『暇じゃなきゃしょうがないねぇ、僕と宮子ちゃんの『結婚式』に招待できなくて残念だよ』
コチ、コチ、コチ。
 時計の音がやけに大きく聞こえる…時の流れが、一秒一秒速く焦りを感じさせた。
 部屋の時計が、6時30分を継げている。
『大丈夫、まだきれーなままだから…汚しちゃ居ないよ、最も僕の物になったらもっと綺麗な女性にするんだけどね』
コチ、コチ、コチ。
 あいつは、いつもの通り…ふざけた口調で言って来た。亮二は何時もそうだ、何時もふざけたように俺の周りを付きまとって、二人で何時も馬鹿やって…
『イベントは市内の教会で盛大に見物人を含めて、今夜月が出る晩、7時からやるつもりさ……急がないとあと1時間だよぉ〜』
コチ、コチ、コチ、コチ、コチ。
 時間が一秒一秒過ぎていく音が、憎たらしかった…
 学校ではそれなりに奴と友達してて楽しかったし、それは俺も認める。宮子ちゃんともよく学校帰りのとき良く会っていて仲が良かった…「可愛い子だね」と言っていた。
 だけど、こんな行動に出るなんて、間違ってる。
『期待しないで待ってるよ』
コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ、コチ。
 机の引き出しから、護身用に親父が海外から買ってきた小さな護身用の拳銃を取り出す。22口径マグナム弾を一発だけ発射できる、デリンジャー銃…威力は高いが…銃弾は一発きりだ。
親父はこれを渡す時「お前が命に関わる時以外使うな」と言われて、それまで机の引き出しの裏にテープで貼り付けて隠していた。
 まさか、こんな時に使うなんて…親父、俺を許してくれ……あの子を救うため、守る為だ。

 時間はあと20分、俺はシャツの上からジャケットを羽織って、携帯電話と銃を持って玄関をそっと出て行った。
「待っててよ…宮子ちゃん」


 玄関を出た後、階段の奥の闇で…赤い目がギラリと光った。
「智也さん…」


鍵爪
 第五話 『教会』


 全力で走って、街の目的の場所まで10分で着いた…俺の家と、あの殺人現場となった池のある公園を挟んで反対側にある、教会…
「……」
 後十分で、亮二が結婚式の始まりだと言っていた…だが来たとは言え、弾が一発しか出ない銃だけじゃ心持たない。それに、亮二が今回の事件の黒幕だと考えたらどうだろう?
 井上は『誘拐犯』は『殺人犯』と関係があると言ったように、亮二は俺が化け物に襲われてから、宮子ちゃんを誘拐した。
 もし、亮二が襲わせたとしたらどうだ?それか、亮二本人があの化け物だったら…それだったら、全てのつじつまが一つに重なるように思えた。
 何にしても、亮二の裏にはあの化け物も居る、俺一人で向かったってもし何人もの化け物に食らい付かれたらそれこそ終わりだ。
「…ちぃ!」
 やはり、万が一を考えて…連絡をしよう。携帯電話には110番と佐倉家の番号が記されていた。
警察に連絡すれば、多分井上が居る…井上は大体全て話しているし…機動隊とか出してくれるに違いない。
 だが佐倉家にはフレキが居る…フレキはこの事件の鍵を握って、あの化け物を倒すほどの力を持っているはずだ。それにフレキは俺の味方だと言ってくれたし……フレキを信用して呼べば…必ず助けになる。

