「……」
 冷淡で鋭い眼差し、そこに居たものは俺が知っていた何時ものあの優しい青年の姿は無かった。いや、あいつ本来の姿に戻ったと訂正するか……
 無表情で、右手に持つ重火器を折り曲げ、そこから先程打ち出された弾丸の薬莢が落ち、腰ベルトに何本もある銃弾を再び装填して、俺に銃口を向ける。
 銀の匂い、あの武器と言う武器を一つにしたような、凶暴なまでの重火器の武器一つ一つ全てから匂ってくる。
 そうでなくとも、奴は初めから俺を殺るつもりなのだろう、鋭く光る赤い眼光からはそう読み取れる。
「つぎは頭を狙います……」


鍵爪
 第十九話『銀狼』



 フレキ…子供の頃ゲリに両親を殺され、親父と叔父さんに助けられた獣人の子。叔父、浅倉智弘の養子として育てられた男。
獣人が昔、吸血鬼と敵対関係であったことを思い出す。自分から、獣人の怨みの呪いは捨て去ったと言って置きながら、結局は合いまみれない存在だったという事か?
 それが、この答えだ。
「俺を殺す…か…それが、奴との約束か?フレキ!?」
 だらんと、銃で貫かれた腕を庇いながら、おぼつか無い足で俺は立ち上がろうとする。それを、奈美は必死で止めようとする。
「…駄目だよ智也。殺されちゃう」
 その声は聞こえても、フレキから眼を話せなれない。ああ、フレキなら本気で俺を殺しに掛かるだろうな。奈美にそう言おうと思っても、隙を見せたら二人ともあの重火器の餌食にされるだろう…。
 フレキは、そんな俺達を見て…くすりと薄笑いを浮かべて。
「泣かせますね、吸血鬼同士…『愛』ですか?」
「ほざけ!ずっとこの機会をうかがっていたくせに…獣人、フレキスト・オーディン!」
 フレキは表情を全く変えずに俺を睨みつけながら、淡々と話す。
「ええ、俺は…あなたを殺す任務を負ってました。それが親父様との約束です」
「親父との約束か、『奴』との約束…フレキ、それがお前の大義名分か!?」
 手に三節の詠唱を唱え始める。奈美と殺し合いをして体力も殆ど無い…通行人の血を吸うわけには行かない。このままで、フレキを相手に出来るのかわからない。
「っふ、とんだ勘違いだ、智也さん……」
「勘違い?」
「そうですよ、あなたは自らで答えを見つけましたが、少し急ぎすぎて勘違いをしていると言っているのですよ。それでは……せっかく見つけた真実も、意味が無い」
「なんだと……」
「親父様は最初から、『あの男』同様にあなたを『後者』となる事を予期していた。貴方の祖となった、『有翼士』は吸血衝動や、力を抑える術を宝石から学んだ。
前者、力の制御が出来る者は、抑止力が持続している者だからだ…後者は、抑止力が無くなり吸血鬼として本能の赴くまま、人の血を吸う殺人者となる。あなたのように、美村奈美を死徒にして、ここら一帯の死者を使役にした…殺人者にね」
 俺が考えているのは行き過ぎた考えってことなのか、じゃあ…俺が見た物は…いや、騙されるな、俺はこいつの弟に騙され。こいつの親父であるあいつに騙され、こいつ自身にも騙され続けた。
 いや、フレキの言ってる事にも間違いがある、俺は吸血鬼への覚醒はしたが浅倉智也としての意識は保っている。それに奈美を吸血鬼にした覚えも無いし、奈美の深層心理の奥にある、『あいつ』の姿を見た。そうフレキの親父様と呼ぶあいつを……
 なんだ、フレキとこの食い違いは……フレキは、奴との約束の為、俺を今殺そうとしている、しかし何か引っかかる。
 やっと、辿り着いたと思ったら何かが食い違う、フレキが持つ真実も俺が持つ真実も…本当か偽りか何かが解らなくなって行く。
「フレキ……お前も勘違いしているだろうが、俺は後者として覚醒はしていないし、奈美はあいつが…」
「……それがあなたの見つけた真実か」
 一瞬、フレキの眼が紫色になったのを見た、しかしまた殺意に満ちた赤い眼光へと戻る。真知子さんがあれは獣の自分と、人である自分が一つになる時一瞬紫の色になるといった。多少の迷い……
「ああ、フレキ。だんだん本当か嘘かわかんなくなってきたよ」
 ここまできて、また振り出しに逆行してしまう。どちらが本当で嘘になるか…俺には解らない。
「『剣』を出しなさい!片腕だけでも使えますでしょう!」
「……」
 まさかフレキは、その為にわざと片腕だけを残しておいたってことなのか…俺に剣を出して、戦うために…
「…貴方のその剣で、俺の知る偽りの中の真実を探すといい!」
 フレキも薄い笑みを崩し、殺意をむき出しにすると重火器の尾部の鞘を抜いて、三日月の如き鋭い銀色の剣の刃を引き抜いた。
重火器の尾部にある剣をトンファーのように逆手に持ち、構えてくる。
「言われなくとも、そうさせてもらうさ!」
ジャキ!
 動ける手から、剣を出して、俺は目の前の銀で固めた獣人を見据えた。剣は一本に腕一本…満身創痍には違いない、フレキの殺気だと手加減はしてくれないだろう。
 でも、フレキと戦わないかぎり俺は真実に辿り着けない。戦うんじゃない、殺す気で掛からない限り俺は…

