっ倒せば全て解決って訳だ、よっしゃぁ、やる気が出てきたぜ」
「そればっかだね、あいだ君は」
 にこりといつもの笑顔を見せる、佐倉にまたちょっと冷えそうだった心が暖まった感じがした。
「それに、あんな美人を騙して、吸血鬼に変えるような奴等は許せねぇのよ!」
「ああ…それに関しては僕も同感だね」
 1階の廊下を歩いて、一際大きなドアがあった…1階にこんな場所あったっけ?
「さて、この中にいるのは鬼か邪か?」
「どっちも勘弁して欲しいね…」
 二人でそのドアを開けてその中に入る。巨大なドーム状の内装となっていて俺と佐倉が入った内装以外全部暗い、暗闇の奥からズーンと重い殺気が伝わってくる。
「待ちくたびれたぞ……」
 暗闇の中からもう、聞き慣れて…そしてやな感じの声が聞こえてくる。
「!?」
「どうやら、鬼と邪…両方のようだったね」
 佐倉の言葉通り、闇の向こうでは鬼と邪…両方がいて、しかもミックスされた奴なんだよな…
「意外に遅かったから待ちくたびれたぞ……」
 ボッと、暗闇の中に青白い炎が灯って不気味な雰囲気を漂わせた。
「火の玉…お化け屋敷かよ!」
「ならば、明るくしてやろう!!」
カシャ・カシャ・カシャ!
 ライトが場内を照らして、俺達の目に刺しこんで来た。だからめがねをしてる奴に直射の光はきついッつーの!
「あいだ君、目を押さえてる暇はないよ」
「あ、そうだ…」
 俺は、メガネの奥で目を擦ってから、前にいる御堂を見る。
 御堂は不適な笑みを浮かべて、BRと同じようにでっかい筆を持って待ち構えていた。その御堂に佐倉が1歩前に出て…
「御堂、今度こそ逮捕するよ。それに君を突破して行かないと…その先に大吸血鬼ヴァンデットが居るんだ…そいつを捕まえないと行けないんだ」
「そう簡単にはいかんぞ、佐倉…私の正式な依頼主だ、そう簡単に渡すわけにはいかん、佐倉お前も私達側につけばそれなりの報酬はもらえるぞ」
 御堂が、薄ら笑いを浮かべてそう言うと…佐倉は、杖を凍りの釜に変えて…
「悪いけど、警察から報酬の方は前受け金貰ってるからね…間に合ってるよ」
 ってか、前受け金貰ってたのかよ…俺は佐倉の肩に手を置いて。
「佐倉、あいつの相手はお前じゃないぜ…」
「え…あ、そう言えば。決着を付けると言ってたね。解ったよ…んじゃあ、僕は先に…」
 そう言って、手を振って佐倉は俺に先をあっさり任せて、佐倉はひょうひょうと先を急ごうとしたら…
「ったく…ん、佐倉!あぶねぇ!」
「ん!?わぁ!」
ブオン
 佐倉はとっさに身を屈めて、御堂の筆の大ぶりをかわした…さっきの距離から一瞬で間合いを詰めた…早いし何より、あの大ぶりに当たったら佐倉の華奢な頭なんて一瞬で飛ばされちまうぞ。
「おわ、危なかったなぁ!」
「言ったはずだ…こっから先は、なん人たりとも通さんと…」
ガキガキ
 筆を背中に携えて、指を鳴らす…あいつ、方術はおろか馬鹿力も備えてやがんのか…
「だったら、蹴散らすまでだよ!」
「上等!死ね!」
 佐倉も、御堂の挑発に乗って氷の鎌で御堂に応戦しようとする、この場合は俺と佐倉の二人なら御堂を倒すには有利な方向だけど…
 俺は、ベルトのホルダーから刃札を取り出して、今衝突せんと言う二人の間に投げ付けた。
シュタタッ!
「おら、御堂!さっきから無視してんじゃねぇよ…佐倉も、御堂は俺が相手にするって言ってんだろ、邪魔するとお前も纏めて相手にすっぞ!!」
「あいだ君……」
 俺の言葉に拍子抜けしたように、佐倉は御堂の所から離れて俺の方に戻ってきた。
「ごめん…」
「ふ、心配しなくても。佐倉…お前の相手はこちらで用意させてもらう!」
 御堂は刃札にも微動だにもしないという態度で、巨大な筆を前面に出して、『印』を描き始める…
「何か来るよ…」
「ああ」
 呪文を言いながら空気中に筆で、文字を描いていく…
「印…筆洗…『召』…我が求め訴えし…出でよ!『餓鬼』」
 御堂が空気中に書いた文字を中心に光の円が出来て、魔方陣となってそれが地面に置かれて、地獄の底から這い出すように…不気味な妖怪が這い出してきた…
『ううぅ……ふぅぅ…』
『くはぁ、うぐ…』
 それも一匹だけじゃない、そこからゾロゾロと同じような奴が這い出してきやがる。
「なんか、気色悪いのが出てきたね…これが僕の相手?」
「ふふふ、こいつ等は私に忠実な式神…『餓鬼』でね…常に飢えと乾きを満たす事しか頭にない…単細胞生物だ。特に…美少女の肉が好みだが…言った通り、知能はそんなに無い為か、佐倉…お前を女と間違えてしまったらしい」
「嫌なペットを飼ってるもんだね…御堂も…」
「…おまえの相手にはピッタリな相手とは思わないかい?」
「思わないね!」
 氷の鎌が、餓鬼の一体を斬殺する…佐倉の奴切れやがったな…
「解った、この気持ち悪い奴等を片付けてから強行突破してでも、前に進ませてもらうよ!」
「おいおい、佐倉」
 わけもなくさっきの俺よりも、すげぇ迫力じゃないか…さっき刃札を投げた意味ってあったっけ?
「安心して、御堂はあいだ君が相手してて!僕はこいつ等を片付けてから、考えがあるから…」
「お、おう!んじゃあ、安心してやっても良いんだな!」
「うん…じゃあ、僕はこいつら引きつけるからね!」
 佐倉はそう言うと、御堂とは逆方向へ駆け出して、それを追って餓鬼どもも軌道を変えてゾロゾロと離れて行った。
「ふ、佐倉の方は餓鬼に任せれば良い……さて、こちらも始めようか?相田亮太…」
「……」
 御堂が俺に向けて筆を構える、俺も息を飲みながら手に剣を持って、御堂と対峙した。BR戦では勝ったけど、今の俺で勝てるか…やって見なきゃわかんねぇか…



『くがぁぁーー!飯ぃ!!』
『うがぁ!女ァ!』
 一方、広いドーム内を走る佐倉を、餓鬼の集団が追いすがった。混乱に乗じて御堂の目を誤魔化して、先を進もうかと佐倉は考えたけど餓鬼の思いがけないほどの俊敏さに…先に全く進めない状態にあった。
「く、これじゃあ…切りがない!それに、僕は男だよ!」
 襲いかかってくる餓鬼を氷の鎌で一閃する。
「普通…お腹空いてたら、体の機能が低下するって言うはずだよね、あ…これ偏見か!」
 佐倉はお世辞にも素早いとは言えない、一体を倒してもすぐに周りを囲まれてしまうった。
「ふぅ、揃いも揃って…気持ち悪い顔並べちゃってさ…一匹一匹を相手にしてらんないね」
 それでも、余裕の表情で佐倉は氷の鎌に意識を集中して、杖の釜となってる先を柄から切り離した、その先はそのまま柄から伸びた青い透明な鎖と合体して、氷の鎖鎌となった。
「でいやぁぁーーー!!」
ジャサァァァーーー!!
 柄を大きく振って、鎖鎌がヘビの様にうねりながら、一度に数体の餓鬼を斬殺して、鎖がリバースして元の杖へと戻った。
 今の一撃で結構な数の餓鬼を倒したが、まだ餓鬼の数は全然減らずにこれにはさすがな佐倉も表情をしかめる。
「ふぅ、本当に嫌なペットを飼ってるよ…御堂は……氷の鎖鎌を使っても数が減らないから…だったら、これをやるかな…」
『がああ!!』
『食わせろぉぉぉーーー!!』
 一斉に飛び着いてくる餓鬼にため息をつきながらも、佐倉は再び氷の鎖鎌を出して鎌の部分を投げ出して、そして意識を集中しながら柄を持ち上げて、ぐるぐると回転を始めた。重量がいくつあるのかは解らないが、重たそうな鎖鎌を軽々と回転させて、スクリューやファンのように近づく餓鬼達をなぎ倒して行く。
 回転させながら鎖の長さを長くしていき…取り囲んでいた餓鬼達を完全に取り囲んで、佐倉はその回転する鎖鎌に更に、冷気を放出させて…行く。冷気は雪のように、そして舞い散る、桜の花びらの如く…美しく舞い散る。
「絶対零度の桜吹雪…、どうかな?」
 鎖鎌の回転による突風が冷気を巻き込んで、餓鬼達の動きを徐々に封じて行く…
「これで、フィニッシュだよ!」
 完全に動きを封じた所に…高速回転する、氷の鎌の刃で一体一体確実に斬り付けて、氷の鎖鎌の回転を止めながらもとの杖へと戻した後…餓鬼達の体全部に一本の線が走って…ゴトリと一刀両断されて、まるで液体窒素で凍らせた物のように粉々に粉砕した。
「ふう、これ結構精神削るんだよね…つっかれた〜」
 疲れたように、佐倉はペタンと座り込んでぐーっと伸びをする。
「さて…後は御堂だけだけど…このまま前に行かせてくれそうも無いし…あ、そうだ!」
 佐倉は何かを思い出したように杖を持って、この場から走って脱した…


