ガタンゴトン…
 新幹線が走り、段々懐かしい風景が俺の目に入ってくる。前の座席にトランプで疲れた勝人がぐーすかと寝ている。まったく、昨日まで薬無しじゃ自分の獣に支配されそうになったのに今はそんな事嘘のように勝人はのん気に眠っている。
 嘘のよう……か、今の俺も、こっから飛び出して落ちて他の新幹線に引かれようが関係なく生きてるからな。何もなきゃ俺の不死身の体も嘘みたいだ…
「ぐかー」
「………く」
 人がシビアになってるのにこいつは…


超人伝説活劇
スーパーヒーロー IN THE アース
第四話『絶氷の超獣大帝』


 そろそろ、俺達が昔住んでいた三重県が近づいてきた。俺達が…華音市に来る前は、中学生まで孤児院から中学に通って、それから上京する形で華音市に来たんだよな。
「勝人、ついたぜ。起きろよ」
「んあ?もう孤児院か?」
「馬鹿…違うわ!」
 新幹線が某駅で止まり、いつも通りぎゃーぎゃー騒ぎながら新幹線を降りて、後はバスを使い…何度も乗り継いで、目的の孤児院まで行くのだ。
 一番近いバス停に下りたら後は歩きで50分も歩く…もうそこは、三重の町並みから外れ、田んぼなどがある片田舎となっていた。さっきのバスも1日に何本か数える程しかないバスに違いない。
「ふー、この空気なっつかしーなー」
 勝人が山の綺麗な空気を吸って伸びをする。
 この風景は今でも思い出す、1度目は子供の頃……何となく歩いていた時…二度目は、華音市に行く為にこうして勝人と歩いていた時だ。
 孤児院は俺のような身寄りの無い子供を引き取って育ててくれた、いわば揺り篭みたいな物だった、不死身の体の事で…母親にこの孤児院に引き渡された後…俺は、物心ついて何となくだが孤児院から出て行った時があった。別にそこの生活が嫌だとか、不死身の体という事がばれて化け物と呼ばれいじめられていたわけでもない。むしろ不死身の体なんてみんなに言った覚えも無い。ただ…何となくだ…
 歩いても…歩いても…続く同じ風景…
 その時は、長い道のりとか何とか…前々解らなかった…ただ、母親に捨てられた『虚無感』が、母親に会いたい…という子供ながらの願望だった。
「思い出すな、一成…お前一度孤児院出て行った時あったろ?」
「そんな事思い出すなよ、今思うと後悔してるんだよ」
「そうだよな〜、こんな遠くまでガキの足で歩いてきたんだもんな〜」
 勝人がそう言って茶化す。そう、あの事は今になっても思い出せる…考えてみりゃ子供の足でここまで歩いてきたのは、今の俺達の体力から考えてかなりしんどい道のりだっただろうに…
 その時は、別にそんな事どうでもいいように俺は何となく歩いていたんだ。

 そして……
「さっき、バスがでっかい橋通っただろ?お前が見つかったのってその下の川だったな?」
「う…」
 そう言えば俺は、あの場所まで歩いてさっきバスで通った橋の所で、身を乗り出して柵の上を…そこに張っていたつり橋のロープを伝いながら歩いていたら…足が滑って、川に落ちた。
 普通だったら落ちたら子供だったら死ぬ距離…を俺は生きていた。母親に会いたくて俺は、孤児院を出た…出たのに、また拒まれた…
 落ちても、刺しても、何をしても死なないこの体が、俺を母親からまた突き放した…俺はその時流れる川の水にうたれながら始めて泣いた。
 声がかれるまで…

