俺は、この不可解な謎に休むといいながら、眠れなかった。

夢と思いたい現実と、夢としか思えない現実が交錯した…

夢と思いたい部分…なぜ、俺は事件を夢で見て…知っているんだ?俺はあそこで見てきたというのか?俺は知らない内に夢遊病になったり、幽体離脱してあそこまで行ったとでも言うのか?
それにあの化け物は何物だ?現実のようで、どこか夢としか思えない部分…
なぜ死体が人間だけだ、化け物の死体はどこだ?

それに、あの赤い猛獣のような瞳のフレキ……。
なぜあいつが、あそこにいて…人間離れした強さで、化け物を殺した…

 あいつはフレキって何者なんだ?

鍵爪
 第三話 『不安』

そもそも、フレキは何者なんだ?
俺の知っているフレキ、俺の知らないフレキ…あいつなら全て知ってるんじゃないか?あの化け物も…俺の夢も…
あいつが現われてから、殺人事件が二日連続に多発しているし、なんだか近づいてる気もしている。
事件自体はフレキが来てからではないが…フレキが事件に関わってる事は確かだ。
「行ってみるか」
俺はベットから立ちあがり玄関に向かった。

「あっ智也君、出かけるの?」
玄関先で宮子ちゃんと出会った。
「まあね、また散歩だよ…」
「そう、気をつけてね…殺人犯がまだうろついてるかもしれないから…」
宮子ちゃんが心配そうに言った。
「大丈夫さ、その殺人犯ならもう居ないから」
 少なくともあの化け物が死んで、通り魔なんて出てこないと信じたい…フレキが殺したんだからな…
「え??」
「それより、宮子ちゃん…帰りがけなんかおやつでも買ってきてやるよ」
「わ、ありがとう智也君!」
 そう言い残し、俺は玄関を出るとあの池のある公園…事件現場に行った。

あそこには多分彼がいる。

4丁目の公園
案の定、捜査を終えて帰ろうとする警官達の中に、井上警部がいた。
「井上さん!」
気がついたのか井上は俺の方を向いた。井上さんは他の警官達と少し話をして、俺のほうに走って来た。
「浅倉さんじゃないですか。どうしたんですか?またこんなところに…」
「家が近いんです、ここから…」
「ほお…そうですか…ではここではなんですので…」
 井上はそう言うと、俺を池の現場近くの場所のベンチに座った。ここは現場から丁度180度反対側の所で…人気は無い。ここならよく聞けそうだ…
「井上さん、今回の被害者は男が二人ですか?」
「いえ…ニュースではもう少し先に話すかも知れませんが、ついさっきもう一人…現場から離れた道路の植え込みに女性の死体が見つかりました。例の如く…心臓を抜かれてね」
「なんだって!?」
 どういう事だ?もしかしたら、その女性は…
「女性の遺体は、首の無い死体と恋仲だったとの情報があります、浅倉さん?」
 やっぱり、殺された女性はカップルの片割れだ…化け物は、フレキが殺したはず…もう一匹いるのか?いや…もしかしたら、沢山要るのかもしれない…
「どうしたんですか?顔色が悪いですよ?」
「い、いえ何でもありません…続けて」
 もっと詳しく聞けば何かわかるかも…
「ええ…捜査していると、現場の池のあの部分に被害者の物と思われる首が落ちてました」
井上は池の遠くの方を指差した。
「首の切り口が一致している事から、もう殺された、被害者の物と断定できました、殺された被害者は二人で首はありませんでしたが…私にはどうもこの犯人は別にいる可能性があるんです」
井上は顎に手を当てて言った。
「どう言うことです?」
「まず、一人目の被害者は、首を猛獣が獲物を食いちぎるように無くなっていて、現在さらに…首の捜索中です。しかし問題はもう一人の被害者、まだ死体を鑑識に出していますから身元が確認されていないんですけど、首の切り口を見たところ、鋭利な刃物、勢いよく振って切り落としたような、切り口に見えたんですよ。知ってます?バラバラ殺人をした時…首を切り落とすのにはのこぎりを使って骨を切る必要があるんですよ…でもそんな回りくどい事をしなくて、一発で日本刀みたいな刃物で一気に切り落としているように見えるんですよ…」
俺は井上の言葉にびくっときた、夢でフレキは奴の首を棒みたいな物で首を斬り裂いた。井上の観察力と推理力を見る限りでもさすがエリートだと感心してしまう。

「井上警部、ただいま鑑識から結果が届きました。」
井上の後ろから井上より年上だが格は下らしい刑事が来た。
「もう一人の被害者の名前は、矢上和己…フリーターの25歳、男性…住所は某マンション四階…一人暮らしをしていて、現在親族の方と連絡を取っています」
「そうですか…」
「はい、推定死亡時刻は昨日の夜の2時か3時すぎで、とにかく奇妙なことがあるんです」
「どうしたんですか?」
「犬歯が異常に発達していたんです、まるで猛獣のような牙が、それに何より奇妙だったのが、胃の内容物です」
「胃の内容物?」
「はい、胃に何か、人間の頭蓋骨の一部らしきのが発見されたんです…頭蓋骨ですよ、まるで頭を丸呑みにしたように…」
「頭蓋骨の一部?なぜそういうものが……食ったわけでもないのに…」
 え?と言う事は…やっぱりその矢上って奴が、化け物の正体だったのか?だが、俺が夢で見たとおり、化け物は男の首を丸呑みにして食い殺した。
 だったら、奴が化け物の正体だって事は明確だな…
「わ、私に聞かれても私にはわかりませんよ」
「仕方ありませんね」
「私はこれから鑑識に向かいます井上警部、何か情報があればまた来ます」
「お願いします」
そう言って刑事は、立ち去って行った。
「では、私も仕事があるのでこれで失礼します」
「あ…はい」
 井上もそう言って、ベンチを立つと歩いて行った。足音立てないんだな、彼…

しばらく街を歩いて、俺はあることに不意に気づいた。
俺はなぜ、自分とは無関係である、この事件のことを調査していたんだろう。
礼の夢のせいか?……フレキのせいか?
悪い夢見て、そしてその次の日、夢で見たことが現実となっている。夢で起きた事が現実で起こる体験、それは『正夢』って言うけど…。
俺の中に…何か特別な力でもあるのか……。フレキのような、人間離れしたような…

 そして、何でフレキがあんな化け物と戦ってるんだろう…鉄の棒で、なんらく化け物の首を跳ねる…棒術を持って…。もしかしたら、フレキはあの化け物と戦う為にこの街に来たのかもしれない。
 だとしたら、彼をよこした叔父さんも……何か知ってるんじゃないのか?

俺は、気がついたら…あの神社の墓地に来ていた。
「なぜ俺はここに来たんだろう」
何かに引かれるようにここに来た。ここの墓地には俺の親父と母さんの墓もある、二人に会いに来たわけでもない…
この神社、父さんによく連れられて、よく宮子ちゃんと遊びに来たような記憶がある。その記憶もあいまいで、何かがかけていた。宮子ちゃんとは分家筋で俺の妹みたいな者だったから、小さい頃からよくいろんな場所で遊んだもんだ。
宮子ちゃんが言うには、そこでとっても怖い事があって、それからお化け嫌いになったのは、俺も覚えている。だけど、宮子ちゃんの言うように…ここで何かあったと言うが…そんな覚えはない。
 そう思いながら墓地を離れようとするとふと、俺の目に親父の墓の向こう側の墓に手を合わせる少女がいた。
それは、白い服を着て暗い虚ろな目をして、それでも可憐と言う言葉が似合う…なぜか裸足の少女、あの顔どっかで…あ、そうだ俺はあの少女を知っている。
2週間前、行方不明になっている俺の同級生の美村奈美だ…確か、写真では見たことある顔だ……。なぜこんなところに……

何にしてもここで美村を保護しないと、俺は彼女に近づいて美村に呼びかけた。
「美村…美村奈美…だろ?」
「………」

美村に話かけると美村は気づいたかこっちに視線を向けて来た。やっぱ可憐と言う言葉が似合うような、整った顔立ちだ…つい見入ってしまう。美村はどこかボーっとして虚ろな表情で俺を見てから…
「…けて…」
「え?」
何かを訴えるように口を動かしてから、脅えきった目で走り出した。
「美村!!」
やばい、彼女を保護しないと…俺は美村を追った。
「待てよ、美村!おい!!」
美村は裸足なのに、何て早さだ…とても追いつけない、もしかして陸上部とかに入ってたのか?俺は疲れたか止まった。

美村は走り去って行った。
美村の行った延長線上に何か古びた廃屋みたいな建物を目撃した。あんな建物見た事が無い…多分あそこに美村は居るのだろう。何故?そんな事俺の知る由も無い。

俺はただならぬ気配を感じ、俺はそれ以上動けなかった。美村を追うことができなかったが居場所は突き止めた。
とにかく、この場を離れて警察に美村の居場所を教えよう。警察には井上もいる…不思議な奴だがやな奴ではないし、きっと頼りになるだろう。

俺は家に戻った。宮子ちゃんに約束のおやつを買って持ってってやって。丁度真知子さんと買い物に行っていたフレキとも顔をあわせるが、二三会話をしてまた部屋へと戻った。
少し後ろめたいが…フレキが何者か解らない以上…すぐに信用は出来ない。

 美村の顔が浮んですぐ警察に連絡しようとも思った…けど、何故かその行動に転じれなかった。どうしてなのかは定かではないが、あの脅えきった顔が目から離れない。

そして俺は真知子さんの夕飯を食べている時もその事がボーっと頭から離れなかった。
「あっ、困ったわ」
「どうしたの?お母さん」
「明日の分の牛乳が無くなっちゃったのよ…今日買い物で買わなかったのが痛かったわ」
 フレキとデート気分だったんだろうな、真知子さんは…
「じゃあ、私が買ってくるよ、いいでしょ?お母さん」
「ええ、でも夜道には気をつけるのよ…特に暗いところとかは何かと物騒だから」
 確かに女の子の一人歩きは危ないが、それ以前に昨日近くで殺人事件があったのだ、宮子ちゃん一人では絶対危険だ。
「あっそれなら、俺も一緒に行くよ…」
「なんか頼りないけど、いいよ〜」
 そりゃないよ、宮子ちゃん…
「あっ悪いですね、智也さんお願いしようかしら」
宮子ちゃんは真知子さんに牛乳大を受け取って玄関に足早にかけていった。俺も出かける支度をすると、後ろからフレキが声を掛けてきて…
「智也さん、夜道は危険ですから気をつけて行って来て下さい」
「解ってるよ、フレキ」
こうして話してる時はいつものフレキだ、落ち着いて冷静な……
だが…夢で見たフレキは……冷酷で恐ろしい、獣のような奴だった。
なんだか、フレキが2人いる感じがして、どこか後ろめたい気もする。
俺はそんな疑問を抱きながら、宮子ちゃんと近くのコンビニに向かう事にした。