「ふぅ、ふぅ…」
「どうした?息が上がってるぞ、相田亮太…お前の言う勇者の実力とはこんな物か?」
 佐倉の奴、一瞬で餓鬼どもを粉砕して元きた道を引き返して行きやがった、なんか作戦があるだろうけど…
 今の俺は、剣で御堂の筆の一撃を防ぐので精一杯で、防戦一方の状態だった。
ギィン!!
 あの筆、格闘戦でも使えるなんて…聞いてないぜ!
「ふ、この程度ならお前など方術など使わずとも、勝てる!」
 御堂の筆の猛攻が容赦無く俺を襲う。く、このまんまだと、本当に書初めの半紙にされちまう!
「死ね!鼠が!」
「だぁ!」
 俺は大ぶりされた、筆に足を乗せてその反動を利用して空高く飛びあがった。
グキ!
「ぐぅ!!この、食らえ!」
 筆の衝撃を受けた足が鈍い音を立てたような気がしたが、距離を置いた俺はホルダーから刃札を出し御堂に向かって投げ付ける。
ジャ!
 紙の札が刃となって、御堂に向かって飛ぶが、それを筆で叩き落した。
「な!」
「ふん、芸が無いな…勇者と言う物は…おら!」
バシィィィ!!
 地面に着地しようとした所を、御堂の筆の大ぶりが俺の腹を直撃して、まるでバッターがボールを場外にホームランを打ったように俺はすっ飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「ぐぁあ!」
 胃液が逆流して、血の味が喉に溢れて…俺はそれを吐き出した。
「くは」
 つ、つえぇ…こんな奴、今までお目にかかれた事がねぇ…右足も感覚が全くない…こりゃ折れたな。
「ふ、無様だな…これでは狩り我意が無いではないか」
 今まで、いろんな奴と喧嘩して来た、この前なんて幽霊ストーカーと喧嘩もして勝って来た、さっきだってBR使って御堂を負かしたけど、それはBRの力にすぎねぇ…
 俺の力じゃ、こいつと渡り合う事なんて……あれ?いや、あったはずだ、一つだけ…
「ん?まだ立つか?やはり、鼠だがゴキブリ並の生命力だな…」
「へっ!その減らず口もこいつを食らってから言うんだな!」
 俺はホルダーの中から一枚の札を出す、それには赤い文字で、赤と書かれていた。
 そう、これは始めて幽霊ストーカーとの戦いの時に使った、赤い札だ。これから朱雀って言う、炎の鳥を召還して、幽霊ストーカーを撃退したっけ?
「ほう、刃になる札とは違う札だな…手並み拝見といくか…」
 ほくそ笑みながら、御堂は俺に向かって歩いてくる。ふふふ、こいつを生身の人間が食らったてみたら焼け死ぬぞ!
「おう!とくと食らってみろい!いっけぇ!朱雀!!」
ぴら…
 あれ?札が、鳥にならねぇ…空中に投げてもひらひらと舞うばかり…
「な、何で鳥にならねぇ」
「(一瞬だが、あの札に奴の霊気が流れ込んだような気がした…方術?それとも召還か?だが、何かが足りなかったようだな)」
 その札を急いで拾うと、した所を御堂がすっげぇしかめっ面で睨み付けていて…筆で印を描き始めて…
「どうやら、この私も…ここまで舐められたのは久しぶりだ…どうやら、お前の式神は何かが足りなくて召還できなかったようだな。なら見せてやろう、本当の方術と言う物をな!」
 御堂が書き出した印から、さっきの餓鬼みたいに何かを出すつもりだ…その、印が魔方陣となって、地面に落ちた。餓鬼の頃よりなんだか微妙に大きい…
「出でよ!『不動明王』!!」
 魔方陣の中から、ものすごくデカイ、坊主頭の筋肉むきむきのおっさんがぬぅっと這い出してきた。至る所から火を出して…こんな人間いねぇ…
『うぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!』
 でっけぇ声でそいつは咆える、く、耳が…
「ふはははは!怒りの王、不動明王よ。その鼠をボロ雑巾のようにボロボロにするのだ!」
『ぐおおおおお!!!』
「げ!」
 御堂が指示した後、そのマッチョがこっちに向かって走ってくる、あんなのにぶつかったら、まず押し潰されちまう。
「潰されてたまっかよ!!」
キィン!
 俺は剣を床に突き立てて、その勢いを使って右に飛んで間一髪、マッチョのタックルを避けた。マッチョがぶつかった壁が、衝撃と共に大きな穴をあける。
「ひえぇー、あんなのにぶつかったら…まぢで潰れる」
「命拾いをしたな、だが…これで終わりではない!」
 御堂がそう言うと、めり込んでいたマッチョは壁から抜け出して…俺の方をギロリと睨み付ける。
「…やべぇ」
 そして、ノッシノッシと歩をこちらに向けて歩いてくる。
 まぢで、生命のピンチに俺は晒されてんだ。どうすればいい、札の式神を召還できねぇと意味無いじゃないか!
 俺はそう思いながらもやけくそ半分で、ホルダーから札を一枚抜き取る。だけど、その札は明らかにさっきの札と違う反応をしていた。
「これ、白い札…なんだこりゃ、ビリビリする」
 軽い痺れ程度だが、白い札から電気が手に流れ込んでくるような感覚があって、白い札全体から電気みたいな物が出て来てる。札の裏を見てみると、何やら長ったらしい文字がずらりと並んでいた。
「何だ?こりゃ…何々?『白き札、天の雷の聖獣…白き虎…我、白虎なり。地の雷吸収し、雷怨の刃となりて邪悪、討ち滅ぼす』」
 読めそうにない文字が、何となくだが読めて…札から出る電撃が倍増して、手にバチバチと流れてくる。
「こ、こいつは!?」
『うぉぉぉぉーーーーーー!!』
 そんな事をして居る間に、俺の頭にマッチョが両手を合わせて叩き付けようと振り上げて、何が何だか解らないが、手に持っていた白い札をマッチョに向かって投げ付けた。
「いっけぇぇーーー!!白虎!」
 俺の放った、札が雷のような強力な放電と轟音を鳴らしながら、白い電撃の虎となって、マッチョに襲いかかった。
『がおぉぉぉーー!!』
 虎の咆哮が、雷の時に鳴る雷鳴に聞こえて…命中したマッチョを白い何万ボルトもの電流が駆け巡った。
バチバチバチバチ!!
「ぐああぁぁーーー!!」
 マッチョが白虎の電撃を受けるのと一緒に、御堂も同じように電撃を受けていた。そして、俺の目の前にいたマッチョが電撃と共に蒸発した。
「え?」
「く、土壇場になって…このような奥の手を…」
 だけど、さっき赤い札の朱雀が失敗したのに、なんで白い札が発動するんだろう?何かが足りないって御堂が言ったけど…
 俺は試しに他の札を抜いて見た。適当に抜いた、青い札は…何の反応も見せない、青い札にも白い札と同じような事が書かれている。赤い朱雀の札や、茶色い札も同様の文が書かれていた。

青い札はこう書かれている。
『青き札、聖なるの水、氷の聖獣…青い龍…我、青龍なり。地の水、氷と一体化し、氷雪の嵐となりて邪悪の動き封じ込める』
 茶色い札は…
『茶の札、神の大地、地の聖獣…大地の蛇…亀…我、玄武なり。地の大地と融合し、怒涛の津波となりて、邪悪を飲み込む』
 そして赤い札には…
『赤い札、太陽の火、炎の聖獣…赤き不死鳥……我、朱雀なり。地の火より現れ、灼熱の地獄となりて邪悪を焼き尽くす』

