夢

 少女は、夢を見ていた……

 それは、幼き頃に忘れ去られた…夢……

 それは遥か遠い記憶でもあった……

 波の音が、少女の耳に入る……

 浜辺に、背の高めの青年がいた……

 海を、見つめ……水平線より向こうの世界を見上げている。

 サングラスをして、後ろで、長い髪を縛った不思議な男……

……名雪、…名雪…
『だれ、だれなの?』
 少女の耳に、優しい声が波の音と共に聞こえてきた。

……こっちだ、名雪……
『わたしを呼ぶのは……誰?』
……来てくれ…父さんの元に…
『お父さん?……あなたは、お父さんなの!?』
……早く、来てくれ…そうでないと大変な事になる……
 その声は、段々と小さくなって行った。そして…その青年はゆっくりと浜辺を歩き出した。
『お父さんっ!行かないで!』
……父さんは、必ずお前が…陽介とこの場所に来ると信じている、きっと……
……きっと…



「お父さんっ!」
がばっ!
 名雪は、勢いよくベッドから飛び起きた。まだ、日が昇らない…暗闇の空に細長い月が浮かんでいる。かすかな月明かりに照らされて、名雪のベッドの上に何かがあった。
「これは、冬に祐一に買って貰ったビー玉……雪ウサギさんにつけて、うーんその後どうしたのかな〜…わかんないよ、とにかく仕舞ってまた寝よ……」
 そして、少女…水瀬名雪はビー玉を大切にしまい、再び眠りについた。
「くー…」


 時同じくして、彼女の生き別れの兄でもある少年、陣内陽介は暗闇の空に細長い月を見上げて…
「もうすぐ、新月だな……恋香…」
『うん…ごめんなさい……あたし、いつも陽介や佐祐理さん達に迷惑ばかりかけて…』
 思考の奥にいる、もう一人の自分と陽介は会話していた……少し短めの青い髪の少女だ。
「でも、お前の協力がないと……俺は父さんも見つける事もできないし、白狼の力でさえも取り戻す事はできない……謝るのは、こっちのほうだ」
『いいの、あたしが勝手に出てきちゃうから……』
「まあいいさ、明日から3日間、学校を休む……それを利用して本郷さん達の言った場所に行けばいいさ。狼岩のある場所を知ってるのは…恋香だけだからな」
『うん、そうだね…それじゃあ、おやすみ……陽介』
「ああ……」

超弩級巡洋戦士ウラタンダー!
外伝 陣内兄妹の章 〜狼の呼び声が聞こえる〜

3日前
 今年の冬に、真実の母である水瀬秋子が事故にあった時、陽介は名雪に「俺はお前の、本当の兄だ」と言って…14年ぶりに本当の肉親と再会をはたして早2ヶ月は過ぎようとしていた。季節は6月冬は寒いこの町も、ようやく夏の訪れが来るような日差しが照りつけてる時だった……、部活が終わり…恋人の佐祐理や舞の待つ自分の家に帰ろうと思った時、名雪が不意に声をかけた。
「陽介君、たまには一緒に帰ろうっ」
「……珍しいな、今日は相沢が迎えに来ないなんてな」
「うん、祐一今日はお母さんとお買い物だよ〜」
「米か……」
「わ、正解だよ〜」
「勘は良い方だ……」
 そんな、兄と妹の他愛ない会話をした後で、陽介と名雪は帰路についた。途中まで来て、名雪が切り出した。
「陽介君、お父さんってどんな人だったの?」
「……すまない、俺にも父さんがどんな人だったのか、解らないんだ…俺も小さかったからな」
「うん、わたしが小さかったからかも知れないんだけど……陽介君やお父さんと過ごした時の事は全然思い出せないんだよ」
「思い出せないんじゃない……知らないって言った方が早いな、記憶にないまるで消されたかのように…」
 陽介がそう言うと、名雪は悲しげに俯いた。
「すまない、無責任な事を言った……」
「ううん、いいんだよ……実際そうだから」
 名雪は必死に笑って見せた……少し儚げで、陽介は少し罪悪感を感じた。
「……わたしね、最近不思議な夢を見るの…海が見えて……浜辺に長い髪を縛った男の人が立ってるの……それで、その人はわたしに「こっちにおいで」って言ってるんだよ」
「どんな感じがした?その人……」
「懐かしい……切ない…そして、物悲しい、そんな感じ…」
「……多分、父さんの夢だ…」
「えっ?」
 突然のことで、名雪は驚いて陽介の方を見る。
「……多分の話しだから、俺にも解らない、ただ、名雪も陣内の血を受け継いでいるから、覚えていない父親が夢に出ても、なんら不思議ではない……」
 それ以前に、記憶に無くても血が思い出されるのだろう…名雪が見ているのなら陽介自身何か見えてなくては可笑しいかもしれない。
「そうなの、わたし達の血って……」
「余り気にするな、ただの夢と思えばいい」
「うん……そうするよ」
 とはいった物の、名雪はどこか寂しげなのが陽介にははっきり解った。確かに、15年前に消えた父親……顔の解らない父親を思わない子供が何処にいるだろうか…
 名雪はおろか、陽介だってそう思うのは当然だ。名雪の夢に何か陣内榊を探す手がかりがあるんじゃないか……そう思わずにはいられなかった。
「あっ、それじゃあね陽介君」
「またな……」
 名雪と別れ、陽介は自分の家への帰路を歩いていた。その途中でも、名雪が言った浜辺……と言う言葉が頭の中から離れない。
 父のいるであろう、その浜辺の夢は、なぜ名雪にしか見えないのだろう…産まれながらにして、太陽と月…それぞれに別れた陣内の双子、この違いはなんだ……やはり、白狼との分離以来、陽介の力は不安定になってしまったのだろう。名雪も自分に宿る陣内の力の使い道が解らないままでいる……
「いや、わからなくていいんだ……名雪は覚醒前だし、それにこの戦いには巻きこみたくないんだ……」
 陽介は辛そうな表情を浮かべながら、遠ざかる名雪の背中を見送った。