「智也…駄目」
 奈美が足にしがみ付いて俺を止めようとする。しかし奈美までここにいたら、フレキに殺されるのは眼に見えていた。
「逃げろ、奈美…」
「いや…」
「どの道俺がやらなきゃ二人とも殺される!離せ!」
「智也さん…やはり、貴方は頭がよろしい」
 銀色の閃光が三本、見えたかと思うと赤い服を身に纏った奈美が前に出て。
「危ない!避け…う!」
ドドド!
「……ごふ!」
 奈美の口から大量の血が吐き出される。彼女の背中、肩口…首筋の三箇所に銀色の円筒状の物体が深々と刺さっている。これは、銀の杭…言い伝えじゃ吸血鬼を殺す為の武器。極太のボールペン大の、銀色の杭。
 それがフレキの持ってる重火器からミサイルの如く三本発射され、俺を庇った奈美に命中したんだ。
「ちっ、庇ったか…」
「ともや…にげ……て…」
「奈美!?」
 どさりと俺の肩に奈美が覆いかぶさってくる。杭の刺さった場所からは、血が大量に流れ出している。今はまだ大丈夫だが、杭が奈美の生命力を奪っていくような…いや、この杭が奈美に刺さってる限り、奈美は『死んでいく』。死に長く触れていると、奈美はそのうち滅する。
 つまり、あの重火器全部がその『死』を持った、銀でできているということか。
ズブ!
「う!」
 奈美は俺を庇ってこの杭を受けた。こんなもんを奈美に突き刺してるわけには行かない。俺は奈美の体に刺さった杭を引き抜いて投げ捨てる。
「こんなもん、奈美の体に打ち込みやがって……フレキ!貴様ぁ!」
ブワ
 背中から、翼を広げ…怒りに身を任せてフレキに飛び掛っていった。



……

「……ゲリ?まだ痛むか?」
「……」
「ごめんな、僕は兄さんなのに……」
 僕は、弟の包帯を変えて、食事のスープを弟に与えるけど、弟は呆然と虚ろな瞳は何も見据えてはいなかった。
 もう、父さんに殴られても噛み付かれても、弟は泣く事が無くなった……変わりに、何も感じなくなっていた。
 弟のゲリは、僕とは違い…父さんからは虐待を受けて、母さんからは『異端児』とか『魔の子』等と罵られて、ろくに食事さえやらなかった。だけど、父さんはゲリを殺そうとはしなかった。獣人は身内の異端は、子供の内から抹消するのが掟だったけど…ゲリの父さんだから、殺さなかったんだと思い、僕はそれだけを感謝した。