 と、それには書かれている。どうも全然意味がわかんねぇ、とりあえず四種類全部の能力が大体わかっただけで、どうやって発動しようかも…全然記されていないのだ。
 他の札には全然反応もないが、この白い札だけさっきと同じように、びりびりと電撃を出し続けているのだ。
「く、一撃で不動明王を…なぜ、奴は何をして…」
 それはこっちが聞きたいぜ!
 取りあえず、あのハ○クがダメージを受けると、御堂もダメージを受けて…
「この事なら、餓鬼同様、意識と神経のリンクを切っておけば…よかったな、ただの鼠かと思って油断したな」
 そう言って、御堂が筆を振り上げて再び印を描き始める。く、また何か来る!早く、他の持つかわねぇと…ってどうやって。
 さっき、ハ○クがタックルして穴が開いた場所が不意に見えた。電線管が切れて、バチバチと火花を散らしている。
 電気?……
『地の雷吸収し、雷怨の刃となり…』
 と、白い札の句を思い出した。
「地の雷…ここの電気!?そっか、わかったぜ!」
「ん?」
 何が足りなかったのかというと、火種だ!火のない場所に煙は立たないんだ。白虎が出たのも、切れた電線管の電気を吸収して発動したんだ。
 なんだ、結構簡単じゃねぇか。そうとわかれば…あった!俺は目当ての物を見つけて、そこに向かって走る。
「逃げるのか、何のつもりだ!」
「いんや、勘違いすんなばーか!こうするんだよ!」
 考えた通り、ここに来て札が反応しやがった。佐倉に感謝しなきゃな!
 御堂に向かって今度は、青い札を向けた。札には周りの水分が集まって氷が張り詰めている。
「いっけぇぇーーーー!青龍ぅ!」
「な!?」
『ぎゃおおおぉぉぉーーーー!!』
 放った札が、青い水と氷でできた龍になり御堂に向かって、長い巨体を唸らせながら…向かっていく。
「食らい付け!青龍!!」
「く、このぉぉ!!」
 紙一重で、青龍を御堂は避け、青龍は御堂の足元を抉り、地面を剥き出しにした。素早く筆で…印を唱える。げ、前に刃札で相殺した波動の塊を出す気だ、今度はでかい。
「覇ぁぁ!」
ズギュゥゥーーン!!
 出かい気の波動…だけど、さっき青龍が砕いた床から見える地面で、茶色の札、『玄武』が反応を示している。
「玄武!当たれぇぇーー!!」
 茶色い札が地面に落ちた瞬間、床が砕けて土砂の津波が八本のヘビの尾を持つ巨大な亀となって、御堂が放った波動に向けて放たれた。
『オォォーーーーーン』
ドゴォォーーーーーーーーーーン!!!
 凄まじい衝撃と、衝突音が響き渡り二つの技は互いに交差して、相殺した。
「ぐわぁぁーーー!!」
「うわぁぁーーー!!」
 俺と御堂は、技の相殺した衝撃で吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。


ドゴォォーーーーーーーーーン!!!
「何、今の音……」
 何かが激しくぶつかり合う衝撃音を佐倉は感じていた…
「あいだ君…、無事なら良いけど」


 ドーム場の、場内はさっきの衝撃波で所々電線管がショートして、火の手まで上がっている。その中の中心辺りの離れた場所に俺と御堂は…対峙していた。
「はぁ…はぁ…相田亮太、この私をここまで追い詰めるとは…な…」
「ふ、へへ…体力だけはいっちょ前にあったからよ、それに喧嘩で負けた事なんて一度もねぇ。今までもそうだし、これからもな」
 そう言って剣の切っ先を御堂に向ける、何だか知らないけどくらっくらしてるし…
「…不思議だ、任務を忘れて、貴様に勝つことしか頭に無い。ここまで、私が追い詰められるのは、久しぶりだからな」
「そりゃ、俺も思ってるさ…こんなに楽しい喧嘩…始めてだぜ。ただ一つ気になるんだけど、お前…何だって人を滅ぼそうとする奴の肩入れをすんだ?」
「ふ、これは私の正義さ…。例えどんな理由を持った輩でも、私…陰陽師の力を必要とするならば、我が力…神でも悪魔でも…捧げる。それが陰陽師…御堂耕也さ!」
 御堂の正義か、こいつの目を見てると…それも自分の正義なんだってこと、解る。すっげぇ…だからこそ…。
「いい心がけ、最初会った頃より気に入ったぜ!だけど、少し訂正させてもらうぜ!」
 そうだ、だからこそ…御堂の正義を悪魔に利用されるのだけは我慢なんねぇんだよ!
 俺は最後の気力を、赤い札を引きぬいて御堂に向ける。赤い札は、周りの炎を吸収して、灼熱の炎を発している。
「ふ、精神力を消費する、式神を召還するのは無理ではないか?」
「ぬかせ!てめぇも、同じようなもんじゃねぇか!」
 正直立ってるのがやっとなほど、つらい状況なんだけど、負けたくねぇし…
「ならば、互い最後の一撃として…決着を付けようではないか…相田亮太」
 御堂が筆に残り少ない、精神力と霊気を込めて呪文を唱えながら、筆で空気中に印を書き始める。印にすげぇ霊気を込めてるから、ビームランチャー級のすげぇ技が来るのは大きく目に見えている。
スゥ…キュウ…
 青白い人魂が、5個出来て、その周りを青白い線で円を描いていく。
「臨…兵…闘…者…皆…陣…烈…在…」
 仕上げに青い人魂を点として、五方星を描いていて…仕上げを書き上げ…
「前!!」
カァァァーーーーーー!!
 眩しい光を放って、星の中心にエネルギーが溜まって行く…爆発的な霊気を放出するつもりだ…負けてらんねぇ!俺は、赤い札に自分の気を全部込めて、赤い札に周りの炎を吸収させた…
「赤い札、太陽の火、炎の聖獣…赤き不死鳥……我、朱雀なり。地の火より現れ、灼熱の地獄となりて邪悪を焼き尽くす……行くぜ朱雀!」
『ピィィーーー』
 朱雀は今にも札から飛び出て、暴れまわりたいくらいの勢いだ……さあ、フィニッシュだぜ、御堂!

「行くぞ!相田亮太ぁぁぁぁーーーーーーー!!!」
「ああ、いっけぇぇーーーーーーーーーーー!!!」

『ぴぃぃぃーーーーーーーー!!』
ズガァァァーーーーーーン!!!
「覇嗚呼嗚呼嗚呼!!!」
「おおぉぉぉぉーーーー!!」
 しかし五方星から出た、巨大な波動の塊と周りの炎を味方につけて、巨大化した朱雀が再び真正面で激突して、さっきの衝撃を遥かに超す大爆発と…衝撃波となって、俺に向かってきた。
「げ…」
 俺はその衝撃を避ける事が出来ずに飲み込まれた。
「うわぁぁーーーーー!」

 二つの技の衝突の凄まじさは御堂の目の前にあるクレーターを見て明らかだった。既に御堂の目の前には、先ほどまで戦っていた奴はいない。
「ふん、防御壁を張れなかった奴は、やはり未熟だったか……だが、久しぶりに楽しめたぞ…勇者よ」
「サンキューな!陰陽師さん!」
「な、何!?」

 御堂が驚いて頭上を見て驚く、何故俺が頭上にいるかってのは…あの技の衝撃波に乗って頭上高く飛んだからだ。いちかばちかの掛けだったけど、案外上手く行くもんだな。
「く!」
 俺は剣を振り上げて、落下の反動をつけて大きく振り下ろした。
「俺は、勝つ!!」
バシュゥゥーーーーーー!!
 剣を上から全体重かけた一撃が、筆が真っ二つに割けて、御堂の体が宙に舞った。
「ホームラーン!!」
「がはぁ!」
 ドサリと、御堂の体が地面に落ちる。しばらく咳き込んで、立ちあがろうとするが…直ぐに倒れ込んで仰向けになる。
「ふう、やっとやられたかよ…」
 俺も安心しきって、倒れ込むように座り込んだ。はぁ、やっと…ようやく勝ったぜ…本当、どうなるか解らなかったけど。こっちはもう、体力も精神力も底をついちまってへろヘろだぜ…
「見くびっていたよ…相田亮太。爆発の衝撃で飛びあがったり…武器は壊しても、私は殺さぬか…」
 タッチの差で俺は御堂の体に峰打ちをして、刃を返してから筆をぶった切ったのだ…
「これでは、任務を放棄したとして…雇い主に血を吸われてしまうな……」
「てかよ、お前人間じゃん。妖怪変化じゃあるまいし…人の世を滅ぼそうとする悪党なんかと手を結んで、それでも何千年と続いた…陰陽師のやる事か?」
「………」
「俺だったら、断るよ。だって人間だからな、こんな非人道的なこと許される事じゃ無いだろう?」
「…人道的では無いか」

その頃佐倉は…

シュタ
「やっぱり、僕の考えた通り…通風孔を通れば、御堂に気付かれずにあのルートに辿り付けるね…」
 服についた埃を払いながら、佐倉は通風孔を通ってある部屋に辿り付いた。薄暗いその部屋には…佐倉でさえ身震いするほどの妖気が漂っている。
「ここだね、あいだ君がヴァンデットの腕を見たのは…」
 妖気の残り香…それでさえも、もう復活の域に入っている。ギルティとの戦いで完膚なきまで殺されたのに、『人の力』で…既に復活しようとするか。この妖気じゃ、既に頭の部分も復元してるに違いないが、足がなけりゃ…歩けやしない。
 誰かが既に何処かに持ち去った事は…明白だった。
ピピピ!
 佐倉のポケットの携帯電話が鳴って…それをとって、耳に当てる。
『佐倉、目当ての物は見つかったか?』
 携帯の向こうから聞こえてくるのは低い声の男の声
「この目で見てないけど、どこに行ったかは…見当はつくよ」
『そうか……』
「いや、僕が追うよ…大丈夫だよ相手は瀕死だから」
『……解ってる』
プープープー
「まったく、解ってるのかな…自分も、重症だっていうの」
 佐倉はため息を混じらせながらも、杖を肩に担いでそいつを持ち去った奴の妖気を辿る事にした。

