『仮面ライダー』
 第二部
 第九章      海魔泳ぐ海

 瀬戸内海は古来より我が国の海運の中心となっている。船の往来は多く港も多い。かって海軍が呉に港を置いた理由は防衛に適しているのとこの地が天然の良港の宝庫だからであった。平家もこの地の海運を利用して栄えた。平清盛が厳島神社を自らの家の守護神としていたのは有名であろう。彼はこの神社に参拝する時に出世魚を食べ出世したという言い伝えも残っている。
 また漁業も盛んである。朝早く海に出ると漁に精を出す船があちらこちらで見られる。
 同時にこの海は世界有数の海運上の難所でもある。小島が極めて多く海流は複雑である。また小舟も多く船乗り達はここを通過する際は細心の注意を払う。船乗り泣かせの場所でもあるのだ。
 しかも昔は海賊達も多かった。藤原純友がここで暴れ回り戦国まで海賊の根城が多々あった。また土着の豪族達も独自の水軍を持ち割拠していた。平家が栄えたのはこの地の豪族達と良好な関係を保っていた事も大きかったのだ。室町期の有力な守護大名大内氏も戦国の中国の雄毛利氏も彼等を自らの勢力に取り込むことによってその勢力を磐石なものにしていた。とりわけ毛利氏は厳島の戦いにおいて村上水軍の力を利用して勝っている程である。
 その瀬戸内は今でも船の往来が多い。今では我が国の船だけではなく世界各地の船が往来している。
 その日の夜一隻の貨物船が航行していた。見ればアジアのとある半島籍の船である。
 「しかし島や小舟の多いところだなあ」
 船長は艦橋でぼやいた。痩せてエラの張った顔をしている。
 「そうですね。しかしここを通らないわけにはいきませんからね」
 傍らにいる若い航海士が言った。
 「うむ。まあ今日は雨も降っていないし船も比較的少ないしな。いつもと比べるとかなりやり易い」
 「そうですね。しかし油断は禁物ですよ。最近ここで事故が絶えませんようですし」
 航海士が顔を顰めた。
 「らしいな。船が急に顛覆したとか沈没したとか。今月に入ってもう三件か」
 船長もその表情を暗くした。
 「救助された者の話では船に欠陥は無く船底が何時の間にか空いたりエンジンが急に爆発したりしたらしいですね。事故を調査した海上自衛隊や保安庁も原因解明に苦労しているようです」
 「それでか。いつもは何かというと陰に隠れたがる自衛隊や保安庁の船が最近この辺りでしきりに動き回っているのは何故かといぶかしんでいたのだが」
 船長はふとすぐ前にあるであろう呉の港のほうを見た。
 「ここで沈んだりしたら大変ですよ。鮫も多いようですし」
 「おい、鮫が怖くて船には乗っていられんぞ」
 「ははは、これは失敬」
 航海士は笑って謝罪した。
 「まあいい。それにしても妙な話だ。我々も注意しないとな」
 「はい、その通りです」
 航海士がそう言った時だった。彼等の乗る船が急に傾きだした。
 「なっ!?」
 「まさかっ!」
 そのまさかだった。船が急に傾きだしたのだ。
 「船長、大変です!」
 艦橋に船員の一人が駆け込んできた。調理担当の者だ。
 「何が起こった!」
 船長は彼に問うた。
 「船底から浸水です!それも複数の箇所からです!」
 「何っ!とりあえず応急処置で穴を塞ぐんだ!」
 船長はすぐさま指示を下した。
 「それは休息を取っておられた副長がただ今やっておられます」
 「そうだった、彼がいた」
 船長は副長のことを聞いて安堵した。この船を彼と共に取り仕切っている男である。彼とは長い付き合いで互いによく知る間柄である。彼に任せておけば大丈夫だと思った。
 「ですが穴が次々と空いていくのです。流石の副長にも手の施しようがありません」
 「なっ、次々とか・・・・・・」
 船長も航海士もそれを聞いて呆然とした。普通に考えて有り得ない事だ。
 「副長が私にこちらに行くよう言われたのは手遅れにならないうちに船長に総員退艦の指示を出して頂く為です。どうかご決断を」
 「・・・・・・・・・」
 船長はその言葉に顔を暗くした。だがそれ以外に決断は下しようがなさそうであった。船の傾きは最早まともに立ってはいられない程にまでなっていた。
 「・・・・・・わかった、すぐに総員退艦に移れ」
 彼は言った。そして海にボートを次々と出しそれに乗り込んでいった。
 最後に船長がボートに乗り込むと同時に船は沈んでいった。艦首があっという間に海の中に没していく。
 「・・・・・・なんという事だ。これは夢ではないのか」
 船長は自分が今まで乗っていた船が瞬く間に海の底に消えていくのを見て呆然とした顔で言った。
 「残念ながら。その証拠にこの場にいある我々全員が証人ですから」
 同じボートに乗る航海士が言った。彼等は岸辺に向けて力無く漕ぎだした。
 それを遠くから見る影があった。海の中から彼等を見ていた。
 「フフフフフ」
 影は笑っていた。その姿は暗闇の中でよく見えないが人のものでない事はよくわかった。
 影は海の中へ消えた。そして海は暗闇の色をたたえていた。

 「そうか、瀬戸内での作戦は順調に進んでいるか」
 暗闇大使は指令室で報告を聞き満足気に頷いた。
 「はい、昨日も貨物船を一隻沈めたようです」
 戦闘員の一人が報告した。
 「貨物船か、また大物をやってくれたな」
 暗闇大使はさらに機嫌をよくした。その目を細くさせる。
 「奴に伝えよ、その調子で船をどんどん沈めろとな。そして瀬戸内に船が通らないようにするのだ」
 「ハッ、それではそのようにお伝えします」
 戦闘員の一人がそう言って敬礼した。
 「瀬戸内の安全が脅かされれば日本の経済に与える影響は大きい。そして日本の経済を混乱に陥れてやるのだ」
 暗闇大使は笑った。彼が目にするモニターには海に沈んでいく貨物船があった。

 「おい、敬介から連絡は無いか」
 立花はアミーゴの奥にある通信室でチコとマコに尋ねた。
 「敬介さんならさっき連絡がありましたよ」
 「船の上からでよく聞き取れませんでしたkれど」
 二人は軽い調子で言った。
 「それを聞くのが御前等の仕事だろ。純子みたいにちゃんとやれ」
 立花は口からパイプを外して言った。
 「あら、お言葉ん。これでも仕事はちゃんとやってるわよ」
 「そうよ、現にこうやって通信もしてるじゃない」
 二人は口を尖らせて反論した。
 「全く、ああ言えばこう言うで口の減らん奴等だ。で、敬介は何って言ってるんだ?」
 「所在の連絡です。今魚島の辺りにいるそうです」
 「魚島か・・・・・・」
 立花はチコの言葉に考え込んだ。魚島とは瀬戸内の真ん中辺りにある島である。広島県と愛媛県に挟まれる形となっており南にはヒウチ灘がある。
 「あそこでよな、この前貨物船が沈んだのは」
 「はい、船長さんが真っ青な顔でテレビに出てましたね。何でも船底に穴が次々と空いていったとか」
 マコが言った。
 「それがわかんねえんだよな。そんな事普通じゃ起こる筈が無ねえからな」
 「あらっ、だから怪しいんでしょ?」
 「そうよ、バダンの仕業かも知れないから敬介さんが行ったんでしょ」
 二人が反論した。
 「それはそうだが・・・・・・。海か。まああいつにはもってこいの場所だがな」
 立花は言った。そして瀬戸内にいる神敬介に対し思いを馳せた。
 (頑張って来いよ)
 そして通信機の前に来た。それから二人に問うた。
 「純子は今日は遅くなるみたいだからよろしく頼むぞ。後でコーヒーを差し入れてやるからな」
 「ケーキも頂戴」
 「あたしはチーズケーキがいいな」
 「ああ、わかったわかった。真面目にやってればケーキでも何でも食べさせてやるよ」
 立花はそう言うと店に戻った。店に出ると丁度四郎がコーヒーを入れていた。

 その頃神敬介は魚島の辺りを船に乗り捜査していた。船はレンタルした小型のクルーザーである。
 彼は船首のところにいた。そして海面を見ている。
 「神さん、この辺りでいいですか?」
 操縦室の方から声がした。役の声である。
 「あ、はい。ここら辺でいいです」
 神は言った。役はその言葉に従い船のエンジンを停止した。そして碇を下ろす。
 そして船首に出て来た。その手には潜水服とアクアラングがある。
 「どうぞ」
 役はそれを神に手渡した。神はそれを快く受け取った。
 服を脱ぐ。既に下に水着を着ている。そして潜水服を着てアクアラングを担いだ。
 「私も行かなくていいですか?」
 役が尋ねた。
 「いいですよ。船に一人残っていないとまずいですし。それに役さんにはそこでソナーとかを見てもらいたいですしね」
 神は準備を整え終えて言った。
 「そうですか。ではお気をつけて」
 「はい」
 彼はそう答えると海に入った。そしてそのまま潜行していった。
 海の中は意外と澄んでいた。かなり下の方までよく見える。
 「貨物船はあの辺りだな」
 さらに潜っていく。そして貨物船を発見した。
 「あれか」
 見れば岩の間に挟まるように沈んでいる。外見は特に異常は無い。沈んでからまだ日が浅いこともあり何も付着していない。
 「問題は船底だったな」
 甲板に着く。そして中に入っていく。
 中には羅針盤等がそのまま残されていた。食べ物やフライパン等もそのままであった。
 「勿体無いな。しかし逃げるので精一杯だったようだから仕方無いか」
 この船は三十分も経たずに沈んだという。乗員が逃げるのだけで一杯だったようだ。
 貨物もそのままであった。運んでいたのは衣類だったようだ。
 「どうやらポリエステルだな。こちらはまだ使えそうだ」
 すぐに引き揚げられるだろう。船員も荷物も無事だったのが不幸中の幸いか。
 船底に来た。そこは話通り幾つもの穴が開いていた。
 「これは酷いな」
 彼の予想以上だった。直系一メートル以上の穴が幾つも開いている。これでは船が沈むのも当然であった。
 穴を調べる。見れば何かで切り裂かれたようである。
 「かなり鋭利なもので切られているな。岩にぶつかったとかそういうのではないな」
 切り口は綺麗である。鉄をも容易に切り裂く、それだけの刃を持つ者といえば一つしか思い浮かばない。
 「間違いないな。バダンだ」
 神は結論付けた。これまでの沈没した船は全て調べたがどれもこのように底に大きな切り口のある穴が開いていた。下から切り裂いたとしか思えないのである。
 「どうやらこの瀬戸内を通る船を次々に沈めていっているようだが」
 神は穴の切り口に手を当てながら考えている。
 「この瀬戸内の安全を脅すつもりだろう。だがそうはさせんぞ」
 彼はそう言って貨物船を後にした。それを岩陰から見る影があった。

 影はその場を去ると丘へ上がった。そして目の前の岩をどかしその下にある階段を降りていった。
 階段の下には扉があった。それを開き中に入る。
 通路を進んでいく。左右には幾つか部屋がある。だがそれの何処にも入らず奥へと進んでいく。
 奥には一つの扉があった。その横にあるスイッチを押すと扉が左右に開いた。そしてその中に入った。
 そこは指令室であった。通信機やコンピューター等が置かれ複数の戦闘員達が座っている。
 二階になっており二階には誰かが椅子に座っている。彼はその椅子に座っている者に対し敬礼をした。
 「ご苦労、何かあったか?」
 その椅子に座っている者が問うた。浅黒い肌をしたやや小柄な東南アジア系の男である。白いカッターに黒いズボンといった動き易い服装である。
 「はっ、今しがたあの男の存在を確認しました」
 戦闘員は言った。
 「神敬介か。やはり色々と調べ回っているようだな」
 男は頷いて言った。そして席を立った。
 「あの男が来る事は予想していた。海ならばあの男が出て来ない筈がないからな」
 階段を降りる。そしてモニターの前に来た。
 「チャクリット=サワナーン、いやカニロイドよ」
 その途端モニターから映像が現われた。暗闇大使が出て来た。どうやら本部から通信を入れてきたようだ。
 「おや、暗闇大使。今そちらに連絡を入れようとしたところでしたのに」
 カニロイドと呼ばれたその男は軽い笑みを浮かべて言った。
 「そうか。ならばわしの言いたい事もわかるな」
 暗闇大使は頷いて言った。
 「はい。神敬介がこの瀬戸内に姿を現わした事についてですね」
 「そうだ。すぐにあの男を消すのだ」
 「勿論です。このカニロイド、必ずや神敬介、いや仮面ライダー]を倒して御覧に入れましょう」
 カニロイドは顔を引き締めてモニターの暗闇大使に言った。
 「頼むぞ、既に五人の同志がライダー達に倒されているからな」
 暗闇大使はそう言うと顔を険しくした。
 「五人・・・・・・。というとクモロイドもやはり・・・・・・」
 「そうだ。遺体は三影が回収したがな」
 「回収出来ましたか。ならばまだ救いがありますね」
 カニロイドは少し安堵した顔で言った。
 「うむ。だがライダー達により被害は拡大する一方だ。この辺りで食い止めなければな」
 「その役目、見事受けさせて頂きましょう」
 カニロイドは暗闇大使に対して言った。
 「頼むぞ、]ライダーは水中では無類の強さを発揮するがな」
 「それはこのカニロイドも同じこと」
 彼はそう言うとニヤリ、と笑った。 
 「フフフ、そうであったな」
 暗闇大使もそれを見てニヤリと笑った。
 「それでは吉報を期待している。必ずや]ライダーの首を挙げるようにな」
 「このカニロイドの名にかけて」
 「うむ、頼んだぞ」
 暗闇大使はそう言うとモニターから姿を消した。モニターは再び真っ黒になった。
 「それでは行くか、]ライダーを倒しに」
 カニロイドは戦闘員達のほうへ顔を向けて言った。
 「ハッ」
 戦闘員達はそれに対して敬礼した。そしてカニロイドに続いて基地を後にした。

 神は大島にある旅館で役と共に泊まっていた。そこを拠点にして捜査しているのである。
 「やはりどの船も同じですね。下から襲われています」
 役がノートパソコンに映し出した船の写真を見ながら言った。どれも神が水中カメラで撮ったものだ。
 「はい。しかもかなり鋭利な刃物のようなもので。これはバダンの仕業でしょうね」
 神が言った。
 「そうでしょうね。それ以外には考えられません」
 役も同意した。パソコンに映し出されている船の切り口はそれを示しているかのように異様に鋭かった。
 「しかし連中今度は海ですか。色々とやりますね」
 神はそう言って苦笑した。
 「それが連中のやり方です。あの手この手でその野望を達成しようとする。その為ならどんな事も厭わない。例え他の人達がどれだけ苦しもうとも」
 「それはわかっています。かって俺の父も協力を断った為ゴッドに殺されましたから」
 「・・・・・・そうでしたね。お父上はご不幸でしたが」
 「そして俺も奴等に殺されかけた。しかし親父がその最後の力を振り絞って俺を改造人間にしてくれた。カイゾーグ、仮面ライダー]として」
 神は感慨深げに呟くように言った。
 「最初は復讐の為に戦っていました。しかし奴等と戦ううちにわかったんです。あの連中と戦わなくては世界は悪に支配されてしまうって」
 「ですね。しかし彼等は幾らでも甦ってくる」
 「そうしたらまた戦うだけですよ。あいつ等がこの世界を支配しようとするならば俺は必ず奴等の前に立ちはだかり討つ。奴等がこの世にいる限り俺は戦い続けます」
 「・・・・・・それでこそライダーです」
 役は神の言葉を聞き微笑んで言った。
 「ところで外に出ませんか。ちょっと暑いですし海でも見て涼みましょう」
 「あ、いいですね」
 神は役の誘いに乗った。そして二人は旅館を出て海に向かった。
 夜の海は黒かった。昼の青と銀の海もいいがこうした静かな海もいい。二人は砂浜の上を歩いていた。
 「こうした静かな海もいいですね」
 役は神に対して言った。
 「ええ。静かで。それでいて潮騒の音が聞こえてきますし」
 波が打ちつける音が聞こえてくる。遠くには対岸の民家の光が輝いている。
 「光が多いですね。案外民家があるんだな」
 「あちらは呉ですか。あそこは結構大きい街ですからね」
 神が役に対して言った。呉は広島県の中でもかなり大きな都市である。かっては海軍の基地があり今は海上自衛隊の基地がある。軍港の街として栄えてきた歴史がある。
 「呉にも何回か行った事がありますけれどね。いい街ですよ」
 神は言った。
 「新米の自衛官の人がセーラー服で歩いていて。それが赤い煉瓦によく合うんですよね」
 目を細めている。その光景を思い出しているのだろう。
 「夜になると汽船の音がして。それを酒場で聞くんですよ。堪えられませんよ」
 「ほお、それは良さそうですね」
 役もその話に興味を持ったようである。
 「港に行くと自衛隊の船が見えるんですよ。潜水艦もあるし」
 「あそこは大きな軍港ですからね。大和が作られた程の」
 「はい。よくご存知ですね」
 大和は第二次大戦の時の有名な戦艦である。巨大かつ美しい姿をしていた。おそらく今までの軍艦の中で最も美しいものであっただろう。今は沖縄の海に眠っている。
 「今はあんな大きな船はありませんけれどね。それでも多くの軍艦がありますよ」
 神は楽しそうに言った。まるで子供の様に無邪気な顔である。
 「ほう、それだけあるのか。それは沈めるのが楽しみだな」
 何処からか声がした。
 「何っ!?」
 二人はその声に身構えた。そして辺りを見回す。
 「バダンかっ!?」
 「いかにも」
 声がした。そして海から複数の影が現われた。
 「神敬介、そして役清明か。はじめまして、と挨拶をしておこうか」
 その影の中央にいる男が言った。
 「バダン改造人間の一人カニロイド、貴様を倒す男の名だ」
 彼は不敵に笑ってそう言った。
 「ほう、カニロイドか。一連の沈没事件は貴様の仕業だな」
 「その通り」
 カニロイドは言った。その間にもジリジリと間合いを詰めてくる。
 「瀬戸内の安全を脅かし船の行き来を止める。そして日本の経済を破綻させる為にな」
 「ほほう、考えたな。だが俺達に見つかったのが運の尽きだったな」
 神も身構える。その目が油断なく光る。
 「それはどうかな。俺は逆に運がいいと思っているのだ」
 「何っ!?」
 「貴様の首を偉大なる我等が首領に捧げる事が出来るのだからな」
 彼はそう言うと両手を掲げた。するとその手が赤い鋏になった。
 そして全身が変化していく。脇からも足が生え背中から巨大な鋏が生える。皮膚が甲羅になっていく。
 「・・・・・・それが貴様の姿か」 
 「そうだ、この素晴らしい姿を冥土の土産に覚えておけ」
 彼はそう言うと口から泡を吐き出してきた。神と役はそれを左右に跳んでかわした。
 「御前達は役をやれ。俺は神敬介を倒す」
 「ハッ」
 戦闘員達はそれに応えた。そしてその言葉通り役に向かっていく。
 「フフフ、行くぞ神敬介よ」
 彼はそう言うと間合いを詰めてくる。そして鋏を振りかざした。
 「ムッ」
 神はそれをかわした。次々に繰り出される四つの鋏をかわす。
 だがそれにも限界がある。彼は砂浜の松の木の前にまで追い詰められた。
 「どうした、もう逃げ場所は無いぞ」
 カニロイドは笑った。残忍な笑みであった。
 「これで終わりだ、死ねぇっ!」
 背中の巨大な二つの鋏を突き立てる。それは恐ろしい唸り声をあげて神に襲い掛かる。
 今まさに貫かれんとするその時であった。彼は右に跳んだ。
 「クッ!」
 鋏は松の木を打ち砕いた。木は真っ二つになって折れた。
 「何処だっ、神敬介!」
 辺りを見回す。だが彼の姿は見えない。
 「こっちだ」
 それは海の方から聞こえてきた。カニロイドはそちらへ振り向いた。
 そこに彼はいた。だが彼は神敬介ではなかった。
 銀の仮面を被ったカイゾーグ、仮面ライダー]がそこにいた。
 「そうか、変身したのか]ライダーよ」
 カニロイドは岸辺に揚がってくる]ライダーを見据えて言った。
 「そうだ、貴様を倒す為にな。行くぞっ!」
 彼はそう言うと腰からライドルを引き抜いた。そして前でエックスの文字を描いた。
 カニロイドの背中の鋏が再び襲い掛かる。]ライダーはそれをライドルで受け止めた。
 「させんっ!」
 ]ライダーは突進した。そしてカニロイドの胸へ切りつける。
 だがそれは効かなかった。ライドルは鈍い音を立てて弾き返されてしまった。
 「甘いな」
 カニロイドはそれを見て笑った。そして両手の鋏で切りつけてきた。
 「ムッ」
 ]ライダーは後ろに跳んだ。間合いが再び開いた。
 「俺はカニの改造人間だ。その程度の剣が通用すると思ったか」
 彼はそう言って笑った。だが]ライダーは冷静なままである。
 「それはどうかな」
 彼は不敵な声で言った。
 「何っ!?」
 その時だった。カニロイドの胸から青黒い血が噴き出てきた。
 「これは・・・・・・」
 「ライドルを甘く見てもらっては困るな。例え鋼であろうが両断する」
 「・・・・・・それに強化されているようだな」
 カニロイドは冷静に言った。
 「気付いたか」
 「気付くも何もこの切れ味が全てを物語っている。俺も甘く見てもらっては困るのだ」
 「俺の事も調べていたのか」
 ]ライダーは怪人に対して問うた。
 「貴様のデータはこれまでの戦いから調べてある。無論他のライダー達もな」
 怪人は傷に泡を付けた。すると傷口が泡でふさがれていく。
 「だが今回は俺が油断した。貴様の勝ちということにしておこう」
 怪人はそう言うと間合いを離した。
 「すぐに来る。その時が貴様の最後だ」
 怪人はそう言うと海の中へ飛び込んだ。戦闘員達もそれに続く。
 「行ったか・・・・・・」
 ]ライダーはそれを見送った。あえて追おうとはしなかった。
 「やはりいましたね、バダンの改造人間」
 役が彼のところへ来て言った。
 「ええ、中々切れる奴みたいですね」
 ]ライダーは怪人達が消えた海を眺めながら言った。海は怪人達の姿をその中へ消してしまっていた。

 村雨と博士は東京に入った後城南大学に向かっていた。
 「さて、もう少しだな」
 博士は辺りを見回しながら言った。
 「道に詳しいようだな」
 村雨は博士に言った。
 「ああ、通っていた大学だからね。それでも昔と比べて道が随分変わってしまったなあ」
 博士は車を運転しながら言った。
 「そうか。博士の通っていた大学なのか」
 「ああ。それからイギリスに留学したりしていたけどね。やっぱり僕の母校はあの大学さ」
 彼は懐かしさに浸る顔で言った。
 「・・・・・・嬉しそうだな」
 村雨はそんな博士の横顔を見て言った。
 「ああ。嬉しいさ。だって久し振りに母校に行くのだから」
 「昔の事を多い出すのはそんなに嬉しいのか」
 「うん。以前の楽しかった思い出だからね。勿論辛い事もあったけれど人は楽しい事のほうをよく憶えている。だからそれを思い出すのは楽しいんだ」
 博士は目を細めて言った。
 「そんなものか」
 村雨は彼を見て言った。
 「君も記憶を取り戻せばわかるよ。過去の持つ意味が」
 博士は顔を真摯なものにして言った。
 「過去があるから現在も未来もある。過去を知っているから人はそれを思い出し懐かしみ教訓に出来るんだ」
 「そうなのか」
 村雨にはその言葉の意味がよくわからなかった。彼は過去の一切の記憶を持たないからだ。
 「村雨君」
 博士はここで彼に対して言った。
 「過去を受け入れる事が出来るか」
 「?」
 彼はその言葉の意味がわからなかった。
 「君の過去は他の人とは違う。あまりにも過酷な過去だ。それでも君はそれが欲しいか」
 「・・・・・・・・・」
 村雨は自分の過去を知らない。だから博士が言っている意味も理解出来ない。だが博士が自分に重大で深刻な決断を迫っている事は理解出来た。
 「それが君に激しい怒りや憎しみ、そして哀しみを与えようとも君は耐えられるか。そしてそれに心を奪われないでバダンと戦っていけるか」
 「・・・・・・・・・」
 その言葉の意味はわかった。彼は村雨が自らの記憶を知ることによりその心を負の感情で支配される事を恐れているのだ。
 「・・・・・・それはよくわからない」
 村雨は答えた。
 「怒りは知っている。だが憎しみも哀しみも知らない。俺はその二つの感情がどういったものなのかは知らない。だが博士の口調からするとそれはあまりいい感情ではないようだな」
 「・・・・・・少なくとも憎しみはね。それに捉われていたライダー達も多かったが」
 「・・・・・・そうか。ライダー達はその感情を知っているのか」
 かって両親と妹を殺された風見志郎、陥れられ右腕を自分を慕う部下達を失った結城丈二、父を殺された神敬介、自分を育ててくれたバゴーを殺されたアマゾン、友を殺された城茂、自らの夢を壊された沖一也、誰もがそうであった。本郷猛や一文字隼人もショッカーのエゴにより自らを人でないものに変えられている。筑波洋も友を殺されている。彼等も最初は憎悪に心を支配されていたのだ。
 「しかし彼等はそれを克服した。そして本当の意味での正義の戦士になったのだ」
 「・・・・・・憎しみとやらに捉われては本当の意味で正義の戦士、仮面ライダーにはなれないのか」
 「そう、何故なら憎しみは愛と対極にあるからね」
 「愛と・・・・・・・・・」
 村雨はその言葉に反応した。
 「彼等は戦ううちに愛を知った。そしてそれを源として戦っているんだ。憎しみなんかよりもっと大きくて素晴らしい力を得てね」
 「そうか。ライダーは愛で戦っているのか」
 「そうだ。君もいずれわかるよ。君もまたライダーになろうとしているのだから」
 「・・・・・・・・・」
 村雨は再び黙ってしまった。博士の言葉が心に残ったからであった。
 「俺もライダーになろうとしているのか。この俺が」
 「そうだ、もうすぐ君は十人目のライダーになる。そしてバダンの野望を防ぐんだ」
 「ああ・・・・・・」
 村雨は答えた。だが確かな感触は無い。博士の言う通りライダーになれるのか、それは時の女神達のみが知る事であった。

 カニロイドと夜の海辺での戦いの後神敬介と役清明はさらに捜査を続けた。今度は船ではなく瀬戸内の全ての島をであった。
 それは何故か。ここの何処かにあるバダンの基地を捜し当てる為である。
 海辺での戦い以降バダンが起こした海難事故はなりをひそめている。彼等は狙いを船から神達に変えてきていた。
 「それでも襲撃は全く無いな」
 「おそらく隙を窺っているのでしょう、油断は禁物です」
 小型のクルーザーの上で役は神に対して言った。
 「まあそうでしょうね。連中の事だ、多分この海の何処からか俺達を見張っているんでしょう。隙あらば襲わんと」
 「はい。ですから旅館を引き払いこのクルーザーを拠点にしたのです」
 役は毅然とした声で言った。
 「しかしつらくはありませんか?」
 神は役に尋ねた。
 「何がです?」
 役はキョトンとして答えた。
 「船の暮らしがですよ。揺れるし何かと不自由はあるし。俺は元々こういうのには慣れてますけれど役さんにはつらいんじゃありませんか」
 「それなら心配ご無用です」
 役は笑って答えた。
 「幸い船酔いしない体質でして。それにこうした生活も経験があるので」
 「そうですか。それならいいです」
 神は安心して言った。だが心に引っ掛かるものがあった。
 「それを一体何処で経験しているのだろう」
 彼は長野県警に勤めていた。しかも生まれも育ちも長野だという。それならば船の上での暮らしなぞ滅多に経験しない筈である。それがどうして。
 「着きましたよ」
 役が言った。目的地である小島に到着した。
 「では行って来ます」
 「はい」
 神は島に上陸した。役が船に残る。
 数時間経って彼は戻って来た。結果は、と聞かれ首を横に振った。この島にはなかった。
 彼等はこうして島を一つ一つ虱潰しに捜していった。海の底にも潜って調べた。だが手懸かりは一行に掴めない。
 「このままじゃラチがあきませんね」
 夜釣った魚を刺身にして食べながら神が言った。
 「確かに。瀬戸内はただでさえ小島が多いですしね」
 役もその言葉に同意した。その手には缶ビールがある。
 「ただ少し絞れてきました」
 「?何です?」
 役はその言葉に耳を傾けた。
 「海底に基地は造っていないようですね」
 「何故それがわかりました?」
 「海流ですよ」
 神は言った。
 「この瀬戸内は小島が多く灘や海峡も多いです。その為海流は複雑なものになっています。その為海から出ての移動は困難なものになります。ですから海底に基地は無いでしょう」
 「成程」
 役はその言葉に頷いた。
 「本州か四国本土にあるとは考えにくいです。両方共小島に比べて人口が比較的多いですし。発見されたら連中にとっても何かと不自由でしょう」
 「確かに。すぐに我々が向かいますからね」
 役は頷いた。
 「そして小島にしても人のいる島は考えられません。おそらく無人島であるかと。それも規模が大きめの。そうするとかなり限られてきますよ」 
 「そうか、その島を一つずつ調べていけばいいのですね」
 「はい。それもその基地があるであろう島は地域も限られています」
 「この瀬戸内の中でも?」
 「そうです。事故が起こった場所を見て下さい」
 彼はそう言うと一枚の地図を取り出した。そこにはバダンが沈めた船の場所に全てバツの印が書かれていた。
 「ほら、限られているでしょう」
 「・・・・・・確かに」
 事故が起こっているのは小豆島から屋代島までであった。
 「おそらく連中はこの地域に基地を置いている筈です。それも一つ。既に捜した島は消えますからこれはかなり限られてきますよ」
 「そうか、それではすぐにはじめましょう」
 「それは明日の朝から。今調べても夜の闇でよく見えませんよ」
 「そうでしたね、ははは」
 いつもの役とは少し様子が違う。どうも酒が入ると明るくなるようだ。

 神の言葉通り翌日の朝から二人は捜査をはじめた。目星をつけた島を一つずつ調べていく。
 「そうか、奴等絞ってきたか」
 カニロイドは基地の指令室で偵察に出ていた戦闘員からの報告を受けて言った。
 「如何致しましょう」
 戦闘員の一人が尋ねた。
 「そうだな・・・・・・」
 彼はその言葉を聞いて思案した。暫く部屋の中を歩き回った後言葉を発した。
 「こちらから出向いて消すか」
 彼はそう言うとモニターを見た。そこにはクルーザーに乗る神と役がいた。
 「丁度厳島の近くか。面白い場所にいる」
 彼はそう言うとモニターを切らせた。
 「あの島にはこの国の海の神々が祭られていると聞くが」
 彼はそう言うとニヤリ、と笑った。
 「あの男をその生け贄にしてやろう。いや、偉大なる我等が神への生け贄か」
 彼の元の国の宗教とは異なる考えをあえて言った。それは彼が最早その国の者、いや人ではないことを現わしていた。
 「行くぞ、奴等を今度こそ倒す」
 「ハッ」
 彼等は基地を後にした。そして神敬介を倒すべく出撃した。

 神と役は厳島の近くの島を捜索し終えた。そして島を離れた。
 「ここでもありませんでしたね」
 役はクルーザーの上で島から戻って来た神を迎えつつ言った。
 「ええ、けれどこれでまた一つ絞れましたね」
 神は彼に対して笑って言った。
 「ええ。残るは僅かです」
 「そうですね。あとは・・・・・・」
 神は地図を広げた。
 「二つ三つです。いよいよ連中の息の根を止められますよ」
 「はい、行きましょう」
 二人はクルーザーのエンジンを入れた。そして海へ向かって進んでいった。
 海は青い。果てしなく青い。その雄大な景色はそれだけで見る者を魅了する。
 「それにしても綺麗ですね」
 役はそれを見ながら目を細めて言った。
 「ええ。青い海に緑の島。まるで神が描いたみたいな光景ですね」
 神もそれに対して言った。
 「俺が水産大学に入ったのはこの景色をずっと見たかったからなんですよ」
 「ほう、そうだったんですか」
 「ええ。船に乗って海を見ていたい。だからこそ入ったんです。将来は漁師にでもなるつもりでした」
 「漁師ですか、神さんが」
 役はおかしそうに言った。
 「あれっ、変ですか?」
 「ええ、まあ。どちらかというと船長のほうが向いているかな、と思いまして」
 「よく言われますけどね。ただそっちのほうが海を間近で見られますし」
 「成程、それで漁師ですか」
 「はい。まあ今はこうやってライダーになりましたが」
 「はい・・・・・・」
 役はその言葉に言葉を曇らせた。
 「おっと、それは別に哀しくはないですけどね。こうして海を見れるんだし。ただ戦いが無くてずっと海を見ていたいな、と」
 「それはバダンを倒してからですね」
 「はい」
 目標とする島まであと一時間のところまできた。すると海面に何かが浮き出てきた。
 「海豚?違うな」
 神が覗き込んだその時だった。それは不意に船の上に飛び上がってきた。
 「ムッ!」
 それはバダンの戦闘員であった。次々に船の上へ飛び上がってくる。
 神と役は操縦を止め戦闘員達に立ち向かった。狭い船の上で戦いが始まった。
 二人は戦闘員達を次々と倒し海の中へ落としていく。対する戦闘員達は数を活かしきれず倒されていく。
 「カニロイド、何処だっ!」
 神は叫んだ。その彼の足首を誰かが掴んだ。
 「うぉっ!?」
 それは倒れていた戦闘員の手首であった。神はそれによりバランスを崩し海に落ちた。
 「神さんっ!」
 役が叫んだ。だがその彼も戦闘員達の相手に忙しく彼の救出には向かえない。
 海に落ちた神を刃が襲う。それはカニロイドのものであった。
 「チィッ」
 それはかわされた。見失った間に前から何かが切りかかってきた。
 「来たな」
 そこには]ライダーがいた。海中で二人は対峙した。
 「行くぞっ」
 ]ライダーはライドルを手に向かってきた。流石はカイゾーグである。水中であろうともその動きは陸上にいる時と全く変わりがない。
 だがカニロイドもそれは同じである。たくみにそのライドルをかわす。
 背中の鋏を繰り出す。しかしそれは]ライダーに見切られていた。
 ]ライダーはその鋏を見た。そしてその甲羅の間の節に目をやった。
 「それだっ!」
 節へめがけライドルを振り下ろした。鋏が切断された。
 「グォッ」
 鋏は傷口から青黒い血を流しつつ海の底へ落ちる。カニロイドはそれを見て形勢不利を悟った。
 「勝負はお預けだっ」
 彼は撤退した。戦闘員達もそれに続く。
 「待てっ」
 ]ライダーも追おうとする。だが間に合わない。怪人達は素早く海の中に消えた。

 「さて、ここまで来れば心配は無いな」
 カニロイドは丘へ上がり後ろを振り向きつつ言った。戦闘員達がそれに続く。
 「だがすぐに追って来るな。すぐに迎え撃つ準備を進めるぞ」
 「生憎だがその必要は無い」
 何処からか声がした。
 「その声はっ!」
 声のしたほうを見た。左手だ。そこには大きな岩がある。声の主はその上にいた。
 「神敬介、何故追い着いた・・・・・・」
 カニロイドは彼を見上げて問うた。
 「これの存在を忘れていたようだな」
 彼は笑って言った。それに応えて一台のマシンが彼の前に走ってきた。
 「そのマシンは・・・・・・」
 それはクルーザーだった。]ライダーの愛車である。
 「クルーザーは改造されその速度を大幅に上昇させた。特に空中、水上での速度が大幅にな。名付けて『クルーザーD』だ」
 「そうか、マシンまで改造していたのか」
 「その通り、それに気付かなかったのは迂闊だったな」
 「ぬうう、だがまだ敗れたわけではないぞ」
 カニロイドの言葉に呼応して戦闘員達が岩を取り囲んだ。側にあった岩が開き戦闘員達が姿を現わす。
 「やはり出て来たな」
 神はそれを見て言った。
 「ならば・・・・・・行くぞ!」
 腰にベルトが現われた。そして変身ポーズをとっていく。

 大変身
 両手を垂直に上へ上げる。そしてそれをゆっくりと真横へ開いていく。
 手首と足首を黒い手袋とブーツが包んでいく。身体は銀のバトルボディに包まれる。
 胸が赤くなる。
 エーーーーーックス!
 右手を左斜め前へ突き出す。左手は拳を作り脇に入れる。
 顔の右半分を銀と黒、紅い瞳の仮面が覆う。そしてそれは左半分も覆った。

 腰のベルトが光る。そしてそれは彼の全身を包んだ。
 仮面ライダー]である。彼は腰からライドルを引き抜くとそれで前にエックスの文字を描いた。
 「行くぞっ!」
 彼は跳躍し敵の中に跳び降りた。戦いがはじまった。
 「やれっ!」
 戦闘員達はカニロイドの指示のもと]ライダーに襲い掛かる。その手には銛がある。
 激しい打ち合いであった。]ライダーはライドルをホイップから太いスティックにチェンジしそれに対抗する。
 やはりライドルの強さが際立っていた。戦闘員達の銛をものともしない。
 戦闘員達は次々に現われるがものの数ではなかった。]ライダーは跳躍するとライドルで大車輪をし戦闘員達に蹴りを入れる。
 次第にその数を減らしていく戦闘員達。そこに彼等にとってまた厄介な相手が現われた。
 「奴まで来たか・・・・・・」
 カニロイドは遠くから聞こえて来る波を砕きながら進んで来る音を聞いて舌打ちした。小型のクルーザーである。そしてそれには役が乗っていた。
 役は船から飛び降りるとすぐさま戦闘に参加した。その古武術で戦闘員達を退けていく。
 「役さん、ここは俺にまかせて基地の中へ」
 「わかりました。何処ですか」
 役は]ライダーの言葉に頷いた後尋ねた。
 「あの岩です。横に押せば開きます」
 彼は戦闘員達が出て来た岩を指差して言った。戦闘員達が出て来るん様子も見ていたのだ。
 「わかりました」
 彼はすぐに了解して動いた。そして阻もうとする戦闘員達を退けて岩の中へ入って行った。
 「くっ、しまった・・・・・・」
 カニロイドはそれを見て再び舌打ちした。だがもう既に遅かった。
 「こうなれば貴様だけでも倒してやる。行くぞっ!」
 戦闘員達も既にその数を大きく減らしていた。その僅かな者達も倒された。残るはカニロイド一人だけであった。
 「来いっ!」
 ]ライダーはライドルを構えた。見れば彼に先程斬られた鋏からまだ血が出ている。
 だがその傷口が急に塞がってきた。そしてそこから新たな鋏が出て来た。 
 「ムッ」
 ]ライダーはそれを見て警戒した。それに対してカニロイドは満面の笑みを浮かべた。
 「フフフ、ようやく再生したようだな」
 「どういう事だ」
 ]ライダーは彼に対し問うた。
 「俺には驚異的な再生能力があってな、手足が何度斬られてもそこから再び生えてくるのだ」
 「何っ、それもバダンの力だというのか」
 彼は怪人に対して問うた。
 「そうだ、これも偉大なるバダンの力。さあ]ライダーよ、その力に屈するがいい!」
 その背中の鋏を]ライダーへ切りつけた。彼はそれをライドルで受け止めた。
 「クッ!」
 しかしその力は絶大だった。彼は吹き飛ばされ岩に叩き付けられた。
 「まだだ、このカニロイドの力はこんなものではないぞ」
 カニロイドは泡を噴いた。彼はそれを横に跳んでかわした。
 それと同時に斜め前へ突進する。そして左手でライドルを振るった。
 「喰らえっ!」
 しかしカニロイドはそれを左の鋏で受け止めた。ライドルは弾け飛び回転しながら空に舞う。そして地に落ちて転がった。
 「グッ・・・・・・」
 「これで得物は無くなったな」
 カニロイドは地に転がり動かなくなったライドルを見て笑った。怪人らしく酷く残忍な笑みであった。
 優位を確信したカニロイドは攻勢の手をさらに強めた。四つの鋏で]ライダーに襲い掛かる。
 ]ライダーはそれに対して防戦一方であった。次第に追い詰められていく。
 「どうした、もう後はないぞ」
 背が岩に着いた。逃げ場所は無かった。
 「ムウウ・・・・・・」
 カニロイドは四つの鋏をゆっくりと構えた。そしてそれを全て]ライダーに向けた。
 (まずい、このままでは・・・・・・)
 ]ライダーは迫り来る四つの鋏を見ながら考えていた。これをまともに受けては命が無い。
 (だがどうすれば・・・・・・)
 最早退けない。後ろは岩である。鋏は上と横から迫って来ている。
 (上と横から・・・・・・。そうか!)
 ]ライダーは鋏の動きを全て見切った。そして彼は動いた。
 前に跳んだ。そして怪人の身体にしがみ付いた。
 「ウォッ!?」
 そして身体を捻り怪人と位置を変えた。怪人が岩を背にする形となった。
 「喰らえっ!」
 ]ライダーは叫んだ。そして怪人を両手で掴んだまま後ろへ身体を倒した。
 同時に怪人も倒れた。だが彼は頭から倒れた。脳天が地面へ叩き付けられる。
 そのまま地面を転がる。そして怪人は脳天と腰をしたたかに打ち付けられた。
 ]ライダーは怪人を放り投げた。そして彼自身も跳んだ。
 宙に舞う怪人へ突き進む。蹴りを繰り出した。
 「大回転地獄車ーーーーーッ!」
 蹴りが怪人の胸を直撃した。それを受けた怪人は地面へ叩き付けられる。彼は鈍い音と共に地に落ちた。
 「グググ・・・・・・」
 かなりのダメージだった。しかしそれでも立ち上がった。
 「だ、大回転地獄車か・・・・・・」
 これ以上の戦いは無理であった。人間の姿へ戻りながら呻き声を出す。
 「そうだ。貴様のように堅固な鎧に覆われた怪人にはおあつらえ向きの技だ」
 ]ライダーは着地して言った。
 「確かにな。この勝負、最後まで俺の負けだ」
 カニロイドは瀕死の身体をなんとか立たせながら言った。
 「だが俺にも意地がある」
 カニロイドは]ライダーを睨み付けて言った。
 「俺は海に生まれ育ち海の力を得た改造人間、陸では死なぬ」
 そう言うと海辺のほうへ後ろ向きに歩いていった。
 「俺が死ぬ場所はただ一つ、海のみだ。この雄大なる大海原こそが俺の墓場だ!」
 彼はそう言うと跳躍した。
 「また会おう、]ライダーーーーーッ!」
 遠くの海で大きな爆発が起こった。カニロイドはこうして倒れた。
 「自らの愛する海を死に場所に選んだか。敵ながら見事な奴だ」
 ]ライダーはその高く上がった水飛沫を見ながら言った。こうして瀬戸内の戦いは終わった。
 
 「そうですか、敵ながら潔い奴でしたね」
 基地も破壊した。帰りのクルーザーの中で役は神に言った。
 「ええ。その考えには俺も共感できますね」
 神は言った。本心からであった。何故なら彼も海の男なのだから。
 「そうですか。やはり」
 役はその言葉を聞いて微笑んだ。
 「では今から呉に行きましょう。そこで心ゆくまで勝利の美酒を味わうというのはどうですか」
 「あ、いいですね」
 神はその誘いに乗った。
 「それでは」
 役は舵を呉へ向けた。船はそれに従い進路を変えた。
 それを遠くから見守る影があった。
 「行ったか」
 それは戦闘員であった。海の中から顔を出している。
 「では今のうちに撤退するか」
 別の戦闘員が顔を上げた。どうやらあの戦いでの生き残りのようだ。
 「いや待て。カニロイド様のご遺体を回収せねば」
 「それは既に別の者が向かった。もう発見している頃だろう」
 「そうか。ではそちらへ向かい合流するとしよう」
 「うむ。そして本部へ戻るとするか」
 「ああ」
 彼等は再び海の中へ沈んだ。そしてその中に消えていった。

 海魔泳ぐ海   完


                             
          2004・1・11
 





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