プロローグ
人類が宇宙に進出してから二世紀近くが経った頃の話である。
荒野。何も無い荒野だが、その中にあってたったひとつ、ポツリと佇む人影があった。紫色の長髪がやたら印象的だが、目つきは悪く口元も固く結ばれており、クールなイメージを与える男だった。何を目的にここに来て、その目は何を見ているかはわからない。ただ、男はそこに立っていた。
「そんな所にいたのか、ギリアム」
声がした。
ギリアムと呼ばれた男が振り向くと、いつの間にかそこに別の男が立っている。黒いテンガロンハットとジャケット、紅いインナーシャツを着込んでおり、ギリアムよりも更に印象的な男だ。極めつけは白いギターを背負っていることで、ここまでくればもう笑うしかない。
しかしギリアムは笑わず、少し(ほんの少し)驚いたような表情を見せる。
「思ったより早かったな。……この世界では、早川健………だったか?」
「あぁ、流石に本名を使うのはまずいと思ってな」
早川は冗談でも言うような調子で片をすくめた。だが、すぐに真面目な表情に戻る。
「ブラックノワールが動いた」
「何?」
「間違いない。連中、そろそろ本気だな」
ギリアムは唇を噛んだ。思ったよりも動きが早い。しかも、ブラックノワールが動いたということは、間違いなく終焉に向けて、世界もまた動き出しているということだ。世界各地に残る"勢力"が活動を活発化させるのも、時間の問題だろう。
世界はまだ、戦争の傷跡が癒えぬと言うのにか。
「早川、御前はこれからどうするんだ?」
顔を上げ、ギリアムは訊ねた。答えを聞いたからどうというワケでは無いのだが、互いにこれからどうすれば良いのかわからないままでも仕方が無い。
「俺はラングランに降りる」
その回答に、彼は顔をしかめる。
「……ラ・ギアスのラングランにか?」
「あぁ、シュウ・シラカワの動向を探りたいんでな。奴さん、DC戦争が終わってからすっかり姿を消してるが、次に来る大事に気づいていないはずが無い」
なるほど。ギリアムは納得した。
シュウ・シラカワはDC戦争における最大のフィクサーだった男だ。詳細は後に述懐することとなるだろうが、現在世界で最も強力な勢力の一派であることには違いない。その頭脳は並の人間のはるか及ばないところにあり、しかし流されるままという事態を良しとしない性格の持ち主である。彼が事態を把握すれば、いざという時に打開策を打ち出してくれるのは明らかだった。
では、俺はどうしようか。かつて短い間ではあったが共に戦ったゼンガーやエルザムを訪ねるのも良いが、しかし彼らには彼らの使命がある。それにそう遠くない内に"事実"を知るだろうし、今焦ることでも無いように思えた。
「私は……大体の地上勢力と接触してみようと考えている」
やや消極的ではあるものの、それが確実だ。現在宇宙を含む"地上"には地球連邦軍、宇宙革命軍、そして地球平和連合という三大勢力が睨み合っており(人間同士の戦いを良しとせぬ地球平和連合は例外であるかもしれない)、更に区分するならティターンズ、ロンド・ベル、ネイサー、ネオ・ジオン、プリベンターなど枚挙に暇が無い。ティターンズ内部にはまた、XIGなどといった特殊部隊があり、それら全てが微妙に違う信条の下動いているのだ。そこに個人勢力や秘密結社などをあわせた全ての勢力とコンタクトを取ることも重要である。
「言うと思ったよ、ほら」
言うと、早川は一枚の紙を差し出した。
「地上の勢力を出来るだけリストアップしてみた。まぁ、ライダーなんかは個人営業だから探すのが難しいと思うけどな」
「叶わんな。御前には……」
ギリアムは笑ってリストを受け取る。
「もう行くのか?」
「ああ、早い方が良い」
そのまま去ろうとする早川に、もう一度ギリアムは口を開いた。
「……エルピスの連中は…元気にしているか?」