離れた場所で
「大吸血鬼様……もう少しであります。御堂が追ってを引き付けてる間に、脱出しましょう」
『……オノレェ…憎キ『ギルティ』ノ使者ドモメ…』
 数人のSPを引き連れながら、巨大な黒い棺桶の乗った荷台を押す黒服の男が急いで、非常エレベーターまで辿り付いて、息を切らせながら、エレベーターのボタンを押し呼び寄せた。
『…我ノ…復活ト共ニ…城トナルハズダッタ…コノプロディックシティを…』
 箱の中から、得体の知れない何かがごとごとと音を立てながら文句を言う…今や計画の90%以上は、ギルティからの刺客により破られた。
 一体のBRと佐倉雪菜による、裏切り…スパイ行為。そしてルーキー勇者の意外な活躍に、御堂を筆頭とする、プロディック施設BR部隊は壊滅。
 既に…プロディックシティの武装は2体のBRにより沈黙し、サイコタワー内に居たプロディック社員…市民(吸血鬼)は全て二人の勇者によって、滅ぼされ…吸血鬼となっていない残りの市民達は、佐倉の冷凍休眠によって、救助されてしまい…彼等に残された兵力と言えば、今居る5人のSPと…BR戦で失敗して今、二人を押さえている筈の雇わ陰陽師の…御堂だった。
 プロディックと大吸血鬼の人類を吸血鬼化計画は、今崩壊の一途を辿っているのだ。
「ですが、私とあなた様さえ居れば…復活後すぐにでも、第2のプロディックシティが作れ、人間どもを滅ぼす事が…」
「残念だけど、人間は滅びないよ!」
「何!?」
 SPと、プロディック社長が振り向こうとした所に…
「必殺!フリーズ!!」
 氷の弾丸をSPの一人が食らい、ガチガチに凍り付いて行く。
「さ、佐倉雪菜!?」
「どんなことをしてもね、人って生き物は最後まであがき続ける生き物だよ。その点わかる?」
 にこりと、笑みを浮かべながら杖の湾曲した先端の中に冷気を集中する。そこに、カーンというエレベーターが到着した音が鳴り、社長は薄ら笑いを浮かべ…
「く、こしゃくな!だがもう遅かったな、このエレベーターは防弾、防火だ!貴様の氷の術でさえ通さぬ!私と、大吸血鬼様さえ居れば、計画を進める事はいつでも出来るのだ!さあ、佐倉を押さえ込めSP達!」
 その言葉に黒服のSP達が牙を向いて佐倉を威嚇する…4人は瞬殺出来ても、奴等を逃がすだけの余裕が出来るのは明白だった。
 牙を向くプロディック社長もやはり吸血鬼化して、忠実な下僕と化してる…
「それに、御堂耕也…あいつも少々使えるかと思ったら、ルーキーに遅れを取ってるとは金で雇っておいてこの体たらく……落ちた物だな、陰陽師の血も…」
 ここに来て、奴等がどれだけ非道で外道な輩だとはと、佐倉は怒りを隠せなかった。
 ここにSPを置いて、平気に見殺しに出来るほどの卑劣さに、佐倉は激しい嫌気を感じたが…ドアが開く瞬間…佐倉はふうっとため息をついて…
「さらばだ、佐倉雪菜!お前はこのプロディックシティと共に自爆して死ぬがい…がは!」
 去り際の捨て台詞を吐き捨てようとした、社長の口に…太い大口径の銃口が指し込まれる。
 片手持ちのショットガン…銀弾の匂い…この気配…さーっと寒気が、社長の頭をよぎった。
「君と大吸血鬼様が生きてれば…だっけ?無理だよ……」
 余裕を持って、流し目をしながらそう言うと同時に、それは低い声の後…引き金を引いた。
「お前は、少々喋り過ぎだ…」
ズドン!
 ショットガンの銃口から出た、無数の散弾が全弾口の中で炸裂し…社長の頭を吹き飛ばした。
「お前は!?」
 SPが振りかえると、エレベーター内に…背の高い短髪を流した髪型の男がショットガンを片手に持って…そこに居た。黒い忍者服を纏った容姿からして…彼が忍者だと言う事が解る。
「…まったく、無理をするなって言う自分が無理をし過ぎだよ…『ギルティ』」
スチャ
 ギルティと呼ばれた青年はショットガンを持っていない右手に、ハンドガンを抜いて…。
「これは、元は拙者の失態から始まった…事件だ」
「まじっめー。まあ、そこが良い所なんだけどね……」
「……」
 ギルティと呼ばれた男は、目を閉じて…雑念を捨て、精神統一をする。そして空気が流れるような動きで、両手の銃をSP達に向ける。
「一意誠心」
 一瞬…瞬間…秒殺……まさにそんな言葉が、似合うくらいの早さでSP達は一瞬で撃ち抜かれて、瞬時に灰となった。
「相変わらずだね?」
「……く」
ジジッ
 ギルティの体から放電して、ギルティはその場に膝を突いた。
「ギルティ!」
 佐倉が倒れ込もうとしたギルティの体を支えて、何とか体制を立て直すものの…調子が悪そうに顔をしかめる。
「…まだ、体が……」
「まだ完全に修理されてないのに、無理するからだよ。光太郎」
「本名で呼ぶな…。基…とも角、ヴァンデットを追い詰めることが出来た……礼を言う…」
「礼なら、あいつを倒してから言ってよ」
 呆れながら佐倉は、ギルティに肩を貸してやって、そいつの入ってる箱のところまで移動した。
『オノレ…オノレェ、憎キ…ギルティ』
「諦めろ、お前が犯した罪は…同じ吸血鬼の仲間ですら軽蔑に値する物……その罪、死して償え!」
ガチャ!
 肩を貸してもらいながら、ギルティはショットガンの銃口を黒い箱に向ける。黒い箱がガタガタと揺れる。
「死刑執行人…『ギルティ』二つの街の人の汚染及び、私設でBRを量産し戦闘に投入…甚大な被害を与えたとして…第1級犯罪の罪で、お前…大吸血鬼ヴァンデット…この場にて死刑に処する」
 ギルティが低い声で言った後、銃の引き金が引かれようとした、その時…
ズガァァーーン!!
 箱が突然爆発を起こして、その中から何かが飛び出した。衝撃で佐倉とギルティは一緒に後退してしまう。
「く、なんて妖気…」
「妖気量が上がってる……怒気だけでこれだけのプレッシャーか」
『グノォ…許サヌゾ!ギルティ!』
 強烈な妖気の煙の向こうから…とてつもない怒気とプレッシャーを出しながら、それは浮かび上がった。
 それは…再生前のどす黒い腕から、生え出るように胸の部分と頭の部分が…腕以外の部分は皮膚も再生しきっていない筋肉組織のままで、まだもう片方の腕から腹から下の部分はまだ生えていない、不完全な再生ながらも、それが更に不気味さを増している。
「あそこまで、再生していようとは……」
「それにこの妖気、拙者と戦ったときの倍以上ある!これでは、佐倉!来るぞ!」
『ドイツモ……コイツモ……ドイツモ……コイツモ…ドイツモ…コイツモ…ドイツモ…コイツモ…ドイツモコイツモドイツモコイツモドイツモコイツモドイツモコイツモドイツモコイツモ…が嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!』
ブワァァァーーー!
 熱を込めたような、そんな凄まじい怒りの咆哮が、妖気の塊が煙のように見えるようにギルティと佐倉に襲いかかった。
「く!」
「やぁ!」
 ギルティの体を支えて佐倉は一旦天井に飛んだ。


