目が覚めたら、いつも…真っ赤な部屋。真っ赤になった家の中…

 お父さんも、お母さんも真っ赤になって動かなくなった…呼んでももう、起きる事が無い。
私の手も真っ赤、私がお父さんとお母さんをこうした……そうすれば、二人ともずっと私と一緒に居られる。
 ずっと…ずっと…お父さん、お母さん、大好き。

ガラ!

「ふぅん…両親を殺したか、『……』の死徒」
 金?金色の髪の人?ちがう、この人も人間じゃない。背中には長い剣…金髪の人が私に近づく、怖い……怖い、逃げられない…殺される、いや…誰か…助けて!!
「本当なら殺すはずだけど、君には『彼』を呼ぶための『餌』となってもらうよ」
 その人が私に手を差し伸べてきた、嫌だこの手を取ったら…二度と戻れない。
「怖がるなよ、上手に仕事してくれれば……後で楽にしてやるから」
 手を引こうとしたところを彼は強引に私の手を掴む。その手は、人のものじゃない、鳥…空から獲物を捕まえる為、鋭い爪を持った猛禽類の足を模した腕。
「腕、大事でしょ?彼を抱きたいんでしょ?この腕で…」
 笑いながら、ギリギリと猛禽類の腕の指が私の手に食い込んでくる。
「うう、痛い!」
「……腕が大事なら、協力してくれる?どうしても彼が必要なんだよ…」
 彼は腕を放して、私を見下ろしながら言った。いやだ…助けて…死にたくない。
「うう……うん」
「お利口さんだ……さあ、もう痛い事はしない」

 私は彼の言うとおり立ち上がって、彼の手を取って…家を出て行った。

心の中で私は叫んだ、私も、彼と同じ人とは違う者に変えられてしまった事も…お父さんもお母さんも…私が真っ赤にした事も、それが許される罪じゃないって事も…

 助けて…あ…さく…ら…君…


鍵爪
 第十二話『追跡』


『申し訳ありません智也様、旦那様はお仕事の為…お繋ぎできません』
 メイド長さんでもあり、屋敷の医務を担当している由良さんが電話越しにそう伝えた。
「解った、んじゃあ帰ってきたら連絡くれるように叔父さんに言っておいて」
『畏まりました』
ガチャ
 電話が切れて、俺も受話器を置いた。
 やっぱり、長年屋敷に使えてきた由良さんも、フレキの事を語ってくれない…何か隠してるっと言えばそうも思えるんだけど。
「今日もフレキは帰ってこないか……」
 隣では同じように宮子ちゃんも心配そうにしている、新月から一日経ってるけどフレキはまだ、楽に動けるって訳でもないのか。
「フレキさん今日もお屋敷でお泊りなんだね」
「そのようだね」
 もしかしたら、フレキは一人で自分の敵を追ってる?そう考えてもいいのか?もし、そうだとしたら…いや、新月がフレキの体を制御不能にしているのなら動いたら危険だということだから、フレキも馬鹿じゃないから…考えられない。
「……」
 ただ、フレキが居ないのをいい事に、人狼達がまたのさばるかもしれない。
「……」
 俺が出るか?それも考えた、だけど…宮子ちゃんの時のように、まだ完全に覚醒しきってない俺が出たら、返って危ないかもしれない。
 それに、子供の頃にどうして手から剣が生えたのか……それさえ、解らない。
 亮二の時程上手く行くかどうかも解らない。
「剣…」
 あの剣は何だったんだろう、子供の頃も、とっさにあれを殺したかった、凄く殺したかった、殺さなきゃ痛みが引かなかったから、俺の手から生まれた。
 フレキはこの剣の事を知ってる?いや、この事は叔父さんの方が詳しいかもな、今度また行ってみよう。

