『仮面ライダー』
 第二部
 第十一章      街を覆う毒霧

「全くアマゾンの奴にも困ったものだ」
 カウンターで立花はいささか顔を顰め首を傾げながら言った。
「あら、それでも怪人をやっつけたんだからいいと思いますけど」
 それに対してリツ子が言った。
「おい、そう言うがなあ。連絡がとれないとこっちも困るんだ。何処で何やってるかさっぱりわからないからな」
「けれどそれがライダーじゃないかしら。今こっちに帰って来ている人達も殆ど連絡入れませんし」
「だな。こまめに入れて来るのは丈二だけだよ。特に隼人と志郎なんかこっちから連絡入れないと返事もして来ねえ」
 立花はそう言って顔を顰めた。
「隼人の奴はいつもそうなんだ。事前に何の連絡もよこさねえでいきなりフラッと帰って来る。電話もよこさねえんだぞ」
「あら、それでも無事だからいいじゃないですか。連絡が無いのは無事だってことですし」
「・・・・・・まあな。そもそもあいつ等がそう簡単にやられるとはわしも思っちゃいないが」
 立花はリツ子の言葉に少し怯んだ。
「じゃあいいじゃないですか。それに丈二さんからの連絡で大体はわかりますし」
「まあそうだがな。しかし丈二の奴も本当にマメだよ」
 その時立花の携帯に電話が入った。
「んっ、誰からだ?」
 出た。そこには聞きなれた声があった。
「やあおやっさん、そちらはどうですか?」
 それは城茂の声だった。
「おっ、茂か?珍しいな御前が電話してくるなんて」
「ははは、何言ってんですか。俺だって連絡位入れますよ」
「今はじめて連絡してきた癖に偉そうに言うな。大体通信機に入れろって言ってんだろうが」
「まあ細かいことはいいじゃないですか。こうやって連絡したんだし」
「・・・・・・まあいいだろ。御前にしてはまともじゃないか」
「おやっさん、それはないでしょ。いくら何でも」
「そういうことは丈二の奴みたいにマメに入れてから言え。で、今何処にいるんだ?」
「大阪です。ここで何やら変な噂を聞いたもので」
 後ろから騒がしい叫び声が聞こえて来る。
「そうか、大阪か。注意しろよ、そこは道が入り組んでいてややっこしいからな」
「了解、ところでそちらはどうですか?」
「こっちは今のところ何も無いな。まあそのうちバダンもこっちで何かやるだろうがな」
「わかりました。じゃあこっちは素早くやっつけてすぐにそっちへ戻りますよ」
「心配無用だ。こっちには今志郎とアマゾン、それに丈二がいる。御前は安心してそっちのバダンの奴等をやっつけろ」
「はい」
 かくして城は電話を切った。
「城さんから?」
「ああ、一番の風来坊からの電話だよ」
 立花は笑いながら言った。
「あいつが電話して来るってのも珍しいがな。そういえばあっちには誰か行ってなかったか」
「そういえばルミちゃんが行ってなかったかしら。親戚があっちにいるとか」
「そうか。後で茂に連絡入れとくか。バダンの奴等にさらわれたりしたら大変なことになる」
「はい、それがいいですね」
「そろそろ丈二の奴から連絡が入る頃だな。ちょっと行って来る」
「どうぞ」
 立花は通信室に入った。丁度まさひこが通信機の前に座っている。
「どうだ、丈二から連絡はあったか?」
「今日はまだ。あっ、今来ました」
「よし、わしが出る」
 立花が出た。やはり結城からの連絡であった。
「おおそうか、志郎の奴はそっちに無事辿り着いたか」
 立花はその報告に顔を頷いた。
「で、そっちに来客か。・・・・・・伊藤博士?」
 彼はその名に眉を顰めた。
「ご存知ですか?」
 結城は尋ねた。見れば大学のひっそりした人気の無い場所から電話をかけている。
「聞いたことはある。医学や工学の権威だという。最近突如として消息を聞かなかったが」
 立花もその名は知っていた。
「で、何でその人が急にそっちへ現われたんだ?」
「それが・・・・・・。ただやたらと大柄な若い男を連れていますが」
「大柄な若い男か・・・・・・」
 立花はそれを聞いてさらに眉を顰めた。
「もしかするとバダンじゃないのか」
「その線は充分にありますね。今風見が彼を見張っています」
「注意してくれ。今からわしがそっちに行く」
「了解」
 立花はそう言うと通信を切った。そしてまさひこに対して言った。
「済まん、急用が出来た。ちょっと店を開けるぞ」
「はい」
 立花はジープのエンジンを入れた。そして城南大学へと向かった。