その頃
『ああああぁぁぁぁーーーーーーーー!!!』
 遠くから、きな臭い…そして耳に残りそうなうざってぇ叫び声が耳に入ってくる。俺は御堂の隣に座り、それを聞き流した。
 その咆哮は1分くらい続いて…収まった。
「何だよ、今の咆哮…」
「解らんか?今のが、我等が雇い主だ…」
 御堂の額に冷や汗が流れて、俺もボロボロの体を押さえながら剣を持つ。
 足にはさっきの戦いでちょっとひねった事もあり、即席だが御堂に布を巻いてもらっていた。
ピキーン!
 何かが下りてくる、とてつもなく危険で…そして、放っとくと絶対悪いことが起きそうな予感のする奴がここに来る!?
「く、ここに来るぞ!?」
「御堂も気付いたのか?」
「ああ…何てことだ、まだ復活には数日を使うと言うのに……もう、復活の…いやそれ以上の妖気と怒気を放って下りてくる…下手をすれば、ここ等一体が灰燼に帰すくらいのな」
「なぁ、これじゃあ雇い主とか何とか関係無いんじゃないのか?」
「愚問だ…我を失った奴から金など、1円も取れまいて。それに、今お前と戦って気付いたが、私も奴等からして見れば『捨て駒』の一人に過ぎない事をな!」
「って、おせぇよ…まじめに言うのもなんだけどさ…」
 ツッコミを入れられて、御堂も別の意味で冷や汗を流す。だけど、御堂もやっと解ってくれて何だかほっとしてる。
 んで、話戻るけど…御堂の話を聞いてる限りでは、上からここに向けて核爆弾でも振ってくるって勢いだな。でも戦うと言っても、御堂はさっき筆壊しちゃったし…俺も満身創痍…剣を一太刀振るだけでも精一杯だ。
 そんなんで、どう戦えってんだ?佐倉はどうしたんだろう…
「まさか、本当に一人で逃げたんじゃ」
 あいつに限って無いと思うけど、佐倉ってどこか何考えてんのか解らない所あるしな。
「来たぞ!」
ズゥゥーーーン!!
 御堂がそう言った瞬間、天井が砕けて爆煙と共に何かが、落ちてきた。
「え!?」
「何と言う事だ…」
 煙の中に浮かび上がる、ギラリと光る赤い眼…それに何だよこの、足がうごかねぇ、気迫が違う、段違いだ。
『グルル…役立タズメェ…御堂ォォォーーーーー!!』
「うわぁ!」
ブワ!
 何だよ、この熱風…。痛い、頭んなかにすっげぇ響くような頭痛…立ってらんねぇ…
「ここまで強いプレッシャーを出すとは…しかも、あの容姿…私が見た腕がここまで再生、いや…以前の原型と違う進化してる。…プロディックめ、彼奴に何をしおった?」
 天井を破ってきた奴の容姿は…前に見たような腕が上半身になったようなやつで、背中に蝙蝠の羽を持って頭が、悪魔のような恐ろしい顔。
 けど、まだ下半身は再生していないらしい。
「く…駄目だ、頭いてぇ」
「相田!どうしたんだ、く…まだ妖気に対する耐性がなっていなかったのか…これだからルーキーは…」
 お前はそのルーキーに負けたくせに……
『御堂、貴様ハソノルーキーニ負ケタノダゾ…』
 同じこといってやがる…あいつ、何だかむかつくぜ。
「ぐ……妖怪変化が…」
『我ノ城トナル筈ダッタ、コノ…プロディックシティニモ…『ギルティ』ニ悟ラレ追ッテ、挙句ノ果テ、再ビ追イ詰メラレ……ドイツモコイツモ…役立タズドモメェェェーーーーーー!!!』
 奴が咆えると、またすっげぇプレッシャーのかかった熱い熱風が俺と御堂を襲う。俺は剣で斬る様にその熱風をいなした。
「ぐああ…!」
「勝手な事いいやがって…にゃろぉぉ!!」
 熱風に対抗するように俺はゆっくりと、剣を前にして歩いて行った。
『モハヤ、我ノ命…ミスミス…ギルティニ渡シテナルカ!貴様等ヲ道連レニシテ…殺シテヤロウ!愚カナ人間ドモメェェェ!!!!』
 だめだ、式神全部使って精神力を使っちまって、く…押し負けちまう。
「ぐお、にゃろぉ!」
 だけど、こいつだけは…この下郎だけは…俺が倒さなきゃいけないんだって解る。そう思えばだんだん足が前に出る。
 前…に…出……
『…愚カナリ小童メ!!マズハ貴様カラ殺シテ……』
 う、プレッシャーを俺に集中してやがる…ぐは!やっぱ押し負けちまいそうだ。

ズドォォォーーーーーーン!!

「ん…え??」
「何…なんだと!?」
『……(真顔なのに結構びっくり)』
 俺と御堂の後ろの壁が、大爆発と共に崩壊してそこからキャリキャリと言う音を立てて、でっかい何かがこちらに近づいてきた。
キャリキャリ
「今度は何だぁ!?」
 壁の向こうから、現れたのは下半身が巨大な戦車のようになっているBRだった。
「BR?あ、あのBRは…」
 明らかに見覚えがあるBRのスピーカーを通して、さっきから見えなかった奴の声が聞こえた。
『あいだ君、お待たせぇ!』
「さ、佐倉か…」
 つーことは、この戦車型BRは佐倉がさっき言ってたアイスコマンドの換装した後の形態ってことか?
 じゃ、佐倉の考えってこの事だったのか?むちゃくちゃにも程があるぜ…
『ちょっと御堂連れて離れてくれるかな?』
 ウィーンっと両腕に固定されたキャノン砲を俺の向こうにいる、化け物に向ける。やべぇ本気で射撃する気だ。
「やべぇ、御堂逃げっぞ!」
「お、応!」
 足を引きずりながら、俺と御堂はその場から急いで退散する。

「さぁ、今度は逃がさないよ…」
ビュンビュンビュン!!
 トリガーを引いて、両腕のレーザーキャノン砲を放つ。
『ムン!』
 放たれた2本のレーザーを、奴は紙一重で避けながら天井まで飛ぶ。
「無茶苦茶だぁ!!」
『機械巨人ヲ使ウカ……コシャクナ!』
 奴はアイスコマンドから放たれるビームをものすごい速さで避けながら、こっちに向かってきた。
「げ、こっちに来るぞ!」
 俺は剣を構えて、対抗しようとするが奴はその横をすり抜けて…飛んで行ってしまった。
「逃げたぞ!」
『…二人とも早く乗って、やな予感がするよ』
 俺と御堂は顔を見合わせてから隣に来たアイスコマンドのスペースに乗ってそこを伝って、佐倉のいるコックピットに強引に割り込んだ。
「ちょ、ちょっと二人とも!1人乗りのコックピットに3人も乗れないよ」
「そんな事言ってる場合か、追うぞ!」
 強引にコックピットに割り込んでぎゅーぎゅー詰の中、佐倉が文句を言ってなぜかさっきまで敵だった御堂が仕切ってる。
 アイスコマンドは反転してさっき開けた穴からキャタピラを回して抜け出した。
「いや、奴が外に抜け出しても……既に僕の仲間を呼んであってプロディックシティは包囲されてるから、逃げられないよ。でも奴も馬鹿じゃないからそれを知ってるはずだから」
 だったら何故、あいつはそれを承知で外に抜け出したなんて…馬鹿としか言いようが無いけど(ひどい)そこまでしてやる事って……
「佐倉、モニターにさっきBR戦の場所を、写せるか?」
「え、いいけど…何」
 俺が言った通り、佐倉はこの要塞の監視カメラにハッキングして、さっきまでBRで戦っていた場所を映し出した。
「違う、違う…」
 色々な場面の映像が出て来て、最後に映し出されたのはさっきブレイバーでぶっ壊した御堂のBRが横たわってる場面が浮かんだ。
「あ!」
 俺の思った通り、先ほど倒した御堂のBRの所に、黒いこうもりのような影が降り立った。あれは紛れも無いさっきの奴だ…
「私のBRをどうするつもりだ…彼奴め」
「まって、様子がおかしい!」
 佐倉がそう言うと、そいつは壊れた御堂のBRに取り付き…ぐにゃりとその体を金属のBRに沈み込ませている…全員、一斉に驚愕した。
「な、なんだありゃ?」
「私のセイメイmk_5と、融合していると言うのか?」
「無機物と融合するなんて……あんな芸当、吸血鬼には不可能なはず…」
 自然界の何処を探したら、金属と融合する生き物がいるだろうか?くらげや、たこのような骨をもたねぇような動物でもそんな事出きるはずがないし…
 そんな事考えてる間に、御堂のBRをまるで黒い粘土のような物が纏わりつくように取り付いて行き…段々と全てを包み込みながら大きくなって行き、しかも背中から触手らしき物を発して、周りに散ばってる…プロディックシティの私設BR部隊をも捕まえて…それらも自分の体に取り込んで、30m…40mにまで成長して行く。
「佐倉!格納庫に寄れるか?」
「この道真っ直ぐ行きゃ、BRの格納庫だよ!どうするつもり?」
「やばい事が起きる前にブレイバーでぶっ潰す!」
「解った、動けるBRは僕とあいだ君のしかないからね…格納庫で下ろすよ、後はBRを動かして射出口まで行って…僕がハッチを開けるようにするから」
「応さ!」
 俺はそう言うと佐倉のコックピットを開けて腕の所まで下りる。
「下ろすって言ったけど、飛び移るつもりだね…解った先に行ってるよ!」
「おう!」
 アイスコマンドは道を辿りながら、格納庫までキャタピラを走らせ…格納庫まで辿り付くと、俺をブレイバーの所まで運んで行く。
 よっしゃ、見えてきた…後は、括弧良く飛び移るだけだ。
「とう!」
「「あ…」」

べしゃ…

「見事だね」
「ああ、見事に顔から突っ込んだな……」
 まじめに解説するなら少しはいたわれよ……いってぇ。
 ブレイバーの足に思いっきり顔を突っ込ませて、ようやく俺はブレイバーのコックピットに乗り移った。
「んじゃあ、行くぜ!」
『何事ですか?マスター』
「何が、どうしたも、ここの監視カメラの映像をこっちに回せ、すげぇもんが見れるぞ!」
 ブレイバーを起動させて、状況が把握できないハナコに説明してやった。

