『仮面ライダー』
 第二部
 第十章      森に煌く刃

「どうだ、敬介の奴から連絡は入ったか?」
 立花は店の裏のガレージでバイクの修理をしながらそこに来た純子に問うた。
「はい。瀬戸内のバダンの基地を壊滅させたそうです。今呉にいる、と仰ってました」
「おう、呉か。またえらく渋いところにいるな」
 立花はその街の名前を聞いて声をあげた。
「呉って何かあるんですか?」
 それに対し純子が尋ねた。
「おっ、知らないのか?呉っていえば軍港で有名だろうが」
「えっ、そうだったんですか?じゃあ横須賀みたいなところですか?」
「あそこまで垢抜けちゃいねえがな。まあ独特の風情があっていい街だぜ。純子も機会があれば行ってきたらいいんだ」
「それじゃあ機会があれば。けれどバダンを倒すほうが先ですね」
「そう、その通りだよ。やっぱり純子は違うよなあ、その真面目さをチコとマコに見せてやりたいよ」
「あら、お言葉ね」
 そこにチコとマコがやって来た。
「どうせあたし達は不真面目ですよ」
 二人は口を尖らせて言った。
「おいおい、そんなに怒ることはないだろ」
 立花は二人を宥めるように言った。
「ふーーーんだ」
 二人はツン、と拗ねている。そんな二人に立花は切り札を出した。
「わかったわかった、後でホットケーキを焼いてやるから機嫌を直せ」
 ホットケーキを聞いて二人の耳がピクリ、と動いた。
「ホットケーキ?それはいいわね」
 まずは健啖家のチコが動いた。
「そうね、じゃあ勘弁してあげますか」
 マコも動いた。案外簡単に機嫌を直した。
「やれやれ。まあ敬介のほうも上手くいったし。後の連中はどうしている?」
「本郷さんと一文字さんは今千葉に行ってます。そこで滝さんと特訓中です」
「そうか、あいつ等らしいな」
 純子の言葉に立花は目を細めた。やはり付き合いが最も長いからこそか。
「志郎さんが今こちらにいます。丈二さんは城南大学で海堂博士達と一緒です」
「そうか、志郎がいるのか。それは心強いな。丈二もいるしもうすぐ敬介も帰って来る。また賑やかになるな」
 そして彼はまた尋ねた。
「他の奴等から連絡は入ってないか?」
「茂さんが大阪、洋さんが日本アルプス、一也さんが仙台におられます。どうやらバダンの影を確認したらしくて」
「そうか。ところでアマゾンは?」
 最後の一人の所在を問うた。
「それが・・・・・・」
 三人は急に口ごもった。彼からは一切の連絡が入って来ていないのだ。
「・・・・・・あいつは機械とか苦手だからな。まあそのうち怪人をやっつけてこっちへふらりと戻って来るだろう。あいつはそういう奴だ」
 立花は苦笑して言った。

 和気藹々とした喫茶アミーゴ。そこへ一両の軽トラックが近付いて来る。
「ちょっと喉が渇いたな。お茶にするか」
 博士が村雨に言った。
「ああ」
 村雨は素っ気無く答えた。二人は車を止め店に入った。
「いらっしゃい」
 店では丁度立花がチコとマコにホットケーキを焼いていた。まさひことリツ子も遊びに来ていた。
「コーヒー二つ」
 博士はカウンターの席に座るとメニューを見て注文した。
「はい」
 リツ子がメニューを聞いた。そしてコーヒーが運ばれて来る。
「美味いな」
 博士はコーヒーを一口飲んで言った。
「そうでしょう、おじさんのコーヒーは評判なんですから」
 リツ子が目を細めて言った。
「おいおい、褒めたって何も出やしないぞ」
 立花が言った。丁度ケーキを焼き終え二人に出しているところである。
「何か雰囲気のいい店だな」
 博士はその光景を見て言った。
「ああ。笑いがある場所というのはいい」
 村雨も言った。博士が時間をかけて飲んでいるのに対して彼はすぐに飲み干した。感覚が常人とは異なっているのだ。
 立花もそれに気が付いた。そしてライダー達に似ていると思った。
(まさかな・・・・・・)
 だが口には出さなかった。ただ彼を見ているだけである。
「どうした?」
 村雨はその視線に気付いた。そして彼に話しかけた。
「あ、何でも。それにしてもお兄さんいい体格してるね。何かスポーツでもしていたの」
「それは・・・・・・」
「あっ、彼は昔ラグビーをやっていまして。それでこんな身体になったんです」
「へえ、ラグビーですか。またえらくハードなやつですね」
 立花はその話を聞いて言った。だが内心違う、と思っていた。
「さて、もうすぐ城南大学だ。これを飲んだらすぐに行くか」
 博士はコーヒーを口に入れながら村雨に言った。
「ああ」
 村雨はそれに対し答えた。城南大学と聞いて立花の目の色が変わった。
「城南大学へ行くんですか?」
「ええ。何かご存知で?」
 博士は立花の思わぬ様子にいささか驚いた。
「いえ、誰かに会うのかと思いまして」
「ええ、実はあちらにいる海堂博士に会いたいと思いまして。実は学生の頃からの友人でして」
「そうなんですか。博士の」
 立花は妙に頷いて答えた。
「はい。若い時はよく一緒に朝まで飲みましたね」
 彼は笑いながら言った。
「そうですか、実は私も海堂博士とは知り合いでして。よくこの店にも来てくれるんですよ」
「ほお、そりゃあ奇遇ですね」
 博士は顔を綻ばせて言った。
「じゃあ彼には伝えておきますよ。行きつけの店に入ったと。美味いコーヒーの店を持っていていいなと」
「宜しくお願いしますよ。最近忙しいのかあまり来てくれなくて」
「わかりました、それでは彼に伝えておきます」
 彼はそう言うと村雨と共にお金を払って店を後にした。立花は二人の後ろ姿を見ながら思った。
(まさかとは思うが・・・・・・)
 バダンの刺客かもしれない、と感じた。あの若い男の気配は只者ではなかった。
「おい、志郎は今何処にいる?」
 彼はリツ子とまさひこに問うた。
「ちょっと待って」
 まさひこが奥に入っていった。そして暫くして戻ってきた。
「今新宿のほうにいるみたい」
「そうか。すぐに城南大学へ向かってくれるよう伝えてくれ」
「はい」
 まさひこは再び奥に入っていった。
「とりあえず志郎と丈二の二人がいればどんな奴が来ても安心だな。しかしあの若い男」 
 立花の脳裏に村雨の姿が映った。
「ライダー達と雰囲気が似ているな」
 それがどうしてなのか、彼は後に知ることとなる。

 奈良県南部に大台ケ原という場所がある。木々が生い茂る標高一六〇〇メートルの高地であり世界有数の多雨地帯でもある。その自然は雄大で野生動物も多い。富士の樹海と並ぶ我が国の秘境である。
 アマゾンはここにいた。そこで木々の間を走り回っている。
「おおいアマゾン、待ってくれよお」
 後ろから声がする。見ると赤い身体の尖った口を持つ怪人がいた。
 目が細く左手はスコップになっている。かってゲドンにいたモグラ獣人である。
 モグラの怪人であり地中を進む能力に長けている。その能力を生かしアマゾン抹殺の任務を与えられるが果たせず任務を放棄して逃亡した。
 逃亡した彼を待っていたのは処刑であった。しかしそれをアマゾンに救われる。そして次第に彼に協力していくようになる。しかしガランダー帝国のキノコ獣人の毒カビを浴び倒れる。アマゾンは彼の墓に復讐を誓った。
 アマゾンが南米に戻った時である。彼はギギとガガの二つの腕輪に導かれある大きなピラミッドに辿り着いた。それはエジプトのものではなく中南米に残る古代文明のピラミッドであった。
 彼はその中に入った。そしてその奥で一つの祭壇を見つけた。
 彼がそこに入った時だった。声が聞こえてきた。
『汝、志半ばに倒れた友を救いたくはないか』
 不思議な声だった。若いようでそれでいて年老いた男の声だった。
「御前、誰だ?」
 アマゾンはその声の主に問うた。声は再び言った。
『我はこの祭壇に祭られている神。汝と共に戦い倒れた者を再びこの世に甦らせる為に現われた』
 声はそう言った。
「共に戦い・・・・・・。それは『トモダチ』か」 
『そうだ、友をだ』
 声はアマゾンに答えた。
「トモダチを・・・・・・」
 アマゾンが失くした友。それは彼しかいなかった。
「じゃあモグラを甦らせてくれ。モグラはトモダチ、アマゾンの大切なトモダチ」
『その者で良いな』
「いい、アマゾンまたモグラと会いたい」
 アマゾンは顔を上げて言った。迷いは無かった。
『そうか』
 声は言った。すると部屋の中を白く強い光が包んだ。
「うっ」
 それは強い光だった。アマゾンは思わず目を覆った。
 光が消えた。すると祭壇の上に横たわっている者がいた。
「あ・・・・・・」
 そこには彼がいた。目を閉じているが胸が動いている。息をしているのだ。
『これでよいか』
 声は彼に問うた。
「いい。有り難う」
 アマゾンは声に対し言った。
『そうか。ならばこれからも二人で力を合わせて悪と戦うがよい』
 声はそう言った。気配が何処かへ消えていくのを感じた。
「待て。一つ聞きたい」
 アマゾンは声を呼び止めた。
『何だ』
 声はその場に留まった。
「御前は・・・・・・誰だ?何故アマゾンのトモダチ助けた?」
 声はアマゾンに対して静かに答えた。
『私はケツアルコアトル。かってこの地の神だった。そして私は正義を司っていた』
「ケツアルコアトル・・・・・・」
 アマゾンもそのナは知っていた。かってアステカやインカで信仰されていた神である。
『仮面ライダーアマゾンよ、正義の為、愛の為に戦うのだ。それが汝が与えられた使命だ』
「アマゾンの使命・・・・・・」
『そうだ、期待しているぞ』
 声はそう言うと気配を消した。その後に緑の羽毛を残して。
「これはケツアルコアトルの・・・・・・」
 ケツアルコアトルは緑の翼を持つ白蛇の姿をしている。人の姿になる時は髭を生やした白い肌の男になるという。
 アマゾンはその羽毛を取った。それは左の腕輪に着けた。そして目覚めたモグラ獣人を笑顔で迎j・@を救ってきた頼りになる男である。
「モグラ、遅い」
 アマゾンは彼のほうを振り向いて言った。その顔は微笑んでいる。
「そんな事8a・@を救ってきた頼りになる男である。
「モグラ、遅い」
 アマゾンは彼のほうを振り向いて言った。その顔は微笑んでいる。
「そんな事言ってもおいらは本当は土の中を進むほうが得意なんだよ、森の中じゃ動きが遅いのも当たり前じゃないか」
「だからそれ速くする。そうすればモグラもっと強くなる」
 泣き言を言うモグラ獣人に対して言った。しかし声は優しい。
「トホホ。まあしょうがないか。一緒に戦う為にわざわざ南米から来たんだし」
 モグラ獣人は不平を言いながらもそれに従った。
「そう、動く。それでいい。モグラ動きがかなり良くなった」
「そうかなあ。けどアマゾンはもっと動きが速くなったな」
「それはこの腕輪のおかげ」
 彼はそう言うと左手を指し示した。そこにはギギとガガ、二つの腕輪がある。
「二つの腕輪を付けているのか。そりゃ速いよ」
 二人はそう言いながら木々の間を進む。どうやら特訓をしているらしい。
 その二人を何かが見ていた。それは一匹の小さな蟷螂であった。
 その蟷螂は何処か奇妙であった。外見は普通の蟷螂だがただジッとアマゾン達を見ているだけなのである。
 そしてその場から消えた。まるで煙のようにその場から消え去った。

 大台ケ原のある洞穴、その奥に何者かが蠢いていた。
 それは戦闘員達であった。洞穴を改造して基地を造っていた。
 そこにあの蟷螂が現われた。その複眼がピカッと輝く。
「戻って来たか」
 戦闘員の一人がそれを手に取った。そして中へ入っていった。
 基地の壁は洞穴そのままであった。鍾乳洞が垂れ下がり苔がある。
 足下は少し湿っている。戦闘員はその中を蟷螂を手にしながら進んでいた。
 右へ曲がる。そこを進むと指令室であった。
「蟷螂を持って来たのね」
 そこには長身の女がいた。黒く長い髪と瞳を持つ長身の女である。
 肌は白く透けているようである。整ってはいるが何処か陰惨な顔立ちである。アジア系のようである。青いアオザイを着ている。ズボンも青だ。
「ハッ、こちらに」
 戦闘員は片膝を着き両手で蟷螂を差し出した。蟷螂は女の手の中に入った。
「どれ、見せて御覧。御前が見てきたものを」
 女はそう言って微笑んだ。すると蟷螂の複眼が再び光った。
 それと呼応するように女の目も光った。
 彼女はその目に何かを見ていた。そして両者の目の光が消えると蟷螂は女の肩に止まった。
「ふふふ、よくわかったわ」 
 女はニヤリ、と笑った。
「アマゾンが現われたわよ、この大台ケ原に」
 女の言葉を聞いて周りにいた戦闘員達がどよめいた。
「落ち着いて。アマゾンは一人、恐れる必要は無いわ」
 女は戦闘員達を宥める様に言った。
「かってベトコンで女戦士として恐れられフランス、アメリカ、中国の軍人達から『密林の悪夢』と言われたハ・ティム・キム。・・・・・・いえ、カマキロイド。その力見せてあげるわ」
 女、いやカマキロイドはそう言うとニヤリ、と笑った。それはまるで死神のような笑みであった。

 夜になった。アマゾンとモグラ獣人は食事を採っていた。その辺りにある木の実や蛇、虫等である。
 木の実は生であるが蛇や虫には火を通してある。だが二人共別に生でも構わないようだ。あまり火を通さなくともそのまま口に入れ咀嚼している。
「美味いな、アマゾン」
「ああ」
 二人は食事を採りながら楽しく談笑していた。
「しかしおいらの特訓もいいけれどこんなところで油を売っていて大丈夫なのかい?立花の親父さんに連絡も入れていない
みたいだけど」
「アマゾン、機械苦手」
 アマゾンはそれに対してボソッと言った。
「けれど携帯ですぐに入れられるじゃないか。そもそもここにバダンがいるとは思えないけどなあ」
「それは大丈夫」
 アマゾンは首を縦に振って言った。
「大丈夫って・・・・・・。連絡が?バダンが?」
「両方」
 アマゾンは自信に満ちた声で言った。
「連絡はいいよ。親父さんもまあしょうがないな、で済ませてくれるだろうし。けれどバダンはどうするんだよ」
「心配ない、バダンはすぐ来る」
「えっ!?」
 モグラ獣人はその言葉に対して耳を疑った。
「バダンはアマゾンの命狙って来る。アマゾン奴等の考えている事わかる。だからそれは心配しなくていい」
「そんなもんか」
 モグラ獣人はその言葉に首を傾げた。だがアマゾンは常人にはない脅威的な勘がある。ここはそれを信じるしかなかった。

 二人は特訓を続けた。森の中を進むだけでなく川を泳ぎ地の中を突き進む。そして組み打ちもする。
「モグラ、脇が甘いっ!」
 アマゾンがモグラ獣人の脇に爪を入れる。
「わっ!」
 モグラ獣人は慌てて脇を左手でガードする。
 だがそれはフェイントだった。アマゾンはそれを引っ込めると空いた左肩に噛み付いてきた。
「またやられたよ・・・・・・」
 モグラ獣人は思わず情けない声を出してしまった。
「気をつける。敵は待ってくれない。バダンの奴等ゲドンやガランダーよりも手強い」
「それはわかってるよ。アマゾンが苦戦したっていうし」
 モグラ獣人はアマゾンに対して言った。
「けれどモグラ強くなっている。ここへ来る前とは見違えた」
「えっ、そうかなあ」
 モグラ獣人はその言葉に素直に喜んだ。
「だから特訓のレベルもっと高くする。そしてもっと強くなる」
「ひいいいい〜〜〜〜っ」
 モグラ獣人はその言葉に思わず悲鳴を挙げた。
 かくして特訓は続いた。そしてある日川を泳いでいた時だ。
「ムッ!?」
 アマゾンは何者かの気配を感じた。そして後ろにいるモグラ獣人を振り返る。
「わかってるよ、アマゾン」
 モグラ獣人もそれを感じていた。二人は川の中に潜んだ。
「この辺りにいた筈だが」
 そこへ戦闘員達がやって来る。辺りを見回し調べている。
「気をつけろ、奴は奇襲が上手い。いきなり襲い掛かって来るぞ」
 戦闘員の一人が言った。他の者もそれに頷く。
「うむ。特に木の上が危ないな」
「いや、それよりもこの川の中のほうが。見たところ中もよく見えないしな」
「そうだな。用心にこしたことはない」
 戦闘員達は川辺から身を離している。彼等とて馬鹿ではない。それなりに用心をしている。
 だがそれ以上にアマゾンの奇襲は見事である。常に敵の意表を衝くのが彼のやり方だ。
「ムッ!?」
 戦闘員達へ目掛け突き進んで来る一つの影。
「アマゾンかっ!?」
 戦闘員達はそれを見て身構えた。
「いやっ、違うぞあれは・・・・・・」
 それはジャングラーであった。しかし予想より速度が速い。
「ウォッ!?」
 戦闘員達はそれに吹き飛ばされた。左右に散り態勢が崩れた。
「ケケーーーーーッ!」
 そこへ川の中からアマゾンが飛び出て来た。二重の奇襲に戦闘員達は為す術も無く倒されていく。
「相変わらず見事な手際だな、アマゾン」
 モグラ獣人も出て来ていた。そして戦闘員達を倒していた。
「それにしてもジャングラーの動きが速かったな。何か改造したのかい?」
「立花さん達改造してくれた。今はジャングラーGという」
「ジャングラーGか。確かに強くなったような名前だな」
「アマゾンこのジャングラーG気に入った。これからも一緒にやっていく」
「それはこのあたしに勝ってから言って欲しいわね」
 不意に何処からか声がした。
「誰だっ!」
 アマゾンとモグラ獣人が辺りを見回す。すると目の前に一人の女が現われた。
 青いアオザイを着た女だ。険のある目でアマゾン達を見ている。
「あら、モグラ獣人も一緒だったのね。てっきり南米にいるとおもっていたけれど」
「おいらの名前まで知っているところを見ると・・・・・・。御前バダンだな!?」
 女はその問いに意対して悠然と微笑んで言った。
「そうよ。バダンの改造人間の一人カマキロイド。よく憶えておいてね」
「バダンの改造人間・・・・・・。アマゾンを倒しに来たか」
 アマゾンはカマキロイドの前に出て言った。
「そうよ。このあたしの手でね」
 カマキロイドはそう言うと左手を刀のように振るった。するとその手は巨大な蟷螂の手になっていた。
「なっ・・・・・・!」
 アマゾンとモグラ獣人はそれを見て思わず声をあげた。
「ウフフフフフフ」
 カマキロイドは笑った。そしてその鎌をもう一度振るう。
 するとアオザイが徐々に変わっていく。青緑の機械と混ざった身体に。
 顔もである。まず目が黄色い複眼になる。そして顔が人のものから蟷螂のものになっていく。
「さあ、行くわよ」
 そこには人でない異形のものがいた。そしてアマゾンへ突き進んで来る。
 まず左手の鎌を振るってきた。だがアマゾンはそれをかわした。そして反撃に移る。
「ケケーーーーーッ!」
 その両手の鰭で斬り掛かる。だがカマキロイドはそれを鎌で受け止めた。
「情報通りね。パワーアップしているみたいね」
 カマキロイドは余裕をもって言った。その目が笑っている。
「けれどそれは計算通り。これはどう?」
 そう言うと間合いを離した。そして後ろに跳びざまに鎌を振るった。
 すると鎌ィ足が起こった。アマゾンに襲い掛かる。
「ガァッ!」
 アマゾンはそれを鰭を振るって打ち消した。彼も鰭を振るって鎌ィ足を起こしたようだ。
「ふん、それがガガの腕輪の力の一つなのね」
 カマキロイドはそれを見て笑った。尚も余裕の笑みを漂わせている。
「面白いわね、久し振りに楽しめる相手と出会えたわ」
 怪人はそう言うと足をツツツ、と左へ滑らせた。
「場所を変えるわ。さあいらっしゃい」
 そして森の中へ入っていった。
「アマゾン・・・・・・」
 モグラ獣人がアマゾンに声をかけた。すこし心配なようである。
「モグラ、心配する必要ない。アマゾン勝って帰って来る」
 彼はモグラ獣人に対してそう言うと森の中へ入っていった。
 森の中は木々が鬱蒼と茂っている。アマゾンはその中を猿のように跳びながら移動する。
 木の枝々の間を跳び移る。そして怪人の気配を探る。
(近い・・・・・・) 
 アマゾンは近くにその気配を感じた。その時だった。
 鎌ィ足が襲ってきた。アマゾンはそれを前に跳びかわす。
 咄嗟に木の上へ跳ぶ。そして辺りを見回す。
「ここよ」
 不意に後ろから声がした。
 振り返る。そこへカマキロイドの鎌が襲う。
「その首刈り取って偉大なる我が首領への捧げ物にしてあげるわ」
 だがアマゾンはそれを屈んでかわした。そして足払いを仕掛ける。
「うっ」
 カマキロイドはそれをまともに受けた。そして態勢を崩す。
 アマゾンはそれを追う。そして右腕の鰭を振り下ろす。
「大切断!」
 しかしそれは左手の鎌に受け止められてしまう。カマキロイドは落ちながらニヤリ、と笑った。
「甘いわね」
 そして蹴りを放つ。それはアマゾンの腹を直撃した。
「ガハッ」
 怯む。だがそれは一瞬だけだった。しかしその一瞬が効いた。
 カマキロイドは無事着地した。アマゾンとは間合いが離れた。
 アマゾンも蹴りのダメージから回復し態勢を整えて着地した。しかし間合いが離れたのは致命的であった。
「ヌッ・・・・・・」
 間合いを詰めようとする。だがカマキロイドの動きはそれよりも僅かに速かった。
「ウフフフフフ、これは楽しめそうね」
 怪人は彼を見て不気味に笑った。
「すぐ殺してはつまらないわ。じっくり楽しまないと」
 彼女はそう言うと木々の中に消えていった。保護色のようだが違った。どうも身体の配色が元々森の中に隠れ易いようだ。まさに蟷螂そのものであった。
「また会いましょう。そしてその時こそその首斬り落としてあげるわ」
 そう言い残して消えた。気配もすぐに遠くへ消え去っていた。
「ウフフフフフフフフ・・・・・・」
 笑い声だけが残った。アマゾンはそれを森の中に立ち聞いていた。
「カマキロイド・・・・・・バダンの改造人間」
 アマゾンは消えた気配を感じながらポツリと呟いた。
「アマゾンの命を狙うならいい。アマゾン必ず勝つ」
 後ろから声がした。モグラ獣人の声だった。
「モグラ、来たのか」
 アマゾンは後ろを振り返り言った。
「心配になって来たんだよ。けれど無事でよかったよ」
 モグラ獣人は胸を撫で下ろしながら言った。
「大丈夫、アマゾン負けない。悪い奴等この世にいる限り」
 そう言いながら変身を解く。緑の身体が次第に人のものに戻っていく。
「けれどもうモグラの特訓は出来ない。バダン来たから」
「ああ、それはわかってるよ」
 モグラ獣人はそれに対し真摯な声で言った。
「カマキロイドか。これはまた厄介な奴みたいだなあ」
 モグラ獣人は目の前に広がる深い木々を見ながら言った。その奥で怪人がこちらを見ながら残忍な笑みを浮かべているように感じた。

 村雨と博士はようやく城南大学に入った。まずはトラックを駐車場に入れる。
「場所が空いていてよかったな」
 そこは来賓用であった。博士はそこにトラックを入れるとホッとした顔で村雨に微笑んだ。
「ああ。それにしてもやけに広い場所だな」
 村雨は大学の中を見回しながら言った。
「そりゃあね。我が国で一番のマンモス大学だし」
 博士はニコリと笑って言った。
「この大学は大抵の学部があるよ。文学部に法学部、語学部に経済学部・・・・・・。特に理学系が充実していてね」
「そうか、理学が強いのか」
 かってこの大学で本郷猛も風見志郎も学んだ。とりわけ医学や工学の分野では名が知られている大学である。
「うん、かくいう私もここにいたしね。さあ医学部のほうへ向かおうか。確か海堂君はそこにいる筈だ」
 二人は歩いていく。ふと女の子の学生達と擦れ違った。
「ねえ、さっきの人格好良くない?」
「うん、身体も大きいし顔も格好いいし。まるでアクション俳優みたい」
 その声は村雨の耳にも入っていた。
「・・・・・・俺の事か?」
 村雨はその話を聞きながら首を傾げた。
「そうらしいな。確かに君は女の子にもてそうだ」
 博士が彼のほうを見上げて微笑んで言った。
「もてる・・・・・・何だそれは」
 村雨は博士に問うた。
「まあ簡単に言うと女の子に人気があるということだよ。まあ悪いことではない。むしろ喜ばしいことだろうな」
「そうか」
 村雨は博士の言葉に対して静かに頷いた。だが彼にとってそれが嬉しいかというとそうではなかった。
「さて、と。もうすぐ医学部の研究室だな」
 二人はとある建物に入った。
 そこは大きな病院だった。どうやら研究所と兼ねているようだ。
「中々いい設備が整っているな」
 村雨は病院の中を見回しながら言った。
「ああ。日本でも有数の設備と人員を誇る病院かつ研究所だからね」
 博士は中を進みながら言った。二人の脇を白衣を着た医者や看護婦が通り過ぎる。
 二人は受付に来た。博士がそこを覗き込んだ。
「あ、伊藤先生」
 若い看護婦が彼の顔を見て思わず声をあげた。どうもこの病院でも顔を知られているらしい。
「久し振りだね、かすみちゃん。今日は海堂君に用があって来たんだ。彼はいるかい?」
「はい、ええと・・・・・・」
 チラリ、と名簿を見る。
「はい、丁度今研究室におられます」
「そうか、有り難う」
 博士はそう言うと村雨に顔を向けた。
「行こう、四階だ」
 二人はエレベーターで四階に上がった。
「彼なら大丈夫だ。必ず君の記憶を取り戻してくれるよ」
 博士はエレベーターの中で村雨に言った。
「記憶・・・・・・。その人はそういったものの専門家なのか?」
 村雨は博士に尋ねた。
「まあ専門といえばそうかな。何分色々とやっているからねえ」
「そうか」
 彼は表情の無い顔で言った。博士はそれを見て彼に言った。
「記憶が戻ることがあまり嬉しくなさそうだね」
「そういうわけじゃないが。ただどうも実感が湧かない」
 村雨はポツリ、と言った。
「俺はゼクロスとしてライダー達と戦った時からの記憶しかない。今の俺はその前どんな人間だったかを一切知らない。だが不思議なことにそれが苦しいとは思わない」
「そうか、・・・・・・そうだろうな」
 博士はその言葉に頷いた。何処か寂しそうである。
「しかし君が人間となるには記憶を取り戻さなくてはならない。そして君がバダンと戦うライダーとなる為にも」
「そうか・・・・・・」
 村雨はエレベーターの扉のほうを見ながら言った。その目は何かを考えている目であった。
「その記憶がどんなに辛く苦しくとも君は耐えると言った。人間になる為に。だがこのことだけは覚えてくれ」
「・・・・・・何だ」
 村雨は博士のほうへ顔を向けた。
「これも前に言ったがたとえどんな記憶であっても憎しみに心を捉われてはならない。憎しみに心を支配されたら君はライダーではなく鬼になってしまう」
「鬼に・・・・・・」
 鬼、それは博士から聞かされた。角を生やした異形の怪物で怪力を誇る凶暴で残忍な化け物だ。それはまるでバダンの改造人間のようであった。少なくとも村雨はそう感じた。
「いいか、これだけは忘れないでくれよ。憎しみだけは持たないでくれ」
「・・・・・・ああ」
 だが博士はそう言いながらふと考えた。今までどのライダーも最初は憎しみに心を捉われていた。
(彼等も最初は憎しみからはじまった。しかし・・・・・・)
 彼等はそれから愛を知り真の戦いに目覚めたのだ。
(彼ももしかすると・・・・・・)
 しかし博士はその考えを脳裏から打ち消した。彼も憎しみの持つ恐ろしさ、醜さをよく知っているからだ。
 四階に着いた。エレベーターの扉が開いた。
「行こう」
 二人はエレベーターを出た。そして左に曲がる。
 そこで白衣を着た若い男と擦れ違う。結城丈二だ。丁度今海堂博士の研究室から出たばかりである。
「んっ!?」
 彼は村雨と擦れ違って何かを感じた。そして後ろを振り返る。
「あの男は・・・・・・」
 村雨を見た。何処かで見たような気がした。
「いや、知らないな。気のせいか」
 彼は村雨から視線を外した。そしてエレベーターへ入っていく。
「そろそろ風見が来る頃だな。案内してやろう」
 彼はそう言うとエレベーターのボタンを押した。そして下へ降りていく。
 二人は海堂博士の研究室の前に来た。そこで村雨はポツリと言った。
「中に二人いるな」
「二人?」
 一人は海堂博士だ。だがもう一人というと誰だかわからなかった。
「まあいいや。さあ行こう」
 そう言うとドアをノックした。どうぞ、という声がした。
 扉を開ける。そこには海堂博士がいた。
「んっ、伊藤君じゃないか」
 そこには旧知の親友がいた。彼の顔を見て思わず声をあげる。
「久し振りだなあ。何処に行ってたんだい」
「それは後で・・・・・・ん!?」
 ふと海堂博士の向かいに座る男が目に入った。そこにいるのも彼がよく知る男であった。
「志度君も。日本に戻って来ていたのかい?」
「ははは、ちょっと付き合いでね。しかし君が来るとはね」
 志度博士も旧友の顔を見て顔をほころばせた。
「丁度お茶を飲んでいたところなんだ。君もどうだい?」
 二人はそう言うと一組のティーセットと陶器のポットを出してきた。
「済まない、もう一組出してくれ」
「おやっ、連れがいるのかい?」
 二人はふと顔を上げた。
「うん、彼なんだ」
 伊藤博士はそう言うと村雨を部屋に入れた。
「村雨、村雨良君だ。彼の事について色々と話したい事がある」
「村雨君!?」
 海堂博士はその名に反応した。
「・・・・・・・・・」
 志度博士は黙っている。
 村雨は二人に対して無言で頷いた。

 大台ケ原においてのアマゾン達とバダンの戦いは続いていた。追い、追われる獣同士の戦いであった。
 どちらかが一方的に追い追われる戦いではなかった。一方に隙があればもう一方がそこに襲い掛かる、肉食獣同士が互いに命を狙い合うような戦いであった。
「ケケーーーーーッ!」
 アマゾンが木の上から下を進む戦闘員に襲い掛かる。その戦闘員は首筋に喰い付かれた。
「ケケッ!」
 アマゾンはその首筋を噛み千切った。鮮血がほとぼしり出る。
「チュチューーーーーンッ!」
 モグラ獣人もそれに続き木の上から戦闘員に襲い掛かる。そして左手のスコップで殴り倒す。
 戦闘員達は左右に散ろうとする。だが二人の動きはそれよりも速かった。
 それぞれ別方向に跳んだ。そして戦闘員達が円陣を組むより早く攻撃を仕掛ける。
 戦闘員達は手に持つ鎌を振るう暇も無かった。瞬く間に全員倒されてしまった。
「今日の戦いは上手くいったな、アマゾン」
 地下の広い空間でモグラ獣人はアマゾンに言った。
 モグラは地下を掘り進んで生きる。そのモグラの力を持つ彼も地下で複雑に入り組んだ道と部屋から成るエリアを造りそこに潜み住んでいたのだ。
「うん、けれどバダンの奴等手強い。きっとまだまだアマゾン達を狙って来る」
 アマゾンは木の実を食べながら言った。アケビのようである。
「そうだろうな。連中はゲドンやガランダーよりしつこいみたいだし。ここも見つかるかも知れないな」
 モグラ獣人もそのアケビを食べながら言った。
「それは無いと思う」
 アマゾンは言った。
「どうしてだ?」
 モグラ獣人は彼に対し問うた。
「あいつは蟷螂の怪人。蟷螂は木の上にいる。土の中にはやって来ない」
「そうか、じゃあこの地下の道を使っていくか」
「それがいいと思う。相手の裏を衝くのも戦い」
 アマゾンはそう言うと頷いた。そして二人は休息に入った。
「あの連中は何処にいるのだ」
 戦闘員達が夜の森の中を進みながら忌々しげに言う。
「木の上にでもいるんじゃないか」
 戦闘員の一人が上に生い茂る木の枝を見上げながら言った。
「確かにな。襲撃を掛けられるのはいつも上からだ」
 別の戦闘員が言った。
「しかしいつも木の上にいるのか?何時寝ているんだ?」
 他の戦闘員が疑問に思った。
「その時は何処かに潜んでいるんだろう。洞窟にでも隠れて」
「そうか。それじゃあ洞窟を一つ一つ虱潰しに当たってみるか」
「よし」
 かくしてバダンはアマゾン達が潜んでいそうな洞窟を一つ一つ調べていった。だがその手懸かりは全く掴めない。
「戦況はどう?」
 本拠地の作戦室においてカマキロイドは戦闘員の一人に尋ねた。
「思わしくありません。アマゾンライダー達の奇襲の前に一人また一人と倒されております。戦力は既に半分以下にまで落ちています」
「そう、半分以下に・・・・・・。辛いわね」
 カマキロイドはその報告に表情を暗くさせた。
「しかしこの大台ケ原にいるのは間違いありません。いずれ尻尾を出すでしょう」
 戦闘員はそんな彼女を励ますように言った。
「だといいのだが。相手はあのアマゾン、やはりやり方を変える必要がありそうね」
 カマキロイドは腕を組んで言った。
「やり方を変える、と言いますと」
「偵察用の小型蟷螂の量を増やすわ。そしてこの大台ケ原全体に散らばせるの。そして連中の行動を始終監視するのよ。それこそ網の目のようにね」
 彼女はそう言うとニヤリ、と笑った。
「アメリカ軍がかって我々にやった作戦だけれどね」
 ベトコンの奇襲に悩んだアメリカ軍はベトコンに対し彼等が潜んでいるであろうジャングルに集音器をばら撒いた。そして彼等の動きを掴もうとしたのである。
「成程、そして隠れ家を見つけ出すのですな」
「そう、そして連中が休息を取っている隙に襲い掛かる。これなら問題無いわ」
 カマキロイドの目が光った。そしてニヤリ、と笑った。
「アマゾンライダー、何処に隠れているかは知らないけれど」
 彼女は言葉を続けた。
「いずれ網にかかる。その時が最後よ」
 彼女はそう言うと指令室の扉を開けた。そして外へと出て行った。

 彼女の言葉通り蟷螂が大量に放たれた。そしてアマゾン達を探る。
「頼むぞ」
 戦闘員達は地を這う蟷螂を見下ろして言った。蟷螂はそれに応えたのか静かに草の中に消えていく。
 アマゾン達はすぐに見つかると思われた。だがそうはいかなかった。
「まだ見つからないのか」
 暫くして戦闘員達が仲間内で話しはじめた。アマゾンは忽然と姿を消した。それにより損害は無くなった。
 だがアマゾンの姿が見えないのでは同じ事であった。彼等は次第に焦燥感を募らせていった。
「ひょっとするともうここにはいないのではないのか」
「いや、この大台ケ原の何処かで我々の隙を窺っているのだろう」
 彼等は噂し合った。鬱蒼と茂る木々の陰には何もいない。それがかえって彼等を不安にさせた。
「まずいわね、焦ってきているわ」
 ゲリラ戦は精神戦でもある。神経をすり減らしそれに耐え切れなくなったほうが負けだ。
 それはカマキロイド自身が最もよくわかっていた。伊達にベトナムのジャングルでフランス、アメリカ、中国といった名立たる強国達の精鋭を次々と屠ってきたわけではない。
 アマゾンはこれを察していたのであろうか。そして姿を何処かへ消したのではないだろうか。
(だとすれば一体何処に)
 カマキロイドは考えた。アマゾンは元々木の上やジャングルにおいての戦いに強い。だとすれば隠れるのは木の上である。そう、アマゾンならば。だが彼には今もう一人の同志がいる。
 モグラ獣人、モグラの能力を持っている。
(モグラ・・・・・・)
 モグラである。その時彼女はハッと気がついた。
(まさか・・・・・・!)
 ベトコンは山の地下の隅々に穴を掘りその奥に基地を造った。そしてそこを拠点に穴から出て敵を神出鬼没の奇襲攻撃で悩ましていったのだ。
 彼女もそうやって戦った。そして粘り強く戦い勝利を収めたのだ。
(考えられるわ。それならあの神出鬼没の行動も理解出来る)
 しかし一つ疑問がある。食糧はどうしているか。
(いや、それは事前に保存していれば問題無いわね。数には限りがあるけれど)
 そして彼等はこの大台ケ原の地下で待っているのだ。彼等が疲れきるのを。そしてその時こそーーーー。彼女はそれを思うと戦慄を感じずにはいられなかった。
「全ての戦闘員を招集して」
 彼女は傍らにいる戦闘員の一人に言った。
「全ての、ですか?」
 その戦闘員は思わず問い直した。
「そう、全てよ」
 彼女は険しい顔でそう言った。
 すぐに全ての戦闘員が基地の会議室に集められた。彼女は彼等に対して言った。
「アマゾンライダーは下にいるわ」
「下、ですか!?」
 戦闘員の一人が思わず声をあげた。
「そう、下よ」
 彼女は頷いて答えた。
「地下にいるわ。そしてそこに潜んで待っているのよ。我々が疲れていくのを」
 その言葉に戦闘員達は騒然となった。
「だけどそうはさせないわ。何としてもその前に奴等を倒す。その為には」
 彼女は会議室のモニターを写した。そこには複数の映像が映し出されている。全て蟷螂達が見ているものだ。
「必ず探し出す」
 彼女は強い口調で言った。そして戦闘員達に言った。
「それまでは動かないわ。全員ここに待機して鋭気を養う事。いいわね」
「ハッ!」
 戦闘員達は一斉に敬礼した。そしてその場を去った。
 
 それから数日経った。やがて蟷螂のうち一匹が滝におかしな場所を見つけた。
「ここは?」
 そこは滝に隠れた入口になっていた。その奥は洞窟になっている。
「もしや・・・・・・」
 ここならば外からは見えない。そして滝から水に入り魚を獲る事も可能である。
「怪しいわね」
 すると別の蟷螂のモニターからも映し出された。
 それは一つの洞穴だった。そこもまた奥へと続いている。
 そしてその洞穴には貴重なものがあった。果物の皮だ。
「これはもしかして・・・・・・」
 それを見た戦闘員の一人がカマキロイドに対して言った。
「ええ、あり得るわね」
 カマキロイドはその戦闘員に対して言った。食べかすではないか、と。
「しかし・・・・・・」
 一つ疑問に思った。このような見つかり易い場所にわざわざ捨てるであろうか。地に掘って埋めればそれで済むというのに。
 そしてアマゾン達ではなく熊や狐の可能性もある。だとしたらこちらが下手に動いてそこをアマゾンに付け込まれる可能性もある。
「どうしたものか・・・・・・」
 カマキロイドは思案した。その時別の蟷螂がもう一つの映像を映した。
 そこは木の根の下であった。そこに穴熊の穴らしきものがあった。
 そこはかなり奥深くまで続いている。穴熊の穴にしては深過ぎる。そして肝心の穴熊もよく一緒に住んでいる狸も住んではいなかった。
「ここはもしかすると・・・・・・」
 カマキロイドは今度は戦闘員の言葉に大きく頷いた。
「もしかするわね。よし、遂に尻尾を掴んだわよ」
 そう言うと後ろに控える戦闘員達のほうを振り向いた。
「全員出撃!半分は滝の入口から、そして残る半分は私と共にあの木の下の穴から行くわよ!」
「ハッ!」
 戦闘員達は敬礼した。そしてカマキロイドも怪人の姿をとった。
「アマゾンライダー、その暗い穴を死に場所とするのね」
 彼女はそう言うと凄みのある笑みを浮かべた。そして指令室を出た。
 カマキロイドの言葉通りバダンは戦力を二手に分け穴に忍び込んだ。一隊は滝の穴より、そしてカマキロイドが率いるもう一隊は木の下の穴より侵入した。
「中は広いですね」
 木の下の穴に潜入した戦闘員の一人が言った。入口は狭かったがそこを通り過ぎると中は広くなっていた。
 人が立って歩ける程である。横は一人がかろうじて進める程か。
「流石はモグラ獣人、穴を掘るのが上手いわね」
 カマキロイドは穴を見回しながら言った。その複眼が黄色く光っている。
 途中で道は二手に別れていた。左右共何処かに続いていそうである。
「どちらに行きますか?」
 カマキロイドはそれを見て思案した。そして決断を下した。
「半分に分けるわ。半分は右手へ、そして残る半分は私と共に左手へ」
「ハッ」
 彼女の言葉通り分かれた。そしてカマキロイドは左の道を進んでいく。
 途中壁の横に何やら横穴があった。だが小さい。それを無視して進んだ。
「あれっ、あいつは?」
 途中で一人減っている事に気付いた。
「右に行ったんじゃないのか?」
 中の一人が言った。
「そうか。じゃあ問題無いな」
 そしてさらに進んでいく。
 また分岐点に当たった。今度は三方向である。
「つくづく迷路めいたことが好きな連中みたいですね」
 戦闘員の一人が呆れて言った。
「そうね。けれどここで諦めるわけにはいかないわ」
 カマキロイドは言った。そして今度は三手に分かれて進んだ。
「気をつけろよ」
 戦闘員達はそう言うと別れを告げそれぞれの道へ入った。そしてさらに進んでいく。
 道はかなり曲がりくねっている。複雑な道であり幅や高さもかなり違っている。
「またえらく変な道だな」
 戦闘員の一人が言った。彼等はそう言いながらも前へ進んでいく。
 暗くなった。もう前すら見えない。だが前へ行くしかなかった。
 次第に広い道に出て来た。そして明るくなってきた。
「ここは・・・・・・」
 そこは巨大な部屋だった。否、部屋ではない。どうやら自然に出来上がった空間のようだ。
 上には鍾乳洞が垂れ下がっている。そして右手からは滝の音が聞こえて来る。やはり滝とアマゾン達の穴は繋がっていたようである。
 彼等はその中を見回した。すると上にぶら下がっている蝙蝠達が動いた。
「ムッ」
 それと同時に影が飛び出して来た。それはアマゾンであった。
「やはりここにいたか」
 カマキロイドはアマゾンを見て言った。アマゾンは何も言わず硬く尖った岩山の上で彼等を凝視している。
「よく来た、ここへ」
 アマゾンは言った。
「御前達の仲間、皆倒した。後は御前達だけ」
「何っ、馬鹿な事を言うな」
戦闘員の一人がそれに対して反論した。
「その証拠、今見せる」
 アマゾンはそう言うと後ろから何かを取り出し彼等の足下へ投げた。
「ムッ!?」
 それは戦闘員の生首だった。ゴロリ、と転がり空虚な目でかっての同僚達を見る。
「御前等、絶対来ると思った。だからわざと道を複雑にして少しずつ倒していった」
「クッ、ゲリラ戦の応用というわけか・・・・・・」
 カマキロイドは舌打ちをして言った。
「ゲリラ戦で幾多の敵を倒してきた私が逆にやられるなんて・・・・・・」
「ゲリラ戦、何だそれは?」
 アマゾンは彼女に対して言った。
「何っ!?」
「アマゾン、ジャングルでの戦いをそのままやっただけ。敵の数が多いと分断させて少しずつやっつけていく。これアマゾンがいたジャングルの獲物の狩り方でもある」
「クッ、つまりは普通に戦っているということか、貴様にとっては」
「アマゾ〜〜〜〜ン」
 その時地中からアマゾンの側に出て来る者がいた。モグラ獣人である。
「もう穴は完全に塞いだぜ。これでこの連中は袋の鼠だ」
「何っ!」
 これには流石のカマキロイドも驚いた。
「一体何時の間に・・・・・・」
「御前達が今日ここへ来るのわかっていた。蟷螂が滝のところにいたから。そしてあらかじめ掘っておいた小さい穴を使って御前達を狙った。そして穴も塞いだ」
「・・・・・・つまり最初から我々は貴様等の術中に陥っていたということか」
「そう。そしてアマゾンここで御前達を倒す」
 アマゾンはそう言うと身構えた。

ア〜〜〜〜
 両手を肩の高さで横に大きく開く。手は半ば開き肘は垂直に上にしている。
 身体が変わっていく。まずは緑と赤のマダラのバトルボディに包まれる。
マ〜〜〜〜
 次にその両手を胸のところでクロスさせる。胸が赤くなる。そして手袋とブーツが黒くなり背中と両腕に鰭が生える。
ゾ〜〜〜〜ン!
 もう一度両手を肩の高さに置く。するとその目が赤く光った。
 顔が輝く。まず右半分が緑と赤の仮面に覆われそれが左半分も覆う。