 大阪は古来より朝廷にとって重要な場所であった。何故なら港がありそこから渡来してくる者が多かったからである。聖徳太子もこの地に四天王寺を建立している。大化の改新の時には孝徳天皇がここに難波宮を置かれている。
 室町時代には堺が栄えた。この街の商人達は明との勘合貿易で巨万の富を得ていた。
 戦国時代にはここに石山本願寺が本拠地を置いた。そして織田信長とあしかけ十年に渡って死闘を繰り広げた。本願寺の勢力は信長にとって最大の脅威であり彼等との戦いは信長の天下統一を十年は遅らせたと言われる。
 信長もこの地の重要性に注目していた。彼は堺の商人達との関係が深かったが何よりも天然の良港を持ち開発が進んでいるこの地の重要性をよく認識していた。
 彼の後を受け継ぐ形となった羽柴秀吉はこの地に本拠地を置いた。天下の名城大阪城を築き城下町を整えた。彼のお膝元としてこの地はさらなる発展を遂げた。
 だが大阪の陣で焦土となってしまう。幸い大阪の町民達は戦の前に一人残らず避難しており町が焼けただけで済んだ。だが大阪城は紅蓮の中に消えていた。
 だが大阪は再び発展した。徳川幕府がここを再び整えたのである。
 大阪城を再建し城下町を整えた。運河を整備し橋を架けた。なお橋は後に大阪の豪商達が架ける事になったが台風の度に架けなければならずそれが負担で傾く家もありそれが『くい(杭)だおれ』の語源の一つともなった。
 復活した大阪は天下の台所として発展した。徳川幕府は大阪城に大阪城代を置き西方の拠点としたが武士は殆どおらず町民の町であった。商人達が商売に精を出し町民達は生活を楽しんだ。近松門左衛門が浄瑠璃の台本を書き竹本義太夫がそれを動かした。井原西鶴や上田秋成等の文学者を輩出した。長きに渡って商業、町民文化が栄えた。
 明治時代以後もその繁栄は続くが意外な人物がこの町から出ている。明治の偉大な教育者福沢諭吉である。この人は一見堅苦しいイメージがあるが実は現実的で中々面白いざっくばらんな人物であった。彼は大阪の適塾で学んでいたのである。彼もまた大阪で育った人である。
 今も大阪は我が国で屈指の大都市である。雑多な人々と独特な雰囲気で知られる魅力的な街である。
「それにしてもまたえらく変わった雰囲気だな、何時来ても」
 城は難波の道頓堀を歩きながら言った。彼もこの街に何回か来ているがいまいち溶け込めない。関東の人間から見ればこの街はかなり異質なものだという。
「まあそれが面白いって言えばそうだが。とりあえずは何か腹に入れるか」
 彼はまずたこ焼きを食べた。そしてお好み焼きやきつねうどんを食べた。
「食べ物は美味しいな。誇らしげに言うことはあるよ」
 うどん屋から出て来た彼は満足した顔で言った。そして橋の上に着た。
 ここは通称引っ掛け橋という。ナンパしようとする男達がいつもたむろしている。
「誰も引っ掛かってないな。それもそうか」
 見れば声を掛ける男達も単なる暇つぶしのようである。真剣にやっているとは思えない。
 しかし中には性質の悪いのがいるものである。
「まあええやん。そこでお茶でも飲もうや」
 ガラの悪い兄ちゃんが女の子に声をかけている。女の子はそれに対して戸惑っている。
「さあ行こうで。別に何もせえへんからな」
 こう言って何もしない奴がいた例は無い。城は彼等を咎めようとした。
「おい、そこいらで止めろ」
「あん?あんたにそんなこと言う権利・・・・・・」
 そこで彼は拾った小石を握り潰した。小石は砂になった。
「失礼しましたあーーーーーっ!」
 兄ちゃん達はそれを見て逃げ去って行った。実にわかりやすい。
「さて、とお嬢ちゃん」
 城は男達に絡まれていた少女に声をかけた。
「一人でここを歩くのは止めたほうが・・・・・・んんっ!?」
 彼は少女の顔を見て驚いた。何と彼女は一条ルミであった。
「えっ、茂さん!?」
 驚いたのはルミも同じであった。驚いて彼の顔を見上げる。
「そうか、親戚のところへ遊びに来ていたのか」
 彼は金龍ラーメンの店でラーメンを食べながらルミの話を聞いていた。脂っこい豚骨スープのラーメンである。
「はい、丁度お休みですし」
「・・・・・・そういえばそういう時期か」
 城はルミの言葉に頭の中でカレンダーをめくりながら言った。
「こういう稼業やっていると月日の流れを忘れちまうな。俺達にとっちゃあ季節の移り変わりもあまり意味がないしな」
 改造人間である彼等にとって暑さや寒さは問題ない。ただ景色が変わるだけである。
「まあそれが凄くいいんだけれどな。どの季節も味わいがあるし」
「茂さんはどうして大阪に?」
 考えながら独り言を言う城にルミが語りかけた。
「あっ、俺!?」
 城は考え込んでいる時に言葉をかけられていささか驚いた。彼女のことをすっかり忘れていたのだ。
「ええ、そうですよ」
 ルミはそんな彼の顔を見て微笑んだ。おかしかったらしい。
「俺は仕事。ここにもバダンの連中がいるらしくてね」
「えっ、バダンが!?」
 ルミはその言葉に顔色を暗くさせた。
「ちょっと、声が大きいよ。まさかこんなところにうろついているとは思わないけれど万が一ということがあるからな」
「は、はい・・・・・・」
 ルミは城の言葉に思わず口を当てた。
「俺はこれからここでバダンの奴等を捜す。そして奴等を見つけ次第叩き潰す。ルミちゃんは危ないから親戚のところに
行っているんだ」
 彼はルミに対して強い口調で言った。だがルミは彼のそんな言葉に対して首を横に振った。
「何言ってるんですか。城さん一人じゃ危なっかしくて見ていられませんよ」
「えっ、俺が!?」
 彼の事は立花からよく聞いていた。無鉄砲で突拍子もない行動を取る、と。
「それに一人より二人のほうがいいでしょ。泊まる場所もわたしの親戚のお家がありますし」
「しかしそれは・・・・・・」
 いささか気が引けた。カプセルホテルにでも泊まりながら戦うつもりだったのだ。若しくは野宿。これは慣れていた。
「いいんですよ、わたしの親戚の叔父さん優しいし。そうと決まったらすぐ行きましょう」
「う、うん・・・・・・」
 ラーメンを急いで食べ終えルミに急かされて彼は店を後にした。そして市営地下鉄に乗り住吉区まで来た。
 住吉区の名の由来はここに住吉大社があるからである。大阪で最も長い歴史を誇る神社であり祭られている神々も海の神を中心に多い。大阪人にとっては大阪城と並ぶ心の拠り所である。
 ここは所謂下町である。昔からこの地に住んでいる人が多く。雑多で独特な雰囲気がある。道を行けばお好み焼きやたこ焼きの香りがしてくる。そして駄菓子屋では爺さんや婆さんが店番をしている。
「何か東京の下町みたいだな」
 城はルミをバイクの後ろに乗せ辺りを見て言った。
「はい、確かに似ていますね」
 ルミはそれに対して答えた。
「しかし雰囲気がまるで違うな。ここは難波からそのまま来たって感じだ。東京は一駅ごとにまるで違っているってのに」
「それが大阪なんですよ」
 ルミは笑って言った。
「雑多で騒がしい雰囲気で。それが街中に拡がっているんです」
「そうだな。何か難波から来てもまるで違和感がないよ」
 彼はそう言いながら道を走っていく。そしてルミの親戚の叔父さんの家に来た。
「おお、よう来たなあ。まああがりや」
 その叔父さんは気さくでざっくばらんないい人であった。城も心おきなく迎えられた。
 そして客室に泊めてもらった。狭い家だが部屋はちゃんとしている。
「何か変な気分だな」
 布団の中で城は天井を見上げながら呟いた。
 彼は天涯孤独で親戚なぞいない。立花が父親代わりだが彼やライダー達の他は親しい者もいないのだ。
「あいつもいないしな」
 かって共にブラックサタンと戦ったあの戦士ももういない。彼は他のライダー達と比べても孤独な境遇であった。
 彼女が倒れた後彼は他のライダー達と共にデルザーと戦った。そしてデルザー崩壊後は日本を旅立ち一人で悪と戦ってきた。
 時には滝など共に戦う者もいた。だがその殆どを彼は一人で戦い抜いてきた。そして夜の空の下で眠っていたのだ。
「こんなことははじめてだな」
 人の家に泊めてもらう。今まで立花の店で寝ることはあった。だがその他は常にホテルか野宿であった。これも改造人間である彼だからこそ苦でもなかったが普通の人間ならばその負担はかなりのものであっただろう。
 だが戦士としての気は鈍ってはいなかった。この地で暗躍しているであろうバダンを倒す為彼は明日以降のことについて色々と考えていた。

