本郷のサイクロン号に揺られながら、恋香は本郷に聞いた。
「あの……陽介から口止めされてたんですが、父はどんな人だったんですか?」
「榊の事か、陽介が聞かないって言ったんじゃないのか?」
「はい……でも、聞きたいんです…陣内 榊…あたしが生まれ出た切欠を作った人物…私の思い出の中に無い、唯一の人物。知りたいです…」
 本郷はこの時思った、陽介のもう一つの姿である恋香にとっても、榊は自分の父親と言う事を…
「正直、私も解らないんだ、榊が子供の時までしか……『狼の戦士』であった時の彼の活躍も、私は知らない……」
「陽介も、榊自身に記憶を消されています……勿論、名雪も…」
「……すまないな、役に立てなくて…」
「いえ……あたしは大丈夫です、それに…直に会えますから……大神海岸に行けば」
「そうだな……」
 大神海岸にある、狼岩に……彼は眠っている。自分の為?妹や姉の為?いや、陽介のために…父に会わせたい、陽介はこの日の為に十分な訓練に耐えてきた。
 舞と共に魔物との戦いに勝利して、十分過ぎるほど傷付いた陽介はこの後に迫り来る脅威に、彼にとって禁断の力とされた白狼に戻りたいと言う。魔物との戦いで、舞に助けられてばかりで何も役に立たなく、深く傷付いた…そして彼は言った『強くなりたい…舞さんや佐祐理さん……恋香を守れるだけの力と勇気が欲しい』
 …そして、彼は佐祐理達の反対を押しきって…S.U.P.で彼は死ぬほどの訓練を受けて、陽介は白狼の力を元に戻そうとした。彼には勇気が無いわけは無い……むしろ、有り余るくらいの強い闘志……だから佐祐理達も陽介に協力しているのだ。
 恋香も、自分より他の誰かの為に戦いたいと言った陽介が………好きなんだ…


超弩級巡洋戦士ウラタンダー!
外伝 陣内陽介の章 〜恋歌〜


 数ヶ月前…

 陽介が白狼に戻りたいと言ってから、彼は死に物狂いの特訓をS.U.P.極東支部で受け、その力を徐々に上げて行っていた頃、S.U.P.で科学者をしていた結城丈二と陽介の彼女でもある倉田佐祐理、そして宇宙刑事シャイダーこと…沢村 大との協力で着々と陽介専用の戦闘用強化服が開発されていた。沢村 大は、銀河連邦警察によるギャラクシアンの規模と戦力、潜伏先…被害状況の現状を知らせに来たのだが、戦闘強化服の製造に宇宙刑事のコンバットスーツの技術を応用したいと言う結城の頼みで、技術提供の為に数ヶ月後に地球に再派遣されるギャバンやシャリバンが来るまでS.U.P.極東支部でのギャラクシアンの監視…及び、新たな古代遺跡の調査を行うためアニーと共に待つ事になった。
 勿論、宇宙刑事の技術提供はコム長官のコネもある……

 それに一度は、陽介は自分を白狼へと再改造して欲しいと言う要望もあったが…本郷や仮面ライダー2号でもあり、陽介に特訓をつけていた一文字隼人もそれは反対して、結城の製作する強化服にかけたという。

 そう言う事で、結城丈二と倉田佐祐理の手により、陣内陽介専用の『特殊戦闘機鋼強化服(狩人『英名:ハンター』)』が完成して、この日は実戦テストを行なう日だった。
 実戦に使われるトレーニングルームは白いドーム状になっていて、その中には陽介一人だけいた。
『陽介さん、テストを開始します。狩人(ハンター)を装着してください』
『いいかい、陽介君…これは今までの訓練とは違い実戦だ。目の前に敵が出たら迷いもせず必ず倒す事を心がけるように』
「…解りました」
 陽介は結城の製作したブレスを天高く掲げる。
「光波!招来っ!!」
 ブレスが開き、陽介の体に特殊な光エネルギーの粒子が浴びせられる。
 これが、陽介が白狼の力を取り戻したいと言った理由…、赤黒い狼を象った重い金属の強化服……ハンター…
 装着完了した陽介は頭を上げ、強化服を纏った腕を見る。蒸気が腕から出ている…拳を握るとその強化服の力が体に漲ってくる
「光波率100%装着…ウォーハンター『陣』、起動完了」
『成功です、結城博士!』
『ああ、陽介君…ハンターを装着できる時間は限られている後……』
「了解…実戦テスト開始…」