ズガァァーーン!!
 アイスコマンドが壁を破って外に出て来た、目の前には数々のBRを取り込んだ大吸血鬼ヴァンデットの姿がそこにあった。大きさからして、50m以上にもなっているだろう。
 巨大な羽を持った龍を思わせる生物的な所の部分と、御堂のセイメイmk_5や他のBRの名残を残した部分もある混沌とした禍禍しい姿にまで…巨大化したのだ。
「セイメイmk_5が…」
『ぎゃおぉぉぉーーーーーーー!!!』
 妖気と凄まじい程の戦慄を放つ程の、ヴァンデットの強烈な咆哮がプロディックシティ全体に響き渡る。
「あいだ君、BR射出用意は出来てるよ!」
『おっしゃ待ってたぜ!』
「佐倉、見ろ!」
 御堂がアイスコマンドのモニターにあるヴァンデッドの温度フラグを表したモニターを指差した。
「彼奴の内部温度が上昇が、急激に上昇してる!」
「あれだけの、BRを取り込んだんだ…全部の熱核融合炉暴走を始めてるんだ、この早さは尋常じゃない…数分もしない内に炉心融解を起こすよ…あいつ、これを狙って破壊されたBRと融合したんだ」
「本気で私達を道連れにするつもりか、彼奴は!?…爆発までの時間と、爆発の範囲は計算できるか!?」
 佐倉は素早く、キーボードで打って爆発までの時間と距離を計算してモニターに写した。
「うん、炉心融解まで後4分…爆発の範囲はプロディックシティを丸々飲み込んでもおつりが来るよ」
 爆発の衝撃のシュミレーションが出て、街一帯に爆発が広がる事を佐倉は示した。
「爆発を止める方法は!?」
「あいつを止める方法は、全てのBRの核融合炉を停止させて、冷却させれば…炉心融解はしないけど。
 でも、BRの核融合炉を停止させる為には…あいつを倒して、BRを奴の支配から解けば…核融合炉は止まらないし爆発も起きないけど…それにはあいつを攻撃して殺さない限り無理だし、借りに止まったとしても、冷却時間に1分の余裕が必要だし…もし冷却時間の余裕が取れなかったら…」
 アイスコマンドの戦車形態にバックパックユニットである、荷電粒子砲を使っても、あいつを燃やし尽くす程、連続的に撃てない。
 佐倉の頭に絶望が浮かんだその時、アイスコマンドの通信に威勢のいい声が飛び込んできた。
「おりゃぁぁぁーーーー!!」
 射出口が開いて、勢い良くそこから赤いBRが一機飛び出した。

 ブースターをふかして、空中を飛びながら俺はでっかい悪魔の化身にブレイバーの軌道を向ける。
「諦めんなよ、佐倉!まだ余裕があんなら、攻撃あるのみだぜ!」
『え…』
「念仏は失敗してからだ!」
 そう言って俺は、ソードランチャーの銃口をどす黒いあいつに向ける。
「ハナコ!集中攻撃だ、ブレイバーの武器全部を奴に叩き込むぜ!」
『りょ、了解!!では、フォーメーション『D(デストロイヤー)』発動、ブレイバー…全リミッター解除』
「な、何?」
 ウィーンと何だか妙な機械音が鳴って、モニターに英語で『デストロイヤー』と文字が浮かび上がると同時に…ハナコの様子がおかしくなる。いきなりがくりと首を落としたかと思うと…
『フフフ…あははは!待たせたな兄弟!』
「(ビクゥ!)」
 頭を上げたハナコは今までのなよなよーっとした感じから一変して豹変し、姉御のような気合の入った口調になった。
『んじゃ、フォーメーション『D』気合いれて行くぜ!全武装、全弾ターゲットロック!ソードランチャー…長・中距離B型ミサイル…ハイメガバズーカランチャー…固定式レーザーサーベル…めんどくせぇ!全リミッター解除!』
 ブレイバーの目が、緑から赤に変わって…ブースターは今の二倍くらいの速度で噴射してものすげぇ速さで空中を飛びながら…奴に全ての武装の、ターゲットカーソルを一点に集めた。
「こうなったら、やる所までやれだ!フォーメーションD!発動!」
ズゴォォォーーーー!
 ブレイバーの操縦桿を押すと更に早く加速して、奴に接近しながらソードランチャーの銃口を向け…バックパックユニットのミサイルランチャーを展開する。
「GOォ!!」
ビュー!ビュー!ビュー!
 ズドドドドドーーー!
 展開された、ミサイルランチャーから無数のミサイルが飛び、同時に奴の一点に向けてソードランチャーが放たれる。

「な、なんだあの攻撃は…火力を前面に押し出して…」
 御堂がブレイバーの連続的な攻撃を見てそう思った、それに佐倉は頷いて…
「出鱈目だけど、確実にダメージを与えていってる…。あの攻撃なら……あいだ君のしかいないかも、僕達が生き残る道は…」

『着弾後にレーザーサーベルで接近戦だ、振り落とされんなよ兄弟!!』
「応!」
 ブレイバーから放たれた、レーザーが奴の頭にピンポイントに何発も当たり、弧を描きながらミサイルがそれに追い討ちをかけるように体全体に投下される。
 止めど無く来る無限攻撃に、奴は苦痛の叫び声を上げる。
『ぎゃおぉぉぉーーーーー!!!』
 更に怒り狂ったやつは頭の角の部分を補ってる、BRの機関砲を一斉掃射させた。
「うらうらうらーーーー!!」
 俺はその機関砲の攻撃に正面から突進しながらソードランチャーを撃ちつけて、機関砲と頭を攻撃しながら、右腕にレーザーサーベルを起動させ、ブレイバーを奴の巨体の下に持って行かせる。
「行くぜ!」
ザシュゥゥーーーー!
 レーザーサーベルで奴の体の下から上へ向かって縦に頭までぶった切る。そして奴の背中に回り込んでついでに羽もレーザーサーベルで切り落とす。
『ぐるおぉぉーーーー!!』
「遅せぇーよ!」
 奴の巨大な腕がブレイバーに襲いかかるが、俺はそれを紙一重で避け…上空に飛んで…奴に向き直って、もう一方のバックパックユニットにある長い砲身のバズーカ砲…ハイメガバズーカランチャーを展開させ砲座を奴に向ける。
「これで終わりだ!!」
ギュイーン
 ハイメガバズーカランチャーにエネルギーが集中されていく、それと同時に、コックピットのさっきまで握っていた操縦桿が二つとも外れ、モニター前にターゲットカーソルが現れる。
『兄弟!その二つを合わせろい!そして、ターゲットをセンターに入れてトリガーを引いてフィニッシュだぜ!』
「お、おう!!」
ガチャ!
 俺は操縦桿を一つにあわせ、拳銃のような形にして、化け物に向けられてるターゲットカーソルに向けると、赤いレーザーポインターがターゲット内に現れる。
ピピピピッ
 赤いポインターが中心に合わさり、ターゲットが奴に固定された。
『今だ!!フィニッシュじゃぁ!!』
ガチャ
「フィニッシュ!!」

ズガァァァーーーーーーーーン!!
 バズーカ砲の大口径の砲門から、巨大な火球が放たれ、奴に向かっていく。
ドォォォーーーン!!
『ギャオォォォーーーーーン!!!』
 その火球を奴は両腕で、受け止めた、げ!しぶてぇ…あれだけ攻撃してなんてしぶてぇ、だめだ押し返される。
『相田君!下がって!』
「佐倉?お、応!」
 佐倉の声の後、俺はブースターを射出させて、後退するとそれと入れ替わりに長い光の矢が放たれた。極太のビームがあいつの押し返そうとした火球に向かって、奴の体の下から上へと焼きながら、向かっていく。
ズガガガガガガ!!
 見ると、佐倉のアイスコマンドのバックパックに装備された、二門の長いビーム砲から強力なレーザー砲を発射してるのがわかった。
「すげぇ、佐倉…ってあ、あれ?」
 俺があっけに取られて、そのビームを見ているとブレイバーのブースターがぷしゅーと情けない音を立てて、落下した。
「なんだ?なんだ!?」
『フォーメーション『D』解除しますですぅ。フォーメーション『D』を使用した後は必ず、ブースターがオーバーヒートして止まってしまうのですぅ』
 ハナコもさっきの姉御っぽい感じから、元に戻ってしまってる。さっき脱出したときと同じ状態になっている。

「いっけぇぇーーーー!!」
 その間にも佐倉のアイスコマンドの発射した、ビーム砲がブレイバーの放った火球に当たって、巨大な爆発を起こした。
 火球が爆発した凄まじい熱風と爆風が、奴の体を飲み込んで俺らの方にも向かってきた。
「く、う!」
 その熱波を俺はブレイバーの腕で防御して、難を逃れる。すげぇ、佐倉のビーム砲もすげぇけどブレイバーのハイメガバズーカランチャーの爆発は強力すぎる。あのでっかい化け物を一瞬で爆風で飲み込みやがった。
『がぁぁぁぁぁーーーーー!!!』
 爆発の中に奴の断末魔が闇に轟いた……。

「なんじゃ、あの叫び声は…」
 離れた所から、木野はタワーの方で赤い光が輝いたのに気づいてその方向を見た。
「あの光は…亮太のBRに装備されたあれを使ったか……無茶をしおる」



 爆風がだんだんと収まっていって、俺はメインエンジンが回復したブレイバーを立ち上げる。
「どうなった?」
『敵熱核融合炉の温度が下がって行きます。大丈夫です、炉心融解による爆発の危険性は無くなりました』
「え?爆発するすることになっていたのか?」
 それじゃあ、さっき迂闊にバンバン撃ったりしてよかったのかな…考えてると、佐倉から通信が入った。佐倉も無事だったようだ…
『ヴァンデットは僕達を巻き込んで街ごと自爆するつもりだったらしいよ……でも、大丈夫だよ、あいだ君のお陰で奴を御堂のBRから排除することができたから』
「そ、そっか…あ…見えてきたぜ」
 煙が晴れて、爆発でできた、巨大なクレーターの中にBRを強引につんだ様な巨大な建造物がたっていた。
「うひゃー、趣味の悪い美術品ができたな」
『これはもう、美術館にもおくれないね』

