『仮面ライダー』
 第二部
 第十三章              拳砕ける時

「それにしてもどうやら大変な事になりそうだな」
 沖一也はXマシンを駆りながらふと呟いた。
「何があったかは知らないが谷のおやっさんのあの様子・・・・・・。只事じゃないぞ」
 携帯から聞こえて来る谷の声は明らかに狼狽していた。多くの戦いを経てきた彼があんな声を出すのは珍しかった。
「それにしても仙台から帰ってきたらすぐにこれか。チョロの奴もアミーゴに戻ってすぐ何かやってるみたいだし大変だな」
 彼はそう言って微笑んだ。
「それにしても仙台での戦いも凄かったな」
 彼は仙台での戦いを思い出した。

 仙台は東北最大の大都市である。独眼流と言われた戦国大名伊達政宗が開いた街である。
 政宗は奥州の名家伊達家の嫡男として生まれた。それだけで将来を約束されたように見えるが実際は違っていた。病により幼い頃に片目を失った母に嫌われ弟と家督を争っている。そしてその結果彼を切腹に追いやっている。
 その母もまた伊達家の宿敵最上家の人間でありその実家との争いもあった。その上佐竹家という強大な敵もあった。多くの戦いの最中父も殺されている。この時まだ若い彼は父を連れ逃げようとする男が脅迫するにも関わらず発砲を命じている。その結果父は殺されたがその男もまた殺された。
 かくして伊達家の主となった彼は幾多の戦いを経て奥州の覇権を握った。彼が率いる鉄砲騎馬隊は恐ろしいまでの強さであった。しかし時代が悪かった。
 戦国の世は終わろうとしていた。織田信長の後を受けた豊臣秀吉が天下統一の最終段階に入っていたのである。
 佐竹氏が豊臣に従った今彼は逆賊となる。戦っても豊臣の圧倒的な力の前には勝てる筈もない。彼は面子を捨てて小田原を攻める秀吉の前で膝を屈した。
 この時死に装束で着た彼を見て秀吉は内心驚いた。そして彼を認めたのである。
 だが彼の能力と野心もよく知っていた。彼を仙台に移し目付けとして合津に蒲生氏郷、その後は上杉景勝や直江兼続を置いた。これは如何に秀吉が彼を恐れていたかに他ならなかった。
 徳川家康もそれは同じであった。常に彼を警戒していた。だがそれを察していた彼は表向きは妙な行動を避けた。そして領地経営に専念し仙台藩の基礎を築いた。以後仙台藩はお家騒動もあったが江戸時代を通じて大藩であり続けた。
 その伊達家の本拠地がこの仙台である。『森の都』として知られ美しい街並を誇っている。
「寒いと思ってましたけどそれ程でもないですね」
 街中を歩きながらチョロが言った。
「ああ。意外と暖かいな」
 沖もそれに同意した。
「ただ単にさっき食べたばかりだからそう言えるのかも知れないけれどな」
 彼はそう言って微笑んだ。
「牛タン美味しかったですね」
「ああ。噂には聞いていたがあんなに美味しいとは思わなかったな」
「今度はホヤ食べましょうよ。俺あれが大好きなんですよ」
「俺はホヤはちょっとなあ。匂いがきついし」
「そんなの一度食べたら気にならなくなりますよ。かえってその匂いがたまらなくなる程で」
「そうか、そんなに言うんなら食べてみるか」
「ええ、お勧めしますよ」
 二人はそう言いながら仙台の街を歩いて行く。そして喫茶店に入った。
「あれ、喫茶店にホヤはありませんよ」
「そんなことはわかってるよ。ホヤは夕食だ」
 沖はチョロを窘めてテーブルに着いた。そして懐から一枚の地図を取り出した。
「さて、と。仙台の街だが」
「意外と横に長いですね」
「ああ。それに従って事件も横に伸びているな」
 沖は地図に書かれたバツの字を指し示しながら言った。
「武道家の連続誘拐事件。もう数十件にもなっている」
「何か噂によると勝負を挑まれてそれに敗れると連れさらわれるらしいですね」
「ああ。仮面を被った男らしいな」