「カマキロイドも倒れたか」
 暗闇大使は基地の一室で戦闘員からの報告を聞いていた。そこはどうやら彼の個室であるらしい。普段の蛇の様な外見ではなく深緑の軍服を着ていた。
 その部屋は暗い。玉座に似た椅子の他は何も無い。だが異様に広くその四隅が何処まであるのか見当もつかない程であった。
「ハッ、ですが遺体は無事回収し終えました」
 その戦闘員はそう言って敬礼した。
「うむ、それならばよい」
 彼はその報告を聞いて満足気に頷いた。
「しかしライダー達のパワーアップは我々の想像を遥かに超えているな」
 彼は戦闘員に対して言った。
「これで七体の怪人が倒された。それと共に七つの作戦も失敗に終わった。日本における我がバダンの計画は奴等のせいで全く進んでいない状況だ」
「残念ながら・・・・・・」
 戦闘員はその言葉に顔を俯けて答えた。
「そなたが謝る必要は無い。責任は全てわしにある」
「ハッ・・・・・・」
 戦闘員はその言葉に畏まった。
「だからこそわしも悔やんでいるのだ。悔やんでも仕方のないことであるがな」
 彼はそう言うと右腕をゆっくりと上げた。すると一枚の日本地図が表われた。
「残る作戦は三つ、そしてゼクロス追撃もしなければならん。あの男の消息は掴めたか」
「それは今ヤマアラシロイドが行なっております」
「そうか、あ奴自らか。奴は怪人の敗北に最も憤っているそうだな」
「はい。顔には出されませんがかなりお怒りのようです」
「だろうな。あいつはそういう奴だ。決して顔には出さないがな」
 彼はそう言うとニイィッ、と笑った。どうやら何か思うところがあるようだ。
「ゼクロスにはあと三影を向けよ。二体ならばそれだけ探索の網も大きくなる」
「ハッ」
「そして後は各地の作戦だが」
 彼はそう言うと宙に浮かぶ地図を見た。
「おそらくそこにライダー達が向かっている筈だ。作戦を担当するそれぞれの怪人達に伝えよ、何としても奴等を退け作戦を成功させよ、とな」
「了解致しました」
「よし、ところで一つ聞きたいことがある」
 暗闇大使はここで戦闘員に顔を向けてきた。
「世界各地に散った同志達はどうしている?」
 彼の目が光った。何か考えているようである。
「世界各地の同志達、ですか?」
 戦闘員は彼の目を見ながら言った。
「そうだ。特に連絡が無いところを見るとこれといって躓いてはいないようだが」
 まるで何かを探るようである。戦闘員はその目に少し恐怖を覚えた。
「・・・・・・今のところ何も」
「そうか、ならば良い」
 その言葉に彼は姿勢を正した。
「だが注意しておけ。まだ我等の切り札は完成してはおらん。それまでは陰に潜み表立って動いてはならんからな」
「御意」
 戦闘員は敬礼をして答えた。
「それに戦力はまだ整ってはいないのだ。完全にはな」
「と、いいますと?」
 戦闘員はその言葉に突っ込んだ。
「それはいずれわかることだ。いずれな」
 暗闇大使はそれに対して口の端を三日月の様に歪めて笑って答えた。
「だが一つだけ教えてやろう。これは『死』に関係があるのだ」
「『死』にですか?」
 戦闘員は暗闇大使のその言葉に首を傾げた。
「そうだ。それがわかる時を楽しみにしているがいい」
「はあ・・・・・・」
 戦闘員はいぶかりながらも答えた。暗闇大使はそれを横目に見ながら一人ほくそ笑んでいた。

 城とルミは朝食を食べた後早速捜査を開始した。まずは住吉大社でこれからの戦いの勝利を祈願した。
「あまり神様とかに頼るのは好きじゃないんだがなあ」
 城は少し苦い顔をしながらも賽銭を入れ祈った。
「まあいいじゃないですか。戦いの前にお祈りをするのは武士のたしなみですよ」
 ルミはその横で微笑んで言った。
「そりゃそうだけれどな。俺は元々神様とか仏様とかには縁が無いからな」
「あらっ、そうだったんですか?」
「ああ。孤児院で育って大学じゃ寮や下宿で暮らしていたしあまりこうしたところに来ることはなかったんだ。そしてライダーになったら余計縁が無くなってな。まあ信じないってわけじゃねえけれど」
 二人はそう言いながら社の前を後にする。そして亀の池を見つつ太鼓橋の方へ向かう。
「ライダーは常に頼れるのは己の力と仲間、それだけなんだ。いや、運も大きいけれどな」
 彼はこれまでの戦いを振り返りながらルミに言った。
「運、ですか?」
 ルミは最後の運に反応した。
「そう、運だ。運があるのとないのとではやっぱり全然違うな。俺は今まで運のおかげで勝ったこともある」
「そうなんですか。運も大事なんですね」
「あまり当てにしちゃいけないけれどな。これを頼りにしていたら失敗する。しかしいざという時にこれがあるなしで何もかもが違うんだ。率直に言うと生きるか、死ぬか、だな」
「大事なんですね」
「まあな。けれど何時その運が回ってくるかは誰にもわからない。気紛れなものさ」
 城はそう言って皮肉げに笑った。
「大抵は土壇場にならないと運ってやつは来ない。しかしそれが回ってくると形勢が一気に逆転するんだ」
「土壇場で逆転ですか」
「そう。だけれど悪い奴等に運が回ってきたことはないな」
「えっ、それはどうしてですか!?」
 ルミはその言葉に驚いた。
「日頃の行いってやつだろうな。やっぱりそういう意味で神様ってのは見ているのかな」
 彼はそう言うと先程参拝した社の方を振り返った。
「きっとそうですよ」
 二人はそう話をしながら太鼓橋を渡る。この橋は大きく上にアーチを描いた独特の形をしていることで有名である。その橋の頂上に来た時その時何者かが二人を取り囲んだ。黒服に黒帽子の怪しげな一団である。
「ムッ!?」
 城はルミを後ろに護り彼等と対峙した。見たところチンピラなどではなさそうだ。
「バダンかっ!?」
 だが彼等は答えようとしない。無言で城に襲い掛かって来た。
「そうか、問答無用ってわけか」
 城は男達の一人の拳を受けながら言った。その声は笑っていた。
「じゃあ俺も手加減しないぜ」
 彼は拳を繰り出した戦闘員を即座に殴り倒した。そして次に来た戦闘員を池に蹴り落とした。
「神聖な神社でこんなことをするのは気が引けるがな」
 そう言いつつ黒服の一団を次々と倒していく。そして一人残らず倒してしまった。
「ルミちゃん、怪我はないかい?」
「あ、はい」
「そうか、それはよかった」
 城はルミを気遣った。幸い彼女は無事であった。
「けれどこの人達一体何なんでしょう」
 彼女は橋の上に倒れている男達を見ながら言った。
「さあね。まあ正体は大体予想がつくけれど」
 男の一人に歩み寄りその帽子を取り外そうとする。その時だった。
「ウォッ!」
 不意に男達の身体から瘴気が出て来た。そしてそれは彼等の身体を溶かしてしまった。
「何と・・・・・・」
 彼等の身体は全て消えてしまった。服や帽子すら残らなかった。
「証拠隠滅というわけか」
「それにしても何という恐ろしい瘴気・・・・・・」
 ルミは溶けて緑色の水溜りになった男達を見ながら呟いた。その顔は青くなっている。
「いや、これは瘴気じゃないな」
 城はさらに溶け消えていくその水溜りを見ながら言った。
「これは毒だな。それもかなりの強さを持つ」
「毒、ですか?」
 ルミは怖る怖る尋ねた。
「ああ。おそらくは。それも即効性の」
 彼は完全に消えてなくなった水溜りの跡を見下ろしながら言った。
「バダンめ、どうやら毒を使う改造人間を送り込んできたな」
 城は忌々しげに呟いた。
「その改造人間で一体何をするつもりだ・・・・・・」
 彼はそう言っていぶかしむ。その後ろで彼を見る影があった。
「フフフフフ」
 その影は神社の社の上にいた。そして城とルミを微笑みながら見ている。
 黒い肌に長身の黒人の男である。スラリとしたモデルのような身体を漆黒のスーツで包んでいる。その髪は黒人のそれとは思えぬストレートの長い髪であり映画俳優のように整った顔立ちをしている。何処かラグクラフト等の怪奇小説に出て来る黒い男に似ている。
 男は城達の姿を見届けるとその場から消えた。そして後には何も残らなかった。

