新月期が過ぎ、感情の高ぶりが遠のいていくのが解った。衝動的な獣化の衝動、何でもいいから食いたいという欲求、新月期は全ての欲求が俺を支配して、文字通り『獣』となってしまう。アトラスで俺は体に半ば強制的な鍵を掛けていたが、その方法も今となっては通用しない。それに、獣化は俺の寿命を縮める……20代を過ぎると、発作が激しくなる一方だ…
…………………………………………………………………………………………
ゲリが今、智也さんの前に現われて以来、彼も俺に手伝える事は無いかと頼んできた。彼が自分の運命を受け入れた上での思いを、断る事などできるはずが無い。しかし、ゲリ程の奴、しかも吸血鬼の力を持ってしまった奴が普通に探して出てくるような奴でない事は俺も旅を通して解った。覚醒した智也さんの力は、未だどんな物か想像が付かない。彼は『剣』とだけ言っていた、手から生まれるとすると固有結界の一種だと思うが、どうなるかは未知数。完全に吸血鬼となったら、その働きがどんな物になるのか……想像がつかないな…ゲリの行動が、智也さんを完全な吸血鬼として覚醒をさせようとする事だとしたら、もしくは…
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獣人の体と言うのは獣祖がいくら月齢の作用を受けないで変身が可能な体といえど、その戦闘能力は吸血鬼より遥かに下回る、彼らの絶対的な能力の前に先祖は悉く敗退して行ったと聞いた。昔、父…ゾンボルト・オーディンが獣祖の上には、『始祖獣』と言う物から発祥したと言われている。何でも、獣人は生物の進化の延長であるとされた存在だったらしいが、その『始祖獣』と言う存在が居たなんてのは、御伽噺のような漠然とした物だった。当然のように、俺もゲリもその話は信じちゃ居ない。でも、近い存在が居るとしたら、それがゲリだって今の俺ならそう思える。
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 シアンやケットが何故来たのか…俺をアトラスへ連れて帰るのは元より、ある人物を助けてくれるようにと頼んできた。シアンの古い友人であり、エーテライトを教えた人物でもある彼女が、三ヶ月前…ある死徒により、血を吸われたのだと言う。…二十七祖の内、『???』と言う奴らしいが、ハッキリとした性質がまだ解っていない、その為か教会の騎士団が全滅したという。今度のその現象が現われるとしたら三年後の日本らしい…三年…か、彼にとっては、覚醒を終えて、ゲリとの決着がついていればいいが…


……
一番停止・二番停止・三番停止・四番停止

 久しぶりに思考を分割するのは、流石に何だか頭がくらっとするな。一度に何かを同じに考えるのは結構精神を使うな。
 何にしても、全ての考えが行き付くのはゲリか…
「フレキ、どうした?」
「…あ、いえ…なんでもありません」
 余分な事は考えないでおくか、多分、智也さんも自分の力に気付き始め、完全な覚醒は近いか…それが吉と出るか凶と出るか…
 何にせよ、あれをそろそろ出して置かないと行けないか。