 光が消えた。そこには仮面ライダーアマゾンがいた。
「ケケーーーーーッ!」
 奇妙な叫び声をあげ背中の鰭を動かす。そして両腕を交差させ鰭で音を発した。
 それが合図となった。両者は同時に跳んだ。
 アマゾンの鰭とカマキロイドの鎌が交差する。激しい衝撃音が響いた。
 着地する。そして再びジリ、ジリ、と間合いをとる。
 モグラ獣人は戦闘員達を相手にしていた。アマゾンに特訓で鍛えられた成果が出ていた。今までよりも素早い動きで彼等を次々と倒していく。
 これはアマゾンにとって大きかった。何しろ戦闘員達に邪魔されず怪人との闘いに専念できるのだから。
 だがどのみち今のアマゾンにとっては戦闘員なぞものの数ではなかったであろう。風のように素早い動きでカマキロイドに迫る。眼が紅く光る。
 そして引っ掻き噛み付かんとする。カマキロイドはそれを懸命にかわした。
「クッ!」
 そして左手の鎌を振るい鎌ィ足を放つ。だがアマゾンはそれを見切っていた。
「ケーーーーーッ!」
 上に跳び上がる。そして上の鍾乳洞を掴んだ。
 そこから天井に張り付いた。まさに獣の動きであった。
「甘いよっ!」
 だがカマキロイドも負けてはいない。アマゾンへめがけ鎌ィ足を放つ。
 アマゾンはそれを天井を四つんばいのままかわす。首だけが下を向いている。
「おのれっ、何という奴だ・・・・・・」
 これにはさしものカマキロイドも絶句した。今まで獣とも戦ってきたがこのような相手ははじめてであった。
「けれど、それでこそ倒しがいがあるわ」
 カマキロイドはニヤッと笑った。そして鎌ィ足を放つのを止めた。
 アマゾンはそれを見て地に降り立った。そしてカマキロイドに対して構えを取る。
「この動き、見切れるかしら」
 カマキロイドはススス、と横に動いた。まるで滑るような動きだ。
「ガゥッ!?」
 アマゾンはその動きに戸惑った。そして必死に追おうとする。
 だが速い。アマゾンも俊敏だがカマキロイドの動きも負けてはいなかった。まるで陽炎のような動きである。
「ウフフフフフフフ」
 カマキロイドはアマゾンの後ろに回り込んだ。そして切りつけた。
 しかしそれはアマゾンの予想通りであった。彼は振り向かずに屈んだ。
 そして手の鰭で怪人の足を払わんとする。だが彼が切ったのは幻影であった。
「残念ね。私はここよ」
 カマキロイドの声が上から聞こえてきた。それと同時に鎌が振り下ろされる。
 アマゾンはそれを左手の鰭で受け止めた。ガキイイン、と金属音がした。
「ケケーーーーーッ!」
 アマゾンは上へ蹴りを放った。カマキロイドはそれを胸に受けた。
「グッ・・・・・・」
 そのダメージに一瞬怯んだ。アマゾンはそこに跳び掛かった。
 肩を掴み首筋に噛み付かんとする。しかし怪人はそれを振り払った。
 後ろへ跳ぶ。その後ろは滝であった。
「もう退けないわね」
 カマキロイドは後ろに聞こえる滝の轟音を聞きながら言った。アマゾンは間合いを詰めて来る。
 滝を横に両者は対峙した。そして構えを取る。
 互いに隙を窺う。次の一撃で勝負が決まる。
 動かない。いや、動けないのだ。先に動いたほうが負けるのだから。
 アマゾンもカマキロイドも互いに相手を凝視する。先程までの激しい闘いが嘘のようである。
 アマゾンが横へ跳んだ。まず壁を両足で蹴った。
「何っ!」
 カマキロイドはその動きに驚いた。だが咄嗟に鎌ィ足を放った。
 しかしそれは当たらない。アマゾンは三角跳びの要領で滝に跳び込んだ。
「なっ!」
 これにはカマキロイドも驚いた。自分から死地に跳び込むとは。
「どういうこと・・・・・・」
 カマキロイドは戸惑って滝を見た。何か考えがあるというのか。
「しかし今跳び込んでも・・・・・・」
 危険なのは彼女自身が最もよくわかっていた。アマゾンは水中戦にも長けている。水中での戦いは蟷螂の改造人間である彼女には不利である。
 カマキロイドはそのまま滝の前で立ちすくんでいた。
 後ろでは戦闘員達がモグラ獣人に倒されていっている。もうすぐこちらにも来るだろう。
「考えている暇は無いわね・・・・・・」
 意を決して跳び込もうとした。即座に川から出て森に引き擦り込むつもりであった。
 その時だった。目の前に滝から何かが跳び出て来た。
「!!」
 それはアマゾンだった。既に右手を大きく振り被っている。
「ケーーーーーッ!」
 アマゾンはその右手を一閃させた。それはカマキロイドの額を真一文字に切り裂いた。
「なっ・・・・・・!」
 カマキロイドは一瞬何が起こったのかわからなかった。だが額から噴き出る鮮血と焼けるような痛みが彼女に何が起こったのか教えていた。
「グググ、一体何をやった・・・・・・」
 カマキロイドは額を押さえながらアマゾンに問うた。その傷は致命傷であった。
「滝を登ってきた」
 アマゾンはそれに対し短い言葉で言った。
「御前の意表を衝くにはどうするか考えた。その時滝の事に気付いた」
「そして奇襲を仕掛けたというわけね」 
 彼女は人間態に戻りながらアマゾンに言った。
「そうだ」
「それにしても滝に跳び込みそこから上がって来るとは・・・・・・」
「これガガの腕輪の力。二つの腕輪アマゾンに凄い力与える」
 これまでだとここまでは出来なかったであろう。だがガガの腕輪はそれをさせる絶大な力があったのだ。
「そ、そうだったわね、二つの腕輪があったのだったわ」
 それ等が合わさって発揮される絶大な力のことは彼女も知っていた。だがこれ程までとは。
「それに気付かなかった私が迂闊だったわ。この戦い私の負けね」
 彼女はそう言うとガクリ、と倒れた。
 だが倒れ込まない。何とか踏ん張った。
「けれどこのままじゃいないわよ」
 彼女はアマゾンを睨み付けて言った。
「かってベトナムのジャングルで女豹と恐れられたこの力、また見せてあげるわ。時と場所を変えてね」
 そう言い終えるとゴフッ、と血を吐いた。
「その時を楽しみにしていることね」
 彼女はそう言うと滝に跳び込んだ。そしてその中に姿を消した。
「また来るのか・・・・・・」
 アマゾンは彼女が最後に言い残した言葉を頭の中で反芻した。
「来るなら来い。アマゾン負けない。必ずバダンの奴等皆倒してやる」
 後ろではモグラ獣人が戦闘員達を全て倒し終えていた。こうして大台ケ原での戦いは幕を降ろした。

「馬鹿野郎、今まで一体何処をうろついていたんだ!」
 東京に帰るとまず立花が怒鳴り声で迎えてくれた。
「いい加減携帯の使い方位覚えろ、連絡も出来ないだろうが!」
 彼の怒鳴り声は続く。いつものことではあるがかなりの剣幕であった。
「おやっさん、そんなに怒らないでくれよ。アマゾンも戦っていたんだし」
 アマゾンの横にいる赤褐色の肌を持つ男が言った。何処か土竜に似た尖った顔立ちの男である。
「ん、誰だあんた」
 彼を見て立花は目をパチクリさせた。
「モグラだよ。アマゾンに甦らせてもらったんだよ」
「何だ、御前生きていたのか。しかも人間の姿取りやがって。それならそうと早く言え」
 今度はモグラ獣人に説教をしだした。これはモグラ獣人にとってヤブヘビであった。
「ええっ、何でおいらまで!?」
「そもそも御前等は何事においても突拍子が無さすぎるんだ、大体これまでも・・・・・・」
 立花は二人をさらに叱ろうとする。だがそれをまさひことリツ子が止めた。
「おじさん、まあいいじゃない。アマゾンも悪気があるわけじゃないし」
「そうよ。怪人を倒したんだからそれでいいじゃない」
「うむ、それもそうだが・・・・・・」
 二人に言われ立花も怒りを鎮めた。
「二人に免じて今日はこれで勘弁してやる。今度からは連絡位は入れろよ」
 これで立花の説教は終わった。
「了解」
 二人は答えた。
「わかったんならいいが。じゃあまずこれ使ってみろ」
 立花はそう言って携帯電話をアマゾンに手渡した。
「おやっさん、これ何だ!?」
「これが携帯電話だよ、まずは姿形から覚えなくちゃならんのか」
「御免、アマゾン機械に弱い」
「そういう問題じゃねえって言っているだろうが!」
 再び立花の怒鳴り声が木霊した。かくしてアミーゴの夕暮れは過ぎていった。

森に煌く刃    完



                               2004・1・21

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