 だが、フレキを100%信用はしていない俺も居る…、ここは警察の井上に言って機動隊を出してもらった方がいい。
 それにフレキも馬鹿ではない、絶対に俺を一人では行かせないと思って後から来るかもしれないし、フレキが来るのを信じて警察を呼ぼう。
 俺は物陰に隠れながら、教会を見て携帯電話で110番を押した。
プルルルルル、カチャ
『はい、こちら110番です、どうなされました?』
 優しい感じの婦人警官の声…
「あ、もしもし…あの例の殺人事件のことで…あ、俺浅倉といいまして、本庁の井上と言うものを出してくれませんか?」
『浅倉さんですね、少々お待ちください……』
「………」
 婦人警官はそう言い残し、しばらく無言の電話が続いた。5分が経ってる、後五分で始まってしまう。ん?人?
 人影が数人明かりの点いていない教会の中に入っていった。誰だろう、暗くて解らない…。
「何故人が?」
『変わりました、井上です…浅倉さん?』
「え、あ…井上さん!見つけたんです、宮子ちゃんの居場所」
『本当ですか?何処なんです?』
「2度目の殺人が起きた池のある公園の西側にある、教会です。今数人の人が入って久野を見ました」
『確かにその教会はありますけど、今はもう使われていませんよ……そんな所に人がどうして?』
「たぶん、『誘拐犯』に呼ばれたのかもしれません…俺、中に入って様子を見てきます」
『あ、待って…そちらに『誘拐犯』だけではなく…『殺人犯』が居るとも限りません。ここは警察が来るまでその場で動かないでください』
「は…はい、解りました。なるべく早く来てくださいよ」
『解りました、それでは』
カチャ・プープー
 その場を動かないでくださいで、はい、わかりましたと素直に従う余裕なんて無い。後3分…その間に来るとも限らない。今は宮子ちゃんの命に関わるかもしれないから…俺は言ったんだ、彼女を守るって。
 俺は警察の到着を待たずに、教会の入り口へと駆けて行った。