鍵爪
 第十六話『鬼気』



「わー」
 シアンさんとケットを連れて、俺とフレキは佐倉家に帰ってきた。シアンさんは外人さんだから、佐倉家より実家の屋敷を紹介したほうが良かったかなと今更ながら思った。
「もっと大きな家を予想しました?」
「ううん、格式があって気に入りました」
「うーん、おいしそうな煮干だしの匂いがするにゃー」
 シアンさんの腕の中で伸びをするケット、さすが猫と言うだけあるが、少し意地汚いようなきもする。
「と言う事は、夕飯が近いと言う事ですね」
 家の中では、美村が意識を取り戻しているはずだから…大丈夫なのかな、でも様子はおかしくないし、大丈夫だって事だろうな。
「美村さんは大丈夫なようですね」
「フレキも考えてる事は同じか?」
 フレキがそう俺に耳打ちしてくる…。美村が居るから、今更ながらシアンさん達をここに居る事をためらったが、今はそんな悪い気はしない。
「大丈夫だろう…美村は…」
「……だと良いんですが」
「俺が何も感じないんだ…、多分大丈夫だよ」
 俺が何か感じたら、その時は…どうなるのだろうか、それもまだ漠然として解らない。
「……」
「二人とも、どうしたの?」
 フレキが黙り込むと、シアンさんが後ろからのぞきこんでくる。
「いや、何でも無い」
「やっぱり、ここに泊めてもらうのはだめかな」
 しゅんっとなってしまうシアンさん…俺はこう言うのに弱いのかすぐさま声が出る。
「いや、そんな事無いよ…シアンさんがよければ」
「ともやんは以外と泣きおどしに弱いタイプと見たにゃ…ぎにゃ!」
「智也さんの言うとおりだ、お前がよければここの人は快く迎えてくれる」
 ケットの頭を一発こついてからフレキは、シアンさんの肩に優しく手を置く。
「ありがとう、二人とも…」
「それじゃあ、行くか?」
 何だか、見ているこっちが恥ずかしくなりそうな感じで、シアンさんの手に抱かれていたケットを連れて先に行く事にする。
「にゃー、ごはんにゃー!数日ぶりにゃー」
「ケット…もう少し遠慮をしろ」
 この猫、うちの中で喋らないだろうな…そしたらまた、フレキの腹話術と…誤魔化せるわけ無いか…



……
………

コチ・コチ・コチ・コチ
 何時もの部屋で、姫とお茶をする…時を刻む時計の音に耳が少しうざったく思えるが…それは仕方ない。
「なぁ、お姫様…そろそろ、俺が連れてくる…浅倉の事について教えてくれないか?」
「興味がおあり?」
「そりゃ、兄貴が世話になっている所だし…それに標的の事について何も知らずに出て行くのは無謀だろう?」
 少し『黒き姫君』…アルトルージュは口元にカップを止めた後少し考え込んだように黙り込んだ、浅倉と彼女には何か因縁めいた物でもあるのか?
 いや、敵意が感じられないが、好意的な感じでもない…
「アルト…?」
 俺に話しにくいなのか、アルトルージュは何度も上目遣いをして俺をちらちらと見てから…
「気になるなら、話すわね…浅倉は元々私達のような最古参な死徒が人との交わりでできた家系…彼らの祖でもある死徒…名はストライク・ラ・ウィンダム。彼は吸血鬼の中でも空中戦に優れていて、背中に翼を生やすことから『有翼士』とも呼ばれている。元々、私達二十七祖の一人になれる程の実力と知恵、能力も優れた吸血鬼で…その能力の使い方次第では、この子でさえ滅ぼせる程」
 彼女の足元で寝ていたプライミッツ・マーダーを撫でる。ガイアの獣でさえ滅ぼす事のできる能力か……そんな奴が何故二十七祖に登録されなかったんだ?
「ええ、彼は少し私達とは違い風変わりな死徒で、領地も城も持たずに、各地を渡り歩くだけの風来坊的な存在だった。それに彼は死者を使役としていなかったし…何より、彼は最初から人の血を吸おうとはしなかったから、教会から危険度は無かった。
 しかし彼は血を吸うことはなくても、彼の能力は私のような二十七祖はもちろん教会からも欲するような能力だった。私も一度彼の能力を借りた時その恐ろしさを知ったわ……これ以上言っていいのかしら」
 アルトルージュが言葉に詰る、何が言いたいのかはある程度予測できた。
「同情か?俺はもう、獣人を捨てたんだぜ」
「そう……なら言うけど、貴方の祖となった獣人達が私を討とうと軍勢を率いて攻めてきた時、その大半を一晩の内に滅したのは…その彼よ」
「……」
 やはり、と言った感情が俺の頭に入ってきた。元より、彼女に吸血鬼の力を授かってから俺は先祖が施した恨みは、吸血鬼に対する恨みも何も消えうせたから、聞いても特に驚きはしなかった。獣人にその永遠の深い恨みを作ったのは、アルトルージュが雇ったその『有翼士』と言う死徒と言う吸血鬼…
「彼は獣人の軍勢を滅ぼした後、私の元を去って行ったわ。それから後、彼は消息を絶った…『白翼公』や教会にも彼を捕らえる事はできず彼は私達の眼から、姿を消したわ。
…元より彼は、『宝石』と密接に関係していたから、力を抑えて身を隠しながら旅をしていた…多分『宝石』に力と、衝動を抑える術を教わったのかもしれないわね。彼を死徒にした祖は『宝石』ではないかって噂もあるほどよ。
だから今の今まで、『有翼士』が滅んだ事すら、把握も出来なかった。最近になって、彼が滅んだ事が、教会の者から風の便りで聞いたけど…まさか、極東の地に居たなんて、教会も『白翼公』でさえも、この私でも知りえなかった事。
 それと、教会の話、ああメレム・ソロモンの話だと…彼は実は『永遠の命』を手に入れるが為に、極東の地を訪れたと聞くわ。
 その話が偽りかどうかは解らないけど、浅倉の家系が生まれた事を考えれば、多少筋が通るかもしれないわね。つまり、自分の魂や肉体は滅んでも、能力や知恵をそのまま後世に継がせる事がようにする…」
 獣人と同じだな、今まで獣人は先祖の怨念を後世に伝えるように生きながらえてきた、浅倉の家系を作り上げたのかもしれない。
「しかし、人と交わってできた有翼士の子供がそのまま彼の剣を継ぐことはまず無いわ。その子供が彼同様の器官を持たないと、浅倉の子供に有翼士が持つ力は発現しない。能力をすべて受け継ぐ器官を持った子供が生まれるのは……せいぜい、彼が滅びた数百年後…彼が私の前から消えてから、数百年経ったわ、そろそろ彼の能力を引き継ぐ子供が生まれてもいい頃よ」
 つまり、その能力を持った子供を俺が捕まえて来いとの事だろう。
「これは推測だけど、彼も最初からそのつもりで浅倉を築いたんだと思うの…時が来て自分の後継者が現われるその時まで…」