そして……3日後の朝、新月の日
「……んっ…」
 陽介の部屋のベッドで、目が覚めたのは……陽介とは別の青い髪の少女だった。彼女の名は月代恋香(つきしろれんか)…
 もう一人の陣内陽介といえば納得が行くだろうか、彼女は…陽介が特異体質で中学2年の時少女の姿へと変貌し、以来新月が出ている24時間だけ陽介は恋香へと変わってしまう。人格も、陽介から恋香へと入れ替わる、恋香でいる時は陽介の人格は恋香の思念の奥にいるのだ。
「また、何も言わずに出てきてしまった……」
 恋香はそう思いながら、陽介の着ていたパジャマを脱ぎ、鏡の前の自分を見る……自分の体が、そこに写る。
「あたしの体……そして、陽介の体…」
 千年の呪いが作り出し、白狼により呼び出された自分の姿、本来ならあってはいけない存在、異端の存在。それが自分…しかもそれは、体を共有する陽介も傷付けている事になる…千年の呪いの為に、また悲しい結末が来る…恋香は、千年もの膨大な記憶とそれが陽介の負担になる事が何よりも嫌だった……悲しかった…
「陽介……起きてる?」
 部屋のドアがノックされる…声からして、舞だろうと恋香は悟った。
「……恋香、恋香なの?」
 ドア越しで、舞は陽介が恋香になってしまった事に気付く。恋香は少し動揺した…けど出ないわけには行かなかった。
「舞さん、すぐ出てきます」
「うん……」
 恋香はそう言って、いそいそと着替えをして部屋のドアを開けると、そこには舞の姿があった。舞が陽介の家にいるのは、魔物退治を佐祐理、陽介と共に終わらせ…佐祐理と舞が卒業後3人で暮らす事にする…だがいい場所がある訳でもなく、陽介の家に二人は住む事となった。今は、もう二人とも陽介が恋香へと変身する事には二人は慣れているが…。
「おはようございます……舞さん」
「おはよう、恋香…朝ご飯ができている」
「はい……」
 そう言い、恋香は舞と共に佐祐理の待つキッチンへと足を運んだ。

「あ、おはようございます、陽…あ、恋香ちゃん…」
 キッチンに到着すると佐祐理が挨拶してくるが、やはり少し動揺している。
「おはようございます、佐祐理さん」
 恋香も少し不快な感じがする……だが、それも仕方がない。恋人が突然女の子に変わってしまっては…誰でも驚くだろうし、寂しいであろう。それで、恋香と佐祐理はそんなに仲がいい訳でもない。沈黙が…とても重く、気まずい雰囲気が漂っている。
「佐祐理……お腹減った…」
 舞が恋香の後ろから佐祐理に言うと、二人はハッとして、佐祐理は少し手元が狂った。
「はっはいはい、恋香ちゃん手伝って」
「はい」
 いつもの舞ペースで、いつもの状態へと戻る。舞のおかげで気まずい雰囲気が飛んだようだ。そして、いつものように朝食を取る。舞と佐祐理と他愛無い話しをしながら、恋香は朝食を取った。陽介はいつもこの楽しい風景を見ているのかと、少し……陽介が羨ましくなった、千年前に神奈だった頃の気持ちと同じ、仲間と共に母を求めて旅していた頃と、同じ、温かな気持ち……こんな気持ちがずっと続けばと、恋香は思った。