 教会はもう使われていない…その言葉に妙な引っ掛かりを覚えたが、俺は教会の門を開けようとして、途中で止められた。
「誰だ?」
 がたいのいい俺より身長が何センチも高いスーツ姿の男が門の隙間から顔を覗かせた。亮二…やはり一人じゃなかったのか。
「ん?浅倉智也だな?君は特別ゲストだ、さあ…早く入って」
「あ…うわ!」
 俺はそのでかい男に腕を引かれて、教会の中に入れられた。
「……いって、何だよ」
「浅倉?お前も招待されたのか?」
 何だか、聞き覚えのある声に俺は顔を上げた。
「よ、お前みたいなお坊ちゃまも、こんな庶民のパーティーに呼ばれるなんて…意外だな」
 南川…俺のクラスメートだ、余り話した事は無いが何故こんな所に…
「南川、お前なんでこんな所に?」
「招待状が届いたんだよ、『真夏の三日月パーティー』ってお前も貰ってねぇ?」
「いや…俺は亮二に呼ばれて…」
「日向に?あいつもここに来てんのか?」
 どうやら主催が、亮二だって事がわかっていないらしい…よく見渡してみると、南川の他に俺の学校の生徒が何人も集まっている。
「男っ気が多くてむさくるしい場所に呼び出されて、料理も出さずにパーティーか…何だか来て損したぜ、なあみんな!」
「……」
 確かにここにいる全員が男で女気が全然ないし、パーティーなら普通は料理とか置いてあるだろう、こいつ等…全員顔見知りなのか?それに亮二のことも知ってて。
「それになんか、薄暗いし不気味だから帰ろうかな?」
 周りに立てられた何本かのろうそくが、より一層不気味さを倍増させている。
「ああ…そうした方がいいぞ」
 多分、ここは危険地帯になる可能性は高い、今のうちに出ておけばいいだろう。南川は溜息をついて、入り口に戻って行った。
 しばらくして、しぶしぶ顔で南川が俺の元に戻ってきた。
「どうした?」
「いやな、もう時間だから出れないってよ…」
「え?」
 携帯の時計を見る、7時1分をとっくに回っている…
「日向の奴も遅刻って、もう来てるじゃん」
「え!?」
 俺が前を見ると、目の前の祭壇に…タキシード姿をした亮二が立っている。何だ?何時も見ていた亮二と全く雰囲気が違う…背中からオーラみたいな不気味な気配が放出されてるのに気づいた。
「バリバリ正装してかっこつけやがって」
 亮二は手にマイクを持って、口に近づけて…手を振り紳士的にお辞儀をした。
「『真夏の三日月パーティー』へようこそおいでくださいました……」
「何だよあいつ、主催者かよって…浅倉?おい!?」
 俺は南川の声も聞かずに、亮二の所へと歩んだ。すぐに亮二は気づいたのか、はっと表情を明るくさせた。
「あ、浅倉君!やっぱり来てくれたんだね、良かった〜来てくれないかと思って焦ったよ」
「亮二、お前…本当に…」
 黒いタキシード姿の亮二がホラー映画とかで出てくるような、ドラキュラ伯爵とダブって見え、その笑みは何時もと違い悪意を放っている。
「君は特別ゲストだって言ったろ?」
「だったら、宮子ちゃんは何処だ……」
「焦らないでよ……パーティーは始まったばかりなんだから…」
 耳打ちされると、俺は黒装束を纏った不気味な連中に後ろ側に連れて行かれた。俺を祭壇の後ろに連れて行った二人の神官らしき二人は、亮二の前に一列に並んだ。そしてまた両側に二人ずつ合計六人の神官が亮二の前に並んだ…。
 全員、黒装束とフードを被って、顔が見えなく手にはろうそくが持たれていた。男達の登場で、場内ががやがやとしている。
「おい、どうしたんだ?日向」
「浅倉の奴連れて行かれたけど…」
「…しかし、不気味な奴等だな」
 この場に居た者達が騒ぎ出し、祭壇の上に腰をかけて座っていた亮二は再びマイクを取って…今まで見たことの無い、冷たい表情をして…
「静まれ…」
 低く、不気味なその声に騒いでいた奴等が凍りついたように静まり返った。夏なのに冷蔵庫に居るような寒気が背筋をゾグリと走る程…。
 静かになると亮二は、すたんと祭壇から降りて笑いながら…
「浅倉君も、そんなに宮子ちゃんに会いたかったら…会わせて上げるよ」
 楽しそうに笑いながら、神官達を左右に寄せて祭壇の目の前に置かれていた蝋燭の立てられて、花が散りばめられた箱のような物が置かれている。
「棺桶!?」
 亮二の前にあるのは確かに、死人を入れる棺桶だった。さっきまで、宮子ちゃんの事でいっぱいで気づかなかったが……あんな物を何故?
「まさか!?」
 亮二の指示で、神官がその棺桶の蓋を数人係で開けて、中から大切そうに…亮二が引っ張り出したのは…、ぐったりと眠りについてる宮子ちゃんだった。
「宮子ちゃん!!」
 宮子ちゃんを目の前にして俺は亮二に飛びかかろうとするが、数人の神官に阻まれ取り押さえられた。
「この、離せ!離せよ!」
二人係で俺は壁に押さえつけられ、ロープで縛られた。
「五月蝿いな、もう少しだから…待っててよ。さてさて、お姫様はそこで大人しくしててね…」
 棺桶に宮子ちゃんを戻すと、再び祭壇の前まで戻ってマイクを持って。
「さあ、『魔眼』で固まっちゃってる皆さんにお知らせです」
 魔眼?何の事だ?そう言えば、この場に居る全員がまるで金縛りにあってるように硬直している…。こんだけの事があるんだ、絶対騒がない方が可笑しい。
「僕、はれて結婚する事になりましたぁ〜今日はそのお祝いパーティーです。って自分でやっちゃってるけど…」
 さっきの冷たい殺気とは違い、玩具を見つけた子供のようにふざけた感じで…
「でも、今回の結婚式を見れるのは、浅倉君一人なんだよねぇ…え?じゃあ何の為に俺達を呼んだのかって顔だね〜。うーんそうだなぁ〜君達を呼んだのは…『メインディッシュの前の前菜』…かな?」
 さらりと冗談をもらしながら、全員の血を凍らすような台詞を亮二は吐いた。前菜にする…という事は、ここに俺のほかに呼んだ奴等は…!?
亮二はマイクを捨て、ゴトンと言う音と、キーンと言う耳障りな機械音が鳴り響き…硬直していた連中が動き出した。
「う、動ける!」
「どうなってたんだ?俺たち!?」
「もう呪縛も解かれたから、話の内容理解してるだろう?」
 ふざけた感じから途端に、180度変わり…彼らを睨みつける。その目が赤く光っている…まさか、亮二は…
「お、おい…なんかの冗談だろ?」
「前菜っておい、まさか!?」
 教会に居た奴等がいっせいに混乱し始める…亮二があれと関係しているとしたら…やばい、こっから速くこいつ等を逃がさないと!?
「早く逃げろ!殺されるぞ!」

 俺の叫びが届いたのか、はたまた、迫り来る絶対の死に…全員、顔面を蒼白になりながら教会の入り口の前に殺到した。亮二はそれを見て、ほくそ笑み…下を俯いて。
「無駄だよ……浅倉君…」
 亮二の両目の瞳が赤くギラリと輝き…周りに居た神官たちの両目も不気味に赤く光る。