………
……



 シアンさんとケットを連れて、俺とフレキは佐倉家に入り出迎えてくれた真知子さんに、一通り彼女達の事について話しをした。
「じゃあ、フレキさんとは学生時代の恋人で?」
「え、そんな…事は」
 フレキとの関係を聞かれてシアンさんは真っ赤になりながら、もじもじする。横目でフレキも、無表情ながら照れてるのが解り何だか新鮮だった。
「それなら、フレキさんの近くのお部屋を貸しますね」
 さすが真知子さんは人がよくできている、笑顔でシアンさんを泊めてくれるのをokしてくれた。
「猫ちゃんもそこでいいわね?」
「にゃ!」
 ケットにも質問すると、元気のいい声でケットが頷いた。心配はしていたが家の中でケットが喋る気は無いようだ。
「宮子ちゃんは?」
「宮子は、彼女を看病してます。彼女は大丈夫ですよ」
 彼女とは、美村の事だろう確かに真知子さんが言う限りでは大丈夫だと言う。
「それじゃあ、真知子さんの部屋ですね」
「ええ、行ってあげてください。彼女、智也さんを待っていましたから」
 真知子さんにそう言われて、俺は美村と宮子ちゃんの居る真知子さんの部屋へと行こうとした。美村が俺を待っている、それだけでなんだか嬉しい気がするけど…何故だろうか…
 解らない、どうしてか…美村を助けた後から、彼女の事が気がかりだった。いや何か、あの時、墓地で美村を見つけた時から……俺は彼女を……

 美村奈美…奈美…ナミ…ナゼダロウ…オレハ、アノオンナヲ…

「…智也さん?」
「!?」
 真知子さんに呼ばれて、俺はハッとする。今…俺は何考えていたんだろう。
「お疲れなんですか?」
「いや、大丈夫だよ…美村に会ってくるね」
「……」
 嫌な汗が流れている、疲れてるのかどうか解らないけど…ともかく俺は美村の居る真知子さんの部屋へ行った。

 家の一番奥にある、真知子さんの部屋に辿り着いてとりあえず俺はドアをノックした。
「はーい、お母さん?」
「俺だよ、宮子ちゃん…智也」
「智也君?ちょ、一寸待って!奈美さん、早く着て…」
 部屋の中から、何かどたばたする足音とわーきゃー言う宮子ちゃんの慌てた声が聞こえてくる。さっき、早く着てって言ってたけど何してたんだ?二人して……
 個人的になんか気になる。
 しばらくバタバタした後、部屋の中から宮子ちゃんが顔を出す。
「お、おまたせー」
「どうしたの?中がバタバタしていたけど」
「智也君には、関係ないことだよ」
 宮子ちゃんは少し焦って少し汗をかいて、焦りながら言う。
「なんか気になるなー」
「な、なんでもないよー。ね、奈美さん」
 奈美さん?宮子ちゃんは美村をそう呼んでいるんだ。すると、宮子ちゃんの後ろから美村の声が聞こえてきた。
「浅倉君?…宮子に、体を拭いてらっていたんだよ」
「わわ!奈美さん!?」
「へー、そっか」
 美村の声からして、彼女が大丈夫だってすぐに解った……無防備な姿を宮子ちゃんや真知子さんにさらしても、二人を襲う事は無い…そうだよ、美村が彼女達を襲う理由も無いんだけど…
『吸血衝動の果てに血を欲してしまってしまい、両親を手にかけてしまったのでしょう…』
 あのフレキの言葉が蘇ってしまうと、少し不安になってくる。
 両親を手にかけたと思う美村……吸血衝動…俺も吸血鬼と化してしまったら、見栄が無くなると言うのだろうか?
「智也君のH」
「ん?ええ…?」
 宮子ちゃんの突然の声で、ビックリして我に返った。
「だって、智也君…黙り込んじゃって」
「いや、別にそういう事考えてたんじゃなくて……」
「??」
 そうか、さっきは美村、宮子ちゃんに体拭いてもらっていたんだ…その途中で俺が来たから急いで服を着せてやったんだ。だから急いでいたから、息が荒いんだ。
 それで、なんか黙り込んだ俺がやましい事を考えてるんじゃないかって思ってんだ。
「むー」
 とも角、なんか誤解している宮子ちゃんの誤解を解かなきゃいけないな。
「だから違うんだって…」

 違う?なにが違うんだ…… …愚問だ… 
  頭の中では美村を欲しいと思ってる……だから、連れてきたんじゃないか?
   美村を抱きたい、この手でものにしたい……その為に俺は…

「ちょっと失礼しまーす」
「は…」
 俺の後ろから、シアンさんの間延びした声が聞こえてきて…驚いて我に返る、何だ…また?今のは一体?
「ん?えっと…」
 突然のシアンさんの来訪で少し戸惑い気味の宮子ちゃんにシアンさんを紹介した。
「あ、そうなんですか。遠い所からわざわざ…宜しくお願いします」
「こちらこそ、よろしくねぇ」
 ご丁寧にシアンさんと宮子ちゃんはぺこぺことお辞儀を交わす。
「……」
「そっちの貴方も、よろしくね」
 美村にもシアンさんは挨拶を交わして、美村は軽く会釈するだけで何も言わなかった。
「シアン?あまりうろうろするな……」
「あ、うん!じゃあまたね」
 フレキに呼ばれてシアンさんは退散して行った。
「フレキさんの恋人なんだー、可愛い人だったね」
「あ…ああ」
「智也君!?」
 また、むくれた宮子ちゃんをまた宥めながら、俺も美村の部屋から退散する事にした。

「フレキ…智也君」
「すまないな、シアン。あんな役やらさせて…」
「いいよ、でも…どうしてかな?あの女の子、吸血鬼なんでしょ?」
「……今の所、危険はない…もし、彼女が動いて。もし彼が動いたら…」
「“あれ”…使うんだね」
「ああ、手伝ってくれるか?…銀弾がもう少しで完成なんだ」
「うん、でも…智也君は…」
「言うな……集中しないと、できるもんもできなくなっちまう。約束なんだ、親父様と…俺の……」
「……」