「恋香ちゃん、今日は学校お休みするの?」
「はい…いきなり、転校生って訳にもいけませんし、私では妹には会えません…」
 妹と言うのは、名雪の事だろう。陽介同様に恋香にとっては名雪は血を分けた双子の妹でもある。特異体質で兄が女になったなんて、いえるわけが無い。
「それで、今日は…本郷さんと結城さん達と一緒にある場所に出かけようと思うんです」
「本郷おじ様達と?」
「………」
 今から父のいる場所へと行くなんて、佐祐理や舞の前では絶対に言えない。だが、それは帰って危険だという事だ。おそらくそこに、虚空からの使者ギャラクシアンが襲来してくるやも知れない…。
「日帰りじゃないかもしれませんけど、了承してください」
「はえ〜、解りました。でも危険な事はしないでくださいね〜」
「………」
「ありがとうございます、帰って来る頃には、陽介の姿に戻っていると思いますので」
「陽介さん…そうですね〜」
「……」
 そう言い、恋香は少し急ぎで朝食を平らげて自分の部屋(陽介の部屋)へと戻り荷支度を済ませる。
 自分の服や、もし活動中に陽介に戻った時用に男物の服も入れておく。そして、恋香は陽介の机に置いてあったブレスを手に取った。陽介が白狼の力をもう一度取り戻したいという要望で、佐祐理とS.U.P.の結城丈二博士らで宇宙刑事の技術を用いて作られた、特殊戦闘機鋼強化服である。当然、舞も佐祐理も、ましては恋香でさえ陽介が白狼の力を戻すという事には反対した…だが、運命から逃れる術が無いのなら、切り開いて見せるしかないと言った。その為に、陽介の父、榊は名刀『正幸』を陽介の手元に置いて行ったのだと思う。
 そんな時に、部屋の外から声がした。
「恋香ちゃーん、本郷のおじ様が迎えに来ましたよ〜」
 佐祐理の声が下から響き、恋香は荷物を持って部屋を出ようとした。部屋を出ると、そこには舞がいた。悲しそうな顔で…恋香を見つめて…
「恋香、危険な所に行くのね……」
「はい…舞さんに隠し事はできませんね……」
 少し流し目でそう言うと、舞は恋香を抱きしめて…
「危険な事は避けて……恋香の体は、一人の体じゃないから…」
「あなたの心配しているのは、陽介の方ですか……それとも」
「陽介も、恋香も…」
 その言葉に、恋香は少し戸惑いを見せた。異端の存在である自分を……この人は…
「どんな形で生まれたとしても…生まれてはいけない存在なんて…いない。恋香もそう…」
「……」
「恋香が存在意味は私や佐祐理、本郷さん達…そして陽介が一番よく知っているから…」
 優しい言葉が恋香の中に届いてくる。自分の存在する理由…それは…
「…私もそうだったから……」
「……」
 舞にも、恋香…陽介と同じ血が流れているからか……恋香は後ろから抱きしめる舞の手に自分の手を置き…
「………ありがとう、姉さん」
 恋香はそう言うと、舞から離れて下にいる本郷猛の元へと向かおうとした。そして振りかえり…万面な笑みを浮かべて…
「大丈夫、あたしは…死にません、陽介も…死なせません」
「……」
 無言の笑顔を返す舞…大丈夫だと言う事だ。

「こんにちは、本郷さん」
「やはり変身していたか、恋香……」
 恋香が下に降りてくると玄関には警視庁の服を着た男がいた。警視庁の本郷 猛警視総監である。本郷も恋香が陽介である事はわかっていた。
「立ち話しもなんですから、もう行きましょう…」
「そうだな、それじゃあ佐祐理ちゃん」
「はい〜、いってらっしゃい恋香ちゃん」
「いってきます、佐祐理さん」
 佐祐理は笑顔で手を振って、恋香を見送った。

「君の示した地点に、既に結城達やS.U.P.の調査員も集結している」
「はい……それでは、行きましょう」
 恋香は、本郷のバイクの後ろに乗って…恋香の示した地点、大神海岸へと向かった。


 そう、父……榊の待つ、狼岩へと…

続く

設定資料集

人物紹介

 月代恋香
名雪の兄、陽介のもう一つの姿。ユーゼスを追う為異次元空間へと赴く為に子供だった陽介と分離、その時に千年前の呪いで空に囚われていた翼人、『神奈』の魂が転生して陽介の思念の奥で恋香が生まれた。以来新月の日に陽介の体を女の体に変えて人格も陽介から恋香へと変わる。神奈の時の記憶から…今までの不幸の記憶を全て背負いこみ、主人各である陽介に負担をかけてないか心配。狼岩の在り処が大神海岸であると示す。

 後書きっ!Y(ヤクト)団首領

 ウラタンダー頑張ってますっ!今回は、陣内兄弟の外伝の章です。これは前中後篇に別けてやりますっ!
 最後の最後にウォーハンター『陣』を付けて行こうと思います。
 月代恋香ちゃんどないでしょっ!

 私的にいい女の子だと思いますっ!

 んではっ!


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