「彼らは…ここに来た時から……」
 神官たちの黒装束とフードがざわめき始める。

「僕達の……『餌』となる…運命だったんだから…」
 神官たちが自分のフードを引き裂いて、そこから、巨大な狼の頭の化け物が現われた。


『ぐわぁ、餌だ…餌が居る!』
『がぁぁぁ!』
 飢えた6匹の狼の獣人と化した神官の一人の頭を亮二は優しく撫でて…
「そうだよ…あれは僕達の餌だ…」
 あの時俺を襲った、夢で何度も見たあの怪物が6匹も…教会の中で、餌となる数人の獲物を唾液を口から滴り落としながら睨みつけている。
「ば、化け物!?」
「ひぃぃ!!」
 獲物達が腹を空かせた怪物達を見て、恐怖の余り顔を引きつらせ亮二はその恐怖する奴等の顔を見て笑っている。
 く、狂っている…もうあの時の亮二じゃない。。
『うう、腹減ったぁ!』
『早く食いてぇ…良いだろぉ?!亮二ぃ!?』
 こいつ等、元々人だったのか?血肉を欲する、猛獣に過ぎないではないか…ここは、猛獣の檻の中…餌は決まっている。
「いいよ、お腹空いたよね……」
 まるで、ここに居る怪物達を亮二は支配してるかのように、怪物達を操っている。亮二の持ってる『魔眼』って奴か?…そして、亮二からその言葉を待っている怪物達…
 そう、…今の亮二は数匹の犬の鎖を持っている。奴等は飼い主の命令と言う、鎖の呪縛を待っている…言葉の後…鎖は解かれ、その凶牙に獲物は一瞬にして…
「食え…」
『うがぁぁぁぁーーー!!!』

 その言葉の後、呪縛を解かれた怪物達は一斉に雄たけびを上げ、獲物に向かって飛び掛った。俺の制止の言葉も奴等の咆哮と獲物達の悲痛な叫びによって掻き消えて…
「あ…ああ……うぐ…」
 6匹の飢えた化け物たちによって、獲物達は俺の目の前で血と肉の塊にされ…奴等に食い殺されていく。逃げ惑っても、すぐ捕まり…奴等の餌食となっていく…一人、また一人と…その牙と爪の餌食となって行く。数秒の出来事がなんとも気の遠くなるような時間に見えた。
 悲痛な叫び声と、骨や肉が裂ける音と教会の建物の壁を真っ赤にしていく血飛沫に俺は普通なら吐き気を齎すほど、直視できない光景だが…なぜか、瞬きもせずそれを見ていた。
 バリバリとゴリゴリと、餌食となった人間は骨を砕いて臓器や血肉もその胃袋に押し込んでいく。
「た、助けて!助けて!!」
 獲物の一人が怪物たちから逃れ、俺の元へと助けを求めに来た。その表情は、苦痛と恐怖にそまり蒼白と言うよりは、ほとんど青に近い顔色だった。
「助けて!たすけが…」
「………」
 俺に手を差し伸べた男の半身は、一瞬で刈り取られ…下半身は二匹の怪物に持って行かれ、差し伸べられた手は後から来た怪物に引き千切られ、更にもう一匹が上半身に群がって…まるでハイエナかハゲタカの如く群がって6匹で一人を食い荒らしてる。
 飛び散った鮮血が俺の頬にまで届いて…つーっと俺の頬から口の中に入っていく。
「はははは♪どう?浅倉君も楽しいでしょ?猛獣が獲物を狩る場面って…僕、よく動物番組見るんだよ〜、弱肉強食って好きなんだよねぇ〜弱いものが強い者に食い殺される…本当、酔いしれちゃうよ」
「……」
 俺は言葉にはなれないほどの、怒りが出ていた。血の味が俺にとって起爆装置みたいな物となった。体の中に炎のような物が蘇ったような気がした。
「知ってる?犬って、骨が好きだよね?でも犬って元々、狼を飼いならしただけで本心は肉食獣じゃん、だから本当はもっとお肉がついてた方が食べやすいし、生きてる獲物の方が彼らも喜ぶんだよ…」
「……」
 こいつは、人が食われるのを見て、楽しんでる。いや…人を自分の放った死徒達に食わせて楽しんでいる。猛獣の折の中に生きた獲物を放り込んで食わせるのを、道楽か娯楽と思ってるに違いない。
 こいつもそうだ、この飢えたやつら達のように獲物を狩る化け物だ!
ドクン・ドクン・ドクン・ドクン
 心臓の音が早くなっている…今、こいつに対する殺意が動き出して俺の心臓を突き破って体を出ようとしている。