 そう言い合いながら俺と佐倉は自分のBRから降りて外のでてその建造物をまじまじと見た。
 建造物の前には御堂が先にいて、なんだかブツブツと呟いている。
「……」
 上手く聞き取れなかったが、聞かない方がいいな。
「佐倉、なに探してんだ?」
 建造物の向こう側で何かを探している様子だった。
「ん、あ!あいだ君!危ない!!」
 その佐倉が、何かを見付けたかのように叫んで俺の方を指差し…振りかえると襲いかかるどす黒くグロイ腕が目の前に迫って来ていた。
『死ネ、人間風情!!』
 狂気の爪が俺の眼前に振られる直前、こいつに吸血鬼にされたお嬢さんや、この街の人たちの事を思い出す。
 人類を皆、吸血鬼化ぁ?そんな事の為に一つの街をそのまま、飯のテーブルにしやがって。そして、手駒を揃えて役に立たなかったら、ポイって見捨てるのか…御堂のように…挙句の果ては、俺らを巻き込んで自爆を誘うか…
キィン!
 振りかえり様に剣でその爪を受けとめる。爪が俺の肩を掠めて…血が吹き出るがそんな事関係ねぇ。
『ナ、ナニィィ!?』
「(あいだ君の霊力が…上がった)」
斬!
 剣が奴の肩に入り、一気に腕を肩から切り落とす…
『グアァ!』
 腕を切り落とされ、上半身と頭しかなくなった奴ににじり寄る、さっきまでの異様な感じは全然しないし、腕をくっつける力さえ残っていないように見えるけど…何だか、ゴキブリみたいに、しぶといようにしか見えない。
『我ガ、コノヨウナ…小僧ゴトキニ……人間ゴトキニ…滅ビルノカ!『進化ノ力』を手ニ入レタ我ハ、モハヤ無敵…ギルティモ…『朝日』モ…恐レルニ足ラントオモウタノニ…』
「五月蝿ぇよ…」
 俺は、天高く剣を振り上げる…その時、丁度東の方角が明るくなって、山の間から太陽が顔を出した。まだ街はその光を受けていないが…剣に反射した日光が奴の体に降り注ぐと、何か肉が焦げるような焦げ臭い匂いがした。
『何…コレハ…ドウイウコトダ…我ガ躯ガ…日光ニ焼カレテイル…馬鹿ナ…我ハ太陽ヲ恐レナイ躯トナッタ筈…ドウイウコトダ!ドウイウコトダ!』
 ああ、何だかこいつまたわめき始めた…日光に弱いのは吸血鬼の特権じゃねぇのか?
「ってかよ…お前むかつく」
『ヤメロ!我ニ剣ヲ向ケルナ!日ノ光ガ!』
 今までお前が血ぃ吸った人の分や御堂やあのお嬢さん、そして哀れ捨て駒に去れたてめぇの配下の分やら佐倉の分やら俺の分やら色々あるけど…やってたらきりが無いから…
「1回にまとめる!ふぅ…でりゃぁ!」
『ヤァァメェェロォォォーーーーー!!!』
ザシュゥゥ!!!
 息を1回大きく吸ってから、剣を思いっきり力を込めて振り下ろす。
『グギャァァァァーーーーーーー!!』
 頭からざっくりと真っ二つにされた奴(名前忘れた)は、他の吸血鬼と同じように灰となって消えてなくなった。

「ふう、なんか気込めて斬ったら疲れたぜ」
 地面に刺さった剣を抜くと…ぱちぱちぱちと、後ろで拍手を送る佐倉の姿があった。
「凄い凄い、ギルティでも完全に倒すことができなかった大吸血鬼ヴァンデットを倒すなんて、初心者とは思えないね」
 初心者の辺はほっといてくれ…
「あれで死ななかったら、にんにくでも試してみようかなってな」
「……はは、でもこれであいつも押さえられて、事件解決っとうーん午前5時って所かな?おっと、忘れる前に〜」
 佐倉は何故かるんるん気分で、さっき俺が切り落とした奴の腕の所まで行って…持っていた杖から冷気を発してそれをドライアイスのように凍らせた。
「これで次のオークションは大成功だね」
「をい…何だそりゃ」
 その凍った腕を、佐倉は証拠品などを入れるビニール袋をでかくしたようなのに入れる。
「何って、知らない?吸血鬼の腕ってフリーズドライをして、粉末にして煎じて飲むと不老不死の力があるって言うらしいから(デマだけど)、闇オークションでは高値で売れるんだよ」
 ニコニコと嬉しそうに佐倉はその袋をまじまじと見せる。
「ふ、不老不死!?っておい、それ本当に大丈夫なのかって聞いてるんだよ、また再生して起きてこないか?」
「本体無しでフリーズドライをうけちゃ、大吸血鬼でも粉末になっちゃうよ。でもオークションに出すには、本体から切り離した所で灰になる前に凍らせなきゃ意味無いからね」
 売る気か、売るつもりか?…売るんだな!?なんだか佐倉の頭に少しばかり子悪魔の角が見えたような見えなかったような…そんな気がする。
「大丈夫だよ、高く売れたらあいだ君にも分けてやるから」
「あ、ありがとう…」
 取り合えず、礼は言っておこうと思う…いや言わないと何だかいけない気がする。
「まあ、お礼を言うのは僕の方なんだけどね、正直僕一人じゃ手におえるかどうか解らない事件だったし…あいだ君もデビュー直後でしょ?だから、力も未知数だったからね、でも無事事件も解決したし、こうして目当ての物も手に入ったからあいだ君にはほんと感謝するよ」
 佐倉はそう言って俺に握手を求めてきた。俺も佐倉の腕をがっしりと握って…
「ああ、困った時はお互い様だからな、次も何かあったら呼んでくれよ。そん時も報酬はずんでくれよな」
 なんだかな、こいつとは凄く長い付き合いになりそうだから…
「うん、そうさせてもらうね。今回の報酬は、お爺さんの事務所の口座に振り込んでおくからねそれにオークションで儲けたお金の半分も分けてあげるから」
「さ、さんきゅー…(汗」
 佐倉と握手を交わしてると、向こうからじいさんが歩いてきた。今まで何処に入たんだ?
「相変わらず、闇オークション好きじゃのう…雪菜君」
「じいさん!」
「ああ、お爺さん。今回は協力ありがとうございます」
 やっぱり顔見知りだったらしく、爺さんと佐倉が親しそうに話す。
「ええんじゃ、亮太の霊力のええ修行となったじゃろうし…」
「ヲイ、ジジィ…まさか、そんな事でこんな、死にそうな程の大変な仕事を押し付けたのかぁ!?」
ジャキン
 剣の切っ先をくそジジィの眉間につき立てる…
「はは、でも僕は何もしてませんよ。あいだ君が殆どこの事件を解決したようなものですよ」
「きしゃー…あ、そうか?佐倉、照れるな」
 男だと思っても、佐倉ほどの美少年に言われるとなんだか照れてしまう。
「所で、佐倉。御堂の奴はどうするんだ?あいつ、あの吸血鬼の味方してたから、逮捕すんだろ?」
「まあ、本当ならね…。でもここに来て始めて、御堂の妨害があってそれも予想外だったし…ギルティ隊の上は御堂を捕まえろなんて、受けてないから…不問にするけどさ、もしあいつが爆発してたら、御堂は間違いなく逮捕されてたね」
「そか、うっし!って全然うれしくねぇからな」
「……まあ照れてるのはさておき、御堂をいつまでもあのままにしておけないから、一度僕らが連行して事情聴取はするけどね」
 そう言って、佐倉は「ローン」とかどうとか呟いてる御堂の方を指差す、あの趣味の悪いBRは御堂のローンの集大成だったと後で佐倉から聞いた。

「それにしてもよくやったのぉ、本当なら雪菜君の助けをしてもドギツイ任務のはずじゃが、よくこの試練に耐えた。うむうむ…」
「このくそジジィ…やっぱ知ってて」
 剣をまた、ジジィの眉間に突き立てる…
「と、とも角じゃ!依頼も完了したし、わし等は帰るとするぞ」
「ん、ああ。今回の報酬は佐倉がくれるって言うけどよ、あいつ等にやられたこの街は二度と元に戻らないんだろ?この任務を成功させてもなんだかなぁ…」
 吸血鬼になったこの街の市民は…戻らないし、この街の奪還ってのが当初の依頼内容だったのにな、なんだか消化不良に終わったようで…
「心配ないよ、街の住民の半分は吸血鬼になって、倒しちゃったけど…このタワー内に、まだ吸血鬼になってない市民が居たから、冷凍睡眠で後は治療を施せば、彼等を元に戻せるよ…。街の方は僕等警察が復旧作業をするから、4ヶ月以内に街も人も復活するよ」
「でもな、こんな事の後だし……なんかトラウマとかに」
「その辺は、彼等の心の強さだね、その辺は…彼等を信じよう」
「街を復活させるのも、やめるのも…そこに住む人のなせる業じゃ。人というのはこういう困難を乗り越えてこそ、強くなる生き物じゃ」
 いつになく爺さんが俺の剣の切っ先を向けられつつも、名言っぽい事を言っている。
「そのいい例がお前じゃ、亮太」
 何だか、苦し紛れに言ってるのか解らないけど取り合えず嬉しかったので剣をさげてやる。
「それじゃあ、そろそろ僕は行くよ…」
 上ってきた朝日を見て佐倉は杖を肩に担いで、そこに止めてあった…アイスコマンドにのキャタピラによじ登る。
 コックピットを開けてこっちを振り返る。
「じゃあな、佐倉。また会えるよな」
「うぇ?うん、でも何だかわりと直ぐ会えると思うよ」
 佐倉はそう言って手を振ってから、コックピットを閉じた。
「おお、じゃあな!」
 朝日に眩しく青色に輝くアイスコマンドに手を振って、佐倉と別れた…『氷の魔術師』佐倉雪菜か、男のくせにちっこくて、女っぽいがちょっと強引でいい加減な奴だったけど、なかなかいい奴だったし…まあ、強かった……ような気がする(佐倉の戦ってる所余り見てない)
 とも角、あいつとはまたどっかで会えるようなそんな気がする。