「うわぁ、結構暗い場所おおいねぇ智也君」
元気に話しかける宮子ちゃんをよそに…俺はまた、美村のことを考えていた。
あの悲しそうな怯えた目、何かを思うような切ない瞳。助けを求めていたのに俺は、警察にも連絡できなかった…なぜだろう…彼女はなぜあんなところに。
「智也君?どうしたの、さっきからボーっとして」
 不審に思った宮子ちゃんが声を掛けてきた…。まだ幼い可愛い顔立ちの宮子ちゃんが俺の前に来て上目遣いで聞いてきた。
「いや、大丈夫さ…ちょっとした考え事」
「そう?考え事なんて珍しいなって思って…」
「宮子ちゃんまるで俺が馬鹿みたいじゃないか…」
「あ、ごめんね」
 宮子ちゃんは舌を出して謝った、まったくこんな時でも可愛い子だ。
コンビニで足早に牛乳を買って、俺と宮子ちゃんは昨日の現場となった公園をそれてに路上を歩いていた。
 宮子ちゃんも、段々闇が怖くなってきたのかそれまでの元気な雰囲気は無く黙って俺の後ろにしがみ付いて歩いている。
公園を避けて通ったから、気が付いたら俺達は見知らぬ人気の無い路上にいた。誰もいない、暗い夜道、ただ街灯だけがついていた。
人の気配が無い。まったく不気味だ。
上空には満たされた月があった。
「智也君、ここ怖いよ…引き返そうよ」
「ああ…そうだな」
 宮子ちゃんを思えばここを通ることはやめることにしよう…俺は来た道を引き返す事にした。
ビクッ!!
俺の背後から何か異様な気配を感じた。どこかで感じたのと同じような気配と不気味な視線…そして一番会いたくなかった視線…
「どうしたの?智也君…」
背後に何かいる。
振り返るな…振り返らず、宮子ちゃんを連れて一気に走らなければ…宮子ちゃんが、今までの被害者の女性と同じ運命を辿る。奴に会っちゃ駄目だ…
「智也君…」
「宮子ちゃん、振り返っちゃ駄目だ…そっと、そっと全力で走れ」
「……うん」
 声が震え、涙声になっている…宮子ちゃんも奴が後ろに居る事に気づいたんだ。獲物として狙われてるのは解ってる、でも今逃げなきゃ…宮子ちゃんは守らなくちゃ…
 案の定、敵は宮子ちゃんの存在には気づいていない…
「…3で逃げて…、宮子ちゃんフレキを呼んで来てくれ…」
「フレキさんを?うん、解った」
 何故だろう、こんな時だけフレキに助けを求めるなんて…俺、少しフレキのこと疑ったのに…
「考えてる暇はない、1…2…3!」
 俺は宮子ちゃんに考える時間を与えずに、早めにカウントを取って3で宮子ちゃんの背中を押した。俺も走る予定だったが、俺は反転して宮子ちゃんから背を向けた。
「智也君!」
「振り向くな!走れ!!」
 強めにしかるように叫ぶと、宮子ちゃんは…泣きそうな顔になりながらも、その場から走り去っていった。そうだ、それでいいんだ…

 そして、自分が大声を出してここに残った事を後悔した。俺の前にあの……化け物がいた。あの時フレキに殺された物と同じような、狼の頭をした怪物が…
『ぐるるるるる』
なぜか俺は怖くなかった、なぜだ、逃げもできなかった…完璧に奴に見入っていた。異形の怪物だって言うのに、毛並みはいいし、顔も血統書付きの犬みたいな整ったいい顔立ちをしている。こんな化け物を俺は美しいと思うか…
『死ね!!』
そう言われ、俺はフレキを思い浮かべた…こんな時あいつなら、俺を助けてくれるかもしれない……
その願い空しく、奴は俺に向かって飛び掛かり、そして俺は奴に襲われた。
右肩から胸に掛けて噛み付かれた。肩から大量の血が噴出した。
俺が倒れるには十分すぎる痛みで俺は力尽きた。

俺が倒れこんでおびただしい血が地面のアスファルトを赤く染めた。口からもちを吐き…赤い血が目の前をおおった。全てが、全てが赤い世界…

俺は…………死ぬのか……なぜだ、なぜ、怖くない……。
心臓の音が……聞こえる、確かにはっきりと、死ぬときはみなこうなのか?
ドクン、ドクン、ドクン、
なんで弱まらないんだ、普通は弱まってじきに止まる。何で早くなるんだ。
ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク!
それどころかさらに早くなっていく。目に奴が俺にとどめを刺すように爪を立てるのが見えた。
男は奴等にとって邪魔で、心臓も抜かずに食い殺す…だったな…
俺は心臓の音と傷の痛みで意識がもうろうとしてきた。もう、夢もフレキもどうでも良くなってきた、ただ…宮子ちゃんが助かった事を俺は素直に喜んだ…

俺は、じきに意識を……失った。





コチ、コチ、コチ
時計の音がして、俺は気が付いたら見知らぬ天井の下にいた。
ここはどこだ?
横を見ると、看護婦らしき人物がいて、俺を凝視した後どこかへ行ってしまった。
ここは、病院?俺は、殺されなかったのか?

俺はあの後どうなったんだ。

第4話……『誘拐』つづく。

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