「……んか……恋香」
 声が聞こえた。……本郷の背中で恋香はついうとうとしてしまったらしい。
「もうついたぞ、大神海岸だ」
「そうですか……」
 海の波の音が恋香の耳に聞こえ、S.U.P.の機材が持ちこまれていて、コードの終着点に仮設テントがあり、その中には本郷や恋香の知る人物が数名来ていた。
「結城さんっ!」
「やあ、恋香…そう言えば今日は新月だったな」
 白衣を着て、モニターを確認している男は、S.U.P.科学班の中でも一の頭脳を持ち…そして、本郷と同じく仮面ライダーの一人、ライダーマンこと結城丈二だ。
「はい……、すいません大事な日なのに」
「いや良いさ、おかげでこの場所の特定も早くできたし…それに沢村君やアニーさんの協力で作業ははかどっているよ」
「あっ、そうですか…良かった」
 恋香はホッと胸をなでおろす……海岸では、幾つかの作業用ロボットを用いて海岸の岸壁を削っていた。
「結城、作業の状況はどうだ?」
「ああ……あの岸壁の内側に、強力なエネルギー体がある事がわかった、多分そこに狼岩があると思う」
「……あそこに、陽介のお父さんがいるんですね」
「……榊があの中に封印されているなら、助け出したい……それはここにいる誰もが思っているさ…」
「そうですね……」
 本郷の言葉に、恋香も何処となく落ち着いてしまう…そして、恋香の目に一台の大型トラックが目に入った。その荷台には、一機の特殊な戦闘機が乗せられていた……
「あれは、SF−TYPE98『天槍』っ!しかも、陽介専用のカスタムタイプ…なぜここにあるんですか?結城さん」
「ああ、少し問題が発生した…」
 大型トラックの荷台から下りて来たのは、神 敬介…。S.U.P.オランダ支部で次期主力戦闘強化服候補のテストを行っていたはずだが…
「よっ、恋香」
「こんにちは、敬介さん……ああ、それより問題って何ですか?」
「ああ……問題と言うのは、オランダ支部がギャラクシアンの編隊に強襲された」
「なんだってっ!?被害はっ!!」
 すぐに、敬介の元に来た本郷も…その言葉に驚いて、敬介に詰め寄った。
「…オランダ支部のコンピュータが破壊され、すべてのシステムがシャットダウンしました。修復には、5ヶ月が必要でしょう……問題はそれだけじゃありません」
「何?」
「次期主力戦闘強化服に使われる為の、G−クリスタルとあの特殊液体金属を強奪されました……」
「何だって、あれは人の恐怖を吸ってそれを形にする…あれの脅威はお前が一番解っているだろう…」
「すいません、本郷さん俺がいながら……」
「まあ、仕方が無い…ここでお前を責めたって始まらないからな…問題は……来るんだな、ここに……」
「はい…、奴等は明後日に編隊がここから日本に強襲を仕掛けるつもりです。多分…あれも使ってくるでしょう…借りは返さないとな」
 本郷と敬介の会話を、恋香も不安そうな面持ちで聞いていた…ギャラクシアンが明後日ここに攻めて来る……それを未然に防ぐ為にも、ここで一気に叩くつもりらしい。
「あそうだっ!恋香、オランダ支部から…陽介にプレゼントだ!」
「えっ?陽介に?」
 そう言って敬介は恋香を連れて、SF−TYPE98『天槍』から少し離れた別の大型トラックへと連れて行った。
「これはっ!?」
 恋香の目に飛び込んできたのは、MSのパーツらしき物が荷台に積まれていた。
「天槍カスタム専用の、ブーツだ。元々カスタマイズする時に天槍は、人型に変形できるようになっていたけど…足パーツを付けると戦闘機としての性能は落ちてしまうから、足パーツとは別々に製作される事となった。そしてオランダ支部でついに完成した、それがこれだ……」
「これで、陽介はまた強くなる……」
 恋香は…その時思っていた…陽介は強くなる……確実に、だが自分は無力であった。ギャラクシアンが攻めてきても、自分には何も出来ないと……そして、自分が傷付けば陽介も……
「……」
「どうした?恋香…」
「いえ、何でも無いんです……ありがとうございます。陽介の為に…」
「いや…気にするな、君も陽介も共に戦う同士だからな」
「そうですねっ…あたし、沢村さんの所に行って来ますっ」
 恋香はそう言って、敬介の元を離れて行った。敬介はその恋香を見送ると…
「あの子も大変だな……」


