フレキと一緒に、美村を家に運んでやってる。
彼女の冷たい体…死んだように眠ってる美村奈美…。こんな形で行方不明の女の子と会って、助けるなんて思ってなかったから。
学校では殆ど会わなかったが、彼女は結構学校でも評判の、美少女だったと聞く…確かに今背中で眠っている美村は可愛い物だけど…

 何と言うか……彼女には生きてる気がしない…生気と言う物がないんだ。

「智也さん、貴方も気付きましたか?彼女…」
「……」
 フレキの問いかけに、俺も頷いた。考えなくたって、もう確信に辿り着いている…
「彼女は…吸血鬼となってる…」



鍵爪
 第十四話 『真実』



 佐倉家の前まで美村を運んで来る。
「真知子さんには連絡してありますが、宮子ちゃんに気付かれないように…眠ってますから静かに入りましょう」
 まあ、今の情況を宮子ちゃんに話そうとしても信じてもらえる所じゃないな、それに宮子ちゃんに変に見られたくは無い。
家に着いて俺は玄関から忍び足で入って、フレキが真知子さんを呼んでくる。
「真知子さん」
「はい、大体は解っていますよ」
 真知子さんはフレキの破れてしまったワイシャツを新しい物と取り替えてから、俺とフレキに抱えられてる美村を見る。
「解りました…フレキさん彼女を私の部屋に…智也さんは自室でお待ちくださいね、美村さんを手当てして、着替えさせたら傷の手当てをいたしますので」
「お願いします」
「それと智也さん?」
 真知子さんに呼ばれて、俺は振り向いた。
「こういう時で何ですけど、宮子の事も考えてあげてくださいね」
「……」
 真知子さんはそう俺に釘を差す様に言った。満面の笑みが何だか少し怖い…言われなくたって、それは解ってるよ。
「それでは、智也さん…美村さんを運んだらすぐに部屋へと向います」
フレキはそう言って、美村を抱え上げると…真知子さんと一緒に自室へと向った。俺は安心して自分の部屋に行った。
 部屋に行って泥と血で汚れた服を脱ぐ、頭がゲリに殴られたからか…血が出ていたが痛みは引いている。痛み…、『剣』が出るときの体中の痛みはもう来ていない…
 何故だろう、美村に呼ばれてから…あの建物まで辿り着くまで、痛みで全く記憶が無かった。
 檻の鍵を探していた時も、探そうとしてその後俺はゲリに頭を殴られて捕まったような気がしたけど、その合間に体に一瞬だが痛みを感じた…その後、美村は俺がゲリの獣達を無意識の内に殺していたようだ…『剣』を使って…
 剣を……使って…
「お待たせしました」
 部屋にフレキが入ってきた、一瞬フレキに殺気めいたものを感じたが、すぐに元のフレキに戻った。
「どうしたんだ?」
「い、いえ…大丈夫です。真知子さんが、美村さんの体を洗って、着替えさせたら呼びに来ると言ってました」
「ああ……」
 と言う事はしばらく男は、お呼びで無いって事だ。今の内に話せる事は聞いておかなきゃ……
「フレキ、話てくれ…もう、隠されるのはまっぴらだ」
「ゲリに聞いたのですね……解りました、では話しますまずは、自分の…いえ俺、フレキスト・オーディンとゲリアルト・オーディンの事から…」
 フレキはそう言うと、静かに語り始めた。
「俺の父、ゾンボルト・オーディンは力が強く誇りと知恵を持っていた、獣人『最後の王』とも言われた男でした。
獣人同士の親族結婚で一族の純血を守っていた俺達オーディンの家柄で、俺達兄弟はそんな親の元に生まれた兄弟でした。父は俺を『最期の希望』と言いいずれ吸血鬼を皆殺しにする物だと言い、両親に溺愛し…育てていました。
しかし、ゲリアルトは生まれ持った強い魔属性から父は『災いの種』として虐待をしていました。俺はゲリアルトを庇ってました、兄貴ですから…しかしゲリアルトの心はいつも閉じたまま、憎しみの目で俺を見ていました。
両親から溺愛されて育てられた俺に庇われたとして、ゲリは嬉しくは無かっただろうな…」
「……」
 今までで、こんなに悲しそうなフレキを見た事は無かった。少なくともフレキは昔、ゲリを弟としてみていたんだな。
「…その日は、雷が振るような嵐でした…俺が眼を覚ますと両親が死んでました、父も母も…無残に食い散らかされていました。俺が覚えているのは、ここまででそれ以後の記憶はありません。気がついたら、浅倉の人たちに助けられていたのです」
「親父や、叔父さんにか…」
 叔父さんの話では、少なくともそうだと言える。フレキが自分の両親をゲリに殺された時、あまりの恐怖にフレキは記憶を閉ざしてしまった。いや、抹消してしまったんだろう。
 忌々しい記憶を…
「はい、親父様に助けられました、『浅倉』…彼らは吸血鬼の家柄なのに俺を、本当の息子のように接してくれました。そして俺は、先祖の怨念を消し去りました。
…俺達獣人には、先祖が吸血鬼との戦争に破れ、むざむざと惨殺されてきた記憶が未来永劫、まるで呪いの様に生まれた時から脳裏に刻まれます。父もそんな人であった為かゲリを虐待して、俺を希望として育てていたのでしょう…
 しかし、俺は親父様に会い…先祖の記憶に疑問を感じました。復讐が…何を生むのか?恨みを生むのはまた恨み…暗黒面を作り出すのはまた暗黒面…それは繰り返し、今のように獣人の数は今や俺とゲリしか居なくなってしまった」
 獣人は先祖の忌々しい記憶を告ぎながら、生きるって事か…それは吸血鬼が生きた歴史と相違ない。大きな憎しみはまた大きくなって帰ってくる。
何故だか、そう思う…しかし、その大きな過ちを知ってしまった今…フレキは…
「フレキ、お前はどうするつもりなんだ?獣人の過ちを知って」
「……」
 フレキは少し黙って沈黙してしまうが…口を開いて…
「ゲリから聞いたと思いますが、獣人とは酷く脆く短命な種族。生きられたとして20代を過ぎて半ば行けば、かなり死にやすい体となる。俺も生きられる期間があるか…どうか解りません」
 そうだった、獣人は死と隣り合わせの体を持つってゲリは言っていた、ゲリはその『寿命』を吸血鬼の死徒となる事で克服し、また…先祖の怨念さえも捨て去ったと言った。
「ゲリは吸血鬼の死徒となる事で、それを克服しましたが……それは奴の強い魔属性が、吸血鬼のそれと近い物があったから……
だから俺は、生きている内にゲリを見つけ出して、殺す。
両親を殺した仇と言うのもあります…ですが、それ以前にゲリを殺すことで獣人の歴史に終止符を打てるならば…俺がやるべき事はそれしかないと思いました」
 ゲリを殺すことで、獣人の恨みの記憶にけりをつけるということか…、だからゲリが作り出した死徒や、人狼達を夜な夜な狩っていたのか…