 しかし僕は父さんがなぜ、ゲリを殺さなかったのかその理由を知るのに、さほどの時間は掛からなかった。

……



 『銀糸喰い』…俺がゲリを倒す為に、アトラス院に行き五年もの研究期間を使って、一応は『完成形』にまで至った、式典儀礼だ。銀…神域を表す色で混色では決して出来ない色でもある。伝説じゃ、銀の銃弾で狼男…多分獣人の亜種らしき者を殺したという事例があるが、俺が彼に教えたとおり、吸血鬼や獣人に対しては効く奴と効かない奴がいる為、銀に『鍵』の能力を持たせない限り銀に概念武装としての力は無に近い。
 銀の鍵…伝説上の概念武装であり、上記の狼男を一撃で滅した銃弾がそれであり…親父様が何処からかそれを自殺用の小型拳銃と一緒に取り寄せたのもそれだ。
それが研究の最終目標として、アトラス学院で『銀糸喰い』という完成形まで至ったのだ。
糸…糸は『死』…これに長く触れた超越種や幻想種の類は、死に誘われる。教会の代行者が使う『黒鍵』に式典儀礼を施すのと同じく…言霊が支配する部分が大きい魔術であり「死に長く触れたものを、より強く滅へと侵す」
吸血鬼に対してはこれで銀の杭を作って、突き刺すと刺さってる間は『復元呪詛』は働かず、死に誘われる。勿論、触れていない限りその力は働かない、そこが『銀糸喰い』の最大の弱点である。
やはり『銀鍵』が最終目標であることには変わりないだろう。
 獣人は、『復元呪詛』を持っていない……特別な、俺達兄弟以外は…

 銀糸の完成形がアトラスで出来た後、俺はその足で教会に銀の加工機を取りに行き、俺は教会の第七位と出会う、あの女はアトラス院から出て行った俺の拿捕…そして希少種となった、獣人の獣祖として…ずいぶん前から狙われていたらしいが、戦ってみて何処と無く馬が合った。
俺は彼女に情報を提供して、今後…浅倉に関する情報等を教会に提供する変わりに、彼女から、黒い銃身…そして、概念武装『タタールのくびき』までもらってしまった。
 タタールのくびきは、東洋の帝国が欧州まで支配しようとしたころに作られたもので…蒙古人の祖先と言われる蒼き狼の力を、剣となしたもの。レベル的には第七聖典に匹敵する、強力な概念武装。元々『王冠』が所有していた物を、弓の奴が獲って来て渡した為かこれで、共犯となってしまったが…「貴方にぴったりなんでは?」と皮肉たっぷりで言われたら、貰うしかない。こいつはバレルブラックの銃弾に使えるだろうな。
そしてゲリがアルトルージュの死徒になった事を教えられた。

ありえない事だとは思っていた、獣人が吸血鬼の死徒となる事など…。しかし…俺は、納得がいかなくも無かった。むしろ…ゲリは獣人だが吸血鬼になれる素質と言う物を持っていたらしい。兄弟だからそれが上手く実感できた。
 俺の体も、吸血鬼なれる…からだ。




……

 あの日、森の動物達が騒がしくて目が覚めた、僕たちの隠れ屋敷に嵐が近い事を予期していた。空は曇り、雷が鳴り響き、風が吹き荒れて…動物達が逃げ惑う。
 そんな、恐ろしい気配の中…僕は目覚めて、ゲリの居る部屋へと向う。
 そこは父さんがゲリを閉じ込めるための、物置のような部屋……まるで牢獄、何かを閉じ込める為の檻…ゲリをここまで閉じ込めて、虐待をして…。