「やめよう、その話は…」
「…すまねぇ」
 今思い出してもなんだか嫌気が差してくる…


「おっと、着いたぜ」
 気がついたら、懐かしい場所と匂いに包まれた場所に辿り付いていた。孤児院『獣子忍者館』…
 ……そう言えば
「今、思えば、孤児院の名前で気付いておけば良かったな」
「まぁ、いだろ?」
 ここまで解りやすい名前だったのに、中学終わりまで住んでいて前々気付かない俺も俺だな…と呆れかえってしまう。
「そいやさ、勝人…先生には連絡取ったのか?」
「いんや、一成がやったとかと思っていたぜ……あれ?まさか」
「………まさとぉぉーーーー!!」
 ォォォーーーンと、やまびこが俺の声を、何度も何度も繰り返して鳴り響いた。
「でっかい声だすなよ…耳に響く」
「いきなり来たらびっくりするだろうが…このアーパー君!」
 ぎゅむーっと、勝人の両頬を掴んで伸ばす…伸びる、伸びるなこの頬肉は…
「いでででで、引っ張るな!」
「自業自得だこのやろう、こうなったら携帯が圏外だから…そこら辺の公衆電話探して、そっから連絡して!」
「んなのこのド田舎の何処さがしゃいいんだよ!」
「ド田舎とは失礼ね…」
「知るか!お前が一人で行け、多分あのバス停からずっと行った先にあるだろうよ!」
「そこまで遠くないわよ…」
「無茶言うんじゃねぇよ、おりゃまたあの長い道のりをたかが公衆電話を探す為に戻るのか!?」
「さっきから、あんた失礼ね…」
「自業自得だ!大体誰の為につきあってんと思ってんだ!」
「そーよそーよ、責任取りなさい」
「責任取れって、お前よぉ…そう言われたら」
「泣き言言ってんじゃ無いわよ、情けないわよ」
「……」
「ん?どうしたのよ…もうお終い?」
「……」
「……」
 何時のまにやら俺の後ろに、少し若めの女性が立っていた。勝人もようやく気付いたようで二人して固まる。
「何よ、二人して…」
 女性はそう言って俺の後ろから、俺達の横に来る…。
「先生…何時からそこに…」
「さっきからよ、えっと勝人が「ふー、この空気なっつかしーなー」って言った時くらいかな?」
 顎に指を当ててその女性…そう俺達の先生はそう言った。
「って、オレ達がバスを下りてからか!?その間ずっとオレ等の後ろ着いて来たのかよ」
「前々気付かなかったぞ…しかも、全く気配も感じなかったし」
 そこら辺はさすがは忍者だってことが納得行く…ずーっと俺達がここまでの道のり歩いていた時には既に後ろにいたんだ。
「ちと待て、確かオレ等写真取ったよな一成…」
「ああ、懐かしいからって山ん所でインスタントカメラ使って…俺が勝人とったよな、そして…俺を勝人が…」
「な、何よ…」
 出きるまで自分等で持ってようって、俺ら互いに交換して以来まだ見ていない。…もう写真は既に出来たと思うし…
 互いに出来ただろう写真をみせっこしようと俺はポケットに仕舞った写真に手を添えた。
「せーの」
ば!
 勝人の掛け声で俺は俺が写ってる写真を、勝人が自分が写ってるのを差し出した。
「「……(汗)」」
「うわ、怖いわね〜連続心霊写真」
 そこには見事俺の肩ん所に、ピースサインをする妙な手が…
 勝人も同様に、ピースサインをしてる手が写っている…二人は、一度息を呑んではぁって溜息をついた。
「怖くしたのはどいつじゃ!」
「あれ?これあたし!?」
 一番最初に勝人が写真を着きつけて先生につっかかる。
「あんたじゃなくて何だよ、この指輪あんたんだろ!?」
「あ、バレタ…」
「このオバハン…」
ボク!
「ヘブシ!」
 オバハンと言った勝人は先生の強烈な拳骨によって地面にめり込んだ。…触らぬ神に祟り無しだ…今は何も文句言わないほうがいいだろう。
 やっぱ、今思えばこの二人が親戚同士だってわかる…
「久しぶりね、一成…こいつも、何時かはここに来るんじゃないかって待っていたのよ」
「はい、先生も変わってなくて…嬉しいです」
 先生はまるで俺らが何時かここに来るって事知ってたみたいだな…にしても、若い…華音市に行く時、いや俺が最初に先生と会った時の若さが今も続いてるみたいだ。
「あら、やっぱりこの馬鹿とは違って一成にはわかるのね〜」
「どーせ歳食うに会わせて、化粧濃くしてんだろ…ひでぶ!」
 置きあがろうとして、文句を言う勝人の頭を先生のヒールが踏み付ける…これじゃ親戚と言うより…まるで、女王様に飼いならされた犬みたいだな、勝人。
「高校は楽しい?友達できた?」
「あ、ああ…ぼちぼちですよ…」
 華音市に行って3年…色々なことがあったけど、俺と勝人が体感した事で一番印象に残ってるのは…やっぱり、自分達が戦わなきゃならない運命を背負っちまった時だな…
「そう、やっぱりね…何時かは一成がこの馬鹿連れて来るのは、解ってたからね…」
「……」
 俺の腕のブレスを見て、先生はそう言うと勝人を地面から引きぬいて無言のまま俺に引き渡した。
「来るべき時が来たって事ね」
「…先生」
 今までおふざけモードだった勝人も、先生を睨み付けてバックから、あの薬を出した。
「そうね…その薬も…もう効力を失いかけるほど、あなたの中の『獣神大帝』は目覚めかけてるのね」
「今までは満月の時だけこいつで押さえていたけど、今じゃ普通の日でも夜でもないのにオレの体が段々獣になって行きやがる、なあ先生…オレは何で、こんな体になっちまったんだ!?」
 そう言うと俺達に背を向けて先生は孤児院のほうに向かって行った。
「着いてきなさい」
「…く」
 勝人が唇をかみ締めている…やっぱり、自分が何故こんな体になったのか疑問があるんだよな…俺も、この不死身の体にしてくれと頼んだ覚えが無いのになってしまった。勝人の疑問も最もだ。
「勝人、兎に角行こうぜ」
「ああ…」
 そう勝人は小さく頷くと俺の前に出て先に先生に着いてきながら、孤児院の中に入っていった。

 孤児院は、俺らがいた中学の終わりまで子供で賑やかだったけど、今はそれが嘘のように静まり返って、建物の中には職員さえいない。
「7泊8日の、世界一周旅行ツアーに行かせたのよ、まったくあんた達が来なかったらあたしも行ってたのに」
 なる…道理で最近書いた子供のポスターには、飛行機ばっか書いてあるわけか…
「まあ、こんな時で無いと…あんた達に話せないこともあるしね」
 そう寂しげに先生は呟いたのを俺は聞き逃さなかった。