「ゲリ…あいつは一体、何考えてんだろうな」
 考えてみりゃ、ゲリは俺を仲間にして『浅倉』を潰すと言っていた。
「吸血鬼の力を得る事は、奴にとって最初は…吸血鬼を殺すためにその力が必要だった…と思います。
しかし、ゲリが先祖の怨念を捨てたという言葉に偽りを感じません。『黒い姫君』に出会って、あいつの何かが代わったのは確かですが…確実にいえるのはあいつは『浅倉』を潰しに来たのは確かです」
「なら、何故…俺を仲間にしようとも…」
「…あなたの『剣』の事は、親父様からもあまり聞いていませんが…手から生まれるとなれば、固有結界の一種でしょう…」
「こ、固有結界って…なんだ?」
「心象世界を形にして…現実に浸食させた結界の事を固有結界です…
術者の一つの内面が形になりますから、その形を自由に定められない欠点があります。智也さんの場合は『剣』の形以外に例えばそれを『盾』にする事はできません、しかし自然以外のものにも影響を及ぼすことが可能ですから、便利といえば便利。
しかし本来は精霊や悪魔だけが使える能力であった物ですが、それを一個人で出来るとなれば精霊や悪魔以外が固有結界を発生させると、この異なる異界を世界が修正をしようとかかります。そのため、固有結界の維持には膨大なエネルギーを有して、長時間の使用は難しく、智也さんの『剣』は手から生まれてから数分で消えると思いますが」
何だかよく解らないけど、そうなの…かな…子供の頃使った『剣』は軽々と使えて、余り覚えていないけど使ってて、疲れたとは思わなかった。
 じゃああの『剣』は…固有結界じゃないのか…
「しかし、『黒い姫君』がその利用価値を見出す程の力を『剣』が秘めているとしたら…尚更、彼らの仲間になるのは危険でしょう」
「……そうだな」
 まだ自分でも解らない力なんだ、ゲリと共にその『黒い姫君』とやらの仲間になるのは、危険だと体が伝えてくれる。

 それよりも、これだけは確実に知っておきたい事があった。フレキなら知ってるはずだろう。
「フレキ…教えてくれ、親父は…何故死んだんだ?」
「……これを話すのは、もっと先だと思ってましたが、いいでしょう…親父様のそれを望んでいます」
 少し間をおくと…フレキは悲しそうな顔をして…
「俺は親父様が亡くなられた現場に、直接居たわけではありませんが…親父様が俺に残したと言う遺言を見ました…」
「遺言?親父が?」
「ええ…親父様が亡くなった時丁度、俺は海外にいましたから、使用人の由良さんに貰ったんです…
 それにはこう記されていました。
『フレキ…どうか、智也を守ってやってくれ、吸血鬼としての覚醒の近い時、『奴』は今度は智也を狙ってくる。もし吸血鬼としての自分を制御できなかったら、その時は君の手で殺してくれ』…」
「!!」
俺はフレキの言葉に驚いた、もし…吸血鬼として自分の覚醒が失敗したら、フレキに殺される?親父がそれを遺言で言ったなんて…
「遺言は所々塗りつぶされていたり、破かれたりして見えない部分もありました…しかし俺は親父様に誓いました…彼が、吸血鬼に飲み込まれずに完全に覚醒するまで、俺が守ると…」
「……」
 俺は何も言えなかった、フレキが俺を守ってくれるのはいい…もし俺が、人の血を吸うような過ちを犯そうとしたら…殺して…くれるのか?
「智也さん、フレキさん。いいでしょうか?」
「…はい」
 ドア越しに、真知子さんの声が聞こえてきて…フレキとの会話は一旦中断して、部屋の外へと出る事とした。
「お話中でしたなら、すみません」
「いえ…大丈夫です。もう終わりました…」
 いや、まだ話と言う話は、終わっていないんだがフレキは…。
「今は…です」
「…そうだな、フレキ」
 そうか、まだ言えない事が色々あるってことなんだな、今はまだ話す事はできないが、いずれ真実を全て知る時が来ると言う事なんだな。
今は美村の事もあるんだ…、俺はフレキと共に真知子さんの部屋のある一回へと静かに移動して、美村の様子を聞く事にした。

「真知子さん、美村はどうなんでしょうか?」
「大丈夫ですよ。ある程度手当てをしても…体の方から傷を治して行ってますし、出血も思ったより無くて、今は眠っていますよ」
 真知子さんの言葉に俺はほっとする物の、ゲリから受けた傷が短時間で再生していると言う事は、美村が吸血鬼だって事は確信を持って良いだろう。真知子さんの様子を見ても、手当てをしてやった張本人だ、美村が吸血鬼だと言う事をもう知ってるだろう。
「ええ、ご自宅に連絡をとって見たのですが、もう何週間も音信普通なのです」
「……そうですか、やはり」
「やはりってどういう事だ?フレキ」
「美村さんのご両親は、何者かによって殺されてるか……もしくは、美村さん自身の手で殺されてるかのどちらかと言う事です。可能性ですが…」
「美村が自分の両親を殺したのか!?」
 俺はフレキの言ってる事が信じられなかった、自分が自分の両親を殺す事など…
「吸血衝動の果てに血を欲してしまってしまい、両親を手にかけてしまったのでしょう…」
「そんな血を吸いたいって欲求が、親まで殺すほど自分を狂わせるのかよ!」
「……否定はしません、しかし吸血鬼となってしまった以上…彼女にとっては、耐え難い苦痛だったはず」
 仕方なく親を殺してしまったとしても…でも、助けた時の美村は確かに『人間』としての美村を守っていた、決して吸血鬼として…
「俺も、ああなるのか?」
「…それは、貴方しだいですよ。智也さん、いつも智弘様が心を強く持てと仰ってますから…智也さんなら大丈夫ですよ」
 真知子さんが肩に手を乗せて助言をしてくれる、そうなら本当にいいけど、もし俺が吸血衝動に負けた時、その時は…フレキに殺されなければならないんだ。
「……ともかく、今は美村さんの様子を見ましょう」
「ええ、そうですね」
「ああ」
 俺はフレキと共に美村が眠る、真知子さんの部屋へと入って行った。

 和式を思わせる真知子さんの部屋に布団が敷かれて、そこに頭や体を包帯で巻かれた美村が横たわっていた。
「…すー」
「………」
 寝息を立てて、胸を上下させる美村は…それが吸血鬼とは全く信じがたかった。こんな女の子が…吸血鬼だ何て…吸血鬼?
「フレキ、可笑しくないか?俺とフレキの敵は、あくまでもゲリなんだろ?」
「ええ…そうです。奴は美村さんを利用して智也さんを、仲間に引き入れようとしました…そんな事は絶対に許せません」
「そうなんだけど、やっぱり可笑しい…ゲリは吸血鬼の力を得たけど、作り出される死徒はあくまで獣人の死徒…」
「え……ああ」
 フレキも今気付いたように、手をぽんと叩いた。
「そうだ…美村は誰に吸血鬼にされたかだ……」
「……ええ」
 そもそも、ゲリには普通に人を吸血鬼にする力は無い(と思われる)けど…そもそも美村はゲリに、俺をおびき出す為の餌として利用されたに過ぎない。
 餌…俺をおびき出す為?何で美村が必要だった…吸血鬼だったから?いやもっと根本的な何かがかけてるような気がする。ゲリならば解るかもしれない…
「美村は俺と繋がってるって言ってた……関係あるのかな?」
「解りません、しかし美村さんがゲリとは違う誰かに吸血鬼にされたとしても、ゲリは美村さんを吸血鬼にした何者かを知ってるでしょうな」
「だから、美村を利用して俺をおびき出したって事か?」
「ええ……」
 一体誰が、美村をこんな風にしたんだろう……美村は話してくれるのか?おきたら…
「ゲリは、あれで死んだのか?」
「あの程度の爆発で奴が死ぬとは、考えられません。あくまで爆弾を使ったのは、智也さんたちを逃がして、奴の死徒を消滅させるだけの時間稼ぎに過ぎない」
「由良さん特性高性能爆弾ですねぇ」
 真知子さんが、ぽんと手を叩いてそう言った。何!?屋敷の使用人で医師の取得を持ってるあの由良さんが…爆弾をなぁ。
 意外には意外だけど、いいのか?それで…
 フレキも頭をかきながら…
「…まあ、あり難く使わせてもらいましたけど、結構威力があるんですね…」
「ええ、彼女も自信作だと言ってました」
 ちなみに、真知子さんと由良さんとは同い年であり、同期なんだ。
「おほん!と、とも角…ゲリがあの程度で死んだとは思えません。次、奴は本気で自分達を殺しに来ると思われます、気をつけてください」
「……ああ、解った」
 ゲリに狙われている事に気をつける事は解ったけど、俺は…
「美村はどうします?」
「このまま保護しましょう?だって、可愛そうですから…もう帰る家がない彼女には」
 親も、帰る家も亡くしてしまった美村にとっては…ここ(佐倉家)にいた方が安全か…
「それではもう遅いですし。宮子には明日はなしましょう」
「そうですね、自分も疲れましたから……寝ます。智也さんはどうします?今日の事で色々疲れたでしょう?」
 フレキはそう言って、真知子さんの部屋から出て行こうとする。
 そう言えば俺もゲリや美村の事で疲れている、今日は特に…いろいろな事で体が少し参ってる。今日は本当に忘れたいくらい、眠りたい。
「ああ、気分がすぐれないから俺も寝るよ」
「智也さん怪我の具合は?」
「怪我って言う怪我はしてませんから…頭を一寸打ったくらいで……」
「それでは、頭に包帯を巻いときますね」
 真知子さんに言われて、俺は一応真知子さんから頭に包帯を巻いてもらった。
「これでよし」
「ありがとう、真知子さん…じゃあ、美村に宜しく言ってください」
 美村がおきたら色々話さなくちゃな…俺は、真知子さんにそう言ってフレキと一緒に真知子さんの部屋を出ることにした。
「ええ…おやすみなさい、二人とも」
「おやすみなさい」
「おやすみ、真知子さん」
 そう言って、真知子さんの部屋を後にして、俺とフレキは自分の部屋へと向った。
「智也さん…先程の話の続きは…」
 俺が部屋に入ろうとした時、フレキが不意に声を掛ける。だが今は、凄く疲れているからフレキの話を聞く気にはなれなかった。どんな真実が浅倉にあるのか…フレキは本当は何のために来たのか?
 知りたかったけど…色々知りたい、でもこの疲れを今すぐ癒したかった。
「……また、今度必ず話してくれるか?今は、本当に眠りたいんだ…」
「解りました……では、後日続きを…お聞かせしましょう」
 フレキはそう言って自分の部屋の方へと向かって行った。俺は、以降としたフレキを止めた…最後に聞いておきたかった。
「フレキ…お前は、俺の味方でいてくれるよな…絶対に…」
「親父様の遺言を気にしているんですね。自分はそれ以前に、貴方をお慕いしております……前にも言った通り、智也さんの味方です」
「そうか…ありがとう」
 俺はフレキのその笑顔で、安心した…親父の遺言で俺を殺すとしても、フレキは味方で居てくれると……
 それだけは、本当の真実だと俺は信じて…自分の部屋へと入り、俺は眠りにつく事にした。



……

―――そうか…人とともに生きることを望むか
助かるぞ、ゼルレッチ。これで私も心置きなく海を渡れる。
―――気にするな……だが、渡る前にわが問いには答えてもらうぞ。力あるものよ…
―――かつて、我はわが欲求に従って「朱き月」を滅ぼした。
―――汝もまた、自らの欲求のみのためなのか、それとも否か。
―――さぁ、答えよ、有翼士。
……うむ
――そこまでして、教会から隠れ、人に紛れ…
―――それでも人に帰ることを望む訳を。
そう言って、彼は始めて彼の貌を見た…
……欲求か、人に帰りたい?今更何を言うか…
……私の力は、他の死徒が恐れて…そして、欲しがる力。
……その気になれば、真祖や貴方も滅ぼす事はできるだろうな。
……間合いに踏み込めればの話だが……
―――成る程、然り。
―――それ故に人にまぎれ隠れることを選んだか。その腕は、使いようによってはバロールの死の魔眼にも匹敵しよう。
―――もっとも、超越者に対してのみだが。
―――……その力があれば、ガイアの怪物すら滅ぼせよう…
―――ゆけ。その力は時に埋もれるが良かろう…
その言葉を最後に、宝石と呼ばれた男が、彼に対して口を開くことはなかった。
それに有翼士と呼ばれた青年は最後にこう告げた。
……この剣は、黒き吸血姫に使われ獣の血を吸いすぎた…
……奴等に同情をしてるわけでも慈悲も感じちゃ居ないが、他へ利用されるのには気が進まなかった。
……貴方や他の死徒、教会に会う事はもう無いだろうな。
言い残して、有翼士と呼ばれた男は、行く当ても無い船へと乗り込んだ。

………
……



朝、俺は目覚めた。頭が重く、ふらふらとふら付く…長い長い終わりの無い旅をしてきたようなそんな気がする。
 とも角、起きたんだから、下に行かないとな。
 一足早く、俺より先に居間に下りていたフレキを見つけた。
「おはよう、フレキ…」
「おはようございます、智也さん」
 フレキは何時ものように挨拶をし返してくれる。フレキは何時ものフレキだったけど今日もゲリの死徒を倒しに、行くんだろうな。
 俺も、ゲリとはいずれ戦わなきゃいけないかもしれないし、美村を吸血鬼にした奴も見つけなければならない…自分が吸血鬼として完全に覚醒させるまで、俺は……もう、誰かに追われるのも飽きた。
「フレキ、俺さ…考えたんだけど、ゲリとか美村を吸血鬼にした奴とか、全部俺の周りで起きてるんだろ?」
「ええ、ですが…それは決して智也さんのせいでは…」
「解ってる、だけど…そろそろ逃げ回って、隠れているのもそろそろ嫌になってきた」
 フレキは驚いて俺を見る…まあ、そんな事をすればどんな事になるのか、解っているだろうな…覚醒前の俺が出向けば、ゲリにもそいつにも無防備な姿をさらけ出してしまうのだ。
「いや、俺が…フレキの戦いに入る事はない、今じゃ俺も獣人の死者を倒せる力を持っていない、下手すりゃ…」
 俺も下手をすれば吸血鬼になってしまって、人を襲うかもしれない…
「けど今のように、自分の周りで人が殺されてるって解ったら、黙っているわけにはいかないんだよ…俺は…」
「……いいでしょう、一人でゲリの事を探すより二人の方が効率がいいですし…でも、危ないまねはしないで欲しい、それは親父様の願いでもあり自分の願いです」
「…親父の思い…」
 フレキや親父だけじゃない、宮子ちゃんにも他の色々な人にも心配をかけてしまっていたから。また色々心配させてしまうかもしれないな…
「ああ、解ってるよ」
「……上出来です」
 上出来…親父がよく俺を褒める時に使ってくれた言葉だ。
 フレキはそう言って笑いかけてくれた。どこか…フレキを兄貴のようにも、そして死んだ親父も投影した。
「危なくなったら、自分が助けますけどね……」
「そん時は頼むよ、フレキ」
 フレキに手を差し伸べると、フレキは俺の手を取って互いに握手を交わした。

かちゃ
「あっおはようございます。智也さんにフレキさん、早いのですね」
真知子さんが居間に入ってきて、その後俺達は真知子さんの入れてくれたコーヒーを飲んで何時ものような朝を迎えた。


第十五話……『魔猫』つづく。

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