 久しぶりに、全員で夕食をとり今夜はシアンさんが加わって賑やかになったらしい。シアンさんも真知子さんの一緒に夕食のお手伝いをしたかったらしいが、フレキの話によると、彼女の料理は殺人的な味になってしまうほど酷いといい、口裏合わせて断ってもらったのだ。
 美村は後で、宮子ちゃんが特性のお粥を持っていくと言って、俺は今日の疲れがあるのか、さっさと風呂に入って眠る事にした。
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい、智也さん」
 シアンさんがフレキとの学生時代の思い出話に花開いてる最中、一人抜けて部屋で寝ようと思った。
 今日の疲れか……そう言えば、今日はフレキとで、ゲリの手がかりを求めて警察署に行って…シアンさんとケットに出会って…それだけだったな。
 特に変わった事がなかったのに何で、なんで、こんなに疲れてるんだろう……

 部屋に入り真っ先にベッドに横になる。疲れているのに、余り眠くない……
「美村……」
 何故か、美村の事を考えてしまう……なぜ、あの子の事ばかり、気になってしまうんだろう、さっきもそうだった…
 俺は美村をどうしたいと思っていたのか…何の為に助けたのか、そう思った。
『欲しい』……純粋な気持ちで、あの子を欲しいと思っている。
美村のあの美しい体をこの手で……
「何考えてんだ……俺は…」
 顔をごしごしと手でこすって…今考えた気を反らせる。
「……」
 しかし、俺の中で美村が消える事がない……何故? 俺には宮子ちゃんが…
「ちっ…俺って、やな男かもな……」
 宮子ちゃんも好きなのに、俺は美村の事を……愛してやりたいなんて考えてる、これじゃあ、宮子ちゃんに嫌われる…。

「浅倉君?」
「……」
 声がして、俺は声の方に目をやると、俺が寝ている横で美村がベッドに座っていて、俺を見ていた。
「……」
 何故ここに…と言う言葉が…不思議と声に出なかった。部屋は電気を消していて、暗いが…細い月明かりだけが柔らかで冷たい光で俺の部屋に入っている。
 その光に照らされて、美村は…怖いくらいに綺麗に…美しく、妖艶に…見えた。
「浅倉君が呼んだんだよ……私を…」
「……」
 そう言えば、俺は美村を呼ぶように考えていたのかもしれない……美村…奈美に会いたい。でも…どうして、解ったんだろう?
「私達は『繋がってる』から……だよ」
 ゲリから助けた時も、俺にその言葉を言ったような気がする。仰向けで動けない俺に、美村は覆いかぶさるように、跨る。
 声にならないんじゃない、声が出ないし…動かないんじゃない、動ける体じゃないんだ。金縛り…そんな言葉が思い浮かぶ。ただ、美村の赤い瞳から目が離れない、ルビーのようで、夕日のようで…そして血のような美しい朱。
「繋がってるから……一つになろうよ…」
 月明かりに照らされて、奈美の美しさは…本当に引き立って見えた。服も布一枚でも月明かりで体の線が見えてくる。
「………」
 何もいえない、言う事がない……
「私は…智也が好き…」
 怖いくらい美しく、妖しい奈美は俺の唇を奪ってきた。冷たくて、生きてるものとは思えない美村の唇に何か、物悲しい気持ちが伝わってくる
「………智也は?私が…好き?」
「……」
 俺は………



「っは!?」
 気がつくと、奈美はそこには居なかった。最初のベッドで仰向けで寝ている状態で衣服にもベッドにも乱れが見られない。
 今さっきの出来事が全然嘘みたいに思える。夢…と思いたいが、リアルすぎる…実際感じた彼女の体の柔らかさや冷たさ、そして儚さ…まだ全て、体が覚えている。
 時間は…2時間も経ってる。そんな時間、俺はボーっとしていたわけじゃないと思う。
「……」
 思い返してみた…っく、頭が熱い。重症だな…これは…たとえ、あれが現実かどうかわからないとしても…
 だけど、美村は悲しそうだった、あの時…美村は泣いていた。何故彼女は泣いていたのかは解らない、でもその悲しさが俺に伝わってきたような気がした。
「くぅ…」
 この時、俺は美村…いや、奈美と繋がってるって事が本当に理解できた。だって俺も、泣いているから……



……



第十七話……『血池』つづく。

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