 異端児として殺さずに、ただ嬲り…自分の牙を研ぐ為だけに…獣人の掟、破ると僕も殺される。僕は、獣人にとっていずれ、吸血鬼を全て根こそぎ滅ぼす為の最後の剣なんだ。父さんの中、いや先祖代々…獣人の最後の龍人が放った、呪詛により吸血鬼を憎み続け…殺す事しか考えない…物体になる。
 父さんは誇り高い、獣人の王だ…だからこそ僕は父さんの『剣』となり、吸血鬼を倒さなければならない。そう、何度も心に言い聞かせていた。それだけが……僕の…
「ゲリ…食事だよ」
 何時ものように、ゲリに食べ物を部屋にもって行く、父さんに嬲られた痕が生々しく残っている。牙でつけられた傷からまだ血が流れている、それもすぐ止まる。ゲリも僕のように、獣人には珍しい『復元呪詛』を持っているから。
 いや、獣人でも狼人(ろうにん)…通称『ライカン』には、万に一つ絶対にありえないことで、これを持っているのは絶滅した龍人に、父さんの昔話に聞く『始祖獣オーディン』以外…持たないといわれ、狼人は…獣人の中でも種は繁栄してたものの一番弱い部類に属していた……と言われていたから、ゲリのような者は異端中の異端扱いされている。ただし、それは僕も同じなんだ、同じはずなのに……扱いがここまで違ってくるなんて…。
「……」
 ゲリが僕の顔を覗きこんで、目が合った。兄弟なのに、僕とは違う赤く爛々と光る瞳。綺麗…いや、僕とゲリの唯一の違い…ゲリはずっとこの目のままだ。
 昔は狼人でも、魔の属性があったためか赤い目をしていた。だけど、今まで生きていく上で人との交わりで生きながらえてきた為か、今では獣化の時以外は目は赤くならないようになったのだ。しかし、ゲリの場合はそれがずっと続いている……
 まるで、何かに怒ってるように…
ギィン
 米神に鉛玉をくらったような違和感と、脳髄がすすられる様な気持ち悪さを感じた。ゲリと目を合わせているだけで、生命力を吸い取られていくような…流れていく、ゲリの体に僕が…流れて…
キィィーーーーーン…
 次は耳鳴り、大きな鐘を真上で鳴らされて、失禁するくらいの耳鳴り。耳を押さえてもそれは脳に直接響いてくる、僕はゲリに持ってきた食事を乗せていたお盆を落として耳を塞ぐ。
「…う、ぐ…あぐ…」
 痛い、頭が酷く痛い……獣化するのか、ぼくは……。僕はまだ父さんのように獣化した事が無い、それの衝動は無くはない物の、これ程酷い衝動は初めてだった。ただ、ゲリと目を合わせているだけなのに。
「に…い……さん…」
 ゲリの口が、そう次げた時……僕の意識とゲリの意識が一つに重なったような気分を味わった。
「ぐは!」
 しゃがみ込み口から何か嘔吐する、いや、吐血していた……重なる、ゲリと…重なる!
 ゲリは今まで見せなかった、不気味な笑みをこぼした。それはまるで、感情の無くなった人形の如く…不気味な笑み。
パシ、パシ、パシ
 目の前でカメラのフラッシュがたかれたような、強烈なフラッシュバック。そして、序所に上がっていく鼓動。とまらない…助けて、父さん…母さん…
「……兄さん、兄さん?」
 体が変化……していく、何を、ゲリは…いったい僕に…なにを…

『殺して……兄さん、殺して…兄さん』

 頭にゲリの言葉が入り込んでくる、殺す…誰を殺すんだ? ゲリ…

『殺せ…』
 ゲリの声?なのか…これは…
「く、ぐぅ…」
『殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…』
 殺せを連呼する、ゲリとは違う何者か……誰をどうして、僕が殺さなきゃならないんだ。いやだ、入ってくるな。僕が、僕がなくなってしまう、やめてくれ!
「うるぁぁぁぁぁーーーーー!!ぐるぁぁぁぁーーーーー!!!」

 体が氷解して、またゲリと一体に溶け合って一つの物となっていく違和感…元々一つの物だった物が、生まれたとき分かれ……それが、一つに戻っていく。一つになり、ゲリとも自分とも違う物体に…
 違う、物体に……

…意識はあるけど、体は違う誰かが動かしてるかのように勝手に動く。

 ゲリが僕を動かしているのか?

父親が大切にしていた、身長よりも長い矛を倉庫から持って部屋を出る。なんでも我等が祖となった獣人が愛用していた矛だと聞いた事がある。その矛を握る手が自分のものでないと気付く…自分の数倍もある大きな手と、獣の爪…それは僕の見覚えの無い。
 周りを見渡して、匂いのする方に向って歩いていく。その先には獲物が居ると……
『……!…!!』
 目の前に来た父と呼んだ矛の一振りで、肉の塊となる。母親は矛を一突きで、真っ赤で綺麗な花となった。糸も簡単に……抵抗も無く、まるで父さんと母さんがそうなるのを自分から望んでいたかのように、矛の一撃をただ自然に受け入れてるみたいだった。
滅びる時はとても綺麗な血の赤…直に目に映る戦慄…それが、僕の目には恐ろしくも見えたし、美しくも見えた。
『食え…くえ…喰え…クエ…食え…くえ…喰え…クエ…食え…くえ…喰え…クエ…食え…くえ…喰え…クエ…食え…くえ…喰え…クエ…食え…くえ…喰え…クエ…食え…くえ…喰え…クエ…食え…くえ…喰え…クエ…食え…くえ…喰え…クエ…食え…くえ…喰え…クエ…』
血の海を見て…たまらない空腹感を感じる…そして、僕の頭に『食え』と言う声が何度も指令のように「繰り返される。どうしようもない、血肉への欲求、肉食獣にある潜在的な欲求…。僕はそれを、満たす為に…肉塊となった父を貪り始める。
 美味い…父と呼ばれた物体を牙で引き裂いて、血をすすって…喉に飲み込んでいく。母と呼んだ物は、既に紅い花となっている為か喰えるどころではない。
『うまい…うまいよ、美味いよぉ! 父さん、すごく美味いよ!!ああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ァァァァァァ!!』
 僕……と呼ぶ獣は、父と呼んだ物体を狂ったように貪って、口周りを真っ赤に染めて紅い室内での笑いながら咆哮を上げる。
 その咆哮は…凶悪なまでに、空気を激しく振動させ、全ての生物を震え上がらせる…空気の強震…ハウリング…。
 それが、進化した生命主全ての延長に当たる、真なる『獣の王』の咆哮だとは…それが、僕自身だと…気づくのは…


…/
…/…/

屋敷内を朱に染めて…自分自身も、両親と呼んだ者の血で真っ赤に染まっていて、『獣の王』の姿から、元の僕に戻っていた。手に余るほどの矛は手から離れ、金属音を鳴らせて床に落ちて、僕は自分がした全ての事に目を疑い…耳を塞ぎ、目の前の現実を呪った。
この世をお作りになった神がいるとしたら、これを嘘だと言って欲しい。

“いや、お前達の想像主が居るとしたら……それは私だ……”

 引き裂かれた父、ばらばらに飛び散った母…、そして…その中で笑う、ゲリ…僕を見て笑うゲリ、楽しそうに飛び散った血を見て笑う。涙を流しながら…
 どうして、そんなに…楽しそうに笑うの…それとも、悲しくて泣いてるのか?

“楽しい?……悲しい?……その者は、お前と一つとなる事を望んだ。そして我を蘇らせた事は、お前も望んだはずだ”

 僕が殺した事を……二人で望んだの?そんなのって……僕たちが殺したの?

“お前とそいつは、私を半分ずつ分け合っている…。あの者は、『獣の王』には相応しくない器だ、吸血鬼への恨みの呪詛を未だ持っている、愚か者よ…お前達兄弟ならば、王となるのに最も相応しい存在といえる…フレキ&ゲリ…”

 僕は…獣の王に…嫌だ、こんな事…こんなの嘘だ、何も聞きたくない!

「兄さん……」
「ゲリ…」
 涙を流しながら、ゲリは手を広げて僕に近づいてくる。また目が合い…さっきの戦慄が蘇っていく。ゲリと目が合わさった時僕はあの『獣の王』となって、父を母を殺した。自分の意識とは反して、『獣の王』は見栄えも無く暴れまわる。矛で突いて、殺して、そして貪り食う…
「来るな!僕に近づくな!」
 差し伸べたゲリの手を振り払うと、ゲリはペタンと倒れこんで…そしてまた笑う。とたんにゲリを拒絶した罪悪感と後悔を感じた。
ドクン・ドクン・ドクン…
「あぐ!?」
 心音が痛いくらいに高鳴る…怖い、また、あれに…獣の王になってしまう。
 あ…違う、体が『獣の王』と別のなにかが…僕から這い出してくる。
「あ、ああ……あああああああああ!!」
 その後、また別の衝動が僕を襲った。感情の高ぶりが…初めてだけど血が、血が 僕の 感情 を  喰い破って…
「ふふふ、あはは!」
 ゲリが笑ってる、また変わっていく…僕を見て……ワラッテイル…


 その後、気がついたら…屋敷の外…僕は森の中で倒れていた。考えてみたけど…もう何があったのか全然解らない。
 脇で誰か知らぬ男達の、話し声が聞こえてくる。誰かは解らないけど…一人は僕の頭を抱えている。暖かい…今まで感じた事の無い感情。
「兄貴、そんな子供どうするつもりだ?」
「決まってるだろう、獣人の子だ…」
「そか…殺すのか?だよな…吸血鬼として、獣人を絶やすってのは」
 一人は僕を殺すと言っているが、頭を抱えている男は鋭い剣幕で怒鳴りつける。
「何を言うか!この子供が、獣人であっても…まだ年端も行かないではないか」
「こいつが獣人だとしたら…唯一の生き残りである、オーディンの家系の獣祖だぜ。殺さずとも教会に引き渡す暗いしないと、こっちの風当たりが悪くなるぜ」
「教会にはいずれ、この子の事について言わねばならんだろうが…引き渡すつもりは無い」
「智也と共に獣人の子を育てるつもりか?それこそ無理だ、吸血鬼の子供と獣人の子供、共に兄弟として育てる事は不可能に近い」
 獣人…なんだろう、僕の心にあるこの感情、恐怖?
「それとも、兄貴はその獣人に同情する気かよ?」
「智弘……お前は何も感じんのか?」
「子供が居るあんたの気なんて知りたかないね……俺は…」



……
………

ギィィーーーン!!
「うおおおおーーー!!」
 動く腕を精一杯振りかぶって、フレキに剣を斬りつけるが重たそうな重火器の尾部の長い刀をトンファーの如く使い俺の剣を払いのけて、素早く重たい拳の一撃を俺の腹に食らわせる。
「うが!」
 その一撃に俺は怯んだのを見計らって、フレキはまた俺の前に踏み込んできて顔、傷ついた左肩、そして溝内に拳を食らわせて…最後に顔面に上段回し蹴りを食らわせて引き離す。
「っく!?」
 不規則にそして鋭く抉るような拳の一撃…拳法。
「親父様には色々と教わりました…棒術…射撃…居合い斬り…この琉球拳法もその一つ」
「また…あいつかよ」
「そして……」
 一瞬、あの重たそうな重火器を左手に持っているフレキが俺の目の前まで間合いを詰める。剣が触れない間合い…眼前でフレキは重火器の持っていない手で着ているチョッキから黒くて丸い物体を引き抜く。
カチャリ…ピピピ
 何かが外れて金属音と、電子音のような物が聞こえフレキは目の前にその黒く丸い物を俺の目の前に投げつけ、地面を蹴り間合いから離れた。
「え…」
 スローモーションのように、その丸い物が空中に舞う。物体にあった緑の電子メーターが0となり…破裂した。
バァァァーーーン!!
「うあああ!」
 とっさで後ろに退こうとしたが、間に合わなく顔から胸まで激しい衝撃と熱さが波状に襲い掛かり…俺は後ろに倒れこんだ。
 着ていた服が爆弾で半分消失して、自分の肉が焼かれる匂いと血の生臭さが…鼻をついた。しかしフレキの言葉は耳に届く。
「対吸血鬼の戦術も…」
 その後俺の手から剣は消えて、後ろに仰向けに倒れこんだ。


第二十話……『熾烈』つづく。


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