『グゥゥ…』
 俺の前に食事を終えた一匹の化け物が近づいてくる…
「まだ食べたり無い?」
 亮二が呆れたように、笑いながらそいつに聞く。
『ああ…こいつ、食っていい?』
「駄目だよ、僕のメインディッシュなんだから。僕以外食べちゃ駄目」
ブチン
 俺は亮二のその台詞に自分を縛っていたロープを力任せに解き放った。
「……」
「あれ?怒った?…やっぱり僕が見たとおり、君も僕達と同じだぁ」
 やめろ…
 俺は飢えた奴の横を素通りして、宮子の眠る棺桶と…亮二を挟んだ位置で止まった。
「僕、あの夜見ちゃったんだ。僕の『死者』を殺した…君の姿を…」
「……」
 あの夜?何の事だ…覚えていないな…今は俺は…お前を殺す事しか頭に無い。
「やっぱり君も僕達と同じ、血に飢えた獣なのさ!」
「一緒にするな…下郎が……」
 俺は亮二をそう言い、睨み付け…仕込んでいた護身用の銃を取り出した。
「ぶん殴って許してやろうかと思ったが…」
 今俺にあるものは亮二に対する嫌悪と殺意しかない。体中の血がここに居る種がたまらなく憎い!
「その殺気、僕を殺したいと思ってるね……」
「ああ、ついでに…ここに居る化け物をぶっころす!」
「あれれ?ついに本性を現した?あははははは!!」
 亮二は再び高く笑い、前屈みになって俺を睨んでくる。全員で寄ってたかっても俺をやる気のようだ…面白い、とことん付き合ってやろうじゃないか。
「解ったよ、僕たちって分かり合える存在だと思ったのに……相性が悪かったようだね…」
 亮二の口に、鋭い獣の牙が生え…顔に虎のような文様が出てくる。
「本当に残念だよ!」
 亮二のタキシードがざわざわとざわめいて、赤い目が『変身』の前触れを告げていた。
 それに合わせ、他のも俺を獲物と判断付け…牙と爪を向けようとしていた。
「……かぁぁぁーー!!」
 ベコベコと、亮二がタキシードを引き裂いて獣の姿をさらけ出そうとしている。もう、誤っても許さないからな…

バン!
 俺の後ろで何かが壊れる音がして……中に何かが、化け物達がその方へと目をやった。
 赤い目…亮二より深い赤い光を持つ目…手にはあの棒が持たれている、それを見て俺は自分が何をしようとしていたのか解らなくなった。
「え…?俺は…何を…」
 亮二が化け物達を操って…教会に居た人間を全て食い殺して…それで俺は?いや、今はそんな事考えてる場合じゃない!
『がうぅ…邪魔が入ったか!?殺れ!奴を食い殺せ!!』
 獣へと変身しようとして途中で邪魔されたのか、人間と獣の部分が半々の状態で苦しそうに体を抱え、獲物をその突然入ってきた侵入者へと向けた。
 命令が下った化け物たちは、獲物を俺からその侵入者へと代え、向かって行った。よし、今がチャンスだ!
「いまだ!」
 俺は獣化も半端な状態で、苦しんでる亮二の頬を思いっきり殴った。
バキィ!!
『ぐわ!浅倉君…!?』
 亮二は思っても居なかった攻撃にバランスを崩して倒れこんだ。今のうちに宮子ちゃんを…!
「宮子ちゃん!」
 さっきの連中と一緒に食われてなけりゃいいんだけど……棺桶の中を見ると宮子ちゃんが腕を胸の上で握ったまま眠っていた。首元に手をやって、脈を確認する…良かった脈はまだある。
 俺は宮子ちゃんを抱きかかえると、棺桶の下の違和感に気づいた。
「これは!?」


第六話……『死者』つづく。

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル