『仮面ライダー』
 第二部
 第十二章              氷の空に舞う翼

「暗闇大使よ、日本での作戦の進行状況はどうか」
 暗い一室で声がする。あの首領の声だ。
「思わしくありません。ライダー達によりこれまで八つの作戦が失敗に終わりました」
「大阪での作戦も失敗に終わったか」
「ハッ、仮面ライダーストロンガーにより。残った者達は三影英介が全て撤退させました」
「そうか、ライダーのパワーアップは予想以上のようだな」
「申し訳ありません。全ては私の責任です」
 暗闇大使はそう言うと頭を深く垂れた。
「そう自分を責める必要は無い。怪人達は既に再改造に入っているのだろう」
「はい。ライダー達に敗れた怪人達は全て再改造を行なっている最中です」
「うむ、彼等が再改造を終えた時を楽しみにしているぞ」
 首領は嬉しそうな声で言った。
「ところであの兵器の開発はどうなっているか」
 機嫌をよくした首領は暗闇大使に問うた。
「全ては順調です。もうすぐその力を世に示すことになるでしょう」
 暗闇大使もそう言ってニヤリ、と笑った。
「そうか、そして甦った怪人達とあの兵器で日本は我等のものとなるな」
「日本だけではございません。この世界が我等のものとなるのです」
 彼は自信に満ちた声でそう言った。
「フフフ、大した自信だな。流石にあの男と血を分けているだけはある」
 暗闇大使はその言葉に眉をピクリ、と動かした。
「首領、お言葉ですが私をあの男と一緒にしないでいただけますか」
「ほほう、何故だ?」
 首領は声を少し上ずらせて彼に問うた。
「あの男は昔から力押ししか知らぬ単細胞です。しかし私は常に知略で戦ってきました」
 ショッカーの時より地獄大使は前線で陣頭指揮を執ることを好む反面感情的で時として作戦を急に変更したりすることが多かった。その為ダブルライダーにそこを付け込まれ敗北を喫することが度々あった。
「フフフ、そうか。では先程の言葉は取り消すとしよう」
「有り難き幸せ」
 暗闇大使は首領のその言葉に頭を垂れた。
「ところでこの日本での他の作戦はどうなっている?」
 首領はあらためて彼に問うた。
「ハッ、残る二つの作戦はそれぞれ別々の怪人により指揮されています」
「その一つが日本アルプスだな」
「はい、そこにはセルゲイノフ=シュイスキー、いえタカロイドを派遣し指揮を執らせています」
「タカロイドか。あの地での行動にはおあつらえ向きだな」
「はい。あの者ならば今回の作戦を必ずや成功させましょう」
 暗闇大使は自信に満ちた声と顔で言った。
「そうか、期待しているぞ」
「ハッ、お任せあれ」
 暗闇大使はそう言うとその部屋を後にした。部屋を出る時入口に立つ戦闘員達が敬礼した。
「うむ」
 暗闇大使もそれに対し敬礼で返す。そしてある部屋に入った。
「いるか」
 そこは何かしらの研究室のようである。ところどころにフラスコや実験用の器具が置かれている。
 暗闇大使はそこで誰かを呼んだ。すぐに彼の後ろに何者かが表われた。
「お呼びですか、暗闇大使」
 それはあの黒服を着た白人の壮年の男であった。慇懃な態度で口元に穏やかな笑みを浮かべている。
「ゼクロスの行方はわかったか」
 暗闇大使は目だけで彼を見て尋ねた。
「はい。どうやら東京にいるようです」
 彼は静かな口調で言った。
「そうか。東京か」
 暗闇大使はそれを聞いて目を少し光らせた。
「今あの地には誰もいなかったな」
「はい。時折戦闘員達を送り込んでおりますが」
「そうか。しかしあの地に戦闘員達だけではやはり心もとないな」
「そうですね。今関東には我等の作戦を妨害したライダー達が次々と戻って来ておりますから」
「それはわしも聞いている。ストロンガーも戻って来たそうだな」
 暗闇大使は男から目を離して言った。
「ご存知でしたか」
「うむ。ドクガロイドが戻って来たしな。すぐに再改造に入らせた」
「それは私も聞いています。何でも超電子の力を長時間使えるようになっていたとか」
「あの力を長い間使えるようになるとはな。厄介だな」
「はい。しかしそれよりも東京には・・・・・・」
「わかっている。話が最初に戻るな」
 暗闇大使は目を再び男へ向けた。
「ゼクロスをどうするかだ。伊藤博士はどうやら自分のかっての友人達にあの男を見せたいようだな」
「海堂博士や志度博士に、ですか」
「そうだ。だからこそ東京へ向かっているのだろう。さもないとあの場所へ行く筈がない」
「と、なれば城南大学ですか」
「おそらくな。だが気をつけたほうがいいな、あの大学には」
「そうですね。緑川博士の例もありますし」
 緑川博士とは城南大学において生化学の権威であった人物である。本郷の師であり伊藤博士や海堂博士達とは先輩、後輩の間柄である。穏やかな人格者として知られていたがショッカーに脅迫されやむをえなく協力していた。そして本郷を仮面ライダーに改造した。だが良心の呵責に耐えられなくなった彼は本郷を救出し彼と共にショッカーの基地を脱出した。
しかしその途中でショッカーの刺客くも男に殺されてしまう。
 彼等以外にもこの大学はライダー達と何かと縁がある。風見志郎や城茂はこの大学にいたしライダー達がしょっちゅう出入りしている。彼等にとって鬼門の一つなのだ。
「あの大学にライダー達が集結している可能性もある。いや、おそらく少なくとも二人はいるだろう」
「二人、ですか」
 男はその言葉に眉を顰めた。
「立花藤兵衛や滝和也もいる。このままではゼクロスは奴等の手に落ちてしまうだろう」
「そうなるとまずいことになりますね」
「ああ。これまでそれで多くのライダーを敵に回してるからな」
 彼等悪の組織により改造されたライダーも多いのである。
「それだけは避けねばならん、行ってくれるか」
 暗闇大使はようやく本題に入った。鋭い眼で彼に言った。
「了解しました」
 彼はすぐにそれに答えた。
「頼むぞ。今あの地に行けるのは御前しかいない。三影もここに戻り次第すぐに向かわせる」
「いえ、彼は必要ありません」
 男はそう言ってニヤリ、と笑った。
「ほほう、大した自信だな」
 暗闇大使はその言葉を聞いて目をほんの少しだが細めた。
「ゼクロスのことは私一人で充分です。それに」
「それに・・・・・・?」
「もしライダー達がいるのならそれはそれで好都合。同志達の仇を討てますしね」
 彼はそう言うと目の光を強めた。それは憎しみで光っていた。
「そうか、流石は怪人達の長だけはあるな」
「それだけではないですがね。仲間の仇は地の底まで追い詰めて仇をとる。それが我等バダン怪人軍団の掟ですから」
「そうだったな、それを忘れていた」
「報告をお楽しみに。ゼクロスのことはお任せを」
 彼はそう言うと姿を消した。後には気配一つ残ってはいなかった。
「期待しているぞ、フフフ」
 暗闇大使はそれを見送って笑った。地の底から響く地獄の鬼のような笑いであった。

 筑波洋は日本アルプスにいた。丁度長野県と岐阜県の境の辺りである。
「ふう、やっぱり何時来てもいいな、ここは」
 彼はハングライダーに乗り下を見下ろしていた。下は雪で白く化粧された山々が連なっている。
『洋さん、そっちはどないでっか』
 不意にヘルメットの通信機に声が入る。がんがんじいの声だ。
「こちらは今のところ何もないな。そっちはどうだ?」
 筑波はマイク越しに彼に対して言った。
『こっちも何もないです。見渡す限り雪と山ばっかりですわ』
 がんがんじいは実際に山々を見渡すような声で言った。
「わかった、暫く休憩しよう。今からそちらに向かう」
『了解』
 筑波はそう言うと通信を切った。そしてハングライダーを旋回させた。
「ここにはいないか。次は槍ヶ岳の方へ行ってみるか」
 彼はそう言いながらグライダーを飛ばした。そしてある山の上に着地した。
「それにしてもここはえらく寒いところでんなあ」
 がんがんじいは缶詰を開けコンビーフをパクつきながら言った。
「ああ、我が国の屋根と言われているところだしな」
 筑波はコーヒーを飲みながらそれに答えた。見れば食べ物を温める道具やアルコールランプ等が置かれている。
「だから防寒器具をたっぷり用意したんですな。凍えんように」
「うん、ここは下手をすると凍死しかねないようなところだからな」
 筑波は顔を引き締めて言った。
「えらく怖いところでんな」
「山はね。急に自然が変わるし雪崩もある。一瞬たりとも油断は出来ないんだ」
「流石ですな。伊達にハングライダーやってたわけやありませんわ」
「おいおい、がんがんじいだって俺との付き合いは長い筈だろう。今までこういった山で何度も活動してきたじゃないか」
「あ、そういえば。ナスカも高原でしたし」
「そう、あそこも結構ややこしいところだったしな。ここも気が抜けないぞ」
「はい」
 がんがんじいは乾パンを食べながら彼に答えた。そして最後に熱い紅茶を飲む。
「それにしてもバダンはここで何をするつもりですやろなあ」
「うん、それなんだが。雪崩でも起こそうとしているんじゃないかな」
「けどそれでしたらありたきりですやろ。わいはどうも連中が何かでっかいことを企んでいるような気がするんですわ」
「でっかいことって?」
「そこまでは・・・・・・」
 がんがんじいはここまで言うと口をくぐもらせた。
「ただ何となくそんな気がするんですわ。連中はネオショッカーの頃からそうした事をしますから」
「確かにな。色々とやってくれた」
 東京全滅作戦にダムの破壊作戦。ゼネラルモンスターも魔神提督も派手な作戦をよく計画した。
「魔神提督の作戦は何かと奇をてらったものが多かったがな。その分苦労させられた」
 筑波はあの時の戦いを思い出しながら言った。その時の経験が今の彼を支えている。
「ここで何をやるかはまだわからない。だが気を抜いてはいかないな」
「はい。連中そこに付け込んで来ますからな」
 二人は食事を終えると缶詰や容器を直した。そしてすぐにその場を後にした。

「あれっ、おやっさんは?」
 アミーゴに戻って来た本郷猛は立花がいないことに首を傾げた。
「あらっ、城南大学に行ったけれど」
 店番をしている純子が彼に話した。
「城南大学・・・・・・。一体何の用だろう」
 本郷はその話を聞いて考え込んだ。
「おい本郷、何言ってるんだよ。城南大学にすぐ集まってくれっておやっさんから言われてるだろう」
 そこへ店の奥からある男が姿を現わしてきた。
「一文字」
「すぐに行こう、おやっさんが待っているぜ」
「ああ。しかし何故ここに」
「それは御前が来るのを待っていたのさ。一人より二人のほうがいいだろ」
「何言ってるのよ、さっきからコーヒーやケーキせびっていた癖に」
 純子が口を尖らせて言った。
「おいおい、こんな時に本当の事を言うなよ」
「今言わなくて何時言うんですか。まったくデストロンと戦っていた時と全く変わってないんだから」
「ハハハ、一文字は相変わらずだな。まあいい、城南大学に向かうか」
「ああ」
「あっ、隼人さんコーヒー代」
「つけにしておいて・・・・・・って駄目かな」
「当然です。私そういうの嫌いなんですから」
 彼にとって不運だったのは今ここにいるのが純子だったことか。彼女はチコやマコと比べてしっかりとした真面目な人間なのである。それが立花の信頼を得た最大の理由の一つでもある。
「はいよ、じゃあこれで」
「有り難うございます」
 一文字はコーヒー代を払って店を後にした。店の前では本郷が待っていた。
「行くか」
「ああ」
 二人はバイクに乗るとエンジンを入れた。そして店を後にした。
「それにしても全く正反対なのに何であんなに仲が良いんだろう」
 純子は走り去っていく二人を見ながら呟いた。
「正反対だから今までやっていけてるのかな。お互いを補い合うってことで」
 彼女はふとそう考えた。
「それに私なんかが考えもつかない事が色々とあるんだろうな。それだけ長い間戦ってきたんだし」
 その通りであった。二人は共に長きに渡って共に戦ってきた。だからこそ培われてきた絆なのである。
 二人は城南大学へ進む。十字路に出た。そこで一台のバイクと合流する。
「敬介か」
「どうも。アマゾンは先に行ってますよ」
 彼は二人に対して言った。そして三人となり十字路を前へ進む。
 城南大学へ着いた。その正門にはアマゾンがいた。
「三人共、こっち」
 アマゾンは三人を案内する。そこは休憩所だった。
 そこに立花はいた。風見も一緒だった。
「おう、三人共来たか」
 立花は彼等の姿を見ると声をかけた。
「おやっさん、どうしたんですかいきなり城南大学に呼んで」
「そうですよ、ここで何かあったんですか」
 本郷と一文字は立花に声をかける。
「そうだ、何かあったんだよ」
 立花は険しい目をして二人に言った。
「まさかバダンが!?」
 神が言った。
「いや、違う。違うがかなり厄介なことになっちまっている」
「厄介な事!?」
 三人は口を揃えて言った。
「そうだ、実はこの大学に伊藤博士という人が来たんだが」
「伊藤博士・・・・・・・。この大学で物理学を修めていたあの伊藤博士ですか?」
 本郷が言った。
