『仮面ライダー』
 第二部
 最終章             十番目の光

 村雨は一言も語らずバイクを走らせていた。
「・・・・・・・・・」
 彼はただ前を見ている。そして雨が横殴りに降り注ぐ夜の道を突き進んでいる。
 谷を幾つ抜けただろうあか。彼は奇巌山に辿り着いた。
「バダン、今日が貴様等の最後の日だ」
 彼はバイクから降りた。そして山を登り入口を見つけた。
 そしてその中へ入って行く。その手には何も無い。ただ拳だけがあった。
 ゼクロスに変身し中を進む。基地の中には何も無い。
「何処にいるのだ」
 彼は気配がしないことを不思議に思った。だがそれでも先へ進んでいった。
「ギィッ」
 後ろから声がした。手裏剣を投げる。
 だがそこにいたのは唯の機械の人形であった。手裏剣を受けたそれは後ろに倒れた。
「練習用の機械か」
 ゼクロスはそれを見て呟いた。そして再び足を基地の奥へと進めて行く。
 やがて指令室まで来た。
「ここに来るまで誰もいないとはな」
 ゼクロスは流石に妙に感じていた。だが警戒は怠らない。
 身を隠しつつ基地の扉を開ける。そしてその中に爆弾を投げ込んだ。
「行け」
 そう言うと念じた。爆弾は指令室の中で爆発した。
 爆発が終わったのを確かめてナイフを手に中に入る。指令室の中は廃墟と化していた。
「何っ!?」
 だがその中にも誰もいなかった。ただ爆発で四散した機器が散乱しているだけであった。
「ここにもいないというのか・・・・・・」
 ゼクロスはいぶかしみながら部屋の中を見回した。その時であった。
「そうだ、残念だがこの基地にはもう誰もいない」
「その声はっ!?」
 聞き覚えがあった。声のした方を振り向いた。
 そこにあったのはモニターであった。モニターにはあの男が映っていた。
「惜しかったな。もう少し早ければバダンの中枢を破壊出来たというのにな」
 三影はニヤリと笑いながら言った。
「貴様っ、まさか俺が来ることを・・・・・・」
「いや、そんなことは夢にも思わなかったがな」
 彼はそう言うと言葉を続けた。
「我がバダンが日本だけにいると思っていることが貴様のミスだ。我等は世界征服を考えているのだぞ」
「クッ、そうだった・・・・・・」
 ゼクロスはその言葉を聞き歯噛みした。
「その我等が日本だけに関わると思うか。ここは一時撤退するだけだ」
 彼はそう言うと口の端を歪めた。
「しかしな」
 サングラスの奥の目が光った。
「ゼクロス、貴様はこの手で倒す。この俺の手でな」
 目の光が禍々しいものになっていく。
「望むところだ」
 ゼクロスも身構えた。
「だがここで戦うつもりは無い」
 三影は言った。
「どういうつもりだ?」
「俺が貴様を倒すに相応しい場所はここではない。より相応しい場所で勝負をしてやる」
「そこは何処だ!?」
「それは貴様が生き残ってならば話そう」
 そう言うと後ろへ跳んだ。
「ムッ」
 ゼクロスはそれを追おうとする。しかし村雨はそれより早く動いていた。
「無駄だ」
 彼は指令室へ入る扉の向こうにいた。そしてその扉を閉めた。
「クッ」
 ゼクロスはそれを打ち抜こうとする。だが適わなかった。
「その扉は特殊な金属で出来ている。如何に貴様といえど一撃で打ち抜くことは出来ない」
 遠くで三影の声がした。
「もうすぐこの貴地は爆破される。それから逃れられた時俺は貴様の相手をしてやろう」
 その声には明らかに挑発の色が込められていた。
「来い、貴様ならばその程度のことは何でもない筈だ」
 声はそう言うと消えた。
「爆発か・・・・・・」
 ゼクロスは呟いた。
「そしてこの扉は容易には打ち抜く事は出来ない」
 扉を見て言った。
「ならば・・・・・・」
 彼は念じた。それに呼応して何かが向かっていた。

 奇巌山は爆発した。火山の様に煙と炎を噴き出す。
 三影はそれを遠く離れた岩山の上から見ていた。
「時間通りか」
 時計を見て呟く。そして煙草を取り出した。
「あの程度で死ぬ奴じゃない。おそらくすぐにでもやって来るだろう」
 そう言って煙草を口にした。火を点ける。
「その前に一服とするか」
 煙草から口を離し煙を吐く。白い煙が息吹となり吐き出される。
 一本吸い終えた。彼はそれを下に捨て足で踏んで火を消した。
 黙って下に降りる。そこは岩山に囲まれた盆地となっていた。
「そろそろだな」
 彼はそう言うと前に顔を向けた。
 爆音が轟いてきた。前から一台のマシンが姿を現わした。
 それはヘルダイバーであった。ゼクロスの愛車である。
「来たな」
 彼はその上に乗っていた。そして彼の前に降り立った。
「約束通り来たぞ」
 彼は三影に対して言った。
「ああ、思っていた時間通りだ」
 三影は落ち着いた声で言った。
「戦う前に言う事がある」
 ゼクロスは三影を見据えて言った。
「何だ!?」
 彼は問うた。
「訓練の時のことは礼を言おう」
「・・・・・・・・・」
 三影はそれに対して沈黙している。
「俺の危機に来てくれてな。そのことは感謝している」
「・・・・・・別にそんなこと気にしてもいなかったがな」
 三影は落ち着いた声で答えた。
「同志を助けるのは当然だ。それがバダンの鉄の掟の基となっているのだからな」
「・・・・・・・・・」
 今度はゼクロスが沈黙した。
「選ばれし我等が同志達は何があろうと救う、それがバダンの鉄の規律の最も重要なものの一つだ。そして・・・・・・」
 彼は言葉を続けた。
「あと二つある。まずは首領への絶対の忠誠、そして最後に・・・・・・」
 三影の目が光った。
「裏切り者は決して許さず何処までも追い詰め消す」
 彼はゼクロスを睨み付けて言った。
「暗闇大使は俺とヤマアラシロイドに貴様を連れ戻すよう言った。そしてヤマアラシロイドはそれに従った。だがな」
 彼はその目の光を強くさせた。
「俺は違う。裏切り者は必要無い。バダンに裏切り者はいらん」
 そう言うとサングラスを取り外した。
「貴様は裏切り者だ。バダンに仇なす者を俺は決して許さん」
 身体が黄色と黒の毛に覆われる。顔が変形し獣のものになる。
 背に砲身が現われた。それはまるで星を射抜く様に天に向けて聳え立っている。
「バダンの改造人間タイガーロイド、これが俺の真の姿だ」
 彼は変身を終えるとゼクロスに対し語った。
「俺がこの真の姿を見せる時は二つしかない」
 彼は静かに言った。
「一つは首領の御前、そしてもう一つは・・・・・・」
 彼はさらに言った。
「敵を倒す時だけだ」
「・・・・・・・・・」
 ゼクロスはやはりその言葉を沈黙して聞いていた。
「俺のこの姿を見て生きている者はいない。首領以外にはな。こう言えばわかるだろう」
「ああ」
 ここでゼクロスはようやく答えた。
「貴様はここで死ぬ。覚悟はいいな」
 彼はそう言うと構えを取った。
「・・・・・・残念だが」
 ゼクロスもそう言うと構えを取った。
「俺は負けん。決してな」
 そう言うと間合いを取りはじめた。
 両者は足を横に動かした。そして互いの隙を窺う。
 まずはタイガーロイドが攻撃を仕掛けてきた。両脇に備えている機関砲を放った。
 ゼクロスはそれを右斜め上に跳びかわした。そして肘に備えている手裏剣を手に取った。
 それを投げ付ける。手裏剣は風を切りながら怪人に向かう。
「甘いな」
 タイガーロイドはそれを見てニヤリ、と笑った。左手を手裏剣に向けた。
 指が放たれる。それはゼクロスの手裏剣を全て射抜き地面に叩き落とした。
「指の手裏剣か」
 着地したゼクロスはそれを見て言った。
「そうだ。貴様の手裏剣とは少し違うがな」
 タイガーロイドはその不敵な笑みを浮かべたままゼクロスに対して言った。
「俺は全身が武器となっている。バダンは俺を素晴らしい兵器に改造してくれたのだ」
「兵器、か」
 ゼクロスはこの言葉に仮面の下で眉を顰めた。
「そうだ、バダン最強の兵器にな。俺はバダンの誇る最強の兵器でもあるのだ」
「・・・・・・愚かな」
 ゼクロスは彼に侮蔑を込めて言った。
「?それはどういう意味だ」
 タイガーロイドはその言葉に対して問うた。
「愚かだと言ったのだ。人であることを捨て兵器となり喜ぶとはな」
「フン、バダンを裏切った貴様に何がわかる」
 タイガーロイドは毅然とした声で言った。
「我がバダンの崇高な理念に殉じることが出来るのならばそれで本望だろうが。それを知りながらも戻ろうともせず今こうして反旗を翻す貴様にそれがわかるものか」
「わからんな」
 ゼクロスは即答した。
「俺は人間だからな」
「フン、人間か」
 今度は彼が侮蔑を込めた笑みを浮かべた。彼はそれを笑みに込めたのだ。
「あの様な愚かで弱いもののことを持ち出すとはな」
「貴様も人だ」
 ゼクロスは反論した。
「戯言を。俺は最早人ではない」
 タイガーロイドは嘲笑した。
「俺は人を超えたのだ。この素晴らしい身体こそがその証」
 彼はそう言うと背中の大砲を伸ばした。大砲はまるで生き物の様に巨大化した。
「人は所詮脆いもの。この力の前には為す術も無い」
 砲身をゼクロスに向ける。
「これからは我等があの愚かな生き物を支配するのだ。この絶大な力をもってしてな」
 そう言うと砲撃を開始した。
「ムッ!」
 それはゼクロスに向けられていた。ゼクロスは咄嗟に右に跳んだ。
 砲撃はそれを追うように続けられる。ゼクロスはそれを横に跳びかわす。
「どうだ、この力」
 タイガーロイドは砲撃を続けながら満足そうに言った。
「人にこの力は無い。俺はバダンにこの力を授けられた」
 半ば恍惚としている。
「俺はこの力を授けられるべき選ばれた者なのだ。貴様に死ぬ前に教えてやろう」
 そう言うと砲撃を一旦止めた。
「この最大出力の砲撃でもってな」
 不敵に笑った。
「死ね、ゼクロス。あの世で自分の愚かさを悔やむんだな」
「・・・・・・愚かだな」
 ゼクロスは静かに言った。
「何っ!?」
 さしものタイガーロイドもその言葉に動きを止めた。
「愚かだと言ったのだ」
 ゼクロスはその静かな声のまま再び言った。
「貴様は力を得ただけで人間を超えたと思っているからだ」
 彼の声はその場を冷たく支配した。
「それ程力が素晴らしいか」
 彼はそう言うと構えを解いた。
「ならばその力とやらを見せてみろ」
 彼はタイガーロイドに対して言った。
「・・・・・・何を企んでいる」
 タイガーロイドは警戒しつつ言った。
「何も企んではいない。その力とやらを見せてみろと言っているんだ」
 彼は構えを解いたままである。
「・・・・・・記憶を取り戻した副作用か。気が狂ったらしいな」
 彼は侮蔑の色を込めて言った。
「ならば俺の真の力を見せてやろう」
 彼は再びゼクロスに照準を合わせた。
「そしてそれを冥土の土産にするがいい」
 砲身が赤くなる。今砲弾が放たれようとする。
「・・・・・・来い」
 ゼクロスは構えを取らない。仁王立ちしてその砲撃を見ている。
「死ねっ、ゼクロス!」
 砲弾が放たれた。その衝撃は今までのとは比べものにならない。その衝撃で砲弾を放ったタイガーロイド自身も後ろに飛んだ。
「来たか」
 砲弾が迫る。ゼクロスはそれを冷静に見ている。
「・・・・・・今だ」
 右手を前に出した。そしてその手の平を広げた。
「フフフ、何をするかと思えば」
 タイガーロイドはそれを見て笑った。
「バリアーなぞ張っても無駄だあっ!」
 だがゼクロスはバリアーを張ろうとはしなかった。その替わりに何かを出した。
「ムッ!?」

 それは超音波であった。普通の人間の目には見えないが彼等にはその音の振動が目に映る。
 音波が砲弾を撃った。そして信管がそれに反応した。
 信管が作動した。そして爆発を起こした。
「な・・・・・・まさか音波を使って砲弾を破壊するとは・・・・・・」
 タイガーロイドは目の前で爆発した砲弾を見て呆然となった。
「音波砲だ。俺にはこういった力もある」
 ゼクロスの声がした。
「ムッ!?」 
 爆風が消え去った。だがそこに彼の姿は無い。
「クッ、何処だっ!?」
 辺りを必死に見回す。
「ここだ」
 後ろから声がした。
「おのれっ!」
 タイガーロイドは振り向きざまに拳を繰り出した。
 拳はゼクロスの頭を打った。かに見えた。
 しかしゼクロスの姿は消えた。それはホノグラティーであった。
「残念だな。俺はここだ」
 今度は前から声がした。
「糞っ、小癪な真似を・・・・・・」
 タイガーロイドは彼を睨み付けた。先程の余裕に満ちた様子は何処にもない。
「貴様は今いらついているな」
「それがどうしたっ!」
 彼はその言葉に益々感情を露にした。
「貴様には感情がある。それこそが貴様が人である証なのだ」
「ふざけるな、それがどうして俺が人だという根拠になるっ!」
「人間は多くの感情を持っている」
 ゼクロスは言った。
「その中には素晴らしいものが多くある。しかしな」
 彼は言葉を続けた。
「それと同じ位醜い感情もある」
「醜い・・・・・・それこそが人間だろうが」
「偏見、傲慢、不遜、差別・・・・・・。実に多くある」
 ゼクロスは怪人の言葉に構わず言葉を続けた。
「だが俺はその中でも最も醜いものを今知った」
「それは何だ!?」
 タイガーロイドは問うた。
「それを自分で正当化し覆い隠そうとする卑劣さだ。今の貴様のようにな」
「戯言を・・・・・・」
 タイガーロイドはそれを笑い飛ばした。
「戯言ではない。貴様は自分のことに気付いていないのだ」
 ゼクロスは言った。
「貴様は自分が思っているような者ではない。貴様も所詮は軽蔑し見下す人間なのだ」
「ふざけるな。それでは俺もあの愚かな者と一緒だというのか」
「悪い意味でな。貴様は自分の思い上がった選民思想や権力欲を性悪論や力への信仰で理論武装しているに過ぎないのだ」
「・・・・・・いい加減にしろ、それ以上言うとただでは殺さんぞ」
「その残忍さこそそうだ。貴様は人間の醜い心の持ち主だ」
「おのれっ!」
 タイガーロイドは怒りを爆発させた。そしてゼクロスに襲い掛かる。
「・・・・・・・・・」
 タイガーロイドの顔が迫る。ゼクロスはそれを黙って見ていた。
「・・・・・・醜いな」
「ほざけっ!」
 それは単に彼の顔を見て言ったのではなかった。彼の顔に映し出される彼の顔を見て言ったのだ。
「・・・・・・俺もこの男の事は言えないな」
 ゼクロスはふと呟いた。
「憎しみに捉われていてはな」
 彼はつい先程までの憎しみに捉われていた己が心を思い出した。
「おそらく俺もあんな顔だったのだろう」
 タイガーロイドの怒りに満ちた顔を見ながら呟く。
「ならば今その憎しみを消し去ろう」
 彼はそう言って身構えた。
「行くぞっ、三影英介、いやタイガーロイドよ!」
 彼はそう叫び前へ突進した。
 二つの拳が交差した。激しい衝撃が辺りを覆う。
「グッ・・・・・・」
 タイガーロイドの右の拳が砕けていた。腕は潰れ機械の骨が剥き出しになっている。
「それが貴様の機械の身体か」 
 ゼクロスはその砕けた拳を見て言った。
「たとえ身体が違えど貴様の驕りは変わらん」
「まだ言うかっ!」
 タイガーロイドは左の拳を繰り出そうとする。思いきり振り被りゼクロスの顔へ向けて振り下ろす。
 しかし遅かった。彼は怒りのあまり感情をその拳に込めてしまった。余計な力が入ってしまっていた。
 ゼクロスはその拳を冷静に見ていた。そして己が右手を動かした。
 拳が受け止められた。ゼクロスはそれを握り締める。
「グオオッ!」
 タイガーロイドが叫んだ。ゼクロスは彼の拳を握り潰したのだ。
「生憎だが接近戦は苦手なようだな」
「何を・・・・・・」
「貴様はその背にある砲こそが最大の武器。だがそれに頼るあまり近距離戦を疎かにしていた」
「クッ・・・・・・」
 その通りであった。彼は自身の背にある砲の力を過信するあまり接近戦を軽視していたのだ。
「驕りたかぶる者は必ずその驕りによって滅ぶ。人がそうであったようにな」
「糞っ・・・・・・」
 反論出来なかった。だが彼の言葉を認めたわけではない。
「それを知るんだ」
 ゼクロスはそう言うと彼を上空へ放り投げた。
「喰らえっ!」
 彼も跳んだ。そしてその背に蹴りを放つ。
「ゼクロスキィーーーーーック!」
 その全身が赤く光った。そして全身に凄まじい力がみなぎる。
 その力を右足に集中させた。そして渾身の蹴りをタイガーロイドの背に放った。
「グハッ!」
 怪人はその蹴りを受けて絶叫した。口から血を噴き出す。
 背の砲身がミシミシと音を立てる。破損していた。
 ゼクロスが蹴りの衝撃をもって跳び退いた。タイガーロイドは地に落ちた。
「グググ・・・・・・」
 次第に三影の姿に戻っていく。
「この俺を倒すとはな・・・・・・」
 全身を激しい痛みが襲う。だが彼はそれでも立ち上がった。
「迂闊だった、接近戦のことを考えていなかったとはな」
 着地したゼクロスは彼と向かい合っていた。
「今日は俺の負けだ」
 彼は口から血を漏らしながら言った。
「だがこれだけは覚えておけ」
 彼は言葉を続ける。
「最後に勝つのはバダンだ。そして貴様も最後にはこの俺に敗れることになる」
「まだわからないようだな」
 ゼクロスはそれを聞いて言った。
「わかる?何をだ?」
 彼はそれに対して口の端を歪めて答えた。
「貴様の戯言など誰が聞くというのだ。勘違いしてもらっては困るな」
 彼は全身を襲う痛みに耐えながら言っていた。
「人の根は悪だ。悪こそ人の本質だ」
 まだ言葉を続ける。
「その悪を俺は超越し支配するのだ。それがバダンの理想だからな」
「それが理論武装に過ぎないというのがわからないのか」
「理論武装か。その言葉は貴様にそのまま返してやろう」
 彼は反論した。
「貴様は偽善者だ。貴様も多くの者を殺めてきたというのにな」
「・・・・・・・・・」
 その通りであった。彼は訓練において多くの者をその手にかけてきたのだ。
 その罪は消えない。だが彼はそれを償おうと考えている。
「言っておく。罪は消えない。決してな。人は罪そのものだ」
 彼はそう言うと口の端を再び歪めた。
「貴様がその罪ある人間共につくというのならつくがいい。そして裏切られるがいい」
 彼は嘲笑した。
「そして絶望の底に沈み死んでいくのだ」
「・・・・・・言う事はそれだけか」
 ゼクロスは言った。
「何っ!?」
「貴様の言葉が正しいかどうかは最早言うまでもない。貴様は負けたのだからな」
 ゼクロスは冷たい声で言った。
「強い者が正しいのならば俺が正しい。貴様は敗れたのだ」
「グッ・・・・・・」
 三影は言い返そうとする。だが言葉が無い。
「言うか、ならば」
 再び変身しようとする。だが出来なかった。
「無駄だ、今の貴様は立っているだけでやっとなのだからな」
 ゼクロスはそれを見て言った。
「最早残された時間も少ない。潔くしたらどうか」
「クッ、言うな・・・・・・」
 それでも変身しようとする。身体が黄色と黒の毛に覆われようとする。その時だった。
「もう良い、そなたは充分闘った」
 不意に何処からか声がした。
「その声はっ!?」
 ゼクロスも三影もその声を覚えていた。
「三影、いやタイガーロイドよ」
 二人の前に金と銀に輝く身体を持つ男が現われた。
「暗闇大使・・・・・・」
 二人はその姿を見て言った。
「何故ここに、撤退したのではなかったのか」
「そなたが心配になってな。戻ってきて良かったようだな」
 暗闇大使は三影に対して微笑んで言った。
「・・・・・・・・・」
 だが三影は彼から顔を逸らした。
「フフフ、申し訳ないとでも思っているのか」
 暗闇大使は宥めるような笑いをとった。
「貴様も同じバダンの一員だ。ならば身を以って助けるのが掟であろう。わしはその掟に従ったまでだ」
「そうか」
「ここは退くがいい。そして再び改造を受けその傷を癒すがいい」
「・・・・・・わかった」
 三影は頷くと姿を消した。
「・・・・・・行ったか」
 ゼクロスはそれを見て呟いた。
「さてゼクロスよ」
 暗闇大使は彼に顔を向けた。
「バダンに戻るつもりは無いようだが」
 彼は静かな顔で語り掛けてきた。
「ああ。俺は貴様等を倒す」
 彼は毅然として答えた。
「俺は世界の人達を護る為に貴様等と戦う。そして叩き潰してやる」
「フフフ、そうか」
 暗闇大使はそれを聞き不敵に笑った。
「元気がいい。まるでライダー達のようだな」
 彼はそう言うとニヤリ、と笑った。
「しかしな」
 彼は言葉を続けた。
「我がバダンを侮ってもらっては困るな」
「何っ!?」
 ゼクロスはその言葉に対し身構えた。
「我がバダンの力をもってすれば世界征服も貴様を抹殺することも赤子の手を捻るようなものなのだ」
 彼は自信に満ちた声で言った。
「我等の手には神の力がある。これで我がバダンはその理想を実現するのだ」
「まだそのような戯言を」
 ゼクロスはそれを否定しようとした。

「わしが戯言を言うと思うか!?」
 暗闇大使はその奇怪な左腕を掲げて言った。
「何なら貴様をその神の力で始末しても良いのだぞ。我がバダンの栄えある首領の生け贄としてな」
「・・・・・・・・・」
 ゼクロスは間合いを取った。そして二人は対峙した。
「今始末しても良いな。そうすれば手間が省ける」
 暗闇大使は笑みのまま対峙する。両者は技を繰り出そうとする。
 その時だった。その場に何者かの声がした。
「生憎だな。その言葉貴様に返そう」
 一号の声だった。見れば九人のライダー達がそこにいる。
「やはり来たか」
 暗闇大使は彼等を見据えて言った。
「我等に歯向かう愚か者共よ」
「フン、愚か者か。言ってくれるな」
 二号がその言葉に対しシニカルな声で返した。
「二度甦っても一向に心を改めない貴様よりましだがな」
「二度目!?」
 暗闇大使はその言葉に対し唇の端を歪めた。
「今二度甦ったと言ったな、このわしが」
「そうだ、ふざけるのもいい加減にしろ」
 今度は一号が口を開いた。
「地獄大使、ドイツでの決着今着けてやる」
「地獄大使か、ククククク」
 彼はその名を聞いて笑い声を出した。地の底から聞こえるような不気味な笑い声であった。
「何がおかしい」
 ダブルライダーは問うた。
「ククククク、これが笑わずにいられようか」
 暗闇大使はまだ笑い続けている。
「このわしをあの男と一緒にしてくれるとはな」
「何っ!?」
 これにはダブルライダーだけでなく他のライダー達も驚いた。地獄大使の名は彼等にとって不倶戴天の敵の一人であるからだ。かってのショッカーの大幹部としてでなく今バダンの大幹部の一人としての敵であるからだ。
「教えてやろう、わしの名は暗闇大使という」
 暗闇大使はライダー達に対して言った。
「あの男の従兄弟だ。かっては共にいた」
 彼はそこまえ言うと表情を変えた。その顔は怒りと恨みを含ませたものであった。
「あの様な男と一緒にされてもらっては困るな」
 彼の顔には怒気が浮き上がっていた。
「わしはあの男とは違う。いずれそれを死をもって教えてやろう」
 そう言うと右手から鞭を出した。そしてそれを振るう。すると風が起こった。
「また会おう。そしてその時こそ貴様等が我がバダンの前にひれ伏す時だ」
 彼は風の中にその姿を消した。
「行ったか・・・・・・」
 ゼクロスはそれを見送って呟いた。
「また会うことになるだろうがな」
 彼はそう言うとライダー達へ顔を向けた。
「・・・・・・・・・」
 ゼクロスは黙って彼等を見ている。
「また会ったな」
 ゼクロスは静かな声で言った。
「ああ、それもこの奇巌山でな」
 二号が少し皮肉っぽく言った。
「あの時はかなりやられたものだ。しかしそれが今の俺達のもとになったからな」
 X3が感慨を込めて言う。
「かってここでデルザー軍団を滅ぼしたが今はバダンの連中がいたとはな。本当に皮肉な話だぜ」
 ストロンガーはかって大首領がいた山の方を見ている。
「あの首領が生きていたというだけでも信じられないというのに」
 ]も同じである。
「そして今君がここにいるわけだ」
 スーパー1はゼクロスに対して語り掛けた。
「君のことは聞いている。バダンに改造されていたそうだな」
 ライダーマンはゼクロスの顔を見て問うた。
「ああ。だがそれからは解放された」
 ゼクロスは答えた。
「そうか。俺達と一緒だな」
 スカイライダーはそれを聞いて言った。
「皆そうだ。最初は悪の牙に捉われていたんだ」
 一号は感慨を込めた口調で言った。彼もショッカーに改造されたのだ。
「そして怒りと憎しみばかり思っていた」
 アマゾンが言った。ライダーは皆かっては怒りと憎しみに支配されていたのだ。
「しかし今は違う」
 二号が言った。
「かっては怒りに支配されていたんだ、ここにいるライダー達は全てな」
 X3はゼクロスに対し語り掛けるように言った。
「けれどそれから抜け出たんだ」
 ]が言葉を続けた。彼は父を殺されている。
「そうだったのか・・・・・・」
 ゼクロスはそれを聞いて心に何かを感じた。まるで何かが剥がれたかのようであった。
「俺も君と同じだった。いや、君よりもっと酷い憎しみに心を支配されていたな」
 ライダーマンはゼクロスを見たまま微笑んで言った。彼はこの時宿敵ヨロイ元帥のことを思い出した。無論決着を着けようと考えている。しかしそれ以上に大切なものもわかっているのだ。
「今はそんなものよりもずっと素晴らしいものの為に戦っているのさ」
 スーパー1が言った。
「それは・・・・・・」
「君はもうそれがわかっていると思うけれどね」
「あ・・・・・・」
 ゼクロスはスカイライダーの言葉にハッとした。
 町を歩く人々の笑顔。平和な世界。そして豊かな自然。それは全て彼にとってかけがえのないものであった。
 記憶を求めて漂ううちに彼は知ったのだ。人の持つ素晴らしさを。確かに醜い部分もあるがそれ以上に素晴らしいものを多く持っていることを。
「人々に必要とされる限り戦う。今の俺達はそれだけだ」
 ストロンガーが言った。
「悪を倒す。それがライダーの仕事」
 アマゾンも言った。ライダーの心は皆持っているのだ。
「君の心にも俺達と同じものがある。正義を、人々を、平和を愛する心が」
「・・・・・・・・・」
 ゼクロスは一号の言葉に再び沈黙した。
「君もライダーだ。その心がある限り君もライダーなんだ」
「俺が、ライダーに・・・・・・」
 彼は一号の言葉に反応した。
「そうだ。君の心は人間のものだ。熱い人間のものだ。それこそがライダーの証なんだ」
「ライダーの・・・・・・」
「そうだ、ゼクロス、君も今日からライダーだ」
「俺がライダーに・・・・・・」
 伊藤博士に言われてきたことがそのまま心に入ってきた。彼はそれを痛い程噛み締めていた。
「君は仮面ライダーゼクロス。仮面ライダー十号だ」
「仮面ライダーゼクロスか。いい名だな」
「そうだ、正義の戦士の名だ」
 一号はそう言うとゼクロスの手を取った。他のライダー達がそれに自らの手を重ね合わせる。
「行こう、正義の為に。そしてバダンを倒し世界に平和を取り戻すんだ」
「・・・・・・ああ」
 ゼクロスは泣かなかった。だが心は打ち震えていた。
(俺は憎しみや怒りを乗り越えられたんだ)
 それだけではなかった。
(俺は人間だ。身体はどうであれ心は人間なんだ)
 それは何よりも強い支えであった。
(俺は一人じゃない。共に戦う仲間達もいる)
 顔を上げる。そこには九人の戦士達がいる。
(バダンを倒す、そして世界に平和を取り戻す!)
 ゼクロスは決意した。身体に熱い力がみなぎる。
 その時だった。不意に山の方から声がした。
「フフフフフ、どうやら皆揃っているようだな」
「その声はっ!」
 ライダー達は一斉に山の方へ顔を向けた。
「諸君、暫く振りだな」
 それはあの首領の声であった。
「首領、一体何の用だ!」
 二号が叫んだ。
「用!?まあ大したものではないが」
 首領は余裕に満ちた声で言った。
「挨拶をしておこうと思ってな」
 彼は笑いを含ませつつ言った。
「もっとも私が君達にこうして挨拶をするのはこれで何度目かはもう忘れてしまったが」
「言うなっ、貴様は死んだ筈だっ!」
 スカイライダーが叫んだ。
「そうだ、あの時宇宙で死んだのではなかったのか!」
 X3がそれに続いた。
「私が死んだ、と」
 首領はそれを聞いてまた笑った。
「前にも言った筈だ。この世に邪悪なるものがある限り私は甦ると。そして必ず世界を征服してやると」
「クッ、諦めの悪い奴だ」
 ストロンガーが歯噛みして言った。
「フフフ、ライダーストロンガーよそれはお互い様だ。私も君達のしぶとさには今まで手を焼いてきているのだからな」
「フン、貴様がこの世にいる限り俺達は死ぬわけにはいかないのだ!」
「そうだ、貴様を倒すことこそが我々の宿命だ!」
 ]とスーパー1が叫んだ。
「この身体がどうなろうとも世界は守る!」
 ライダーマンもだ。かって首領に拾われ絶対の忠誠を誓っていた彼もその真の姿を知り正義に目覚めたのだ。今彼は正義の戦士の一人であった。
「ガルルルルル・・・・・・」
 アマゾンも吠える。
「首領、今度こそ貴様を倒す!」
 最後に一号が言った。九人のライダー達は一斉に身構えた。
「・・・・・・これがライダーか」
 ゼクロスはそれを見て呟いた。そして彼もそれに続いて身構えた。
「そこにいるのはゼクロスか」
 首領は彼の姿を認めて言った。
「惜しい男だが。しかし替わりは幾らでもいる」
「・・・・・・それが貴様の、バダンの本心か」
 ゼクロスはそれを聞いて言った。
「どうした?何か不服でもあるというのか?」
「やはり貴様は邪悪な者のようだな」
「フフフ、今更何を言っている」
 首領はゼクロスの言葉に対し嘲笑で返した。
「貴様は俺が倒す。そしてこの世に平和を取り戻す」
「フフフ、貴様に出来るかな」
「出来る、だと!?」
 ゼクロスはその言葉に対して反応した。目をピクリ、と動かす。
「俺はバダンを滅ぼす為に人間となった。この俺が貴様等を倒さずして誰が倒すというのだ」
「ほう、闘志だけは凄いな」
 首領は相変わらず余裕に満ちた声で言った。
「だがそれが何時まで続くかな」
 その時空を暗雲が覆った。
「我がバダンの真の力、それはまだ欠片程も見せてはいないというのに」
 暗雲が髑髏の形になっていく。
「貴様にはその闘志に敬意を表し一つ褒美を与えることを約束しよう」
 髑髏が無気味に笑った。
「この世で最もおぞましい死、をだ」
「・・・・・・それがどうしたというのだ」
 ゼクロスはそれを聞き流した。
「俺は死など怖れはしない。そして死ぬ筈もない」
 彼は言葉を続けた。
「俺はバダンを滅ぼすまでは死ぬことはない。それだけはよく覚えておけ!」
 彼は上の髑髏を指差して叫んだ。
「フフフフフ、まだ言うとはな」
 首領はそれでもまだ笑った。やはり彼は悪であった。その心の奥底にあるものは悪しかなかった。何処までも自らの
心の奥底にある邪なものを覆い隠そうとはしなかった。
「どうやらこれからは益々面白くなりそうだな」
 そう言うと彼は一旦言葉を切った。
「我がバダンは日本から一旦撤退する。だがこれは終わりではない」
 髑髏が更に大きくなった。それは天空を覆わんばかりであった。
「今から我等は世界各地で攻勢を開始する。そして世界を手中に収める」
「何っ!」
 これには全てのライダーが思わず叫んだ。
「我が手足である側近達がその指揮を執る。君達にこれが防げるかな」
「何度も戯言を。そんなものは全て打ち砕いてやる!」
 ライダー達は叫んだ。
「貴様等の野望は必ず潰える運命にあるのだ!」
「そうか、ならばやってみるがいい」
 首領は彼等に対し言った。
「バダンの力、それを死をもって教えてやる」
 そう言うと首領は言葉を止めた。
「ライダー諸君、それではまた会おう」
 首領はその気配を消していった。
「フハハハハハハハハハ・・・・・・」
 暗雲が消えていく。そして上空の髑髏は何処かへ掻き消えていた。
 これが新たな戦いの幕開けであった。ライダー達は再び世界に散った。そしてバダンとの何時終わるとも知れない死闘の新たな幕が開いたのであった。


十番目の光   完

                                     第二部  完


                                     2004・3・7




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