 ここは道場。良くここで、子供に剣術の稽古や柔道の稽古…空手などをさせている。教えるのは、当然この腕っ節の立つ先生だ…
 そこまで来ると先生は正座で座って俺達もその前に座る。
「さて…勝人、一成…あんた達がここに戻って来たって事は、やっぱり来るべき時が来たって事だって事は、理解してるはずよ」
「納得いかねぇよ、第一なんでオレなんだ…!?」
 いや、来るべき時…それはフレイムがゾーンが俺に残した言葉を思いだし理解した。フレイムがゾーンは、華音市に再び襲い来る脅威…魔界のルシファーや…俺が選ばれた事などを伝えて、燃え尽きた…
 俺にクロスブレスを与えたのも、不死身の体を持つ俺だからこそできるんだ。現にルシファーの為に何人も死んだ…
「獣神忍者…その頭首となる者、この世に災いが起きん時……天より授かりし光の腕輪を手にして…災いを振り払わん。これが、私達青葉家の頭首家系にあった、あなたの家に代々伝わる、碑文よ」
 災い…光の腕輪…俺は一瞬自分の手にあるブレスを見た…もしかして。
「災い…それって、ルシファーって化け物の事か!?」
「それが何かは解らないけど、多分そうよ。これまであなたの家系で、獣に覚醒した者はいない…その血が目覚めて、貴方に『変身衝動』が起きたのが何よりの証拠。貴方は選ばれたのよ…勝人」
「…わかんねぇよ、全然…」
 選ばれた…フレイムがゾーンから俺はブレスに灼熱特捜ファルコレッダーに選ばれた者って言われた。もしかしたら…勝人の先祖は…
「理解できないのなら、貴方はそのまま獣となって人類の災いとなり…一成のような選ばれた者に殺される運命」
「先生、俺が選ばれた者だって…」
 先生…もしかして俺が不死身だって事も、フレイムがゾーンからブレスを受けて変身できる事も知ってるのか!?
「一成、少し黙ってて…今は勝人と話しをしてるから…どちらにせよ、勝人貴方が辿る道は茨の道よ…」
「……何故オレが…」
「納得できないのは解る。でもね…誰にも変えられないのよ、この運命は…」
 …ああ、俺だって勝人の気持ちは痛いほどよく解る、俺がファルコレッダーになったのも、何故だとしか言いようが無い。
 不死身の体を持ったときと同じだった運命の神を呪った…
 勝人も同じように悩んでるんだ…でも俺には勝人をどう慰めようかわからない。
「ああ、納得いかねぇよ!わかんねぇよ!オレは!……く!」
 そう言って立ちあがって、勝人は立ち上がって…道場から逃げるように出て行った。
「勝人!」
「駄目、一成…追っちゃ駄目……」
「だけど、あいつ…」
 そう言うと先生が悲しそうに俯いてる…こんな先生始めて見た、俺を引きとって、勝人と一緒におちゃらけてる先生のイメージから想像が出来ないくらい。
「先生…」
「あの子の気持ちが一成にも解るのは…十分理解できるわ…でも今あの子に貴方が言っても、何もならない」
「……」
 だけど、これじゃあ…勝人が…
「それより、一成だけでも良いわ着いてきて…」
「う、はい…」
 俺はやりきれない思いを残して、立ち上がった先生の後ろを着いて行った。

 道場の掛け軸を押すと、隠し扉になっていて…ここが本当に忍者屋敷だって事が容易に納得が出来た。
「こんな所に、隠し扉」
「普段は使わないけどね…来て」
 先生は懐中電灯を手にして、階段の奥に降りて行った。俺はもし勝人が戻ってきてこれに気付いて入って来れるように隠し扉を半開きにして先生の後を追った。

「…先生、ここは?」
 先生が止まると、そこはだだっ広いくらい場所だった。土の匂いがする事からここが結構地下にあるって事が解った。
「青葉家ご先祖様のお墓よ、本当はよそ者には見せられないけど一成は特別」
「それって、これの事ですか?」
 俺はそう言って先生に、ブレスを見せる…
「それとも…」
 俺の不死身の体の事?
「両方よ、貴方が不死の体を持ってることは…あの時、貴方が孤児院を出てった時に解ってた。でも、解らないのが…貴方がどういう形でそれを手にしたのかよ…」
「………」
 やっぱり、あの時川に落ちて、警察に助けられた時先生にはばれてたんだ…んじゃあ話さなくちゃな。
 俺は、先生にフレイムガゾーンに会ってから今までに至る経緯を先生に話した。
「ルシファー…魔界の使者。フレイムガゾーン…魔界を守りし炎の戦士…そして、灼熱特捜ファルコレッダーね」
「俺は先生が、勝人に言ったように…選ばれた奴ってのでしょうね」
「でしょうねって、それ以外の何なの?そのブレスを見て多分って思っていたけど、成る程ね、選ばれた者はあの子以外にもいるって事ね、そして人類に振りかかる災いそれこそが、人を襲う魔物…ルシファーって奴でしょ?碑文の意味が段々理解できたわ…見てちょうだいあれを…」
 先生はそう言って懐中電灯のライトの光を暗闇に持って行く…光が何かに当たってソレを映し出した。岩…巨大な岩が俺の目の前にあるのが解った。
「あった…あれを見て」
「…あ!」
 岩の登頂部に…何かがある、それは俺が着けてるファルコレッダーに変身する為の、子のブレスに似ていた。岩と同化して茶褐色になってるけど、形は間違い無くそれだった。
「似てるでしょ?貴方のしてる、そのブレスと…これで納得できたわ、あれは私達の先祖が、これから振りかかる災いのために選ばれた者に受け継がせるためにここに封印したって言う、光の腕輪よ…これではっきりしたわね、貴方が言った『炎の鳥人』と同じように私達の先祖も同じような戦士だった…そのブレスをして変身するね」
「……」
 多分と思っていたが、本当だと思うと…ふうっと力が抜けてしまった。やっぱ、俺は選ばれた存在なのかって、ふぅっと溜息をついた。
「選ばれた…人間か……」
 やはり実感が沸かない…それに今度は俺のほかに勝人が、選ばれた者。このブレスに選ばれた…偶然でもなんか出来すぎてるみたいな感じだ。
「…正直、今も俺は…勝人と同じ気持ちです。何で俺なんだ…俺が、世に言うスーパーヒーローって奴なのかってね…」
 正直な本音だった…それは随分前から、不死身の体となった時から…俺はそう思っていたんだ。
「……そうね、簡単には理解できない納得のいかないことだもの、貴方達も年頃だから…そう思うのも、当たり前ね…私だったら嫌で投げ出したいもの…ましては、獣の力や不死身の体なんて…あ、ごめん」
「いいんです、獣の力それに不死身の体、普通の人から見れば常人を超えた超人ですよ。俺もこの体の事を嫌っていましたし……」
 孤児院を出て行った時のことを俺は思い出した、先生も俺が不死身のからだの事を知ったのも多分この事が原因で…
 不死身の体が、フレイムガゾーンを呼んだような気もするし…俺がファルコレッダーに選ばれたのも、やっぱりこの不死身の体があったからだと思う。勝人も同じだ、先祖から続いて、誰も覚醒しなかった獣の力が覚醒した勝人だからあのブレスに選ばれたんだろう。
 やはり…運命なんだろうな…俺や勝人が戦わなきゃならないのは…
 やっぱり、こんな運命は納得は行かない……俺も勝人と同意見だ。こんな事、納得が行かない、何故俺が…選ばれなきゃならないと俺は自分の運命の神を呪った。だけど…
「だけど、俺…思ったんですよ先生。これに変身して、敵と戦った時から…。もし俺が戦ってなかったら、多分街の人は…関係の無い人の命が奪われちまう。俺は死ねないから、多分…この世界に人類がいなくなっても俺は生きてる。俺以外の人は、死んだら生き返らないんですよ…だから、俺は他の人の命を守りたい、取られて取り返せない命なら…取られない方が良いと…そう思うんですよ」
 本音じゃ運命の神を呪っている、だったらその運命に真っ向からぶつかって行けば必ず、この運命を乗りきり、不死身の体の秘密に辿り付く…そう思いたい。
 信じたいんだ……俺は…自分の力も…
「そう…変わったね一成。貴方がここに着た時は本当子供とは思えないくらい、沈んだ顔だったのに……誰がそこまで貴方を変えたの?」
「勝人ですよ、あいつの馬鹿に付き合ってると、自分の体の事を忘れるくらいになるんですよ…」
「……あの子がね」
 そう言えば、俺がフレイムガゾーンと戦おうと決意したのも勝人がいてくれたから、あいつがいなかったら俺は戦わなくて街の人を犠牲にして自分だけ生き残っていたのかもしれない。
「勝人はこれにどう言うか解らないけど……俺は戦いますよ。自分の運命に…」
「そうね、あーあ…あの馬鹿も少しは一成を見習って少しは誠実になりゃいいのに」
 先生は、そう言って笑い合った所を、階段の方から誰かが下りてくるが解ってきた。