「その人なら俺も知っているぞ。物理学の世界的権威の一人で数々の賞も貰ったっていう。最近行方不明だったと聞くが」
 一文字も言った。
「そう、その伊藤博士だよ。海堂博士や志度博士を訪ねて来たんだ」
「お二人に・・・・・・。何故ですか?」
 神が尋ねた。
「それはこれから言う。悪いが来てくれ」
「はい」
 三人は立花に従った。風見とアマゾンもそれに従う。
 五人のライダーと立花は改造室へ向かう控え室へ向かった。かって自分達が再改造を受けたあの部屋の隣にある。
「まさかまたここへ来るとはな」
 一文字が部屋に入って言った。
「ああ。もう来る事は無いと思っていたが」
 本郷がそれに合わせるように言う。二人共何故か不思議な気分になる。
「御前達にとっちゃあ何かと考えさせられる場所だろうな」
 立花は二人、いやそこにいる五人に言った。
 彼等はライダーになりたくてなったのではない。少なくとも最初は。風見とて肉親の死が無ければ改造人間になろうとは思いもしなかったであろう。
 しかし改造手術を受けライダーとなった。機械の身体となったのである。
 その苦悩は果てしなかった。だが悪と戦う為それを心の奥底に封印しているのだ。
 本心では改造手術なぞ受けたくはない。だが悪と戦いそれを討ち滅ぼす為にはどうしても必要だったのだ。
「・・・・・・・・・」
 彼等は何も語らない。そんな彼等に対し立花は強い、それでいて優しい声で言った。
「だけどな、御前達の決意があるからこそこの世界は悪に支配されずにすんでいるんだ。それだけは忘れないでくれよ」
「はい・・・・・・・・・」
 彼等はその言葉に頷いた。ライダー達のことを誰よりもよく知る立花の言葉だけに心に響くものがあった。
「ところで結城さんは?」
 神が尋ねた。
「海堂博士達のところへ行っている。何かの手伝いをしているらしい」
 風見が言った。
「そうですか。あの人も何かと忙しいですね」
 その時扉が開いた。
「ガウッ?」
 アマゾンがそちらへ顔を向けた。そこには彼等が見知った男がいた。
「おやっさん、たった今戻りましたよ」
 城茂であった。ルミも一緒である。
「おう、戻ったか。その分だと大阪の方はカタがついたみたいだな」
「ええ。中々手強い奴でしたけどね」
 城はそう言うと部屋に入って来た。
「まさかここに来ているとはね。正直驚きましたよ」
「ああ、海堂博士達のことが気になってな」
「というと伊藤博士とも何か関係が?」
 本郷が尋ねた。
「ああ。博士と一緒にいる男のことでな」
 立花はそう言うと目を光らせた。
「一緒にいる男!?」
 風見以外のその場にいるライダー達が思わず声をあげた。
「そうだ。実は大柄でやけにたくましい男が一緒にいるんだがな」
「その男が何か?」
 神が目を光らせた。
「それについてはこっちへ来てくれ」
 そこに結城が入って来た。
「結城」
 風見が彼の方へ顔を向ける。他のライダー達もそれに続く。
「実は皆に見て欲しいものがある」
 その顔は仮面の様に動かない。まるで見てはいけないものを見てしまったかのように。
「おい、どうしたんだ一体」
「いつもの結城さんらしくない」
 一文字とアマゾンが彼の様子を変に思い言った。
「ちょっと来てくれ」
 結城はそれに答えず同志である六人のライダー達に言った。
「・・・・・・何か重大なことらしいな」
 本郷は彼の表情と様子を見て言った。
「よし、行こう。一体何処だ」
「こちらです」
 結城はライダー達を連れて外に出た。立花も一緒である。
 しかしルミは残った。自分の考えで残った。何故か自分は行ってはいけないと思ったからだ。
 結城が案内したのは改造室を下に見る部屋だった。そこから改造の検査や指示を行なうのだ。
「おお、皆来てくれたか」
 そこには海堂博士がいた。志度博士も一緒である。
「博士、一体どうしたんですか」
 一文字が尋ねた。二人はその問いに表情を暗くさせた。
「君達に会って欲しい人がいるんだ」
 海堂博士はそう言うと部屋の奥の扉を手で指し示した。するとそこから一人の白衣の男性が現われた。
「貴方は・・・・・・伊藤博士じゃないですか」
 風見はその人物の顔を見て言った。かって城南大学で細菌研究に従事していた彼はその博士の顔を知っていたのだ。
「久し振りだね、風見君」
 伊藤博士は風見の顔を認めると微笑んで言った。
「本郷君や城君もいるな。君達の活躍は聞いているよ」
「はい」
 彼は本郷とも面識があった。共にある研究に従事していたこともある。
 城は彼の講義を受けていたことがある。もっとも講義は寝てばかりであったようだが。
「そして貴方の事も。立花さん、またお会いしましたね」
 立花に顔を向けて言った。
「ええ。あの時はまさかこんなところでお会いするとは思いませんでしたよ」
 立花は彼に対して言った。
「私もですよ。二人に話を聞いて貴方があの立花藤兵衛と知った時は本当に驚きました」
「おや、そうですか。わしも有名になったもんですなあ」 
 立花は笑って言った。
「そう、おやっさんは確かに有名人ですからね」
 一文字がそこで口を挟んだ。
「そう歴代の組織にとっては俺達ライダーの協力者として目障りな存在だったのだし」
 神も言った。その言葉に一同気を張り詰めた。
「そういやそうだったな。おやっさんが命を狙われたことなんかしょっちゅうだったし」
 城が言った。彼のこの言葉に一同は思い当たった。
「おやっさんの事を知っているとは。博士、貴方まさか」
 風見が博士を見て言った。博士はそれに対し口を開こうとする。
「それは私が言おう」
 志度博士が口を開いた。
「伊藤君にとっても自分で話すのはあまり気分がいいものではないだろうし。伊藤君、それでいいかな」
「話してくれるか、申し訳ない」
 伊藤博士は友の申し出に感謝の意を述べた。
「伊藤君は今までバダンに捉われていたんだ。彼の頭脳に目をつけた連中に拉致されてね」
「やはり。連中のやりそうなことだ」
 一文字が眉を顰めた。それは他の者も同じだった。
「そしてバダンの行いに我慢出来なく遂に組織を脱出したんだ。一人の青年と共に」
「青年?それは今何処にいる?」
 アマゾンがそれに対し問うた。
「そこにいるよ。見たまえ」
 志度博士はそう言うと下にある改造室を指差した。
 改造室はガラス越しに下を見ることが出来る。部屋には様々な機械や機具が置かれている。
 そしてその中央には寝台が置かれている。ここにいるライダー達もあの寝台に横たわり改造手術を受けた。
 今寝台には一人の若い男が寝かされている。逞しい上半身は裸で下半身は白いスラックスである。
 男は目を閉じ眠っている。どうやら麻酔で寝かされているようだ。
「あれっ、アミーゴで博士と一緒にいた青年じゃないか」
 立花は彼の姿を見て言った。
「博士と一緒?じゃああの青年は・・・・・・」
「ああ。彼もバダンにいた」
 本郷に対し海堂博士が答えた。
「そうだ、村雨良という。私のかっての友人の息子さんだ」
「村雨?ひょっとして村雨教授のことですか」
「おや、知っていたか」
 博士は神の言葉に目を動かした。
「はい。生物学の分野で有名な人ですからね。しかし十年以上前にドライブの最中奥さんと一緒に事故死したと聞いていますが」
「ああ。確かに彼はもうこの世にはいない。あそこにいる村雨君は彼の忘れ形見だ」
「そうだったんですか。彼があの村雨博士の」
 神は下の改造室を見下ろして呟いた。
「そう、南米の大学に留学していたが今はこうして日本にいるんだ」
「その前にはバダンにいた、ですね。やはり彼も連中にさらわれたんですか?」
 風見の言葉に三人の博士は顔を暗くした。
「・・・・・・そうだ。そして私と共にここまで来たんだ」
 伊藤博士が言った。
「それで何故あそこにいる?ここにいないほはどうしてだ?」
 アマゾンが尋ねた。
「アマゾン、それは・・・・・・」
 結城が彼に言おうとする。
「まさか・・・・・・」
 皆薄々は感じていた。だが確たる判断は避けていた。それを降すのは心の奥で抵抗があったからだ。
「皆これを見てくれ」
 志度博士はそう言って数枚の大きな写真を取り出した。それはレントゲン写真だった。
「な・・・・・・・・・」
 それを見た結城以外のライダーと立花は息を飲んだ。そこには彼等がよく知る身体が映し出されていた。

筑波とがんがんじいは日本アルプスの探索を続けていた。二人で北から南に降りながら続けていた。
「やはり何もありまへんなあ」
「ああ。もしかしたら、というような場所は多いのにな」
 夜テントを張り二人はその中で話していた。
「ひょっとしたらワイ等のことに気づいてるんちゃいますか?」
 がんがんじはふとその言葉を口にした。
「どうしてだい?」
 筑波はそれについて尋ねた。
「いえ、連中も何かしら計画してたら当然ワイ等の事を警戒しますやろ。そうしたらやっぱり見つからんようにするやろしワイ等をどっかで監視しますやろし」
「そういえばそうだな。俺もハングライダーで上から探し回っているがあれはかなり目立つしな」
「そうでっしゃろ。ここは地道に二人で歩いて探しませんか?」
「う〜〜〜〜ん、そうだなあ」
 筑波はその言葉を聞いて考え込んだ。
「そうしてみるか。連中も俺達の姿が見えないと逆に俺達を捜して偵察隊とかを出して来るだろうし」
「そうそう、そしてそこを叩いて連中の情報を聞き出せばええですやん」
「よし、そうしよう」
 二人はこれからの捜査のやり方を決定した。そして翌日早速それを実行に移した。
 それから三日後だった。二人は辺りを探る不審な一団に気付いた。二人はそれを認めると岩陰に隠れた。
「あれでっしゃろか」
 がんがんじいは筑波に尋ねた。
「多分な。やはりかなり気になっていたみたいだな」
 筑波はその不審な連中を見ながら答えた。
「がんがんじいは右に回ってくれ。俺は左に行く」
「へい」
 がんがんじいは筑波の言葉通りに動いた。
「気をつけてくれよ。今は鎧を着ていないんだからな」
「はい」
 彼はそう答えると右の岩山に消えた。
「この辺りの筈だが」
 その男達は辺りを探りながら前へ進んでいる。一見登山者風だがその目付きが彼等がそうではないことを教えている。
 彼等は二つの大きな岩の間に来た。その時だった。
「ムッ!?」
 右からがんがんじい、左から筑波が現われた。そして彼等を瞬く間に倒していく。
「クッ、しまった!」
 彼等も応戦しようとする。だが不意を衝かれ対応が取れない。一方的にやられていく。
「バダンだな」
 筑波は残った最後の一人の後ろに回りその首を絞めながら問うた。
「グググ・・・・・・」
 彼は答えようとしない。だがそれはもうわかっていることだ。
「言え、この地で一体何をしようとしている」
 筑波は問い詰めた。喋れるようにきつくは締めていない。
「言えば命だけは助けてやる。さあ言え」
 命、という言葉に彼は反応した。
「本当か!?」
「俺達はバダンとは違う、約束は守る」
 筑波は言った。
「そうか、それなら・・・・・・」
 彼は言おうとした。しかしそれは出来なかった。
 その時何処からか何かが飛んで来た。そして男の胸を打った。
「ガハッ・・・・・・!」
「ムッ!」
 それは鳥の羽根だった。それもかなり大きいものだ。
 羽根は男の胸を貫いていた。どうやら心臓を貫かれたらしい。男は即死していた。
「口封じでんな。奴等の常套手段や」
 がんがんじいはそれを見て忌々しげに言った。
「ああ。これでふりだしに戻りか」
 筑波は男の胸からその羽根を抜き取り舌打ちした。
「・・・・・・しかし大きな羽根だな。こんな大きな羽根は見た事が無いぞ」
 彼はその茶色の羽根を見ながら言った。どうやら何かしらの猛禽類の羽根らしい。
「どうやらここにいる改造人間のタイプだけはわかったみたいだな」
 彼は言った。がんがんじいはその言葉について尋ねた。
「それは?」
「おそらく鳥の改造人間だな。多分空も飛べるんだろう」
「空でっか」
 がんがんじいはそう言うと上を見上げた。青く澄んだ空である。
「ああ。望むところだ。空なら俺の庭場だからな」
 彼も空を見上げた。そこに戦いの場を見ていた。

 二人は次の日も捜査を続けた。やがて怪しげな一団を見つけた。二人はそれを認めると身を隠した。
「またいますな」
「ああ、また俺達を探しているんだろう」
「そう、その通りだ」
 その一団のうちの一人が言った。
「何っ!?」
 筑波もがんがんじいもその言葉に驚いた。人には聞こえない筈の距離なのに。
「俺を甘く見るなよ。これ位の距離ならよおく聞こえるぜ」
 そこにいるのは銀の髪に褐色の肌を持つ男である。整った目は黒い。青い上着に白いズボンを身に着けている。山にいるとは思えない軽装である。
「出て来な。相手をしてやるよ」
 彼は筑波達の方へ顔を向けて言った。二人はその言葉に従い姿を現わした。
「感謝するぜ。俺の言葉通り出て来てくれてな」
 彼はそう言って微笑んだ。
「まずは名乗ろうか。俺はマオイ=デ=カナム。人間だった頃はオーストラリアにいた。所謂アボリジニーってやつだ」
 アボリジニーとはオーストラリアの先住民である。
「人間だった、か。今は違うというのだな」
 筑波は彼を見据えて言った。
「ああ、その通りだ。今はバダンの改造人間さ」
 彼はニヤリ、と笑った。
「タカロイド。それが今の俺さ」
「タカロイド・・・・・・。それでは昨日の羽根は貴様のものか」
「その通り。秘密を知られるわけにはいかなかったものでね。口封じってやつだ」
「だが生憎だったな。あの羽根でここにいる改造人間のタイプがわかった」
「それは迂闊だったな。しかしどの道あんた等はここで死ぬんだから構わないだろ。こう言っちまうとあいつを始末した意味も無くなっちまうけれどな」
 彼はシニカルに笑ってそう言った。
 その言葉と共に彼の周りにいる男達が服を脱ぎ捨てた。戦闘員達が現われた。
 そして筑波達を取り囲む。タカロイドはそれを見て笑っている。
「挨拶はこれ位にしておくか。死にな」
 その言葉が号令となった。戦闘員達が一斉に襲い掛かる。
 二人は拳を振るった。そして戦闘員達を倒していく。
 筑波もがんがんじいも伊達に今まで多くの戦いを潜り抜けてきたわけではない。棒を手にする戦闘員達を寄せ付けない。
 逆に棒を奪った。そしてそれで戦闘員達を打ちのめしていく。
「へえ、やっぱり強いね。じゃあこっちも本気を出すか」
 タカロイドは二人を見て言った。そして両腕を胸のところでクロスさせた。
 背中から翼が出た。そして顔が羽毛に覆われていく。
 口が嘴となる。そして指が鋭い爪になる。
「それが貴様の本当の姿か」
 筑波は彼の姿を見て言った。
「そうさ。どうだい、格好良いだろう」
 彼は自信に満ちた声で筑波に対して言った。
「姿だけじゃないぜ。俺にはこんな素晴らしい力がある」
 そう言うと背中から一枚の羽根を取り出した。そしてそれを筑波へ投げ付ける。
「ムッ!?」
 筑波はそれを見て危険を察した。咄嗟にがんがんじいを突き飛ばす。
「洋さんっ!?」
 弾き飛ばされ尻餅をついたがんがんじいは思わず彼の方を見た。その彼のいた場所は爆発に包まれていた。
「これで一丁あがり。楽だねえ」
 タカロイドはその爆発を見て言った。顔には笑みが浮かんでいる。
「これで俺達の計画を邪魔する奴はいなくなった。安心して計画に取り組めるな」
「それはどうかな」
 その時上から声がした。
「へえ、生きていたみたいだな」
 タカロイドは上を見上げて言った。そこには彼がいた。
 緑の空を舞うライダースカイライダー、彼がそこにいたのだ。
「じゃあ俺もそこに行かせてもらうか。折角空を飛べるんだしな」
 彼はそう言うと翼を羽ばたかせた。そして空に飛び上がった。
「行くぜ」
 彼はスカイライダーの高さに上がるとそう言った。そして背中の羽根を投げ付けた。 
 スカイライダーは横に滑った。そしてその羽根をかわす。
 タカロイドは羽根を次々に投げ付けた。だがそれは全く当たらない。
「やるねえ、やっぱりそう簡単には当たらないか」
 タカロイドはそう言ってまた笑った。そして羽根を投げるのを止めた。
「じゃあやり方を変えるか。接近戦だ」
 彼は背中の翼を羽ばたかせた。そして前へ突進した。
 そして両手の爪で切り掛かる。ライダーはそれを紙一重でかわした。
「むう・・・・・・」
 風を切る音がした。ライダーはその音を聞いて思わず声を漏らした。
「どうだ、俺の爪は。当たると怪我位じゃあ済まないぜ」
 彼はそう言うと再び切りつけて来た。スカイライダーはそれに対し振り下ろして来た左腕を掴んだ。
「ムッ!?」
 そして背負い投げを加える。タカロイドはバランスを崩し下へ投げ落とされる。
 しかし羽ばたき姿勢を取り戻す。そして空中で体勢を元に戻しライダーの方へ向き直る。
 そこへライダーが急降下する。そして膝蹴りを浴びせようとする。
「甘いな」
 だがそれは受け止められた。そして今度は彼が地面へ投げ付けられる。
 しかしそれより前にライダーは体勢を整えた。そして上へ上昇しパンチを食らわせる。
「グフッ」
 そのパンチは腹に入った。タカロイドは思わず声を漏らした。
「効いたぜ、噂以上のパンチだ」 
 タカロイドはそれでもまだ余裕のある口調であった。見掛け以上の耐久力を持っているようだ。
「どうやらあんたを倒すのはそうそう簡単にはいかないようだな。今日はこれ位にしておこう」
 そう言うと間合いを離し上へ飛び上がった。
「クッ、待て!」
 スカイライダーはそれを追おうとする。だがタカロイドはそれを振り切るかのように上空へ飛び去った。
「速いな、何という翼の動きだ」
 ライダーは怪人が消えた方を見て思わず呟いた。後には蒼い空が拡がっていた。

「逃げられたんは残念でしたな」
 戦いが終わり筑波とがんがんじいはテントの中で夕食を採っていた。
「ああ。だが怪人のタイプもわかったし収穫はあったな」
 筑波は乾パンを食べながら言った。
「空を飛ぶ怪人でっか。それでしたら洋さんにとっては別に苦にはなりませんな」
「そうともばかり言えない。あいつの飛翔能力はかなり高いぞ」
 筑波はがんがんじいの言葉に対して首を横に振って言った。
「それに空からの奇襲はライダーになっていない時には対処が難しい。例えば今襲われたらどうだ」
「そ、それはかなり怖いでんな」
 がんがんじいは筑波の言葉に顔を振るわせた。
「だろう。まして今はこんなちっぽけなテントだ。襲われたらひとたまりも無い」
「確かに。あいつ爆弾まで使いますからなあ」
「まあ夜は心配無いだろうけれど。あいつはタカの改造人間だし。いや、改造されているから一概にそうとは言えないか」
「そうでんな。バダンがそんなとこ見逃すとは思えませんし」
「これからは交代で見張りをしよう。何時奴等が来てもすぐに対処出来るように」
「はい」
 こうして二人は交代で見張りをするようになった。一人がテントの外で見張りもう一人が中で休む。そうして夜の間は見張りをしていた。
「成程ねえ。考えたものだ」
 それを離れた空の上から見ている者がいた。
「俺の目が改造されている事も感付いていたか。やっぱり切れる奴みたいだな」
 タカロイドである。人間態で背中から翼を生やしている。
「まあこうでなくちゃあ面白くはない。楽しませてもらうとするか」
 彼はそう言うとその場を飛び去った。後には風だけが残った。
 翌日筑波とがんがんじいは捜査を続けた。だが手懸かりは得られなかった。
「昨日の事で警戒しているな。上手く隠れている」
 夕刻になった。筑波は沈もうとする夕陽を見ながら言った。