 大阪梅田の地下のある喫茶店。先程の黒服の男が座っていた。
 コーヒーを飲んでいる。ブラックのコーヒーである。
 それを口に入れる。その時側に誰かが来た。
「合席しても宜しいですか?」
 ふと顔を上げる。見るとあの白人の男である。
「どうぞ」
 黒人の男は微笑んでそれを承諾した。白人の男はそれに従い席に着いた。
「メニューは何にするの?」
 黒人の男は彼に尋ねた。
「貴方と同じものを」
 彼は微笑んで答えた。黒人の男はそれに応えメニューを頼んだ。暫くしてコーヒーが運ばれてきた。
 彼はそれを手に取り一口口に含んだ。そして言った。
「美味しいですね」
「でしょうね。ここのコーヒーは有名ですから」
 黒人の男はそれに対し微笑んで応えた。
「ところでそちらの進み具合はどうですか?」
 白人は微笑を浮かべながら尋ねてきた。
「上々ですよ。丁度面白い人もやって来ましたし」
 彼は優雅な仕草で返してきた。
「ほう、それは一体誰ですか?」
「仮面ライダーストロンガーです」
 彼はにこりと微笑んでその名を言った。
「ほほお、彼が来たのですか。それはまた」
 白人の男はその名を聞いて眉を一瞬ピクリ、と上げた。
「何、別に気にしてはいませんよ。最初から誰かが来ると思っていましたし。それにどのライダーが来ようと所詮私の相手ではありませんしね」
「いいのですか?既に七人の同志が彼等に倒されていますよ」
「ならば彼等の仇もとるまでのこと」
 彼は即座に答えた。その整った目に一瞬激しい憎悪の光が宿った。
「それに彼等はもう回収されたのでしょう?」
「はい、本部に収容されました。いずれ本格的な再改造を受けるでしょう」
「なら問題はありませんね。ただ同志達が受けた敗北の辱めは晴らさねば」
「期待していますよ」
「ご安心を。必ずやこの街を死の霧で覆ってみせます」
 彼はそう言うと凄みのある笑みを浮かべた。
「このンジョモ=ガミン、いやドクガロイドの名にかけて」
「そうですか。では吉報を待っていますよ」
 彼はそう言うとコーヒーを飲み終え席を立った。そして店を後にした。
「彼も色々とご苦労なことだ。リーダーにはリーダーの気苦労があるということか」
 ドクガロイドは彼の後ろ姿を見送って呟いた。
「僕にはあまり関係はないが。僕がここでやることは二つしかないしね」
 彼はそう呟くとコーヒーを飲み店の外を見た。
 そこは地下の商店街である。人々がショッピングを楽しんでいる。
「この街を死の街に変えること。そしてライダーを倒すことだ。けれどこれは同時に出来るか」
 そう言うとコーヒーを飲み干し店を出た。そして店の出口でポツリ、と呟く。
「ライダーストロンガーか。破天荒な奴だというけれどどんな奴かな」
 彼は商店街を歩いていった。そして外へと出て行った。