 今この仙台では格闘技を嗜む人物が次々と姿を消す事件が起きている。そしてそれは謎の男が勝負を挑み負けると何処かへ連れ去ると言われているのだ。
「何かおとぎ話めいているが多分バダンだな」
「そうでしょうね。だからここへ来たんですし」
 さらわれた武道家の格闘ジャンルは多岐に渡る。柔道や空手もあればボクシングやマーシャルアーツ、八極拳もある。中には剣道等武器を使うものもある。
「武器を使う人までさらわれているな。相手は素手ではないかも知れないぞ」
「怪人もいるんでしょうかね」
「多分いるだろう。どんな奴かまではわからないが」
「そうですか。何か俺達が行くところって絶対怪人が出るなあ」
 チョロはそう言って溜息をついた。
「おい、何言ってるんだ。怪人を倒すのが俺達の仕事の一つだろ」
 沖はそんな彼に苦笑して言った。
「安心しろ、怪人の相手は俺がする。チョロは俺のサポートをしてくれ」
「わかりました」
 二人は話を終えると店を後にした。そして再び街中に出た。

「計画は進んでいるか」
 地下に置かれた基地のモニターに暗闇大使の顔が映っている。
「ハッ、順調に集まっております」
 その前に一人の痩せた男がいる。髪を短く刈り込んだアジア系の若い男だ。中国の拳法義を着ている。
「そうか。それは何よりだ」
 暗闇大使はその言葉を聞いて満足気に笑った。
「我等の尖兵となるべき人材・・・・・・。多いにこしたことはありませんからな」
「そうだ。優れた格闘家はそれだけでも充分我等の力になる。だが改造すればさらに良い」
「新たな我等の同志、ですな」
 男はそう言うとニヤリ、と笑った。
「そうだ。改造人間にすべき人材となるのだ」
「そしてその生まれ変わった彼等が我がバダンの新たな力になる」
「その為にはより多くの人材が必要だ。わかっているな」
「それはもう。おかげでこの拳が休まる暇がありません」
 男はそう言うと右手を掲げてみせた。細く、それでいて引き締まった手である。
「だがそれが貴様の本望ではないか?かって中国で伝説の闘神と呼ばれた貴様にとっては」
 暗闇大使はそう言うと男を見てニヤリ、と笑った。
「そうですかな。まあ確かにこの拳が今は満足していると言ってますよ」
 男はそれに対しとぼける様に言った。
「満足しているか。だがまだまだ物足りないのではないか?」
「確かに。しかしいずれライダーを倒すのですからな。今からその事を思うと楽しみではありますが物足りなくはないですな」
「ライダーを、か。そちらも期待しているぞ」
「お任せ下さい。いずれライダーもこの拳で屠ってやりますゆえ」
「ハハハ、上手くやれ」
 暗闇大使はそう言うとモニターから消えた。男は黒くなったモニターの画面を見てニヤリ、と笑った。
「ライダー、か。そのライダーかは知らんが」
 男は笑いながら言う。
「この俺の前に来るその時が最後だ。伝説の拳を見せてあの世に送ってやる」
 男はそう言うと暗闇の中に消えた。後には殺気だけが残っていた。

「さて、どうするかだな」
 沖はホテルの一室でチョロに対して言った。
「どうやらその男は夜にしか出ないみたいですね。そして夜道で勝負を挑むとか」
「夜、か」
 沖はふと窓を見た。もう真夜中である。
「その方が何かと便利だからな。だがそれはそれでやり易いな」
「やり易い、って何か考えてるんですか?」
「ああ、ちょっと耳を貸してくれ」
「はい。何ですか?」
 チョロはそう言うと沖の話を聞いた。聞いて彼は頷いた。
「それがいいですね。ありふれたやり方ですけど」
「ああ。ならやるか」
 二人は頷き合った。そして街へ出た。
 仙台のある大きなボクシングジム。その近くの道を歩く一人の男がいた。帽子を目深に被りジャケットを着ている。
「神崎信雄か」
 ふと彼を呼び止める声がした。
「だとしたらどうする?」
 男はその声に答えた。すると道の陰から一人の男が姿を現わした。
 拳法義を着ている。そしてその顔には中国の京劇で使われる面を被っている。赤と黒の魔物の面である。
「その身体貰い受ける」
 男はそう言うと構えを取った。中国拳法の一つ蟷螂拳の構えである。
「・・・・・・・・・」
 神埼と呼ばれたその男も構えを取った。だがそれはボクシングの構えではなかった。
「何っ!?」
 それは拳法の構えであった。
「馬鹿な、貴様神崎信雄ではないのか!?」
 男は何も答えない。その代わりに拳を突き出してきた。
「ムッ」
 仮面の男はそれを受け止めた。速かった。
「素人ではないようだな。かなりの腕前だ」
 仮面の男は拳を受け止めて言った。そして帽子の男を見る。
「中国拳法か。しかも小林拳だな」
 突きや蹴りをかわし、受け止めつつ言う。受け止めながら冷静に分析している。
「それもかなり独自性が強いな。・・・・・・これはかなり名のある流派か」
 仮面の男はそう言いながら発頸を繰り出した。だがそれは逆に彼の発頸に返される。
「ほほお、発頸の威力もあるな。精神修養にも力を入れているか」
 帽子の男は回し蹴りを浴びせて来た。仮面の男はそれを後ろにステップしてかわした。
「この蹴りは・・・・・・赤心小林拳か」
 仮面の男はそれを見て言った。
「だがあの流派はテラーマクロによって壊滅させられている。師範達も死んでいる筈だ。ただ一人だけ最強の使い手が残っているがな」
「・・・・・・・・・」
 帽子の男はそれに答えようとしない。無言で手刀を出した。
「そう、その使い手の名は沖一也、またの名を仮面ライダースーパー1という」
 仮面の男はその名を呼んだ瞬間高く跳躍した。
 帽子の男もそれを追って跳躍する。二人の蹴りが交差した。
 双方位置を入れ替えて着地した。男の仮面が割れた。帽子が千切れとんだ。
 帽子の男の正体は予想通りであった。沖一也であった。
「うむ。噂に違わぬキレだな」
 その中からあの男が姿を現わした。
「なっ、貴様は・・・・・・」
 沖はこちらに振り向いてきた男の顔を見て思わず声を出した。そこには彼も名と顔を知る男がいた。
「現代中国拳法の最高の使い手リー=ホワンロン。何故ここに・・・・・・」
「ふ、生憎だが今の俺の名は違う」
 リーと呼ばれたその男は不敵に笑って言った。
「今の俺の名はアメンバロイドという。誇り高きバダンの改造人間の一人だ」
「クッ、貴様バダンに入ったのか」
「そうだ。永遠に戦いこの拳を磨く為にな。まるで俺の為にあるような組織だ」
「貴様バダンが何を目的としているのか知っているのか!?」
「フ、勿論知っているさ」
 リー=ホワンロン、いやアメンバロイドは沖の問いに対し皮肉っぽく笑って言った。
「世界征服か。実に素晴らしい思想だ」
「何っ」
 沖はその言葉に眉を顰めた。
「強い者、選ばれた者が支配する世界。それこそ理想の世界ではないか」
 うそぶく様に言う。
「支配する者とされる者、人はその二つしかない。ならば支配する者になるべきなのだ」
 アメンバロイドは沖を見据えて笑った。
「俺はその支配する者なのだ。その俺にとってバダンはあまりにも魅力的な組織だ。それで充分だろう」
「クッ、その為に多くの弱い力を持たない人達が犠牲になってもか」
「そうだ。弱い者など生きる価値も無い。何故なら弱いという事はそれだけで罪なのだからな」
 アメンバロイドは自分の言葉が無謬無きものであると確信していた。それは最早信仰であった。
「弱き者は支配される運命にある。そして強き者の糧となるのだ。それが唯一つ奴等が為し得る貢献だ」
「貴様っ!」
 沖はその言葉に激昂した。そして拳を繰り出す。
「フン、真実を言われて怒るか。みっともない奴だ」
 アメンバロイドはそれを受け止めた。受け止めたその手が黒くなる。
「所詮貴様も弱き者か。まあ良い。その首暗闇大使への手土産としよう」
 目が紅くなる。そして胸が銀色に変わった。
 怪人に変化した。そしてその手で沖を突き殺さんとする。
「ハッ!」
 沖はその拳をかわした。そして後ろに跳び間合いを離した。
「さあ、どうする弱き者よ」
 アメンバロイドの左右に戦闘員達が現われた。そして沖を取り囲む。
「ここで戦闘員達に倒されて死ぬか、俺に倒されて死ぬか、好きなのを選べ」
 戦闘員達のサイが一斉に投げ付けられる。中国に伝わる武器の一つだ。
 沖はそれを上に跳んでかわした。そして何処かへ姿を消した。
「ムッ、何処へ行った?」
 アメンバロイド達は彼の姿を探した。その時声がした。
「俺はここだ」
 アメンバロイドは声がした方を見た。そして彼の姿を見てニヤリ、と笑った。
「ほほう、その姿になったか」
 そこには満月を背に壁の上に立つライダーがいた。銀の腕を持つライダー、仮面ライダースーパー1である。
「行くぞっ」
 スーパー1は下に舞い降りた。そしてアメンバロイド達と対峙する。
「さて、貴様の本当の腕を見せてもらおうか」
 戦闘員達が取り囲む。スーパー1はそれに対して構えを取った。
 今度はトンファーを手に襲い掛かる戦闘員達。だがスーパー1はその武器を叩き潰しぎゃくにねじ伏せる。
「無駄だ、俺に武器は通用しない」
 戦闘員達はすぐに全員倒されてしまった。アメンバロイドはそれを冷静に見ている。
「ふむ、どうやら噂通りの強さはあるようだな」
 戦闘員を倒し終えたスーパー1はこちらに顔を向けて来た。
「だがそれだけではこの俺には勝てない。今からそれを教えてやる」
 アメンバロイドはそう言うと構えを取った。今度は八極拳だ。そしてスーパー1と対峙する。
 二人は同時に前に跳んだ。そして拳を出した。
 拳は激しい衝撃を出して空中で激突した。辺りをその衝撃で破壊する。
 両者は次に手刀を繰り出す。それも激しくぶつかり合った。
「・・・・・・先程の言葉は訂正しよう」
 アメンバロイドは手刀の衝撃を顔に受けながら言った。
「噂以上の力だ。そして貴様は弱き者ではない」
「・・・・・・・・・」
 スーパー1はその言葉に対し何も返答しなかった。別にどうとも思わなかったからだ。
「これ程の使い手と遭ったのは久し振りだ。ならば俺も本気を出そう」
 彼はそう言うと間合いを離した。そして気をためた。
「バダン随一の拳の持ち主の技、今見せてやろう」
 脇の四本の腕が伸びた。それはサーベルの様にスーパー1を襲った。
「ムッ」
 スーパー1はそれを横に跳びかわした。アメンバロイドはそこへ突進して来た。
「させんっ」
 スーパー1はそれを受け止める。そして上へ投げ飛ばした。
 アメンバロイドはそれに対し空中で回転した。そして衝撃を殺し壁の上に着地した。
「うむ、実に楽しませてくれる」
 アメンバロイドは壁の上で腕を組んで言った。
「こうでなくては面白くない。どうやら貴様は俺が全力をもって倒す価値のある相手のようだ」
「それは光栄だな」
 スーパー1はアメンバロイドを見上げて言った。
「この様な場所で闘うのは無粋だな。場所を変えて闘いたいものだ」
「ほう、何処でだ?」
 スーパー1はその言葉に対し問うた。
「いい場所がある。この街のとある草原だ。街の端のな」
「何処にあるかわからないが」
「場所はここだ。確認しろ」
 彼はそう言うと一枚の地図を彼に投げた。そこには街の左端にある草原に印が書かれていた。
「勝負は三日後、夜の十二時だ。立会人はそちらで選んでくれ」
「そうか」
「俺は一人で来る。そこで貴様を倒してやる」
「果し合いか、面白い。その勝負受けて立とう」
「そう言うと思っていた。流石は仮面ライダースーパー1だ」
 アメンバロイドはその言葉を聞いてニヤリ、と笑った。
「三日後を楽しみにしている。精々首を洗って待っていろ」
 アメンバロイドはそう言うと姿を消した。後には高笑いだけが残っていた。

「えっ、果し合いですか!?」
 チョロはホテルで沖の話を聞き思わず声をあげた。
「ああ、向こうから言って来た」
 沖はそれに対して答えた。
「止めた方がいいですよ」
「何故だい?」
「そりゃあ・・・・・・。バダンですよ。ドグマとかジンドグマの連中と一緒なんでしょ」
「ああ。メガール将軍や四幹部もいるしな」
「あの連中までいるんですか!」
 チョロはそれを聞いて叫んだ。
「ああ。言ってなかったか?」
 沖はそれを聞いて驚いた。彼は言った記憶がある。
「すいません、すっかり忘れてました」
「こんな大事な事忘れるなよな、全く。まあいいや。実際アメリカで将軍にも会ったしな」
「本当に生きてるんですね」
「ああ、首領の宣戦布告の時にもいたしな。いずれあいつとも戦う事になるだろうな」
 そう言って窓の外を見た。そこには仙台の繁華街の夜景が広がっている。
「また将軍とですか。厄介ですね。けれど」
 チョロはそこで言葉を詰まらせた。
「おい、落ち着けよ。果し合いの事を言いたいんだろ」
 沖はそんな彼を見てクスッ、と微笑んだ。
「はい、そうそう果し合いですよね」
「まさかと思いますけれど・・・・・・受けるんですか?」
「そのつもりだけど」
 沖は毅然とした顔で頷いて言った。チョロはその様子に溜息をついた。
「もう一度言いますけれど絶対に止めた方がいいですよ」
「不意打ちを仕掛けて来るからかい?」
「ええ。連中はドグマの頃から手段を選びませんから」
「確かにな。俺もそれでかなり苦しめられた」
「でしょう!?だったら何で受けようなんて思うんですか」
「・・・・・・俺が拳法家だからと言ったら駄目かな」
「それは・・・・・・」
 チョロはこの時大切な事を忘れていた。彼はライダーであると共に拳法家であったのだ。
 国際宇宙開発研究所を破壊された後彼は赤心小林拳を学び再び立ち上がったのだ。そしてそれから人としての在り方、戦士としての心、そして愛を知ったのだ。
「奴は拳法家として俺に勝負を申し込んできた。ならば俺も拳法家としてその申し出を受けたい。そして闘いたいんだ」
「・・・・・・・・・」
 チョロは沖の目を見た。強い決意の色が宿っている。
 それを見て彼も決めた。もう止めなかった。
「わかりました、一也さんの好きなようにして下さい。俺はもう止めません」
「有り難う」
 沖はその言葉を聞いて微笑んだ。
「ところで一つ頼みたい事があるんだけれど」
「?何ですか」
「果し合いの立会人はこっちで選んでくれ、って言われてるんだ。悪いけれど来てくれないかな」
「ええ〜〜〜〜〜っ!」
 その話に再び驚くチョロであった。

「何っ、決闘だと!?」
 暗闇大使は基地のモニター越しに報告を聞き思わず声をあげた。
「はい。一対一の」
 アメンバロイドはそれとは正反対に落ち着き払った声で言った。
「馬鹿な、一体何を考えておるのだ」
「至って冷静ですが」
「そんな事を言っているのではない、何故ライダーを策に陥れようとせんのだ!」
「策ですか?必要ならば使いますが」
 彼はそう言うと不敵に笑った。
「今は必要ありません故。ただ倒すだけですから」
「ほほう、またえらく自信がありそうだな」
 暗闇大使はそんな彼を見ていささか皮肉を交えて言った。
「当然です。私を誰だと思っているのですか」
 彼はその皮肉を受け流して言った。
「ふむ・・・・・・」
 暗闇大使もそんな彼の様子を見て考えを変えた。
「それではそなたに任せるか。良かろう、スーパー1の首、見事挙げて来るがいい」
「ハッ」
「よいな、必ず倒してくるのだぞ」
「それは御心配無く」
 暗闇大使はモニターから姿を消した。アメンバロイドはそれを自信に満ちた顔で見送った。
「相変わらずいささか落ち着きが足らぬ方だな。それさえなければ完璧だが」
 彼はそう言うと微かに微笑んだ。
「まあそれがかえって良いのだが。あの方の魅力と言うべきか」
 苦笑して言った。
「そういうところはそっくりだな。まあ従兄弟同士だから当然か」
 彼は指令室を後にした。そして一人基地を後にした。

 決闘の日となった。沖はチョロと共に相手が指定した草原に来た。
「そいつ来ますかね」
 空には黄色い三日月がある。チョロが風に震えながら言った。
「来る、絶対にね」
 沖は正面を見据えて言った。彼は空手着を着ている。
「今何時だい?」
「もうすぐ十二時ですね」
「そうか。もう来る頃だな」
 彼がそう言うと前から一人の男が現われた。拳法着を着ている。あの男だ。
「来たか」
 沖は彼の姿を見て呟いた。向こうもこちらの姿は確認した。
「よく俺の申し出を受けてくれた」
 アメンバロイドは低い声で言った。
「ああ、拳法家としてな」
 沖は彼の目を見て言った。
「そうか、拳法家か」
 彼は口の端を歪めて笑った。
「それはかっては俺もそうだった。かってはな」
 チョロはその言葉に眉を顰めた。
「一也さん、やっぱり」
「チョロ、静かにしてて。立会人なんだから」
 沖はそんな彼を嗜めた。
「俺は今はバダンの改造人間だ。誇り高きな」
 彼はそう言うと口元の歪みを消した。
「その誇りにかけて言おう、沖一也、いや仮面ライダースーパー1よ貴様をここで倒す!俺の拳でな!」
「一対一というわけだな」
「そうだ、そして貴様が勝ったら今まで捉えた格闘家達を解放しよう。どうだ、悪い話ではあるまい」
「ああ、その申し出改めて受けよう」
「よくぞ言った。行くぞ!」
 彼はそう言うと怪人の姿になった。
「ならば俺も!」
 沖も変身の構えに入った。

 変・・・・・・
 まず右腕を肩の高さで引いた。そして左腕は腰の高さに置き前にある。
 体が黒いバトルボディに覆われる。胸が銀色になると手袋とブーツも銀色になる。
 ・・・・・・身
 右腕を前に出す。左腕もそれに添えて出す。
 手首のところで合わせた両手をゆっくりと前に出す。そして両手首を時計回りに一八〇度回転させた。
 顔の右ォ半分が紅い眼を持つ銀の仮面に覆われる。そしてそれはすぐに左半分も覆う。

 光が消えた。そこには銀のライダーがいた。
「さて、ではそろそろ時間か」
 アメンバロイドはそう言うと立会人のチョロを見た。
「あ、は、はい」
 チョロもそれに気付いた。慌てて時計を見る。
「十二時です」
「そうか、でははじめるか」
「おお」
 二人は構えを取った。
 ジリジリと間合いを詰める。そして双方前へ跳んだ。
 拳が交差する。そして衝撃が辺りを包んだ。
「ムウウ・・・・・・」
 衝撃を受けた二人が声を漏らした。
「トォッ!」
 今度は蹴りを繰り出す。再び衝撃が二人を打つ。
「まだまだっ!」
 二人は次々と技を繰り出す。だがそれは互いに撃ち合い衝撃を辺りに撒き散らすだけだる。
 実力は伯仲していた。その為二人は互いに相手へダメージを与えられない。
「な、何て奴だ、スーパー1と全く互角の腕だなんて」
 チョロはアメンバロイドの拳を見て思わず呟いた。
「こんな強い奴は玄海老師か弁慶さん位だ。こんな奴がいたなんて・・・・・・」
 アメンバロイドの拳はスーパー1のそれに対して全くひけをとらない。スーパー1と互角に戦っている。
「どうした、ファイブハンドは使わないのか?」
 彼はスーパー1に対して言った。
「五つの腕、あれを使えば俺との闘いも有利に進められるのではないのか?」
「・・・・・・今は使わん」
 スーパー1はその言葉に対して言った。
「ほほお、何故だ?」
 アメンバロイドはその言葉に対して問うた。
「俺は拳法家としての果し合いを受けた、ならばこの銀の腕だけで闘わなければならないからだ」
 スーパー1はそれに対して答えた。その言葉には彼の心があった。
「・・・・・・そうか」
 アメンバロイドはそれを聞いて言った。
「あくまで拳法家として闘うのか。その為に不利になるかも知れんというのに」
 彼は意味ありげに言った。
「不利にはならない、俺のこの拳には正義が宿っているからな」
「正義が宿っているかどうかは知らんが」
 彼はそう言うと間合いを離した。
「貴様があくまで拳法家として闘うのなら俺もそれなりの闘い方がある」
「何っ!?」
 スーパー1は彼の眼が光ったのを見た。
「まさか・・・・・・」
 チョロはそれを見てビクッ、とした。やはり汚い策を使ってくるのではないかと思った。
 だがそれは杞憂だった。アメンバロイドは自分で脇の下にある四本の脚を引き千切ったのだ。
「なっ・・・・・・!」
 これにはスーパー1もチョロも驚いた。その脚は彼にとって重要な武器だというのに。
「貴様が拳法家として闘うというのなら俺も拳法家として闘おう。それが拳法家の闘いだ」
「アメンバロイド、貴様・・・・・・」
「何を驚く。俺はこの拳だけで貴様を倒せるのだ。他の武器など邪魔なだけだ。それは貴様とて同じだろう」
「ああ・・・・・・」
 スーパー1は声を漏らした。あくまで拳法家として闘おうという彼の心に思うところあったからだ。
「行くぞスーパー1、この拳で貴様を打ち砕いてやる!」
「それはこちらの台詞だ、来いっ!」
 両者は再び激突した。そして激しく拳を繰り出す。
 それは阿修羅の闘いであった。両者引くところはなく互いに拳を、蹴りを繰り出し合う。
 アメンバロイドが右の拳を突き出す。スーパー1はそこに左の手刀を出す。
「ムッ!」
 手刀が勝った。アメンバロイドの拳は右に払われた。
「ならばっ!」
 すぐに左の拳を繰り出す。だがそれをスーパー1の右拳が襲った。
 二つの拳が正面からぶつかり合った。衝撃が巻き起こる。
 敗れたのはアメンバロイドであった。彼の左拳は砕かれてしまった。
「この程度!」
 しかしそのダメージに全く怯みところはない。すかさず左の回し蹴りを出す。
 スーパー1はそれを後ろに跳んでかわした。着地と同時に彼は上へ大きく跳んだ。
「スーパーライダァーーーーー旋風キィーーーーーーック!」
 空中で型を取りながら蹴りを出す。それは赤心小林拳の型であった。
 速い、その蹴りはあまりにも速かった。それはさしものアメンバロイドにも見切れるものではなかった。
 蹴りが胸を直撃した。そして彼は吹き飛ばされた。
「グググ・・・・・・」
 それでも彼は立ち上がった。恐るべき執念である。
「怖ろしい速さだな。この俺が見切れぬとは」
 彼は人間の姿に戻りながら言った。口から赤い血が零れ出る。
「だが急所はほんの僅かに外したようだな。心臓を狙ったというのに」
 スーパー1は彼に対して言った。
「それでも致命傷を受けてしまった。この勝負は俺の負けだ」
 彼は潔く敗北を認めた。
「素晴らしい拳だった。貴様の名は忘れん」
「フフフ、それは光栄だな」
 彼はその言葉を聞いて満足気に笑った。
「だが俺はここで死ぬわけではない。いずれまた貴様の前に現われる。その時を楽しみにしておけ」
 そう言うと姿を消した。
「格闘家達は青葉城にいる。そこに解放しておこう」
 遠くから声がしてきた。
「また会おう、スーパー1」
 気配は消え去った。こうして仙台での戦いは幕を下ろした。

 青葉城は伊達政宗が建てた城である。本当の名を仙台城というが緑が美しいことから青葉城と呼ばれる。
 この城には伊達政宗の像がある。鎧兜に身を包み馬に乗っている。
「政宗公も事件の解決を喜んでくれてますかね」
 格闘家達を救い出した後チョロは伊達政宗の像を見上げて言った。
「さあな。けれど自分が開いた街に平和が戻ってホッとしているのは事実だろうな」
 沖はそんな彼に対して言った。
「何かアッという間に終わっちゃいましたね」
「おいおい、俺にとっちゃあかなり長くて辛い戦いだったぞ」
 沖はそんなチョロに対して苦笑して言った。
「あのアメンバロイドって奴もかなり手強かったしな。一歩間違えれば俺のほうがやられてたし」
「そうでしたね、確かにあいつは強かった」
「だけど今回は俺が勝った。けれど油断したら次にやられるのは俺かもしれない」
 沖はそう言うと深刻な顔になった。
「一也さん、そんな事考えちゃ駄目ですよ」
 チョロはそんな彼を窘めた。
「ライダーは絶対に負けちゃいけない、いつもそう言っているのは一也さんじゃないですか。そんな事言ってたら本当に負けちゃいますよ」
「そうか、そうだったね」
 彼はそれを聞いて笑みを取り戻した。
「バダンとの戦いはまだまだ続くしな。暗くなってる暇はないな」
「そうですよ。とりあえず東京に帰って次の戦いに備えましょう」
「ああ、そうだな」
「けどその前に牛タンをもう一度」
「おいおい、またそれか」
 こうして二人は仙台を後にした。

 東京に戻った彼はすぐに城南大学に呼び出された。校門をくぐり改造室の控え室に入った。
「おやっさん、一体どうしたんですか?」
 沖は部屋に入ると谷を見つけて声をかけた。
「立花のおやっさんや先輩達まで。皆揃うなんてどうしたんですか?」
 見ればどの者の顔も強張っている。まるで見てはいけないものを見てしまったかのように。
「一也、これを見てくれ」
 谷は奥にかけられている数枚の紙を指差して言った。
 それはレントゲン写真だった。だが普通のレントゲン写真ではなかった。
「これは・・・・・・」
 そこに映っていたのは人の身体ではあったが人のものではなかった。骨格は人のものではなかったのだ。
 そこに映る骨格は機械であった。内臓も全てが機械であった。
「俺達のうちの誰かも写真ですか?」
 沖はそれを見て谷に問うた。
「沖もそう思ったか」
 筑波が言った。
「ええ。他に誰がいるというんです?」
 沖は不思議そうな顔をして言った。
「・・・・・・沖、あれを見てくれ」
 本郷が改造室が見える窓を手で指し示して言った。
「あれ、あそこにいるのは・・・・・・」
 そこには一人の筋肉質の青年が横たえられていた。上半身は裸で下は白いスラックスである。
「見た事のない青年ですね。一体誰ですか?」
「・・・・・・この写真の被写体だよ」
 谷は顔を俯けて言った。
「えっ、じゃあ・・・・・・」
 沖はその言葉に声を失った。
「そうだ、彼もまた改造人間だ」
 本郷は沖に問いきかす様な口調で言った。
「改造人間!?しかし一体誰が・・・・・・」
「それは私が説明しよう」
 その時部屋に一人の男が入って来た。
「貴方は・・・・・・」
 そこには眼鏡をかけた壮年の男がいた。白衣を着ている。
「伊藤博士。私の古くからの友人だ」
 海堂博士が入って来た。志度博士も一緒である」
「沖君も聞いた事がある筈だ」
「ええ、確か物理学の権威でしたよね。他にも多くの分野で業績を残している」
 沖は海堂博士の言葉に対して答えた。
「そうだ。そして暫く消息を絶っていたのも知っているね」
「はい、南米で飛行機事故に遭ったと。今ここにおられるので正直驚いているのですが」
「その詳細についてこれから話したいんだが」
 伊藤博士は静かな声で言った。
「皆、いいかね?」
「はい」
 ライダーと立花、谷達はその言葉に頷いた。伊藤博士は静かに語りはじめた。


拳砕ける時   完



                               2004・2・12

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!