「さて、私も何時までも嘆いてないで…とっとと帰ることにするかな?警察も追ってるし」
 さっきまでいじけてた御堂がすくっと立ちあがり服についた埃を取り払って、去ろうとした。
「お、おい。佐倉が大丈夫だって…」
「彼奴一人が言った所で、警察事態が諦めるわけが無かろう」
 そりゃ、一隊員の言う事をまじめに聞く組織じゃないかもしれないしな。
「…まあいい、私も誰かさんに武器もBRも壊された事だし……また新しいBRにするまで、妖怪退治しながら稼ぐとしよう」
 誰かさんって所で、俺をジロリと睨んでそう言った。う、やっぱやな奴…思いっきり負けたくせに…
「それと、相田亮太…勘違いしては困るが、私はお前に負けたわけではないぞ…再びお前と一戦交え、その時は必ず…」
「ああ、そん時も返り討ちにしてやるから覚悟しろよ、陰陽師さん」
「その言葉、そっくり返すぞ勇者!」
 今も鬼気迫る状況の中、一人だけ違う事を言う奴一名。
「盛り上がっとるのぉ…うむ、若いのはいい」
 それは、ずれてる…ずれてるぞ爺さん!
ビューン!
 その時俺の頭上に、大きな飛行機が俺と御堂の間をふさいだ。
「え?」
「また会おう!勇者!あははははははぁ!」
 颯爽とその飛行機に飛び乗る(垂直に立って)と、再び飛びあがり、高笑いをしながら天空の彼方に消えて行った。
キラリーン
「……」
「言っておらんかったが、御堂家は安陪晴明の子孫じゃぞ…彼奴の実家(神社)がどれだけ儲かっておるか……わかるじゃろう?」
 ああ、そう言えばそうだったのね……くそう、何処までたっても嫌な奴だな、あいつは!ちょっとさっき見なおしたと思ったが激しく前言を撤回するぜ!
「こんにゃろぉぉーーーーーーもどってこぉーい!」
 俺の叫び声が、クレータから壊れた機械都市にむなしーく響き渡った。


 アイスコマンド内
「…ギルティ、どうだった?あいだ君は…」
「ルーキーにしては中々面白い男だな。これから…化けるかもしれないぞあいつは…」
「もしかしたら、ギルティより強くなるかも…ははは」
 アイスコマンドを操縦しながら笑う佐倉の座席の後ろに、密かに隠れていたギルティがむすっとした顔になる。
「さぁ、帰ろうお腹すいちゃったよ」
「拙者は余りかえりたくないが……」
「帰ったら、博士がきっとかんかんだよ〜」
「すまん……まあ、ヴァンデットの被害者を救いたかったからな」
 サイコタワーで佐倉に会った後、ギルティはブレイバーがヴァンデットを倒してる間に住民を冷凍睡眠で眠らせていたのだ。
「まったく、その怪我で良く言うよ」
「放っておけ…」
 けたけたと笑いながら、佐倉はギルティをからかいながら操縦桿をぶんぶんと振りまわす所が何とも子供じみてるとギルティは思ったが…不意に本題に入った。
「事件は解決したそれは彼と、新型BRの性能のおかげだろう。…ただ、拙者にはいくつか納得が行かない事がある」
「……うん、ヴァンデットの再生が予定より早かった事と…」
「それ以前に、奴が頭無しで良く再生できたと言う事だ…プロディックの奴等に何かしらの改造があった事が考えられるが……そして奴は…日光に対する耐性を、以前より持っていたが、その効果が消えて日光に焼かれたのを見た…」
「そうだね…天があいだ君に味方をしてくれた……とは考えにくいね。あいつ、進化の力がどうとか言ってた」
「多分だが、この事件はこれから起きる……もっと恐ろしいことの前触れじゃないかと…そう思えてならない」
「怖いこと言うね…ギルティ」
 アイスコマンドを走らせる佐倉は、例えようの内寒気を少し感じた…

 …そのアイスコマンドが走る地面の下数十メートル先の地下水路…それまで天井に張り付いていた『何か』が地下水の流れに飛び込み、地下水の流れを利用してプロディックシティの位置から段々離れて行った…
 それは、やがて…闇をもたらす者となるか、はたまた…進化を促す力となるか…否か…

 知る物は居ない……


今回の報酬 警視庁よりプロディックシティ奪還報酬:1500万
特別報酬 佐倉の闇オークションによる山分け分(大吸血鬼の腕粉末):20万(オークションに出したけど結局失敗。プライス60万)合計1520万
BR修理費:―570万
BR弾薬両:―400万
BRガソリン代:―40万
プロディックシティ復旧募金:―300万
合計報酬:210万円

次回に続く


設定資料集

人物紹介

佐倉雪菜(16歳)
 雪菜と書いてせつなと呼ぶ。遠くから見たら女の子と間違えそうなくらいな美少年16歳。明るく人懐っこい性格で、α波がだだ漏れしてんじゃないかと思うが…芯はしっかりしてて、多少いい加減な所がある。警視庁特生刑事課の『ギルティ隊』所属の工作員であり、人を欺く事が特技な事から潜入捜査が専門。氷を自在に操れ、数多の凍結魔術を心得てる『氷の魔術師』『アイスマジシャン』の異名が高い。実は細い体格と裏腹に、怪力の持ち主だとか。闇オークション等が趣味でそこで役に立ちそうで立たない情報を持ってくる時もある。戦闘をしない時はラフな私服姿をしているが、戦闘時は額にバンダナを巻いて背中に、なんでもはじき返す赤いマントを羽織る。

佐倉雪菜の武器
 絶氷の杖・フローズンマナ。(佐倉の持つ氷を自在に操る力を最大限に引き出せる、魔術師の杖。先端は氷狼の頭骨を加工して、柄はマナの木を使用した物を使用して上部に作られてる。その為、そこから発する数多の氷の技は一撃必殺の威力を持つ。湾曲した部分から氷の刃を出して、氷の釜を作り出したり、先端を切り離して氷の鎖で柄と繋げれば最長50mまで伸びる氷の鎖鎌になったり万能だ)
佐倉の魔術
 氷の魔術師である佐倉の魔術は、殆どが霊気と氷を使った魔術を得意とする。℃−1万度と言う、マグマを凍らせる程の冷気を放出して外気の水分と、自分の霊気を混ぜ合わせてできる魔術は一撃必殺の威力を持つ。
 必殺フリーズ(外気から水分を集め、氷の塊を作りだし放つ。当たった者は液体窒素をかけられたかのごとく骨の隋まで凍ってしまう。通称フリーズ弾とも言う)
 秒殺ショットガンアイス(フリーズ弾を拡散させて、無数の敵を凍らせる。大きい相手には効果覿面)
 抹殺アイスエッジ(上記にもある氷の鎌、白兵戦等に用いて、意外と多用する。)
 瞬殺フリーズチェーン(上記の氷の鎖鎌)
 絶対零度の桜吹雪(氷の鎖鎌を発動中に鎖鎌を大きく回転させて、冷気を放出させてから鎌で斬り、一瞬で終わらせる)
 切り札(???)

大吸血鬼ヴァンデット
 妖怪種ヴァンパイアー族の中でも、最近になって現れた強力無比な実力を持つ『王』と呼ばれた存在。数少なくなった吸血鬼の中でも野心家であり、地球の絶対的存在となることを企んで、人類を皆吸血鬼化しようと企む。最近になって吸血鬼化の治療法が見つかった。ギルティと戦い相打ちと言うよりか敗北に近い負け方をして腕だけになった。

大吸血鬼ヴァンデット・デーモンモード
 ヴァンデットがプロディック社の技術で、蘇った進化形態。何らかの技術により腕だけの状態から急再生…急進化し、御堂のセイメイmk_5や他のBRも取り込んで合体巨大化して、50m急の怪獣に近い物となった。

御堂耕也
 かの有名な陰陽師、安陪晴明の子孫で先祖代々で伝わってきた方術で、妖怪対峙を行う凄腕の陰陽師。初対面の奴…気に入らない奴には兎に角、口が悪く態度がでかく、常に威張っているが、根は正義感が強い男…だ。仕事の依頼は、世界各地から来て…依頼主が何であろうと、出された仕事は100%遂行する、お仕事熱心な所もある。自腹で改造した(許可受けてます)セイメイシリーズでローンがどうとか言ってるが、実は自宅が裕福な為、お金に関しては困らないのでは?武器は方術と錬金術の集大成と豪語する、巨大な筆は、空気中に印を書いてそこから、式神を召還したり…念波を撃ったり…時には格闘武器にも使って便利だ。それを自分のBRの武装にも反映させている程だが、あまりいい趣味とは言えない。今回の事で相田亮太をライバルとして見とめたとか見とめないとか…


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