孤児院の一室。
 ここは良くオレと一成がガキん時によく遊んだ部屋。周りの壁には、ここに住んでるガキが書いたと思うクレヨンで書いた絵がたくさんある。
 何だか懐かしい…
「……」
 獣の兆候は、この前一成が炎で押さえてくれて、それが持続している。一成のお陰でオレは今のままでいられるんだ、そうだ…オレが獣になろうとしても、一成がいる。一成が居てくれれば、オレは獣になら無くても良いんだ…
「ん?」
 ある物がオレの目に入る。近づいてじっと見てみると、やっぱりガキが書いたような絵。へたっぴだなって少し笑っちまったが、下に書かれた名前を見てオレは思い出した。
 これ…オレが書いた物だ…ひらがなで『あおばまさと』って書いてある。タイトルは『いっせーとおれ』…そこにはオレと思われる奴と一成と思う奴がそこにいた。
 笑ってるオレと、無表情の一成…
「……」
 ガキの頃の事を思い出した。始めて一成に会ったのが、おばさんから紹介してもらった、大体小学生の頃、その時一成全然笑わなかったな…しかも全然無口で他の奴等とは遊ばないし話そうともしなかった。
 他の奴等と違って、オレは面白くねぇから…一成をどうしても笑わせようとして努力したっけ。毎日夕方まであいつに付き合って、色々な事して遊んで一成を笑わせようとしたよな。
 そん時書いた絵がこれか…
 あ、そうか…一成の奴…自分が不死身の体持ってたって知ってたんだよな、だから自分からみんなを避けるような事をやってたんだな。
 不死身の体…か…

……
………
「オレ、すっげー馬鹿でやんの…」
 一成の気持ち、解ってると思って…全然考えてなかったんだなオレ…すっげー馬鹿だ。
 考えてる時間はねぇ、一成にあやまんなきゃな。


『…しぇぇ〜〜同朋の仇…』


地下室
「ん…」
 俺と先生と話し込んでいると、後ろの階段から誰かが下りてくるような足音が聞こえた。
「…勝人」
 後ろを振り向くと、階段から勝人がゆっくりと、歩いて来るのが解った。
「道場に二人とも居なくて、それで、掛け軸が少し開いてたからもしやって思ってな」
「一成、開けて来たのね」
「たぶん、勝人はここに来ると思いましたからね。開けといて正解だった」
 そう言うと、俺は勝人と入れ替わりにここから立ち去ろうと思った。俺が話す事は無い…説得する必要は無いって解ってる、だって勝人だからな…俺をここまで変えた勝人だ、きっと自分の運命の事で逃げないと言う事を信じてるから。
「一成…すまねぇ、オレ…」
「何で謝る必要があるんだよ。こっちは、お前に礼さえ言いたいんだぜ…俺は全然気にしてないからな、じゃな」
 俺は手を振って勝人の横を通りすぎて、階段を上って行こうとした。その腕を誰かが掴んで止める。振り向くとそれは少し悲しい顔をした先生だった。
「待って一成。ごめんなさい…あの時、わたしは貴方の体の事を知ってて……助ける事も出来なかった。私からも謝るわ」
 やっぱり、あの時知ってたんだ…でも、今はそんな事俺にはずいぶん前のように思える。
「……いいですよ、過ぎた事ですし」
「一成…」
 にこりと笑いかけて、俺は先生と勝人の居る地下室の階段を上って行った。