 城茂はルミと共に梅田のオフィス街にいた。そしてバダンの手懸かりを捜していた。
「最近急に人が入ったビルとかはありませんか?」
 城は交番で尋ねた。
「んっ、そこに何か用があるの?」
「はい、実は仕事の依頼をしに来たのです。丁度東京からこちらに進出する為の業務提携の為に」
 城は交番にいる制服姿の警官に言った。怪しまれないよういつもの薔薇のジーンズではなく紺の地味なスーツである。
「成程。それで肝心の場所を忘れてしまったというわけですね」
 警官は微笑みながら言った。わりかし人のいい警官である。
「はい、そうです」
 城は素直に答えた。勿論これは演技である。
「それでしたら・・・・・・」
 警官は地図を指し示しながらその場所を一つ一つ説明した。城はそれを地図に一つずつメモした。
「有り難うございます、これで辿り着けそうです」
「いえいえ、また困ったことがあったら何時でもどうぞ」
 警官は彼を笑顔で送った。別におかしいとは思ってはいないようだ。
「さて、と。これであやしい場所は、と」
 城は歩きながら地図を見てチェックしている。ルミはそんな彼を変わったものを見る目で見ていた。
「んっ、どうしたんだいルミちゃん」
 彼もその視線に気付いた。そして彼女に問うた。
「いえ、城さんってスーツも似合うんだなと思って」
 ルミは彼を見上げながら答えた。
「おいおい、俺だってスーツは着るよ。いつもあのジーンズとシャツじゃないさ」
 彼は笑って彼女に言葉を返した。
「こういった場所で調べるのはあの服装じゃ目立ってしまうからね。こうしたスーツが一番いいんだ」
「ふうん、けれどその手袋はやっぱり変ですよ」
 彼女は黒い手袋を見て言った。
「・・・・・・悪いがこれは外せないんだ。いざという時以外ね」
 彼は顔を真剣なものにして言った。
「あっ、そうでしたね。すいません・・・・・・」
 ルミも彼が言った意味をすぐに理解した。そして謝罪した。
「いや、謝る必要はないよ。これは俺が望んで身に着けたものだし」
 彼は自ら志願して改造人間となったのである。友の復讐の為に。そして自ら望んで超電子人間ともなっている。
 それが他の多くのライダーと違うところだ。風見も家族の仇を討つ為にライダーに志願したし沖も自ら宇宙開発の為に進んで改造人間となった。確かに志願したということでは彼等と城は同じである。
 しかし風見は結局それの頼みをダブルライダーに一度は拒絶されている。改造人間としての哀しみを誰よりも知る彼等はその苦しみを背負うのは自分達だけでいいと思ったからだ。彼がX3となったのはダブルライダーを守り瀕死の重傷を負った時にその命を救う為にダブルライダーが改造手術を行なった時であった。
 沖は戦う為に改造手術を受けたのではない。あくまで人類の夢の為だ。図らずも人の世を脅かさんとするドグマ、ジンドグマと戦うことになったが。
 彼、城茂は最初からブラックサタンを倒す為に改造人間となった。ライダーから改造を施されたのではない。悪の組織の力によって改造人間となったのである。そしてその力をもって悪と戦っているのだ。超電子の力を授けてくれた正木博士ももとはブラックサタンにいた人物である。
「ストロンガー、私を忘れないでくれ」
 ドクロ少佐の火炎攻撃を受け博士は息絶えた。彼はその直前に城にそう言い残している。彼はその言葉を忘れたことはない。
 その超電子の力も今彼の銀の両腕に宿っている。博士の授けてくれた力が。
(博士の為にも俺は戦わなくちゃいけない。そしてバダンの奴等を倒すんだ)
 彼は心の中で言った。手袋を強く握った。
「さ、まずはここへ行こう」
 彼はルミに地図を見せて言った。
「はい」
 ルミはそれに答えた。その時であった。
「捜す必要はありませんよ」
 その時後ろから何者かの声がした。
「誰だっ!?」
 二人は後ろを振り向いた。そこには黒人の男がいた。
「貴様、バダンの手の者か」
 城は彼を睨み付けて言った。
「はい。改造人間の一人ドクガロイドと申します。以後お見知りおきを」
 彼はそう言って微笑んだ。後ろから戦闘員達が現われる。
「ドクガロイドか。だとすると貴様等はこの大阪に毒か何かを流すつもりだな」
「流石は城茂。もう見抜かれたとは」
 ドクガロイドはそう言うとニコリ、と微笑んだ。
「当たり前だ。住吉大社での刺客の溶け方に貴様のその名、それでわからない馬鹿が何処にいるんだ」
「フフフ、それはそうですね」
 彼がそう言うとその後ろの戦闘員達が動いた。そして城とルミの周りを取り囲んだ。
「だとすれば話が早い」
 彼がそう言うと戦闘員達が懐から棒を取り出した。三段になっている特殊警棒に似たものだ。
「俺をここで始末する、というわけだな」
「その通り」
 彼は言った。戦闘員達がそれに応え二人へ一斉に襲い掛かった。
 戦いがはじまった。戦闘員達はその棒を手に襲い掛かる。城はそれに対し素手で立ち向かう。
 城は流石に強い。戦闘員達を軽くあしらっていく。しかし数が違う。
 尚且つルミを庇っている状況である。さしもの城も次第に退いていく。
「まずいな、これは」
 彼もその状況に気付いていた。ドクガロイドはそれを見て笑っている。
「ならばこれしかないな」
 彼はルミの方を見た。そして彼女の身体を掴んだ。
「ルミちゃん、ちょっと御免よ!」
 彼はそう言うとルミを上へ放り投げた。
「えっ!?」
 これにはルミも驚いた。一瞬何が起こったのかわからなかった。
「今だ、喰らえっ!」
 彼はそう言うと両手の手袋を取り外した。中から銀の腕が現われた。
「エレクトロファイアーーーーーッ!」
 その銀の腕の右手を下のアスファルトに叩き付けた。激しい電流が地を伝う。
「ギッ!」
 それはたちまち戦闘員達を襲った。電流に貫かれた彼等はひとたまりもなく地に倒れた。
 電流はドクガロイドも襲った。激しい電流と熱が彼の全身を撃つ。だが彼は微動だにしない。
「ほほお、これがエレクトロファイアーですか」
 彼は余裕をもってそれを受けていた。
「中々心地良い威力です。噂に違わぬ力」
 衝撃が伝い終わった。彼はまだ悠然と立ち微笑んでいる。
「しかし戦闘員達は倒せても僕は倒せないようですね。所詮はその程度の技ですか」
「何!?」
 城はドクガロイドのその言葉と悠然とした態度に顔を顰めた。そこにルミが落ちて来た。
「おっと」
 彼は胸の前で彼女を受け止めた。両腕に抱えるようにして受けた。
「えらく余裕だな。エレクトロファイアーを受けてその台詞とは」
「勿論。バダンの改造人間を甘く考えてもらっては困りますよ」
 彼は言った。そしてその黒い目が妖しく光った。
「来るか」
 彼はルミを降ろし身構えた。彼女はその後ろに匿った。
「いえ、今日のところは大人しく帰るとしましょう」
 彼は目の光を消して言った。
「どのみち我々の勝利はゆるぎないものですし」
 彼は悠然と微笑んで言った。
「それは俺の台詞だ」
 城はそれに対し睨みつけながら言った。
「そうですか。まあいいでしょう、それはいずれわかることです」
 ドクガロイドの足下がゆっくりと浮き上がってきた。
「ムッ!?」
 城とルミはそれを見て目を見張った。
「驚く必要はありませんよ。僕は毒蛾の改造人間ですから」
 彼はそんな二人に対し宥めるように言った。
「空を飛べるのは当たり前。それに今は貴方達に危害を加えるつもりはありません」
 彼は宙に浮かび上がった。そして後ろに退いていく。
「またお会いするその時まで。さようなら」
 彼は姿を消した。後にはその消えていった場所を凝視する城とルミがいた。

「さて、挨拶はあれでいいですね」
 大阪の港のある倉庫の中でドクガロイドは周りを囲む部下達に言った。
「噂に違わぬ男です。油断は出来ませんね」
「ハッ」
 彼の言葉に戦闘員達は敬礼で答えた。
「さて、次の我々の計画ですが」
「予定通り大阪上空から毒霧を降らせますか」
 戦闘員の一人が尋ねた。
「いえ、それは後にしましょう。やはりストロンガーの動きが気になります」
「わかりました」
 ドクガロイドはそれを否定した。尋ねた戦闘員は敬礼でそれに答えた。
「まずはストロンガーの打倒が先です。さもないと作戦遂行すらままなりません」
「ではどうしましょう?」
 戦闘員達が尋ねた。彼はそれに対し微笑んで答えた。
「何、慌てる必要はありません彼はじきにこおへ来ますよ」
「エエッ!?」
 戦闘員達はその言葉にうろたえた。
「何を驚く必要があります?敵が折角来てくれるというのに」
「いえ、しかし」
 冷静なドクガロイドに対し戦闘員達は狼狽しきっている。
「おそらく彼一人で来るでしょう。既に一隊を彼のところへ向かわせています。そして彼に遭ったらすぐに退くよう伝えてあります。発信機を落としてね」
「それでは誘い込むと・・・・・・」
「その通り。そしてその間にもう一隊を・・・・・・」
 彼はそう言うとニヤリ、と笑った。その眼が再び怪しく光った。
「わかりましたね」
 彼は戦闘員達に対して言った。
「ハッ!」
 戦闘員達は彼に敬礼で答えた。そして彼等は闇の中に消えた。
 

 大阪は神戸と同じく港でも有名である。その始まりが港からであり天下の台所、水の都と謳われただけはありその水運の良さは歴史的にも有名である。
 大阪の北から南に至るまでその港は続いている。そこは複雑に入り組みそして様々な船が停泊している。巨大な倉庫が林立している。それは繁栄の証でもある。
 夜の港は独特の雰囲気がある。停泊している船や遠くの街の光が見える。そして時折船の汽笛の音が聞こえて来る。
「さて、と。ここら辺りで消えたな」
 その夜の港を一台のマシンが進んでいる。立花達が新しく改造したカブトローXである。
 それに乗るのはただ一人、仮面ライダーストロンガーだけである。彼はマシンから降りると辺りを見回した。
「いちいち探し回るのも面倒だな」
 彼はそう言うと仮面中央の触覚に右手の人差し指と中指を当てた。
「ライダービデオシグナル!」
 するとストロンガーの眼に少し前のこの場の映像が映った。見れば戦闘員達が右へ逃げていく。
「こっちか」
 ストロンガーは右へ向かった。するとそこには一つの大きな倉庫があった。
「怪しいな」
 入口が少し開いている。もしかするとそこに入って行ったのかも知れない。
 中へ入る。中は真っ暗闇であった。
「ここにはいないか」
 ストロンガーは辺りを見回しながら言った。そして再びビデオシグナルを使おうとする。
「ようこそ、仮面ライダーストロンガーよ」
 その時上のほうから声がした。すると倉庫の中が一斉に明るくなる。
「ムッ!」
 そこに彼等はいた。既にストロンガーを取り囲んでいる。
「必ず来ると思っていましたよ。謹んで歓待いたします」
 ドクガロイドが彼の前に出て来た。相変わらず悠然と微笑んでいる。
「貴方の為にとっておきの催しを用意しておきましたよ」
「それは嬉しいな。で、どんな催しだい?」
 ストロンガーは余裕をもって言葉を返した。ドクガロイドはそれに対して右手を肩の高さに上げて指を鳴らした。
 すると戦闘員達が一斉にナイフを投げて来た。ストロンガーはそれに対して叫んだ。
「電マグネーーーーーット!」
 するとナイフがストロンガーへ引き寄せられた。そして彼の身体に付着した。
 彼はそれを手に取ると戦闘員達に投げ付けた。戦闘員達は自分のナイフで次々と倒れていった。
「ほう、ナイフの腕もお見事ですね」
「生憎アウトドアライフが長かったものでね。ナイフの扱いには慣れているのさ」
 ストロンガーはしれっとした態度で言い返した。ドクガロイドはそれを見て再び微笑んだ。
「成程、それでは次のイベントに移りますか」
 彼はそう言うと目を再び光らせた。するとその目が人のものから昆虫の赤い複眼に変わった。
「来るかっ!?」
 背中から蛾の翼が生えた。そして毒蛾の顔になり身体も毒々しいものに変化していく。
「それが貴様の姿か」
 ストロンガーは怪人に変化した彼の姿を見て言った。
「フフフ、そうさ。どうだい、素晴らしい身体だろう」
「確かにな。禍々しい気がこの倉庫全てを包んでいるみたいだ」
「だけれどね、イベントはこれだけじゃないよ」
 彼は笑った。今度は不気味な笑いであった。
 その笑いを見てストロンガーは本能的に悟った。彼は何か良からぬ策を用いている、と。
「気付いたね。そうさ、イベントはこれだよ」
 彼は獣の爪のように伸びた指を鳴らした。するとその後ろから数名の戦闘員達が姿を現わした。
「なっ!」
 ストロンガーは彼等を見て驚愕した。何と彼等はルミを連れているのだ。
「残念だったね。彼女もこの催しに招待していたんだ」
 ドクガロイドは驚愕する彼を見て勝ち誇った顔で言った。
「彼女がいたホテルまで行って招待したんだ。別れたのが裏目に出たね」
「クッ・・・・・・」
 そうだった。ルミの事を考え彼女をとあるホテルに避難させ自分一人でここに来たのだ。だがそれがかえってこのような
ことになろうとは。
「さて、どうするの?彼女を助けたいのなら・・・・・・わかるよね」
「・・・・・・わかった」
 ストロンガーは両腕を下ろした。それを戦闘員達が取り囲む。

 ストロンガーは城茂の姿に戻され十字架に磔にされていた。ルミも一緒である。
「逃げ出そうとしても無駄だよ。そのロープは特殊な絶縁体のロープだ。決して電気や熱には負けはしない」
 ドクガロイドは城を見て言った。
「それにしてもここで十字架を架けることになるとはね」
 彼はそう言って笑った。そこは大阪城であった。
 この城が豊臣秀吉により築城されたのはあまりにも有名である。また彼はキリスト教を弾圧したことでも知られている。
「あれはスペインの侵略を危惧してのことらしいけれど。まあ正解と言えば正解か」
 その通りであった。スペインの侵略の方法はキリスト教、ここではカトリックの神父達がその尖兵を担っていたのだ。
「さて、この天下の名城で最後を迎えることになるけれど。何か言い残す事はある?」
 ドクガロイドは城の方へ向き直って尋ねた。
「・・・・・・聞きたいか」
 彼はそう言って笑った。
「勿論」
 彼は答えた。この時彼は城の笑いは最後の痩せ我慢の笑いだと思っていた。だがそれは違っていた。
「この程度で俺を捕まえたとは思わないことだ」
「何っ!?」
 その時だった。城はその絶縁体のロープを引き千切った。電気ではない。そのままの力によってだ。
「なっ!」
 ドクガロイドは叫んだ。戦闘員達が彼を再び捕らえようとする。
「甘いっ!」
 城はそんな彼等を何無く蹴散らす。そして右手を挙げて叫んだ。
「カブトローーーーッ!」
 カブトローXが走って来た。そして救出したルミをその上に乗せた。
「行け、安全な場所までな」
 カブトローXはそれに答えなかったがルミを乗せたまま走りだした。そして何処かへ走り去って行った。
「さて、これで気兼ねなく戦えるな」
「クッ、まさかそれ程の力があったとは・・・・・・」
 ルミを見送り安心した顔でこちらへ顔を向けた城に対しドクガロイドは苦々しげに呻いた。
「だがそれでも数は我等が有利、そう簡単にはやらせませんよ」
 今度は彼自身も襲い掛かる。そしてストロンガーを掴み取ろうとする。
「おっと」
 だが戦闘員の身体を盾に彼を阻む。だが徐々に追い詰められていく。
 その後ろはもう石垣の下であった。これ以上後ろに退く事は出来ない。
「さあ、もう後がありませんよ」
 ドクガロイドもそれは察していた。あえて彼に声をかける。
「確かにな。じゃあ飛び降りるまでだ」
 彼はニッと笑ってそう言った。そして本当に飛び降りた。
「何ッ!」
 下を見る。だが姿は見えない。
「何処に行ったんだ!?」
 戦闘員の一人が首を傾げて呟く。それに対しドクガロイドは言った。
「考えている暇はありません。我々も下へ行きましょう」
「ハッ」
 戦闘員達はそれに従った。彼等は下へ向かった。
「確かこの辺りだが・・・・・・」
 ドクガロイドと戦闘員達は城が飛び降りた場所に来た。だがそこに彼はいなかった。
「消えたか・・・・・・?」
「まさか、ついさっきここに飛び降りたばかりだぞ」
 戦闘員達は互いに囁き合う。そして辺りを見回すだが彼の気配一つしない。
「とりあえず右へ行きましょう。おそらくそちらへ行った筈です」
 大阪城は複雑な構造になっている。これは城内に侵入した敵兵や隠密を惑わせる為である。幾多の攻城戦を経験し城攻めの名人と言われた秀吉の作った城だけあり見事なものであった。
 その左手は門となっているあちらへ行ったとは考えにくい。それに対し右は一直線に天守閣へ続いている。そこしか考えられなかった。
「わかりました」
 戦闘員達もそれは悟った。彼等はドクガロイドに従い右へ向かった。
 すぐ上に天守閣が見える。石垣に囲まれた広い場所に出た。
「一体何処にいるんだ」
「まさか消えたのか・・・・・・?」
 戦闘員達が辺りを見回しながら呟いたその時だった。不意に何かが聞こえてきた。
「ムッ、これは・・・・・・!?」
 それは口笛だった。その笛の音に一同ハッとした。そう、口笛を吹く男といえば一人しかいない。
「ここかっ!」
 戦闘員の一人が上の石垣の上にナイフを投げる。口笛を吹く男はそれを手で掴んだ。
「おいおい、口笛への注意にこれはいくら何でもやりすぎだろう」
 城はナイフを横に捨てながら言った。
「やっと見つけましたよ、城茂。ここが貴方の死に場所です」
 ドクガロイドは彼を見上げて言った。それに対し彼はニヤリ、と笑った。
「それはそっくりそのまま貴様等に返してやる。行くぞ!」
 両手の黒い手袋を投げ捨てた。そして両手を大きく動かしはじめた。

