『仮面ライダー』
 第二部
 第六章      火吹き竜の島
 「二人共もう沖縄に着いたかしら」
 アミーゴの奥の通信室で誰かが話をしている。
 「そうだなあ、もうそろそろ着いている頃だろう」
 立花の声だった。
 「けれどあの二人が一緒になるなんて日本じゃ久し振りね」
 もう一方は女の声である。純子だった。
 「おいおい、何言ってるんだ。ついこの前まで全ライダーがここにいたんだぞ」
 「えっ、それ本当!?」
 後ろから別の女の声がした。二人いる。
 「何だ、御前等も来ていたのか」
 立花はその二人を見て言った。一人はジーンズを履いた黒いストレートのロングヘアーの女性、もう一人は癖のあるショート
ヘアーの膝までのスカートの女性である。
 「あら、チコにマコじゃない。貴女達もおじさんとこに来てたの?」
 純子が二人を見て言った。
 「ええ、久し振りに遊びに来たんだけど店におじさんいなくて」
 チコと呼ばれたロングヘアーの女性が言った。
 「史郎さんに聞いたらお店の奥にいるって言われて。まさか純子もここにいるなんて思わなかったわよ」
 マコと呼ばれたショートヘアーの女性がそれに続いた。
 「ええ、まあ。ちょっとおじさんのお手伝いをしているの」
 「お手伝いって・・・・・・。アルバイト?」
 「う〜〜ん、まあそんなとこかな」
 チコの問いに純子が考えながら言った。
 「何か話を聞いていたら・・・御前等知り合いか?」
 立花が三人に尋ねた。
 「はい。城南大学で同じ学部に在籍しているんです」
 マコが言った。
 「文学部です」
 純子が言った。
 「文学部か。じゃあルリ子の後輩にあたるわけだな」
 立花がパイプを口から離し手に持ちながら言った。
 「あ、はい。そういえばそうですね」
 純子が少し驚いた様子で答えた。
 「本郷も志郎も茂もあそこの大学だったしなあ。どうもわしはあそこの大学と縁があるな」
 立花は考える顔をして言った。
 「あら、敬介さんは沖縄の水産大学でしょ」
 チコとマコが言った。
 「隼人さんも丈二さんも別の大学だった筈だし」
 純子も相槌を打つように言った。
 「まあそれはそうだけれどな。ところで御前等一体何をしにここに来たんだ?まさか単に遊びに来たわけじゃないだろう」
 立花は二人にあらためて言った。
 「はい。何かまたおかしな組織が出て来たらしいし」
 「私達に出来る事はないかなあ、って思って」
 二人は言った。
 「察しがいいな。やっぱりゴッドと渡り合ってきたときの事を思い出したか」
 「まあ大体は。史郎さんあたし達がお店に入ったら急に態度変わるし」
 「そうそう、何かお店に一人でいるのが凄く怖いみたい。それであたし達が入って来たら凄く嬉しそうだもん」
 「・・・あいつは気が小さいからなあ。悪い奴じゃねえんだが」
 二人にその話を聞いて立花は苦笑した。
 「まあいいや。手伝ってくれるんならよろしく頼むぜ。何しろ日本全国に散っているライダー達から連絡がひっきりなしに
来ているからな」
 「はい」
 立花に言われ二人は通信室の席に着いた。そして純子と共にライダー達との連絡をとりはじめた。
 「何か段々賑やかになってきたな」
 立花はそれを見ながら目を少し細めた。
 「まさひことリツ子も協力してくれるっていうし頼もしくなってきたな。谷君や志度博士のところも賑やかみたいだしわしも
気合を入れないとな」
 だが感慨に浸る暇は無い。
 「おじさん、志郎さんから連絡が入りました」
 純子が声をかけた。
 「おう、今どうしてるって?」
 「金沢にいるそうです。ここで怪しい影を見たって人がいるらしくて」
 「そうか、何かあったらすぐ知らせるように言ってくれ」
 「はい」
 純子はそう言うと立花の言葉をそのまま風見に伝えた。通信の向こうの風見はそれに納得したようだ。

 本郷は沖縄に到着した。港から桟橋に降り立つ。
 「沖縄に来たのは初めてだな」
 上に広がる青い空と輝く太陽を眩しそうに見る。
 「そうね。こんなに暑いなんて思わなかったわ」
 傍らにいるルリ子が言った。彼女も太陽が眩しいようである。
 「だが暑過ぎる程じゃないな。南洋に比べるとまだまだ涼しい」
 「そうね。あそこは雨も凄いし」
 二人はそう話しながら港を出た。
 「よう、待っていたぜ」
 港を出る二人に後ろから声をかける者がいた。二人は振り向いた。
 「滝か。御前も来ていたのか」
 彼の顔を見て本郷は意外そうに言った。
 「あれっ、おやっさんから話はいっていないのかい?」
 この言葉には滝も少し驚いた。
 「何っ、じゃあ隼人がここに来る話も聞いていないのか?」
 「一文字が?いや・・・・・・」
 本郷もルリ子もそれには首を傾げた。
 「ハハハ、三人共困っているみたいだな」
 「その声は」
 遠くから声がした。三人はその声に反応した。
 「一文字」
 本郷がその名を呼ぶ。一文字隼人が出て来た。
 「何だ、もう来ていたのか」
 滝が彼の姿を認めて言った。
 「ああ、飛行機でね。俺の方が先に着くとは少し意外だったけどな」
 「船が時化で少し遅れてな。しかし何で本郷達が俺達がここへ来るのを知らなかったんだ?」
 「それか?俺がおやっさんに言ったんだよ。本郷達には知らせないでくれって」
 「何っ!?」
 一文字その言葉に滝は思わず声をあげた。
 「二人を驚かせてやろうと思ってな。まあ成功したな」
 「結局御前のいつもの悪ふざけか・・・・・・」
 会心の笑みを浮かべる一文字に対して滝は呆れ顔で言った。
 「けれどいいんじゃない?ライダーも一人でいるより二人の方がより心強いし」
 「うん、ルリ子さんの言う通りだ」
 本郷はルリ子の言葉に頷いた。
 「多分おやっさんも何か考えがあって俺達をここに行かせたんだろう。おそらくかなりの強敵がいる筈だ」28
 一文字がそれまで笑みを浮かべていた顔を引き締めた。
 「ああ、そうだろうな。俺達が一緒になる時はいつもそうだからな」
 本郷は言った。事実彼等が共に戦う時はいつもその前に強敵が立ちはだかってきた。
 「行こうぜ、本郷。ここで話しているより捜査をした方がいい」
 「ああ、一文字」
 二人は港を後にした。その後ろを滝とルリ子がついて行く。

 沖縄の青い海の底にそれはあった。一見難破船の残骸に見える。しかしそれは難破船ではなかった。
 船の中には階段がある。それは巧妙に隠されているがさらに深く続いていた。
 それを降りていく。そうすると灯りが見えてくる。
 「九州の方はどうなっている」
 その基地の奥の方から声が聞こえて来る。低い男の声だ。
 「はっ、今だ連絡が取れていません」
 報告する声が聞こえる。それは分厚い鉄の扉の向こうから聞こえて来る。
 「そうか。どうやら異変があったらしいな」
 浅黒い肌を持つ縮れた黒髪の男が言った。先程九州の事を問うていた男のようだ。
 赤いカッターを着ている。そして黒いスラックスと黒革靴を履いている。
 手や耳にブレスレットやイアリングを着けている。それが妙に派手で目につく。
 「長崎、桜島両方共音信不通です。作戦成功であれば良いのですが」
 報告しているのは戦闘員である。どうやらここもバダンの基地のようだ。
 そこは指令室であるらしい。潜水艦の内部のようだがそれよりは広い。鉄の管が天井に走り四方の壁に機械がある。
 「本部からは何と言っている」
 男が戦闘員に問うた。
 「今のところ連絡はありません。こちらから連絡しても返答はありません」
 「そうか・・・・・・一体どうなっているんだ」
 男は口に右手を当て考え込んだ。その時部屋の扉が開いた。
 「誰だ」
 入ってきたのは戦闘員だった。
 「御前か。一体どうしたのだ」
 警護に当たっている戦闘員の一人だ。彼の部下の一人である。
 「来客です」
 その戦闘員は答えた。
 「来客?」
 男はいぶかしんで聞いた。
 「はい。如何なされますか」
 「通してくれ」
 「はい」
 戦闘員は敬礼して退室した。そして一人の男を連れて来た。
 「御前は・・・・・・・・・」
 黒い皮のジャケットを着たリーゼントの男である。サングラスをかけている。三影だった。
 「一体何のようだ」
 彼はこの男の事をあまり知らない。同じバダンにいても彼とは全く異なる系列に属しているからだ。
 「暗闇大使からの伝言を伝えに来た。名は、ロベルト=リッカルドだったか」
 「トカゲロイドだ。そちらの方が通じるだろう」
 男は素っ気無く言った。
 「そうか、トカゲロイドか。覚えておこう」
 三影はサングラスの奥の目を光らせて言った。
 「ああ、よろしくな。ところで暗闇大使からの伝言は何だ」
 トカゲロイドは改めて尋ねた。
 「うむ、九州の事だが」
 「カメレオロイドとジゴクロイドだったな。今あの連中とは通信が取れないがどうしたのだ?」
 トカゲロイドはその黒い目を光らせた。
 「二人共作戦に失敗した。仮面ライダーに倒された」
 「何っ、それは本当か!?」
 トカゲロイドは語気を荒わげた。
 「俺が嘘を言って何になる。その証拠に二人とは通信が取れないだろう」
 「そうか、そうだったのか」
 トカゲロイドは歯軋りした。
 「二人を倒したのは仮面ライダー一号と二号。奴等は今この沖縄に向かっている」
 「そうか、ここにか」 
 トカゲロイドはその言葉に反応した。その顔に凄惨な笑みが浮かぶ。
 「どうした、やけに嬉しそうだな」
 三影はその笑みを見て言った。
 「当たり前だ。ダブルライダーといえば最早生ける伝説、その二人をこの手で始末する事が出来るのだからな」
 「そうか。しかし一人で大丈夫かな」
 「言ってくれるな。俺を誰だと思っている」
 三影の言葉に対して不敵に笑った。
 「俺はトカゲロイド、誇り高きバダンの改造人間だぞ。俺があの連中に遅れを取るとでもいうのか」
 そう言いながら息を吐いた。赤い炎の息だった。
 「いや、ただ一人より二人の方がいいと思ってな」
 「それはどういう意味だ?」
 「もう一つ伝える事がある。俺は暗闇大使にある任務を伝えられた」
 「ある任務?この沖縄でか?」
 「そうだ」
 三影はそう言うとサングラスを外した。
 「ダブルライダーを消せ、とな。あんたのこの地での作戦とは別にな」
 右の機械の眼が光った。無機質でありながら殺意に燃えた眼であった。 
 「フン、つまり俺と御前が共闘してライダーを倒せということだろうが」
 トカゲロイドはそれに対し口の端を歪めて言った。
 「少し違う。あんたは今まで通りこの基地の建設を進めてくれ。俺は一人でライダーを倒す」
 「自信家だな。だがその作戦は少し待った」
 「どういう事だ?」
 「ここは俺の縄張りだ。俺の縄張りに入った奴は俺がこの手で倒す」
 「・・・・・・つまり俺に帰れというのか」
 三影の右目が光った。トカゲロイドの目を睨む。
 「違うな。俺はそんな事は言わん」
 トカゲロイドは不敵に言った。
 「ではどういう事だ?」
 三影は問うた。
 「御前は御前で奴等の首を狙え。それについては俺は何も言わん。だがな」
 トカゲロイドはここで再び凄惨な笑みを浮かべた。
 「俺は俺の方で奴等を消す。先に奴等を始末させてもらう」
 「・・・・・・要するに早い者勝ちということか」
 「そうだ。解かり易いだろう」
 「わかった、その話乗ろう」
 三影はそう言うとサングラスを再び架けた。
 「では俺は早速行動に移らせてもらおう。何しろその為にここへ来たのだからな」
 「部屋は用意するぞ。休んでいくがいい」
 「いや、いい。悪いが海の底はどうも好きになれない」
 「そうか。では勝手にするがいい」
 三影は踵を返し部屋を後にしようとする。トカゲロイドはその彼に尋ねた。
 「一つ聞き忘れていた。奴等に敗れたカメレオロイドとジゴクロイドはどうなった?」
 「本部に回収された。再び改造手術を受けるらしい」
 三影は彼の方を振り向かず言った。
 「そうか。ならばじきに甦ってくるな」
 「ただしそれがどんな姿かは保障しないがな」
 「?どういう事だ?」
 「・・・・・・いずれ解かる」
 三影はそう言うとその場を去った。
 「あの男、何が言いたいのだ」
 トカゲロイドは閉じられた扉を見ながら言った。だげそれには構わず戦闘員達の方を向いた。
 「早速作戦を練るぞ。カマキロイドとジゴクロイドの敵討ちだ」
 「はっ」
 戦闘員達は敬礼した。そして隣の会議室へと入っていた。

 夜が明けた。伊藤博士と村雨は再び車を進めた。
 「生憎の雨だな」
 博士は車の窓を濡らす雨をワイパーで払いながら言った。
 「それにしてもワイパーの動きが悪いな。やはり中古なだけはある」
 博士はそう言って苦笑した。
 「いや、動きが悪いだけならまだしも音がするのは。これでは外の音も聞こえないな」
 「いや、博士、それは安心してくれ」
 村雨は博士に言った。
 「音は俺が聞いている。例え針が落ちる音でも聞き逃さない」
 博士の顔を見て言った。
 「そうだったな。頼りにしているよ、村雨君」
 博士は彼の顔を見て微笑んで言った。
 高速道路に出た。道は雨で水浸しとなっている。
 「タイヤも磨り減っているしな。ここは用心して運転しよう」
 博士は周囲に気を遣いながら車を運転する。
 その時その周りを十台近くのオートバイが通り過ぎていった。
 「ん、何だあれは」
 博士と村雨は彼等を見た。その一団は傍若無人の有様で道路を進んでいく。
 「街道レーサーか。それにしてもマナーの悪い連中だ」
 博士は顔を顰めて言った。
 「街道レーサー?」
 村雨はその言葉に反応した。
 「あ、知らなかったか。じゃあ教えてあげるよ。公共の道路を勝手に占領して自分達のレースを楽しむ連中さ。まあ愚かな連中である事は間違いないね」
 「そうか。愚かな連中か」
 「そうだよ、幾ら自分達が楽しくても他人に迷惑をかけてはいけない。それが解からない奴は愚か者だよ」
 「そうか」
 村雨は博士の言葉に頷いた。
 「まあそのうちわかるよ。すぐにでもね。ところでお腹が空いたね。そろそろお昼にしようか」
 「ああ」
 村雨はその言葉に素っ気無く答えた。

 パーキングエリアに着いた。二人は雨を避け走って店の中に入った。
 「さてと、何処に座ろうかな」
 レストランに入り席を探す。そこに先程の街道レーサー達がいた。
 相変わらず傍若無人である。他の客の迷惑も考えず騒いでいる。
 「あの連中もいるのか。全く少しは他人の迷惑も考えたらどうだ」
 博士はそう言って顔を顰めた。
 「さっきの連中か」
 見れば大きなテーブルを占領し大声で喋っている。テーブルは一面に並べられた料理のこぼしたもので汚れ椅子に土足
で座っている。しかもテーブルに足を投げ出している者までいる。
 「いい加減頭にきたな。ちょっと注意するか」
 博士が眉を顰めそのテーブルへ行こうとする。村雨はそんな博士を見て心の中で何かを思った。
 「博士」
 村雨は彼等の方へ行こうとする博士に声をかけた。
 「ん?どうした、村雨君」
 博士はその声に反応して顔を彼の方へ向けた。
 「ここは俺に行かせてくれ」
 村雨はいつもと変わらぬ感情に乏しい声で言った。
 「えっ、君が行くのかい?」
 博士は意外そうな顔をした。
 「ああ、行きたい」
 博士は少し考えたが彼の意志を尊重しその頼みを受け入れた。
 「よし、じゃあ君に任せるよ。あの馬鹿者共を大人しくさせてくれ」
 「わかった」
 村雨は小さく頷き彼等のいるテーブルに進んでいく。
 「あ、くれぐれと手柔らかにな。彼等は生身の人間なんだし」
 「ああ」
 村雨は博士の方を振り向かず言った。そして彼等のテーブルへ向かう。
 「で、今日は何処でレースするよ」
 その傍若無人なレーサー達は相変わらず騒いでいる。その中の一人が肘をつきスパゲティをフォークに絡めながら
他のメンバーに尋ねている。
 「そうだなあ、あそこの山道なんかいいんじゃねえの」
 別のメンバーがテーブルに足を投げ出しながらコーラを飲みつつ言う。
 「おっ、いいねえあそこはカーブも凄いし」
 青いレース服を着た者がそれに賛成する。
 「おお、あそこならスリルもあるしな。族の奴等も来ないし」
 髪を黄色に染めた男が笑いながら言った。彼等街道レーサーと暴走族は対立している事が多い。
 「まあ族の奴等が来ても怖かねえけどな」
 最初に何処でレースをするか聞いた男がパスタを噛みながら言う。口の中のものが見えるのも意に介していない。
 「まあな。族が怖くて街道レーサーがやってられかってんだ」
 そうそう」
 彼等は馬鹿騒ぎを続ける。だが彼等もその暴走族と大して変わりは無い。
 「おい」
 そこへ村雨が来た。彼等の席の前で立つ。
 「ン?何だこのパンチの兄ちゃんは」
 「一体何の用だ?」
 レーサー達は彼の声に対し顔を上げた。
 「静かにしろ」
 村雨は低い、抑揚の無い声で彼等に言った。表情も無い。
 それに対してテーブルにいる者達の反応は彼のそれとは正反対であった。
 「ああん、堅苦しい事言うなよ兄さん」
 「そうだよ、どうせあんたも店の人じゃないんだろう、何でそんな事言うんだよ」
 「他の人の迷惑になる」
 村雨は博士が言った言葉を口に出した。
 「他人!?他の奴の事なんか知るかよ」
 「そうそう、どうせ他の奴等も好きにやってんだからよお。大体あんた一体何の権利があって俺たちに説教垂れんだよ。
うぜえからどっか行けよ」
 彼等は一向に悪びれず言った。それに対して村雨は心の中にある感情を感じた。
 それはさっき感じた感情だった。それを感じた村雨はテーブルの上に置かれている一本のコーラの瓶を掴んだ。
 彼はそれを手に取ると軽く握った。だがそれだけでその瓶は粉々に砕けてしまった。その破片がきらきらと塵になって
その拳の中から砂粒の様に落ちていく。
 「なっ・・・・・・」
 それを見たレーサー達は顔を青くした。そしてその凍りついた顔のまま村雨を見上げた。
 「もう一度言う。他の人の迷惑になる」
 相変わらず表情は無い。それが彼等を一層震え上がらせた。
 「そ、そうですね」 
 一人が慌てふためいて言った。
 「き、気をつけますです」
 他の者も言った。そして姿勢を正しテーブルの上を綺麗にした。
 そしてあたふたと店を出て行く。そんな彼等を今まで嫌な顔をして見ていた他の客が笑いながら見ている。
 「これでいいか、博士」
 村雨は博士の方に戻って尋ねた。博士は彼に対して笑顔で言った。
 「ああ、見事だ」
 「しかし俺はあの連中を見て何か思った。この感情は一体何なのだ」
 「・・・・・・それは『怒り』というものだよ」
 「怒り!?」
 村雨は博士に尋ねた。
 「そうだ。許し難いものを何とかしたいという激しい気持ちだ。それはライダーの戦う力の源の一つでもあるんだ」
 「ライダーの戦う源の一つ・・・・・・」
 「そうだ。ライダー達は悪に対する怒りを常に持っている。だからこそ彼等は戦うんだ」
 「そうか、そうだったのか」
 「だがそれだけが彼等の力の源じゃない」
 博士はその表情をさらに真摯なものにして彼に言った。
 「怒りは時として人を狂わせる。それを制御する心も必要なんだ」
 「怒りを制御する心・・・・・・」
 村雨はそれをどうやってするのかまだ解かってはいなかった。だが口に出して呟いた。
 「それはおいおいわかってくる。ライダー達もそれで皆苦労してきたからな」
 「そうか、ライダー達は怒りに心を捉われていたのか」
 村雨は考えるように言った。博士はその言葉に頷いた。
 「そうだな。彼等の中にはそうだった者も少なくはない」
 博士は村雨の目を見ながら言った。そう言いながら思った。何れ彼も怒りに包まれるのではないか、と。
 それは深刻な危惧だった。彼が自分の姉の死の真相を知った時どうなるか、それが恐ろしかった。
 だがそれも時が来たら彼に話すつもりである。今はその時でないだけだ。
 「だがそれはかっての話だ。今の彼等は違う」
 「違う・・・・・・。それでは今はどうなのだ」
 村雨は尋ねた。
 「今も怒りを持っている。だがそれよりももっと大きなものを常に心に持っている」
 「それは何だ?」
 「それは『愛』だ」 
 博士は自身に満ちた声で言った。
 「愛・・・・・・」
 村雨にとって初めて聞く言葉だった。彼はそれが何かよく解からなかった。
 「何だそれは・・・・・・・・・」
 彼は博士に尋ねた。博士はそれに対し難しい顔をした。
 「難しい言葉だ。一言では言えない。だが凄く簡単に言うと・・・・・・そうだなあ」
 博士は思案しながら言葉を出した。
 「人を思いやる気持ち、人を大切にする気持ちかな」
 「人を思いやり、大切にする気持ちか」
 村雨はその言葉を繰り返した。
 「まあ他にも色んな意味を持っているけれどね。だがこれだけは憶えていて欲しい。愛がなければ人ではないんだ」
 博士は村雨の心に直接語りかけるように言った。
 それはまだ村雨の心を動かすには至らなかった。だが彼の心に強く残った。
 「愛がなければ人ではない・・・・・・・・・」
 村雨は呟いた。
 「そうだ、人は愛を知るから人である。例えその身がどんなものであろうともな」
 「身体がどんなものであっても・・・・・・。それでは俺も人でいられるのだな」
 「勿論だ。愛を知っているならばな」
 博士は言葉を選んで言った。彼の機械の身体と感情を奪われた心を察して。
 「・・・・・・そうなのか。俺も愛を心の中に持つ事が出来たら人になれるのか。今の俺は人間ではないのか」
 「そうは言っていない。君は既に人間だ。たとえ機械の身体でもな」
 「・・・・・・・・・」
 博士の言葉の意味が理解出来なかった。彼は沈黙した。
 「だが愛を知った時本当の意味での人になれる。そして悪に打ち勝てるのだ」
 「悪に打ち勝つ・・・・・・。愛とはそんなに強いものなのか」
 「ああ、この世で最も強く、素晴らしいものだ」
 博士は言い切った。村雨は彼の眼を見た。曇りの無い眼だった。
 「そうか。そうなら是非知りたい。そして本当の意味での人になりたい。・・・・・・博士、それを教えてくれ」
 「ああ、勿論だ」
 博士は頷いた。そして彼をテーブルへ導いた。
 「それはとりあえず食べてからにしよう」
 腹が鳴りだしたからであった。
 「ああ」
 二人はテーブルに着いた。そして食事を注文した。カレーライスだった。

 本郷と一文字達は沖縄の中を捜査していた。捜すはバダンの基地である。
 だが一口に沖縄といっても多くの島々からなる列島である。捜査は容易ではない。
 まずは那覇市内から始めた。二手に別れ捜査をする。
 「やはりそうそう容易に手懸かりは掴めないな」 
 「ええ。やっぱり市内にはないのかしら」
 本郷とルリ子は市内の喫茶店で休憩を取りつつ話をしていた。ココナッツミルクのジュースを飲んでいる。
 「那覇の辺りにはないか。場所を変えよう」
 「ええ。北へ上がりましょう。名護の辺りが怪しそうだわ」
 「よし、そうしよう」
 本郷とルリ子は名護へ向かった。一文字と滝は一足先に宮古島へ行っていた。
 「どうだ滝、何か変わったところは無かったか?」
 一文字は小舟の上にいた。ダイバーの服を着ている。
 「いや、何も無かった」
 海から出て来た滝が残念そうに言った。彼もダイバーの服を着背中にボンベを背負っている。      
 「沖縄は海も多いかえあな。これはかなり大変だぞ」
 「ああ。こういった仕事は敬介の専門なんだがなあ」
 「ははは、そうだな」
 一文字は笑い声を立てて笑った。
 結局沖縄島にも宮古島にもその近辺の島にも無かった。一行は石垣島に行った。
 石垣島は八重山諸島の中心地であり沖縄では沖縄本島、西表島に続き三番目に大きい島である。四方に河川が発達し
湾岸、半島、岬等多様な自然環境を誇る。川平公園や玉取崎展望台等風光明媚で知られている。
 「綺麗な場所だな」
 一行はその美しい場所の一つ平久保崎にいた。一文字がそこを歩きながら言った。
 「ああ、確かにな。だがここにバダンの基地があるのかも知れないぞ」
 本郷が顔を引き締めながら言った。
 「やれやれ、本郷は相変わらずだな。たまには気を楽しませる事も必要だぞ」
 「それは解かっている。だがな、この美しい景色を守らなければいけないと思うとな」
 本郷は緑の丘の上に立つ灯台の向こうに見える青い海を眺めながら言った。
 「ふふふ、相変わらずね、あの二人」
 ルリ子はその二人を後ろから見ながら言った。
 「ああ、話している事はいつもちぐはぐなんだがな。戦う時は驚く位息が合っているんだよ」
 滝が笑顔で言った。
 「だからこそ無敵のダブルライダーなのね」
 「だろうな。お互い個性が違うからあそこまでの強さを発揮出来るんだ」
 二人は歴戦の戦士達を見ながら言った。周りでは牛達が草を食べている。のどかで牧歌的な光景である。
 やがて牛達は牛飼い達に急かされ帰って行った。後には四人だけが残った。
 「牛達が帰って行くな。昼寝の時間か」
 「そうかもな。もう日も高い」
 本郷と一文字が話す。そして灯台を見上げた。
 「この灯台も昼はお休みだな。夜になったら海を照らすが」
 「ああ、夜になったら来て見てみたいな」
 上の照明を見る。そこから誰かが飛び降りて来た。
 「ムッ!?」
 それはバダンの戦闘員達だった。急降下し二人に襲い掛かる。
 「甘いっ!」
 二人はそれを何なく退けた。そして他に飛び降りてきた戦闘員達に立ち向かう。
 「滝、ルリ子さん、バダンだ!」
 「後ろからも来るぞ、気をつけろ!」
 一文字の言葉通りだった。後ろからも戦闘員達が来る。
 彼等は馬に乗っていた。そしてその上からボウガンを放つ。
 「危ないっ!」
 二人はそれをかわした。そして馬上から襲い来る戦闘員達に反撃を仕掛ける。
 「ギィッ」
 ルリ子が出した棒を腹に受けた戦闘員の一人が倒れる。滝は主が落馬したその馬に飛び乗った。
 「行くぞっ」
 そして鞍に置かれていた鉄の棒を振るう。そして戦闘員達を叩き落していく。
 ルリ子もそれに続いた。そして激しい騎馬戦を展開した。
 本郷と一文字はマシンを呼んだ。そしてそれに飛び乗り戦闘に入っていく。
 戦いは本郷達に有利に進んでいた。馬の扱いに慣れた感じの滝やルリ子に加え二人のマシンが加わったのである。
戦闘員達は次第にその数を減らしていった。
 「クッ、退け、退け!」
 リーダー格の一人が命令する。そして一目散に逃げていった。
 「待てっ!」
 彼等は追おうとする。だが戦闘員達はマキビシを撒きそれ以上進ませなかった。そしてその姿を消してしまった。
 「くそっ、逃げられたか」
 一文字がマキビシの前でマシンを止め舌打ちした。
 「仕方無いな、今回は諦めよう。しかしこれではっきりしたな」
 本郷が戦闘員達が消えた方を見つつ言った。
 「バダンの基地はここにある」
 「ああ、間違い無い」
 一文字もそれに頷いた。滝やルリ子もそれは同じであった。
 そのライダーを遠くから見る男がいた。黒い皮のジャケットを着たサングラスの男だ。
 「・・・・・・成程な。噂通りの強さだ」
 三影だった。冷めた目で本郷や一文字を見ていた。
 「伊達にカメレオロイドやジゴクロイドを破ったわけではないな。これは容易ならざる相手だ」
 サングラスを外す。そしてその機械の目で彼等を見た。
 「・・・・・・いや、まだ早いな」
 だがそれを再び着けた。そして懐から煙草を取り出した。
 「おそらくトカゲロイドの方も動きだす。その時にまた動けばいいだけだな」
 三影はそう呟くと踵を返した。そして煙草に火を点けその場を立ち去った。
 
 本郷と一文字は石垣島での捜査を本格的に開始した。宿もこの島に移した。
 「成程な、この島全体で奴等を見たという話がある」
 捜査を終えた本郷がホテルで石垣島の地図を広げながら言った。その地図のあちこちには赤い丸が書き込まれている。
 「それだけじゃない。海でも奴等を見たという話がある」
 一文字が海を指差しながら言った。
 「海か。もしかすると奴等海底に基地を作っているのか」
 「有り得るな。ショッカーの頃からよくあったしな」
 「海か。ならば少し厄介な事になるかも知れないな」
 「?どうしてだ?」
 一文字は本郷の言葉に首を傾げた。
 「うむ、この辺りは難破船が多いという。海の底には嵐で沈んだ船が多く眠っているという。隠れるにこれ程適した場所
もないだろう」
 「それを一つ一つ虱潰しに調べるとなると厄介だな。その間に体勢を整えられるし」
 「そうだ。唯でさえ奴等は俺達がここに来た事を既に知っているんだ。事を急がないとこちらが不利になるばかりだ」
 「そうだな。出来るだけ急がないとな」
 二人はテーブルで向かい合い頷いた。一文字はその上のコーヒーを口にすると本郷に言った。
 「そういえば滝とルリ子さんは何処へ行った?」
 「川平公園の方へ行っている。あそこでも奴等を見たという話がある」
 「そうか、川平公園か」
 一文字はその名に少し反応した。川平公園は黒真珠の養殖で知られている場所である。美しい海が有名な石垣島で
最も美しいと言われている場所の一つである。
 「本郷、俺達もそこへ行かないか」
 一文字が腰を浮かせて本郷に言った。
 「おい、まさか写真を撮りに行くつもりじゃないだろうな」
 本郷は苦笑して言った。
 「ははは、その為のカメラだろ」
 一文字は苦笑する彼ににこりと笑って言った。
 「しょうがない奴だな。そうだな、行くか」 
 「よし」
 二人は席を立った。そしてホテルを後にした。
 
 滝とルリ子は川平公園の砂地を歩いていた。白い雪のような砂である。
 砂地のすぐ側は緑の森である。深い緑が目を休める。
 そしてその緑と向かい合うように海が広がっている。何処までも青く、澄んだ海である。
 「バダンの奴等もこんなことろまで来なくてもいいのにな」
 「本当、どうせなら観光で来たかったわ」
 滝とルリ子は海を眺めながら言った。二人共景色に見とれてはいるが気は張っている。それが不満であるようだ。
 「まあ不満を言っても始まらないな。奴等はどうせ観光なんか興味無いし。確か奴等の姿を見たって話があったのは
この辺りだったよね」
 「ええと・・・・・・。そうね、丁度この辺よ」
 ルリ子が地図を見ながら言った。
 「見た所何もおかしいものは無いけれどな」
 滝が辺りを見回しながら言った。
 「あの森の方で黒い影が動いているのが見えたそうよ。赤い仮面を着けた。それを見た人はキジムナーじゃないかって
言っていたけれどね」
 キジムナーとは沖縄に伝わる妖怪の一つである。ガジュマロの木に住み魚の目を好んで食う。
 「それは多分戦闘員だな。ひょっとするとここに基地を作っているのか?」
 「それは無いんじゃない?いくら何でも目立つわよ。ここは観光客も多いし」
 「だよなあ。だとすればこんなところで一体何を・・・・・・」
 滝は右手を口に当てて思案した。
 「今は何処かに基地を置いているけれどいずれこの島全体を基地にするつもりなんじゃないかしら。だから今は島全体
を色々と調べているとか」
 「そうか、だとしたら島全体で奴等の姿が見られているのも納得がいく」
 滝はルリ子の言葉に頷いた。
 「しかしこのい石垣島全体を基地にするつもりか・・・・・・。奴等め、派手な事を考えるな」
 「沖縄は結構いい場所にあるしね。ここに基地を作ればアジア太平洋地域に大きな影響を与えられるから」
 沖縄は古来貿易で栄えた。それはこの地の地政学によるところが大きい。
 「だな。奴等の考えそうな事だ。シンガポールでもそうだったしな」
 「そうね。バダンはどうも要地を押さえたがるから」
 「それが他の組織とは違うな。今までの奴等だとテロばかりするところだが」
 二艘の小舟の横を通り過ぎる。その右には数本の木が立っていた。
 突如としてその木が変化した。戦闘員達が現われた。
 「ムッ!?」
 木だけではなかった。小舟の中からも出て来た。
 「糞っ、まさか待ち伏せしていたとはっ!」
 彼等は滝とルリ子を取り囲んだ。その手には鉄の棒を持っている。
 「ギィッ」
 戦闘員達が棒を振り下ろす。滝はその手を蹴り飛ばした。
 「やらせるかっ!」
 ルリ子も戦闘員の一人を手刀で倒した。そして二人は倒した戦闘員から棒を奪い取った。 
 そしてその棒を振るい戦闘員達を倒していく。だが彼等は仲間が数人倒されると囲むだけで攻撃を止めた。
 「どうした、もう怖気づいたか?」
 滝は彼等に言った。そして囲みを突破する隙を窺っている。
 「それは違う。貴様等の始末はこの俺がつけてやるだけだ」
 一人の男が出て来た。縮れた黒髪を持つあの男だ。
 「御前は・・・・・・バダンの手の者か」
 滝はその姿を見てすぐに直感した。男はそれにはすぐ答えず彼等の前に来た。
 「そうだと言ったら?」
 男は不敵な笑みを浮かべて言った。
 舌が口から出た。それは先が二つに分かれた爬虫類の舌だった。
 「俺はバダンのトカゲロイド。貴様等の予想通りバダンの改造人間よ」
 「そうか、やはりな」
 滝はその舌を見ながら言った。それが彼が人であらざる何よりの証だった。
 「そしてこの石垣島全体をバダンの基地にする計画の責任者でもある。貴様等の予想はこの点でも当たっている。その
鋭さ、褒めてやろう」
 トカゲロイドは賞賛の言葉を述べた。しかしそこに賞賛の意はこもっていなかった。
 「だがその鋭さは時として自分の寿命を縮める事になる」
 「それはどういう事だ?」
 滝は言い返した。
 「それは簡単だ。貴様等は今ここで死ぬという事だ。他にどう言いようがある」
 トカゲロイドは冷たく言った。
 「焼き尽くしてやる。骨の一片の残らないようにな」
 息を吐いた。それは赤い炎の息だった。
 「くっ・・・・・・」
 滝とルリ子も死を覚悟した。怪人を相手では明らかに分が悪かった。
 トカゲロイドは静かに息を吸い込んだ。そして炎の息を彼等に吹きつけようとする。
 「待てっ、そうはさせん!」
 不意に二人の声がした。森の方からだ。彼等は森の方を見た。
 「なっ、貴様等は!」
 トカゲロイドは彼等の姿を認め思わず叫んだ。そこには彼等が最も忌み嫌う者達がいた。
 「猛さん!」
 「隼人!」
 ルリ子と滝が彼等の名を呼んだ。そこに二人の戦士達がいた。
 「まさか貴様等がここに現われるとは思わなかったがな。だがここで会ったのが貴様等の運の尽きだ」
 一文字が彼等を指差して言った。
 「貴様等の計画は全て聞かせてもらった。俺達がいる限り貴様等の思い通りにはさせん」
 本郷も言った。そしてゆっくりと前へ進んで来る。
 「行くぞっ!」
 二人は同時に叫んだ。そして腰からベルトが現われた。

 ライダァーーーーッ
 変っ
 二人はゆっくりと腕を動かしはじめた。本郷は右に手刀を作り左から右へ旋回させる。左手は拳にし脇に入れている。
一文字は両手に手刀を作り肩の高さで右に水平に置く。そして右から左へ旋回させる。
 二人の身体が次第に変化していく。黒いバトルボディに包まれ胸がダークグリーンになる。
 だが手袋とブーツの色が違った。本郷はシルバーなのに対して一文字のそれは赤であった。

 変っ身っ!
 身っ!
 本郷が右斜め上まで持って来た右手を脇に素早く入れた。そして同時に左手を手刀で右斜め上に突き出す。
 一文字は両手を拳にした。そして左手は肘のところで垂直に上に曲げ右腕は胸のところで同じく垂直に曲げる。
 二人の顔を仮面が覆った。まずは右、そして左を。本郷のそれはライトグリーン、一文字のそれはダークグリーンであったが
同じライダーの仮面であった。紅い眼が輝き首を深紅のマフラーが覆っていた。

 腰のベルトが強い光を発する。そして二人を覆った。
 ダブルライダーだった。かって多くの組織の野望を打ち砕いてきた伝説の二人のライダーが今そこにいた。
 「フフフ、遂に出て来たかダブルライダー」
 トカゲロイドはそれを見て不敵に笑った。
 「俺に相応しい相手だ。このトカゲロイドのな」
 そう言うと先の割れた爬虫類の様な舌を出した。
 同時に肌が鱗に覆われていく。眼がトカゲのそれになる。
 頭が蜥蜴のそれになる。そして口が禍々しく伸びた牙に覆われていく。
 首には大きなエリマキがあった。それはまるで盾のようである。
 「行くぞ、焼き尽くしてやる」
 そう言うと戦闘員達がダブルライダーを取り囲んだ。
 「イィーーーーーッ!」
 戦闘員達が襲い掛かる。ライダー達を数人が一組になり倒さんとする。
 「やらせんっ!」
 「そうはいくかっ!」
 二人はその戦闘員達を次々に倒していく。滝とルリ子もそれに協力する。
 「ここは俺達に任せてくれっ」
 「二人は奴等の基地を捜してくれ」
 二人は滝とルリ子に言った。
 「よし、わかった」
 「ええ、ここはお願い」
 二人はそれに従った。そしてその場を退いていく。
 「フン、行ったか。まいい、どの道ライダーさえ倒せばあの連中など後でどうにでもなるわ」
 トカゲロイドは退いていく滝達を見ながらせせら笑った。
 「そう、貴様等さえ倒せばここでの作戦は成ったも同然なのだ。覚悟しろ」
 トカゲロイドはライダーと対峙した。そして舌を出した。
 「死ね」
 息を吸い込む。そして赤い炎を噴き出した。
 「ムッ!」
 二人はそれをかわした。そして左右に散る。
 「フフフ、今のをかわしたか。だがそれ位かわしてくれないと面白くはない」
 火を噴き終えたトカゲロイドはライダー達を見回しながらニヤリ、と笑った。44
 「この砂場が貴様等の墓場となる。さあ死ぬがいい」
 再び炎を吐く。ライダーはそれをまたかわした。 
 「噂通りの身のこなしだ。だがそれが何時まで続くかな」
 トカゲロイドはさらに攻撃を続ける。
 ライダー達はそれに対し隙を窺っていた。二号が怪人の前に、一号が斜め後ろについた。
 「今だっ!」
 怪人が炎を噴き終えたその瞬間に二人は動いた。そして前後から同時に襲い掛かった。
 一号が羽交い絞めにする。そして二号がそこに手刀を入れる。
 「どうだっ!」
 だがその手刀は怪人のエリマキにより防がれていた。
 「何ッ!」
 そのエリマキはまさに盾だった。大きく開き二号の手刀を防いでいたのだ。
 「フフフ、甘いな」
 トカゲロイドは二号を見て余裕に満ちた笑みを浮かべた。
 「死ねぇっ!」
 そして火を吹く。二号は至近であるがその驚異的な反射神経でそれをかわした。
 怪人は一号を振り払った。恐ろしい力である。
 「中々考えたが残念だったん。俺のこのエリマキはある程度大きくする事が出来るのだ」
 怪人は間合いを離した二人に対し言った。そして海の方を見る。
 「そして俺はトカゲの改造人間である事を理解してもらおう」
 「何!?」
 ダブルライダーはその言葉に思わず首を傾げた。
 「水は俺の力の源。この近くにいるだけで俺の力は増すのだ」
 怪人は不敵に笑いながら言った。
 「くっ、そうだったのか」
 二人は舌打ちした。トカゲロイドはそれを見てさらに笑った。
 「それに気付かぬ自分達の迂闊さを呪うがいい。さて、それではそろそろ決着を着けるか」
 トカゲロイドはそう言うと大きく息を吸い込んだ。
 「くっ、こうなれば・・・・・・」
 一号はトカゲロイドが火を噴こうとしているのを見て意を決した。二号の方へ目をやる。
 「一文字、あれをやるぞ」
 一号の言葉の意味を二号はすぐに理解した。
 「本郷、あれをやるつもりか」
 二号は言った。
 「ああ、行くぞ」
 一号は強い声で言った。二号はそれに対し頷いた。
 「よし」
 二人はトカゲロイドに近付いた。
 「馬鹿め、間合いを狭めようと同じ事だ」
 トカゲロイドはそれを見て言った。そして炎を噴こうとする。
 その時だった。ダブルライダーは彼の周りで大きく回りはじめた。
 「な、何っ!?」
 二人は凄まじい速さでトカゲロイドの周りを走る。何時しかその姿は見えなくなった。
 「ど、どういうつもりだ!?」
 トカゲロイドは慌てた。思わず火を噴くのを止めてしまった。
 「トオッ!」
 二人は跳んだ。トカゲロイドは思わず顔を上げた。
 「上かっ!」
 彼も跳んだ。だがそれと同時に何かに巻き込まれた。
 「うおっ!?」
 それは竜巻だった。彼はそれに巻き込まれ吹き飛ばされた。
 「ど、どういうことだ!?」
 トカゲロイドは宙を舞いながら自らの置かれている状況に考えを巡らせた。
 だがそれは少し遅すぎた。彼は地面に叩きつけられた。鈍く重い音がする。
 「グググ・・・・・・」
 明石パラワールドの上だった。側に水辺は無い丘の上だ。痛みに堪えながら立ち上がる。その前にダブルライダー
がいた。
 「そうか、竜巻を起こしたのだな、貴様等が」
 トカゲロイドはようやく理解した。先程の二人の動きの意味を。
 「そうだ、貴様を水の近くから引き離す為にな」
 一号は立ち上がった怪人に対して言った。 
 「かってショッカーライダーを倒す時に使った技の応用だがな。結構効いただろう」
 二号が言った。彼の言葉通り竜巻によるダメージも相当なものだった。
 「ライダー車輪か、あじな真似をしてくれる」
 トカゲロイドは苦渋に満ちた声で言った。
 「だが俺もバダンの改造人間、この程度では怯まんぞ」
 構えを取る。ライダーも身構える。
 「待てトカゲロイド、俺を忘れてもらっては困る」
 その時声がした。ダブルライダーもトカゲロイドも声のした方を見た。
 「貴様は・・・・・・」
 そこには三影がいた。こちらへゆっくりと歩いて来る。
 「貴様、どうしてここに・・・・・・」
 トカゲロイドは彼に問うた。
 「貴様一人では荷が重い。助太刀させてもらう」
 三影はゆっくりと言った。
 サングラスを外す。そしてダブルライダーを見た。
 「そうか、貴様・・・・・」
 おの右目を見て彼等はすぐに悟った。三影もまたバダンの者なのだと。
 「そうだ、察しがいいな。俺の名は三影英介。このトカゲロイドと同じバダンの人間だ」
 三影はダブルライダーに対し言った。
 右目が動く。機械の動きそのものであった。冷たい光も放っている。
 「貴様等を消す為にここへ来た。覚悟しろ」
 左目が光る。そしてその全身を野獣のような気が覆っていく。
 「待て三影」
 トカゲロイドが彼を制止するように言った。
 「何だ」
 三影の全身を覆っていた気が消えた。そしてトカゲロイドの方を振り向く。
 「俺を侮ってもらっては困る。ダブルライダーの相手はこの俺一人で充分だ」
 「残念だがそれは断る。俺も仕事なのでな」
 三影はその申し出を拒絶した。
 「そういうわけにはいかん。この地域の責任者はこの俺だ。俺の言葉には従ってもらおうか」
 トカゲロイドも引かない。いざとなれば一戦も辞さぬ構えだ。
 「・・・・・・解かった、貴様に任せよう」
 三影は引いた。サングラスをかけなおした。
 「それでは健闘を祈る。ダブルライダーの首級、必ず挙げてこい」
 「無論だ、楽しみに待っていろ」
 トカゲロイドは彼に対し不敵に言った。
 「それでは俺は退かせてもらう。ダブルライダーよ、また会おう」
 三影はそう言うと高く跳んだ。そして何処かへと姿を消した。
 「三影英介か・・・・・・」
 「一瞬だけだったが恐ろしい殺気だった。何者だ、あいつは」
 ダブルライダーは三影が消えた空を見上げながら言った。彼等にも先程の男が尋常ならざる相手であると解かった。
 「ダブルライダーよ、あの男に気を取られている暇は無いぞ」
 その時前に立つトカゲロイドが声をかけてきた。
 「貴様等の相手はこの俺だ。必ずや貴様等を倒してやる」
 口から舌を出す。それは不気味に蠢いた。
 「死ねぃっ!」
 口から炎を噴き出す。ダブルライダーはそれを跳躍でかわした。
 「甘いっ!」
 トカゲロイドは跳んだ。そして一号へ向かう。 
 空中でその爪で切り裂かんとする。だが一号はそれを蹴りで弾き返した。
 「クッ!」
 トカゲロイドは着地した。そしてほぼ同時に着地していた二号に襲い掛かる。
 素早い動きで間合いを詰める。そして蹴りを浴びせる。
 二号はそれを掴んだ。そして地面に叩き付けた。
 しかしトカゲロイドはそれを受身で流した。そして同時攻撃を浴びせに来た一号を炎で離す。
 「どうした、噂に聞こえたダブルライダーとはその程度か」
 トカゲロイドはダブルライダーに言った。攻撃を退けられた二人は間合いを離している。
 「喰らえっ!」
 トカゲロイドが再び炎を噴き出した。ダブルライダーはそれを左右に散りかわす。
 「何のっ!」
 二人はトカゲロイドが炎を噴くさいの隙を見逃さなかった。彼が火を噴き終わったその瞬間ダブルライダーのパンチを受けた。
 「グハッ!」
 これにはさしものトカゲロイドもたまらない。怯んだ。
 ダブルライダーはそこへ連続攻撃を仕掛ける。膝蹴りがトカゲロイドの腹を撃った。
 「ガハアアッ・・・・・・!」
 これにはさしものトカゲロイドも耐えられない。ガクリ、と片膝を着く。
 それを見逃すダブルライダーではない。二号が言った。
 「本郷、今だ!」
 二号が叫ぶ。それに一号も応えた。
 「おう、一文字!」
 大きく頷いた。そして二人はそれを合図に天高く跳んだ。
 「トオッ!」
 そして空中で一回転する。蹴りの体勢に入った。
 「ライダァーーーーッ、ダブルキィーーーーーック!!」
 ダブルライダーの連携技の中での一際大きな破壊力を誇る技である。これによりどんな強力な怪人も一撃のもとに
葬ってきている。
 それがトカゲロイドの胸を直撃した。怪人は大きく吹き飛ばされた。
 「グググ、これがライダーダブルキックか・・・・・・」
 致命傷であった。だがそれでもなお立ち上がってきた。
 「見事だダブルライダー、この勝負は俺の負けだ」
 人間の姿に戻った。そしてダブルライダーを見据えつつ言った。
 「だが俺は死なん。必ずや甦り再び貴様等の前に現われる」
 倒れそうになる。だが気力を振り絞って立ち上がった。
 「その時こそ我がバダンの世界制覇の日。その時を楽しみにしていろ」
 そう言うと前に大きく倒れた。
 「次に会う時が貴様等の最後だ!」
 最後にそう叫ぶと爆発した。そして消え去った。
 「やったか、本郷」
 「ああ、おそらくな。だが」
 一号は表情を暗くした。
 「カメレオロイドの時もそうだった。奴等、甦るとはどういう事だ」
 「俺も桜島で聞いた。奴等まさか不死身だともいうのか」
 「解からん。だがいずれ解かるだろう」
 一号は変身を解きながら言った。
 「ああ、だがその時奴等が一体どういった動きをするのか・・・・・・」
 二号も変身を解いた。二人は本郷猛と一文字隼人に戻った。
 「バダン、底知れん組織だ」
 二人はその場を去った。下には青い海が広がっていた。
 その二人を遠くから見る影があった。サングラスの男、三影である。
 「トカゲロイドをもってしても勝てないか」
 煙草を吸いながら二人を見つつ言った。
 「沖縄での作戦も失敗だな。指揮官が倒されては」
 懐から何かを取り出した。携帯電話である。
 「本部か。こちら三影だ。トカゲロイドは倒れた。これからその遺体を収納した後この地を撤退する。基地はどうする」
 電話の向こうから何やら声がした。
 「破棄か。解かった、では残った戦闘員達も全て引き揚げさせる」
 三影はそう言うと携帯を切った。そしてそれを懐になおした。
 「戦闘員達を集めて本部に帰るか。奴の行方も気になるしな」
 そう言うとその場を立ち去った。後には静寂だけが残った。
 
 戦いを終えた本郷達は沖縄を後にした。今は東京へと戻る空港のロビーにいる。
 「滝とルリ子さんは?」
 本郷は一文字に尋ねた。
 「今チケットを買っている。なんでも混んでいるらしく時間がかかっているみたいだ」
 「そうか。まあ離陸まで時間があるしいいか」
 本郷は右腕の時計をチラリと見て言った。
 そうだな。それにしても難破船の中に基地があったとはな」
 一文字が意外だったような顔で言った。
 「ああ。海中で爆発があったというから行ってみたら。あれではそうそう見つけられなかったな」
 本郷も真摯な顔で頷いて言った。 
 「だが良かったな。これで沖縄での戦いは終わりだ」
 「ああ。だがこれで終わりじゃない。俺達の戦いはまだ続くぞ」
 「ああ。この世に悪がある限りはな」
 滝とルリ子が来た。二人は彼等の方へ歩いて来た。

 火吹き竜の島  完


                             2003・12・17
 

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