大神海岸、岸壁前

「あ、恋香ちゃん。久しぶりっ」
 岸壁前で恋香を出迎えたのは、沢村 大では無くてそのパートナーのアニーである。
「アニーさんっ、こんにちは。沢村さんはどちらに?」
「シャイダー?この岸壁で得に反応の大きい地点の作業をしている所よ」
「そうですか…」
 恋香はアニーから、沢村 大の居場所を教えてもらうと、そこに向かって行った。
「こんにちは、沢村さん」
「やあ恋香、そうか…今日は新月か……」
「はい……作業の方はどうなっていますか?」
「ああ、やはり僕にはこの仕事の方が生に合っているらしいよ…ここに、凄いエネルギーが溢れているのは結城さんから聞いたよね…この下に君の言う狼岩が隠されているんだ」
「あたしが手伝える事はありますか?」
 恋香は、懸命に大に聞いてきた。大はその健気な姿に少し微笑んで……
「うん、アニーの所で狼岩の正確な位置を作業用MSに伝えてくれ。MSの動かし方は知ってるよね」
「はいっ!」
 恋香は元気よく頷いて、アニーのいるテントの方へと走って行った。
「健気だな……まったくもって」

 気がついていたら、西の海に日は落ち……辺りは月のない暗闇と化した。が波も穏やかで風も吹かない、気温も良好で…不気味なくらいの静かな夜の海が広がっていた。
 それが転じて…発掘作業は順調に進められて行った。
「静かだな……」
「はい…、作業の音は無しにしても……」
 結城と本郷が夜の闇に染まる海を見て話し合う…いつでもギャラクシアンが攻めて来そうな気配もする。
「ここが戦場となるのか……」
 改造人間のバッタの第6感が働くのか…海の向こうから迫り来る何かがいるんだろう。
「…なぜここから、ギャラクシアンは上陸しようと思ったんだ?」
「それはここにとてつもないエネルギーを感じたからだと思います」
 本郷と結城の元に丁度休憩に入った大とアニーが戻ってきて言った。
「あの狼岩からは、感じた事のないとてつもないエネルギーが放出されています……多分、そのエネルギーをギャラクシアンは狙っていると思います」
「確かに、これだけ派手に放出されちゃ、敵さんも放っては置けないな……」
 苦笑する本郷は、気づいた事があった…恋香がいないという事だ。
「恋香はどうしたんだ?」
 それを聞くと、大は微笑んで……
「疲れてテントで寝ています。まったく……どうすればあれだけ一生懸命になれるんだろうか…」
「彼女も何か私達の役に立ちたいんだろう……自分はあまりにも無力な存在と恋香は思っているのだろう……得に、もう一人の自分である陽介に負担を負わせたくないんだ…」
「そうか、それで陽介の持っていた刀を抱いて寝ているのか…」