 変 
 右手を肩の高さで水平にし左手は肘を直角に曲げ右手と水平にさせる。そしてその両手を右肩の高さからゆっくりと左斜め上へ旋回させていく。それと共に身体は黒いバトルボディに覆われ手袋とブーツが白くなる。
 身
 旋回させる腕が左斜め腕で止まる。胸が赤くなりそれは肩も覆っている。そしてその胸に『S』の文字が浮かび上がってくる。
 スト・・・・・・ロンガー!
 右手を素早く引く。それは一瞬ですぐに元へ戻す。その時左手と擦り合わせる。激しい電撃が両手を覆う。
 すると顔の右半分が黒と白、そして緑の眼の仮面に覆われる。そしてそれはすぐに左半分も覆う。

 凄まじい雷と衝撃が全身を覆う。そしてそれが終わった時そこには雷のライダーがいた。
「天が呼ぶ 地が呼ぶ 人が呼ぶ
 悪を倒せと俺を呼ぶ
 聞け、悪人共 俺は正義の戦士
 仮面ライダーストロンガー!」
 その言葉と共に再び激しい雷が彼の全身を覆った。その光はドクガロイドと戦闘員達の顔を緑に照らした。
「フフフ、来なさい。そしてその首級見事挙げて御覧にいれましょう」
 ドクガロイドは彼を見上げて笑った。まるで戦いを楽しみたいような笑いであった。
「トォッ!」
 ストロンガーは飛び降りて来た。そして戦闘員達を次々と蹴散らしていく。
 やはりその力は圧倒的であった。戦闘員では相手にならない。だがドクガロイドは彼を見ながら考えていた。
(確かに強くはなっているようですが)
 データよりも動きがい。力も強くなっているようだ。だがそれでもまだ充分とは思えなかった。
(この程度なら普通に特訓で上昇するレベルのように思えますね)
 彼はストロンガーはあまりパワーアップしていないと感じた。そしてこれなら大丈夫だと思った。
「では私がお相手しましょう」
 戦闘員達があらかた倒されると今度は彼自身が立ち向かった。そして両手の爪で引き裂かんとする。
「甘いっ」
 ストロンガーはそれを手で弾いた。そして逆にパンチを入れようとする。
「貴方こそね」
 ドクガロイドは逆に言葉を返した。そしてストロンガーのパンチを後ろに跳び退いてかわすと背中の羽根を羽ばたかせた。
「ムッ!」
 それは燐粉であった。ドス黒い粉が辺りを覆う。
「いかんっ!」
 危険を察したストロンガーは素早く後ろへ退いた。それが強烈な毒の粉であることは一目瞭然であった。
「気付かれましたか。だが何時までそうやって逃げられますかね」
 ドクガロイドはそれに対し余裕の笑みで返した。そう、逃げなれないのはわかっている。
 ストロンガーとて逃げるつもりはない。まず両手を胸のところでクロスさせた。
「ストロンガーバリアーーーッ!」
 そして全身を青いバリアーで包んだ。まずは守りを固めた。
 次に両手を前に突き出した。そしてそこから激しい風を出す。
「磁力扇風機!」
 そして粉を磁力の風で全て散らした。だがそれでは被害を拡散させてしまう。
「おや、血迷われましたか?」
 ドクガロイドはそれを見て笑った。だがストロンガーはさらに攻撃を続けた。
「エレクトロサンダーーーーーッ!」
 空中に雷を飛ばした。すると空を暗雲が覆った。
「何とっ!」
 ストロンガーとドクガロイドの間に無数の落雷が生じた。それにより粉は全て焼かれてしまった。
「落雷により毒の粉を全て焼いてしまいましたか。やりますね」
「まだだ、これで終わりだと思うなっ!」
 胸に両手を合わせた。するとそのSの字が激しく回転しはじめた。
「チャーーージアーーーーーップ!」
 角と胸の一部が銀色に変わった。超電子ダイナモの力を使ったのだ。
「行くぞっ!」
 そしてドクガロイドに立ち向かう。これまでとは比べ物にならない強さだ。
「グッ、これまでとは比較にならないパワーだ」
 これまでの戦闘力がまるで子供のように見える程である。しかしドクガロイドはそれでもまだ余裕があった。
(しかしこの力が使えるのも僅かの間)
 そう、超電子の弱点は一分間しか使えないことである。それ以上使えばストロンガーの身体はその力に耐えられず大爆発を起こしてしまう。かって百目タイタンがそれを利用し彼を追い詰めたことがある。
(さて、何処まで耐えられますかね)
 彼は顔こそ必死にそれを受けていたが内心時が来るのを待っていた。そうすれば自然と勝利が手に入るのだ。
(もうそろそろ)
 ストロンガーの攻撃は続く。だがそれももう少しの辛抱であった。
 時間だ。これ以上の超電子の力の使用は不可能である。
 筈だった。しかし彼はまだ使い続けている。
(何っ!?)
 彼は内心叫んだ。そんな筈はない、と思った。
 そこに隙が出た。彼はパンチを受け態勢を崩した。
 ストロンガーはそれを逃さなかった。すかさず跳躍した。
「超電子大車輪キィーーーーーーーーック!」
 空中で両手両足を大きく広げ横に激しく回転する。そしてドクガロイドへ急降下する。
 激しい蹴りが怪人の胸を直撃した。それを受けた怪人は大きく後ろに吹き飛ばされた。
「ガハァッ・・・・・・」
 背中から落ち数回バウンドする。口から血を噴き出す。どうやら肋骨が折れているようだ。
 何とか立ち上がろうとする。だが容易ではない。折れた肋骨が内臓に突き刺さっているようだ。
「グググ・・・・・・」
 人間の姿へ戻る。そして何とか立ち上がった。
「どういうことだ、超電子ダイナモは一分間しか使えない筈では・・・・・・」
「生憎だったな。その超電子を改造したのだ」
 ストロンガーは彼を指差して言った。その証拠か彼はまだ超電子の力を使ったままである。
「これまで超電子は一分間しか使えなかった。だが改造手術を受けることによって変身をとかない限り幾らでも使えるようになったのだ」
「何と、それでは・・・・・・」
「そうだ、この力を無限に使えるのだ。直接変身して使えはしないがな」
 ストロンガーは言った。その両腕を雷が走る。
「すると最初に接近戦を挑んだのは僕を油断させる為に」
「そうだ。最早超電子が一分間しか使えないということはタイタンやシャドウにも知られているしな。だからこそ誘い込んだのだ。これ程上手くいくとは思わなかったが」
「そうか。どうやら知略でも僕の完敗だったみたいだね」
「悪いが俺は負けるわけにはいかない。正義の為にな」
「フッ、それだけはわからないね。最後に勝つのは我等がバダンなのだし」
 ドクガロイドは力を振り絞ってそう言うとニヤリ、と笑った。
「まだそんなことが言えるのか」
 ストロンガーは身構えた。もしもの時の用心にだ。
「そうだ、御前はもう充分やった。これ以上の行動は今度に差し支えるぞ」 
 その時ふと声がした。
「誰だっ!?」
 ストロンガーは声のした方を見た。そこには黒い皮のジャケットを着たサングラスの男がいた。
「あんた・・・・・・一体何者だ?」
 ストロンガーはいぶかしんで声を掛けた。男はそれに対し無言である。
「三影・・・・・・」
 ドクガロイドが彼を見て言った。
「暗闇大使からの命令だ。すぐに本部へ戻れとのことだ。そして再改造手術を受けろ」
「しかし・・・・・・」
「後のことは俺に任せろ。一刻も早く戻らないと手遅れになるぞ」
 三影はドクガロイドを見て言った。彼はその目を見て頷いた。
「・・・・・・わかりました。それでは後のことはお任せします」
「ああ。残った連中は無事この地から撤退させる。安心しろ」
「頼みますよ」
 彼はそう言うと姿を消した。後には三影とストロンガーが残った。
「貴様、バダンの者か」
 ストロンガーは彼に対し言った。
「そうだ。だが安心しろ。今貴様と戦うつもりは無い」
 彼は表情を変えずストロンガーに顔を向けて言った。
「俺はここの作戦の後始末に来ただけだ。貴様を始末しろとの命令は受けていない」
 彼はそう言うと懐から煙草を取り出した。
「それに俺が本気になったら貴様どころかこの街全てを灰にすることも出来る。この煙草を吸い終わるまでの時間でな」
「言ってくれるな。大した余裕だ」
「余裕ではない。正しいことを言っているだけだ。もっとも俺の言葉がはったりかどうかはいずれわかるだろうがな」
「・・・・・・・・・」
 ストロンガーは沈黙した。確かに彼からはとてつもない気を感じるからだ。
「また会うだろう。その時は我がバダンの圧倒的な力を貴様等に見せ付ける時だ」
 彼はそう言うと煙草を手で消した。
「そう、力だ。さっき貴様は正義がどうとか言っていたな」
「それがどうした」
 ストロンガーは彼を睨み付けた。
「一つ言っておこう。力こそ正義、力ある者こそ正しいのだ」
「・・・・・・・・・」
 ストロンガーは何も言わなかった。三影の言葉に賛同したからではない。全く異なる考えを持っていたからだ。
 力の無い正義は悪に敗れる。だが心無い力は正義に敗れるからだ。彼はこれまでの戦いでそれを知った。
「バダンの力、見せてやる。そしてその前にひれ伏すのだな」
 彼はそう言うと姿を消した。後には獣のような気が残っていた。
 
 大阪でのバダンの作戦を阻止した城はルミと共に東京への帰路についた。
「あれ、新幹線は使わないの?」
 ルミの親戚の家を発とうとした城はルミに頼みごとをされたのだ。
「うん、行きも帰りもそうだと飽きちゃうし」
 ルミは城のバイクの後ろに乗りたいと言ったのだ。
「そうか、俺は構わないけれど俺の運転はかなり荒っぽいぜ。それでもいいかい?」
「はい、それも旅の楽しみの一つですし」
「そうか、じゃあこれ被りな」
 彼はそう言うとバイクのシートを取り外してその中からヘルメットを取り出した。
「はい」
 ルミはそれを受け取った。そして頭に被った。
「少し大きいですね」
「あ、済まない。昔の連れのヘルメットなんだ。子供にはちょっと大きいかな」
「城さんのお知り合いの方ですか。立花さんですか?」
「いや、違うよ。それを被っていたのは女の人だったんだ」
 彼は優しい顔をして言った。
「女の人・・・・・・・」
「そうさ、長い間一緒にいた。もう遠いところへ行ったけれどね」
 彼はそう言うと正面へ顔を向けた。そして空を見た。
「遠いところへ?」
「そうさ、とても遠いところだ。二度と会えないような」
「・・・・・・・・・」
 ルミにはそこが何処か何となくわかった。だがそれはあえて口にはしなかった。
「その人のヘルメット、私なんかが使っていいですか?」
「ああ、かまわないよ。あいつも喜んでくれるだろうし」
「はい」
 ルミはそのヘルメットを再び被った。そして城の後ろに乗った。
「行くか」
「はい。おじさん、また来ますね」
 二人はルミの親戚達に別れを告げると。アクセルを踏んだ。エンジンがかかった。
(ルリ子、見ていてくれよ。きっと悪い怪人達のいない世の中にしてみせるからな)
 城は心の中で言った。
(だから見守っていてくれ)
「あれっ、城さん何か言いました?」
 声に出していたのだろうか。不意にルミが尋ねてきた。
「いや、何も」
 城はそれを否定した。バイクが走りはじめた。
「じゃあ帰るか」
「はい」
 バイクはルミの親戚の家を後にした。そしてすぐに車の中に入っていった。


街を覆う毒霧    完




                             
         2004・1・30

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