「ちょっと、外に出るよ」
「いってらっしゃい、智也さん」
 居間でテレビを見ていた、真知子さんに声をかける、テレビじゃあの事件が……報道されていない、むしろ今日本で問題となってる他国との事や、経済の話やらそんな内容をニュースでぺらぺらと喋ってるだけだ。
「……」
 疑問には思ったが、亮二の事件の夜、亮二の取り巻きに何体かの人狼が居た。そいつ等は処理されたのかどうか解らない。
 けど、殺人事件と言う殺人事件は、余り起こっていない。フレキの話じゃ、敵はわざと死徒…亮二みたいな奴を生み出して、それらを俺に送り込んでるって言ってるが…そんな話が無いのと、この数日間で俺が『無事』と言うことも…
 何か…可笑しい。
 俺は玄関で靴を履きながら、そう考えていると、後ろから宮子ちゃんが来る。
「智也君、今日もお出かけ?」
「うん、ただの散歩だしすぐ帰ってくるよ」
「解った、気をつけてね」
「…解ってるよ」
 宮子ちゃんの頭を撫でてやると、俺は玄関を出て外に出て行った。



……

「……」
コチ・コチ・コチ・コチ
「……」
「…目が覚めて?」
 時計の音だけがやけに耳障りに聞こえて、俺は眼を覚ました。目の前には、白い犬を連れた黒という形容が偉く似合った格好と、それとは対照的に白い肌を持つ少女の姿があった。年齢的に、14〜そこら辺だろうな。
それはどうでも良く、俺はやけに腹が減っていた…
「…あんたか?」
 体が動かないのは、彼女の目を見たかららしい…俺とした事が、眼をあわしただけで固まるなんてな…
「この調子だと、まだ生きてるらしいな」
「ええ、貴方は1度、私を騙して…ヴラドなんて2度も騙された…殺すのには惜しい男だったからよ、『獣人』」
「それは、ありがとうございます…『黒い姫君』」
「後一回騙していたら、私が直々に葬っていた所よ、一回に押さえておいて正解ね」
 美しく幼い顔立ちからは、想像も出来ないくらいどす黒い一言を口にしてくれる、自然と慣れていたのか俺は笑い返した。
「それでも騙された私も私だから、貴方が望んでいた事をしておいてあげたわ。それが望みだったんでしょ?」
「……」
 体にはもう、前のような『寿命』が無くなった、それでなくても短い寿命の種だ、種の中で一番手に入れたかった物を手に入れて、歓喜に満ちていた。
「悪くない、礼を言うよ」
 同時にと言っちゃ何だけど、『寿命』と一緒に俺は、先祖のバカ竜が残した怨みもどうでも良くなっていた。最初、こいつ等について力を得ようかと思った時は、最初は皆殺しにしようかと思ったけど、何故か今はそんな気はしない。
 彼女に魅了された?いや、違うな…先祖の事等どうでも良く感じたから。
「どうでもいいが、この金髪…どうにかならないか」
「似合ってるわよ、今の貴方には…ゲリアルト・オーディン」
「…そうかい?んじゃあ、お姫様」
 まあ、魅了されたと言えば魅了されたんじゃないかな…




……

 街はあの事件の事など、忘れ去った…いや、最初から無かったかのように何時ものように人がまばらに行きかっている。
 都合が良いのか?人と言う物は、早く嫌な記憶を消去したいと願う傾向を見せている。もしかしたら、まだ人狼が潜んでいるやも知れ無い…夜になって現われるだけで、夜になるまで他の人と溶け込んで人を装ってるかもしれない。そうは考えたくないのか?
そして無意味な時間は過ぎていく……何時ものように、無駄な事を繰り返して一日の生活サイクルを終わらせ、その繰り返し…繰り返し…無限ループ再生…ループ再生…止まる事の無い、無限地獄…人はそれで、『退屈』はしないのか?
 少なくとも…吸血鬼(おれ)達は…
「お待ちどうさまでした」
「あ、ええ…」
 ファーストフード店の人が俺にハンバーガーセットの乗ったトレイを渡す、俺は店員に代金を払う。
 何だろう…俺、なにを事を考えて…
「ふぅ」
 色々な事があって頭がどうかしそうなのかもしれないな…ふう。俺は袋を開けて、中のハンバーガーを食する、良く食べるはずなのに…何だか少し味気ない。
突然消えた人狼達、戻りつつある束の間の日常…消えない不安…それがあるからだろう。たまに街に出てみて食するファーストフード店の物が不味く感じるのは…
どっちにしろ、フレキの敵はまだ消えていないんだから、早々安心は出来ない。
「……」
井上に会えば、亮二が起した事件の事や、その後の事件の事など聞けるだろう…。今日も会えるといいんだけど、昨日みたいに非番とは限りないからな警察は…
「さて、宮子ちゃんも心配するかもしれないし、多分フレキも帰ってくるかもしれないし…帰ろうかな?」
 食べ終えて、ファーストフード店を出て…佐倉家へと続く岐路へとつこうとした。

 俺は、事件を忘れた街を歩いてふとある場所に辿り着いた、ここは…最初に夢で、人狼による殺人が起きた、一回目の殺害現場である中央公園。
 ここを夢で見た時から俺の穏やかな日々は終わりを告げた。
 人を食らい、女性の心臓を食らう人狼…現実を見る正夢…人狼を狩るフレキ…攫われた宮子…教会と亮二…吸血鬼…亡霊…捕食…同じ血…狂気…そして、獣人とフレキの敵と…浅倉の血族の秘密。過去…覚醒。痛み。吸血。剣。
「……学校で話したら絶対に信じちゃくれないだろうな…」
 無論、俺だってまだこんな現実を信じちゃ居ない事が沢山ある。だけど…なんだろう、何かを忘れてる。
 俺は宮子ちゃんが亮二に連れ去られる前に誰かに会っていた……そう、その誰かだ…その事を考えていたから、迫っていた危険を回避できなかった。
 誰だ…あの日俺の頭に入ってきたのは…

「美村…奈美」

 夏休みになる前に行方が解らなくなった、同級生の少女…。あの墓地近くで、何かに手を合わせていて…何かを言おうとしてから、その場から立ち去って走っても追いつかなかった。墓地の奥…獣道に差し掛かった場所で見失い…延長線上にあった、不気味な廃墟。
 今は諦めて、井上に連絡しようと思ったけど…その間に亮二の事件とかがあって、すっかり忘れていた。
 何てことだ、俺は大事な事を忘れていたなんてな、本当間抜けだな…もしかしたら、井上が言っていた事を思い出す、事件には『殺人犯』と『誘拐犯』が居る。
美村が、生きているとして、もし誘拐犯が俺を狙っている、フレキの敵としたら……もう何日も時が流れてしまった。美村は…もう…いや、それは絶対に考えてはいけない事だ、できれば、無事だと思いたい。
「っち!」
 しかし、俺に何が出来る?もし、そこにフレキが恐れる、俺を狙っている敵が居るとしたら…覚醒前の俺に、あの時使った剣の出し方も解らない俺は、亮二の時と同じく丸腰のままだ、いやもっと悪い。亮二の時は少なからず武器があった…それももう弾をなくしてしまい、ただのオブジェとなっている。
 俺にどうしろと……
「……」

 風がふいた…

ドクン!
「く!?」
 体中の血が沸き立つような感じだった、以前にもこんな感覚を味わったような気がする。これは…『痛み』…そうだ、子供の頃に同じ『痛み』を感じた事がある。
 全身の血液を毒に変えたような、激しい痛み…俺は体をくの字に曲げた
 懐かしい痛みがこれ程激しい痛みなんて思ってなかった……。
「痛い…痛いよ…」
『…けて…』
 子供の頃、俺はその痛みの元凶を『剣』で貫いた。目眩がする程の痛みを俺は殺して、痛みが引いた。

ドクン!
「ぐああ!」
『た…て…』
 殺さなきゃ、痛みを『剣』で殺さなきゃ…俺は……痛みに…飲み込まれる…

ドクン!
「うぐ、がぁぁ…」
『たす……』
 全身の毒が俺に蝕まれる…、全身の筋肉を引き千切り、骨を溶かし…俺を殺そうとしている。

ドクン!
「くぅう!」
『たすけ……』
 痛みが酷くなるに連れて、さっきから何かが頭に声をかけてくる…そうだ、こいつが…こいつが俺を苦しませるのか…

ドクン!
「うわぁ!」
『助けて…』
 耳障りな声…俺を蝕むこの声が毒の正体、見つけ出して…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す



ズキン!!
「う、ぐぅう」
 痛みに耐えられなくなり俺は、その場に倒れこんだ…うっそうと茂る緑色の草の集団に俺は倒れこむ、痛みで何処まで歩いたのか解らない、ただ痛みの主、俺を呼び続ける声を殺したかった、でも限界が来た…痛みで意識を保てない。

痛い…痛い…痛いよ…助けて…助けてくれ…



……

「ん、んん…」
 目が覚めると、そこはさっきまでいたと思われる、中央公園のベンチとは全然違った場所だった。
「ここは、どこだ?」
 ここまで歩いた記憶が殆ど無い、しかし俺は見知らぬ草原で、うつ伏せになって寝ていたのだ。
 足が泥だらけだ、誰かが運んだわけじゃない自分からここに歩いてきたって解った。
 いや、ここに来た覚えが無いわけじゃない……ここは…

 目の前には、廃墟の建物。何かの施設の跡地のような気もしなくもないが、こんな場所に廃墟なんて一つしか考えられなかった…

 俺が美村を見失った、あの場所だ。でも何故?誰かが呼んだ…俺に『助けてと…』
「…美村…なのか?」
 この廃墟の中に美村が居るのか?


浅倉邸
「ありがとう、由良さん今の時間まで…『彼』に話さないで」
 鉄結の入ったバックを背負って俺は屋敷を離れる前に、使用人の由良さんに声をかける。
「ええ、でもよろしいのですか?私達が、あなたの事を隠している事をまだ言わないでも、智也様も馬鹿ではありません。先日屋敷を訪れたのも、あなたの為だと……」
「ああ、それはあの地下に居た時から解っていたよ…でも、新月期は是が非でも、彼を会わせる訳には行きませんから」
「いずれ、旦那様を継いで智也様がここに戻ってくるまで…ですか?」
「……」
 キッと、由良さんを睨みつける、由良さんはひっと少し後ずさりをする…
「申し訳ありません…」
「俺のほうこそすいません…新月期も過ぎて間もないんだ、カッと鳴りやすくなるのは仕方ない……確かに、親父様の…意思なら…」
 ぐらりと目眩がする…倒れそうになるところを由良さんが支えてくれた。
「やはり、もう一晩お休みになられた方が……」
「いや、大丈夫だ……もう一晩帰らなかったら、彼にも佐倉の家の人にも悪いですからね」
 段々…か、新月が過ぎる度に俺の『寿命』が縮む…、元より獣人の体は崩れやすい。あと、数年…数年、俺の体が持てばいい所だろう…それまで俺は死ねない。
「親父様との約束だからな……彼が、吸血鬼に飲み込まれずに…『覚醒』するまで、俺が守るという…約束だから」
「…フレキ様」
 そうだ、親父様との約束を果たすまで俺は死ねないし、ゲリに彼を殺される訳にも行かないからだ。無論、俺もゲリに殺されるつもりは無い…
「では、どうかご無事で…」
「ああ、屋敷の方…『旦那様』に宜しく言っておいてください」
「畏まりました」

 そう言い、屋敷を出るまた勝手に予定より早く抜け出して、『旦那様』にどやされそうだけど…まあ、仕方ない。

 風に、あいつの匂いが漂ってるから、黙って地下で眠ってるわけには行かないからな。




第十三話……『遊戯』つづく。


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