 恋香は仮設テントの中に設置してあるベッドで、名刀『正幸』を抱えながら眠っていた。これを抱きながら眠ると、一番陽介が感じられるからだ。




「……お疲れ…」
「あ、陽介…」
「悪いな……、起したな」
 あたしの思念の中にいる陽介が、眠っているあたしに優しい声をかけた。
「ううん…全然……あたしは大丈夫だから」
「そうか……無理させて悪いな、俺がやらなきゃならないのにな」
「あたしは全然、負担になっているなんて思っていないよ…」
 陽介はいつも人に負担を掛けない様にしているけど……陽介自身は背負い過ぎだよ…自らの運命や、白狼になって犯した自分の罪、そして千年の呪い(あたし)の存在…
 歴史が築き上げた、重荷を陽介は一人で背負おうとしている。それでも、あたしは無力だ…力にもなってあげられずに、ただ見ているだけ…そんなあたしが憎くて仕方がない。
 今までと同じではないか……千年前、空に取り残されて見つづけたあたしと変わりがない。その度…自分を犠牲にして来た者達……今の陽介もそう……
「そう…いつも陽介は、人を気遣って……自分のことは何も考えていない」
「………」
「何度も傷付いて、死ぬ思いもして…それでもあなたは、重荷を背負っている。どうして…全てを背負い込もうするのですか……強くなりたいから?それとも、罪を悔い改めたいの?」
「……恋香」
「あたしは、解らない……陽介と一番一緒にいるのに…自分の事を考えようともしない、陽介の気持ちが……あなたは死ぬのが怖くないの?悲しい運命が来るかもしれないのに、怖くないの?」
「恋香……」
 涙声で陽介に言い放つと、陽介がふわりとあたしを抱きしめた。あたしの心はドクンと鳴った。暖かく…優しい陽介の腕の中……
 陽介のその表情は険しく…それでも何処か、悲しげで儚げにも見えた…でもふっとはにかんで……
「…俺は別に、何かを背負い込もうなんて思っちゃいない……それに、死ぬとか…悲しい運命とか…怖くないはずがない。だけど、これが俺の正義だから……」
 あたしは気付いた……陽介が震えている、怖いんだ…陽介は表面には出さないだけだ。本当は逃げたしたいのは陽介自身なのに…あたしはそんな事も気付かなかったの?
「何かを守りたい…そう、名雪や佐祐理さん、舞さん…それに恋香、お前を守りたいっ!俺が背負うのはこれだけだ…これ以上俺が背負うつもりはない」
 陽介の決意、彼は決して千年の呪いも白狼も背負い込もうとはしていない……『何かを守りたい』それだけで体が動く。この人はあたしより強い……どんな逆境があろうと、陽介は囚われず、前に突き進む人…それでも、あたしは無力……弱い…彼の真似なんてできない。
「陽介……それでも、あたしは見ている事しかできない…守られてばかり、自分は陽介に守られてばかりで何も約になっていない、今日だってそう……あたしの存在はみんなに迷惑をかける」
 それを聞くと陽介の表情には真剣さが増して…あたしの肩を持つと……
「何を言っている……お前は、俺の力になっているじゃないか…、俺はいつでも、お前と共に戦っているつもりだ…みんなだって、共に戦う同士だって思っているはずだ。みんな、お前を必要としているんだよ……無力でも、お前は俺達の力となっているんだ。一緒に戦っているんだ」
 あたしは途方に暮れるしかなかった、彼の真っ直ぐな瞳……あたしと鏡写しの瞳の色、深い青を奏でる左目に対し、右目は闘志の燃えるような真っ赤な瞳。あたしの鼓動は高鳴るばかりであった。
「……俺は、夜眠る時…お前がいつも歌ってくれる歌に勇気付けられる……何度か俺も挫折しかかったけど、ここまで来れたのは恋香の歌があったからだ……」
 あたしは、その言葉に陽介の表情を凝視した。あたしは…聞こえはしないが陽介が眠る時は必ず子守唄を奏でるかのごとく、千年前…あたしが神奈だった頃、裏葉に歌ってもらった歌を思い出しては歌った……陽介が、あの頃の神奈(じぶん)とダブっていた見えたからだ。
 聞こえるはずはない、そう思っていたけど……あたしの歌がが知らない内に陽介を勇気付けていたなんて知らなかった。

 結局あたしの取り越し苦労だった……陽介は強い、白狼が分離した理由も何となく解った気がした。
 巨悪の堕天使……白狼は、陽介が子供ながらに持っていた予想外の特性に自分も変わって行く事に気付いて……それで。

 たった小さな理由……決意それだけの筈なのに、陽介は重い正義を背負っている。やっぱり、陽介には重すぎると思うけど、軽いんだね……
「……明日、ギャラクシアンがここに来るんだろ…なら、俺に勇気をくれ……」
 そして、陽介は座りこんであたしに微笑みかけた。
「…うん、でも…こうしてもいい?」
 あたしも陽介の隣りに座りこんで、陽介の頭をあたしの膝に乗っけた…言って見るなら膝枕だ。あたしは陽介には佐祐理さんがいることは解っているけど、今だけなら許されると思った……陽介は頬を赤くして…
「……佐祐理さんにたまに膝枕をして貰うけど…お前は始めてだ」
 そして、あたしは何も告げずに陽介に子守唄を聞かせるように歌った。自分が歌が上手いとか解らない、けど……陽介はあたしの歌が好きだといってくれた。

 いつしか、陽介は少しうとうとして…眠ってしまった。あたしと陽介が会えるのは、新月の夜…眠った時に思念の中で会う事が出来る(多分そこから人格交代を行うんだろう)唯一の時間……それでもあたしは、陽介が好き……この歌は陽介に捧げる歌なのだろう。


 これは、陽介への恋歌なの?


続く

後書き
 だべさっ!Y(ヤクト)団首領初の切ないSSっ!そして、メンバーも揃ったでしょうっ!

 次ぎはいよいよウォーハンター『陣』とあいつが現れるべよっ!
 そいではっ!

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル