『仮面ライダー』
 第二部
 第十六章             甦りし記憶

 マシーン大元帥は二人の方へ歩いてきた。そして村雨の方へ顔を向けた。
「村雨良、貴様は自分についてどう考えている」
「・・・・・・それはどういう意味だ!?」
 村雨はその言葉に対して問うた。
「そのまま一介の人間として終わってよいのか。自分に相応しい力が欲しくはないか」
「力、だと!?」
「そうだ」
 マシーン大元帥は再び笑った。
「貴様は我等の同志となるのに相応しい力の持ち主だ。貴様はその力を我等が理想の為に捧げるがいい」
「待て、勝手に決めるな」
 彼はその言葉に対し反発した。
「俺は自分の事は自分で決める主義だ。あんた達が何を言おうとな。それに」
 一呼吸置いて言った。
「あんた達にとやかく言われる筋合いは無いぞ」
 だがマシーン大元帥はそれを一笑に付した。
「フフフ、生憎だが貴様の考えはどうでもよい」
 彼は右手を挙げた。
「我々は貴様のその能力だけが欲しいのだからな」
 闇の中から戦闘員達が姿を現わした。そして村雨としずかを取り囲んだ。
「嫌だというのなら強制させるまでだ。記憶と感情を消してな」
「お待ち下さい、マシーン大元帥」
 その時闇の中から一人の男が現われた。
「ほう、お主か」
 壮年の白人の男であった。ヤマアラシロイドである。
「それでしたら私にお任せを。記憶を消すのならば私しかおりますまい」
「そうであったな」
 マシーン大元帥は彼を横目で見て口の端を歪めて笑った。
「ではお主に任せるか。この男の事は」
 そう言って姿を消そうとする。
「お待ち下さい」
 ヤマアラシロイドはそんな彼に対し声を掛けて来た。
「何だ?」
 彼は姿を消そうとするところで戻って来た。
「この女は如何致しましょう」
 ヤマアラシロイドはしずかの方を見て言った。
「ふむ、そうだな」 
 マシーン大元帥は顎に手を当てて考えた。
「お主に任せるとしよう。好きにするがいい」
「わかりました」
 マシーン大元帥は言葉を終えると姿を消した。後にはヤマアラシロイドと黒い男達が残った。
「さて、と」
 ヤマアラシロイドは二人の方を見て言った。
「では行きますか」
 彼はそう言って笑った。それは獣の様な笑いであった。

 二人はある部屋に移された。それは暗く何も無い密室であった。
「俺達をどうするつもりだ」
 村雨はヤマアラシロイドを見据えて言った。
「それは決まっていますよ」
 彼は村雨を見て笑った。
「貴方の記憶と感情を消すのですよ」
 その笑みは悪魔の笑みであった。
「記憶と感情をだと。そんな事が簡単に出来るものか」
「我々を侮ってもらっては困りますね」
 ヤマアラシロイドはそんな彼に対して言った。嘲笑する声であった。
「この全知全能の力を持つ我々を」
 彼はそう言うと指を鳴らした。すると椅子が現われた。
「そこへ置きなさい」
 村雨を捕らえていた黒い男の一人は彼をその椅子に座らせた。
「宜しい。では始めましょうか」
 彼は再び指を鳴らした。すると部屋の中央に黒い鉄の椅子が現われた。
「その女をそこへ」
 彼はしずかを捕らえている男に対して言った。
「ハッ」
 男は答え彼女をそこに座らせた。
 しずかは椅子に座らせられる。すると椅子が急に変形した。
「何っ!?」
 椅子から鉄の輪が出て来た。それで彼女の両手と両足を固定した。
「これは・・・・・・」
 しずかはあまりのことに狼狽した。ヤマアラシロイドはそれを見て残忍な笑みを浮かべた。
「それだけではありませんよ」
 彼は言った。すると彼女の頭と全身を鋭い針が突き刺した。
「ああっ!」
 しずかは呻き声を出した。
「姉さんっ!」
 村雨は姉のその姿を見て思わず叫んだ。彼女の全身から血が流れる。
「フフフ、どうです?目の前で大切なものが傷付くのを見るのは」
 ヤマアラシロイドはしずかの横に立ち村雨に対して言った。
「貴様、それでも人間か・・・・・・」
 村雨は椅子に縛り付けられ動けない状況でも彼を睨み付けた。
「人間!?」
 ヤマアラシロイドはその言葉に対して笑った。
「私を人間だと仰いましたね」
 彼は村雨の言葉を噛み締める様に言った。
「そうでなければ何だというんだ!」
 村雨は激昂して言った。
「今お話しても無駄でしょうね」
 彼は済ました声で言った。村雨を嘲笑する様に。
「貴方が人間である限りは」
 そう言うと三度指を鳴らした。するとしずかの身体に突き刺さる針に何かが宿った。
 それは電流であった。ゆっくりと彼女へ向かっていく。
「ま、まさか・・・・・・」
 村雨はそれを見て顔面蒼白になった。
「そのまさかですよ」
 ヤマアラシロイドは楽しそうに言った。
「りょ、良・・・・・・」
 しずかは村雨の顔を見て彼の名を呼んだ。
「姉さん・・・・・・」
 村雨もである。だがその間にも電流は少しずつ彼女に近付いていっている。まるで二人を嘲笑うかのように。
 電流がしずかの全身を襲った。彼女は身体を思いきりのけぞらせた。
 しずかは電流に覆われた。そしてそれが荒れ狂う中身体をよじらせる。
「姉さんっ!」
 村雨はそれを見て絶叫した。だが彼女は死の苦しみにのたうち回り彼に答えられない。
「そろそろいいですかね」
 ヤマアラシロイドはそう言うとまた指を鳴らした。すると電流は止まった。
 しずかは身体をのけぞらせるのを止めた後首を元に戻した。そしてその首を前にガクッ、と落とした。
「姉さ〜〜〜〜〜〜んっ!」
 村雨は黒コゲになった姉に対して必死に叫んだ。だが返答は無かった。
「無駄ですよ、死んでいます」
 ヤマアラシロイドは冷酷な声で言い放った。
「そして貴方の心もね」
 彼は村雨を見下ろして言った。
「あ、あ、あ・・・・・・」
 その通りだった。彼は両目から涙を流し激しく打ち震えている。
「うおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっ!」
 彼は絶叫した。そしてそのまま意識を失った。
「成功ですね」
 ヤマアラシロイドは彼を見下ろしてほくそ笑んだ。
「記憶と感情を消し去るにはまずその心を壊す事。いつもながらよく利きます」
 彼は笑みを浮かべたままそう言った。
「連れて行きなさい。後は脳に少し細工をするだけです」
 黒い男達は敬礼した。そして村雨を引き摺り何処かへ消えていった。

それからであった。彼はバダンの幹部候補生として訓練を受けた。軍服に身を包み生死を賭した訓練を続けた。
「御前が村雨良か」
 ある日彼に語り掛けて来る男がやって来た。
「誰だ御前は」
 訓練の合間の束の間の休息をとる彼はふと顔を上げた。
「三影。三影英介という。御前と同じバダンの幹部候補生だ」
 そこにいたのは彼と同じ軍服に身を包んだリーゼントのアジア系の若者であった。
「そうか。何処かで見たと思ったが」
 村雨は彼の顔を見て言った。
「御前の訓練のパートナーに選ばれた。よろしくな」
 三影はそう言って右手を差し出した。
「こういう場合はどうするのだ」
 村雨はその右手を見て言った。
「そうか。御前はあれだったな」
 三影も彼のことは聞いていた。微笑んでその右手を引っ込めた。
「これから宜しくな」
 彼は挨拶するだけに留めた。
「ああ」
 それが二人の出会いであった。それから二人は共に訓練を受けた。
 ある日だった。野戦の訓練を受けている時であった。
 砲撃が村雨を次々と襲う。彼はそれを巧みにかわしていく。
「うむ、見事な動きだ」
 訓練を総括するマシーン大元帥がそれを見て言った。
「このタイホウバッファローの砲撃を全てかわすとはな。元々はこの怪人をインドへ送る前のテストも兼ねてのことだったが」
 そう言って後ろで砲撃を続ける怪人の方を振り返った。
「まだ物足りないようだな。カメバズーカも加えるか」
 そう言うと右手を挙げた。後ろにカメバズーカが現われた。
 砲撃は倍になった。だが村雨はそれもすべてかわしていく。
 訓練は終了した。マシーン大元帥は村雨と二体の怪人を下がらせた。
「よし、次は三影の番だな」
 バズーカ砲を手にした戦闘員達が後ろに現われた。そして砲撃を開始する。
 その時村雨は待機場所に戻ろうとしていた。そこへ戦闘員の一人が間違って砲撃を加えてしまった。
「しまった!」
 戦闘員は叫んだ。だが遅かった。砲弾は真直ぐに村雨は向かっていく。
「ムッ!?」
 彼はそれに気付いた。だが遅かった。間に合わなかった。
 しかしその側に三影がいた。彼は咄嗟に村雨を庇った。
「逃げろ!」
 爆発が二人を襲った。爆風が去った時二人はその場に倒れ伏していた。
「馬鹿者が!」
 怒り狂ったマシーン大元帥はその戦闘員を額のビームで貫いた。そして村雨達の方を見る。
 二人は動かない。その身体は明らかに致命傷を受けていた。
 その時村雨はまだかろうじて意識があった。だが薄れいく意識の中で何かを叫ぶ声を聞いたのが最後の記憶であった。

「ア、ア、ア・・・・・・」
 槍を脳に突き立てられた村雨は呻き続けている。そして何かを必死に叫ぼうとしていた。
「フフフ、どうやら戻ってきたようですね」
 その槍を手にするヤマアラシロイドはそれを見てニヤリ、と笑った。
「記憶が一度に戻るとどうなるか。それは激しいショックです」
 彼は笑ったまま言った。
「そのショックにより自我が崩壊する。そうなれば再び我等が許に戻ってきます」
「悪魔め・・・・・・」
 伊藤博士は彼を睨み付けて呻く様に言った。
「悪魔!?それは違いますね」
 彼はその言葉に対してうそぶいた。
「我々は神の使徒なのですよ。世界を新たに統べる偉大な神のね」
「言うな、人の命を弄んでいておいて何が神だ」
 伊藤博士は反論した。
「おや、何もご存知ないようで」
 ヤマアラシロイドは博士へ顔を向けて言った。
「神とは本来そうしたものではないのですか?」
 血の凍る様な冷たい笑みを浮かべて言った。
「かって洪水を起こし人間達を滅ぼしたあの神も雷を落とす神も。神とは人を超越した力で人を支配するものなのです」
「それは貴様が勝手にそう思い込んでいるだけだ」
「やれやれ、その言葉は貴方にお返し致しましょう。甘いお考えだ」
 彼はそう言うと村雨へ顔を戻した。
「もういいでしょう」
 槍を抜いた。 
 槍には血糊も脳漿も付いてはいなかった。ただ豆腐か何かから引き抜く様に抜けた。
 村雨は何も語らない。ただその場にうずくまっている。
 束縛が解かれた。ヤマアラシロイドは彼に語り掛けた。
「さて、ゼクロスよ」
 答えはない。
「我等が同志よ」 
 それでも語り掛ける。
「立ちなさい。そして我等と共に来るのです」
 彼は立ち上がった。顔は俯けまるで操り人形の様な動きであった。
「村雨君・・・・・・」
 博士はそれを見て絶望の声を出した。
「貴方は我がバダンに選ばれた者。我等の理想の為にその力を捧げるのです」
「・・・・・・・・・」
 彼は無言で前に出た。そしてヤマアラシロイドの方へゆっくりと歩いていく。
「来なさい、同志よ。我等の下へ」
 村雨はその言葉に従うかのように歩いていく。そしてヤマアラシロイドの前に来た。
「よくぞ戻って来ました、歓迎しますよ」
 ヤマアラシロイドは彼に対し微笑んだ。それは獣の様な笑みであった。
 村雨は右手をゆっくりと上げる。彼はそれを微笑みながら見ていた。
 だがその微笑みはすぐに凍りついた。右手が彼の喉を掴んだのだ。
「ナッ!?」
 彼は予想もしなかったその動きに狼狽した。村雨が顔を上げた。
「記憶を取り戻す事が出来た。感謝するぞ」
 彼の顔を見て言った。
「クッ、精神が崩壊したのではなかったのか・・・・・・」
 ヤマアラシロイドは苦悶の表情で彼を見下ろして言った。
「生憎な。俺の精神はそれ程ヤワじゃないらしい。一度崩壊してかなり強くなったようだ」
 右手に力を入れる。それは人の力ではなかった。
 それに掴むヤマアラシロイドを思いきり投げ飛ばした。怪人は壁に叩き付けられた。
「ガハッ・・・・・・」
 口から血を吐いた。しかしそれでも立ち上がる。
「何もかも思い出した。俺の姉さんのこともな」
 村雨はその彼を怒りに満ちた目で見ていた。
「姉さんを殺し俺をこんな身体にしたバダン・・・・・・」
 彼はゆっくりと身構えた。
「許せん!必ず叩き潰してやる!」
 そう言うと両手を動かしはじめた。

 変・・・・・・
 右手を真横にしそこから四十五度上げた。そして左手はそれと水平に右脇のところで置く。両手は共に伸ばしている。
 身体を赤と銀のバトルボディが包んだ。手袋とブーツが銀色のものになる。
 ・・・・・・身
 右手をそのまま右脇の方へ持って行き左手は逆に左斜め上へ持って行く。
 それから左手はすぐに左脇に入れ右手を左斜め上へ突き出す。すると腰にベルトが現われた。
 顔の右半分を赤いマスクが覆う。そして左半分も覆われる。ベルトが光った。

 光が全身を覆う。そこにはゼクロスがいた。
「貴様だけは許さん!」
 そう叫びヤマアラシロイドへ突き進んで行く。
「クッ!」
 起き上がった怪人はそれを受け止めた。激しい衝撃音がその場に響き渡る。
「変身するとは・・・・・・」
「思い出したのだ。貴様のおかげでな」
 村雨、いやゼクロスは怒りに満ちた声で言った。
「貴様だけは許さん・・・・・・」
 その両肩を掴むと天高く放り投げた。
「許す!?」
 ヤマアラシロイドはその言葉に対し冷笑でもって答えた。そして天井を掴んだ。
「それは奇妙な言葉だ」
 彼はそこに逆さに立ちゼクロスを見下ろして言った。
「それはどういう意味だ」
 ゼクロスはそれに対して問うた。
「許すなどという言葉はバダンにはありませんからねえ」
 彼は口を耳まで裂けさせて笑った。
「少なくとも同志以外には」
「言った筈だ。俺は貴様等の同志ではないと」
 彼は毅然とした声で言い返した。
「そうですか、あくまでそう言われるのですね」
 ヤマアラシロイドは背中から一本の槍を引き抜きながら言った。
「そうだ、俺は貴様等をこの世から消し去ってやる。姉さんの仇をな」
 彼はその緑の目を憎しみで燃え上がらせていた。
「フフフ、そうですか」
 ヤマアラシロイドは笑いを止め天井から離れた。そして床に着地した。
「ならば仕方ありませんね。貴方にはここで死んでもらいましょう」
 彼はその槍を構えた。戦闘員達がその左右に散る。
「そしてその身体だけ持ち帰ります。脳は完全に破壊して差し上げます」
「そうはさせん」
 ゼクロスも構えを取った。両者は激しく睨み合った。
 ヤマアラシロイドが槍を投げた。ゼクロスはそれを上に跳んでかわす。
「甘いですよ」
 攻撃はそれだけではなかった。槍は次々と放たれる。
「この程度っ!」
 ゼクロスはそれをことごとくかわす。だがそれも限度がある。次第に追い詰められていった。
「さあ、どうします!?」
 ヤマアラシロイドは両手に槍を構えて彼に問うた。
「もう後がありませんよ」
 それはまるで狩りを楽しんでいるような声だった。
「・・・・・・・・・」
 ゼクロスはそれに対して答えない。それどころか構えさえ解いた。
「フフフ、観念しましたか」
 ヤマアラシロイドはそれを見て再び残忍な笑みを浮かべた。
「ならばせめて苦しまずに死なせてあげましょう」
 両手の槍をゆっくりと振り上げた。
「ゼクロス、逃げろ!」
 伊藤博士が叫ぶ。だが彼は動こうとしない。
 槍が放たれた。ゼクロスはそれを黙って見ている。
 槍が貫いた。その瞬間ヤマアラシロイドは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「これでよし」
 彼は言った。博士の顔は絶望に覆われた。
 だがそれは一瞬であった。槍に貫かれたゼクロスの身体からは血も流れず破損もなかった。
「なっ!?」
 ヤマアラシロイドはそれを見て驚愕した。その直後ゼクロスの身体は急にかすんでいった。
「しまった、ホノグラフィか!」
 ヤマアラシロイドは思わず叫んだ。そして辺りを見回す。
「無駄だ」
 ゼクロスの声がした。
「そこかっ!」
 槍を引き抜き投げる。だがそこにはいなかった。
「俺はここだ」
 再び声がした。それは前だった。
「ちいっ!」
 槍を手に取り振るった。そこにゼクロスの姿が浮かび上がってきた。
 だがそのゼクロスもまた幻影であった。彼の姿は闇の中に掻き消えた。
「おのれっ、何処だ!」
 彼は必死に屋敷の中を見回す。だがゼクロスの姿は何処にも無い。
 不意に前に複数の影が現われた。それは全てゼクロスであった。それは横にも後ろにも現われた。
「分身の術か」
 ヤマアラシロイドはそれを見て悟った。戦闘員達が四方に散る。
「安心しなさい。一つを除いて全て偽者です」
 彼は部下達を落ち着かせるように言った。
 そのゼクロス達が動いた。それぞれが全く異なった動きをする。
 戦闘員達が向かう。そして戦いがはじまった。
「本当のゼクロスは・・・・・・」
 ヤマアラシロイドはそのゼクロス達を見ている。そしてある一体の影に目をやった。
「そこだっ!」
 戦闘員に対し左腿のナイフを取り出し闘うゼクロスに対し槍を突きつけた。槍はゼクロスの身体を貫いた。
「やったか!」
 だがそれも幻影であった。うっすらと闇の中へと消えていく。
「くっ、これでもないのか・・・・・・」
 次第に戦闘員はその数を減らしていく。そして彼等を倒したゼクロスの幻影達は彼を取り囲んだ。
「やってくれましたね」
 ヤマアラシロイドはその幻影達を睨んで言った。
「俺の力を侮った貴様の失態だ」
 ゼクロスは落ち着いた声で言った。幻影が消えていく。そして一体のゼクロスが中央に残った。
「俺がどんな能力を持っているのかは知っていた筈だ。それを考慮に入れなかった貴様のな」
「確かに」
 ヤマアラシロイドは歯噛みして言った。
「ですが勝負がこれで決まったとは思わないことです」
 そう言うと再び槍を取り出した。
「バダン怪人軍団のリーダー、その強さを今御覧に入れましょう」
「望むところだ。貴様は姉さんの仇、この手で倒してやる」
 両者は同時に前に跳んだ。槍と拳がぶつかり合う。
 激しい攻防が続いた。ヤマアラシロイドの槍に対してゼクロスはナイフを抜いた。
「トゥッ!」
 そしてそのナイフで切りつける。だがそれは槍により阻まれる。
「その程度のナイフでっ!」
 ヤマアラシロイドは槍の長さを利用しゼクロスを寄せ付けない。ゼクロスもそれに対し防戦に回っている。
「確かに槍は長い」
 ゼクロスは槍をかわしながら言った。
「だがこれはどうかな」
 そう言うと横に身体を捻りかわした槍をその手に持つナイフで上から切った。
「ムッ!?」
 槍は二つに切断された。ゼクロスはその切られた槍を手に取った。
 そしてその槍でヤマアラシロイドを突く。怪人は左腕を貫かれた。
「グッ、よくも・・・・・・」
 怪人はその槍を引き抜きながら呻き声を漏らした。
「ですがこれで終わりではありませんよ」
 怪人はそう言うと横に跳んだ。そして屋敷から出た。
「待てっ!」
 ゼクロスはそれを追う。二人は屋敷の外に出た。
 屋敷のすぐ側にある林の中に入った。そして激しく攻撃を繰り出し合う。
 ゼクロスは肘から手裏剣を取り出した。そしてそれを投げ付ける。
「これしきっ!」
 ヤマアラシロイドはそれを槍で弾き返す。両者は林の中を跳び回り攻撃を応酬し合う。
 ゼクロスは今度は左手を突き出した。そこからチェーンが飛び出す。
「ムッ!?」
 そのチェーンはヤマアラシロイドの槍に絡みついた。
「喰らえっ!」
 ゼクロスは叫んだ。するとチェーンに電流が走った。
「そうはさせませんよっ!」
 ヤマアラシロイドは槍をゼクロスに向けて投げた。そして新たな槍を引き抜く。
 ゼクロスはその電流が走る槍を受け止めた。そして二つにへし折った。
 その槍を投げた。二つに折れた槍は電流を撒き散らしながらヤマアラシロイドへ向かって突き進む。
 だがヤマアラシロイドはその槍を自身が手に持つ槍で叩き落とす。ゼクロスはそこに手裏剣を投げる。
「グッ!」
 それは怪人の手首に突き刺さった。彼は思わず声を出した。手に持つ槍が落ちる。
「今だっ!」
 ゼクロスは続けて手裏剣を投げ続ける。だがヤマアラシロイドはそれを斜め上に跳んでかわした。 
 この時ゼクロスは手裏剣とは別にあるものを投げていた。
 それは手裏剣ではなかったが形は少し似ていた。動きもほぼ同じであったのでヤマアラシロイドも気がつかなかった。
 怪人の右脇に着いた。だが彼はそれには気付かなかった。
「フフフ、手裏剣ですか」
 手裏剣をかわした怪人は木の枝の上に片膝を着いて笑っていた。
「流石はバダンの科学力を結集して作られた改造人間、まるで忍者です」
「言うな、俺は望んで改造人間になったのではない」
 ゼクロスは声を荒わげて言った。
「俺は普通の人間として生きたかったのだ、それを貴様等が俺の心を奪い改造人間にしたのだ!」
「・・・・・・それがどうしたというのです?」
 ヤマアラシロイドはそれに対し冷たい声で返した。
「むしろ感謝するべきではないのですか?」
「感謝だと!?」
 ゼクロスの声は荒いままである。
「そうです。折角素晴らしい力を授けられ人などという下らないものを超越出来たというのに。それの何処が不満だというのですか?」
「・・・・・・貴様、姉さんを殺しておいてよくもそんな・・・・・・」
「わかりませんね。人一人の命でそこまで取り乱すとは」
 ヤマアラシロイドは理解に苦しむ、といった態度で答えた。
「人なぞ我々の奴隷、もしくは糧にしかならぬもの。言わば消耗品です。消耗品の為に何をそこまで感情的になるのです?それこそ貴方が記憶と感情を消された理由だというのに」
「奴隷だと・・・・・・!」
 ゼクロスは思わず叫んだ。
「そうです、奴隷です」
 ヤマアラシロイドは迷わず答えた。
「愚かで弱い存在でしかないというのにそれ以外の使い道があるというのですか?貴方のその怒りこそ我々にとっては全く理解出来ないものです」
 彼は言葉を続けた。
「我等が理想社会には弱いものは不要です。選ばれた真に強いものこそが支配し君臨する世界なのですからね」
「では俺の姉さんは不要だったというのか!」
「何度も申し上げていますが。人は奴隷でしかないと」
 彼は澄ました声で返した。
「貴様・・・・・・!」
 ゼクロスは怒りを爆発させた。そして念じた。
「爆発しろ!」
 すると先程怪人に向けて投げ付けたものが不意に爆発した。
「ウォッ!?」
 それは怪人の右半分に付着していたものだった。ヤマアラシロイドは爆発に巻き込まれた。
「グググ・・・・・・」
 だがそれでも致命傷にはならなかった。大怪我を負いながらもまだ立っていた。
「手裏剣だけではなかったのですね」
「衝撃集中爆弾だ。これの存在を忘れていたな」
 ゼクロスはヤマアラシロイドを睨んで言った。
「俺が念じた時に爆発するようになっている。貴様とてこの衝撃には耐えられまい」
「フッ、それはどうですかね」
 怪人は傷付きながらも背中から槍を引き抜いた。
「誇り高きバダン怪人軍団、そのリーダーである私を甘く見てもらっては困ります」
 そう言うと槍を構えた。
「そうか」
 ゼクロスはそれを見ると先程とはうって変わった落ち着いた声で言った。
「ならば俺も甘くは見ない。貴様を完全に破壊する」
 そう言うと構えを取った。
「フフフ、出来るのですか貴方に」
 ヤマアラシロイドは槍を構えて下に降りて来た。両者は林の中で対峙する。
 互いに隙を窺う。下手に動いた方が負けである。
 先に動いたのはゼクロスであった。手裏剣を次々と投げる。
「最早その程度!」
 ヤマアラシロイドは手裏剣の動きを見切っていた。上に跳んでかわす。
 しかしそれはゼクロスの計算通りであった。怪人の動きに合わせ右手を構える。
「喰らえっ!」
 右手からレーザーを発射した。それは赤い光となり怪人に襲い掛かった。
 それはさしものヤマアラシロイドもかわせなかった。光線は一直線に怪人の腹を貫いた。
「ガハッ!」
 腹を貫かれたヤマアラシロイドは地に落ちた。そしてそのまま血を噴いた。
「ま、まさかレーザーまで装備しているとは・・・・・・」
 人間の姿に戻った。そして呻き声を漏らしながら立ち上がる。
「俺の身体は全身に武器が装備されている。それを考慮に入れなかった貴様の責任だ」
 ゼクロスは起き上がってきたヤマアラシロイドに対して言った。
「グッ、確かに・・・・・・」
 彼は死の苦しみに苛まれながらも答えた。
「覚悟はいいな?姉さんの仇、今とらせてもらう」
 ゼクロスはそう言うと身構えた。
「フッ、私が貴方に倒されるということですか!?」
 彼はそれに対して皮肉っぽく笑った。
「そうだ。せめて苦しまずに死なせてやる」
 ゼクロスはレーザーを放とうとする。だが怪人はまだ皮肉を込めた笑みを浮かべている。
「生憎ですね。私は誰にも倒されるつもりはありませんよ」
「何!?」
「誇り高き怪人軍団長、敵に倒される位なら自分でカタをつけます」
 そう言うとニヤリ、と笑った。
「またお会いしましょう」
 彼はそう言うと自爆した。爆風がゼクロスの頬を打った。
「死んだというのか」
 ゼクロスは不意にそう言った。だがすぐに思い直した。
「違うな」
 また会うだろう、と思った。そしてその時こそ完全に倒してやる、と決意した。
 
 彼は人間の姿に戻った。そして屋敷に帰ってきた。
「おお、帰って来たか」
 後ろから声がする。伊藤博士だ。
「何処へ行ったかと思ったよ。辺りを探していたんだが」
「林の方にいました」
 彼は素直に答えた。
「そうか、では私が探していたのは逆の方だったようだね」
 博士は少し落胆した声で言った。
「そうですね。けれど安心して下さい。あいつは俺が倒しました」
「そうか。それは何よりだ」
「はい」
 彼はそう答えるとそのまま歩いて行った。そしてガレージに入った。
「何処かに行くのかい?」
 博士はそんな彼に対し尋ねた。
「奇巌山に」
 村雨は静かな声で答えた。
「何っ、奇巌山だと!?」
 かってデルザー軍団の基地があり七人のライダーと首領が戦った地。そこへ行こうというのだ。
「しかしあの場所は・・・・・・」
 博士は口籠もる。何か知っているようだ。
「そうだ、だからこそ行くつもりだ」
 村雨は意を決した顔で言葉を返した。
「俺はバダンを倒す。この手で完全に叩き潰してやる」
 彼は怒りに燃える声で言った。その表情は今までの人形のようなものとは全く異なっていた。
「村雨君、待ってくれ」
 博士は彼に対し呼び止めるように言った。
「すぐに戻って来る。バダンを叩き潰してな」
 彼はそう言うとバイクに乗った。
「じゃあ」
 彼はエンジンを入れた。そして屋敷を後にした。
「行ってしまったか・・・・・・」
 博士はすぐに見えなくなってしまったその後ろ姿を見つつ呟いた。
「私が恐れていた通りになってしまった」
 先程の村雨の顔を思い出しながら呟く。
「憎悪に心を奪われてはならないと何度も言ったのに・・・・・・」
 しかしそれが適わないことも彼はわかっていた。何故なら村雨は人としての心を取り戻したのだから。
「怒りや憎悪も人の持つ心だ。ならばそれを乗り越えなくてはならないというのか」
 彼は村雨が消えた道を見つめていた。

「おい、あいつは奇巌山へ行ったみたいだぞ」
 立花は通信室から店に入りカウンターにいる九人のライダー達に対して言った。
「奇巖山ですか!?」
 本郷が眉を顰めて問うた。
「またあそこか」
 風見はその目を光らせた。
「ああ。さっき伊藤博士から連絡があってな。どうやらあそこに何かあるらしい」
「奇巌山か。迂闊だったな」
 結城が顔を少し下に向けて言った。
「ああ。あそこが一番怪しいというのにな」
 一文字も口惜しそうに言った。彼等の脳裏にあの時の戦いの記憶が甦る。
「しかし伊藤博士は何故今までその事を黙っていたんです?」
 沖が問うた。
「どうもまだあそこにいるとは思わなかったらしい。ゼクロスがあそこへ向かうまではな」
「そうか、ゼクロスはバダンに改造されたからな」
 筑波が顎に手を当て思案しながら言った。
「何か感じるものがあるのでしょうね。だから連中が何処にいるのかもわかる」
 神が言った。
「アマゾンそれわかる。野生の勘に似てる」
「アマゾンの言う通りかもな。多分バダンの本拠地は奇巌山にあるぞ」
 店の奥にいた谷が言った。
「たとすれば決まりだな。御前等全員行くんだろう」
「当たり前ですよ、おやっさん」
 城は立花の言葉に対し笑顔で答えた。
「俺達ライダーは悪のあるところに行く。そして悪を討ち滅ぼすのが使命」
「その為なら火の中水の中」
 本郷と一文字が言った。他のライダー達はそれに従うように立ち上がった。
「行こう」
 九人のライダー達は店を出た。そして一斉に出撃した。
 爆音が遠くへ消えて行く。立花と谷はそれを店の中で黙して聞いていた。
「・・・・・・元気な顔で帰って来いよ」
 爆音が消えた時二人は言った。戦士達は再び戦場へ向かった。

「そうか、あいつが来るか」
 三影は地下の奥深くで戦闘員からの報告を受けていた。
「ハッ、こちらへ一直線に向かって来ております」
 戦闘員は敬礼をして答えた。
「そうか。残念だが遅かったな」
 彼はその報告を聞きニヤリ、と笑った。
「暗闇大使はもう行かれたな」
 彼は戦闘員に背を向けて問うた。
「ハッ、今ソウルにおられるとのことです」
「ソウルか。思ったより速いな」
 彼はそれを聞き背を向けたまま言った。
「ところでヤマアラシロイドはどうなった」
「回収いたしました。他の改造人間と同じく再改造が為されるとのことです」
「そうか。なら問題はない。これで全員揃った」
 彼はそう言うとサングラスを取り外し不敵な笑みを浮かべた。
「撤退は順調に進んでいるな」
「はい」
「ならば良い。御前達もすぐにこの日本を離れろ」
「えっ、しかし・・・・・・」
 戦闘員はその言葉に口籠もった。
「心配する必要は無い。ゼクロスはこの俺が必ず仕留める」
 三影は不敵な笑みを浮かべたまま戦闘員に対して言った。
「俺の力、今こそ見せてやろう」
 彼はそう言うとその地下の洞窟を後にした。
 光る苔があった。それが彼の姿を照らす。
 陰も映し出された。その影は猛獣のものであった。


甦りし記憶   完



                                  2004・3・1




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