「勝人の奴…上手くやれば良いけど」
 地下室の扉を開けて俺は道場の勝人を心配しつつも外に出る。
「…!?」
 いや、俺が戻ってきてみて正解だったようだな……
『シャァァ〜〜…』
『キリキリキリ……』
 忘れもしない、この感覚…あいつ等確か倒したはずなのに…同類が居たなんて、思っても居なかった。
 孤児院の外に、昨日倒したはずのハブとマムシの同類…片方はコブラのようなでかい頭を持った奴と、もう片方はガラガラヘビみたいに鞭を振るわせて、不気味な音を鳴らしている奴。
「こいつ等…昨日の奴等を倒した事で怒ってやがる…」
 と言う事は始めから俺と勝人を追ってここまで来たって事か!?
 どうする、勝人を呼ぶか!?俺と、獣化した勝人なら何とかこの場を切り抜けるかもしれない、いや駄目だ…今勝人が獣化したら、二度と勝人は人の戻れないかもしれない。
『キシェェェ!』
 そう思ってる隙に式杖を持って奴等は2体同時に俺に攻撃を仕掛けて来る。俺は襲ってきたコブラをキックで何とかいなして、そしてよろけたコブラを押してガラガラヘビの方に突き飛ばす。体制が乱れ二匹同時に倒れ込む。
 今だ、俺はブレスを天に掲げて…叫ぶ。
「炎装!」
 灼熱の炎がブレスから出て、俺の体を包み込む。全身に炎が行き渡り俺に赤い灼熱に燃えるスーツを装着させた。
「赤く燃える不死鳥の炎を見ろ!灼熱特捜!ファルコレッダーッ!参上!」

“灼熱特捜ファルコレッダーが変身に要する時間はわずか50/1秒である。ではそのプロセスを説明しよう。
 一成が「炎装」コードの発信と共に、腕のクロスブレスが発動して灼熱の炎の闘気が全身に行き渡り、魔界の物質オリハルコンを生成する。生成されたオリハルコンは一成の全身に灼熱の炎と共に纏いながら、わずか50/1秒でファルコレッダーに炎装されるのだ。”

「勝人は今、大事な物を受け継いでる時なんだ、邪魔立てはさせない!」
 そう言い放ち、2体のヘビ型ルシファーに対して、イフリートグラブを装着して立ち向かって行った。

ドォォーーーン
 地下室が強い衝撃に襲われ同時にオレの頭に電撃が走ったように何かが頭に入ってきた。
 それは映像、二匹のヘビの怪物…あれは昨日オレと一成が倒した奴…ちょっと違うけど、確かにそうだった。それに立った一人で立ち向かう赤い戦士…
 あれは一成!?
『ぐあぁぁ!』
 ヘビの怪物の鞭や式杖のニ体が放つコンビネーション攻撃に、一成が押されて行く。
「さっきの揺れは…まさか上で何かあった…」
「一成の奴…まさか!?一人で…戦って」
「勝人、わかるの?一成が戦ってるって?」
「ああ…あの馬鹿野郎、一人じゃ無茶がありすぎるぞ!」
 オレが獣の姿…『豹』に変身すれば、一成を助けられる。
「勝人!まさか、獣の姿に変身しようなんて考えてないでしょうね!?」
 先生が行こうとしたオレの手を掴んで放さない。
「ああ、あいつが一人で戦ってる時にオレが何もしなくちゃ、あいつに申し分けたたねぇ!」
「勝人、あんた…」
「オレはあいつ…一成に実は頼りすぎてたんだ、助けていたようで実は一番助けられてたのはオレだった、情けねぇだろ、そんなの!?」
 叫んでる内にオレの中の獣の血が段々オレを『豹』に変えて行くのが解った。早く助けに行かなきゃ。でないと、ぜってぇ後悔することになる!
「逃げても逃げても、逃げ切れねぇ運命なら、受け入れるよ!運命だってなんだって全部受け入れてやる!全部!!」
 オレはそう叫ぶと先生の制止を振りほどき、一成が戦ってる階段の上へと掛け上がっていった。
「一成、待ってろ!」


どさ!
「うぐ!」
 ヘビ型ルシファー2体が繰り出すコンビネーション多重攻撃に、俺は段々押され気味になっていっている。やっぱ多勢に無勢…一人じゃ正直きつい。
 エナジーシューターの弾丸も段々尽きてきた。
『くぅぅ…きしゃぁぁ!!』
「く、火玉!炸裂炎!」
 襲いかかって来たガラガラヘビに対して、エナジーシューターから出た無数の火の弾丸を放ったが、距離が遠く式杖を回転させて、鞭を使ったりして放たれた火の玉をはじき返す。
『ぎゃう…』
バシ!バシ!バシ!
「3発当たっただけか…」
 でも、3発だと決定打にはなってない…すぐに、立ち上がろうとする。ち、もうエナジーシューターのエネルギーも使い果たした、残るは必殺技1回だけ使えるくらいか…こいつ等二体を倒すだけのエネルギーは…
「フレイムがゾーンを倒した時のあの技を…!!」
「一成!」
 俺が必殺技の体制に入ろうとした所に後ろから聞きなれた声が聞こえた。振りかえると、勝人が孤児院の中から出てきていた。
 あいつ、あの岩に封印されていたブレスを持っていない……
「勝人!お前…」
「ばっきゃろぉ!何でも一人で抱えようとすんなって、いつも言ってんだろうが!オレ等だちだろう!?」
ヴゥン!
 勝人の皮膚の色が青い豹の斑点が現れてきている…あいつ、やっぱり変身して!?
「どっちが馬鹿だ、止めろ!変身するな!!」
「とめんな!!」
 俺が止めようと声を掛けたが、勝人はそれでも変身しようと体を身構えてる。その俺の目線が勝人の方に行った隙を突いて、俺の横をガラガラヘビが通りすぎる。
「ヤバイ!?勝人!!」
「え…く!?」
『キシャァァーーー!!』
 勝人の体にガラガラヘビがその牙を突き立てて、その毒牙を勝人に向けて突き立てた。
ガブゥゥーー!
「くああ!」
「!?いっ…せい…」
 俺は勝人とガラガラヘビの間に割り込んで、勝人に噛み付こうとしていた毒牙をその身で受けとめた。
「く…ぐあ…」
 牙から体にガラガラヘビの毒が回って来る……く…苦しい…体中が熱い…内蔵が燃えるように熱い…
「ぐぅ!どけ!」
バシ!
 俺は毒を注入しつづけるガラガラヘビの顎にアッパーを食らわせて、奴を俺達から突き放す。後ろのコブラがそれを見て、こっちに向かってくる。ガラガラが立ち上がったらまた、2体のコンビネーションで来る…そうすれば、後ろの勝人も、先生も…!?
「一成…お前…」
「く、うおぉぉぉーーーーー!!」
 俺は勝人を後ろに押して、立ち上がろうとするガラガラヘビを睨み付ける。毒が体を回って、声に鳴らないくらい苦しい…死にそうなくらいで、意識が飛びそうだ……
 だけど、俺にとってそれだけだ…毒が回ったって、苦しいだけで…死ぬ事は決してない。


 一成がオレの変わりにあのヘビに噛まれちまった、オレに変身させない為に…お前、本当マジ馬鹿野郎。
 毒受けて、苦しそうなのに…それでも立ち上がる……オレは、自分がこんなに無力と思った事は無い、変身したら一成を助けられるのに一成がそれをさせない…
「一成…オレはどうしたらお前を助けられんだ!?」
「一成を助ける力が欲しい?」
「……先生?」
 先生が孤児院の中から、出て来てオレの横にたって、毒を食らっても戦おうと向かって行った一成の方を見る。
「彼、毒を受けても死なない……でも痛み、苦しみはある…それは人と変わらない分一成は常人以上の苦痛を味わう…」
「そうさ、あいつは毒で苦しんでる、痛んでんだ……だからオレは一成を助ける。あいつとオレはコンビだからな……相方のピンチにオレが出なくて誰が出るよ!先生、力をくれ、あいつ等を蹴散らす程の力を!!」
「ええ……私は貴方のその言葉を信じていたわ。さあ、受けとって、獣神忍者のお頭!いざ、超獣大帝の姿に」
 オレは先生の手から、それ…石で出来た腕輪みたいな物を渡された。形が一成のシテ居る奴と似ている。これは…やっぱオレが『真の変身』をするのに必要なあいてむだったんだな。


「だぁぁぁーーー!」
 毒で飛びそうな意識を集中して、俺はイフリートグラブから炎を発してそれを、足に集中させ、踵に集中して鋭い炎の刃を作り出した。
ジャキィン!
 立ち上がって鞭を構えようとしてる、ガラガラヘビに突進する。体制を立て直す一瞬の隙…そこを切り裂く。
 俺は奴の間合いに踏み込んで、足を振り上げて踵に出来た炎の刃を展開させて、踵落しの要領で一気に体重を掛けて斬り付けた。
「フレイムヒールカッター!!」
ザシャァァァーーーーー!!!
 踵に出来た炎の刃が死神の鎌のように奴の肩から、わき腹に掛けて一刀両断に溶断した。
『ギシャァァァーーーーー!』
 苦痛の叫び声をあげながら、ガラガラヘビの体はずるりとわき腹から上が落ちて、炎となって消滅した。
「…く、は…うう…」
 だめだ、エネルギーも使い果たして…体も、毒が回って意識が、もう…
ブゥン
「う…」
 変身が解けて、俺はその場に倒れ込んでしまった。足が毒の作用で全然動かない…く、目も霞んで来ていやがる。死なない体は持っていようと、外傷は同じ…毒の作用も同じって事か…
『しゃぁぁぁーーー!!』
「!?」
 遠くからコブラの怒ったような声が聞こえてくる、やばいこのままだと…あ、もう意識が遠くなっている……
「待たせたな、一成!お疲れさん…」
「…ま…さと……」
 瞼が落ちる寸前俺の前に立ちはだかる、勝人の姿が写ったような気がした……腕には青い石のはめられた、俺のと同じ形のブレス…
 そうか…力を受け取ったんだな、勝人…んじゃあ、安心か。それじゃあ俺は少し寝て回復しないと完全に毒は消えないからな。


「一成!?はぁ、オレ様の勇姿を見る前におねんねか?まいっか…それよか……」
 安心したように、一成は眠りについていた。オレはそれを見届けると、目の前に迫ってくる蛇に向かって…
「よぉ、ヘビさん、さっきは随分と相方をいたぶってくれたな。仮は万倍にしてやるぜぇ!」
 一成がやったように、オレはブレスをヘビに突きつけて…天に上げる。
「えっと、変身の掛け声って…」
 やっぱ、ヒーロー足る物形からって言うしな…何か、掛け声は…
「凍れる満月の力…全ての鳥獣の力を呼び覚まし、青く輝く月の元…腕輪に選ばれし者を絶氷の『超獣大帝』へと氷転する」
 後ろから先生の声が聞こえる、なんだ…簡単じゃねぇか。
「サンキュー叔母さん!行くぜ!ヘビ野郎!」
 オレは仕切りなおして、腕のブレスを天高く掲げて…変身コードを叫んだ。

「氷転!」

カチン!
 青い宝石が入ったブレスから水分が一瞬で凍り、その氷の塊がオレの目の前に下りてくる。オレはその氷の塊を右手で掴み取り、掴んだ氷の塊は木っ端微塵に砕ける。
「ぐぅぅ!」
 氷の塊を砕いた瞬間、オレの体は一瞬で今までに変身とは別の姿に変身していた。例えて言うなら、忍者服のような装甲服を来て、獣の顔のようなマスクを被った姿。スーツの方は皮膚事態が変わったようで…自分で叩いてみても強固に出来ているが、青い豹の文様は、変わっていない。
 そう、いままでの『豹』のような変身じゃなく、これが本当の…オレの変身!
「うがぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!」
 オレは意味も無く天高く咆えた。空気が共振し、山の鳥達が一斉に飛び立つ音が聞こえた。その咆哮に向かってきたヘビが後退してたじろいだ。お…頭にイメージが浮かんでくる。ロウガンブルース…そう、オレはロウガンブルース!!
 一成も同じように最初戦った時はイメージによる戦術が浮かんできたと言ってた。オレも今の通りにやれば、こんなヘビ野郎を蹴散らす事が出きる。
「怒れる猛獣の凍れる雄たけびを聞け!超獣大帝!ロウガンブルース!ただいま見参!」

“超獣大帝ロウガンブルースが変身に要する時間はわずか50/1秒である。ではそのプロセスを説明しよう。
 勝人が「氷転」と叫ぶと、腕のクロスブレスが発動して満月の力により勝人の体内で『豹』の血が活性化し、体内を駆け巡り、皮膚組織、筋肉組織…骨格組織…が変形するようにして、50/1秒でロウガンブルースに氷転するのだ。“

『ぎしゅ…じゃぁぁぁぁぁーーーーー!!』
 さっきの咆哮で頭を押さえながらもその頭のでかいヘビ(ヘビの種類には無知)が牙を向けてオレに襲いかかって来た。
「け!正面斬って喧嘩か、おもしれぇじゃん!」
 杖みたいな武器を使って、オレの頭を叩き割ろうと大きく振り上げた。
「忍!」
ブゥン!
 オレの体がまるで霧になったように分散し、何も無くなった所にヘビの杖が空しく振られる。
「オレはここだ!」
バシィ!
 オレのパンチが顔面を直撃し、大きく後退するヘビ。その一撃の衝撃で杖のような武器は吹っ飛んで粉々に砕ける。…すげぇ、パワーが一成の変身した時より高い。それにイメージに浮かんできた、今の技は…『フリージングイリュージョン』
 氷の粒を分散させて、局所的に蜃気楼を作り出す。ここの暖かい空気を使えば、後は簡単に敵を惑わす事が出きる。
 ヘビは立ち上がり、杖を放してさっきのパンチが目を潰したらしく、ヘビは右往左往しながら闇雲に鞭を振りまわしている。
 そろそろ止めを刺す!
「出でよ、獣剣ビーストキラー!」
 イメージを働かせて、オレの手に大きな刃を持つ、両刃の剣が現れる。片手でその剣で、振ると、氷の粒がキラキラと光る。さて大技出すぜ…
「先生、耳塞いでいてくれ」
「え、ええ…」
 先生にそう言って…剣を後ろに振ると、俺は空気をすぅっと吸い込んで…
「凍れる野獣の咆哮を聞け!ぐおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 『氷解咆哮』空気を思いっきり吸い込んで、凍れる息を叫び声と共に吐きかけ…これを聞いた者は全て凍りつく。
ビキビキビキ…
『しゃぁぁ…』
 ヘビがドライアイスのように凍り付いて、動きが停止する。オレはそれに向かって剣を思いっきり振り上げて突進した。
「止めだ! 氷…! 解…! 斬!!!」
 凍ったヘビを凍れる剣で、袈裟に斬り付ける。刃がすぅっと入っていき、スムーズにヘビの体を斬り裂いた。斬られたヘビの体が凍りながら、地面に落ちて粉々に砕け…
ドォォォーーーーン!!
 そして、全てが砕け散り…氷の粒子となってバラバラになって霧となり消えて行った。
「一成の仇とったぜ…あ、死んでなかった」
 オレはそう言って、変身を解いて一成を診ている先生のもとへと走って行く。

「先生、一成は!?」
 一成は額に汗を流しながら、息を荒げて眠っている本当に大丈夫なのか?
「ヘビの毒を食らっているけど、血清を討ったら段々回復して行ってるわ。毒の効果が未知数だから良くわからなかったけど、一成の回復力がいいおかげね」
「そっか…よかったぁ、不死身の体っても毒食らったら苦しいもんな」
「ええ、回復が順調なら…5時間ほどで元にもどるわよ」
「おっし!」
 とりあえずは、一成も回復するし…オレも真の変身が出きるようになるし、敵も倒したし、いいっこ無しだぜ!
「取り合えず、布団を用意するから一成を運んで頂戴」
「了解しましたー」


華音市のとある場所…
 そこにある巨大なビルの社長室らしき場所で、町の風景を窓を開けて眺める男が一人…
 一息つくと、窓を閉めて吸っていたタバコを灰皿に押し付けた。
「いい街だ……この街が何時か私の物になるのか…」
「社長、『一式』全機の調整を追えました、『Mk―U』の方はどういたしましょう」
「彼は自分でするでしょう…それよりも獣神忍者の末裔はどうしたんだ?確か、彼らが提供してくれたテーラー系のルシファーを4匹よこしたはずだが…」
 社長室にすわりその秘書に穏やかな表情で話す…しかし、その目から秘書の手に汗がにじみ出るほどのプレッシャーを放ってる。
「そ、それが…赤星一成が変身したファルコレッダーとターゲットと思われた青葉勝人により、全てロストしたらしく…」
「どう言う事だ?ターゲットによりロストしたというのは…」
 男の目が鋭く光る…明らかに怒気を発している。その気迫に秘書は恐怖を感じながら。
「……く、詳しくは知りませんが…恐らくは…青葉勝人が、『氷』のクロスブレスの力で、超獣大帝ロウガンブルースへと変身したと…」
「ふふ、こうも早く魔界の戦士が二人も復活するとは…面白い」
 報告を聞いて、くくくと不気味な微笑を浮かべる男に秘書は冷や汗を流す。
「まあいいさ、あの二人に渡った、『炎』と『氷』のクロスブレス…あれは何時でも取り戻せる…そうでしょう?」
「あーら、察しがいいんだねぇ社長さん」
 秘書の後ろから聞きなれない、女の声が聞こえて来た。ドアの影からブゥンと浮き出るように社長室の中に一人の色っぽい女が入ってきた。
 気配を全然感じさせずに入って来て、秘書の肩に手を置くと通りすぎて、社長の机の方に向かう。
「お待ちしていましたよ、ルージュさん…」
「ふふん、嬉しい事言ってくれるじゃないかい?社長さん」
「ディアブロス幹部の本人が来るのを待っていましたよ、どうも貴方が送ってきたルシファーどもは、少々頼りありませんからねぇ」
「それは仕方ないさね、あいつ等は小手調べさ…本番はこのあたしが殺るつもりだからねぇ」
 呆れた調子で言う男にそのルージュと言われた女は、何ら気に求めない様子で続けた。
「ほう、あの二人の力量を計る為、送ったのですね」
「まあそう取っていいさね。だけど、青葉勝人はとも角…赤星一成って坊やは正直驚いたよ…『炎』クロスブレスを持っている筈のフレイムガゾーンを倒して、そのまま自分がファルコレッダーになったってのは…ね」
 ルージュの言葉に、事務的に答えていた男も眉をひそめる。
「赤星一成…『不死身の体』を持つ能力者と言われています、それで居ても彼はイレギュラー。だけど、敗因はフレイムガゾーンが完全に制御できなかったのにもあるのでは?」
「そうね…。あいつは最後まであたし達に逆らっていたからねぇ……何時かはこうなるかと思っていたけど、まさか自分から『炎』のクロスブレスを渡して死ぬなんてね…哀れな奴よ…」
 そう言うも、ルージュは薄ら笑いを浮かべる。仲間への弔いの言葉なんて無さそうだ。
「それじゃあ、赤星一成と青葉勝人の両名の事は貴方に任せますよ」
「まあ、言われた依頼は受けるわよ…依頼料は、赤星一成の首でいいわね。それより頼まれた物はちゃんと揃えてきたわよ」
「解りました、それでは…いい仕事を期待して居ますよ」
 そう言い残して、ルージュは社長室の影に解け込むようにして去って行った。ルージュが居なくなってから、男は再びタバコに火を灯し、秘書の方を見た。
「これで魔界との関係も色々と発展して行き、私達の望みも適う時が来るのも近い」
「……しかしながら、あのような者達を簡単に信用しても…いいのでしょうか?」
「君は……」
シュバ!
「う!!」
 秘書の左胸に、何処からとも無く飛んできた矢が刺さって、秘書は一瞬にして絶命した。矢を受けて、倒れ込んだ秘書を男は見下ろして…
「…口は災いの元…と言う事だよ…君は死にやすい人柄だったようだね」


二日後。
 俺の意識は、あの後すぐに回復してから1日ここに休んで、それで今日華音市に戻る事にした、ただでさえ授業を遅刻しがちな勝人がずっと学校を無断欠席する訳にも行かないだろうと思ったのだ。
 後で俺が聞いた話が、あの後ヘビを倒したのが、あの岩にあったブレスを使って真の変身をした勝人だと言った。やっぱりあのブレスに選ばれて、勝人も自分の現実に立ち向かう事が出来て俺もほっとしている。
 先生も…勝人が、先祖の力を受け継いでとても嬉しそうにしていた。勝人が託された、ブレス…勝人はロウガンブルースのブレスと言っていた、それが先祖の者なら、勝人の先祖と思われる人物は俺のファルコレッダーと同じ魔界の戦士だったのかもしれない。
 今となっては、その真相は解らないけど…

「んじゃ、先生オレら帰るわ」
 孤児院からみやげ物をたんまりと受けとって、勝人は先生に別れを言う。
「また遊びに帰って来なさいよ、二人とも」
「ええ、そん時はもっといい持て成しを期待してますよ」
「一成もだいぶ毒が引いてきて、良かったわ」
「まだちょっと微熱が残ってますけど」
 俺の毒は先生が作ってくれた血清に俺自身が持っている回復力がガラガラヘビの毒を浄化してくれたけど、まだ微熱っぽく残っている。
「まあ、一成がそう言うんだったら、考えておくわ」
「あーもしかして先生、一成の事が…す…あべし!」
 最初来た時のように勝人が先生の踵落しを食らって地面に埋まった。ふぅ、行きも帰りも同じパターン化されてて…
「おほん、じゃあ…二人とも元気でやんのよ」
「勝人はまだ地面に埋まってますけど……解りました。後、ルシファーが出たら俺等を必ず呼んでくださいよ」
「そんときゃ、気が向いたら…どげし!?」
「ふん…」
「か、必ず向かいますので……」
 絶対来なきゃ殺されそうな感じがするから、先生や孤児院がピンチの時は必ず行かなきゃならないな。
 俺は、思い出を沢山残して…俺が育った孤児院を見上げる。ここに来なかったら全てが始まらなかったかもしれないな。今となって母親がここに連れてきたのは間違いじゃなかったんじゃないかなって思うんだよな。
 俺が変われたのも……ここに来たから、変わってきたんだよな。

「それじゃ」
「ばいばーい」
 振りかえり、先生にもう一度手を振って別れを言った。
「帰りもついてくんじゃねぇぞ!」
パコーン!
 勝人の頭に見事に、先生の投げたスリッパが命中して、また地面にひれ伏した。
 前例を思い出し、背筋に寒気を感じてしまう…ポケットにはまだあの写真が残っている。
「あのばばぁ、1回死なす!氷…」
「はいはい…早くかえんないと1日で帰れなくなるぞ。バスの時間に間に合わない」
 じたばたと暴れる勝人を引きずって俺は長い華音市への帰路についたのだ。

 色々な思い出が残る地に、俺は今一度振りかえり……
「…またな」


「信じてるわよ、一成…勝人…貴方達の力を、その希望を信じてる。グットラック」

続く

 設定資料集

ガラガラテーラー&キングテーラー
身長:2m20cm(ガラガラ)2m50cm(キング)
体重:93キロ(両方とも)
パンチ力:5t キック力:8t
技:テールフィアー(ガラガラには右手、キングは左手にある鞭状の武器。ちなみにガラガラはチェーン状になって、威力倍化。キング30t ガラガラ31t)
  デモンススピア(先に刃のある式杖テーラー系が持つ通常武器 40t)
  ポイズンバイト(両者共々使える口の牙で毒を注入する。マムシとハブの2倍、並みの血清は効かないが、一成の血で作った血清で何とか治せる)
 テーラー系の中でも高位に当たる部類に入る二人で、ハブやマムシの同種だが血縁関係ではない。ちなみにキングテーラーはキングコブラ。能力は同テーラー系と変わらないが、高位なためか若干強い。



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