「ああ、心配は要らないさ」
「そうか……」
ギリアムもまた、早川に背を向け歩き出した。自分は戦わなければならない。フラスコの中に作られた小さな、そして途轍もなく大きな世界を守るために。それが自分の与えられた使命なのだ。多分、生まれたときから。
空を暗雲が不気味に覆っていた。彼の行く手を、阻むかのように。
ビアン・ゾルダーク博士によるディバイン・クルセイダーズの結成と反乱。
異星人インスペクター、エアロゲイターの襲来。
これらとその時に発生した多くの動乱を纏めてDC戦争と呼ぶ。
DC戦争は地球人たちの民族的自立を促すには十分すぎるものだった。
そう、人類は「真の地球人」として生まれ変わることが出来たのである。
しかし
平和が長い間保たれることは無かった。
移ろいゆく戦いの記憶と共に、人々の絆も薄れていった。
DC戦争後の連邦政府は、未だ宇宙で活動を続けるネオ・ジオンを恐れ、
スペースコロニーに対し経済的・政治的弾圧を行った。
これに反抗した宇宙革命軍は、
ネオ・ジオンを中心にジオニズムを前面に押し出しスペースノイドの団結を図った。
その動きに連邦は危機感を抱き弾圧を激化、
革命軍も旧DC派を取り込みゲリラ活動を行うようになる。
「真の地球人」は死んだ。
DC戦争により地球人とかかわりを持つようになった異星人だが、
これらの事態に対し、インスペクターは不介入を宣言、
バード星やキュラソ星といった惑星人も領事館の設置を延期したいと申し入れてきた。
地球人の凶暴性に、誰もが絶望していたのだ。
こうして、
世界は再び戦乱の渦へと………
【おまけのデータファイル】
ギリアム・イェーガー
登場作品:バンプレストオリジナル キャスト:田中秀幸
バトルミュージック:ファイティングヒーロー
主人公では無いが、物語の中核を担うキャラその一。地球連邦軍、元特殊戦技教導隊のひとりと言うが、それ以外の経歴は一切謎に包まれている。愛機は漆黒の亡霊ゲシュペンスト。ロールアウトされている量産機に比べかなり性能は高いのだが、ギリアム同様その存在には不明瞭な点が多い。
連邦軍に在籍していた頃の階級は少佐だったが、現在はフリーの傭兵。ティターンズに対しアプローチを行っているほか、異星人、暗黒結社ゴルゴムにも動きを見せており、味方陣営にいられるとちょっと困るよくわからない人である。とか言いつつも、フリークな読者にはバレているような気がしてならない。
「おかしいとは思わないか? MS、怪獣、サイボーグ、さらには異星人までも 一つの世界に存在している」
「何者かがこの世界を人工的に作り上げた……この世界は実験室のフラスコなんだ…」
早川健
登場作品:怪傑ズバット? キャスト:宮内洋
バトルミュージック:地獄のズバット(おんち)
ギリアムの旧友らしい。主人公では無く、あまつさえ物語の中核を担うわけでも無いのに美味しいところばかり掻っ攫っていくキャラ。ズバットスーツと呼ばれる特殊強化服を装着して戦うが、その超人的技能から実はサイボーグでは無いかとまことしやかに囁かれている。親友、飛鳥五郎の敵は既に討ったらしいが、何をやらせても日本一の腕はさび付いていない。唯一の弱点科目は歌。
ギリアムと同じく、彼の過去も一切が謎に包まれており、突如地球に出現したような経歴を持っている。直接の面識は無いくせに、主に仮面ライダーの情報に詳しい。シュウ・シラカワ、そしてマサキ・アンドーの動向を探るため神聖王国ラングランに向かった。本名は別にある。
「だがな、日本じゃァ二番目だ」
「正義? 平和? そんなものが何になる? 俺はこれだけの力を持ちながら親友一人救うことができなかった」
無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!