「ええ。それにどっかからワイ等を見ているみたいでんな」
 がんがんじいは空を見上げて言った。
「多分な。だがそれは仕方無い」
 筑波は夕陽から目を離して言った。
「今日はもう休むか」
「えっ、もうでっか!?」
 がんがんじいは筑波の言葉に驚いた。彼はいつも夜になってもまだ捜査をしようと言うのに。
「ああ。今日はもう見つけられそうにもないしな」
「はあ、そうでっか」
 呆気に取られながらもそれに従った。二人はテントを張り食事を採るとすぐに休息に入った。
「何だ、もう休んでいるのか」
 指令室でタカロイドは上空に飛ばしている看視カメラ搭載の小型監視機が映し出す映像を見ながら言った。
「またえらく早いですね」
 監視機を操縦する戦闘員も言った。指令室からリモコン操縦しているのだ。
「ああ。だが監視を続ける必要はあるな」
「そうですね」
 夜になった。テントの外にはがんがんじいがいる。あの例の鎧を着ている。
「そろそろライダーが出て来るかな」
 だがライダーは出て来なかった。がんがんじいがずっとテントの外にいる。
「?どういう事だ」 
 タカロイドはそれを見ていぶかしんだ。
「まさかずっと寝ているのでしょうか」
「それは無い。あの男は他人にやらせて自分だけ寝ているような男じゃない」
 彼は戦闘員の言葉を否定した。
「もしかして何か企んでいるのか?」
 彼はふと考えた。奇襲はどのライダーも得意戦術にしている。特に自由に空を駆るスカイライダーはそれが特に有効なライダーの一人である。
 その時であった。映像が突如として消えた。
「ムッ、どうした!?」
「わかりません、操縦も全くききません」
 監視機を操る戦闘員が言った。
「クッ、どうやらライダーに発見されたか」
 タカロイドは舌打ちした。彼の予想はある程度的中したのだ。
「すぐに偵察隊を出せ。奴等から目を離すわけにはいかん」
「わかりました」
 すぐに偵察隊が出された。彼等はハングライダーに乗りテントへ向かう。
 だがそこにテントは無かった。ライダーもがんがんじいもいなかった。
「おのれっ、監視されていると察して場所を変えたか」
 彼は報告を聞いて顔を顰めた。
「くまなく探せ。そして何としても見つけ出すんだ」
「わかりました」
 戦闘員達はタカロイドからの指示を受け捜索を続けた。だがライダー達は一向に見つからない。やがて朝になった。
「仕方無いな。一旦戻れ」
 タカロイドは彼等を基地へ帰した。戦闘員達のハングライダーは反転して戻って行く。それを見る影があった。
 次にはタカロイド自らが出てライダー達を探した。だが結局彼等は見つからなかった。
「おかしいな、一体何処に消えたんだ」
 彼は基地に戻り首を傾げて言った。
「もしかするとここから去ったのではないでしょうか」
 入口に入ろうとする彼に対して戦闘員の一人が言った。
「それはない。我等がここにいる限りはな」
 彼はそれを否定した。
「この日本アルプスの地下で核爆発を起こし地殻変動を起こさせ日本に大地震を起こす。この作戦を知っているかどうかまではわからんがな」
「そうですね。もし奴等がこの作戦を知っていたら絶対に阻止するでしょうね」
「そこまで知っているとは思えんが。だが俺達の存在を知っているならば絶対に来る、それが奴等ライダーだ。それだけは心に留めておけ」
「わかりました」
「そして作戦の進行状況はどうなっている?」
 タカロイドは話題を作戦の方へ向けた。
「ハッ、順調です。あとは時限装置を入れ爆発させるだけです」
「よし、そうなればもうここに留まる必要も無くなる。後は本部で作戦成功の祝杯を挙げるだけだな」
「はい。ライダー共の悔しがる姿が目に浮かぶようですな」
「うむ。連中を倒すのは何時でも出来る。今は作戦を成功させるのを優先させねばな。だが」
 彼は上機嫌で話した後顔をキッとさせ戦闘員達に言った。
「ライダー達の監視は続けなければな。そして一刻も早く捜し出せ」
「わかりました」
 戦闘員達は敬礼した。タカロイドはそれを受け基地へ入って行った。
 それを岩陰から見る影があった。
「聞きましたか、今のを」
「ああ、予想通りだな。とんでもない事をかんがえているな」
 影は二人いる。岩陰で話している。
「これは悠長にやっている場合じゃない。行くぞ」
「はい」
 二人は岩陰に隠れながら進んだ。そして基地の入口に近寄る。
 入口には戦闘員達がいる。二人は彼等を倒し中に入った。 

 基地内に警報音が鳴り響く。皆その音に驚き慌てて部署に着く。
「一体何事だ!?」
 タカロイドが指令室に入って来た。既に怪人態になっている。
「大変です!核爆弾の時限装置が全て破壊されました!」
 戦闘員の一人が狼狽した声で報告した。
「何っ!それで爆弾はどうなった!」
「信管を全て取り外されています!最早爆発を起こす事は不可能です!」
「クッ、ライダー達の仕業か!?」
 彼は一連の報告を聞き咄嗟に彼等に考えを巡らせた。
「おそらく何時の間にか基地内に侵入したものと思われます」
「しかしこの場所をどうやって・・・・・・クッ、あれか」
 彼は悟った。偵察隊が尾行されていたのだ。
「どうやら監視機の存在に気付きそれを破壊したら偵察隊を送る事まで考えていたようだな。やはり一筋縄ではいかん奴だ」
「爆弾は如何致しましょう?」
「最早何の意味も無い。捨てておけ。どうせライダー達が解体してしまう」
「ハッ」
「それよりももうここにいる意味は無い。本部へ撤退するぞ」
「わかりました」
 タカロイドの言葉に従い戦闘員達は基地の脱出に取り掛かった。
 ハングライダーで次々と飛び立つ。最後にタカロイドが出た。その翼を羽ばたかせる。
 彼等は空から逃げた。空は白い。早朝だからか。
「・・・・・・この空を何時か紅蓮に染めてやる」
 タカロイドはその白い空を見て言った。破壊と殺戮、そして恐怖。それがバダンの世界なのだ。
 前から何かが飛んで来た。見ればハングライダーである。
「まさか・・・・・・」
 戦闘員の一人がそれを見て呟いた。それに乗っていたのは彼だった。
「来たか・・・・・・」
 タカロイドもその姿を見て呟いた。筑波は真っ直ぐにこちらへ飛んで来る。
 ハングライダーはもうすぐ前に来た。彼はそこで飛び降りた。
 
 スカイ・・・・・・
 両腕を脇の下に引っ込めた。そしてまず右の拳を突き出す。
 それはすぐに引っ込めた。左手の平をひろげて突き出しそれを手刀にした後右へ持って行く。
 身体が黄緑のバトルボディに包まれる。腕と胸は赤くなり手袋とブーツが黒くなる。
 変身!
 左手を右から左へ旋回させる。そしてその左手を脇に入れ右手を左斜め上へ突き出させた。
 顔の右半分が黄緑の仮面に覆われる。そして左半分も。その眼は深紅である。

 光が全身を覆った。そしてそこには空に立つライダーがいた。
「やはりここで戦う事になったか」
 タカロイドはスカイライダーを見て言った。
「この前の勝負の決着、今着けてやる!」
 スカイライダーは彼を指差して言った。
「フン、望むところだ。行くぞ!」
 タカロイドも言葉を返した。戦闘員達のハングライダーが前に出た。
 戦いがはじまった。ライダーは自分の周りを舞うグライダーを見た。
 戦闘員達はグライダーを操りながらグライダーに取り付けられているボウガンを取り出した。そしてそれをライダーへ向けて放って来た。
「トォッ!」
 スカイライダーはそれを素早い飛翔でかわす。そして左右に激しく舞う。
 グライダーに近寄る。そして戦闘員に拳を浴びせる。
 別のグライダーの上に来た。その翼に蹴りを入れ穴を開ける。
 こうして戦闘員達のグライダーを次々と落としていく。空中を自在に舞うライダーにとって小回りの利かないグライダーは敵ではなかった。
 グライダーは瞬く間に全て落とされた。残るはタカロイドだけとなった。
「やってくれたな。作戦を潰してくれただけでなくこうして追って来てくれるとはな」
 彼はライダーを見据えて言った。
「貴様等が例え地の底に逃げようとも追う、そして倒してやる!」
 スカイライダーはその言葉に対し毅然と見据えて言った。
「地の底か、言ってくれるな。そこへ行くのはあんただけでたくさんだがな」
 タカロイドは羽根を取り出した。
「この大空から叩き落としてやる、覚悟しろ!」
 羽根が放たれる。ライダーはそれを横に飛びかわす。
 羽根が爆発した。それはライダーを追うように次々と爆発していく。
 今度は乱れ撃ちを仕掛けて来る。だがそれも悉くかわされる。
「やるな」
「この程度!」
 ライダーとて負けてはいない。一気に間合いを詰めてきた。
「ならば!」
 今度は爪が来た。ライダーはそれを紙一重でかわした。
 爪を左右に振るう。だがその大きさのせいか大振りであり隙が大きい。
「糞っ、何てすばしっこさだ」
 タカロイドは肩で息をして言った。
「空中でこの俺の攻撃をかわすだけでも信じられねえってのに」
「生憎だったな。俺は元々空を飛ぶ為に改造されたライダーだ」
 ライダーは怪人を見据えて言った。
「確かにな。だがまだ勝負はこれからだぜ」
 怪人はそう言うと翼を大きく広げた。
「ムッ!?」
 そして羽ばたいた。そこから羽根を撒き散らしてきた。
「これはっ!?」
 羽根はライダーの周りに飛んで来た。そして纏わり着いてくる。
「ウッ!?」
 羽根が触れた。すると肌を切った。
「どうだ、中々切れるだろう、俺の羽根は」
 タカロイドは切られたライダーの身体を見て言った。
「俺の羽根は爆発したり手裏剣にしたりするだけじゃない。こうした使い方もあるのさ」
 彼が話している間も羽根はライダーの身体に纏わり着きその身体を切っていく。
「一つ一つのダメージはそれ程大きくはないが全身を切る。全体のダメージは大きいだろう」
「クッ、確かにな」
 羽根が全て地に落ちた。その時にはライダーの全身はズタズタに切られていた。
「これだけじゃねえぜ。これが爆弾の羽根だったらどうなる?」
 その威力は尋常なものではないだろう。如何にライダーといえどひとたまりもないことは明らかである。
「最後に勝つのは俺だったな。名残惜しいがこれで終わりだ」
 翼を再び羽ばたかせようとする。勝ち誇っているのかその動作はゆったりとしている。
「させんっ!」
 しかしライダーはまだ諦めてはいなかった。間合いを離した。
「間合いを離そうが無駄だあっ!」
 タカロイドは羽根を放ってきた。それはライダーに向かって行く。
 ライダーはそれに対し両手両足を大きく開いた。そして激しく回転した。
「スカイフライングソーサーーーーーッ!」
「何ッ!」
 そのまま円盤の様に回転する。そしてそのままタカロイドめがけ突き進んで来る。
 羽根はその風圧により全て吹き飛ばされてしまう。そしてライダーの周りで爆発していく。
「チイイッ、そうしたやり方もあるというのか!」
 ライダーは迫る。そしてタカロイドの側まで来ると蹴りに移った。
「スカイキイーーーーーック!」
 蹴りがタカロイドの胸を打った。衝撃が彼を打った。
 吹き飛ばされた。そして地へと落ちて行く。
 背中から地面へ叩き落された。数回バウンドし倒れ込んだ。
「ガハアアアア・・・・・・」
 人間の姿に戻った。胸は陥没している。肋骨が折れているようだ。
 スカイライダーが着地してきた。彼の側に立っている。
「やってくれたな。まさかあんなやり方があるとは」
 タカロイドは彼を見て言った。立つ事は出来なかった。気力を振り絞って言った。
「咄嗟の事だったがな。まさか成功するとは思わなかった」
 ライダーは彼に対して答えた。
「咄嗟の事、か。それを成功させるとは流石だな」
 かれはそう言うと口から血を吐いた。
「今回は俺の負けだ。だが次に会う時があったらこうはいかねえぜ」
 彼はそう言うと爆発した。そしてその中に消えていった。
「・・・・・・また甦ってくるつもりか」
 ライダーは怪人の最後の言葉を思い出し呟いた。
「何度でも来い。その度に倒してやる」
 それが彼の信条だった。例え敵が幾度甦り向かって来ようとも倒す、それがライダーだと思っていた。
「さて、と。核爆弾を処分しなくてはな」
 彼は空へ飛び上がった。そして基地の方へ飛んで行った。
 
 核爆弾の処分を終えた筑波とがんがんじいは東京へ戻った。そしてがんがんじいはアミーゴへ戻った。
「あれっ、洋さんは?」
 店にいた飛田が尋ねた。
「城南大学へ行きましたで。何か呼び出しがあったらしくて」
「ふうん、そうかあ。そういえば今あそこにライダー達が集まってるそうだね」
「ライダーが?また改造手術でも受けてるんでっか?」
 がんがんじいは飛田に尋ねた。
「いやあ、そこまでは知らないけどね、悪いけど」
「そうでっか。まあ居場所がわかればそれでええですわ」
 彼はそう言うとガレージへ向かった。そこには立花か谷がいる筈だからだ。
「一応帰って来たら顔だけは見せんとな」
「立花のおやっさんも谷のおやっさんもいないよ。二人共城南大学へ行ったよ」
 史郎が彼に言った。
「えっ、おやっさん達もでっか?」
「うん。最初は立花のおやっさんだけだったんだけどね。谷のおやっさんも呼ばれてね」
「おやっさんが二人共でっか。何かえらいことになってるんちゃいまっか」
「かもな。呼び出された時の谷のおやっさんの顔はハンパじゃなかった」
「あれっ、滝さん」
 滝は深刻な表情でガレージに入って来た。
「もしかするとあそこでどえらい事ないなってるのかも知れねえぞ。さもないとおやッさん達だけでなくライダーまで全員集まるなんて事ありえねえからな」
「今うちの兄貴もあっちへ向かったよ。携帯で連絡受けた途端顔色が見る見る変わっていったけど」
 そこへチョロがやって来た。かっては泥棒をしていたが改心してスーパー1の協力者になった男だ。人懐っこい表情に何処と無くひょうきんな仕草である。
「あの沖がか。一体何が起こっているんだ」
 滝はチョロの言葉を聞き腕組みをして考えた。
「まさかバダンが・・・・・・」
 飛田が言った。
「いえ、それはありません。もしそうなら我々にも連絡が入っている筈です」
 黒い皮の服の男が入って来た。
「あんたは・・・・・・」
「滝竜介。インターポールの捜査官だ。俺や役の先輩だ」
 滝が竜に替わって言った。
「そうです。バダンの報告を受けて日本にやって来ました。よろしくお願いします」
 竜は微笑んで彼等に挨拶した。
「金沢では結城さんと一緒に行動させてもらいました。そしてこちらにやって来たのです」
「おいらも忘れないでくれよ。折角久し振りに日本に来たんだし」
 モグラ獣人もひょっこりと姿を現わした。ライダー達を脇で支えた男達が勢揃いしたのだ。
「あれっ、健と役がいねえな」
「二人は別行動です。佐久間君はルミちゃんを迎えに行ってますよ」
 ふと気付いた滝に竜が言った。
「それで役の奴は単独で捜査、か。それにしてもあいつもあれで独自行動が好きだな」
「滝君は人の事言えないですね」
 そこで先輩がきつい一言を出した。
「まあそうですけどね。ただあいつは急にいなくなる事が多いんですよね」
「そういえばそうだなあ。さっきまでカウンターにいたかと思ったらすぐいなくなるし何時の間にか店にいたりするし。何処か行動が掴み所が無いんだよなあ」
 史郎が首を傾げながら言った。
「まあバダンの奴やなかったらええですやん。ワイ等の仲間やのは確かやし」
 がんがんじいがそんな史郎に対して言った。
「そうだな。少なくとも御前よりは落ち着いてるし」
「あっ、滝さんそりゃあ酷いですよ」
 痛いところを疲れた彼は困った顔をして言い返した。彼等は和やかな雰囲気で束の間の休息を楽しんでいた。

 その時役は新宿にいた。ビル街が入り組んだ街中を歩いていた。
 彼は走っていた。まるで何かから逃れるように。
 街を歩く人々はそんな彼に目もくれない。ただ何かしらの用事で急いでいるとしか思っていないのだ。
 ビルの路地裏に入った。そしてその中を進む。
 上から何かが跳んで来た。それを察した役は懐からサイレンサーを着けた拳銃を取り出しその何かへ向けて発砲した。
 重いものが落ちる音がした。生物なら水分を多量に含んだものが落ちる音がしただろう。しかしその落ちた音は鉄の音であった。次に電気がバチバチと鳴る音がした。
 それはバダンの戦闘員であった。前からも来た。
 役はその戦闘員にも発砲した。戦闘員は攻撃を仕掛ける暇も無く倒れた。
 右のビルの扉に入った。そして上へと続く階段を昇って行く。
 屋上に出た。もう戦闘員は追って来ない。上手く振り切ったようだ。
「ここならもう大丈夫だな」
 彼はそう言うと懐から何かを取り出した。それは緑の丸い石だった。
「ほう、面白いものを持っているな」
 その時何処からか声がした。
「そこかっ」
 役は自分が昇って来た階段の入口の上へ向けて発砲した。
 だが弾丸は弾き返された。そこにいた男が素手でそれを弾いたのだ。
「インターポールは礼儀作法がなってないな。こんな挨拶がマニュアルにあるのか」
 そこにいたのは三影だった。役を不敵に見下ろしながらそう言った。
「言ってくれますね。追って来たのはそちらでしょうに」
「ふ、確かにな」
 彼は懐から煙草を取り出しそれに火を点けながら言った。
「それが何かは知らんが気になる。大人しく渡してもらおうか」
「生憎ですが貴方達には無用の長物ですよ」
「しかし貴様等にとってはなくてはならないものだろう。渡してもらう理由はそれで充分だ」
「随分強引な理論ですね」
「それがバダンだ。理屈なぞ要らん、力さえあればいいいのだ」
 彼はそう言うと下に跳び下りて来た。
「だが安心しろ。俺は他の多くの連中とは違う。約束は守る。だからそれを渡せば今日は御前の命を預けておく」
「今日は、ですか。随分と自信がおありで」
「俺はバダンの中でも選び抜かれた男、俺に適う者は一人を除いていない」
 彼はそこで口調を微妙に濡らした。
「そう、一人を除いてな」
 サングラスの奥の目が光ったように感じた。だが役はそれに気付きながらもあえて黙っていた。
(どうやら複雑な事情があるようですね)
 三影は下に下りただけでこちらに近付いては来ない。ただ立っているだけである。
「さて、返答を聞かせてもらおうか。渡すのか、渡さないのか」
「それはもう決まっています」
「では聞かせてくれ」
「ノー、です」
 彼は微笑んで言った。顔は笑っていたが声は笑ってはいなかった。
「そうか」
 三影はその返答を聞くとサングラスを外した。
 その左眼は普通の人間の眼であった。だが右眼は違っていた。
 感情の無い機械の眼である。それが役を睨んでいた。
「消えろ」
 彼は一言そう言った。すると肩から何かを発射した。
「ムッ!?」
 それは砲弾だった。次々と役めがけ放ってくる。
 役は跳んだ。だがそれは三影も予想していた。空中めがけ砲撃を続ける。
 爆発が役の身体を包んだ。そして彼はその中に消えた。
「素直に渡していればいいものを」
 三影は爆発が消え去るのを見ながら言った。そしてサングラスを再びかけようとする。その時だった。
「ムッ!?」
 気配を察した。その気配は遥か遠くへ去って行く。
「逃げたか。どうやって逃れたかは知らないが」
 彼はサングラスをかけず手に持ってその気配がした方を見た。その向こうあの男は行った。
「やってくれるな。どうやらライダーだけではないらしい」 
 踵を返した。そして階段を降りて行く。
「次はこうはいかん。手加減はしないぞ」
 彼はそう言うと街の中へ消えて行った。それを遠くから見る男がいた。
「ふう、危ないところでしたね」
 それは役だった。あるビルの上で何処から取り出したのか水晶から彼を見ている。
「ですがこれで失われたものが戻りますね」
 彼は水晶に映る映像を消した。そしてそれを懐に納めた。
「では行きますか」
 彼はビルを後にした。静かに階段を降り彼もまた人ごみの中に消えて行った。


氷の空に舞う翼   完




                               2004・2・6




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